旅への誘ひ

2023年11月22日 (水)

キリル・ペトレンコ/ベルリン・フィル in 姫路

11月18日(土)兵庫県 姫路市へ。世界遺産・姫路城は美しかった。

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ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演を〈アクリエひめじ〉で聴いた。同団史上初の姫路公演だそうだ。

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S席43,000円 。清水の舞台から飛び降りる気持ちで高額チケットを購入した。因みに昨年のロンドン交響楽団はSS席23,000円。

 ・ サイモン・ラトル/ロンドン交響楽団@フェニーチェ堺(+世界のオーケストラ・ランキングについて) 2022.10.11

一番安いE席1,8000円を買えばいいじゃないかという意見もあるだろうが、やはり最高のオーケストラは最高の音響で体験したい。天井桟敷の貧相な音で聴くくらいなら、我が家のドルビーアトモス対応4Kテレビ(SONY BRAVIA)でデジタル・コンサートホールを視聴する方がマシだ。

4年ぶりの来日である。実は東京オリンピックが開催される予定だった2020年6月にプレイベントとして指揮者のグスターヴォ・ドゥダメルと共に日本で早坂文雄の映画『羅生門』の音楽や、ジョン・ウィリアムズがアトランタ・オリンピック開会式のために作曲した『サモン・ザ・ヒーロー』、ベートーヴェンの第九などを披露する予定だったが、新型コロナウィルス感染症拡大により開催中止、オリンピック自体も1年延期になった(予定されていた催しの概要はこちら)。

現在の首席指揮者キリル・ペトレンコの就任について8年前に次のような記事を上げた。

 ・ ベルリン・フィルの危険な賭け 2015.06.23

サイモン・ラトルの後任を決める団員の総会が大いに揉めたことや、ベルリン・フィルはキリル・ペトレンコと3回しか共演していないのに彼が首席指揮者に決まったことに対する僕の驚きと不安を書いている。しかし後にデジタル・コンサートホールで数々の名演に接し、そんな事は杞憂に過ぎなかったことが良く分かった。

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー、エフゲニー・ムラヴィンスキー、エフゲニー・スヴェトラーノフ、ヴァレリー・ゲルギエフなどを例に上げるまでもなく、ロシアの指揮者でモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、マーラーなどウィーン古典派やドイツ音楽を得意とする人は皆無に等しい。しかしロシア・オムスク出身のキリル(ヴァシリー・ペトレンコという指揮者もいるので以下こう呼称する)は例外だった。

キリルの指揮ぶりが誰に一番近いかといえば、天才カルロス・クライバーだろう(僕は中学生の時にミラノスカラ座引っ越し来日公演オペラ『ラ・ボエーム』で彼の実演を聴いた@建て替え前の旧フェスティバルホール)。速めのテンポ設定、畳み掛けるようなキレッキレのリズムがカルロスを彷彿とさせる。カルロスとの大きな違いはキリルのレパートリーの広さにある。特にオペラ指揮者として傑出しており、エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの『死の都』とかR.シュトラウスの『影のない女』、チャイコフスキーの『スペードの女王』など、いずれも息を呑む素晴らしさだった。あとオーケストラ曲ではベルリン・フィルのシェフに決まる前から他オケとセッション録音していたチェコの作曲家ヨゼフ・スーク(交響詩『夏物語』/交響曲第2番『アスラエル』など)へのこだわりはユニークだし、僕が2014年に書いた記事「厳選 交響曲の名曲ベスト30はこれだ!」の中で第1位と第30位に選出したフランツ・シュミット/交響曲第4番とコルンゴルト/交響曲 嬰ヘ調をベルリン・フィル定期演奏会で取り上げてくれた時には狂喜乱舞した!歴代のシェフ;フルトヴェングラー、カラヤン、アバド、ラトルらはこれらの楽曲を一度も指揮したことがない。キリルは〈本物の音楽〉を知っている。レナード・バーンスタイン/シンフォニック・ダンス(『ウエストサイド物語』より)を得意としているのも好感が持てる。

