舞台・ミュージカル

2023年7月27日 (木)

大竹しのぶ(主演)ミュージカル「GYPSY ジプシー」

5月4日大阪・森ノ宮ピロティホールで大竹しのぶ主演のミュージカル「GYPSY ジプシー」を観劇した。

共演は生田絵梨花、今井清隆、佐々木大光(7 MEN 侍/ジャニーズJr.) ほか。

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作詞:スティーヴン・ソンドハイム
作曲:ジュール・スタイン
脚本:アーサー・ローレンツ
演出:クリストファー・ラスコム

考えてみればソンドハイムとローレンツは『ウエストサイド物語』でも一緒に仕事をしている。

実在のストリッパー、ジプシー・ローズ・リーの回顧録を元に、“究極のショー・ビジネス・マザー”の代名詞となった母ローズに焦点を当てた作品である。兎に角このローズの個性が強烈で、1959年のブロードウェイ初演で主役を張ったエセル・マーマンも、BS放送で観た1993年製作テレビ映画版のベット・ミドラーもごっつかった。英語で表現するなら、a vivid impression/striking/too much !!といった感じか。

ステージ・ママ(stage mother)の代表として美空ひばりの母・加藤喜美枝、宮沢りえの母・宮沢光子、世界的ヴァイオリニストである五嶋みどりの母・五嶋節などが連想される。

大竹しのぶは想像以上に凄かった。圧巻だった。また元・乃木坂46の生田絵梨花だが、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』の頃の演技は硬かったというか、歌は上手いが台詞はほとんど棒読みだったけれど、なんだか最近どんどん上達してきた。大女優との共演も大いに刺激になったのでは?

先日、読売演劇大賞の中間選考結果発表があり、大竹しのぶが上半期の女優賞ベスト5に選ばれた。ぶっちゃけ最終選考で彼女が受賞するんじゃないかな?それだけのインパクトがあった。

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柿澤勇人(主演)ミュージカル「ジキル&ハイド」

4月20日(木)梅田芸術劇場へ。ミュージカル「ジキル&ハイド」を観劇。

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過去の感想は下記。

 ・ 石丸幹二 主演/ブロードウェイ・ミュージカル「ジキル&ハイド」 2016.03.30
 ・ 
石丸幹二 主演/ミュージカル「ジキル&ハイド」に認める反キリスト(Anti-Christ)思想 2018.04.05

本作の日本初演は2001年で鹿賀丈史が主演した。鹿賀は同役で2005年菊田一夫演劇賞の大賞を受賞している。僕は鹿賀のジキル&ハイドが大嫌いだった。年を取り過ぎ。あの演歌調の、下からすくい上げて音程を合わす歌い方にも虫唾が走る。そもそも菊田一夫演劇賞は東宝が創設したものなので東宝演劇部が製作したプロダクションや宝塚歌劇の演目が受賞する確率が高く、選考にあからさまな忖度があり、余り信用出来ない。芥川賞・直木賞の受賞作が圧倒的に文藝春秋が出版している小説に偏っていることに似ている(だから芥川賞・直木賞が欲しい作家は文藝春秋社から新刊を出す)。

主演が石丸幹二に代わり、漸くマシになった。初めて作品の面白さが理解出来た。そして今回、柿澤勇人(かっきー)の登場である。最高だった!ついでに言うが三谷幸喜が脚本を書いたNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でかっきーが演じた三代将軍・源実朝も素晴らしかった。劇団四季時代、『春のめざめ』のメルヒオール役を観て惚れ込んだ男は本物のスターだった。彼には色気とオーラがある。

 ・ 「春のめざめ」と現代ブロードウェイ・ミュージカル論 2009.09.10

かっきーは現在35歳。やっと『ジキル&ハイド』の主人公の年齢に近づいた。ただ友人のジョン・アンダーソンを演じる石井一孝が55歳で、20歳の年の差は苦しいなと思った。いや、かずさん歌上手いし年齢以外では何の支障もないんだけどね。ルーシー役の笹本玲奈については文句なし。

かっきーはナイーブな人物像を見事に演じ切り、彼の代表作になるのではないだろうか?先日、読売演劇大賞の中間選考結果発表があり、『ジキル&ハイド』のかっきーが上半期の男優賞ベスト5に選ばれた。菊田一夫演劇賞と違って、読売演劇大賞は本物だ。おめでとう!

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2023年7月26日 (水)

坂本昌行(主演)ミュージカル「ザ・ミュージック・マン」

5月13日(土)梅田芸術劇場へ。ミュージカル『ザ・ミュージック・マン』を観劇。

出演は坂本昌行(V6の元リーダー)、花乃まりあ、森 公美子、六角精児 ほか。坂本は『THE BOY FROM OZ』のピーター・アレン役などが評価され、今年の菊田一夫演劇賞を受賞している。

『ザ・ミュージック・マン』は1957年にブロードウェイで初演された。作詞・作曲はメレディス・ウィルソン。同年の『ウエストサイド物語』を押し退けてトニー賞最優秀ミュージカル作品賞、ミュージカル演出賞、ミュージカル主演男優賞(ロバート・プレストン)など5部門を制覇。一方、『ウエストサイド物語』は装置デザイン賞と振付賞の2部門にとどまった。

2022年にはヒュー・ジャックマン(ハロルド・ヒル教授)、サットン・フォスター(マリアン)でブロードウェイ・リバイバル上演が実現している。今回の演出は『ゴッドスペル』ブロードウェイ・リバイバルも手がけたダニエル・ゴールドスタイン、振付はエミリー・モルトビー。

僕は初演のロバート・プレストンが出演した1962年の映画版を観ている。監督は舞台版を演出したモートン・ダコスタ。マリアン役は映画『オクラホマ!』『回転木馬』のシャーリー・ジョーンズ。またウィンスロップという少年役でロン・ハワード(後に『ビューティフル・マインド』でアカデミー監督賞を受賞)が出演している。日本未公開。

