アニメーション・アニメーション!

2017年5月22日 (月)

夜明け告げるルーのうた

評価:B+

公式サイトはこちら

Yo

湯浅政明は監督デビュー作「マインド・ゲーム」や、テレビ・アニメ「四畳半神話大系」(2作品とも文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞)を観れば判る通り、天才である。それは紛れもない事実だ。先月公開され、A+の評価をつけた「夜は短し歩けよ乙女」のレビューはこちら

湯浅作品の特徴を一言で評すなら「疾走する狂気」であろう。その世界観は毒気に満ち、過剰サイケデリックLSDなどの幻覚剤によって生じる幻覚や陶酔状態を想起させるさま)だ。ビートルズの傑作アルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に収録された"Lucy in the Sky with Diamonds"を彷彿とさせる。頭文字を繋げるとLSDとなり、ジョン・レノンがドラッグを飲みラリって見た幻覚を歌っているとも言われる。

そのサイケさは確かに「夜明け告げるルーのうた」にも残り香のように漂ってはいるが、強烈な「マインド・ゲーム」と比べると、毒が薄まっている感は否めない。

湯浅監督は余りにも個性的すぎて、マニアックなファンはいるが一般受けしない。しかし本作は東宝配給だし、健全な少年少女にも何とか馴染めるものにしようと涙ぐましい努力をしている。つまり王道を目指しているという意図はよく判る。

ただね、皆が指摘しているように人魚と少年の出会いの物語は「崖の上のポニョ」だし、ルーのお父さんの造形は明らかにトトロ、または「パンダコパンダ」のパパンダだ。どうしても既視感があって新鮮味が乏しいと断じざるをえない。僕は言いたい。「湯浅さん、無理して一般客に媚びんなよ。ありのまま(Let It Go)でいいじゃんか」

結局、「夜は短し歩けよ乙女」はお世辞にもヒットしたと言えないし(僕は大好きだけど)、「夜明け告げるルーのうた」は平日19時5分からの上映回を観たが、観客はたった3人。閑古鳥が鳴いていた。

Netflixで配信予定の湯浅監督「デビルマン」に期待したい。今度は周囲の雑音を気にせず、伸び伸び羽ばたいてください。

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2017年4月27日 (木)

アニメと怪獣〜サブカルチャーがカルチャーになる時

この記事を書こうと思い立った、ことの発端は僕の知人が以下のような趣旨をツィートしたことだった。

「キングコング:髑髏等の巨神」を観た。巷の評判ほど傑作ではないと思った。 そんな印象を映画オタクの友人に語ったら「おまえは最近レベル高い映画観すぎやねん。「ラ・ラ・ランド」とか「君の名は。」とかと比べるからあかん。キングコングはB級映画の傑作や、あれで充分やねん!」と言われた。

1979年、キネマ旬報ベストテンで宮崎駿監督の劇場映画デビュー作「ルパン三世カリオストロの城」(1979年度)に投票したのは60人の選者中1か2人だった。ところが2010年同じキネマ旬報社から刊行された「オールタイム・ベスト 映画遺産 アニメーション篇」の投票で「カリ城」はなんと第1位になったのである!!なんという変わり身の早さ。

Kine

因みに第2位「風の谷のナウシカ」、第3位「となりのトトロ」、第4位「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」だった。 この時、第7位になった高畑勲監督「太陽の王子 ホルスの大冒険」も公開当時(1968年)は歯牙にも掛けられず、正当な評価を受けることはなかった。つまり1980年代半ばまでアニメーションはお子様向けとバカにされていて、まともな映画として扱われず、恐らく映画評論家の殆どは試写会に足を運びすらしなかったであろう。

世間の風向きが変わり始めたのは「風の谷のナウシカ」(1984)の登場からである。この年、キネマ旬報ベストテンでナウシカは日本映画第7位/読者選出日本映画第1位に選ばれた。アニメーションが入選するのは史上初であった。そして「となりのトトロ」(1988年)は遂にキネ旬で堂々第1位となり、「千と千尋の神隠し」は米アカデミー賞を受賞し、宮﨑駿は天下を取った。

1980年代「最近の日本人は大人でも電車で漫画雑誌を読んでいる」と呆れ顔の外国人の談話が新聞記事になっているのをしばしば見かけた。しかし今はどうだろう?日本の漫画やアニメは世界に通用するコンテンツとして一目置かれ、日本政府・経済産業省によるクールジャパン戦略の核にもなっている。「攻殻機動隊」は映画「マトリックス」に多大な影響を与え、今年ハリウッドで実写映画化もされた。「AKIRA」「デスノート」「銃夢」などのハリウッド版も製作進行中だ。そして世界のアニメーターにとって宮﨑駿は今や「神」となった。