さて今回の曲目は、

 ・ モーツァルト:交響曲第29 番 イ長調 K.201  
 ・ ベルク:オーケストラのための3 つの小品 
 ・ ブラームス:交響曲第4 番 ホ短調 Op.98  

実はこのプログラム、11月3日ベルリンでの定期演奏会と同一で、既にデジタル・コンサートホールで繰り返し視聴していた。

第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが指揮台を挟んで向かい合う対向配置。2023年2月にこのオケ史上初の女性コンサートマスターとなったヴィネタ・サレイカ=フォルクナー(以前はアルテミス弦楽四重奏団のメンバーだった)が姫路の演奏会はトップを務め、その隣(ステージ奥)に樫本大進。ベルリンでの演奏はヴィネタの隣がノア・ベンディックス=バルグリー(第1コンサートマスター)で、樫本は出演していなかったが、リハーサルに参加していた。

ホルン首席のシュテファン・ドールはベルリンの演奏会に出演せず、客演奏者(アジア系?の女性)の音が力強さに欠け、物足りなかったのだが、姫路公演ではドールが登場し圧巻のパフォーマンスを披露した。

アルバン・ベルクはキリルにとって非常に重要な作曲家であり、2019年8月首席指揮者就任演奏会でもベートーヴェンの第九と共に、ベルクの歌劇《ルル》組曲を演奏している。

「オーケストラのための3つの小品」は1923年に初演された。デジタル・コンサートホールのインタビューでキリルが曲目解説している内容がとても面白い。第1楽章〈前奏曲〉はドビュッシー風に開始され、ヴァイオリンによる最初のモティーフ(動機)はマーラーの交響曲第9番と密接に結びついていると。ベルクは恩師であるシェーンベルクと敬愛するマーラーに対してアンビバレントな(相反する)感情を抱いていた。第2楽章〈輪舞〉は前半のワルツと、ヴァイオリン・ソロが登場する後半から緩徐楽章の役割を果たし、2部構成になっている。第3楽章〈行進曲〉を作曲家は「喘息発作」に喩えていて、この表現が作品理解に役立つ。第一次世界大戦の雰囲気が色濃く、マーラーの交響曲第6番からの影響も伺われる。マーラーは最終楽章で全てを打ち砕く3回目のハンマー打撃(第1稿)を躊躇し、第2稿で削除したが、ベルクはその決定打を打ち下ろし、Annihilation(アナイアレイション:壊滅・絶滅)に至る。

ちなみに1908年にベルクは喘息を発病、この時の年齢「23」を自己の運命の数と決め、『抒情組曲』など以後の作品の構成を彩ることになる。また1914年に第一次世界大戦が勃発し、その翌年から彼は兵役に服している。

現在ベルリン・フィルに所属する日本人は第1コンサートマスターの樫本大進、 第1ヴァイオリン町田琴和、第2ヴァイオリン首席マレーネ・イトウ(伊藤真麗音) 、首席ヴィオラ清水直子がいる。また他にアジア人としては初の中国人団員である第1首席ヴィオラ奏者の梅第揚(Mei Diyang=メイ・ディヤン) と初の韓国人団員であるヴィオラのパク・キョンミン (Kyoungmin Park)がいる。さらに2023年11月3日に首席ホルン奏者として中国出身の曽韵(Yun Zeng=ユン・ゼン) を迎えるとアナウンスされた。アジア人として初めての管楽器奏者である。こうして見ると「弦の国」と呼ばれる日本の音楽家はやはり弦楽器が得意。しかし高音パートに限られ低音パートのチェロやコントラバスなどの名手が少なく、管楽器も不得手ということが良く分かる。バッハ・コレギウム・ジャパンやサイトウ・キネン・オーケストラでも弦楽器はほとんど日本人なのだけれど、管楽器は外国人奏者の方が多い。日本でアマチュア吹奏楽は世界一と言って良いくらい盛んなのだが、これは民族的な才能(骨格の特徴など)の限界なのかも。