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そして2001年8月末にブロードウェイでリバイバル上演を観た。ハロルド・ヒル教授役はクレイグ・ビアーコ。マリアンの本役はレベッカ・ルーカーだが、水曜日のマチネだったので代役(アンダースタディ)だったと記憶している。振付・演出はスーザン・ストローマンで、同時期に彼女が振付・演出した『プロデューサーズ』も公演中。後者はミュージカル作品賞・演出賞・振付賞などトニー賞を12部門受賞し、当時話題をさらった。

僕はネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック、ゲイリー・ビーチらオリジナル・キャスト総出演で『プロデューサーズ』を観て抱腹絶倒、大満足だったのだが、正直『ザ・ミュージック・マン』の方は詰まらなかった。演出や振付に冴えを感じなかった。実は『ザ・ミュージック・マン』のチケットは公演当日、タイムズ・スクエアのど真ん中にあり割引で買えるブース・TKTS(チケッツ)で手に入れたのだが、その際にオフ・ブロードウィの『ファンタスティックス』とどちらにするか最後まで迷っていた。『ファンタスティックス』は1960年の初演以降、40年以上に渡り世界最長のロングランを続けているミュージカルだし、次回観ればいいかと高をくくってしまった。しかしその年の9月11日にニューヨークを同時多発テロが襲いブロードウェイに足を運ぶ観光客は激減、『ファンタスティックス』の公演はあえなく翌年の2002年1月13日に閉幕してしまった。後悔先に立たず。僕は選択を誤った。

 ・ これぞミュージカルの原点!「ファンタスティックス」あれこれ(亜門版も)

さて今回のバージョン。すこぶる愉しい作品に仕上がっていた。古臭さも感じなかったし、高揚感に包まれた。坂本昌行は歌唱力に定評があり、「ジャニーズで最も歌がうまい」との呼び声が高いそうなのだが、評判に違わぬパフォーマンスで、人柄(雰囲気)も好感度大だった。ロバート・プレストンと比べても遜色ない。朝海ひかるはいい人と結婚した、と思った。 再演があればまた是非観たい。

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2023年5月16日 (火)

「たぶんこれ銀河鉄道の夜」大阪・大千秋楽公演

4月16日(日)サンケイホールブリーゼ@大阪市へ。『たぶんこれ銀河鉄道の夜』を観劇した。大千秋楽公演でライヴ配信もされたようだ。

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脚本・演出は京都を本拠地とする劇団「ヨーロッパ企画」の上田誠。出演は久保田紗友、田村真佑(乃木坂46)、お笑いコンビ「かもめんたる」の岩崎う大、槙尾ユウスケほか。ヨーロッパ企画からも藤谷理子、石田剛太、土佐和成、中川晴樹の4人が参加した。

ヨーロッパ企画の存在を初めて知ったのは瑛太、上野樹里らが出演した映画『サマータイムマシン・ブルース』だ。原作となった戯曲を書いた上田誠が引き続き脚色を担当。軽やかでめっちゃ面白かった!喜劇作家として上田は三谷幸喜に匹敵する才能がある。

次に森見登美彦(原作)上田誠(脚色)湯浅政明(監督)のテレビ・アニメ『四畳半神話大系』も途轍もない傑作で舌を巻いた。同じ座組によるアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』も文句なし。

 ・ 面白きことは良きことなり!/アニメーション映画「夜は短し歩けよ乙女」 2017.04.11

ただし、『サマータイムマシン・ブルース』と『四畳半神話大系』がコラボしたテレビ・アニメ『四畳半タイムマシンブルース』は退屈な駄作。監督が夏目真悟に交代したことが一因ではないかと考える。

そんなこんなでヨーロッパ企画の舞台は一度観なければと長年、思いを募らせてきた。

そしてそもそも僕は宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』が大好きで、杉井ギサブロー監督によるアニメーション映画も観たし、勿論そのパスティーシュ『銀河鉄道999』も然り。梅田隆司/大阪桐蔭高等学校吹奏楽部が定期演奏会で上演したミュージカル『銀河鉄道の夜』にも心打たれた。

 ・ 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演/ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜宮沢賢治の深層心理にダイブする。 2017.02.21

あと『少女革命ウテナ』で世界の少女たちを震撼させた幾原邦彦監督が10年ぶりに世に問うたテレビ・アニメ『輪るピングドラム』はアニメーション史上燦然と輝く金字塔だと信じて疑わないが、これも『銀河鉄道の夜』を下敷きにした作品だ(『ピンドラ』では村上春樹の短編小説『カエルくん、東京を救う』も重要な役割を果たす)。閑話休題。

さて、『たぶんこれ銀河鉄道の夜』は大いに気に入った!劇中歌14曲を上田が作曲し、総ての歌詞は「銀河鉄道の夜」からそのまま引用されている。たぶんこれミュージカル。ポエトリーラップを取り入れた手法も新鮮だった。

ブルーレイ発売が決まっており、早速予約しちゃいました。

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2023年5月12日 (金)

スティーヴン・ソンドハイム(作詞・作曲)ミュージカル「太平洋序曲」

4月13日梅田芸術劇場へ。スティーヴン・ソンドハイム(作詞・作曲)ジョン・ワイドマン (脚本)によるミュージカル『太平洋序曲』を観劇した。

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1976年に(『オペラ座の怪人』の)ハロルド・プリンス演出でブロードウェイ初演。2000年に宮本亜門演出により日本初演された。僕はこれを新国立劇場で観ている。たまたま来日中だったソンドハイムが観劇し絶賛、彼の推薦で宮本亜門演出により2004年ブロードウェイでも再演された。この公演はトニー賞でミュージカル・リバイバル作品賞、ミュージカル装置デザイン賞(松井るみ)、ミュージカル衣装デザイン賞(コシノジュンコ)など4部門にノミネートされ、宮本はブロードウェイ史上初の東洋人演出家として名を刻んだ。

