吹奏楽

2018年8月25日 (土)

吹奏楽 vs. オーケストラ

2017年、全日本吹奏楽コンクール高校の部に出場した30団体のうち、クラシック音楽を編曲したものを自由曲に選んだのは12団体であった。その前年は13団体。つまり、全体の40%以上を占めていることになる。

吹奏楽の起源は軍楽隊にある。故に基本は行進曲であり、コンクールの課題曲でマーチを演奏する団体が多い(丸谷明夫/淀川工科高等学校吹奏楽部はマーチ以外を絶対に選ばない)。

自由曲にオーケストラ曲の編曲が未だに多いのは、指揮者のクラシック音楽への憧れ劣等感が潜在意識の中にあるからではないか?と僕は考えている。しかしそれでは所詮、吹奏楽はオーケストラの代用品に過ぎず、オリジナルを凌駕することは絶対に出来ない。全く無駄な努力のように想われる。

吹奏楽関係者がクラシック音楽へ注ぐ愛情は片思い、単なる一方通行に過ぎず、クラシック音楽ファンは吹奏楽など見向きもしない。吹奏楽はあくまで《アマチュアが演奏するための音楽》でしかなく、《鑑賞に耐えうるものではない》と大半の人々は考えている。嘘だと思うなら近くにいるクラシック音楽愛好家に「アルメニアン・ダンスって聴いたことある?」と訊ねてご覧なさい。アルフレッド・リードの名前すら誰も知らないから。月刊誌「レコード芸術」の新譜批評に「吹奏楽」部門が新設されたのは2010年、たった8年前のことである。

吹奏楽コンクール全国大会の自由曲にチャイコフスキーを選ぶと、金賞が受賞出来ないことはよく知られている。屋比久勲/福工大付属城東高は「白鳥の湖」、石津谷治法/習志野高は「くるみ割り人形」と「眠れる森の美女」、畠田貴生/東海大付高輪台高は「白鳥の湖」で全国大会に臨んだが、いずれも銀賞に終わっている。彼らの演奏を聴いて感じるのは、「チャイコフスキーが作曲したオーケストラ曲の最大の魅力は優美に奏でる弦楽器にある」ということ。弦抜きだと魅力が半減してしまうのだ。違和感しかない。

吹奏楽の演奏に対する褒め言葉でよく見かけるのが「木管の響きが、弦をこすって出したような音色になっている」というものだが、だったら弦楽器で演奏すれば済むことじゃない?馬鹿みたい。まがい物は所詮、まがい物。模倣品・贋作・ものまね芸人が本物の価値を上回ることなど決してないのである。吹奏楽にはもっと、別の良さがあるだろう。しっかりと独自の道を歩むべきだ。

クラシック音楽の中で編曲が新たな価値を生み出した代表例を見てみよう。

  • J.S.バッハ/ストコフスキー 編:トッカータとフーガ、小フーガほか
  • ムソルグスキー/ラヴェル 編:展覧会の絵
  • サティ/ドビュッシー 編:ジムノペディ 第1,3番
  • ブラームス/シェーンベルク 編:ピアノ四重奏曲 第1番
J.S.バッハ/ストコフスキーの原曲はオルガン・ソロ、ムソルグスキーとサティはピアノ・ソロ、ブラームスがカルテットで、それらがオーケストラ曲に生まれ変わっている。つまり編成が拡大されている。逆に、例えばベートーヴェンの交響曲やワーグナーの歌劇をリストがピアノの連弾や独奏曲に編曲しているが、成功したものは皆無である。オーケストラ曲→吹奏楽曲の場合も全く同様だ。

だから全国大会に出場するような実力を持つ指導者の方々には、是非もっと吹奏楽のオリジナル作品に取り組んで頂きたい。日本も優れた作曲家を沢山輩出しているのだから。

ただし、クラシック音楽→吹奏楽へのアレンジで成功しているものもごく僅かながらある。

  • リスト/田村文生 編:バッハの名による幻想曲とフーガ
  • J.S.バッハ/伊藤英明 編:シャコンヌ
  • J.S.バッハ/森田一浩 編:シャコンヌ

リストの原曲はピアノまたはオルガン独奏曲であり、バッハは無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータである。やはり編成を拡大することで新しい価値を生み出しているのだ。

それから原曲がポップスや映画音楽、ミュージカルの場合は全く話が別である。こういった音楽は基本的にオリジナル原理主義ではなく、アレンジして演奏されるのが前提の世界だからである。過去の吹奏楽コンクールで深い感銘を受けたアレンジ物を挙げよう。

  • シェーンベルク/宍倉 晃 編:ミュージカル「ミス・サイゴン」
    大滝 実/埼玉栄高等学校吹奏楽部 2002年 金賞
  • アーノルド/瀬尾宗利 編:映画「第六の幸福をもたらす宿」より
    (井田重芳/東海大学付属札幌高等学校 2006年 金賞
  • シェーンベルク/森田一浩 編:ミュージカル「レ・ミゼラブル」
    (宇畑知樹/伊奈学園総合高等学校 2013年
    金賞

また僕が定期演奏会で聴いた、梅田隆司/大阪桐蔭高等学校による「キャラバンの到着」(ミュージカル「ロシュフォールの恋人たち」より)や、ミュージカル「銀河鉄道の夜」「ラ・ラ・ランド」も実に素晴らしかった!こういうのをもっとコンクール全国大会で聴きたいのである。

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2018年5月 2日 (水)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部フラワーコンサート 2018と「ノートルダムの鐘」構造分析

はじめに。ここを訪れた方は吹奏楽をこよなく愛している人だと信じている。故に是非、下記事も併せてお読み頂ければ幸いである。僕からの「小さな願い」です。(I say a little prayer for you.)

さて、4月29日(日)大阪ビジネスパーク TWIN21アトリウムへ。新1年生も加わった大阪桐蔭高等学校吹奏楽部のフラワーコンサートを聴く。指揮は梅田隆司先生。僕はこの直前の16時05分までザ・シンフォニーホール@大阪市福島で関西フィルの定期演奏会(ミクロス・ローザの映画音楽やエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲ほか)を聴いていたので、途中からの来場となった。

☆3rd Stage(16:30-17:10) マーチング

  • ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
  • ジョン・ウィリアムズ:「スター・ウォーズ」メドレー
  • ミシェル・ルグラン:「キャラバンの到着(ロシュフォールの恋人たち)」
  • アラン・メンケン:「美女と野獣」メドレー

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Jazzyで躍動感溢れる桐蔭の「キャラバンの到着」は最高だね!胸がスカッとする。至福の時。

続いて座奏で、

  • We Are The World(歌付き)
  • リクエストコーナー:EXILEメドレー

リクエストコーナーは梅田先生がバットで打ったボールを掴んだ観客がスライドに写された50曲の中から選ぶ方式。

☆4th Stage(18:00-18:40)

  • ジャスティン・ハーウィッツ:ミュージカル「ラ・ラ・ランド」ハイライト

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映画の一場面を彷彿とさせるキャンディー・カラーの衣装がとっても素敵。

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Magic Hour(カタワレ時)にエマ・ストーン(アカデミー主演女優賞受賞)とライアン・ゴズリングがハリウッドの都(=ラ・ラ・ランド)を見下ろす丘の上で対峙するダンス・ナンバー"A Lovely Night"はアルト・サックスとユーフォニアムの対話(デュオ)に置き換えられている。

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ステージ前面に設置されたタップ板(タップボード)で男子生徒が華麗にタップ・ダンスを披露。

そしてフィナーレ。音楽がミシェル・ルグランの「シェルブールの雨傘」と完全に一体化するヴォカリーズの合唱は極上の美しさ!天国的というか、ハーモニーに宇宙的広がりを感じた(映画でも無数の煌めく星々の下でふたりがデュエットダンスする場面だ)。僕が今まで聴いてきた桐蔭サウンドの中でも間違いなくベストの瞬間であった。これは是非とも全国の人々にも聴いて貰いたい。

続いてリクエストコーナー。

  • 名探偵コナン
  • アラン・メンケン:「リトル・マーメイド」メドレー
  • 甲子園応援歌〜「グレイテスト・ショーマン」ほか

若い人は知らないと思うけれど「名探偵コナン」の音楽は「太陽にほえろ!」のテーマと瓜二つなんだ→こちらで試聴!作曲はどちらも大野克夫。つまり自己模倣ね。続けて演奏すると→こうなる

舞台ミュージカル「リトル・マーメイド」は2018年10月13日(土)より大阪四季劇場で上演される。でも海中に於けるアリエルの髪型が酷すぎて絶句した→プロモーションVTR。ありえる?否、あり得ない!

