Cinema Paradiso

2020年 アカデミー賞・答え合わせ〜徹底的に嫌われたNetflix!

第94回アカデミー賞受賞受賞結果が出揃った。僕の予想が的中した部門は作品・監督・主演女優・主演男優・助演女優・助演男優・脚本・脚色・国際長編映画・美術・作曲・歌曲・衣装デザイン・メイクアップ&ヘアスタイリング・音響・視覚効果・長編ドキュメンタリー・短編実写の計18部門。特に主要部門を全部当てたことは誇りに思う。あと鉄板の◎を付けた14部門はパーフェクトだった。

星海社新書から刊行されている【なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」】の著者、 Ms.メラニーの今年の的中が15部門なので完勝。ちなみに2021年は僕が18部門でMs.メラニーが17部門だった。

今回は兎に角、アカデミー会員がNetflixを毛嫌いし、アナフィラキシー反応を起こしていることがよくわかった。

まずスタジオ別ノミネーション数を見てほしい。

Netflix: 27
Warner Bros.: 16
Disney: 9
20th Century: 9
MGM/UA: 8
Searchlight Pictures: 7
Focus Features: 7
Apple TV+: 6
Neon: 6
Amazon:4
Bitters End: 4
Sony Pictures:2

Netflixがワーナー・ブラザーズを引き離し圧勝である。ところが、受賞結果は……

Warner Bros.: 7
Disney/20th Century: 6
Apple TV+: 3
Searchlight Pictures: 3
Focus Features: 1
MGM/UA: 1
Netflix: 1

なんとNetflixは27のうちジェーン・カンピオン(パワー・オブ・ザ・ドッグ)の監督賞たつた1つしか獲れなかったのである!!一方でワーナーは『DUNE/デューン 砂の惑星』が技術部門で大量受賞したおかげで、高打率だった。また作品賞を受賞した『コーダ あいのうた』はたった3部門しかノミネートされていないのに、全部門制覇してしまった。

大ヒットの娯楽大作を連発し、大儲けしていた時代のスティーブン・スピルバーグがやっかまれ、彼がどうしてもオスカーを欲しくて撮った『カラーパープル』(1985)がアカデミー賞で10部門もノミネートされたのに、結局無冠で終わったときの風当たりの強さ、バッシングを思い出した。『E.T.』が公開された3年後の話である。スピルバーグの受賞は『シンドラーのリスト』(1993)まで待たなければならない。

アカデミー会員はNetflixを拒絶するのに、Apple TV+からストリーミング配信されている『コーダ あいのうた』は何故O.K.なのか?ここに微妙な心情が伺われる。本作はサンダンス映画祭においてワールド・プレミアが行われ大評判となり、Appleが映画祭史上最高額となる2500万ドルで配給権を獲得、2021年8月13日に劇場公開と配信が同時に開始された。つまり元々はインディペンデント系作品だったので、「映画」として認められたというわけ。しかし結局、動画配信サービスに作品賞を与えたという既成事実を作ったことに変わりはなく、Netflix映画がアカデミー賞を総なめにする時代が到来するのは時間の問題である。

アカデミー賞では2010年から作品賞部門にかぎり、投票者が候補作のすべてに対して順位を付ける投票方法を採用している。これに対し、英国アカデミーは投票者が候補作の中から1作品だけを選んで入れる一般的な方法を取る。だから今年英国アカデミー賞は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が作品賞を受賞したが、米国は結果が異なった。米国のやり方だと、エッジが効いて極端に評価が分かれる賛否両論の作品は選ばれず(1位と最下位に票がばらつくから)、誰からも嫌われず2位や3位に票が集中する「無難な」「当たり障りのない」作品が高得点を得る仕組みになっているのだ。賭けてもいいが『コーダ あいのうた』を1位にした人は少ない筈だ。『スポットライト 世紀のスクープ』や『グリーンブック』もそうした経緯で作品賞に選ばれた。

さて、ハンス・ジマーの作曲賞受賞は『ライオンキング』以来2度目。『ライオンキング』のメイン・ディッシュはあくまでティム・ライスが作詞し、エルトン・ジョンが作曲した歌の数々である。だから不当に低い評価に甘んじていた彼が本領発揮した楽曲で漸く再評価されたわけで、めでたしめでたし。

以前、主演女優賞や助演女優賞は演技が大したことなくても、自分で歌えば受賞できる可能性が高くなると書いた。実際今年の受賞者、『タミー・フェイの瞳』のジェシカ・チャステインも、『ウエスト・サイド・ストーリー』のアリアナ・デボーズも歌っている。一方この法則は男優には当てはまらず、ミュージカル映画『チック、チック…ブーン』のアンドリュー・ガーフィールドは沢山歌ったのだが、受賞は叶わなかった。面白いものである。