今回の演出は『TOP HAT』のマシュー・ホワイト。日英合作による上演。2023年11月にはロンドンで同プロダクション・英国キャスト版の上演も決まっている。

出演は山本耕史、海宝直人、立石俊樹、朝海ひかる 他。

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浦賀沖に黒船が来た頃の幕末のお話で、香山弥左衛門という役はペリー来航の際に浦賀奉行と偽って幕府側通訳をつとめた香山栄左衛門(かやまえいざえもん)がモデル。ジョン万次郎も登場するが、彼の行動は史実とかなり異なる。倒幕(討幕)運動の志士たちをいろいろミックスした人物像になっている。そもそも将軍を女性(朝海ひかる)が演じているわけで自由な解釈だ(オリジナル・ブロードウェイ・キャストでは狂言回し役が兼任した)。

アフタートークでは「開演前、楽屋で何をしていますか?」という質問に対して山本耕史が「プロテインを飲んでいる」と答え、「今日も楽屋入り前にスポーツ・ジムで筋トレした」などと、ほぼ筋肉の話で終始した。彼はトレーナーの資格を取り、どうやって鍛えたら良いか後輩にアドバイスもしているそう。

僕が大好きなミュージカルだが宮本亜門演出のプロダクションの方が驚きがあって、断然印象深かった。残念。

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2023年4月24日 (月)

2.5次元ミュージカル??「 SPY × FAMILY 」は宝塚宙組「カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~」より断然面白い!

2.5次元ミュージカルとは何か?一般社団法人「日本2.5次元ミュージカル協会」HPに記された定義は以下の通り。

日本の2次元の漫画・アニメ・ゲームを原作とする3次元の舞台コンテンツの総称。早くからこのジャンルに注目し、育ててくれたファンの間で使われている言葉です。

アニメやゲームの2次元の世界と、現実の3次元の世界の中間の意味で「2.5次元」と呼ばれている。代表作として『テニスの王子様』『刀剣乱舞』が挙げられるが、広義として考えれば宝塚歌劇の『ベルサイユのばら』『はいからさんが通る』『天は赤い河のほとり』『ポーの一族』だって漫画が原作の2.5次元ミュージカルだ。つまり狭義で「2.5次元舞台」とは、宝塚歌劇・劇団四季・東宝といったメジャー企業の公演を除き、さらに名の知れた俳優や演出家などによる集客ではなく、原作の知名度に依る興行を指すと言えるだろう。

だから『 SPY × FAMILY 』は広義で言えばれっきとした2.5次元ミュージカルだが、大企業・東宝株式会社が製作しているので狭義では該当せず、「日本2.5次元ミュージカル協会」HPにも掲載されていないという、ややこしい事態になっている。

兵庫県立芸術文化センターで観劇した4月12日(水)ソワレのキャストは以下の通り。

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13日(木)マチネのキャストは、

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主人公ロイド・フォージャーとヨル・フォージャーはダブルキャスト。子役のアーニャはクワトロ(4人)キャスト。

森崎ウィンはスティーヴン・スピルバーグ監督『レディ・プレイヤー1』に出演し、「俺はガンダムで行く!!」という名言を残し世界中の映画ファンを痺れさせた。また名古屋テレビ放送(メ〜テレ)制作、深田晃司監督のテレビ・ドラマ『本気のしるし』に主演、これを再編集した『本気のしるし〈劇場版〉』が後に全国公開され、キネマ旬報ベストテンで日本映画第5位に選出されるなど高い評価を受けた。現在Netflixからドラマ版が配信中。彼は背が高く立ち姿が凛として美しい。舞台映えがする。やはり映画やテレビ・ドラマで主役を張る俳優にはオーラがある。歌も上手く高音がよく伸びる。素晴らしい!

鈴木拡樹(ひろき)は舞台『弱虫ペダル』や『刀剣乱舞』に出演。正に2.5次元俳優と言えるだろう。僕は今回初めて観たが、ホストクラブにいそうな顔立ち。歌はソコソコ。

唯月ふうかはミュージカル『ピーター・パン』でデビュー。『レ・ミゼラブル』のエポニーヌや『屋根の上のヴァイオリン弾き』の三女チャヴァ、『デスノート The Musical』のミサミサ、『四月は君の嘘』などでお馴染み。僕が大好きな女優だ。今回も文句なし。

佐々木美玲は日向坂46の現役メンバー。「non-no」の専属モデルでもあるそう。今まで全く知らず、正直可愛いと思わないし、歌は音程が覚束ない。ダンスの動きのキレは良かった。

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グッズ販売の行列が見たことがないくらい凄まじく、仰天した。これが2.5次元のノリなのか!?売り切れ続出、大量に買い込んでいる人もいた。

脚本・作詞・演出のG2はふざけたペンネームだが実はまっとうな、手堅い演出をする人。かみむら周平の手がけた音楽はジャズのビッグバンド風で格好良く、本格的ミュージカル作品に仕上がっていた。英国で学びオペラの世界でも活躍する松生紘子の美術も素晴らしい。彼女は『舞台少女ヨルハVer1.1a』で第1回伊藤熹朔記念賞を受賞。他にミュージカル『レベッカ』の舞台美術も担当。

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はっきり言って同じスパイ物でも宝塚歌劇『カジノ・ロワイヤル〜我が名はボンド〜』より『 SPY × FAMILY 』の方が断然完成度が高く、見応えがあった。

 ・真風涼帆/潤 花(主演)宝塚宙組「カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~」は駄作!(原作小説/映画版との比較あり)

