Film Music

2011年5月20日 (金)

プロコフィエフの映画音楽「アレクサンドル・ネフスキー」!~リープライヒ/大フィル 定期

5月19日ザ・シンフォニーホールへ。

Dai

アレクサンダー・リープライヒ/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会を聴く。リープライヒは1968年レーゲンスブルク(ドイツ)生まれ。2008年の大フィル定期に登場した時の感想は下記。

今回のプログラムは、

  • プロコフィエフ/古典交響曲
  • モーツァルト/ピアノ協奏曲 第20番
  • プロコフィエフ/カンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」
    (アルト:小山由美)

ピアノ独奏はピョートル・アンデルシェフスキ。1969年ワルシャワ生まれでポーランド人とハンガリー人の両親を持つ。

オケは(古典的)対向配置ではなく通常の配置(第一ヴァイオリンとヴィオラが指揮台を挟み向かい合う)。

プログラム・ノートには、20世紀に作曲された古典交響曲が18世紀の衣装で踊る仮面舞踏会であると書かれており、成る程と首肯した。たしかにプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」を彷彿とさせるようなバレエ音楽の趣がある(「ロミジュリ」にも仮面舞踏会のシーンが登場)。

リープライヒの指揮はテンポが速く軽妙で、音尻は短くスッと減衰する。水捌けがよい。アクセントを強調し、第1楽章 第2主題はノン・ヴィブラートでピリオド奏法を意識したものとなっている。第2楽章は歯切れよく、第3楽章はスマート。そして第4楽章は機知に富む。爽快!

続くモーツァルトアンデルシェフスキのピアノは繊細でありながら、同時に力強さも兼ね備える。第2楽章は跳ねるような弾き方が印象的。オーケストラは細かいニュアンスを大切にし、小気味いい。

ソリストのアンコールは、

  • J.S.バッハ/フランス組曲 第5番より「サラバンド」

虚心坦懐、純粋無垢なバッハ。その透明感が素敵だった。

プログラム後半はエイゼンシュテイン監督の映画「アレクサンドル・ネフスキー」(1938)の為に書かれた作品。ここで大阪フィルハーモニー合唱団ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団が加わった。

ド迫力!これぞ音で描く大伽藍。しかしリープライヒの紡ぐ音楽はあくまでも明晰。ロシアへ侵略するドイツ騎士団を描く第3曲は阿鼻叫喚の地獄絵図。第5曲「氷上の激戦」前半は氷の摩擦がヒリヒリと伝わり、後半はパンチがあって、疾走感に溢れる。第6曲「死せる野」は凍てつく寒さが身に滲みる。小山さんのアルトは深い感情がこもった見事な歌唱だった。そして祝祭感に満ちた終曲。極めて充実した内容だった。

ただ、「アレクサンドル・ネフスキー」で”大フィルのアキレス腱”=トランペット・セクションがミスを連発したのはいただけない。お粗末。頼むからこれ以上、優秀な弦の足を引っ張らないで欲しい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2011年5月14日 (土)

本多俊之at ロイヤルホース

大阪・梅田のライブハウス・ロイヤルホースへ。

Hor1

サックス奏者で、映画「マルサの女」「メトロポリス」「茄子 アンダルシアの夏」などの作曲家としても知られる本多俊之さんのライヴを聴く。ロイヤルホース初登場だそうだ。

他のメンバーは竹下清志(P)、荒玉哲郎(B)、東原力哉(Ds)。

Hor2

第1部、第2部に分かれ、演奏された曲目は、

  • チック・コリア/500マイルズ・ハイ
  • 本多俊之/ドリーム・カムズ・トゥルー(1983)
  • D. エリントン/ソフィスティケイティッド・レディ
  • 本多俊之/たちまち(アルバム「SMILE !」より)
  • 本多俊之/シンクロナイズド・カルテット(「スーパー・カルテット」より)
  • 本多俊之/マルサの女
  • チック・コリア/キャプテン・セニョール・マウス
    (リターン・トゥ・フォーエヴァーのアルバム「第7銀河の讃歌」より)
  • バート・バカラック/小さな願い "I Say a Little Prayer"