またウィル・スミスがプレゼンターのクリス・ロックのスピーチに激怒し、平手打ちを食らわせる場面があったが、舞台裏でウィルはディンゼル・ワシントンから「人生最高の瞬間こそ、気を付けろ。悪魔の誘惑に負けるな」と助言されたそうで、さすがアニキ、言うことが違うなと思った。

記事〈映画「ドリームプラン」でウィル・スミスはアカデミー賞受賞という悲願を達成出来るのか?〉で僕は彼が嫌いだと表明したが、偏見でなかったことが今回の事件ではっきりした。はっきり言う、ウィル・スミスは品がない。そして知性が欠けている。とっとと消えてくれ、ウザい。

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2022年 アカデミー賞大予想! 〜今年のテーマは被差別者・マイノリティーを祝福すること

毎年恒例の第94回アカデミー賞受賞予想である。2022年の授賞式は日本時間3月28日(月)に開催される(午前スタート)。相当自信がある(鉄板)部門には◎を付けた。

作品賞:コーダ あいのうた
監督賞:ジェーン・カンピオン(パワー・オブ・ザ・ドッグ) ◎
主演女優賞:ジェシカ・チャステイン(タミー・フェイの瞳)
助演女優賞:アリアナ・デボーズ(ウエスト・サイド・ストーリー) ◎
主演男優賞:ウィル・スミス(ドリームプラン) ◎
助演男優賞:トロイ・コッツァー(コーダ あいのうた) ◎
脚本賞:ケネス・ブラナー(ベルファスト) ◎
脚色賞:シアン・ヘダー(コーダ あいのうた)
撮影賞:アリ・ウェグナー(パワー・オブ・ザ・ドッグ)
編集賞:チック、チック…ブーン!
美術賞:Dune 砂の惑星 ◎
作曲賞:ハンス・ジマー(Dune 砂の惑星) ◎
歌曲賞:ビリー・アイリッシュ(007/ノー・タイム・トゥ・ダイ) ◎
衣装デザイン賞:ジェニー・ビーヴァン(クルエラ) ◎
メイクアップ&ヘアスタイリング賞:タミー・フェイの瞳 ◎
音響賞:Dune 砂の惑星 ◎
視覚効果賞:Dune 砂の惑星 ◎
国際長編映画賞:ドライブ・マイ・カー ◎
長編アニメーション賞:ミッチェル家とマシンの反乱
短編アニメーション賞:ことりのロビン
長編ドキュメンタリー映画賞:サマー・オブ・ソウル
短編ドキュメンタリー映画賞:オーディブル 鼓動を響かせて
短編実写映画賞:The Long Goodbye ◎

今年の受賞傾向は明白で、今まで差別されてきた人々やマイノリティーを祝福すること。具体的には女性・有色人種・LGBTQ+・障害者を指す(最近では表記が問題にされ「障碍者」と書くことも多くなっているようだが、今も「障害者手帳」だし、内閣府や文部科学省も「障害者」を用いているのでそのままとする)。『コーダ あいのうた』は聾者の家族と健聴者の娘の物語であり、助演男優賞を受賞するトロイ・コッツァーも聾者の俳優。その妻を演じたマーリー・マトリンは21歳の時『愛は静けさの中に』(1986)で聾者として初めてアカデミー主演女優賞に輝いた。またアリアナ・デボーズはスピルバーグ映画史上初のオスカーに輝く女優ということになる(男優では既に『リンカーン』のダニエル・デイ=ルイスと『ブリッジ・オブ・スパイ』のマーク・ライランスがいる)。

ジェーン・カンピオンの監督賞受賞はキャスリン・ビグロー(ハート・ロッカー)、クロエ・ジャオ(ノマドランド)に続いて女性として3人目。本来なら彼女はとっくの昔に『ピアノ・レッスン』(1993)で受賞すべきだった。遅すぎるくらいだ。また、もし『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のアリ・ウェグナーが受賞すれば、女性撮影監督として初めてということになる。但し撮影賞は『Dune 砂の惑星』も有力候補なので、どっちに転ぶか分からない。

日本の『ドライブ・マイ・カー』が国際長編映画賞を受賞するのは500%確実だが、他の部門で可能性があるとしたら脚色賞。

長編アニメーション賞は『ミラベルと魔法だらけの家』の可能性も高く五分五分の勝負。ただ僕はディズニー/ピクサーがこの部門を交代交代に受賞する状況にほとほと嫌気が差しているので、『ミッチェル家とマシンの反乱』を熱烈に応援したい。頑張れソニー・アニメーション ピクチャーズ!!

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映画「ウエスト・サイド・ストーリー」(スピルバーグ版)

評価:AAA (最高!)