2016年、日本映画の話題を席巻したのはアニメーション「君の名は。」「この世界の片隅に」そして怪獣映画「シン・ゴジラ」だった。キネマ旬報ベストテンで日本映画の第1位が「この世界の片隅に」、第2位が「シン・ゴジラ」となり、「映画芸術」誌でも「この世界の片隅に」がベスト・ワンに選出された。また日本アカデミー賞では「シン・ゴジラ」が作品賞・監督賞など7部門で最優秀賞に輝いた。10年前では絶対に考えられなかったことだ。

日本の怪獣映画の史上最高傑作といえば本多猪四郎監督&円谷英二特技監督による「ゴジラ」(1954年版)であることは論を俟たない。誰も異論を挟む余地はないだろう。しかし初代「ゴジラ」はキネマ旬報ベストテンで全く相手にされなかったし、本多猪四郎監督は賞と無縁の人だった

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ところが今や「ゴジラ」は世界中の人々から愛されるようになり、ハリウッドで既に2回映画化された。黒澤明監督「夢」に出演するために来日したマーティン・スコセッシ監督は撮影現場で「ミスター・ホンダはどこだ!」と叫び(本田は「夢」の演出補佐だった)、一緒に記念撮影を撮ったという。そしてギレルモ・デル・トロ監督「パシフィック・リム」の最後は「この映画をモンスター・マスター、レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ」という献辞が出てくる。

40年前はサブカルチャーB級子供騙しとしか見做されなかったアニメや怪獣映画が、いつの間にかカルチャーのど真ん中に立っていたのである。

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2017年4月11日 (火)

面白きことは良きことなり!/アニメーション映画「夜は短し歩けよ乙女」

僕は本屋大賞で第2位になり、山本周五郎賞を受賞した森見登美彦(奈良県生駒市出身、京都大学農学部卒)の小説「夜は短し歩けよ乙女」が大好きで、繰り返し愛読している。21世紀に書かれた日本の小説の金字塔ではないかとすら本気で想っている。同じ原作者の「四畳半神話大系」は2010年にテレビアニメ化され、大傑作だった。そのことは当ブログで語った。

上記事でも「夜は短し歩けよ乙女」アニメ映画化希望を切望したが、なんと湯浅政明(福岡県出身)監督、劇団「ヨーロッパ企画」の上田誠(京都府出身)脚色、イラストレーター中村佑介(兵庫県宝塚市出身)がキャラクター原案、大島ミチル(長崎県長崎市出身)作曲、主題歌を歌うのがASIAN KUNG-FU GENERATIONで、「四畳半神話大系」のスタッフ再集結という夢のような企画として実現した!

評価:A+ 公式サイトはこちら

上映時間93分と極めてコンパクト。疾走感があり、湯浅監督らしいシュールで誇張された表現が極めて愉しい。奇想とデフォルメされた幻想が錯綜する。摩訶不思議なワンダーランドをひととき満喫した。

「詭弁踊り」は文章として親しんできたが、映像化されたその奇っ怪な踊りにぶっ飛んだ!!あとゲリラ演劇「偏屈王」がミュージカル仕立てに変更されており最高。その音楽は「ラ・ラ・ランド」みたいに洗練されておらず、いかにも大学生が作曲しました的な素人っぽさがツボにはまった。クライマックスは湯浅監督の「マインド・ゲーム」並にキテる(イカれてる)。←褒め言葉です。

声優陣は先輩:星野源、黒髪の乙女:花澤香菜(新海誠「君の名は。」のユキちゃん先生/「3月のライオン」の川本ひなた)、学園祭事務局長:神谷浩史(「進撃の巨人」のリヴァイ)と超豪華。3人とも歌います。またミュージカル界から新妻聖子も参加している。

小説には偽電気ブランなるお酒が登場するが、それに刺激されて電気ブランを飲んだこと、

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また劇中で重要な役割を果たす絵本「ラ・タ・タ・タム」を購入し、息子に読み聞かせたことなどを映画を観ながら懐かしく想い出した。

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なお入場者特典として森見登美彦 書き下ろし掌編小説『夜は短し歩けよ乙女 銀幕篇』が公開1週目に「先輩」から「乙女」への手紙、公開2週目には「乙女」から「先輩」への手紙が配布されるという。