「グレイテスト・ショーマン」は映画冒頭の曲。これが野球応援歌にピッタリでびっくりした。

☆5th Stage(19:30-20:10)

  • アラン・メンケン:ミュージカル「ノートルダムの鐘」ハイライト

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ヴィクトル・ユゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」(ノートルダムのせむし男/ノートルダムの鐘)を社会人類学者レヴィ=ストロースの手法を用いて構造分析してみよう。

なおフロローの職業は原作で司祭だが、ディズニー版では最高裁判事に変更されている。

まず本作に認められる二項対立を挙げよう。

  • 鐘つき男カジモド(醜い、非対称)↔ノートルダム寺院(美の殿堂、ステンドグラスを含め全てが対称)/エスメラルダ(美貌)
    *これはミュージカル「オペラ座の怪人」におけるファントム(怪人)とクリスティーヌ(歌姫)の対立に相当する。
  • フロロー(聖職者、禁欲)↔エスメラルダ(ロマ〘ジプシー〙、欲望に従う)
    *ミュージカル「キャッツ」における〈長老オールド・デュトロノミー↔犯罪王マキャヴィティ〉に相当。エスメラルダはフロローの謀略により捕らえられ、魔女裁判で死刑宣告を受ける。一方、オールド・デュトロノミーはマキャヴィティに誘拐される。【逆転の変換】
  • フロロー(年寄り)↔大聖堂警備隊長フィーバス(若い)
    *「オペラ座の怪人」における〈ファントム↔ラウル・シャニュイ子爵〉の対立に相当。「キャッツ」では〈年老いた娼婦猫グリザベラ↔生まれたばかりの子猫シラバブ〉
  • ノートルダム大聖堂の鐘楼↔ジプシーの隠れ家「奇跡の法廷」【垂直方向の差異】
    *「オペラ座の怪人」における〈照明の当たる華やかな舞台(光)↔怪人が棲む地下湖(影)〉、「キャッツ」では〈天上↔地上のゴミ捨て場(夜)〉

では二項対立を結び/還流し、両者を仲介融和しようとする第三項は何か?

  • クロパン(道化でありトリックスター。境界を超え神出鬼没で、価値を転倒する者。きれいはきたない、きたないはきれい)。道化師は世界の反転を象徴するだんだら縞の衣装を着ている。
    *「キャッツ」では魔術師ミスター・ミストフェリーズ。「オペラ座の怪人」では仮面ペルソナ)。仮面を着けたファントムもマジシャンであり、神出鬼没のトリックスターだ。しかし仮面を外すと一転、その素顔は醜い老人に変わる。つまり彼には二重性があり、仮面はスイッチの役割を果たす。
  • トプシー・ターヴィー(愚者の祭り。規則を破って良い日。逆さま、無礼講。異教徒の「デュオニソスの祭り」を彷彿とさせる。デュオニソスとは豊穣と葡萄酒、酩酊の神。フローラン・シュミットが作曲した同名の吹奏楽の名曲がある
    *「オペラ座の怪人」ではマスカレード(仮面舞踏会)が相当。「キャッツ」ではジェリクル舞踏会。
  • 大聖堂の鐘の響き。それは天から地まで貫く。
    *「オペラ座の怪人」では”音楽の天使”クリスティーヌの歌声が相当。「キャッツ」ではグリザベラが歌う"Memory"。途中からシラバブが加わりハーモニーとなる。因みにシラバブはロンドン公演版でジェミマと名付けられており、そのオリジナル・キャストがサラ・ブライトマンだった(サラは後にクリスティーヌに抜擢される)。
  • 陽射し:歌詞に"Out there/Living in the sun"(太陽の光を浴びる あそこへ行きたい)とある。日光も天から地まで貫く。
    *「キャッツ」では冒頭のシラバブ誕生と最後のグリザベラ昇天で、垂直方向の一筋の光が天と地を結ぶ。

こうして分析を進めていくと、「ノートルダム・ド・パリ」「オペラ座の怪人」「キャッツ」の三者は全く同じ構造であることがご理解頂けるだろう。これが神話の構造、神話的思考である。

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続いてリクエストコーナー。

  • 美空ひばりメドレー(愛燦燦〜川の流れのように)

アンコールはご存知の定番、

  • 銀河鉄道999
  • 星に願いを

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「スリーナイン」のない桐蔭のコンサートなんて、星のない夜空のようなものだ。今回も音楽の愉しさを堪能させてもらった。

次回はそろそろ「メリー・ポピンズ」メドレーが聴けるんじゃないかと期待している。因みにロブ・マーシャル監督、エミリー・ブラント主演の映画「メリー・ポピンズ・リターンズ」北米公開は2018年12月25日。予告編はこちら

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2018年4月28日 (土)

吹奏楽女子に告ぐ。「リズと青い鳥」は絶対、ぜーったいに観るべし!

評価:A+

Liz

公式サイトはこちら。京都アニメーション(以下、京アニと略す)「響け!ユーフォニアム」のスピンオフ映画である。

「響け!」の1stシーズンは絶賛したのだが、2ndシーズン(第二期)はビミョーだった。特にイライラさせられたのが新キャラの鎧塚みぞれ(よろいづかみぞれ;オーボエ)と、傘木希美(かさきのぞみ;フルート)。因みに鎧塚みぞれは劇場版(第一期総集編)から登場している。正直、「このふたり、いらんわ!」と想った。何かね、本筋とは関係ないんよ。そういう視聴者のもやもやした空気を察知したのか(??)、第二期の総集編である「劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜」ではふたりの登場シーンをバッサリまるごとカット。却って全体の風通しが良くなり、テレビ・シリーズより断然引き締まった作品に生まれ変わった。

そして本編から排除されたふたりを主人公に、完全新作として製作されたのが「リズと青い鳥」だ。「響け!」を観ていなくても全然大丈夫。独立した作品として存分に愉しめる。

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 (↑入場者特典。何故、トランペットの高坂麗奈??)

山田尚子監督はテレビ・シリーズ「けいおん!」から観ているし、映画「聲の形」に対しては厳しいことも書いた。

しかし「リズと青い鳥」は文句なしに素晴らしい。彼女の最高傑作であると同時に、京アニが今まで培ってきたノウハウの集大成、紛うことなき金字塔であると断言する。

まず画風を本編とはガラリと変えてきた(「響け!」のキャラクターデザインは池田晶子、「リズ」は「聲の形」の西屋太志)。そして背景画は淡い水彩画調になった。僕が真っ先に連想したのが高畑勲監督「ホーホケキョ となりの山田くん」である。

本作は故・高畑勲へのオマージュで満ち溢れている。童話「リズと青い鳥」の世界観は欧米を舞台にした高畑勲演出「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」のスピリット(魂)を引き継ぐものとなっている。つまり何気ない日常生活のリアリティを徹底的に追求する姿勢だ。中でも山田監督は「赤毛のアン」に対して強い想い入れがあるんじゃないかな?そんな気持ちが画面を通してビンビン伝わってきた。

本作は薬師丸ひろ子が主演した映画「Wの悲劇」と同様、入れ子構造になっている。

Ireko

つまり現実の物語(吹奏楽部の日常)と劇中劇(童話「リズと青い鳥」)に一対一対応の関係があり、密接にリンクしながら物語が進んでゆく。確信を持って言うが、山田監督が意識していてのは吉田秋生の漫画「櫻の園」ではないだろうか?女子校の演劇部が舞台となり、彼女たちが演じるチェーホフの戯曲「桜の園」とリンクする。一方「リズと青い鳥」の北宇治高校も、まるで女子校のように描かれる。共学なのに。男子はその気配を消す。「響け!」のレギュラー・メンバーである塚本秀一(トロンボーン)は一瞬(数秒)画面に現れるが、台詞は一切なし。

そして本作の作劇(プロット)が極めて巧妙なのは、並行する2つのセリー(系列)で最初【リズ→(北宇治の)A、青い鳥→(北宇治の)B】という対応関係を想定して観ていたら、途中から【リズ→B、青い鳥→A】だと気付かされ、逆転(構造の変換)が起こるんだ!これにはしてやられた。鮮やか、天晴である。

今回改めて音楽(アンサンブル)とは楽器と楽器の対話なのだということを思い知らされた。繊細で切なく、心に残る名作である。

山田監督は意識的にターゲット(観客)層を変えたいと藻掻いている。「けいおん!」「涼宮ハルヒの憂鬱」の頃から京アニに登場する女子高生といえば、パンツが見えるか見えないかというぎりぎりの超ミニスカートが定番だった(しかし決して見せない。ここが新海誠「君の名は。」との違い)。そして内股。この【萌え】要素で数多くの男性ファンを獲得してきたわけだが、「リズと青い鳥」における北宇治高校制服のスカート丈は明らかに「響け!」より長くなっている(内股かどうかもよく判らない)。つまり山田監督の意図としては「(ヲタクだけでなはく)是非若い女の子に観て欲しい!」ということなのだろう。ところが、僕が観た劇場(109シネマズ大阪エキスポシティ)の観客は9割が男で、しかも40過ぎたオッサンばかり。(自分のことは差し置くが、)これじゃ駄目なんだ!届けるべき人々(吹奏楽女子)にメッセージが届いていない。暗澹たる気持ちになった。全日本吹奏楽連盟はもっと京アニと連携し、映画の鑑賞を推奨するべきだし、中学・高校の吹奏楽部顧問の先生たちも、生徒に観るよう促すべきだろう。それが音楽教育の本来あるべき姿だと僕は想う。