「今までスピルバーグが監督した映画の中で、記憶に残った女優は誰か?」と問われたら、僕は『E.T.』のドリュー・バリモアと、『宇宙戦争』のダコタ・ファニングくらいしか思い付かない。『インディ・ジョーンズ』シリーズのヒロインなんか、キャーキャー騒いでいるだけ。かように“子供に対する演出は得意だけれど、大人の女を扱うのは苦手な監督”という印象が彼には付き纏ってきた。彼の映画でアカデミー賞の演技部門を受賞した男優は『リンカーン』のダニエル・デイ=ルイスと『ブリッジ・オブ・スパイ』のマーク・ライランスがいるが、女優は皆無という事実がそのことを裏付けているように思う。

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ところが最新作『ウエスト・サイド・ストーリー』 は違った。アニタ役のアリアナ・デボースはチャーミングでセクシー、そして僕は彼女のダイナミックなダンスの虜になった。きっとスピルバーグ映画で史上初めてオスカーを手にする女優になるだろう。そして新人のレイチェル・ゼグラーも凛として、揺るぎない意志で前に進む鮮烈なマリア像を打ち出しており、これだけ女たちが輝いているスピルバーグ映画を他に知らない。

ミュージカル映画史に革命をもたらした名作『ウエストサイド物語』(1961)をリメイクする。このニュースを耳にした時「どう考えても勝算のない、なんと無謀な挑戦だろう」と誰しもが思っただろう。しかしスピルバーグは高いハードルを見事にクリアした。

本作はプエルトリコから来た有色人種と、ポーランド系白人との、民族の違いによる社会の分断を描いている。しかしそれだけではないことに今回気付かされた。シャーク団の男たちはプエルトリコに帰りたいと歌い、アニタら女たちはアメリカの方が住心地が良いと主張する。そしてジェット団の男たちがアニタに乱暴を働こうとした時 、ジェットの女たちは彼女を助けようと必至に抵抗する。つまり男と女の間に横たわる深い溝が描かれている。さらにダンスパーティの場面で2つのグループを一緒に踊らせようとする明るい青年(グラッド・ハンド)がゲイであることをからかわれたり、ジェッツに入団希望している男装の女の子「エニボディズ」をトランスジェンダーでノンバイナリーの俳優、アイリス・ミーナスが演じることで、LGBTQ+とストレートの人々との性的指向を巡る分断も前面に押し出されているあたり、脚色を担当したトニー・クシュナーの面目躍如、 さすがエイズ時代の黙示録として書かれた戯曲『エンジェルズ・イン・アメリカ』で1993年にピューリッツァー賞を受賞した人だけのことはあるな、と感心することしきりだった。

【永久保存版】どれだけ知ってる?「ウエスト・サイド・ストーリー」をめぐる意外な豆知識 ( From Stage to Screen )

現在ディズニー・プラスから配信されているドキュメンタリー(『サムシングズ・カミング:ウエスト・サイド・ストーリー』)の中で、スピルバーグは舞台版のクリエイターたち、アーサー・ローレンツ(台本)、ジェローム・ロビンス(振付)、スティーヴン・ソンドハイム(作詞)、レナード・バーンスタイン(作曲)のことを「4人のゲイのユダヤ人(They are four jewish gay men.)」と明言している。その性的マイノリティからの視座がはっきりと打ち出されている点が、リメイク版の肝なのだ。

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映画「ドリームプラン」でウィル・スミスはアカデミー賞受賞という悲願を達成出来るのか?

評価:B

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映画公式サイトはこちら。本作でウィル・スミスのアカデミー主演男優賞受賞は確実と巷では噂されている。

実話である。世界最強のテニスプレイヤー、ビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を世界チャンピオンに育て上げた実父リチャードが主人公。この親父がとにかく独善的で傲岸不遜、原題"King Richard"は彼が周囲の人々から「リチャード王」と揶揄されていたことに由来する。最初このタイトルを見たときは「現代を舞台にシェイクスピア劇(『リチャード三世』)を翻案するのかな?」と思ったが、全然違った。ただ、暴君であるという共通点はある。

この主人公から『巨人の星』の星一徹を想起する人は多いだろう。やっていることは児童虐待に近いスレスレのラインだ。だから劇中で近所の人に通報され警察が来る場面があるのだが、宜なるかな。

確かにこの親なくして姉妹が世界の頂点に立つことはなかっただろう。だからといってリチャードの教育方針(子育て)が正しいと一般化することは決して出来ない。

僕は五嶋みどりと五嶋龍という世界的ヴァイオリニストを育て上げた母親のことを思い出した(娘が10歳の時に夫をはじめ家族の反対を押し切って母娘だけで渡米し、ジュリアード音楽院の教授に師事した。その後間もなく離婚)。たしかにその音楽教育のお陰で子どもたちは一流に育った。しかしみどりは22歳の時に、摂食障害とうつ病で入院を経験している。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを神童として売り出した父レオポルドにも似たところがある。確かに彼らの力で「天才」は育った。世の中(人類)にとっては有益だった。しかし、果たして子どもたち当人にとっては幸せだったのだろうか?僕は甚だ疑問に思う。