R1

本多さんは陽気な人だった。節電の東京と比べ「こちらは明るくていいです」と。

彼のサックスは高らかに歌い、豪快なブローがたまらない。スタイリッシュで都会的な音。

自作「たちまち」はアップテンポでノリのいい曲。

また「マルサの女」は元々4拍子で作曲されたが、伊丹十三監督から登場人物”権藤”のイメージで「足を引きずる感じが欲しい」とリクエストされ、5拍子に書き換えられたというエピソードを披露された。

今回特にチック・コリアの「キャプテン・セニョール・マウス」が気に入った。

また、バカラックは勢いがあり、凛々しく、格好よかった。

手ごたえのあるライブだった。本多さん、また大阪に是非いらしてください!

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2011年4月13日 (水)

円山公園の桜と広上淳一/京都市交響楽団「日本の映画音楽」

4月10日(日)京都へ。

K1

円山公園の桜はもう満開だった。

K2

有名な枝垂桜。

K3

20年くらい前の記憶と比較すると、ずいぶん枝振りが短くなった印象。

K4

お昼は京茶漬けで有名な丸太町 十二段屋へ。

K5

営業開始10分前の11時20分に到着すると、既に20数人並んでいた。食事にありつけたのはそれからなんと1時間半後!でも味には満足。京野菜やご飯が美味しかった。

続いて京都コンサートホールへ。

広上淳一/京都市交響楽団の演奏で、

  • 宮川 泰/交響組曲「宇宙戦艦ヤマト」~出発
  • 久石 譲(松園洋二 編)/「おくりびと」~memory
  • 千住 明/「砂の器」(TBS日曜劇場)~ピアノ協奏曲「宿命」
  • 早坂文雄(松本敏晃 編)/交響組曲「七人の侍」~怯える村・練達の士
  • 芥川也寸志(甲田潤 編)/映画音楽組曲「八つ墓村」
    ~青い鬼火の淵(道行のテーマ)
  • 武満 徹/「3つの映画音楽」~訓練と休憩の音楽(「ホゼー・トレス」)
    ・ワルツ(「他人の顔」)
  • 伊福部昭/SF交響ファンタジー第1番
  • 千住 明/NHK大河ドラマ「風林火山」(アンコール)

広上さんは開口一番、「大震災に続く原発事故・計画停電の影響で東京の演奏会はもうボロボロです」「東京に住むわたし達もへこんでいます。こういう時こそ関西の方々は普段どおり元気に生活して頂き、その活力を関東に送って欲しい」と。

なおこの公演の入場収入は全額、日本赤十字社を通じて被災者への寄付金に当てられると発表された。ナビゲーターを務める千住 明さんは「収益の一部ではありません」と強調。

宇宙戦艦ヤマト」は歯切れ良く勇ましい。

おくりびと」はチェリスト5人とピアノによる演奏(指揮者なし)。ソロは副首席奏者の中西雅音さん。雄弁なチェロの響きがホールに鳴り渡る。

千住さんの「宿命」は映画版(作曲・菅野光亮、音楽監督・芥川也寸志)にかなり近いイメージ。甘美でロマンティックな曲だった。事前に5つのテーマを書いてプロデューサーがそのうちの一つを選んだ。メロディは異なるがアフタクトの後、8つの8分音符が続くのは映画版に敬意を表したものだそう。演奏時間25分。「魂入れました」と千住さん。ピアノ独奏の高橋多佳子さんが暗譜で弾いたのには驚かされた。

大好きな早坂文雄の管弦楽曲を生で聴くのは初体験。嬉しかった。「七人の侍」冒頭では打楽器やコントラファゴットが活躍。土俗的雰囲気を醸し出す。サックスも取り入れられモダンでありながら、同時に民俗音楽のイディオム(語法)が魅力を放つ。