 ・ 民族と楽器 2007.10.08

声楽に於いても日本人は頑張っているのだが、一流のオペラ歌手(特にバリトン・バスなど低音部)を輩出することが叶わない。むしろ中国人や韓国人の方が名だたるオペラハウスに沢山出ている。閑話休題。

〈アクリエひめじ〉は2021年9月に誕生。なかなか音響が良かった。ただ残響の長さはザ・シンフォニーホルやフェニーチェ堺の方が一枚上手かな。ここで僕が考える関西の音楽ホール・ランキングを示そう(青山音楽記念館バロックザールなど、室内楽向き小ホールは除く)。

 ・S 級:ザ・シンフォニーホル(大阪市)/フェニーチェ堺(堺市)/いずみホール(大阪市)
 ・A 級:アクリエひめじ(姫路市)
 ・B 級:兵庫県立芸術文化センター(西宮市)/フェスティバルホール(大阪市)
 ・C 級:神戸国際会館 こくさいホール(神戸市)/浪切ホール(岸和田市)
 ・D 級:神戸文化ホール(神戸市)→老朽化のため2027年度以降、三宮に新・神戸文化ホールとして移転予定 
 ・F(不可):京都コンサートホール(京都市)

コンサートの後はせっかく姫路に来たのだからと、名店「十七八(となはち)」のおでんに舌鼓を打った。

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17時開店と同時にカウンターのみ12席が埋まった。熱燗1本+おでん10個ほど注文して、3千円出してお釣りが来たのには驚いた。安い!美味い!

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2019年8月26日 (月)

「シシ神の森」屋久島旅行記

8月3日(土)から7日(水)まで4泊5日で鹿児島県・屋久島に旅をした。

初めて屋久島を訪れたのは1997年夏。映画「もののけ姫」が公開された年である。宮崎駿監督とスタッフがロケハン時に泊まった民宿「水明荘」に僕も宿をとった。監督の色紙が飾られていた。往復8時間かけて縄文杉まで歩いたのだが、その時の旅の記録はここに書き記した。「スタジオジブリ」HPにも掲載された。あと帰りの屋久島空港の待合で、たまたま僕の隣に立川談志が座っていたのも懐かしい思い出だ。その時僕は談志の落語を聴いたことがなかったので話しかけたりしなかったが、付き人に対して何かブツブツ小言を並べていた。

今回宿泊したのはJRホテル屋久島。とろみのある天然温泉が極上だった。和歌山県の龍神温泉、愛媛県今治市にある鈍川温泉など、「美人の湯」と呼ばれる温泉は数あれど、僕が入った中では屋久島の泉質が最高だった。

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上の写真はホテルの展望風呂付き客室からの眺め。絶景のオーシャン・ビューである。食事も美味しかった!

それにしても可笑しいのは、屋久島には鉄道が走っていないんだよね。何故JRホテルがここに??

到着初日は空港近くでレンタカーを借りてヤクスギランドと、その近くにある紀元杉へ。

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屋久杉は何本もの太い縄を寄せ集め、束ねたような印象で、どこか注連縄(しめなわ)を想起させる。

「屋久島はひと月に35日雨が降る」と表現したのは林芙美子の小説「浮雲」である。成瀬巳喜男監督の映画版も日本映画史に燦然と輝く傑作だ。空港では晴れていたのに山中のヤクスギランドに着く頃は土砂降り。また海岸線に車で降りてくると道路はカラッと乾いていた。

旅の2日目は丸一日、ガイドを雇い沢登りを愉しんだ。屋久島の川の水はとてもきれいで、鮎も泳いでいる。ヘルメット、プロテクター、ライフジャケットを身に着けて、小学校2年生の息子は何度も高い岩の上から川に飛び込んでいた。その光景を見ながら映画「明日に向って撃て!」とか「ヤング・ゼネレーション」「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」の一場面を想い出した。

お昼はガイドの人が森の中でパエリアを料理してくれた。有頭海老やムール貝の入った本格的なもの。今まで食べたパエリアの中で一番の味だった。でも同時に飲んだインスタントの味噌汁も美味しかったので、シチュエーションの効果も大きいのだろう。