Tensai

結局、何を正しいとするかは個々の価値観で違うのだろう。

ウィル・スミスは『ALI アリ』『幸せのちから』でアカデミー主演男優賞にノミネートされたが、受賞は逃している。今回が3回目の挑戦。

なお、ウィル・スミスが原案・製作・出演を兼ね、M・ナイト・シャマランが監督した『アフター・アース』(2013)では主演した息子のジェイデン・スミスと共に最低映画の祭典として知られるラジー(ゴールデン・ラズベリー)賞でワースト主演男優賞、助演男優賞、スクリーンコンボ賞の3賞に輝き、辛酸を嘗めた。

僕は正直、『ドリームプラン』のウィル・スミスがオスカーに値する演技だとは全く思わなかった。もしアカデミー会員だったら『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のベネディクト・カンバーバッチに一票を投じる。ただ僕は昔からウィル・スミスが嫌いで、彼が『アフター・アース』でラジー賞を受賞したときは快哉を叫んだクチである。そんな先入観・色眼鏡で見ているから審美眼が濁っている可能性は否定しない。

個人の感想と最終的なアカデミー賞受賞予想とは別です。あしからず。

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ジェーン・カンピオン vs. スピルバーグ、宿命の対決!!「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

Netflix配信映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が第94回アカデミー賞で最多11部門12ノミネートされた。内訳は作品賞、監督賞(ジェーン・カンピオン)、主演男優賞(ベネディクト・カンバーバッチ)、助演男優賞(ジェシー・プレモンスとコディー・スミット=マクフィーの2人)、助演女優賞(キルスティン・ダンスト)、脚色賞、美術賞、撮影賞、編集賞、音響賞、作曲賞。余談だが劇中で結婚するジェシー・プレモンス(マット・デイモンのそっくりさんで、映画『すべての美しい馬』ではデイモンの幼少時代を演じた)とキルスティン・ダンストは実生活においても夫婦である。

一方、スティーブン・スピルバーグ監督初のミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』は作品賞、監督賞、助演女優賞、美術賞、撮影賞、衣装デザイン賞、音響賞の7部門にノミネートされている。

【永久保存版】どれだけ知ってる?「ウエスト・サイド・ストーリー」をめぐる意外な豆知識 ( From Stage to Screen )

ここでどうしても思い起こさずにいられないのが今から28年前となる1994年、第66回アカデミー賞における宿命の対決である。この年はスピルバーグの『シンドラーのリスト』とジェーン・カンピオンの『ピアノ・レッスン』が競り合い、『シンドラーのリスト』が作品賞、監督賞を含む7部門を制して大勝利を収めた。作品賞・監督賞など8部門にノミネートされていた『ピアノ・レッスン』は結局、脚本賞、主演女優賞、助演女優賞の3部門受賞にとどまった。『ピアノ・レッスン』の方が映画として優れているし、監督賞はジェーンが受賞すべきだったと、僕は今でも思っている(ちなみに、監督賞を初めて女性が受賞するのは2010年『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグローまで待たなければならない)。

そして四半世紀以上を経て再び両者が四つに組むこととなった。今回の勝者は間違いなくジェーンだろう。#MeToo 運動があり、昨年の受賞者もクロエ・ジャオだったし、いま確実に女性監督の方向に風が吹いている。ただ、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が作品賞も受賞できるのかとなると、甚だ疑問である。理由を説明しよう。

本作について「ある映画に似ている」と書いただけで直ちにネタバレになってしまうので、それを避けることは極めて難しい。以下ネタバレあり。

評価:A

Dog

まず『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が作品賞を受賞するための最大の難関は、これがNetflix映画だということ。ハリウッド映画人の矜持として、配信映画だけには作品賞を与えたくないという気持ちがある。劇場を守らなければならない。やはりNetflixの『ROMA/ローマ』の時もそうだった。アルフォンソ・キュアロンに監督賞を与えたが、作品賞を受賞したのは凡庸な『グリーンブック』だった。

そして『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は『ブロークバック・マウンテン』と共通点がある。ゲイのカウボーイが主人公なのだ。『ブロークバック・マウンテン』でアン・リーはアカデミー監督賞を受賞したが、作品賞は獲れなかった。

つまり性的マイノリティー、LGBTQ+がテーマなので、普遍性に欠ける。多数者であるストレートの人々に響く物語とは言えない。またキリスト教徒(特にカトリック系)には未だにゲイに対する根強い偏見がある。例えば2021年にローマ教皇庁(ヴァチカン)は「同性婚は祝福できない」と公式見解を示した。そういう意味で『ベルファスト』や『ドライブ・マイ・カー』にも作品賞のチャンスがあると思う。

ただこの理屈には反証があって、『ラ・ラ・ランド』が最有力と言われた年に作品賞を受賞したのはゲイが主人公の地味な『ムーンライト』だった。だから今年、監督賞の行方は鉄板なのだが、作品賞に関しては五里霧中、皆目見当がつかないというのが正直なところである。

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TBSラジオ「アフター6ジャンクション」に投稿した映画『ハウス・オブ・グッチ』のレビューが採用されました。