八つ墓村道行のテーマは切なくなるような優雅なワルツ。これが本当に聴きたかった!芥川らしいセンティメンタリズム、すごくいいねぇ。

武満の楽曲は死の前年、1995年に発表された。デビュー作「弦楽のためのレクイエム」同様、弦楽器のみ。それは原点回帰であり武満の本音だろう、と千住さん。「ホゼー・トレス」はJAZZのノリで軽快なフットワーク。的確なジャブが繰り広げられる。「他人の顔」はシャープで洗練されたワルツに魅了された。

「ゴジラ」のテーマも登場するSF交響ファンタジーはパンチが効いた熱い演奏。

アンコールの「風林火山」はパワフル。広上/京響の実力が遺憾なく発揮された、充実した2時間であった。

| | コメント (2) | トラックバック (0)
|

2011年1月 5日 (水)

久石譲/関西フィル ジルベスター・コンサート 2010

12月31日、ザ・シンフォニーホールへ。久石譲/関西フィルハーモニー管弦楽団のジルベスタースペシャル。台湾、北京、広州、香港、上海、東京と廻ってきたアジアツアーの最終公演。

全て久石さんの自作で、プログラム前半は作家性の色濃いミニマル・ミュージックから。

  • Links(JAPAN国際コンテンツフェスティバルCoFesta テーマ)
  • MKWAJU 1981-2009
  • Prime of Youth(大阪青年会議所Peace Conference 2010 テーマ)
  • The End of the World(全3楽章)

Linksは変化するリズムが面白い。MKWAJUはマリンバ、マラカス、ボンゴなどリズムセクションが充実。Prime of Youthは複雑な変拍子で、奏者がよく入るところを間違えないなぁと感心。

The End of the Worldは「After 9.11」をテーマにした作品。第1楽章Collapseは鐘の音が印象的。第2楽章Grace of the St.Paulはチェロのソロが悲痛な歌を奏で、オーケストラがJAZZYにSWING。第3楽章Beyond the Worldはリズムが躍動する。

休憩を挟み後半は映画音楽中心で、

  • おくりびと
  • 魔女の宅急便(海の見える街)
  • 千と千尋の神隠し(あの夏へ)
  • 菊次郎の夏(Summer)
  • 天空の城ラピュタ
  • 崖の上のポニョ
  • Oriental Wind(サントリー「伊右衛門」CM曲)

おくりびとからSummerまでの4曲は金管がホルンのみで、トランペット・トロンボーン・チューバはなし。

おくりびとはチェロのソロとピアノの対話が叙情的。魔女の宅急便にはヴァイオリン・ソロがあり、天空の城ラピュタはトランペット協奏曲仕立て。Summerはジャズ・ピチカートが良かった。

全て新たなアレンジ。名曲の数々に酔いしれた。

アンコールは

  • 風の谷のナウシカ(鳥の人~メイン・タイトル)
  • Wave(ピアノ・ソロ)
  • となりのトトロ
  • もののけ姫~アシタカとサン(ピアノ・ソロ)

風の谷のナウシカで客席は最高潮に盛り上がり、スタンディング・オベーションに。

Waveは宮崎駿さんの誕生日に久石さんが贈った曲だそう。

となりのトトロが終了し、オーケストラの楽員全員が引き上げても拍手が鳴り止まず、久石さんが一人だけ再登場し、アシタカとサンを弾いて下さった。

とっても素敵な大晦日の夜だった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2010年11月12日 (金)

2010年 R.シュトラウスの旅〜大植英次/大フィル 定期

ザ・シンフォニーホールへ。

D1

大植英次/大阪フィルハーモニー交響楽団(コンサート・マスター:長原幸太)で、

  • R.シュトラウス/交響詩「ドン・キホーテ」
  • R.シュトラウス/交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