3日目、白谷雲水峡を歩く。

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今にも森の妖精〈こだま〉が出てきそうな「苔むす森」。

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ちなみに〈こだま〉は漢字で〈木霊〉と書き、樹木に宿る精霊のことである。「もののけ姫」が大好きな人はここと、縄文杉を併せて訪れたい。

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二股の「くぐり杉」である。

大川(おおこ)の滝は「日本の滝 百選」にも選ばれている。

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実にダイナミック。すぐ近くまで行けて、水飛沫を全身に浴びた。

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最終日は千尋(せんぴろ)の滝を訪れた。

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左側にある巨大な花崗岩 の岩盤が壮観である。

そしてトローキの滝へ。海に直接水が落ちる海岸瀑である。

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屋久島は山・川・海と大自然を満喫出来る。あと昨年の沖縄・宮古島でも感じたのだが、関西より断然涼しい。ガイドの人も「屋久島は避暑地です」と断言していた。日本の夏は南の島に限る!

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2019年4月17日 (水)

平成最後の吉野の桜

4月13日(土)奈良県の吉野山を訪ねた。十数年前に関西に引っ越してきてから毎年春に吉野に行くことが我が家の恒例となっているが、昨年は日程が合わず二年ぶりの再会となった。見事に満開であった。

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桜といえばまず現代人はソメイヨシノ(染井吉野)を思い浮かべるが、あれは江戸時代に園芸用に品種改良されたクローン植物であり、吉野とも一切関係がない(お江戸の植木屋が憧れからつけた名称である)。和歌に登場する「桜」は山桜を指す。

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「古今和歌集」から桜が詠まれた歌を紹介しよう。

桜花咲きにけらしなあしひきの山のかいより見ゆる白雲  貫之
(桜がどうやら咲いたらしいよ。山の谷間から見える白雲は)

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み吉野の山べにさける桜花雪かとのみぞあやまたれける  友則
(吉野の山辺に咲く桜は雪ではないかとつい見違えてしまった)

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ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ  友則
(陽の光がおだやかな春の日に、どうして花はあわただしく散るのだろう)

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吉野を愛した西行の歌に、

願わくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月の頃
(願うことなら、旧暦2月15日-満月の頃、満開の桜の下で死のう)

とある。旧暦2月15日は釈迦入滅の日で、現在の4月初旬頃と考えられる。

武士を捨てた西行は法師となり、吉野の奥千本に今もある西行庵で3年間侘び住まいをしたと伝わる。

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西行にはまた、次のような歌もある。

吉野山昨年(こぞ)の枝折(しをり)の道かへてまだ見ぬ方の花をたづねむ

しをり:木の枝を折って道しるべとすること。

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さらに、

世の中を思へばなべて散る花のわが身をさてもいづちかもせむ
(この世の中について考えると、全ては散る花のように無常で儚い。ならばさて、我が身を一体どこへ向かわせたらよいものか)

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吉野の桜は見る人それぞれに死生観に立ち返らせ、物思いに耽らせる。そんな春の日の、穏やかなひとときであった。

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2019年3月30日 (土)

小豆島へ

3月22日(金)から25日(月)にかけて淡路島、小豆島、香川県を旅した。

香川では勿論、うどん巡り。最近のお気に入りは「釜あげうどん 長田in香の香」@善通寺市。以前釜あげうどんといえば〈東のわら家、西の長田〉と称される時代があったが(麺通団の書「恐るべきさぬきうどん」全盛期)、今や「香の香」こそが〈釜あげうどんの王者〉であることは論を俟たない。そのやや濃いめの塩味に中毒性がある。あと今回初めて行った「うどん 一福(いっぷく)」@高松市も細麺で旨かったなぁ!土曜日だったが、14時には麺がなくなり営業終了となった。

小豆島のお昼は井上誠耕園直営の カフェレストラン「忠左衛門」でいただいた。下の写真は「忠左衛門」からの眺め。

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オリーブ牛のハンバーグ、パエリア、蒸し牡蠣などが美味しかった。オリーブの風味が絶品で、パンを浸しても、サラダにかけても旨味を増す。