少し残念だったのは、本作はアーニャがイーデン校に合格するまでしか描かれないのでクラスメートも登場しないし、まだ序盤も序盤。物語が「起承転結」で言えば「起承」くらいまでしか進んでいない。つまり主人公ロイドの任務=オペレーション〈梟〉(ストリスク)の途中で終わってしまうので、中途半端な感は否めない。しかし、まぁ観客の99%は漫画を読んでいるかアニメを観ている筈なので、多分問題ないのだろう。『テニスの王子様』『刀剣乱舞』のように、シリーズ化を希望する。

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2023年4月19日 (水)

上白石萌音/屋比久知奈(主演)ミュージカル「ジェーン・エア」(ブロンテ姉妹の作品分析も)

4月7日(金)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティへ。

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『ジェーン・エア』は台本・作詞・演出:ジョン・ケアード(『レ・ミゼラブル』『ダディ・ロング・レッグズ』『千と千尋の神隠し』)、作詞・作曲:ポール・ゴードン(『ナイツ・テイル』)によるミュージカル。1996年カナダ・トロントで初演。2000年にブロードウェイでも上演され、トニー賞でミュージカル作品賞・主演女優賞・台本賞・楽曲賞・照明賞の5部門にノミネートされた(この年はメル・ブルックスの『プロデューサーズ』が史上最多12部門受賞と席巻した)。2009年に日本で上演された際は松たか子と橋本さとしが主演、今回は新演出版の初披露である。翻訳・訳詞の今井麻緖子はミュージカル『レ・ミゼラブル』日本版でファンティーヌを演じた元女優で、ケアードと結婚した。

ジェーン・エア役は上白石萌音と屋比久知奈のダブルキャストで、主人公が寄宿学校ローウッド学院で出会う友人ヘレン・バーンズとの役替り。ロチェスター役は井上芳雄、他に春野寿美礼、樹里咲穂、仙名彩世、春風ひとみ、大澄賢也など。

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ジェーン・エアを上白石萌音が演じたバージョンは東京公演のライヴ配信を観た。

上白石萌音は2022年に出演した舞台『千と千尋の神隠し』とミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』(やはり井上芳雄との共演)の演技が高く評価され、読売演劇大賞 最優秀主演女優賞を史上最年少で受賞した。鹿児島県出身の彼女は14歳の時にミュージカル『王様と私』で初舞台を踏み、映画デビュー作『舞妓はレディ』もミュージカル。だから歌はお手のもの。しっかり感情がこもった演技で、意志が強く、不屈のジェーン像を作り上げていた。

一方、沖縄県出身の屋比久知奈はディズニー映画『モアナと伝説の海』のオーディションを受けモアナ役に抜擢され、劇中歌も歌った。その後ミュージカル『タイタニック』や『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役、『ミス・サイゴン』のキム役として活躍。彼女は上白石とは違い、控えめで感情を表に出さないというアプローチ。むしろジェーンの優しさが滲み出してくる感じで、これはこれで優れた解釈だと思った。

またジェーンの冷酷な叔母と貴族レディ・イングラムを演じた春野寿美礼がとっても意地悪で秀逸。

シャーロット・ブロンテの父親は牧師で、母親が亡くなったため8歳の時に姉2人と2歳年下のエミリーと共に寄宿学校に入れられた。しかし環境が劣悪だったため姉2人は結核にかかり11歳と10歳で死去。この学校がローウッド学院のモデルである。

僕は『ジェーン・エア』の原作小説が大好きで、妹エミリー・ブロンテの『嵐が丘』も中学生の時に熱に浮かされたように夢中になって一気に読んだ記憶がある。このふたつの小説には共通項がいくつかある。

 1)『ジェーン・エア』出版当時(1847年)は女性作家に対する評価が低く、姉妹は男性の筆名を用いた。姉シャーロットは「カラー・ベル」名義で、妹エミリーは「エリス・ベル」名義で。なお1818年にメアリー・シェリーがゴシック小説『フランケンシュタイン』を書き上げたときも出版社から「作者が女だと本が売れない」と諭され、メアリーの夫パーシー・シェリーの署名入りの序文をつけて匿名で発表した。この辺の事情は映画『メアリーの総て』で詳しく描かれている。
 2)どちらもイングランド北部ヨークシャー地方に広がる荒地(ムーア)の描写が印象的で、その荒涼とした姿は主人公の心象風景と重なるように設計されている。
 3)反キリスト(antichrist)的精神が作品を貫いている。『嵐が丘』のヒースクリフが目論む復讐劇はキリスト教の精神に反するし、『ジェーン・エア』終盤に登場する牧師セント・ジョンは独善的な男で、ジェーンに対し神の忠実な僕(しもべ)として宣教師の妻になりインドへ同行することを求める。 しかし彼女を愛しているとは決して言わない。また重婚しようとするロチェスターはとんでもない男であり、一夫一婦制を良しとするキリスト教の教義にも反する。こうしたところに牧師だった父親に対する強い反発心を感じずにはいられない。寄宿学校でも散々な目に遭ったわけだし。
 4)“過剰な人”が登場する。『嵐が丘』は正に“狂恋”をテーマにした激烈な小説であり、ジェーン・エアも激しく燃え上がるような情熱を胸に秘めている。ロチェスターの行動も“過剰”としか言いようがあるまい。そういう意味でドストエフスキーの小説に通じるものがある。

これらの特徴が舞台版でもしっかり捉えられていたし、エッセンスを抽出しコンパクトにまとめた見事な台本だと言える。音楽も美しく素晴らしい!あと松井るみによる洗練された舞台装置が出色の出来。ブロードウェイで上演された『太平洋序曲』でトニー賞舞台美術賞にノミネートされた実力は折り紙付きだ。

本作はBlu-ray発売が決まっている。必見。

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2023年4月 6日 (木)