チェロ独奏:堤 剛、ヴィオラ独奏:小野眞優美

ドン・ファン」はまことに優雅な演奏。大フィルからこんな音が紡ぎ出されるとは!また堤さんのチェロが雄弁だった。

ツァラトゥストラはかく語りき」の冒頭、宇宙の起源・人類の夜明けを描く場面からオーケストラはよく鳴り、ド迫力。腹にズシンとくるサウンド。「世界の背後を説くものについて」「大いなる憧れについて」ではグレゴリオ聖歌が登場し、ヴァイオリンが美しく歌い上げる。清浄な祈り。そして「快楽と情熱について」で音楽はうねり、次から次へと波濤が押し寄せる。「科学について」「病から回復に向かうもの」は半音階と全音階を組み合わせたフーガが厳めしく錯綜し、「舞踏の歌」では一転、優雅なウィンナ・ワルツとなる。そこには花の香りが漂い、成る程これが後の楽劇「ばらの騎士」に直結しているのだなと感じさた。終曲「さすらい人の夜の歌」は12回鐘の音が鳴り、音楽は静かに、静かに、謎めいた響きを残しながら虚空へ消えてゆく。

指揮者が手を下ろし、それを固唾を飲んで見守っていた聴衆の拍手が鳴り始めるまでの無音が素晴らしかった。

大植&大フィルの蜜月が充実期に入ったことを伺わせる、手応えのある演奏会だった。

余談だが、「ツァラトゥストラはかく語りき」はスタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」の冒頭で使用されたことは余りにも有名(試聴はこちら)。実は当初、「欲望という名の電車」「スパルタカス」で知られる作曲家アレックス・ノースが音楽を担当し、一部録音も終わっていた。しかしそれを気に入らなかったキューブリックはノースの音楽を却下、イギリスからアメリカへプレミア上映に向かう船の中で編集作業を行い、既成の音楽に置き換えた。ノースの失われた音楽はこちらで聴くことが出来る。

| | コメント (2) | トラックバック (0)
|

2010年7月25日 (日)

僕の好きな音楽

現在、Twitterで《僕の好きな音楽》というシリーズを展開しているのをご存じだろうか?ほぼ毎日更新中。その多くは試聴出来るよう、リンクも張っている。

今までご紹介した曲の一覧は下記で閲覧出来る。

貴方が未だ知らない、ディープな世界へお連れします。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2010年7月14日 (水)

大阪でパリ祭/「フランス語で歌う シャンソン」2010

7月14日はパリ祭である。

その前日の13日夜、大阪倶楽部へ。日本テレマン協会のマンスリーコンサートがあった。

T01

まず、延原武春/テレマン・アンサンブルの演奏で、

  • F.クープラン/コンセール小曲集より(弦楽合奏編曲版)

古(いにしえ)の響き。

続いて浜野りささんによるピアノ独奏で、

  • フォーレ/舟歌 第4番
  • ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女、月の光
  • プーランク/エディット・ピアフをたたえて

特に、歌や人生に想いを馳せるようなプーランクが良かった。プーランクには「愛の小経」という美しいシャンソンもある。

そして泉 由香さんの独唱で、

  • ドビュッシー/ビリティスの3つの唄(パンの笛/髪/ナイアードの墓)

語るような歌。それはまるで「幻夜」と呼びたくなるような世界であった。

そして第1部最後は浅井咲乃さんのヴァイオリン独奏で、

  • ラヴェル/ツィガーヌ

休憩を挟み第2部はシャンソン特集。中津洋子さんと永野 孝さんが交互にヴォーカルを務め、バックはピアノ、ベース、ドラムのトリオに加え、延原/シンフォニエッタ・TELEMANN(テレマン・アンサンブル)が担当した。フランス語で歌われ、歌詞の内容はスライドで映し出される。

  • シェルブールの雨傘
  • セ・シ・ボン
  • 私の孤独
  • ラ・メール
  • ある愛の詩
  • パリの空の下
  • 聞かせてよ愛の言葉
  • 幸福を売る男
  • 残されし恋には
  • 行かないで
  • バラはあこがれ
  • 水に流して
  • そして今は
  • ベローナに行こう