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小豆島の日の出である。

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朝はオリーブ公園へ。

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ここは実写版「魔女の宅急便」(2014年、清水崇監督)ロケ地で、ギリシャ風車がある。

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また〈グーチョキパン屋〉のロケセットが移築され、「雑貨 コリコ」に。

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下写真のような奇妙なオブジェも。

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オリーブ公園から渡し船で二十四の瞳映画村へ。

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小豆島といえば壺井栄原作・木下恵介監督の映画「二十四の瞳」(高峰秀子主演)と、角田光代原作・成島出監督「八日目の蝉」(永作博美・井上真央主演)がなんと言っても有名。そのロケセットがここに保存されている(「二十四の瞳」は田中裕子主演リメイク版の方)。ここからの海の眺めは最高!さすがしっかりしたロケハンがされている。

また宿泊した小豆島国際ホテルは海に望む部屋風呂がなんとも心地よく、癒やされた。

小豆島は手延べそうめんも有名。「八日目の蝉」の主人公は逃亡の果てに小豆島にたどり着き、素麺屋で働くのだ。

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2019年1月 8日 (火)

再び法師温泉へ!

「また行きたい!」という小学校1年生の息子のたっての希望もあり、年末年始は2年連続、群馬県の法師温泉で4泊5日を過ごした。

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前回も書いたが、僕が法師温泉のことを初めて知ったのは1986年4月26日に公開された角川映画「彼のオートバイ、彼女の島」(大林宣彦監督)を劇場で観た時だった。原田知世の姉・貴和子と竹内力のデビュー作である。

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訪れて初めて知ったのだが、やはり大林監督が演出し高峰三枝子、上原謙が出演した国鉄のCM「フルムーン」(1981年放送)や、映画「テルマエ・ロマエ II」もここでロケされた。

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今冬は全国的に雪不足で、法師温泉も12月28日まで全く積もっていなかったという。しかし寒波の到来で僕らが宿に着いた29日にはすっかり白銀の世界に変貌していた。近くにある赤沢スキー場は翌30日から営業を開始した。

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上写真の法師乃湯だけではなく、野趣あふれる露天風呂の玉城之湯もある。雪が深々と降りしきる中、笠をかぶり入る湯は格別の味わいがある。朝6時頃入浴すると、湯船から有明の月が見えた。

朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
(百人一首 より;坂上是則)

ごうごうと森が鳴る音も聴こえた。

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スキー場には2回訪れた。柔らかい新雪が降り積もる30日に息子の乗るソリはあまり滑らなかったが、根雪でアイスバーンとなった元旦には滑走距離がぐんぐん伸びた。

愉しそうにソリで滑る息子を眺めながら、中学生くらいになって彼に映画「市民ケーン」を観せたら、薔薇のつぼみ(Rosebud)の真相が明らかになる場面で「主人公の気持ち、僕よく分かるわぁ」と言うんじゃないかな、と思った。

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スキー場から宿に戻ると、温めのお湯で悴む手足を癒やした。

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(みそぎ)の感覚。僕は日本の神話(古事記)でイザナギが黄泉の国から地上に戻ってきた際の逸話を思い出した。彼が左の目を洗った時に生まれたのが天照大御神(アマテラスオオミカミ)で、右の目からは月読命(ツクヨミノミノミコト)、鼻からは須佐之男命(スサノオノノミコト)が生まれたという。

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2018年8月18日 (土)

宮古島へ!

8月4日から7日にかけて沖縄県宮古島でヴァカンスを満喫した。

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大学生の頃、サークルの先輩から「宮古島はいいよ」と聞かされていた。しかし中々行く機会が訪れなかった。社会人になり、沖縄本島や石垣島では泳いだが、お世辞にも綺麗な海とは言い難かった(藻が多かった)。そして沖縄の食事は不味かった。最悪だったのは石垣島のヤギ汁。オエーッ!!