真風涼帆/潤 花(主演)宝塚宙組「カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~」は駄作!(原作小説/映画版との比較あり)

4月4日(火)宝塚大劇場へ。宝塚宙組『カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~』を観劇した。

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配役はジェームズ・ボンド:真風涼帆、デルフィーヌ:潤 花、ル・シッフル:芹香斗亜ほか。

まず率直な感想を述べると「これはジェームズ・ボンドの物語ではない。救いようのない駄作」に尽きる。

役者については文句ない。真風涼帆はスタイリッシュで格好良く、男役の集大成という印象。潤 花も美人だし、ボンド・ガールとして悪くない。

基本的に僕は宝塚歌劇団・演出家のエース、小池修一郎のことを高く評価している。なかんずく『ポーの一族』は最高傑作だと思うし、『ヴァレンチノ』『蒼いくちずけ』『グレート・ギャツビー』『失われた楽園ーハリウッド・バビロン』『イコンの誘惑』『オーシャンズ11』『るろうに剣心』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』なども好きだ。しかし、たまに空振りもある。2003年紫吹淳の退団公演『薔薇の封印ーヴァンパイア・レクイエム』や2007年春野寿美礼の退団公演『アデュー・マルセイユ』、そして2012年『銀河英雄伝説』だ。

 ・ 凰稀かなめ主演 宝塚宙組/銀河英雄伝説@TAKARAZUKA + 宝塚ガーデンフィールズ探訪 2012.09.30

本作も『アデュー・マルセイユ』レベルに詰まらなかった。小池(作・演出)に限らず、姿月あさとの『砂漠の黒薔薇』とか、香寿たつきの『ガラスの風景』、蘭寿とむの『ラスト・タイクーン』などトップ・スターの退団公演は作品的にハズレの確率が高い気がする。

 ・ 蘭寿とむ主演 宝塚花組「ラスト・タイクーン」/作・演出の生田大和に物申す! 2014.02.22

麻路さきの『皇帝』(作・演出:植田紳爾)なんか、あまりに退屈すぎて客席のファンが舞台背景の星を数えていたというのは有名な話だ。それでもスターの退団公演ならチケットは売り切れる。閑話休題。

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『カジノ・ロワイヤル』の話に戻ろう。原作の出版は1953年だが、宝塚版は時代設定をフランス・パリで五月革命(五月危機)が勃発した1968年に移行している。同じ5月に映画監督フランソワ・トリュフォーとジャン=リュック・ゴダールによるカンヌ国際映画祭粉砕事件も発生している。激動の時代、革命の季節だった。

ルネ・フレミングの原作小説は007シリーズの第1作目であり、ヒロインは美貌の英国秘密情報部員ヴェスパー・リンドだ。しかし最後にヴェスパーは自殺。実はイギリス空軍にいたポーランド人の恋人を人質に取られて、ソ連の二重スパイをさせられていたと告白する遺書を彼女は残す。

ダニエル・クレイグが主演した2006年の映画版のプロットは比較的原作に忠実なものになっている(設定は現代に移され、カジノがあるのはモンテネグロ、バカラで勝負するのではなく時代の流れに合わせてポーカー、それも手札が5枚ではなく2枚配られるテキサス・ホールデムに変更されている)。これは情感豊かな傑作だった。

宝塚版でもヴェスパーは登場するが、ボンドと恋人関係になるわけでもなく、ほんの脇役に過ぎない。代わりにヒロインの役割を果たすデルフィーヌはロシア・ロマノフ家の末裔という設定で、なんと怪僧ラスプーチンの亡霊まで現れる。いやいや、『アナスタシア』じゃないんだから!小池は余程『アナスタシア』をやりたかったのだろうか?

 ・ 真風涼帆(主演)宝塚宙組「アナスタシア」と、作品の歴史を紐解く。 2020.12.02

そもそもボンド・ガールに貴族の令嬢というのは似合わない。多くはスパイ、悪党の愛人もしくは娘といった身分の低い女たちである。

原作でヴェスパーはル・シッフルに拉致されボンドがそれを追うが、彼女が監禁されているのは「夜遊び荘」というアジト。それが宝塚版でボンドがヒロインを救うのは古城で、そこから2人でパラシュートで脱出するというロマンティックな結末になっている。

007シリーズに古城が登場するというのも記憶になく、むしろこの世界観はアルセーヌ・ルパンが主人公のモーリス・ルブラン作『奇巌城』とか、宮崎駿監督のアニメ『ルパン三世 カリオストロの城』(元ネタはルブランの小説『カリオストロ伯爵夫人』)に近い。

いろいろな要素を詰め込みすぎて全体としてチグハグで統一感がなくなり、本来あるべき色を失ってしまった。なんだか『ベルサイユのばら』とか『キャンディキャンディ』といった昭和の少女漫画やアニメの世界に紛れ込んだような気持ちになった。昭和生まれのおっさん、小池修一郎の感性は最早古すぎる!令和の女性観客たちが何を求めているか全くわかっていないと、ここで論難させてもらう。

それからジェームズ・ボンドはイギリス人でデルフィーヌはロシア人。それなのにどうして別れの挨拶が「アデュー」なの?舞台がフランスだから??……んなあほな!!だから余計に『アデュー・マルセイユ』の悪夢を思い出しちゃったんだよ。

高い版権を支払って、この体たらくでは勿体ない。

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2023年3月27日 (月)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演 2023/「ラ・マンチャの男」「West Side Story」「My Fair Lady」 ミュージカル三昧!!