シャンソンって「愛」(amour)とか「バラ」(rose)とかいった言葉が多いなと想った。「ベルサイユのばら」もあったな……まぁあれは、日本の少女漫画だけど。でも「シェルブールの雨傘」のジャック・ドゥミ監督の手で一応映画化された。実際にベルサイユ宮殿でロケされたのに全編英語で原題は"Lady Oscar"。結局フランス本国では公開されなかったという、けったいな映画(作曲はミシェル・ルグラン)。閑話休題。

アンコールは「巴里祭(巴里恋しや)」。カナをふられた歌詞が配られ、聴衆も一緒に歌った。

シャンソンを聴いていると、なんだか幸せな気持ちになってくる。「うた」の愉しさを満喫した夜だった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2010年6月17日 (木)

シリーズ《映画音楽の巨匠たち》 第1回/ニーノ・ロータ 篇

キネマ旬報社から「オールタイム・ベスト 映画遺産 映画音楽篇」という本が出版された。これは映画評論家、音楽評論家、映画監督、作曲家、文化人らにアンケートし、集計したもの。

ベストテンは以下の通り。

  1. 男と女(フランシス・レイ)
  2. ゴッドファーザーニーノ・ロータ
  3. 第三の男(アントン・カラス)
  4. ニュー・シネマ・パラダイス(エンニオ・モリコーネ)
  5. ウエストサイド物語(レナード・バーンスタイン)
  6. シェルブールの雨傘(ミシェル・ルグラン)
  7. スター・ウォーズ(ジョン・ウィリアムズ)
  8. 太陽がいっぱいニーノ・ロータ
  9. 仁義なき戦い(津島利章)
  10. 死刑台のエレベーター(マイルス・デイビス)

ここでイタリアの作曲家、ニーノ・ロータが2作品ランクインしているのが目を惹く。さらに20位までにフェデリコ・フェリーニ監督とロータのコラボレーション「8 1/2」と「」の2作品も入選している。また「好きな映画音楽作曲家」ベストテンにおいて、ロータは堂々第1位に輝いた。

Nino

「ニーノ・ロータは天使のような人だった」……フェリーニの言葉である。

ロータの音楽の魅力は一言で語るなら、その美しくも哀しみに満ちた旋律にあるだろう。ルキノ・ヴィスコンティ監督のイタリア映画「山猫」に代表される、格調高いシンフォニックなクラシック音楽を基調にしながら、時に「カビリアの夜」や「甘い生活」のようにJAZZの風味を盛り込んだりもする。また特にフェリーニ作品で顕著なのだが、「」や「8 1/2」などサーカス音楽で賑やかに騒いだりもする。しかし一見陽気な音楽の中に、ロータ特有の孤独感、哀愁が失われることはない。

ロータとフェリーニは映画「白い酋長」(1951)で出会い、意気投合した。そしてロータが亡くなる直前の「オーケストラ・リハーサル」(1979)まで、その共同作業は続いた。映画監督と作曲家のこれだけ長きに渡る協力関係は非常に稀で、僕が思いつくのはスティーブン・スピルバーグとジョン・ウィリアムズくらいだろうか(1974年スピルバーグの映画監督デビュー作以来、現在まで)。

僕はそうだなぁ、「カビリアの夜」もお気に入りだし(試聴はこちら)、「ゴッドファーザー PART II」の切ない”移民のテーマ”も好きだ(少年時代のヴィト・コルレオーネがシチリアからニューヨークに移民船で渡り、初めて自由の女神像を目の当たりにする場面。試聴はこちら)。イタリア古楽の風味が付けられた「ロミオとジュリエット」もいい。