宮古島の海はエメラルドグリーンで透明度が高く、本当に美しかった。泊まったのは宮古島東急ホテル&リゾーツである。写真は部屋からの眺め。

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与那覇)前浜ビーチは東洋一とも言われ、Marine Diving Web(マリン ダイビング ウェブ)というサイトでは2017年ビーチ部門で世界一に選出された(今年は第二位)。

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少なくとも僕が泳いだことのあるフィリピンのセブ島より断然良かったし、ニューカレドニアのウベア島やイル・デ・パンの海に匹敵すると思った。因みにウベア島は原田知世主演、大林宣彦監督の映画「天国にいちばん近い島」(1984)のロケ地であり、宮古島は大林映画「風の歌が聴きたい」(1998)のロケ地である。

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「風の歌が聴きたい」でヒロインを演じた中江有里は、どうやら今年7-8月に広島県尾道市及び福山市で撮影された大林監督の新作「海辺の映画館ーキネマの玉手箱(仮題)」に出演しているようだ(他に浅野忠信、南原清隆、常盤貴子、稲垣吾郎、渡辺裕之ら)。閑話休題。

宮古島の気温は同時刻の関西よりも大体3℃くらい低く、地元の人によると真夏でも33℃を超えることはないという。湿度も低く、夜風は涼しく、クーラーなしで寝られると想った。今や沖縄は避暑地なのか!?如何せん日本の気候は狂っている。

ビーチではゴーグルで海底まで見通せて、沢山魚が泳いでいるのが見えた。グラスボートで珊瑚礁まで行くと、クマノミ(ニモ)など熱帯魚が観察出来たし、ウミガメにも遭遇した。夜はホテルの屋上から眺める満天の星空に吸い込まれるような気持ちになった。

またホテルのレストランが美味しかったのには驚かされた。特に海藻。もずくとかプチプチの海ブドウが新鮮で、全く臭みがない。意外にも(失礼!)地元の魚で握った寿司もいけた。舐めていた沖縄料理を見直した。

今後、リゾートに行くなら毎回宮古島でいいやと想った。

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2018年1月 5日 (金)

法師温泉への旅と、「彼のオートバイ、彼女の島」

年末から年始にかけ、群馬県の法師温泉へ3泊4日の旅をした。

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宿泊した長寿館の公式サイトはこちら

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法師温泉のことを初めて知ったのは1986年4月26日に公開された、大林宣彦監督による角川映画「彼のオートバイ、彼女の島」を劇場で観た時だった。原田知世の姉・貴和子と竹内力のデビュー作となった。それから31年という時を経て、漸く行ってみたいという想いを叶えることが出来たのである。

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「彼のオートバイ、彼女の島」は一旦105分の作品として完成したが、併映の角川春樹監督「キャバレー」の尺が長くなったため「もっと短くなりませんか」とプロデューサーから要請され、15分カットし90分の作品として完成した、監督曰く【心意気の映画】である。

当時、「月刊シナリオ」に掲載された関本郁夫によるシナリオを読んだが、ヒロイン・美代子(ミーヨ)は最後に交通事故に遭って死ぬ。功(コウ)が泣き叫びながらバイクで駆ける場面がラストシーンとなっていた。しかし完成版で事故はコウの想像に過ぎず、ミーヨは無事でふたりで記念写真を撮る場面で終わる。

法師温泉は旅先で出会ったコウとミーヨが、再会する場所として登場。原田貴和子のフルヌードに当時の観客は度肝を抜かれた。

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大林監督はこのシーンの演出意図について川端康成の小説「伊豆の踊子」で、共同浴場から素っ裸で飛び出してきた踊り子が主人公に何かを叫ぶ場面、

子供なんだ。私たちを見つけた喜びでまっ裸のまま日の光の中に飛びし、爪先きで背いっぱいに伸び上がるほどに子供なんだ。私は朗らかな喜びでことこと笑い続けた。

や、三島由紀夫「潮騒」で新治と初江が真っ裸で焚き火を挟んで向かい合う場面、

「初江!」
と若者が叫んだ。
「その火を飛び越して来い。その火を飛び越してきたら」
少女は息せいてはいるが、清らかな弾んだ声で言った。裸の若者は躊躇しなかった。爪先に弾みをつけて、彼の炎に映えた体は、火の中へまっしぐらに飛び込んだ。