ヒップホップグループ、RHYMESTER 宇多丸がパーソナリティを務めるTBSラジオ「アフター6ジャンクション」において、2月11日に放送された〈週間映画時評 ムービーウォッチメン〉のコーナーで僕が書いた感想メールが読まれた。 お題は巨匠リドリー・スコット監督『ハウス・オブ・グッチ』である。

評価:A 映画公式サイトはこちら

Gucci

僕の投稿が「ムービーウォッチメン」で採用されるのはアルフォンソ・キュアロン脚本・監督『ROMA/ローマ』と、グレタ・ガーウィグ 脚色・監督『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』に続いて3回目。

以下、送ったメールの原文ママ。

格調高い作品も撮れるリドリー・スコットですが、今回は下世話なエンターテイメントに徹しており、上映時間157分と長尺ながら、一瞬たりとも飽きることなく最後まで愉しく観ることが出来ました。

レディ・ガガ演じる欲望むき出しのヒロインは自信とバイタリティに溢れ、その下品でギラギラした押しの強さはポール・バーホーベンの『ショーガール』にも通じるものがあると思いました。『エイリアン』のリプリーは勿論のこと、『テルマ&ルイーズ』にせよ、近年では『最後の決闘裁判』のマルグリットにせよ、リドリー・スコットが描く女性像はみな意思が強く凛としています。しかし本作の後半、占い師の言いなりになり身を破滅していく彼女の姿は滑稽で哀れでもあり、韓国の元大統領・朴槿恵(パク・クネ)の末路に重なるものがありました。

『ハウス・オブ・グッチ』最大の魅力はなんといっても名優たちの演技のアンサンブルの見事さにあります。アダム・ドライバーの上手さは今更言うに及ばず、気品のある貴族を演じさせたら現在ジェレミー・アイアンズの右に出る者はいないと思いますし、アル・パチーノはゴッドファーザーを彷彿とさせる堂々とした凄みがあり、特殊メイクを駆使したジャレッド・レトの怪演は『ハンニバル』で大富豪を演じたゲイリー・オールドマンのことを思い起こさせました。

あと音楽ついても触れないわけにはいけません。特に結婚式のシーンでジョージ・マイケルの『Faith』が軽妙に流れるという、意表を突く選曲の妙には痺れました。

朴槿恵(パク・クネ)の箇所だけ割愛され、あとは概ね読まれた。嬉しかった。

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映画「コーダ あいのうた」

評価:A

CODAとは、Children of Deaf Adults=「耳の聴こえない両親に育てられた子ども」という意味。公式サイトはこちら

Coda

障碍者を差別してはいけないのは当たり前のことだが、余りにもその意識が強すぎると却って、障碍者を「天使」とか「絶対的な善」として描いてしまうという愚行に走りかねない。その悪しき典型例が知的障害者を「聖者」になぞらえた、野島伸司脚本のテレビドラマ『聖者の行進』であり、アニメ映画化もされた漫画『聲の形』もしかり。

しかし『コーダ あいのうた』では聾唖者を腫れ物に触るように扱うのではなく、彼らだって屁をこくし、マリファナを吸うし、下品な表現で相手を罵ったりする等身大の人間として描いていることに共感した。障碍者を【健常者が感動するための道具】として見世物扱いする「感動ポルノ」とは一線を画する作品だと思う。

感動ポルノとして消費される障害者と「聲の形」 2016.09.23

聾唖者の家族を描いている映画だという予備知識ぐらいで観始めたら、主人公の少女が歌う場面から始まったので面食らった。意表を突く作劇であり、音楽映画としても秀逸。耳が聞こえなくても振動で音楽が楽しめるというのは大きな発見だったし、特に娘の歌声が聞こえない父親が、彼女の才能を確信する場面の演出の巧さには舌を巻いた。いや〜、これぞ映画的瞬間と言えるだろう。

「家族」という名の絆(ほだし)から解き放たれて、子供が独立するというテーマは普遍的であり、幸運にも五体満足に生まれた我々にとっても決して無関係ではない。

それにしても『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』にせよ、『ヤング・ゼネレーション』にせよ、映画で高い崖から水に飛び込む場面を見ると「ああ、青春っていいな」と羨ましく思うのは、僕だけではないだろう。それは恐らく自分が閉じこもる殻を破り、外の世界に飛び出すことのメタファーでもあるのではないだろうか?