そして忘れられないのが小学生のとき映画館で観た「ナイル殺人事件」。僕は当時アガサ・クリスティの大ファンだったので、親にねだって連れて行ってもらったのである。ニーノ・ロータの音楽は雄大なナイル川のように滔々と流れ、そして美しかった。亡くなる前年の傑作である(試聴はこちら)。当時サントラのLPレコードを小遣いで買い、現在はCDで所有している。

ロータは「本業はあくまでクラシックの作曲であり、映画音楽は趣味に過ぎない」と語っていた。生涯に4つの交響曲、2つのピアノ協奏曲、弦楽のための協奏曲、そしてオペラ「フィレンツェの麦わら帽子」などを書いた。

現在ロータの音楽に熱心に取り組んでいるのが名指揮者リッカルド・ムーティである。彼はミラノ・スカラ座管弦楽団とロータのアルバムを何枚かレコーディングしているし、ウィーン・フィルとの来日公演でも映画「山猫」の音楽と、トロンボーン協奏曲を取り上げている。ムーティは南イタリアのナポリに生まれ、バーリ音楽学校へ入学した。この時校長をしていたのがニーノ・ロータだった。

さて、児玉宏/大阪交響楽団は2011年3月の定期演奏会でニーノ・ロータ/交響曲 第4番「愛のカンツォーネに由来する交響曲」を取り上げる。これは第1楽章の主題がイギリス映画「魔の山」(The Glass Mountain,1948)のテーマ曲となり、第3,4楽章は映画「山猫」(1963)に転用された(試聴はこちら)。限りなく美しい旋律、浪漫的で芳醇な香りに満ちた名曲である。「魔の山」のクライマックス・シーンはこちら(「愛のカンツォーネ」という意味がこれを見れば分かる)。そしてピアノ協奏曲風にアレンジしたものはこちら

 関連記事:

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2010年4月26日 (月)

PAC POPS!/パック・ポップス 2010

兵庫県立芸術文化センターへ。

P01

フロリダからやって来た指揮者、ピーター・ルバート/兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオケ)のポップスコンサートを聴く。映画音楽を中心に据えたプログラム。

P02

まず《第1部》《第2部》で演奏されたのは、

  • ジョン・ウィリアムズ/「11人のカウボーイ」序曲
  • ジョン・バリー/007ゴールドフィンガー
  • ジョン・バリー/007ダイヤモンドは永遠に
  • ジョニー・マンデル/いそしぎ
  • ヘンリー・マンシーニ/「ひまわり」愛のテーマ
  • ヘンリー・マンシーニ/シャレード
  • マックス・スタイナー/カサブランカ組曲
  • エルマー・バーンスタイン/大脱走
  • アルフレッド・ニューマン/西部開拓史
  • バーナード・ハーマン/「めまい」より"Scene d'Amour"
  • バーナード・ハーマン/北北西に進路を取れ

11人のカウボーイ」はジョン・ウィリアムズがボストン・ポップス・オーケストラの常任指揮者を務めていた当時、コンサート用にアレンジしたもの。現在では吹奏楽でもしばしば取り上げられ、マーチングコンテスト等で演奏される。冒頭、ホルンの咆哮が気持ちいい。そしてジョンの曲の中でもアーロン・コープランド色の濃い西部劇の音楽が展開される。昔から僕がこよなく愛する名曲。

007の2曲はしっとりとしたアレンジ。「ゴールドフィンガー」なんかは、もっと賑やかでJAZZYな方が好みかな。

いそしぎ」はトロンボーンのソロがあり、「ひまわり」は叙情的なピアノがフィーチャー、「シャレード」はコンガを中心にパーカッションが大活躍した。

「キングコング」や「風と共に去りぬ」で有名な作曲家のマックス・スタイナーはウィーン生まれで、名付け親はリヒャルト・シュトラウス。ピアノの手ほどきをヨハネス・ブラームスから受け、ウィーン帝室音楽院ではグスタフ・マーラーから教えを受けたという超エリート。映画「カサブランカ」(1942)の音楽は当時のヒット曲"As Time Goes By"('31年にハーマン・フップフェルドがブロードウェイ・ミュージカル"Everybody's Welcome"のために作詞・作曲したもの)やフランスの国歌「ラ・マルセイエーズ」が繰り返し登場し、実に巧みに編曲されている。