2022年全日本吹奏楽コンクール高校Aの部は大阪桐蔭を含め関西支部代表の3校が総て銀賞だった。関西勢が金賞0に終わったのは2006年(この年、丸谷明夫/淀工は3年連続全国大会出場により不出場)以来16年ぶり。やはり丸谷先生が膵臓がんでお亡くなりになったことが大きいのだろう。享年76歳。

3月12日(日)フェスティバルホール@大阪市へ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会(卒業公演)を聴く。指揮は総監督の梅田隆司先生。

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・ジェイムズ・バーンズ:アルヴァマー序曲
・エバン・コール:鎌倉殿の13人
・フィリップ・スパーク:宇宙の音楽
・ミュージカル「ラ・マンチャの男」
・ミュージカル「West Side Story」
・ミュージカル「My Fair Lady」
・甲子園応援コーナー
・《18年間の歩み》「ゆずメドレー」
・《卒業生を送る歌》 栂野知子:時を越えて
・松任谷由実:卒業写真

「アルヴァマー序曲」にはたくさんの思い出がある。僕は高校一年生の時にこの曲を吹奏楽コンクール自由曲で演奏した(担当はフルート)。1982年だからアメリカで初演された翌年だ。日本では模範演奏として初めて録音された汐澤安彦/東京佼成ウインドオーケストラのLPレコード(世界初の音楽CDが発売されるのは1982年10月1日)が、楽譜に記された〈♩=132〉より遥かに速く、〈♩=160〉くらいでぶっ飛ばす爽快な演奏で、アマチュア演奏家たちもこれに飛びつき皆真似をした。しかし後に作曲家のバーンズが「日本のバンドは私の曲を何故あんなに速いテンポで演奏するんだ!」と不満を漏らしていると漏れ伝わるようになり、日本人は反省した。その後、テレビ朝日『題名のない音楽会』で佐渡裕/シエナ・ウインド・オーケストラがこの曲を演奏した際は楽譜に忠実なテンポで、僕が生で聴いた丸谷明夫/なにわ《オーケストラル》ウィンズも同様だった(ライヴCDが発売されている)。

 ・ 待望のアルヴァマー序曲登場!~なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2011  2011.05.06

今回の梅田先生の指揮は汐澤安彦に近いテンポで、やはりアルヴァマーはこれくらいアクセルを踏み込んでこそ気持ち良いんだ、と思った。

『鎌倉殿の13人』も勇ましく格好いい曲。吹奏楽版も何ら違和感がなかった。作曲家のエバン・コールはアメリカ合衆国カリフォルニア州生まれだが、日本のアニメが好き過ぎて日本に移住したという人。NHKの番組に登場したとき日本語がぺらぺらで驚いた。僕が彼の才能に心底惚れ込んだのが京都アニメーションの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。感動的で質の高い傑作だ。劇場版の製作中に例の痛ましい放火殺人事件があり、36人の方が亡くなった

『宇宙の音楽』は2005年6月3日にシンフォニーホール@大阪で吹奏楽版世界初演を聴いている。山下一史/大阪市音楽団(現:オオサカ・シオン・ウィンド・オーケストラ)による、ごっつい名演だった(ライヴCDが発売されている)。会場に京都の洛南高等学校吹奏楽部・顧問の宮本輝紀先生が生徒を引率して聴きに来られていたことを覚えている。たしか日テレの番組「笑ってコラえて!・吹奏楽の旅」が洛南に取材した年だ。当時男子校だった洛南は翌2006年に共学になり、宮本先生は2010年に急性大動脈解離により69歳で逝去された。また2007年には(当時)吹奏楽の甲子園と呼ばれた普門館で開催された全日本吹奏楽コンクールにおいて藤重佳久/精華女子(福岡県)の演奏で『宇宙の音楽』を聴き、ぶっ飛んだ!!特にホルンの咆哮が凄まじかった。

 ・ 第55回全日本吹奏楽コンクール高校の部を聴いて 後編 2007.10.26

藤重/精華女子は2011年も自由曲に『宇宙の音楽』を選び、いずれも全国大会金賞を受賞している。

今回の大阪桐蔭の演奏はどうしても強烈な印象を受けた精華女子と比べざるを得ず、ホルンが物足りなく感じられた。銀賞という結果は致し方ないだろう。

余談だが僕はスパークの指揮でも『宇宙の音楽』をライヴで聴いている。ところが端正だが熱量の足りない淡白な演奏で、「必ずしも作曲家本人が自作の一番優れた表現者ではないのだな」ということを思い知った。ベンジャミン・ブリテン、レナード・バーンスタイン、ジョン・ウィリアムズ、久石譲など指揮者としても一流の作曲家というのは実は稀なのだ。

 ・ フィリップ・スパーク登場!「大阪市音楽団」改め、Osaka Shion 定期 2015.06.03

『ラ・マンチャの男』は1969年より現・ 松本白鸚がドン・キホーテを演じ続けているわけだが、僕は彼が松本幸四郎を名乗っていた時代に観ている。確か2002年、帝国劇場での公演だったと記憶している。アルドンサを松たか子が演じ、アントニア役が松本紀保。父娘3人の共演だった。演出も兼ねる白鸚は1970年(当時は市川染五郎を名乗る)にブロードウェイに渡り同役を演じており、カーテンコールは英語で「見果てぬ夢」を歌ってくれたことを記憶している。ピーター・オトゥール主演の映画版も観たがピンとこず、正直この作品の価値が僕には理解出来ない。またそのうち見直したいと思う(新しいキャストで!)。最後の観劇から20年以上経過しているので新たな気付きがあるかも知れない。

『West Side Story』はパンチが効いて弾けるリズム、最高だった!以前大阪桐蔭がコンクール自由曲で演奏したレナード・バーンスタイン作曲『キャンディード』序曲は生気が感じられなかったが、『West Side Story』の方が遥かに梅田先生と相性が良い。これとか『ラ・ラ・ランド』「キャラバンの到着(映画『ロシュフォールの恋人たち」より)」 などJazzyな曲を振らせたら日本で梅田先生の右に出るものはいないと僕は確信している。トランペットやトロンボーンなどホーンセクションが咆え、スカッとする。たまらん。正に水を得た魚。『ウエストサイド』か『ラ・ラ・ランド』をコンクール自由曲ですればいいのに……。それとも音楽の二次的著作物使用権の問題で難しいのだろうか?