などを引用し、少女の純潔性(innocence)を表現したかったのだと語った。なお余談だが、この「潮騒」の場面は後の新・尾道三部作「あした」で高橋かおりと林泰文が再現することになる。

長寿館に泊まって初めて気が付いたのは、ここは国鉄「フルムーン」CMのロケ地でもあったこと。上原謙、高峰三枝子が出演し、放送当時(1981年)大変話題になった。

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動画で観たい方は→こちら! 実はこの作品のディレクターは、誰あろう大林宣彦なのである(音楽はラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 終楽章)。上原謙は後に原田知世主演「時をかける少女」(1983)にもゲスト出演している。また最近では映画「テルマエ・ロマエ II」もここで撮影されたとか。

法師の湯はこんな感じ。

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入って分かったのは、湯船は実際には4つしかない。その真中を丸太が仕切っている(丸太の下はいけいけになっている)。 また各々で水温が違い、写真左奥(窓側)の湯船が一番ヌルい。6歳になる息子を連れて行ったのだが、この一番ヌルい湯がお気に入りになり、ここばかり入っていた(1日5回×30分ずつ!)。因みに法師の湯は基本的に混浴。午後8時−10時のみ女性専用になる。

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近くにある赤沢スキー場でソリ遊びもして、息子も冬休みを満喫していた。また近い将来、是非再訪したい。

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2017年8月 5日 (土)

尾瀬へ!

7月20日から25日にかけて、尾瀬に旅をした。尾瀬は新潟・群馬・福島の県境にある。3県のどこからでもアプローチ可能だ。

入山前日には「日本秘湯を守る会」の宿、梅田屋旅館@群馬県に泊まった。なにより温泉の泉質が素晴らしかった!

尾瀬といえば

夏が来れば 思い出す
はるかな尾瀬 遠い空
(中略)
水芭蕉の花が 咲いている
夢見て咲いている水のほとり

という、江間章子作詞、中田喜直作曲「夏の思い出」を想い出す人が多いだろう。1954年NHKラジオ歌謡で放送され、一躍有名になった。しかし水芭蕉が見頃なのは5月下旬から6月中旬まで。7月下旬はニッコウキスゲが花盛りだ。

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写真正面に見えるのが至仏山。背後には燧ヶ岳が聳えており、この二つの山に挟まれて広大な湿原・尾瀬ヶ原が広がっている。

僕が尾瀬に行くのはこれが6回目。その内訳は5月下旬に1回、盛夏に4回、紅葉の秋に1回。至仏山も燧ヶ岳にも登った。山小屋で旅人に訊ねても、ニッコウキスゲが咲き誇る7月下旬の尾瀬が一番好きという人が圧倒的に多い。水芭蕉ってね、何か地味なんよ。湿原に沢山咲いていても、直ぐに飽きてしまう。

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写真奥の白い草はワタスゲだ。ウグイスやカッコウの声が聞こえてくる。

僕にとって尾瀬はディーリアス音詩(tone poem)と密接に結びついている。特に「夏の夕べ Summer Evening」。そして「夏の歌 Song of Summer」「夏の庭園にて In a Summer Garden」などを聴くと否応なく尾瀬の風景が目の前に広がるのだ。

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2011年に東日本大震災及び福島原発事故が発生し、しばらく足が遠のいていた。実際、環境省の公表資料を見てみると2010年の総入山者数が34,7万人だったのに対し、11年には28,1万人に落ち込んでいる。15年には32,6万人にまで回復した。因みに尾瀬ヶ原には昔から東電小屋があるが、東京電力は未だ手放していなかった(→サイト「尾瀬と東京電力」へ)。

しかし6歳になる息子に「地上の楽園」尾瀬をどうしても見せたいと想い、漸く再訪する決意を固めた。

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鳩待峠から入山し、見晴にある弥四郎小屋で2泊した。上の写真は小屋の2階からの眺め。標高のせいか小屋で飲む生ビールの旨さは絶品だ。翌日は尾瀬沼へ向かって出発した。