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2018年2月19日 (月)

「ラ・ラ・ランド」「ノートルダムの鐘」〜大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会2018

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部が創部されたのは2005年。当初部員はたったの25人だった。翌年の06年には梅田隆司先生が総監督に就任され、いきなりその年に全日本吹奏楽コンクール(全国大会)@普門館に登場した。全国大会出場は今までに計10回、うち4回金賞を受賞している(他はすべて)。金賞を受賞した年、およびその時の自由曲を列記してみよう。

  • 2009年 オルフ:カルミナ・ブラーナ
  • 2010年 ヴェルディ:レクイエム
  • 2011年 ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」
  • 2016年 ガーシュウィン:歌劇「ポーギーとベス」

銀賞だった年の自由曲はレスピーギ:ローマの祭り、ドビュッシー:海、エルガー:エニグマ変奏曲などである。ここで桐蔭が金賞を受賞するための【法則1】が浮かび上がる。つまり、原曲が声楽曲であること。これは梅田先生が大阪音楽大学声楽学科卒であることと無関係ではないだろう。つまり指揮者の資質・特性を示している。僕自身、桐蔭の演奏を長年聴いていて(最初は07年普門館での「海」)、どうも原曲がオーケストラ(器楽)曲の時はパッとしない。モヤモヤ〜っとしたわだかまりが残る。ところがどっこい、ミュージカルやオペラの楽曲になると音が活き活きして天下無双の団体に豹変するのである。面白いものだ。その現象を象徴するのが2017年のコンクール。16年には「ポーギーとベス」で史上最高の名演を繰り広げ文句なしの金賞を受賞した桐蔭がその翌年、同じガーシュウィンの「パリのアメリカ人」では銀賞に留まった。理由は明白だろう。「パリのアメリカ人」の原曲はオーケストラ作品なのだ。【歌うように奏でる】これこそが彼らの持つ最強の武器だ。

次に大阪桐蔭高等学校野球部が大阪代表として全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)に出場した年を見てみよう。

  • 2005年
  • 2006年
  • 2008年
  • 2012年
  • 2013年
  • 2014年
  • 2017年

【法則2】が見えてきた。つまり野球部が夏の甲子園に出場した年に吹奏楽部は金賞を獲れないのである。恐らく練習不足に原因があるのだろう。吹部はコンクール直前に野球の応援に行かなければならない。梅田先生も甲子園球場で指揮をされる。この学校の特殊事情である。私立高校の本音として、学校の宣伝のためには吹部が全国でに輝くよりも、野球部が甲子園で活躍することの方が大切だろう。一般的知名度が違いすぎる。詮ないことだ。

桐蔭は2017年夏の甲子園で「ラ・ラ・ランド」を初めて演奏し、お茶の間で話題沸騰となった。僕は「もしかしたら今年は吹コン自由曲も『ラ・ラ・ランド』で勝負するのでは!?」と大いに期待したのだが「パリのアメリカ人」と知り、がっかりした。どうも楽譜が間に合わなかったようである。

Toin

さて、2月28日(日)フェスティバルホールへ。大阪桐蔭吹部の定期演奏会を聴いた(最終公演)。

第1部(マーチングなどステージ・パフォーマンス)

  • トーマス・ドス:トランペット&ブリッジズ(17年ウィーン国際青少年音楽祭課題曲)
  • スーザ:海を超える握手
  • ジャスティン・ハーウィッツ:ミュージカル「ラ・ラ・ランド」
    (アナザー・デイ・オブ・サン〜サムワン・イン・ザ・クラウド〜ミアとセバスチャンのテーマ〜ア・ラブリー・ナイト〜エピローグ)
  • アラン・メンケン:ミュージカル「ノートルダムの鐘」
    (ノートルダムの鐘〜僕の願い〜トプシー・ターヴィー〜ゴッド・ヘルプ〜ノートルダムの鐘リプライズ)

第2部(主に座奏)

  • ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
  • ムソルグスキー(ラヴェンダー編):組曲「展覧会の絵」
  • 甲子園応援リクエスト・コーナー
  • 三年間の歩み(栄光の架け橋〜風が吹いている〜今、咲き誇る花たちよ〜Hero)
  • 森山直太朗:虹(卒業生を送る歌)
  • ステージ・パフォーマンス
    ルグラン:キャラバンの到着(ロシュフォールの恋人たち)
    ガーシュウィン:パリのアメリカ人
  • 銀河鉄道999(アンコール)
  • 星に願いを(アンコール)

第1部で梅田先生はオーケストラ・ピットで指揮された。

ドスの曲はホルンが大活躍するファンファーレで、ヤナーチェクのシンフォニエッタにそっくりだった。桐蔭の生徒さんたちがウィーンのプラーター公園で野外コンサートする映像が映し出されたが、映画「第三の男」で余りにも有名な大観覧車には皆さん乗ったのだろうか?

今回定期の隠しテーマは「フランス」だと言えるだろう。

待ちに待った「ラ・ラ・ランド」はまず衣装が映画通りキャンディー・カラーで魅了された。♪アナザー・デイ・オブ・サン♪はミシェル・ルグラン作曲「キャラバンの到着」への熱いオマージュでもあるのだが、ちゃんとトラックの荷台から楽隊が登場する場面も再現されており、感動した(作曲家ハーウィッツ自身が映画「ロシュフォールの恋人たち( The Young Girls of Rochefort ) 」からの影響を語った記事はこちら)。ただ歌の音声がマイクで充分に拾えておらず、楽器の音に負けていたのが残念だった(歌詞が聴き取れなかった)。デュエット・ダンス♪ア・ラブリー・ナイト♪ではユーフォニアムとサックスの掛け合いになっており、素敵だった。タップ板(タップボード)を設置して、男子生徒が華麗なタップダンスを披露する場面もすごく良かった。あとエピローグでの合唱(ヴォカリーズ)が極上の美しさ!「シェルブールの雨傘」ラストシーンのカトリーヌ・ドヌーヴが目に浮かんだ。

なお、公演プログラムに《最新のブロードウェイ・ミュージカルの作品「ラ・ラ・ランド」》と記載があったが、これは間違い。「ラ・ラ・ランド」の楽曲は全て映画オリジナルであり(故にアカデミー作曲賞を受賞)、ブロードウェイでは上演されていない。

ところで僕は「ノートルダムの鐘」こそ作曲家アラン・メンケンの最高傑作だと常々想っている。

クロパンがトリックスターだということは上記事に書いた(トリックスターの説明も)。トリックスター(道化)は境界を超え出没し、世の中の常識や価値を転倒させる。道化師の衣装はだんだら縞であり、白↔黒の反転を象徴している。♪トプシー・ターヴィー♪で「逆さま」という歌詞が強調されるのはそのためだ。

キリスト教徒は二分法(二項対立)の世界に生きている。天国と地獄、天使と悪魔、光と闇、正義と悪、無垢と穢れ( innocent vs. guilty )。禁欲と欲望(享楽)。コンピューターの情報処理も2進法だー0か1か、白か黒か。ヴィクトル・ユーゴーの小説は両者を混ぜ合わせることを欲している。それがトリックスターだ。「レ・ミゼラブル」でその役割を担うのはテナルディエ夫婦である。

ユーゴーの父はナポレオンに仕える軍人で共和派だった。一方、母は王党派であり、政治思想の違いによる確執から不和を生じ、息子は長きに渡る父親不在の生活を強いられた。二極間の争いはもううんざり。故になんとか融和の道はないものか?という考えを持つに至ったのではないだろうか。きれいと汚いが交わるところカオス混沌)にしか新しい創造はないのである。

聖職者フロローの悲劇は徹底した禁欲を自分に課そうとしたことにある。よって寧ろ欲望の炎が燃え上がってしまった。これは「レ・ミゼラブル」で法の番人であろうとし、非情に徹したジャベール警部の正義が最後に脆くも崩れ、破滅したことに呼応する。極端に走らず、清濁併せ呑む。これこそが賢く生きる知恵=野生の思考(by レヴィ=ストロース)なのだろう。

僕が注目したのは結末である。ディズニー・アニメ版はエスメラルダが死なず、カジモドは自由の身となるハッピー・エンド。一方、原作に忠実な舞台ミュージカル版はカジモドがフロローを殺し、彼もエスメラルダも死んでしまう悲劇。結局、桐蔭はアニメ版に基づく上演だった。僕はオリジナル版の方が好きだけれど、高校生の卒業イベントなのだからこれは仕方ない。納得した。

2017年の全日本吹奏楽コンクールにおいて、宇畑知樹/伊奈学園総合高等学校は自由曲で「ノートルダムの鐘」を演奏し、金賞に輝いた。今回の大阪桐蔭の演奏は起伏があり劇的で、伊奈学園を上回っているんじゃないかと想った。梅田先生、来年度こそは是非ミュージカルで勝負してください!