西部開拓史」(1962)の音楽は勇壮で豪快。今回これを聴きながら同じアルフレッド・ニューマンの「大空港」('70)を想い出した。また僕は「嵐が丘」('39)とか「アンネの日記」('59)のためにニューマンが作曲した、切ない旋律も大好きである。

以前「聴いておきたい映画音楽 私的50選」で書いたことだが、バーナード・ハーマンは傑出した才能を持った作曲家であった。なかんずくアルフレッド・ヒッチコック監督とのコラボレーション「めまい」は最高傑作なのだが、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を彷彿とさせる官能と法悦の音楽"Scene d'Amour"(愛の情景)しか今回、演奏されなかったのは些か残念。ちゃんと組曲として"Prelude"(前奏曲)と"The Nightmare"(悪夢)も聴きたかった!……まあしかし、それは贅沢な要望というもの。生でこの曲を聴けただけでも本当に嬉しかった。緊迫感とユーモアが交差するファンダンゴ「北北西に進路と取れ」を含め、これらを選曲して下さったルバートさんに感謝!

さて、《第3部》ではエリック・ミヤシロのトランペットで、

  • ビル・コンティ/「ロッキー」のテーマ
  • アーヴィング・ゴードン/アンフォゲッタブル
  • ポール・サイモン/サウンド・オブ・サイレンス
  • レナード・バーンスタイン/「ウエストサイド物語」マリア
  • ジミー・ウェッブ/マッカーサー・パーク

エリック宮城さんはハワイ生まれ。テレビ「古畑任三郎」のソロを担当されている。他に「マツケンサンバII」「アントニオ猪木のテーマ」「必殺仕事人」も。

もう「ロッキー」の第一声からパンチのある”ごっつい"サウンドにノック・ダウン。トランペットってこんなに大きな音が出るんだ……。「アンフォゲッタブル」ではフリューゲルホルンによる甘い響きを堪能。節度ある程よいヴィブラートが美しい。「サウンド・オブ・サイレンス」ではPACのトランペット奏者ジョエル・ブレナンとのデュオ。PACのペットは大フィルより断然上手い。

本当に充実した愉しいコンサートだった。オケの人数は100名におよび、これで入場料金3,000円は安すぎる。

今回のゲスト・コンサートマスターは先日の定期に引き続き高木和弘さん。東京交響楽団と山形交響楽団のコンサートマスターを兼任される若き俊英。PACの弦もいい音を奏で、聴き応えがあった。素晴らしい演奏をありがとう!

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|

2010年4月 1日 (木)

フェデリコ・フェリーニ監督の「道」

今年のバンクーバー冬季オリンピックでフィギュアスケート男子の高橋大輔選手が、イタリア映画「道」の主題曲”ジェルソミーナ”(ニーノ・ロータ作曲)を採用し、見事銅メダルに輝いたことは記憶に新しい。

フェデリコ・フェリーニが1954年に監督した「道」(原題:"La Strada")は56年にアカデミー外国語映画賞を受賞した。

ニーノ・ロータは1952年の「白い酋長」以降、79年の「オーケストラ・リハーサル」で自身が亡くなるまで、全フェリーニ作品の音楽を担当している。

「道」や「カビリアの夜」(アカデミー外国語映画賞受賞)に主演したジュリエッタ・マシーナはフェリーニ夫人である。二人は「魂のジュリエッタ」('66)撮影中に別居し、イタリアの民法が改正され離婚が自由になった1971年に離婚した。しかしジュリエッタは結局、93年にフェリーニが病死するまで連れ添い、彼女が他界したのはフェリーニの死から5ヶ月後のことであった。