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東宝と原作者の森見登美彦に言いたい。「恥を知れ!しかるのち死ね!」……仕方ないから次週も映画館に足を運ぶわ。

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2017年3月14日 (火)

「モアナと伝説の海」あるいは、ディズニー・プリンセスの変遷

評価:A+

Moana

一旦ディズニーを解雇され、ピクサーの長編アニメーション第一作「トイ・ストーリー」を監督したジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーとしてディズニーに復帰後、取り組んできたことが2つある。1つ目は「ディズニーのピクサー化」であり、2つ目は「ディズニーの宮崎アニメ化」である。「ピクサー化」とはストーリー作りの段階から監督経験者全員を招集し、ラセターも加わって大人数でああでもない、こうでもないと議論しながら企画会議を繰り返して物語を練り上げていく合議制のことを指す。作品のクオリティは極めて高くなるが反面、作家性(個性)が失われたバディ・ムービーになりやすいという欠点もある。「ズートピア」がその典型例だろう。「シュガー・ラッシュ」なんかもそう。現在では殆ど、ディズニー映画なのか(子会社の)ピクサー映画なのか見分けがつかなくなってしまった。

ラセターが宮﨑駿に私淑していることはつとに有名だ。「千と千尋の神隠し」のアメリカ公開に尽力し、その様子は「ラセターさん、ありがとう」というドキュメンタリー作品となった。宮さんがアカデミー名誉賞を受賞した時ラセターはプレゼンターを務め、彼が初めて「ルパン三世 カリオストロの城」を観た時の感動を熱く語った。出不精の宮さんが重い腰を上げたのも、「僕がアメリカに行かないと、ラセターに怒られるから」という理由だった(「千と千尋」がアカデミー賞で長編アニメーション部門を征した際は渡米していない)。ラセターがディズニー復帰後、製作総指揮した「塔の上のラプンツェル」(2010)は完璧に「カリ城」へのオマージュであった。そもそもラプンツエルを塔の上から救い出すのは王子様の筈なのに、ディズニー版では3人組の泥棒さんなのである。まんまルパンじゃん!

そして【海に選ばれた】「モアナ」を観た時、瞬時に感じたのは彼女は風の谷のナウシカなのだということ。巨神兵や「天空の城ラピュタ」の飛行石が出てくるし、自然が蘇るクライマックスは「もののけ姫」だ(「ファンタジア2000」最終エピソード/ストラヴィンスキー「火鳥」にも似た描写がある)。モアナは雄々しく、ディズニー・アニメ史上最強のヒロインと言えるだろう。かっけー!

ディズニー長編アニメーションの第一作は言わずと知れた「白雪姫」(1937)である。彼女は"Someday My Prince Will Come."(いつか王子様が……)と夢見る、受動的な女の子であった。これは父性主義が強いキリスト教社会が生み出したお伽噺の特徴であり、女性はヒーロー(英雄)と結合することでしか幸せを掴むことができなかった(And they lived happily ever after)。「シンデレラ」(50)や「眠れる森の美女」(59)も同様。

変化が現れたのが「美女と野獣」(1991)のベルである。強い意志を持ち、自ら人生を切り開いてゆく。公開当時の批評を読めば判るが、笑っちゃうのはベルが本を読んでいるということだけで世間は衝撃を受けたのである。それまでディズニー・ヒロインの頭の中身は空っぽだと皆が思っていたわけだ。今からたった26年前の話である。「美女と野獣」はアニメーション史上初めてアカデミー作品賞にノミネートされた(当時は未だ長編アニメーション部門がなかった)。そして「アナと雪の女王」(2013)年の登場で世界中の女性達が熱狂し、「ありのままで(Let It Go)」生きようと夢見たが、その先には孤独地獄が待ち受けていた。

さて、「モアナ」の話に戻そう。基本ラインは宮崎アニメなのだが他にも様々な映画からの引用があり、てんこもりの出血大サービス、至れり尽くせりのエンターテイメントに仕上がっている。ココナッツ海賊カカモラが登場する場面は明らかに「マッドマックス 怒りのデスロード」だし、宮﨑駿がアイディア構成・原画で参加している東映動画「どうぶつ宝島」(1971)の要素も入っている。吹き矢とかモアナが閉じ込められた洞窟から巨大な銅像を倒して脱出する場面は「レイダーズ 失われた聖櫃(アーク)」だし、海の表現はジェームズ・キャメロンの「アビス」、映画の終盤に半神マウイがモアナの元を去り……という件(くだり)は「スター・ウォーズ エピソード4」のハン・ソロの行動パターンと同じ。