第2部のワーグナーにはアイーダ・トランペットが登場。チューバ11人、ユーフォ9人、トロンボーン16人と低音が充実しており、ド迫力だった。

「展覧会の絵」はプロムナードのトランペット・ソロ、そして「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」でのピッコロ・トランペットがすごく上手かった。あとラヴェル編曲のオーケストラ版でも木管楽器が活躍する「卵の殻をつけた雛の踊り」は吹奏楽編曲版でも違和感なく聴けた。

甲子園応援リクエスト・コーナーでは恒例となっているが、野球部員が舞台に上がりボールを打って、キャッチした観客がリストの中から曲を選ぶ仕組み。ところが空振り続きで、梅田先生が打ったボールが一番飛んだという始末。会場は爆笑で、大いに盛り上がった。選ばれたのは①ウィリアム・テル序曲(「ローン・レンジャー」のテーマ)②君の瞳に恋してる③アゲアゲホイホイ。「君の瞳に恋してる」はフォー・シーズンズのフランキー・ヴァリによるソロシングルが有名。当然フォー・シーズンズが主人公のブロードウェイ・ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」にも登場。日本版でフランキー・ヴァリを演じた中川晃教は菊田一夫演劇賞&読売演劇大賞の最優秀男優賞を受賞した。2018年の再演は大阪公演も予定されているので、今から待ち遠しくて仕方ない(興味のある方はまずクリント・イーストウッド監督の映画版をご覧あれ)。

卒業生を送る歌は桐蔭得意の映像を駆使した趣向が凝らされており、卒業生全員の名前が順番に出て、彼/彼女らの1年生時の写真並びに、現在の動画が一人一人紹介された。

ここで主賓の紹介あり。振り付けを担当した洋あおい氏(元OSKトップスター)、演奏の指導をしている大阪フィルハーモニー交響楽団首席クラリネット奏者・金井信之氏、そして同首席ホルン奏者・高橋将純氏。高橋氏が指導するようになり、ホルンの生徒たちが見違えるように上手くなったそう。余談だが、先日レスピーギの「ローマ三部作」が取り上げられた大フィル定期でも、高橋首席が出ない前半と、出た後半ではホルン軍団のレベルが段違いだったことを申し添えておく。

「キャラバンの到着」はパンチが効いてホーン・セクションが炸裂!僕はこのルグラン・ジャズでマーチングする桐蔭は最高に格好いいと想っているのだが、演奏している生徒さんや保護者の方々の感想はどうなのだろう?何しろ50年前の曲だし(「ロシュフォール」の公開は1967年)、ちょっと不安。本音のコメント求む。

そして「パリのアメリカ人」も躍動感があり、フォーメーションは綺麗で疵のない演奏だった。

アンコールの「銀河鉄道999」ではまるでプラネタリウムのように無数の星が燦めく照明が実に美しかった。

こうして3時間に及ぶ、ギュウギュウに中身が詰まった演奏会は幕を閉じた。大満足、お腹いっぱい。

最後に、来年の桐蔭定期で是非聴きたい曲をリクエストしておく。現在公開中のミュージカル映画、ヒュー・ジャックマン主演「グレイテスト・ショーマン」から"This Is Me"。昨年バブリーダンスで一世を風靡し、荻野目洋子と「輝く!日本レコード大賞」にも出演した大阪府立登美丘高校ダンス部@堺市のパフォーマンスで御覧ください→こちら!!一昨日シネコンで観てきたのだけれど、この曲が力強く流れる場面では心底感動した。間違いなくアガる!映画の台詞を借りるなら、正しくa "celebration of humanity"である。作詞・作曲ベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのコンビは映画「ラ・ラ・ランド」で作詞を担当(後者の作曲はジャスティン・ハーウィッツ)。昨年はブロードウェイ・ミュージカル"Dear Evan Hansen"でトニー賞のミュージカル作品賞・楽曲賞など6部門を受賞した。

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2018年2月17日 (土)

イタリア人指揮者/吹奏楽と「ローマ三部作」〜バッティストーニ登場!大フィル定期

2月16日(金)フェスティバルホールへ。アンドレア・バッティストーニ/大阪フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会を聴く。

  • レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」
  • 同:交響詩「ローマの祭り」
  • 同:交響詩「ローマの松」

バッティストーニはイタリア・ヴェローナ生まれの30歳。ジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ歌劇場首席客演指揮者及び東京フィルハーモニー交響楽団首席指揮者を務めている。東フィルと録音した「ローマ三部作」のCDは絶賛を博した。

「ローマ三部作」と言えばトスカニーニ/NBC交響楽団やムーティ/フィラデルフィア管弦楽団の音源が名盤と誉れ高い。どちらもイタリア人であり、かつオペラ指揮者だ。よって一般的イメージとして「イタリア人指揮者なら誰しもレスピーギが得意」と思われがちだ。しかしクラウディオ・アバドはこの曲を毛嫌いし生涯一度も振らなかったし、カルロ・マリア・ジュリーニも然り。またリッカルド・シャイーはベルリン・フィルと「ヴァルトビューネ2011」で演奏したりもしているが、レコーディングは一切していない。日本人指揮者だからといって、誰しも武満徹の作品を振るわけではないのと同じことなのだろう。

さて、吹奏楽をした経験がある人なら誰でも知っていることだが、レスピーギの「ローマの祭り」は吹奏楽コンクールで大人気の自由曲だ。おそらく演奏回数No.1だろう。データベースで検索したところ、全日本吹奏楽コンクール(全国大会)で演奏されたのは今までに113回(中・高・大学・一般・職場含む)!うち金賞受賞数は延べ44団体。因みにもう一つの人気曲、ラヴェル作曲「ダフニスとクロエ」が自由曲に選ばれたのは111回である。これが「ローマの噴水」になると25回、「ローマの松」だと20回と極端に少なくなる。

「ローマの祭り」はどうしてこんなに人気なのか?まず難易度が高い。テクニックをこれ見よがしに誇示出来る。そしてリムスキー=コルサコフに作曲を師事したレスピーギのオーケストレーションは華麗で、演奏効果が高い。多少のミスが有っても上手に聴こえる。しかし散々吹奏楽コンクールで聴かされて、がなり立てるような大音響に閉口するし、気が狂ったような乱痴気騒ぎに、こちとらはもううんざりだ。カオス(混沌)だね。

前置きはこれくらいにして本題のバッティストーニの話をしよう。まず「ローマの噴水」は繊細な弱音に魅了された。特に弦の響きが美しい。がさつな吹奏楽アレンジとは大違い。リズムには切れがあり、「ローマの祭り」で聖歌の旋律が奏でられる箇所はよく歌う。強烈なカンタービレに、さすがイタリア人の血だと想った。主顕祭ではトロンボーンが吹く千鳥足の酔っぱらいがユーモラスで、メリーゴーランドがクルクル回る情景が目に浮かんだ。迫力があるが全然うるさくはなく、ffでも細部まで明晰、解像度が高かった。お見事!文句なし。

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2017年12月20日 (水)

キャラバンの到着!〜大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 サンタコンサート2017

12月16日(土)大阪ビジネスパーク TWIN21アトリウムへ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部のサンタコンサートを聴く。指揮は梅田隆司先生。

50分ずつ4ステージに分かれており、総計3時間20分、吹奏楽漬けになった。

20世紀フランスを代表する哲学者ジル・ドゥルーズ(1925-95)は63歳の時に収録されたテレビのインタビュー番組の中で「どうして貴方は毎週末に展覧会や映画館に足を運ぶのですか?」と尋ねられ、優れた(芸術)作品との「出会い(rencontre)」を信じているからだと答えている。出会うためには「外に出て、待ち伏せする必要がある」。

この言葉に強い共感を覚えた。僕が足繁く映画館や劇場に通うのも、そして桐蔭の演奏を聴きに行くのも、新たな「出会い」を待ち構えているからに他ならない。

その成果の一つが「銀河鉄道999」であり、西村友が作曲した珠玉のミュージカル「銀河鉄道の夜」との出会いであった。

梅田先生率いる桐蔭吹奏楽部は次から次へと新しい楽曲に取り組み、ドゥルーズの言葉を借りるなら、常に生成変化している。そのことに僕は魅入られるのである。生成変化のないものには全く価値が無い

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今回のセットリストを列記しよう。

【注釈】リク:リクエストコーナー。バットで打ったボールを取った聴衆が、前方スクリーンに写し出された50曲を超えるリストの中から選ぶ仕組み。

① Kid's Stage

  • クリスマススウィングコレクション(サンタが町にやってくる、もろびとこぞりて、We Wish You a Merry X'mas、ジングル・ベル)
  • 赤鼻のトナカイ
  • すてきなホリデイケンタッキーフライドチキン/クリスマスCMソング)
  • プリキュアアラモード
  • 宇宙戦隊キュウレンジャー
  • 名探偵コナン
  • 「アナと雪の女王」メドレー
  • スタジオジブリ・メドレー(さんぽ、世界の約束、となりのトトロ)
  • ゲゲゲの鬼太郎
  • アンパンマンのマーチ
  • 夢をかなえてドラえもん
  • 「忍たま乱太郎」〜勇気100%