作曲家自身の指揮も含め、『West Side Story』の名演はあまたあれど、世界最高の演奏は「エル・システマ」の申し子、グスターヴォ・ドゥダメルが指揮したものだと思う。シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラがノリノリで演奏した「マンボ」(アルバム『フィエスタ!』に収録)と、映画のサウンドトラック・アルバムの2種類だ。映画『ウエスト・サイド・ストーリー』にはスピルバーグ監督の朋友ジョン・ウィリアムズが“ミュージック・アドヴァイザー”としてクレジットされているが、彼の最大の功績は指揮者としてドゥダメルを推薦したことにある。梅田/大阪桐蔭の演奏はその次に推せると断言する。

 ・ 画期的音楽教育システム「エル・システマ」とシモン・ボリバル・ユースオーケストラ 2009.04.02

「トゥナイト(クインテット)」の前に「クール」が演奏されたので順序は舞台版・スピルバーグ監督版と同じ。これがロバート・ワイズ監督による1961年映画版だと「トゥナイト(クインテット)」 「決闘」の後に「クール」が来る。あと踊りの振付が本格的でキマっていた。学芸会のレベルを遥かに超えるものだった。必見。

 ・ 【永久保存版】どれだけ知ってる?「ウエスト・サイド・ストーリー」をめぐる意外な豆知識 ( From Stage to Screen ) 2021.12.01

実は現在、Netflixがレナード・バーンスタインを主人公とする映画"Maestro"を製作しており、今年中に配信される予定。監督・脚本・主演はブラッドリー・クーパー(『アメリカン・スナイバー』『アリー/スター誕生』『ナイトメア・アリー』)、レニーの妻フェリシアをキャリー・マリガン(『華麗なるギャツビー』『プロミシング・ヤング・ウーマン』『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』)が演じる。物語の中でジェローム・ロビンスも登場するようだ。実はこの企画、スピルバーグが長年温めていたものだがクーパーに監督を譲り、自身はマーティン・スコセッシと共にプロデューサーとして名を連ねている。恐らく『ウエスト・サイド・ストーリー』のリメイクが上手くいったから、もう十分だと考えたのだろう。LGBTQとしてのレニーの苦悩・葛藤をどう描くのか、世界の注目が集まっている。

ディズニー・プラスから配信されているドキュメンタリー(『サムシングズ・カミング:ウエスト・サイド・ストーリー』)の中で、スピルバーグは舞台版『WSS』のクリエイターたち、アーサー・ローレンツ(台本)、ジェローム・ロビンス(振付)、スティーヴン・ソンドハイム(作詞)、レナード・バーンスタイン(作曲)のことを「4人のゲイのユダヤ人(They are four jewish gay men.)」と明言している。その性的マイノリティからの視座が明確に打ち出されたのがスピルバーグ版であった。

『マイ・フェア・レディ』は高校生の時に映画のサウンドトラックLPレコードを買い、歌詞カードを眺めながら繰り返し聴いた(レンタルビデオ店も存在しない時代で、実際に映画を観るのは大学に入ってからである)。だから「スペインの雨」や「踊り明かそう」は今でも英語で暗唱出来る。そのように親しんできたミュージカルだが、物語にはどうしても不可解なところがあった。何故ピカリング大佐はヒギンズ教授の家に居候をするのか?戻ってきたイライザに対してヒギンズが「わたしのスリッパはどこだ?」という台詞で幕を閉じるが、一体これはどういう状況だ?果たして本作は本当にラブ・ストーリーなのか?だって恋人に対してこんな事は言わないでしょ。

それから30年以上の歳月を経て、僕は漸く理解した。ヒギンズとピカリングというゲイ・カップルが花売り娘イライザを養女として迎えるまでの物語だと解釈すれば全ての謎が解けるのだと。つまりミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』(映画版は『Mr.レディMr.マダム』という、とんでもない邦題で劇場公開された)と本作は表裏一体なのだ。ちなみに映画『マイ・フェア・レディ』を監督したジョージ・キューカーも、装置・衣装デザインを担当したセシル・ビートンもゲイだった。

僕は2022年1月14日に大阪・梅田芸術劇場で神田沙也加主演『マイ・フェア・レディ』を観る予定だったが、21年12月18日に彼女が(札幌公演中に滞在していたホテルで)投身自殺してしまったため叶わなかった。ダブル・キャストの朝夏まなとが代演すると発表されたが、到底観劇する気分になれず手持ちのチケットは払い戻ししてもらった。以前観た神田のイライザは本当に生き生きとして素晴らしかった。心底口惜しい。

 ・ 神田沙也加主演 ミュージカル「マイ・フェア・レディ」の〈正体〉 2018.10.23

大阪桐蔭のパフォーマンスは昨年の『エリザベート』もそうだったが、まず衣装の完成度に息を呑んだ。3人のイライザが登場し、それぞれ〈花売り娘時代(コヴェント・ガーデン王立歌劇場前)〉〈ヒギンズ家の居間で上流階級の話し方を特訓する場面〉〈アスコット競馬場〉の服をまとっているのだが、何れもセシル・ビートンがデザインしたそれを彷彿とさせる、洗練された、「学芸会的」安っぽさを微塵も感じさせない仕上がりだった。生地が高そう。