Lastrada1

僕が「道」を初めて観たのは中学生の時である。NHK教育テレビ「世界名画劇場」のオン・エアだった。頭の弱い主人公ジェルソミーナの純粋さに心打たれ、哀しい物語にボロボロ泣いた。

この度、高橋大輔選手のことや、ミュージカル映画「NINE」の公開を契機に、「道」を観直したくなった。恐らく20年ぶりくらいの邂逅である。そして、全く物語が別の様相を帯びてきたので驚いた!フェリーニが映画に散りばめたメタファー(暗喩)の数々が、初めて見えてきたのである。

物語の半ばから綱渡り芸人が登場し、彼はジェルソミーナの心の支えとなる。しかし結局、彼は旅芸人ザンパノに殺されてしまう。

サーカスの場面で、この綱渡り芸人が背中に羽を背負っていることに、僕は今回初めて気が付いた。つまり彼は「天使」として描かれているのである。登場シーンも綱を渡っている場面であり、彼はジェルソミーナのもとへ「天から降りてくる」のだ。

イメージとしてはこんな感じである↓

El
(エル・グレコ「受胎告知」)

映画のラスト・シーンでジェルソミーナの死を知ったザンパノは海岸で慟哭し、慙愧の涙を流す。

ザンパノのZampaとはイタリア語で「悪」の意味。そしてジェルソミーナはイノセンス(無垢)の象徴である。そこに綱渡り芸人(= 天使)が現れ、「どんな物でも何かの役に立っている。この石ころだって」と語り、彼女に神へと続く「道」を示す。そして物語の最後、悪人ザンパノは悔悛し、その魂は浄化されるという構造を持っているのだ。

ザンパノとジェルソミーナは旅の途中、修道院に泊めてもらう。その深夜、ザンパノは鉄格子に手を突っ込み、中にある銀製の十字架を盗もうとする。 そしてそれを咎めるジェルソミーナを振り向き、「お前が代わって取れ。お前なら十字架に手が届くはずだ」と言う。このエピソードも象徴的である。つまり彼女の方が神に近づける存在であることを示していているわけだ。

そしてラストシーン。ザンパノは海岸で頽れ、号泣する直前に、一瞬天を見上げる。そこにジェルソミーナがいるからなのだろう。

また今回、実はジェルソミーナには何度か選択のチャンスが与えられていることも分かった。サーカスの芸人たちは移動する際、彼女に「ザンパノみたいな男はさっさと見限って、私たちと一緒に行かないか」と誘う。さらに修道女も「ここに残らない?」と尋ねる。その度にジェルソミーナはザンパノのもとに留まることを選び取っていたのである(彼の魂を救済するために)。

フェリーニが「道」を監督した当時、彼は34歳。なんと早熟な天才だろう。

Strada2

それにしても久しぶりに「道」を聴いて、ロータの音楽はパーフェクトだなぁと改めて感嘆した(試聴はこちら)。一分の隙もない。僕が特に大好きなのは、ジェルソミーナとザンパノが旅路につくときの、あの哀愁を帯び、何かに急き立てられるように疾走する旋律である。

児玉宏/大阪交響楽団は2011年3月17日の定期演奏会でニーノ・ロータ/交響曲 第4番「愛のカンツォーネに由来する交響曲」を取り上げる(同時にライヴ・レコーディングされる予定)。また、リッカルド・ムーティ/ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団は2009年の来日公演でロータの作品を演奏した。遂に彼の時代が来たのである。

「ゴッドファーザー」の作曲家としても知られるニーノ・ロータはゲイであり、生涯独身を貫いた。彼の来日コンサートでも若い男性の恋人を連れてきていたそうである。バイセクシャルだったルキノ・ヴィスコンティ監督とロータは「山猫」などでいくつか仕事を共にし、またアラン・ドロン主演のゲイ映画「太陽がいっぱい」の音楽も担当しているなど、色々と興味が尽きないエピソードがあるのだが、残念なことにそろそろお時間です。この続きはいずれまた。

 関連記事:

| | コメント (0) | トラックバック (0)
|