ノリが良く、キレのある演奏だった。

② Classic Stage

  • ウィンターワンダーランド in Swing
  • ノートルダムの鐘 初披露
  • 「リトル・マーメイド」メドレー(アンダー・ザ・シー、キス・ザ・ガール、パート・オブ・ユア・ワールド) リク
  • 嵐メドレー(A・RA・SHI、Happiness Believe、マイ・ガール、One Love、愛を叫べ、Troublemaker、Love so sweet) リク
  • 交響組曲「ジブリ・シネマコレクション」(ハウルの動く城【空中散歩】、千と千尋の神隠し【ふたたび】、天空の城ラピュタ【ゴンドアの想い出】、もののけ姫【アシタカとサン】、となりのトトロ【さんぽ】、ハウルの動く城【世界の約束】、となりのトトロ【となりのトトロ】) リク

「ノートルダムの鐘」は【トプシー・ターヴィー】の戯けた感じがとっても良かった!あと「リトル・マーメイド」の【アンダー・ザ・シー】はトロピカルで垢抜けている。

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③ Pops Ⅰ Stage

  • 歌劇「タンホイザー」〜歌の殿堂を讃えよう(ワーグナー)
  • 桐蔭ファンファーレ
  • 海を超える握手(スーザ)
  • ガーシュウィンの「スワニー」によるユーモレクス(スーザ)
  • パリのアメリカ人(ガーシュウィン)
  • 「ロシュフォールの恋人たち」〜キャラバンの到着(ルグラン)
  • 美女と野獣(メンケン)
  • スター・ウォーズ(ジョン・ウィリアムズ)
  • ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜銀河を超えて(西村友)

第3部は全てマーチングによるパフォーマンス。下の写真2枚は「パリのアメリカ人」の様子である。

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演奏の精度では昨年の「ポーギーとベス」に一歩譲るが、正に創作ダンスを観ているようで凄く愉しかった!

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そして待望の、ミシェル・ルグラン作曲「ロシュフォールの恋人たち」より【キャラバンの到着】!パンチの効いたホーン・セクション、炸裂するリズム。これぞルグラン・ジャズ。カッケー!!

僕は2016年サンタコンサートの感想で「キャラバンの到着」と「ラ・ラ・ランド」をリクエストしていた。因みにこの時点で映画「ラ・ラ・ランド」は公開前だった。

元々、死ぬほど好きな楽曲なので大興奮したが、何しろジャック・ドゥミ監督「ロシュフォールの恋人たち」は50年前に公開された映画である。演奏する生徒さんや親御さんたちはどういう感想を持っておられるのか、とても気になるところ。是非そのあたり忌憚のない本音をコメント頂ければ幸いである。

それから西村友作曲による大変美しいミュージカル「銀河鉄道の夜」だが、今年の定期演奏会で聴いたバージョンとは終結部のアレンジが変更になっていたので驚いた。何かね、とっても華やかになった。最高だね。

④ Pops Ⅱ Stage

  • We Wish You a Merry X'mas
  • 生命の奇跡・リベラ
  • レ・ミゼラブル リク
  • 美空ひばりメドレー(愛燦燦、川の流れのように) リク
  • 「塔の上のラプンツェル」メドレー リク
  • 「ウエストサイド物語」メドレー リク
  • ディズニー・ファンティリュージョン! リク
  • 銀河鉄道999
  • 「ピノキオ」〜星に願いを

リクエストコーナー(リク)でもし僕がボールを掴んだら、絶対映画「君の名は。」の歌4曲メドレーと叫ぼうと心に決めていた。しかし結局、当たった8人が誰も「君の名は。」を指名しなかったのは些かショックであった。昨年あれだけ大ヒットしたのに!!RADWIMPSの曲はそんなに愛されていないのか……。

で大阪桐蔭の演奏を聴きに来るの人々の好みの傾向としては「ディズニー」と「ミュージカル」がキーワードなのだなということが良く分かった。

あと僕は会場でのリハーサルから聴いていたのだが、そこで演奏された「メリー・ポピンズ」メドレー(チム・チム・チェリー、スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス、 凧をあげよう)が本番でなかったのには肩透かしを食らった。今度の定期で演るのかな?因みに来年、梅田芸術劇場で舞台版「メリー・ポピンズ」が上演され(チケットは既に確保)、また「シカゴ」「イントゥ・ザ・ウッズ」のロブ・マーシャル監督によるディズニー映画「メリー・ポピンズ・リターンズ」(リメイクではなく続編)が待機中である。

Returns

主演はジュリー・アンドリュースに代わり、エミリー・ブラント。歌の作曲はシャーマン兄弟に代わり、マーク・シャイマン(ブロードウェイ・ミュージカル「ヘアスプレー」「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」)が担当する。あとミュージカル「ハミルトン」でブロードウェイを席巻し、「モアナと海の伝説」の主題歌を作曲したリン・マニュエル・ミランダも出演するよ。また余談だがディズニーはロブ・マーシャルに実写版「リトル・マーメイド」の監督もオファーしているとのこと(現時点で契約には至っていない)。

来年2月の大阪桐蔭高等学校吹奏楽部定期演奏会@フェスティバルホールでは満を持して「ラ・ラ・ランド」が遂に登場するらしい。いやもう待ち遠しくて、居ても立ってもいられないね!

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2017年12月18日 (月)

「銀河鉄道999」に見る、松本零士の病理

僕が小学校低学年の頃、コミックスは「オバケのQ太郎」とか「ドラえもん」等を中心に読んでいて、完全に藤子不二雄派だった。大学生になると「ブラック・ジャック」「火の鳥」「ブッダ」「アドルフに告ぐ」など手塚治虫や「トーマの心臓」「ポーの一族」など萩尾望都を読み漁った。一方、松本零士には全く食指が動かなかった。彼が描くメーテルら美女たちが好みでなかったのも大きいだろう。

初めて「銀河鉄道999」に興味を覚えたのは、大阪桐蔭高等学校吹奏楽部のアンコール定番曲としてゴダイゴの主題歌を聴き、大のお気に入りになったからである。そこで映画を観てびっくり仰天した。その経験を通して思索したことについて下の記事に詳しく書いた。

メーテルのイメージが、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の映画「わが青春のマリアンヌ」(1955)に由来することにも触れた。

さてこの度、4Kテレビ購入と同時に加入したNetflixに「銀河鉄道999」のテレビ版が配信されていることを知り、一気に45話(ワルキューレの空間騎行 後編)まで観た(Netflixでの配信は12月15日に終了)。そこで気づいたことをまとめよう。

「銀河鉄道999」を支える三つの太い柱がある。

  1. エディプス(マザー)・コンプレックス=母性社会日本の病理
  2. ルサンチマン
  3. 人情噺=江戸落語的

Bosei

1.については上記事で縦横無尽に語ったので省略する。

ルサンチマンとはドイツの哲学者ニーチェが創造した概念である。弱者が強者に対して持つ、憤り・怨恨・憎しみの感情のことを指す。ニーチェはイエス・キリストの思想を批判する目的でこの言葉を用いた。当時のユダヤ人たちはローマ帝国に支配され、貧しく、恨みの感情を抱いていた。ここで価値の転倒(発想の転換)が起こる。「虐げられている俺達が正しい。支配者(ローマ帝国)こそ悪だ!そして現世では幸福になれなくても、死後天国に行けばきっと幸せになれる」(彼岸=絶対的不動の善・真理の設定)

このルサンチマンの心理はフランス革命やロシア革命にも当てはまる。圧政に苦しむ民衆・人民こそが正義。贅沢三昧の生活を享受するルイ16世/ロマノフ家/ブルジョアジーは悪。だから彼らを処刑せよ!奴らの財産は俺達のものだ!!