フィジー、タヒチなど南太平洋の神話がベースになっているので日本人にも親しみやすい。つまり多神教の話なんだね。最後に登場するのは全能の女神ティフィティで、これもイエスやその父なる神など男ばかりのキリスト教とは全く違う。日本同様母性が主体なんだ。

人類に火をもたらすマウイはギリシャ神話(←こちらも多神教)におけるプロメテウスである。つまりトリックスターだ(トリックスターとは神話や伝説などで語られるいたずら者。その思いがけない働きによって旧秩序が破壊され、新しい創造が生じるきっかけとなることがある。しかし単なる破壊者として終わることもある)。日本神話(古事記)で言えば須佐之男(スサノオ)が近い。マウイが半神なのも神と人間の間を行き来する存在だからだね。

監督は「リトル・マーメイド」「アラジン」のロン・クレメンツとジョン・マスカー。ディズニーは低迷していた時期に手描きアニメーションを捨て、全てをCGアニメーションに切り替える方針を打ち立てた。それに反発したふたりは2004年に揃って退社した。しかし2006年にジョン・ラセターがチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任すると彼らも復帰し、手描き(セル画)による「プリンセスと魔法のキス」(09)を監督した。今回素晴らしいと感じたのはCGが主体でありながら、マウイの入れ墨が動いたり神話の箇所は手描きの手法を取り入れていること。つまり3Dと2Dのハイブリッドが見事に成し遂げられているのである。

作曲はブロードウェイ・ミュージカル「ハミルトン」でトニー賞を席巻したリン=マニュエル・ミランダ。もう文句なしに魅力的な楽曲である。

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2017年2月 7日 (火)

ゲイは「美女と野獣」がお好き?

つい先日、BSジャパンで放送中の指揮者の藤岡幸夫がナビゲーターを務める音楽番組「エンター・ザ・ミュージック」(公式サイトはこちら)を観ていたら、モーリス・ラヴェルがマザー・グースを題材にして作曲した「マ・メール・ロワ」組曲が取り上げられていた。「マ・メール・ロワ」の第4曲は”美女と野獣の対話”である。これを聴きながら、ゲイって「美女と野獣」が好きなのかな?とぼんやり考えていた。

とそこで、物凄い事実に気が付いた!

「美女と野獣」は元々、フランスのヴィルヌーヴ夫人が1740年に書いたお伽噺である。現在よく知られるのは1756年に出版された、ボーモン夫人による短縮版である。

1946年、小説「恐るべき子供たち」の著者であり詩人としても名高いジャン・コクトー監督がこれを映画化した。キネマ旬報ベストテンで第6位に入るなど、公開当時から現在に至るまで高い評価を得ている。コクトーがゲイだったっことは公然の秘密であり、映画で野獣/王子を演じたジャン・マレーはコクトーの長年の愛人だった。

Bijo

1991年にディズニーは「美女と野獣」をミュージカル・アニメーションとして映画化。アニメ映画史上初めてアカデミー作品賞にノミネートされるという快挙を成し遂げた(当時は長編アニメーション映画部門がなかった)。その製作総指揮及び作詞を担当したのがハワード・アッシュマンである。しかし彼はAIDSを患い、「美女と野獣」がアカデミー賞で作曲賞(アラン・メンケン)と歌曲賞を受賞したときには既に故人だった。享年40歳。授賞式ではアッシュマンのパートナー(勿論男性)がオスカー像を受取り、スピーチをした(その時の動画はこちら)。アニメ版のエンド・クレジットには次のような追悼メッセージが刻印されている。

To our friend, Howard,
Who gave a mermaid her voice,
and a beast his soul.
We will be forever grateful.