役者としては『WSS』でアニタを演じた生徒と『My Fair Lady』で「踊り明かそう」を歌った生徒が特に素晴らしく、聴き惚れた。

あと面白いなと思ったのはイライザが舞踏会デビューする場面で、恐らくオリジナル楽曲の楽譜が見つからなかったのだろう、1953年エリザベス2世の戴冠式のためにウィリアム・ウォルトンが作曲した行進曲「宝玉と勺杖」(宝玉と王の杖 が演奏されたこと。僕が大好きな楽曲で、違和感なく場面にすごく合っていた。大阪桐蔭はこれをマーチングコンテストで演奏したことがある(出場者に人数制限が規定に設けられて以降、梅田先生は参加をやめた)。

 ・ 第25回全日本マーチングコンテスト(高校以上の部)2012 前編 2012.11.21

恒例のリクエストコーナーでは久しぶりにRADWIMPSの『君の名は。』が聴けて嬉しかったのだが、以前演奏された「夢灯籠」がカットされていてショックだった!つまり「前前前世〜スパークル〜なんでもないや」の3曲メドレーだったのである。演奏は極上だったのだが、ガーン……。「夢灯籠」、死ぬほど好きなんだよね。

 ・ 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演/ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜宮沢賢治の深層心理にダイブする。 2017.02.21

「なんでもないや」は劇中で三葉(みつは)の声をあてている上白石萌音が歌うのを阪急西宮ガーデンズ4階広場で聴き、サインも貰った。

 ・ 「君の名は。」の三葉が歌う ”なんでもないや” @兵庫県・阪急西宮ガーデンズ 2016.10.17

その後、彼女はNHK朝ドラ『カムカムエブリバディ』に出演し国民的人気を得て、昨年は舞台『千と千尋の神隠し』とミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』の演技が評価され読売演劇大賞・主演女優賞を史上最年少で受賞するなど、今や飛ぶ鳥を落とす勢いである。今年1月25日には何と日本武道館でコンサートを開催した。『エリザベート』の公演中だった井上芳雄が福岡から駆けつけるサプライズもあったとか。いやはや!

ここで背景スクリーンに映し出させる映像を制作されている生徒さんにちょっとだけ注文がある。完成度が高く常々感心して見ているが、「前前前世」の風景には東京スカイツリーだけではなく、是非NTTドコモ代々木ビル(ドコモタワー)を入れて欲しかった!!何故なら新海誠監督にとって東京を象徴する存在だから。フランソワ・トリュフォー監督『大人は判ってくれない』におけるエッフェル塔の・ようなもの。

 ・ 【考察】超マニアック講座! 新海誠監督「すずめの戸締まり」をめぐる12の事項

この声が届くといいな。

この度卒業する生徒は2020年4月に入学した。日本で初めて新型コロナウィルスに感染した患者が確認されたのがこの年の1月15日。第1回目の緊急事態宣言が発令されたのは20年4月7日だった。だから3年間まるまるコロナ禍の中で高校生活を送ってきたことになる。学校に集まって合奏することも出来ず、それぞれ自宅の部屋からリモートで演奏したこともあった(動画はこちら)。大変だったね、よく頑張った。そしておめでとう。

アンコールは鉄板のタケカワ・ユキヒデ(樽屋雅徳編)『銀河鉄道999』。これなしでは大阪桐蔭を聴いたという実感が沸かない。照明も綺麗だったなぁ。なお梅田先生がMCで「先日お亡くなりになった原作者の石ノ森章太郎さん」と仰ったのはご愛嬌。実は松本零士と石ノ森章太郎の誕生日は全く同じ1938年1月25日。何というシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)だろう!

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2023年3月 9日 (木)

バブル期のあだ花、「東京ラブストーリー」まさかのミュージカル化 !?

12月24日(土)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティへ。ミュージカル『東京ラブストーリー』を観劇。

Tokyo

ダブル・キャストで、僕が観たのは空キャスト。配役は……

永尾完治:柿澤勇人、赤名リカ:笹本玲奈、三上健一:廣瀬友祐、関口さとみ:夢咲ねね

他に長崎尚子:綺咲愛里、和賀夏樹:高島礼子ら。

作曲したジェイソン・ハウランドはブロードウェイ・ミュージカル『Little Women -若草物語-』を手がけ、日本ではホリプロ制作のミュージカル『生きる』を書いている。

柴門ふみの漫画『東京ラブストーリー』は1988年から連載され91年に鈴木保奈美・織田裕二主演、坂元裕二の脚本でテレビドラマ化された。最終回の平均視聴率が32.3%になるなど大ヒット。いわゆるドレンディドラマの代表作となった(トレンディドラマの人気投票をすると必ず本作が1位になる。たとえばこちら)。「月9(げっく)」という言葉もこの作品から生まれた。

今回のミュージカル化では2018年春(つまりコロナ禍になる直前)に時代設定を移し、愛媛県今治市に本社のあるタオル会社の東京支社営業部を舞台に展開される。因みに原作で永尾完治は愛媛から上京し、東京の広告代理店に務めるという設定。

トレンディドラマはどうしても“バブルの徒花”というイメージが付き纏う。バブル景気の定義は1986年12月から91年2月の期間だ。丁度漫画の連載からドラマの放送開始までスッポリ収まる。主人公の収入では到底住めそうにないお洒落なマンションでの豪奢な暮らし……。

ところが今回のミュージカル版ではそうしたトレンディドラマの浮かれた、軽薄なイメージを払拭するような作品に生まれ変わっていた。また『生きる』もそうだったが、音楽が実にいい。胸にズシンとくるものがある。さすがブロードウェイの作曲家だ。

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』における源実朝役の好演も記憶に新しい柿澤勇人が文句ないことは言うに及ばず、特に鼻っぱしが強いリカを演じた笹本玲奈が秀逸。有名な台詞「カンチ、セックスしよ!」が見事にハマった。清楚な夢咲ねねも◎。

再演があれば、是非また観たい。

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