いわゆる従軍慰安婦問題など韓国人が日本人に対して抱いている、どうしても拭い去ることが出来ない恨【ハン】(解説はこちら)という感情もルサンチマンの亜種であろう。

「銀河鉄道999」で鉄郎とメーテルは様々な星に停車する。その多くで人々は貧しい生活を強いられ、権力者への恨みをつのらせている。鉄郎はアンドロメダ星雲にあるという、機械の体をタダでくれるという星を目指して旅をするが、それは正しく彼岸=永遠=イデア(哲学者プラトンが説く理想郷)である。

このルサンチマンをこじらせた世界観は松本零士の生い立ちと無関係でない。彼は福岡県久留米市に生まれた。父親は元軍人で、戦後は実家のある大平村で素焼きをし、小倉では大八車を押して野菜の行商をしながら線路脇のバラックに住んでいたという。彼がどれほど貧しい生活を送っていたかは→こちらの記事に詳しい。

松本零士と対象的なのが手塚治虫の漫画である。手塚漫画にはマザー・コンプレックスもなければ、ルサンチマンも皆無である。

手塚は代々医者の家系に生まれた。曽祖父は蘭方医で、漫画「陽だまりの樹」のモデルになっている。父は宝塚倶楽部の会員であり、一家はしばしば宝塚ホテルで食事をした。そして幼少期に母には宝塚少女歌劇団に連れて行ってもらっていた(この体験が「リボンの騎士」の原点となる)。家には8mmカメラがあり、当時の治虫の映像が残っている。また家の映写機でディズニーのアニメを初めて観たという。1930年代の話である。つまり手塚は正真正銘「良家のお坊ちゃん」だったのだ。

松本零士と手塚治虫。ふたりの「お育ちの違い」が作品に明白に反映されているというのは興味深い現象である。三つ子の魂百までとは、言い得て妙だ。

江戸落語にもルサンチマンが渦巻いている。貧乏長屋に住む庶民の、武士の横暴に対する怒り・怨念。「たがや」がその代表例だろう。そして江戸っ子は人情噺を好む。一方、豊かな商人の街に発展した上方落語にはルサンチマン人情噺も綺麗サッパリない。つまり松本漫画 ≒ 江戸落語/手塚漫画 ≒ 上方落語という図式が成り立つのである。

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2017年12月10日 (日)

初心者のためのミュージカル映画講座〜「巴里のアメリカ人」から「ラ・ラ・ランド」へ

2017年夏の甲子園で大阪桐蔭高等学校吹奏楽部(指揮:梅田隆司 先生)は野球部の応援歌として「ラ・ラ・ランド」(♪Another Day of Sun♪)を初めて演奏し、世間の話題を攫った。また全日本吹奏楽コンクールの自由曲としてガーシュウィン作曲「パリのアメリカ人」を選択した(結果は銀賞)。全国大会で同曲が演奏されたのは2009年の相馬市立向陽中学校以来8年ぶり。因みに桐蔭を含め過去5回全国大会で取り上げているが、金賞を受賞した団体は未だない。

北米で2016に公開されたミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」はアカデミー賞で史上最多の14部門にノミネートされ、監督賞・主演女優賞・撮影賞・美術賞・歌曲賞・作曲賞の6部門を受賞した。監督のデイミアン・チャゼルは32歳、史上最年少の記録となった。

La La LandのLAはハリウッドのあるロサンゼルス(Los Angeles)のことを指し、【あっちの世界/あの世/我を忘れた陶酔境】を意味する。「あの娘はいま、ラ・ラ・ランドにいる」とは、「彼女の心はここにあらずで、空想に耽る不思議ちゃん」と揶揄しているのだ。

映画「ラ・ラ・ランド」の主軸には3つのオマージュがある。

  1. ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン主演マイケル・カーティス監督の映画「カサブランカ」
  2. 往年のハリウッド製ミュージカル映画、特にヴィンセント・ミネリが監督し、フレッド・アステアやジーン・ケリーが歌い踊ったMGM映画「バンド・ワゴン」&「巴里のアメリカ人」
  3. フランス・ヌーベルヴァーグの映画群、特にジャック・ドゥミ監督「ローラ」「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」=港町三部作

ヒロインのミア(エマ・ストーン)は映画「カサブランカ」に憧れを抱いており、自室に巨大なイングリッド・バーグマンのポスターを貼っている。そしてワーナー・ブラザース撮影所の、「カサブランカ」が撮影されたセットの向かいにあるカフェで働いている。彼女がパリにこだわるのも「カサブランカ」の影響だ("We'll always have Paris."「俺達にはパリの想い出がある」ボギーの台詞)。ここからは僕の解釈だが、「ラ・ラ・ランド」のエピローグ(5年後の冬)でキャメラは彼女の(妄想/ifもしもの世界)の中に入ってゆく。そこで彼女はハリウッドの大女優になっており、棄てたはずのバーグマンのポスターが忽然と街角に現れる。そして彼女は人妻ながら、別に好きな男がいるという「カサブランカ」のヒロイン、イルザ(バーグマン)と同じ役柄を演じる

ちなみに「カサブランカ(Casa Blanca)」とは《白い家》という意味であり、ハリウッドのメタファーとも言える。この映画は第二次世界大戦中の1942年に公開された。アメリカはナチス・ドイツと交戦状態にあり、ユダヤ人を中心にヨーロッパで活躍していた沢山の映画人が亡命し、ハリウッドに身を寄せていた。監督のマイケル・カーティス(1888-1962)はハンガリーの首都ブタペスト出身。彼もユダヤ人であり、ハンガリー名はケルテース・ミハーイ。左翼思想を持ち、長編デビュー作は共産党のプロパガンダ映画であった。しかし1919年にハンガリーにおける共産主義革命が失敗したため、ドイツに亡命し、後に渡米した。つまりカサブランカ=ラ・ラ・ランド=ハリウッドという図式が成り立つのである。

戦争を挟み、1930〜50年代はハリウッドの黄金期であった。大手映画会社にはそれぞれ得意分野があった。例えばドラキュラ、フランケンシュタインなど怪奇映画ならユニバーサル・スタジオといった具合に。そしてミュージカルといえばMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)の独壇場であった。偉大なプロデューサー、アーサー・フリードの功績が大きい。フリードは元々作詞家で、作曲家ナシオ・ハーブ・ブラウンと組んでたくさんの名曲を生み出した。ジーン・ケリーが主演した名作「雨に唄えば」(1952)に出てくる歌は、表題曲を含め全てフリード&ブラウンの作品である。そしてフリードはブロードウェイで新進気鋭の演出家として名を馳せていたヴィンセント・ミネリをハリウッドに招聘した。ミネリのハリウッド・デビュー作は「キャビン・イン・ザ・スカイ」(1943)。出演者全員が黒人のミュージカル映画であり、プロデューサーは勿論フリードである(日本でもDVDやAmazon等の動画配信で観ることが出来る)。

当時のMGMが如何に豊穣で、どれくらい数多くミュージカルの名作を生み出していたかは是非、豪華絢爛たるアンソロジー映画「ザッツ・エンタテインメント」DVDをご覧頂きたい。パート3まで製作され、「ラ・ラ・ランド」が引用した場面も沢山収録されている。

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番外編として「ザッツ・ダンシング!」もお薦め。

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こちらはMGM映画に限定せず、「赤い靴」(←英国映画)「フラッシュダンス」とか、マイケル・ジャクソンまで登場する。

ヴィンセント・ミネリに話を戻そう。彼は1944年にMGMの看板女優だったジュディ・ガーランド主演で「若草の頃」を撮り、翌45年に彼女と結婚した。ふたりの間に生まれたのがライザ・ミネリである(「キャバレー」でアカデミー主演女優賞受賞)。彼はその後もジュディ主演で「踊る海賊」(1948)を撮っている(相手役はジーン・ケリー)。しかし幸福な生活は長く続かなかった。ジュディは子役時代からMGMで仕事をしていたが、太りやすい体質だったためスタジオは13歳の彼女に痩せ薬としてアンフェタミン(覚醒剤)の内服を指示した。17歳で「オズの魔法使い」(1939)の主役に抜擢された時は既に常用者になっていた。その後多忙を極めた彼女はセコナール(睡眠薬)も併用するようになり、次第に薬物中毒の症状が現れ始める。自殺未遂、繰り返す薬物治療のための入退院、そして撮影所への遅刻や欠勤。結局主演が決まっていた「アニーよ銃をとれ」(1949)からは役を降ろされ、翌50年にMGMは彼女を解雇した。そして同じ年、ミネリとジュディは離婚した。なお余談だがジュディはワーナー・ブラザースの「スタア誕生」(1954)で劇的な再起を果たす。この一場面(♪The Man that Got Away♪ )も「ラ・ラ・ランド」に引用されている。

アーサー・フリード製作、ヴィンセント・ミネリ監督、ジーン・ケリー主演及び振付「巴里のアメリカ人」(1951)はアカデミー賞で作品賞・撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞など6部門を制覇した(加えてジーン・ケリーに名誉賞が贈られた)。全編がガーシュウィン兄弟の楽曲に彩られている(劇中でピアノ協奏曲 ヘ調を弾くオスカー・レヴァントはガーシュウィンの親しい友人で、伝記映画「アメリカ交響楽」では本人役で出演)。圧巻なのがジョージ・ガーシュウィン作曲「パリのアメリカ人」をバックに踊られる、18分に及ぶクライマックスのダンス・シーン。MGM映画を代表する究極の名場面であり、「ザッツ・エンタテインメント」第1作の最後を飾った。なお本作は舞台化され2015年にブロードウェイで上演、トニー賞に12部門ノミネートされた。日本では2019年に劇団四季が上演することも決まっている→こちら