 Howard Ashman
 1950-1991

ぼくらの友、ハワードに捧ぐ
君は人魚に声を与え(「リトル・マーメイド」のこと)
野獣に魂を授けてくれた
僕らは君への感謝の気持ちを永遠に忘れない

2017年、ディズニーはアッシュマン&メンケンの楽曲をそのまま用いて「美女と野獣」を実写映画化した。日本では4月21日に公開予定。公式サイトはこちら。美女を演じるのは「ハリー・ポッター」シリーズのハーマイオニーこと、エマ・ワトソン。監督を務めたビル・コンドン(映画「シカゴ」の脚色、「ドリームガールズ」脚色・監督)はゲイであることを公にしている。

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また2017年版でガストンを演じるルーク・エヴァンズは俳優としてキャリアを始めた早い段階からゲイをカミングアウトしている。インタビューの中で彼は「みな僕がゲイであることを知っているし、それを隠そうと思ったことはない。カミングアウトしていることで俳優としての人生に支障が出たことはない」と述べている。

しかし一方で、こういう意見もある。ビル・コンドンが監督した「ゴッド・アンド・モンスター」で主演したイアン・マッケランは「ロード・オブ・ザ・リング」のガンダルフとしても有名だが、彼もゲイをカミングアウトしている。2年連続でアカデミー賞に白人俳優ばかりノミネートされ多様性の欠如が非難された2016年、マッケランは「ゲイを公表している男優もオスカーを獲得したことがない。偏見なのか、偶然なのか」とガーディアン紙に語っている。実際に彼は「ゴッド・アンド・モンスター」でアカデミー主演男優賞に、「ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間」で助演男優賞にノミネートされたが、何れも受賞を逃している。そしてマッケランは2017年実写版「美女と野獣」でコグスワースを演じている。

こうやって眺めていくと、やはり「美女と野獣」という物語にはゲイの琴線に触れ、惹きつける、何かとても大切なものがあることは間違いない。ストレートの僕にはそれが何なのか未だよく判らないのだけれど。

さぁ貴方も映画を観て、思索の旅(The Journey of Meditation)に出てみませんか?

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2017年2月 2日 (木)

「君の名は。」英語主題歌版(台詞は英語字幕付き)体験記

新海誠監督「君の名は。(Your Name.)」が4月7日より全米とカナダの劇場にて200スクリーン以上の規模で上映されることが決まった(配給はFunimation Films)。それに伴いRAWPIMPSの野田洋次郎くんが新たに英語詞を書き下ろした歌バージョンの上映をミント神戸で観てきた。因みに兵庫県ではここ1館でしか上映されていない(東宝の映画なのに、何でTOHOシネマズでやってくれない??)。台詞は日本語で英語字幕付き。予習としてEnglish ver.をiTunesからダウンロードし、歌詞とにらめっこしながら繰り返し聴いて頭に叩き込んだ。野田くんは幼稚園のときにアメリカのナッシュビルに引っ越し、ロサンゼルスの小学校などを転々としながら10歳で帰国したという。だから当然英語は自家薬籠中の物で、英語詞も実にこなれている。オリジナルはこっちじゃないか?というくらいの完成度の高さ。

6回目の鑑賞である。因みに僕が一番たくさん映画館で観た作品は高校生の時に封切られた「E.T.」の7回(@テアトル岡山、2003年11月3日に閉館)。ただし最初は試写会で観たし(同級生から招待ハガキを100円で買い取った)、シネコンが登場するより前の時代なので、当時は入れ替え制/指定席ではなく、連続して2回観ることも可能だったのである。「君の名は。」はちゃんと6回お金を払いました。

僕の前に座った女性は50歳位の母親を同伴していた。「私は2回目だから、お母さんは真ん中に座りなよ」と話していたので母親の方は初回と思われる。こんな特殊な上映が最初で大丈夫か?と訝った。また一席空いて僕の左隣には中年夫婦が座っていた。上映が始まり、映画冒頭で三葉がスマホにセットしたアラームが鳴る。突如隣のオバちゃんが「あれ、誰かの携帯が鳴っとる!私のかしら?」と慌ててカバンをゴソゴソし始めた。この人も初心者か!心底びっくりした。

初公開から既に5ヶ月以上が経過した。それでも「君の名は。」は未だ映画館に一度も足を運んだことのない潜在的な観客を掘り起こし続けている。これは凄いことだ。

英語の歌詞は日本語と比較して情報量が多いので、新たな発見もあった。例えば冒頭の「夢灯籠」である。

あぁ 雨の止むまさにその切れ間と 虹の出発点 終点と
この命果てる場所に何かがあるって いつも言い張っていた

この「言い張っていた」の主語は「君」だとずっと信じていた。ところが英語版は

And where the end of this light flies, I've always been insisting there was something that I've been longing for

となっており、「僕」だったんだ!とびっくりした。また「前前前世」の歌詞「何光年」が英語では"millions of light-years"(何万光年)に変更されているのも、スケールアップしていて可笑しい。