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映画「ドント・ルック・アップ」 (Netflix)

評価:A+

公式サイトはこちら

人類が未曾有の危機に直面した時、いかに愚かな行動をとってしまうかということをブラック・コメディーにした作品としては、水爆の恐怖をテーマにした『博士の異常な愛情』(1964)以来だと思う。考えてみれば50年以上、そういった映画がなかったというのは不思議な気がする。

いま僕たちは新型コロナウィルス・パンデミックの渦中にいる。そしてこうした際に皆が一致団結して危機に立ち向かうことが出来ないというのを、現実社会で嫌というほど思い知らされた。

「新型コロナは嘘」「コロナはただの風邪」などと不都合な情報から目を背け、自分の殻に閉じこもる人々。地球に落ちてくる超巨大彗星を見ようとしない『ドント・ルック・アップ』で描かれた情景と重なる。世界は分断され、対立が続いている。「選挙が盗まれている」というトランプ前大統領の主張を鵜呑みにして、アメリカ連邦議会を襲撃した彼の支持者のことも本作を観ながら思い出した。どうも人は、見たいものしか見ない性癖があるようだ。

現在、「世界の黒幕がワクチンによってマイクロチップを埋め込み、人類を管理しようとしている」といった陰謀説が喧伝されているが、それって『博士の異常な愛情』に登場する空軍の司令官が「水道水にフッ素を添加しているのは共産主義者の陰謀で、アメリカ人の体液を汚染しようとしている」という妄想に取り憑かれているのと同じ現象ではないだろうか?

『博士の異常な愛情』 はピーター・セラーズが1人3役をこなすことで、物語のバカバカしさを増幅させていたが、本作では無駄にオスカー俳優が5人も出演していることで、同様の効果を得ることに成功している。

登場人物たちの所業の余りの滑稽さに大爆笑しつつ観終わって、「でもひょっとしたら現実にも起こり得るかもしれないぞ」と背筋が凍る、そんな映画体験だった。

Dont

医師であるキュブラー=ロスはガン告知を受けた末期患者と面談を重ね、その心理プロセスを著書『死ぬ瞬間』の中で1.否認、2.怒り、3.取引、4.抑うつ、5.受容の5段階に分けた。この全ての段階が『ドント・ルック・アップ』に登場するが、「受容」に至る人もいれば、「否認」の段階で留まる人もいて、人それぞれ、千差万別だなと思った。

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2021年映画ベスト30+α & 個人賞発表!

毎年恒例、映画ベストを発表しよう。2021年に劇場で初公開された作品及び、Netflix, Amazon Prime Videoなどインターネットで配信された作品を対象とする。ただし、『ザ・クラウン』『クイーンズ・ギャンビット』『地下鉄道〜自由への旅路〜』『全裸監督』など連続ドラマは除外する。

タイトルをクリックすれば過去に僕が書いたレビューに飛ぶ。但し、未だ書けていない作品もある。

今年は2位がタイで2作品ある。これらの順列は決めかねた。

1.シン・エヴァンゲリオン劇場版
2.チック、チック...ブーン! (Netflix)
2.ドント・ルック・アップ (Netflix)
4.ドライブ・マイ・カー
5.ファーザー
6.ノマドランド
7.007/ノー・タイム・トゥー・ダイ 
8.最後の決闘裁判
9.パワー・オブ・ザ・ドッグ (Netflix)
10. アイダよ、何処へ?
11. まともじゃないのは君も一緒
12. あのこは貴族 
13. あの夏のルカ (Disney+) 
14. ミッチェル家とマシンの反乱 (Netflix) 
15. イン・ザ・ハイツ
16. 浅草キッド (Netflix)
17. サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜 (Amazon Prime)   

18. 僕が飛びはねる理由(ドキュメンタリー)
19. 街の上で 
20. ミラベルと魔法だらけの家 

21. Everybody's Talking About Jamie ~ジェイミー~ (Amazon Prime
22. ジャスティス・リーグ(ザック・スナイダーカット)(HBO Max) 
23. DUNE/デューン 砂の惑星 
24. プロミシング・ヤング・ウーマン  
25. アナザー・ラウンド 
26. すばらしき世界 
27. 竜とそばかすの姫 
28. アイの歌声を聴かせて 
29. アメリカン・ユートピア 
30. 花束みたいな恋をした
次点. クルエラ (Disney+) 

【特別賞】(ミニ・シリーズ)
地下鉄道〜自由への旅路〜 (Amazon Prime)
・全裸監督 (Netflix)
・ウディ・アレン VS ミア・ファロー (HBO Max)(ドキュメンタリー)
・キャッチ&キル / #MeToo 告発の記録 (HBO Max)(ドキュメンタリー)
・Qアノンの正体 (HBO Max)(ドキュメンタリー)

【ワースト・ワン】
サマーフィルムにのって
あの頃(次点)