20世紀フランスを代表する哲学者ジル・ドゥルーズ(1925-95)はヴィンセント・ミネリについて次のように語っている。

ダンスがイメージに流動的な世界を与えるということだけでなく、イメージの数だけ世界があるということを発見したのは、ミネリであった。(中略)世界の複数性はミネリの第一の発見であり、映画における彼の天文学的な位置はそれに由来している。ではしかし、どのようにして一つの世界から別の世界へと移行するというのか。ここに第二の発見がある。つまりダンスはもはや単なる世界の運動ではなく、一つの世界から別の世界への移行であり、別の世界への入り口、侵入、探検なのである。(中略)色彩は夢であり、それは夢がカラーだからではなく、ミネリにおける色彩が、すべてを吸引するほとんど貪り食うような高い価値を獲得しているからである。したがって、そこに忍び込み、吸い込まれなければならない。(中略)ダンスはもはや世界を描く夢の運動ではなく、みずからを深め、ますます激しくなり、別の世界へと入るための唯一の方法となる。その別の世界とは、ある他者の世界、ある他者の夢あるいは過去なのである。(中略)ミネリにおいてミュージカルは、かつてないほど記憶の、夢の、時間の謎に近づいた。現実的なものと想像的なものとの識別不可能な点に近づくようにして。それは夢についての奇妙で魅惑的な着想であり、夢はある他者の夢につねにかかわっていればいるからこそ、あるいは傑作『ボヴァリー夫人』におけるように、夢そのものが、人を貪り食う仮借ない力能を、みずからの現実の主体として構成しているからこそ、折り込まれた夢である。
(ドゥルーズ著/宇野邦一ほか訳「シネマ 2*時間イメージ」法政大学出版局)

僕はこの度「巴里のアメリカ人」を再見しながら、最後にジーン・ケリーが入って行くのは誰の夢なのかということに思いを馳せた。そして発見した。パリという街がドガやルノワール、ロートレック、ゴッホ、ユトリロら、ここに集まった画家たちに見せた夢の総体なのだと。

これは「ラ・ラ・ランド」に繋がっている。ミアとセブが最後に入っていくのはハリウッド(=ラ・ラ・ランド)という装置(生産工房)が、そこに集まってきた人々に見せる束の間のである。黒服を来たミアはそこに呑み込まれ、脱出不能になる。THE END.

あとドゥルーズも触れていたジェニファー・ジョーンズ主演「ボヴァリー夫人」(1949)も是非一度、ご覧頂きたい。紛うことなきミネリの最高傑作である。特に凄いのは舞踏会と、夫人が若い貴族と駆け落ちしようと深夜に乗合馬車を待っている場面。舞踏会では正に狂気が疾走する。彼女は若い貴公子たちに囲まれた自分の姿を鏡で見てウットリ酔い痴れ、その夢に呑み込まれてしまう。この舞踏会でのカメラワークをチャゼルは「ラ・ラ・ランド」でちゃっかり借用している(セレブ邸のプールにて、♪Someone in the Crowd♪)。

Bovary
↑ジュネス企画から発売されているDVDジャケット。

最後にヌーベルヴァーグについて語ろう。第2次世界大戦で戦場となったヨーロッパは破壊し尽くされた。その廃墟の中から真っ先に起こってきたシネマの運動がイタリアン・リアリズム(ネオレアリズモ)である。ヴィットリオ・デ・シーカ「自転車泥棒」'48やロベルト・ロッセリーニ「無防備都市」'45「戦火のかなた」'46がその代表作。ハリウッドで「無防備都市」を観たイングリッド・バーグマンは大感激し、直ちにロッセリーニに手紙を送った。そして彼女は夫や幼い娘を棄て、イタリアに飛んだのである。アメリカ国民は怒り、上院議会も彼女の不倫を激しく非難した(こうしてふたりの間に生まれたイザベラ・ロッセリーニは女優の道を進み、デヴィッド・リンチ監督「ブルーベルベット」や「ワイルド・アット・ハート」に出演することになる)。

やがてネオレアリズモがフランスに飛火し、1950年代後半にヌーヴェルヴァーグ〈新しい波〉が発生した。さらにヌーベルヴァーグに刺激を受けてベトナム戦争最中の1960年代後半にアメリカン・ニューシネマが勃発する。アメリカン・ニューシネマの代表作「俺たちに明日はない」の監督のオファーが最初はヌーベルヴァーグの旗手フランソワ・トリュフォーにあったことは余りにも有名である(トリュフォーは断り、次にジャン=リュック・ゴダールが打診された)。ヌーベルヴァーグ及びアメリカン・ニューシネマとは一体、何だったのか?簡単に言えば従来の映画の常識、既成概念の破壊である。若い映画作家たちは手持ちカメラを携えて撮影所から飛び出し、街頭でロケし始めた。つまりさすらいの映画だった(「イージー・ライダー」がその典型)。編集方法(モンタージュ)も劇的に変わった(ドゥルーズに言わせれば【知覚→情動〘感情〙→行動〘反応〙】という一連の「運動イメージ」の放棄/切断)。

では「ラ・ラ・ランド」とヌーベルヴァーグの関係を見ていこう。まず冒頭、地方からロサンゼルスに集まってきた若者たちが歌う♪Another Day of Sun♪はジャック・ドゥミ監督「ロシュフォールの恋人たち」'67(♪キャラバンの到着♪)への高らかな讃歌。楽曲もミシェル・グルランを意識して書いたと作曲家のジャスティン・ハーウィッツがインタビューで明言している。ミアが台本を書いて演じた一人芝居の役名は「シェルブールの雨傘」'64と同じジュヌビエーブ。衣装の色彩も港町三部作を彷彿とさせる。ミアとセブが抱き合ってキスした時にふたりの周囲をカメラがグルグル回る手法はクロード・ルルーシュ監督「男と女」'66。ミアがオーディションで叔母さんのエピソード@パリを語るが(真っ赤な嘘/FAKE)、これはフランソワ・トリュフォー監督「突然炎のごとく'62でジャンヌ・モロー演じるヒロインがとった行動(橋からセーヌ川に飛び込む)からの借用である。またこのオーディション・シーンの演出・カメラワークはアニエス・ヴァルダ(ドゥミ夫人)監督「5時から7時までのクレオ」'62とそっくりに仕上げられている(ミシェル・ルグランが役者として現れ、主人公が歌うピアノ伴奏を務める場面)。さらにクライマックスのダンス・シーン(=)ではアルベール・ラモリス監督「赤い風船」'56の少年がマネキン姿で登場する。あとピアノを弾くセブと踊るミアを交互に、カメラが高速でパン(Pan,水平方向に首を振る撮影法)するのもヌーヴェルヴァーグの特徴である。

ヴィンセント・ミネリの後継者デイミアン・チャゼル。次の作品ではどのような夢の力能を我々に見せてくれるのだろうか?とても愉しみである。

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2017年11月28日 (火)

劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜

評価:B+

映画公式サイトはこちら

上の一連の記事で「響け!ユーフォニアム」1st.シーズンを絶賛したが、正直テレビで放送された2nd.シーズンにはがっかりだった。第1期では全国大会を目指し京都府吹奏楽コンクール高校の部で金賞を受賞、代表に選ばれるまでが描かれていたわけだが、第2期では関西大会、全国大会への行程が描かれる。結局目標に向かって猛練習に励む日々が描かれるで変化に乏しい(マンネリズム)。主人公の久美子(ユーフォ)と親友・麗奈(トランペット)のイチャイチャ(花火大会)も、第1期;第8話(あがた祭り)の焼き直しで、既視感がある。

また新キャラの鎧塚みぞれ(オーボエ)と傘木希美(フルート)のエピソードも所詮余談でしかなく、正直どうでもいい!!

そんな訳でどうしようか相当迷ったけれど、第2期総集編である劇場版に足を運んだ(新規カットあり)。

冒頭にフォトセッション(記念撮影タイム)があり、SNSやブログで拡散可とアナウンスされた。こんなの初体験。パシャリ。

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意外だったのは1年生の久美子と3年生の田中あすかの関係だけに焦点を絞り、再編集したことで構成が引き締まり、格段に見応えあるものに仕上がっていた。鎧塚みぞれと傘木希美は潔くバッサリ切って殆ど画面に現れないのも良い。どうやら2人に関しては「リズと青い鳥」というスピンオフが製作されるようだ→こちら。需要あるのか!?