他にも色々と英語の勉強になった。具体例を幾つかあげよう。

  • 「夢灯籠」unprecedented:前例のない
  • 「前前前世」eyes glow:目が光る、waver:たじろぐ
    unfettered:束縛されない、自由な
    come up with a verse:歌詞を思い付く、ひねり出す
  • 「スパークル」tame:飼いならす、hourglass:砂時計
    skim through:飛ばし読みをする、ざっと目を通す
    doze off:うたた寝をする、lukewarm:なまぬるい
    mildew:白カビが生える
    second,hour hands of the clock:時計の秒針、時(短)針
    every word stacked:山のように積み重ねられた言葉
  • 「なんでもないや」gust of wind:一陣の風
    make it here:ここに到着する、come short:もの足りない
    glee:(サンタクロースが)ほくそ笑む
    ⇔「スパークル」の「君」にはgrin(歯を見せて笑う)という動詞が
    当てられている。
    showy crier:派手に泣く人

Zenzenzense だけ日本語のままというのが興味深い。相応しい英単語が見つからなかったのかな?

また「前前前世」で、

君の髪や瞳だけで胸が痛いよ
同じ時を吸いこんで離したくないよ

この箇所で英語版はリズムを変えている(三連符の一部で音を刻まずに伸ばす)。しかし2番の歌詞では日本語版と同じく全て刻んで歌っている。

さて、英語字幕では日米(英)の文化差が浮き彫りにされて面白い。例えば四葉は三葉のことを「おねぇちゃん」と呼ぶが、字幕では"MItsuha"。瀧は奥寺先輩に"Ms. Okudera"と呼びかける。該当する言葉がないんだね。

瀧に憑依した三葉が高校で初めて司と会う場面の会話、

「……ツカサ、くん?」「はは、くん付け?」

のくだりは字幕で完全無視。こういうニュアンスも英語では醸し出し難いのだろう。

あとハッとしたのが「隠り世(かくりよ)/あの世」が英語では"Underworld"となっていたこと。そうか、キリスト教の"Heaven"でも"Hell"でもないんだ。"Underworld"はギリシャ神話に登場する黄泉の国に該当する。つまりこれを訳した人はオルフェウスとエウリディケの物語が念頭にあるんだね。それは日本のイザナギ、イザナミに繋がっている。

以下余談。彗星の軌道問題(2回目のニュースから物理学的に作画が間違っている)は未だ修正されていなかった。

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2017年1月14日 (土)

「君の名は。」IMAX(次世代レーザー)体験記

新海誠監督「君の名は。」が2週間限定でIMAX上映されることになり、その初日に109シネマズ大阪エキスポシティに観に行った。

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予告編で「ラ・ラ・ランド」が流れた。日本でもIMAXシアターで上映するんだ!ときめいた。

横幅26m、高さ18mという巨大スクリーンに4Kで映し出される「君の名は。」の映像は、とにかく没入感がヤバかった!特に圧倒されたのはユキちゃん先生(花澤香菜)が古文の授業で万葉集を教える場面。チョークを黒板に押し当てた時に粉が飛び散るのが鮮明に見えたのだ。びっくりした。

12.1chサラウンドの音響も極上。今まで聞こえなかった効果音(虫の声 etc.)もバッチリ。

ただちょっと残念だったのは今回のIMAX版で彗星の軌道の作画ミス(2回目のニュース映像から)が修正されているかも?と期待したのだが、そのままだった。以前プロデューサーの古澤佳寛さんにツイッターで質問したら、修正予定ですとご返事を頂いたのだが、DVD/Blu-ray発売時などまだ先の話みたい。

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2016年12月28日 (水)

2016年を振り返って

2016年を回顧して、僕が今年を1文字の漢字で表すなら「」以外にないなと想う。

これは「将来の夢」とか、キング牧師の有名な演説"I have a dream"の夢(=希望・願望)ではなく、文字通り夜見るのことである。

何と言っても臨床心理学(ユング派)の権威・河合隼雄と、新海誠監督「君の名は。」の出会いが大きかった。この両者を結びつけるのがであり、言い換えるなら無意識潜在意識/深層心理ということになるだろう。

そもそも河合隼雄の名を知った切っ掛けが今年7月、佐渡裕プロデュースで兵庫県立芸術文化センターで上演されたブリテンのオペラ「夏の夜の」の予習として読んだ対談本「快読シェイクスピア」(ちくま文庫)だった。詳しくは下記事に書いた。