監督賞:アダム・マッケイ(ドント・ルック・アップ)(Netflix)
新人(第一回)監督賞:リン=マニュエル・ミランダ(チック、チック...ブーン!)(Netflix)
アニメーション監督賞:庵野秀明(シン・エヴァンゲリオン劇場版
オリジナル脚本賞:アダム・マッケイ(ドント・ルック・アップ)(Netflix)
脚色賞:フローリアン・ゼレール、クリストファー・ハンプトン(ファーザー
主演女優賞:清原果耶(まともじゃないのは君も一緒
助演女優賞:門脇麦(浅草キッド)、キルスティン・ダンスト(パワー・オブ・ザ・ドッグ)(Netflix)
主演男優賞:アンドリュー・ガーフィールド(チック、チック...ブーン!)(Netflix)
助演男優賞:小泉孝太郎(まともじゃないのは君も一緒 )、成田凌(街の上で)
撮影賞:アリ・ウェグナー(パワー・オブ・ザ・ドッグ)(Netflix)
編集賞:マイロン・カーシュタイン、アンドリュー・ワイズブラム(チック、チック...ブーン!)(Netflix)
美術賞:ピーター・フランシス(ファーザー
衣装デザイン賞:ジェニー・ビーヴァン(クルエラ) (Disney+) 
音響賞:サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜 (Amazon Prime)
作曲賞:ジョニー・グリーンウッド(パワー・オブ・ザ・ドッグ)(Netflix)
歌曲賞:宇多田ヒカル"One Last Kiss"(シン・エヴァンゲリオン劇場版

シン・エヴァンゲリオン劇場版』については、とにかく『エヴァ』シリーズが完結する日が来るなんて全く想定外だったので、ただただ驚かされた。庵野秀明は広げた風呂敷をきちんと畳んでみせた。これを奇跡と呼ばずしてなんと言おう?永遠に少年だと思っていたのに、いつの間にか立派な大人になっていた。安野モヨコさん、ありがとう。(←意味が分からない人はNHKのドキュメンタリーを見て。)そして『シン・ウルトラマン』と『シン・仮面ライダー』も期待しているよ!

成田凌については『愛がなんだ』『さよならくちびる』『窮鼠はチーズの夢を見る』『まともじゃないのは君も一緒』『街の上で』など近年、日本映画での活躍が目覚しく、その存在感を高く買いたい。特に『さよならくちびる』のマネージャー役が素晴らしかったので、遅まきながら名前を挙げさせてもらう。

門脇麦は『あのこは貴族』での深窓の令嬢(貴族)役から『浅草キッド』のストリッパー役まで、演技の振り幅に驚嘆した。

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ブロードウェイの鬼才リン=マニュエル・ミランダが初監督したミュージカル映画『チック、チック…ブーン!』(tick, tick...BOOM!)

ピューリッツァー賞(戯曲賞)を受賞したミュージカル『ハミルトン』の台本・作詞・作曲・主演を兼任、ディズニー映画『モアナと伝説の海』や『ミラベルと魔法だらけの家』の作詞・作曲も手がけている鬼才リン=マニュエル・ミランダの初監督作品『チック、チック…ブーン!(tick, tick...BOOM!) が2021年11月12日よりNetflixから配信されている(こちら)。『RENT/レント』の台本・作詞・作曲を手がけ、死後にピューリッツァー賞を受賞したジョナサン・ラーソン(享年35歳)を主人公とするミュージカル映画で、歌われる楽曲は全てラーソンによるもの。音楽に関してミランダは今回ノータッチである。

評価:A+

ラーソンはダイナー(軽食レストラン)でウェイターとして働きながら夜はミュージカルを創作し、コツコツと試聴会(ワークショップ)を開催するものの、なかなか出資者(スポンサー)が見つからない。もうすぐ30歳の誕生日を迎えるのに、まだ何者でもない自分への焦燥や不安、煩悶が描かれる。

本作を十分に満喫するためには少なくとも『RENT/レント』を知っているということが前提となる。つまりラーソンが世紀の大傑作を生み出す瞬間=【ゼロ時間】に向かってひた走る映画だからである。この物語の先にあの『RENT』があるのだという期待・感慨抜きにはワクワク感が半減されてしまうだろう。

映画「チック、チック…ブーン!」を語る前に、ミュージカル「RENT/レント」について触れない訳にはいかない。

例えばラーソンが「君は“エンジェル”だ!」と称賛するゲイの友人との関係性が『RENT』のキャラクター設定に緊密に結びついているし、ラーソンの自宅に設置された留守番電話の応答メッセージ"Speak !"が『RENT』と同じだったりする、といった具合。

観ている途中に気がついたのだが、本作はリン=マニュエル・ミランダ版『オール・ザット・ジャズ』なのだ。ブロードウェイの振付師・演出家でもあったボブ・フォッシー監督の自伝的作品で、1980年のカンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを黒澤明の『影武者』と分かち合った。ロイ・シャイダー演じる主人公はブロードウェイの演出家。新作ミュージカルの準備を進めながら彼は死の影に怯え、焦り、混乱し、幻想を見る。レニー・ブルースを彷彿とさせるスタンダップ・コメディアンが登場し、その舞台上の一人語りが『チック、チック…ブーン!』のアンドリュー・ガーフィールドの姿に重なる。さらに『オール・ザット・ジャズ』の元ネタを遡ると、フェデリコ・フェリーニ監督『8 1/2』にたどり着く。「人生は祭りだ。一緒に過ごそう」