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2017年5月23日 (火)

シリーズ《映画音楽の巨匠たち》第6回/ミシェル・ルグラン篇(+大阪桐蔭高校吹部「キャラバンの到着」)

過去のシリーズは以下。

まずは昨年全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞し、全国の頂点に立った大阪桐蔭高等学校吹奏楽部が精緻華麗にマーチング演奏する「キャラバンの到着」をお聴きください→こちら(本当はこのフラワーコンサートに行く筈だったのだが、連れていく予定だった息子が当日朝に発熱し、断念した)。ミシェル・ルグランが作曲し、ジャック・ドゥミが監督した港町三部作のひとつ「ロシュフォールの恋人たち」冒頭のナンバーで、三菱ランサー・エボリューションのCMでもお馴染みだろう。

僕は映画「ラ・ラ・ランド」を観る前にまずiTuneでサントラをダウンロードした。そして最初の"Another Day of Sun"のイントロを聴いた瞬間に「アッ、キャラバンの到着だ!」と思わず叫んだ(映画の動画はこちら)。実際に若者たちが遠方から町にやって来て、車を降りるやいなや踊りだすというシュチュエーションも両者で完全に一致している。さて、ジャズが大好きな「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督(音楽学校でプロを目指しジャズ・ドラムを学ぶが、才能の欠如を感じ諦めたという)と、この作品でアカデミー歌曲賞及び作曲賞を受賞したジャスティン・ハーウィッツがこよなく敬愛するフランスの作曲家ミシェル・ルグラン(1932ー 、パリ生まれ)とは一体何者なのか?

ルグランの出発点は1958年(26歳)に新婚旅行でニューヨークに渡航した際に録音されたアルバム「ルグラン・ジャズ」である。

Jazz

参加しているミュージシャンが凄い。ジョン・コルトレーン(Sax)、ビル・エヴァンス(Pf)、そしてマイルス・デイヴィス(Tp)!!ジャズ・ジャイアンツが一堂に会するという壮観さ。ルグランは卓越したアレンジャーとしての才能を開花させた。これ必聴。

そして彼は丁度その頃、台頭してきたフランス・ヌーベルバーグ(新しい波)の映画作家たちと深く関わるようになる。

ではルグランが作曲した映画音楽ベスト10を選んでみよう。

  1. ロシュフォールの恋人たち (1967)
  2. 恋 The Go-Between (1971)
  3. 愛のイエントル Yentl (1983)
  4. シェルブールの雨傘 (1963)
  5. 華麗なる賭け (1968)
  6. 天使の入江 (1963)
  7. おもいでの夏 (1971)
  8. エヴァの匂い (1962)
  9. 愛と哀しみのボレロ (1981)
  10. ベルサイユのばら (1979)

多分、誰もが知っいるのは「シェルブールの雨傘」だろうが、真のルグラン・ファンなら10人中10人が「ロシュフォールの恋人たち」を真っ先に推すだろう。唯一無二。彼のエッセンスがギュウギュウに詰まっている。

ピアノの音がキラキラ煌めき、そして切ない協奏曲仕立ての「 (The Go-Between)」の音楽はこちら。映画のクライマックスではフーガも登場し、クラシカルなルグラン音楽の代表作である。

アカデミー賞で編曲・歌曲賞を受賞した「愛のイエントル」の白眉"Papa, Can You Hear Me?"の試聴はこちら。星空の下、死んだ父に対して謝り、でもこの生き方しかないの、分かってと訴える歌。バーブラ・ストライサンドが製作・監督・脚本・主演した、けったいな【ひとりミュージカル】映画である。最初から最後までバーブラがひとりで歌いまくる。ブロードウェイ・ミュージカルに主演したこともあるマンディ・パティンキンが相手役なのに、彼には一切歌わせない。最初観た時は開いた口が塞がらなかったが、次第にバーブラの人となりが判ってきて、好きになった。20世紀初頭ポーランドのユダヤ人コミュニティ。女は学問をすることが許されず、それに抗ったイエントルは男装して神学校(イェシーバー)に入学する。そして自分のついた嘘を貫き通すために女性と結婚までする。"It is written."がこの物語のキーワードとなる。女は書物を読まなくていい。男に従属するのが女の幸せ。そう「旧約聖書(またはユダヤ教の律法)に書いてある」。イエントルはこの「常識」に対して徹底的に反抗する。「予め定められた運命(It is written.)」なんてない。自らの手で書くのだ。彼女の生き様は後にディズニーの「アナと雪の女王」の"Let It Go"に流れ込み、国連の親善大使として活躍するエマ・ワトソン(「ハリー・ポッター」シリーズ、「美女と野獣」)へと継承されてゆく。映画のフィナーレで歌われる感動的な"A Piece of Sky"はこちら。イエントルは移民船に乗り込み、新大陸を目指す。コンサートでこの名曲をFilm上の自分自身と気持ちよくデュエットする愛すべきバーブラの姿はこちら(1分30秒あたりから)。どれだけ自分のことが好きやねん!!ここには写っていないけれど、実はコンサート会場にスティーヴン・スピルバーグも来ています(「イエントル」に出演しアカデミー賞にノミネートされたエイミー・アーヴィングは元スピルバーグ夫人で89年に離婚)。

華麗なる賭け」は「風のささやき」がアカデミー歌曲賞を受賞。スティーブ・マックィーンとフェイ・ダナウェイが格好いい。この歌が流れ、マックィーンが黄色いグライダーを操縦するシーンには痺れる→こちら!別のシーンだけれど、スプリットスクリーンもお洒落。

ジャック・ドゥミとの「天使の入江」は何かに急き立てられるかのような疾走感・焦燥感がある。試聴は→こちら。ギャンブルに明け暮れる男女の茫漠とした満たされない想い、空虚さが胸を打つ。

ルグランがアカデミー作曲賞を受賞した「おもいでの夏」はこちら

愛と哀しみのボレロ」は長年フランシス・レイとコンビを組んできたクロード・ルルーシュ監督(「男と女」)の大作で、なんと音楽はレイ×ルグランという豪華版。そしてルグランの曲では”世紀末の香り”にとどめを刺す!!→こちら。これはオーケストラバージョンだけれど、本編では歌バージョンあり。僕は本作を祖母と一緒に映画館(SY松竹文化@岡山市、2005年に閉館)で観た。中学3年生の時だった。そして初めて20世紀を代表する振付家モーリス・ベジャールと稀代のダンサー、ジョルジュ・ドンの名を知った。その御蔭で1985年3月4日に岡山市民会館でジョルジュ・ドン&東京バレエ団で「ボレロ」を観たのも鮮烈な体験だった。忘れもしない、大学入試の合格発表があった夜だった。その後ドンは1992年にAIDSで亡くなった。享年45歳。またルグランの朋友ジャック・ドゥミもAIDSで90年に命を落とした。そういう時代だった。

B

池田理代子(漫画)原作「ベルサイユのばら」(実写版)はジャック・ドゥミが監督しているが、作品自体は惨憺たる出来であった。もう泣きたくなった。ドゥミは「金のために撮った」と赤裸々に告白している。身も蓋もない。プロデューサーは山本又一朗、総製作費10億円を投じ、ベルサイユ宮殿でロケされた。資生堂がタイアップし、こんなCMもTVで放送された。原題が何故か"Lady Oscar"で、ダイアログも英語。意味不明。しかしルグランの音楽は掛け値なしの傑作だと僕は今でも確信している。是非聴いてみて→こちら!演奏はロンドン交響楽団。この佳曲を人知れず埋もれさせてしまうなんて勿体なさ過ぎる。Jazz Version(こちら)とか、対位法で作曲された雄大なフィナーレもどうぞ→こちら

番外編として手塚治虫原作、市川崑監督「火の鳥」実写版(1978)の音楽も素晴らしい。こちら!演奏はやはりロンドン交響楽団。ルグランはメイン・テーマのみ作曲している。

また彼はリナ・ホーン、キリ・テ・カナワ、ジェシー・ノーマンら一流歌手たちと組んでソング・アルバムをレコーディングしている。中でも一押しなのがナタリー・デセイとのアルバム。

Nat

デセイは「魔笛」「椿姫」などに出演する本格的オペラ歌手だが、ルグランの曲ではちゃんと柔らかいシャンソンの歌い方に切り替えている。キリ・テ・カナワやジェシー・ノーマンはオペラティック過ぎる(ヴィブラートがキツイ)のだ。

最後にルグランの舞台ミュージカルをご紹介しよう。劇団四季が上演した「壁抜け男」である。

Kabe

地味だけど愛すべき逸品。劇伴の奏者は3人だけ。後に拡大したオーケストレーション版でブロードウェイ上演もされた。

Amour

壁抜け男」は1999年に博多の福岡シティ劇場で日本初演された(ここは現在、劇団四季の専用劇場ではなくなりキャナルシティ劇場に名を変えた)。僕はこの初日に観ている。主演のデュティユルは現在、テレビ朝日「題名のない音楽会」で司会を務める石丸幹二。他に井料留美、光枝明彦、丹靖子ら。この4人は全員、既に四季を退団している。同メンバーでVHSビデオも出ていたのだけれど、現在Amazon.co.jpで購入出来るDVD/Blu-ray (23% OFF)は2012年の再演版で別キャストである。

シリーズ《映画音楽の巨匠たち》次回はバーナード・ハーマン(「めまい」「北北西に進路を取れ」「サイコ」「タクシー・ドライバー」)か、「スター・ウォーズ」の生みの親エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト辺りを考えている。どちらかもし、ご希望があればコメントをお寄せください。

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