見晴の標高が1,400mで尾瀬沼が1,660m。標高差約250mの長い上り坂となっている。途中、珍しく水芭蕉がまだ可憐に咲いている場所が一箇所だけあった。

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尾瀬沼では毎回、長蔵小屋に泊まっていた。明治23年(1890年)に建てられた、尾瀬で最も古い小屋だ。しかし今回は初めて尾瀬沼ヒュッテに宿泊。雑魚寝の長蔵小屋とは違い個室で、食事も翌日のお弁当(おにぎり)も美味しかった!風呂も快適。次回からもここを利用しよう。

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尾瀬沼近くの大江湿原。ここのニッコウキスゲの群生は尾瀬ヶ原の比ではない。10倍は下らないだろう。

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写真中央に紫色のヒオウギアヤメ(檜扇菖蒲)が見えるだろうか?

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息子も気に入ってくれたようで良かった。1日12Km(1万8千歩)歩くこともあり、自分の体力(足)にも自信を持ったようだ。

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最終日は早朝に山小屋を発ち、1時間半歩いて沼山峠に出た。バスを経て会津高原尾瀬口から新型特急リバティに乗り、帰途についた。

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2016年4月11日 (月)

吉野の桜 2016

4月10日(日)奈良県吉野郡吉野町へ。岡山県から関西に引っ越してきてから、春に吉野を訪ねるのは12年連続の恒例行事となった。

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4歳になる息子も0歳の時から連れて来ているので、今回が5回目である。最初の頃は当然、花なんかに興味がなかったが、最近では「綺麗ねぇ」と言うようになった。シートを敷いてゴロゴロ転がり、コガネムシやアリを見ては騒ぎ「愉しかった!また来たい」と。

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日本人は不思議な民族である。桜が満開の時期はせいぜい2−3日で、雨が降り強風が吹けば呆気なく散ってしまう儚い存在である。花見を愉しめる期間は1年のうち僅か1週間程度。しかし束の間の歓びのために惜しみない情熱を注ぎ、木を次々に植え、丹精込めて育てる。外国人には理解し難い独特の美意識(もののあはれ/無常観)がそこにはある。それが長所/利点かどうかは別問題として。

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2015年10月14日 (水)

粟島への旅

藤井フミヤがテレビ「笑っていいとも」で「もう一度訪れたい島」として挙げたのが以下のランキングである。

  1. 粟島(香川県)
  2. イースター島
  3. 屋久島(鹿児島県)

その粟島へ9月に行ってきた。

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車を香川県須田港の無料駐車場に置き、粟島汽船で島へ。二泊したのは一日一組限定の「民宿ぎんなん」。目の前に瀬戸内海が広がり、夜寝ていると波の音が聞こえる。携帯電話の電波は届かない。文明から遠く離れて、なんとものんびりした気分に浸れる。何もない。だから良い。

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夜は幻想的な海ホタルを鑑賞。宿のおかみさんが日中、紐付きの瓶に魚のアラを仕込み海に投擲、暗くなってそれを手繰り寄せると沢山集まっているという仕組み。4歳の息子は大喜びで砂浜を駆け回っていた。

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すぐ近くのぶいぶいガーデンは様々な花が咲き誇り、美しい。ホッコリする。個人のお庭なのだけれど、ご自由にお入りくださいと看板に書いてある。

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高松では有名な「うどん本陣 山田家」や四国村の「わら家」でうどんを食べたが、善通寺市「長田 in 香の香」の釜揚げが抜群に美味しかった。本家本元「長田うどん」より好き。

旅行三日目の夕食は骨付鳥「一鶴」屋島店へ。シルバーウィークということもあってか、駐車場待ちには県外車がずらり。結局、食事にありつけるまで1時間半待ちという大混雑ぶりだった。

その日は屋島山頂にある「ホテル望海荘」に宿泊。僕は以前、仕事で高松に2年半住んでいたのだが、屋島の夜景を見るのは初めて。壮大なパノラマが目の前に広がり、宝石箱のようにキラキラ輝いて想像以上の絶景だった。

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