漸く人生の師MasterMentorに出会った!という確かな手応え。それから河合の著書を貪るように読んだ。年末までに27冊。過去にこれだけ集中して読んだのは、ちょっと記憶にない。

河合と「君の名は。」の”結び”はだけではない。新海誠監督は第2弾パンフレットの中で僕の質問に答え、村上春樹の短編小説「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」が「君の名は。」の発想の原点となったことを認めており、奥寺先輩の台詞には村上の「ノルウェイの森」からの引用がある。そして河合は数回に渡り村上と対談をしているのである(「こころの声を聴くー河合隼雄対話集」「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」いずれも新潮文庫)。

また河合はイザナギ・イザナミが登場する日本神話(古事記)や平安時代の「とりかへばや物語」について本を書いており、これらは「君の名は。」の土台となっている。

僕が同時期に河合隼雄と「君の名は。」にめぐり逢ったのも、正にユングが言うところのシンクロニシティ意味のある偶然の一致)なのであろう。

つい先日「君の名は。」について川村元気プロデューサーが集合的無意識の話をしている→こちら集合的無意識とはユング心理学の用語である。みんな繋がっている。僕も映画公開直後、9月の時点で集合的無意識という観点から「君の名は。」を論じた。

夢はその人の潜在意識の現れである。意識(その中心に自我+潜在意識=自己(self)。僕は今年から「夢日記」を書き始めた。2016年は人生の大きな転機となった。

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2016年12月13日 (火)

「君の名は。」劇場用パンフレット第2弾登場!〜新海監督が質問に答えてくださいました。

「君の名は。」空前の大ヒットを受け、東宝はパンフレットの第2弾を12月9日(金)から劇場で販売開始した。

映画上映期間中にパンフレット第2弾が発売されるというのは異例の事態であり、ボリュームたっぷりで読み応えあり。特に新海誠監督の講演を採録した章と、公式サイトから募集した観客からの質問(総計2000件以上あったという)に監督が答える7ページは圧巻。内容が深く濃く、初めて明かされる事実が満載されている。

そしてな、な、なんと僕の質問も採用されていた!村上春樹の短編小説「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」(講談社文庫「カンガルー日和」に収録)と「君の名は。」の関連について。監督からの回答はパンフレットをご購入の上、ご確認ください。

なお、ブログではこちらの記事でその件について触れている。

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2016年12月 4日 (日)

「君の名は。」はどうしてこれだけヒットしたのか?〜様々な説を検証する。

「君の名は。」の興行収入は遂に「もののけ姫」(192億円)「ハウルの動く城」(196億円)を超え、200億円に達そうとしている。「ハリー・ポッターと賢者の石」(203億円)も目の前だ。

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1997年10月末、「もののけ姫」が興行収入のそれまでの最高記録だった「E.T.」(163.5億円)を抜かした時、製作総指揮をした当時の徳間書店社長(徳間康快氏)がこう豪語したことを懐かしく想い出す。

「米映画を完全に負かしたと言うこと。野球で言えば10対1。米に勝ったのは真珠湾以来ということです。『E.T.』は3年がかりの記録だったが、我々は最短距離で達成した。21世紀、22世紀が来ても抜かれることのない大きな数字だろう。」

しかしその翌年、「タイタニック」にあっさり追い抜かれることになる(最終272億円)。

「君の名は。」の空前のヒットは誰も予想出来なかった。新海監督の前作「言の葉の庭」の興行収入が1.5億円(1.3億という説もあり)だったので、川村元気プロデューサーや東宝宣伝部はその10倍の15億円、できれば20億円にまで達したら万々歳だと考えていたと証言している。

これまで様々な人達がヒットの理由を解析してきた。しかしどの理由もこの現象を説明し切れていない。真相は誰にも判りそうにない。結局一つだけの要因ではなく、多数のfactorが複合的に作用してその相乗効果で大爆発を起こしたというのが正解なのだろう。

1)SNS(social networking service)、口コミでの拡散

やはりこれは大きい。1週目よりも2週目のほうが動員数が伸びたという事実がそれを証明している。twitterなどSNS時代でなかったら、全く一般に名前を知られていない監督が創った(原作のない)オリジナル脚本のアニメーションが前作の100倍以上のヒットになる筈がない。「シン・ゴジラ」との兼ね合いもあり、公開日が8月26日だったというのも有利に働いた側面があるかもしれない。夏休みが終わり学校が始まって、そこで一気に話題が沸騰した。他にSNS拡散効果が目覚ましかった作品として、「この世界の片隅に」がある。初週は週末興行成績10位だったのだが、その後右肩上がりで3週目にはスクリーン数も14増えて6位に急浮上した(4週目は4位)。新時代を迎えて映画宣伝部も戦略の見直しを迫られている。