ミランダは間違いなくジョナサン・ラーソンの生き様に自分自身を投影している。ラーソンは作詞・作曲家スティーヴン・ソンドハイムを心から敬愛しており、 ソンドハイムが27歳で(『ウエスト・サイド物語』の作詞家として)ブロードウェイ・デビューしたことを繰り返し語る。その想いはミランダのそれとピッタリ一致する。映画の最後、ラーソン自宅の留守番電話に吹き込まれたソンドハイムからの激励メッセージは本人の肉声であり、ソンドハイム自身が台詞をリライトしたそうだ。ミランダも2009年ブロードウェイでの『ウエスト・サイド物語』スペイン語版リヴァイヴァル上演に際し、歌詞のスペイン語訳をソンドハイムと共同作業している。

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また、ピューリッツァー賞を受賞したソンドハイムのミュージカル"Sunday in the Park with Georgre"(日曜日にジョージと公園で/ジョージの恋人)のことを少し知っていたほうが本作をより一層楽しめるだろう。新印象派の画家ジョルジュ・スーラが主人公で(フランス語の「ジョルジュ」を英語読みすると「ジョージ」になる)、彼が点描法で大作『グランド・ジャット島の日曜日の午後』(シカゴ美術館所蔵)を書き上げる場面が第1幕のクライマックスとなっている。

Sunday

『チック、チック…ブーン!』の前半、ラーソンは自宅のテレビでその場面を見ている(動画はこちら)。マンディ・パティンキンとバーナデット・ピーターズが主演した1984年初演の舞台を撮影したもので、僕は北米版DVDを持っている。

『チック、チック…ブーン!』のダイナーで歌われるラーソンが作詞・作曲した"Sunday"は明らかに"Sunday in the Park with Georgre"第1幕終曲に対するパスティーシュである。green,blue,yellowなど色彩を表す言葉が連発されるのも共通している。そしてこの"Sunday"にブロードウェイのレジェンドたちが大勢出演している。まずダイナーの厨房では監督のリン=マニュエル・ミランダがスペイン語を喋りながら調理している。店のカウンターには『ハミルトン』のスカイラー姉妹や『キス・ミー・ケイト』でトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞したブライアン・ストークス・ミッチェル、そして『ファン・ホーム』のベス・マローン(役と同じ黒縁メガネを掛けている)が座っている。テーブル席には映画『キャバレー』(ボブ・フォッシー監督)のMC役でアカデミー助演男優賞を受賞したジョエル・グレイ、『ウエストサイド物語』のアニタや『シカゴ』(ボブ・フォッシー振付・演出)のヴェルマ、『蜘蛛女のキス』の蜘蛛女などでブロードウェイ・オリジナル・キャストを務めたチタ・リベラ、リヴァイヴァル版『シカゴ』ヴェルマ役でトニー賞ミュージカル主演女優賞を受賞したビビ・ニューワース、ブロードウェイ『オペラ座の怪人』のファントム役として最多出演回数を誇るハワード・マクギリン、『ハデスタウン』でトニー賞ミュージカル助演男優賞を受賞したアンドレ・デ・シールズ、そしてバーナデット・ピーターズ本人もいる(主人公が彼女の手を取る場面は"Sunday in the Park with Georgre"の再現である)。さらに『RENT』のオリジナル・キャスト、アダム・パスカル(ロジャー)、ウィルソン・ジャーメイン・ヘレディア(エンジェル)、ダフニ・ルービン=ヴェガ(ミミ)が浮浪者(bums)役で登場する。

グランド・ジャット島はパリ・セーヌ川の中洲にあり、両岸と橋で結ばれている。ブロードウェイがあるマンハッタン島もハドソン川河口部の中洲にある。つまり両者には共通点があるのだ。

ソンドハイムは2021年11月26日に91歳で亡くなったが、その3日後の日曜日に彼を慕うブロードウェイの演劇人たちがニューヨークのタイムズスクエア(ディスカウントプレイガイドtktsのある所)に集った(動画はこちら)。まずリン=マニュエル・ミランダがソンドハイムの書いた本の一節を朗読する(ここで名前が出てくるラパインとは、"Sunday in the Park with Georgre"の台本を書き、演出したジェームズ・ラパインのこと) 。そして全員でソンドハイム作詞・作曲の"Sunday"を歌う。ブライアン・ストークス・ミッチェルや歌手ジョシュ・グローバンの姿もある。あたかも人々が日曜礼拝で教会に集い、牧師が聖書を読み、その後に参会者が賛美歌を歌う情景のようだ。

日本人には余りピンとこないと思うが、アメリカ演劇業界の人々にとってソンドハイムは神にも等しい存在なのだ。それは世界中のアニメーターにとって、宮崎駿がどういう存在かという関係性に等しい。

かようなわけで『チック、チック…ブーン!』はジョナサン・ラーソンとスティーヴン・ソンドハイムに対する熱烈な恋文に仕上がっている。

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