2)RADWIMPSのうた

ディズニー/ピクサーのアニメで最大のヒット作が「アナと雪の女王」(259.2億円)で、次に来るのが「ファインディング・ニモ」の110億円と「トイ・ストーリー3」の108億円である。「アナ雪」と「ニモ」には2倍以上の大きな差がある。これはやはりアカデミー歌曲賞を受賞した「Let It Go(ありのままで)」の力が大きいだろう。様々な人々が歌い、You Yubeにupされた。同様の現象がRADWIMPSの「前前前世」にも起こっている。両者は紅白歌合戦でも歌われることになった。「君の名は。」の劇中に4回RADWIMPSのうたが流れるが、各々が感情のピークに達するように映画を設計したと新海監督は語っている。NHK「クローズアップ現代」で取り上げられたSNSマーケティングの解析でも、「君の名は。」に関する話題で「RADWIMPS」というキーワードが半数以上を占めた(具体的データはこちら)。考えてみれば「タイタニック」もセリーヌ・ディオンが歌いアカデミー歌曲賞を受賞した"My Hart Will Go On"が大ヒットしたし、「千と千尋の神隠し」(304億円)では木村弓の「いつも何度でも」が流行った。

3)ムスビ

NHK「クローズアップ現代」”想定外!?「君の名は」メガヒットの謎”が中高年者を対象に独自の試写会を開き導き出した結論は、三葉のオバァちゃん(一葉)が語る「結び(組紐)」が人々の心を鷲掴みにしたということになった。これについて新海誠監督は次のようにtweetしている。

「運命の赤い糸」という言葉がある。「この世界のどこかに自分と出会うことを待っている異性がいる」という予感のようなものを心に抱いて生きている人々は多いのだろう。イギリスBBCラジオで映画評論家のMark Kermodeは「君の名は。」をシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」に喩えた→こちらに動画あり。考えてみれば映画「タイタニック」も「ロミオとジュリエット」同様に”運命的な男女の出会い”を描いている。これが全てとは思わないが、ヒットの一因であることは確かだろう。「タイタニック」がパニック映画のセオリー通り「グランド・ホテル形式」で撮られていたら、これほどの大当たりにならなかったかも知れない。ただ新海監督自身は川村元気プロデューサーとの対談で「僕は”運命の人”なんか信じていない。出会いは単なる偶然の積み重ねに過ぎない。現在の自分があるのは数々の選択をしてきた結果」だと語っている。つまり「運命の赤い糸」「ムスビ」で観客が感動しているのは作者の意図から離れた現象であり、「好意的誤解」とも言えるだろう。

4)東日本大震災の記憶

「シン・ゴジラ」と「君の名は。」は2011.3.11.の記憶と密接に結びついている。「あの日を境に世界の様相は変わってしまった。あの日以前に戻りたい。あの場所にもし自分がいたら、何か出来たのではないか?」という人々の想い、願いが本作に集約されており、共感を得られたのかも知れない。

5)日本人の潜在意識への働きかけ

上記事に書いたように「君の名は。」は平安時代に書かれた作者不詳の「とりかへばや物語」や古今和歌集、イザナギ・イザナミ・ミヅハノメといった日本神話に密接にリンクしている。それが日本人の潜在意識(無意識)の領域に届いた、琴線に触れたということも無視できないのではないだろうか?「千と千尋の神隠し」にも龍や八百万の神が登場する。また逆に、海外での大ヒットは日本独特の文化がエキゾチック・神秘的に映るのだろう。宮崎アニメでも「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「魔女の宅急便」など外国を舞台にした作品よりも、「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋」など日本が舞台の作品の方があちらでは評価が高い(米TIME誌が選ぶランキングはこちら)。

他にNHK「クローズアップ現代」では【風景描写の美しさ】【スピード感】もヒットの一因として取り上げられていたが、【風景描写の美しさ】は新海監督の「秒速5センチメートル」や「言の葉の庭」にも当てはまることだし、「千と千尋」や「アナと雪の女王」「タイタニック」に【スピード感】を感じるか?と問われたら、首を傾げざるを得ない。だから決定的事項とは言えないと想う。

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