舞台・ミュージカル

2017年5月26日 (金)

宝塚歌劇団演出家のエース、小池修一郎のライフワーク「ポーの一族」遂に始動!(主演:明日海りお)

2008年、僕は「蒼いくちづけ」と小池修一郎論の中で、こう書いた。

小池さんのドラキュラへの偏愛は今回よく分かった。是非お次は、萩尾望都の漫画「ポーの一族」をミュージカル化してください。

そしてその願いは遂に叶ったのである!宝塚歌劇団は2018年1月に花組で、小池修一郎作・演出によるミュージカル「ポーの一族」を上演すると発表した。

小池は以前より吸血鬼ものに並々ならぬ執着を示していた。バウホールの「蒼いくちづけ」、大劇場の「薔薇の封印」、そして「ローン・ウルフ」@バウは狼男の物語であり、そのバリエーションと言える。

今回の一連の報道で初めて知ったのだが、小池が萩尾望都に「ポーの一族」舞台化を初めて持ちかけたのは1985年だったという。彼の演出家デビュー作「ヴァレンチノ 〜愛の彷徨〜」バウ初演が1986年。つまりデビュー前から執念を燃やしていたことになる。いや、そりゃあ全く実績がなく、海の物とも山の物ともつかぬ若造から「ポーの一族」を手がけたいと言われても萩尾が断るのは当然だよな。それでも小池は諦めなかった。しつこく32年間も交渉を続けたのである。

漫画「ポーの一族」(小学館文庫)第1巻のあとがきを小池が書いていて(「バンパネラの封印」)、次のような一文から始まる。

私を宝塚歌劇団に送り込んだのは萩尾望都である。

激烈である。そして胸熱だ。しかし考えてみれば確かにヨーロッパを舞台にした「ポーの一族」を脚色・演出するチャンスがあるのは宝塚歌劇団しかない。劇団四季や大人計画では無理。正に彼のライフワークと言えるだろう。

僕が日本の漫画史上に燦然と輝く不朽の名作「ポーの一族」を読む切っ掛けを作ってくれたのは金子修介監督(平成ガメラシリーズ、「デスノート」)の「1999年の夏休み」だった。

1999_2

1988年に公開された映画で、深津絵里のデビュー作である(当時は水原里絵と名乗っていた)。山と森に囲まれ、世間から隔絶された全寮制の学校を舞台に、14、15歳の少年たちが織りなす愛憎劇。その4人の少年を少女が演じるというコンセプトが宝塚的であった。「1999年の夏休み」の原案が萩尾望都の「トーマの心臓」(映画にはクレジットされていない)。これで興味を持ち「トーマの心臓」を読んだらすこぶる面白かったので、続けて「ポーの一族」や「半神」に手を伸ばし、打ちのめされた

萩尾は今まで「ポーの一族」舞台化を拒んできたわけだが、「トーマの心臓」は劇団スタジオライフが繰り返し上演している(1996年初演)。「半神」は萩尾と劇作家・野田秀樹が台本を書き、夢の遊眠社が1986年に初演。劇団解散後、99年野田地図(NODA MAP)公演では深津絵里が出演している。2014年には韓国人キャストでも上演された。また宝塚歌劇団は萩尾の漫画「アメリカン・パイ」を原作に、バウ・ミュージカルとして上演している。

「ポーの一族」については粘り強い交渉の結果、遂に萩尾が折れたわけだが、それだけ待った甲斐はあった。小池は演出家として成熟し、エドガー役に明日海りおという、これ以上ない理想のキャスティングを得た。あとは肝心要の音楽だけだ(未発表)。もうここまで来たら世界を目指すしかない。その為にも僕の希望を述べておく。

  1. ジェラール・プレスギュルヴィック:小池演出「ロミオとジュリエット」の作曲家。宝塚歌劇オリジナル作品として小池の台本・演出「眠らない男 ナポレオン」も手掛けている。フランスの作曲家らしく、どんどん転調していく作風が耽美な「ポーの一族」の雰囲気にピッタリ。一押し!
  2. シルヴェスター・リーヴァイ:ハンガリーの作曲家。泣く子も黙る「エリザベート」「モーツァルト!」で余りにも有名。日本発のミュージカルでは遠藤周作原作「マリー・アントワネット M.A.」や「王家の紋章」を作曲。「マリー・アントワネット」はドイツのブレーメン、韓国、ハンガリーのブタペストでも上演された。
  3. フランク・ワイルドホーン:ブロードウェイ・ミュージカル「ジキル&ハイド」「スカーレット・ピンパーネル」で知られる。小池の台本・演出で「NEVER SAY GOODBY」「MITSUKO 〜愛は国境を超えて〜」を作曲。「NEVER SAY GOODBY」で出会った和央ようかと結婚。「デスノート THE MUSICAL」も傑作。
  4. リチャード・オベラッカー:小池台本・演出「グレート・ギャツビー」リニューアル版を作曲。"BANDSTAND"というミュージカルでブロードウェイ・デビューを果たした。

Bandstand

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2017年5月23日 (火)

シリーズ《映画音楽の巨匠たち》第6回/ミシェル・ルグラン篇(+大阪桐蔭高校吹部「キャラバンの到着」)

過去のシリーズは以下。

まずは昨年全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞し、全国の頂点に立った大阪桐蔭高等学校吹奏楽部が精緻華麗にマーチング演奏する「キャラバンの到着」をお聴きください→こちら(本当はこのフラワーコンサートに行く筈だったのだが、連れていく予定だった息子が当日朝に発熱し、断念した)。ミシェル・ルグランが作曲し、ジャック・ドゥミが監督した港町三部作のひとつ「ロシュフォールの恋人たち」冒頭のナンバーで、三菱ランサー・エボリューションのCMでもお馴染みだろう。

僕は映画「ラ・ラ・ランド」を観る前にまずiTuneでサントラをダウンロードした。そして最初の"Another Day of Sun"のイントロを聴いた瞬間に「アッ、キャラバンの到着だ!」と思わず叫んだ(映画の動画はこちら)。実際に若者たちが遠方から町にやって来て、車を降りるやいなや踊りだすというシュチュエーションも両者で完全に一致している。さて、ジャズが大好きな「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督(音楽学校でプロを目指しジャズ・ドラムを学ぶが、才能の欠如を感じ諦めたという)と、この作品でアカデミー歌曲賞及び作曲賞を受賞したジャスティン・ハーウィッツがこよなく敬愛するフランスの作曲家ミシェル・ルグラン(1932ー 、パリ生まれ)とは一体何者なのか?

ルグランの出発点は1958年(26歳)に新婚旅行でニューヨークに渡航した際に録音されたアルバム「ルグラン・ジャズ」である。

Jazz

参加しているミュージシャンが凄い。ジョン・コルトレーン(Sax)、ビル・エヴァンス(Pf)、そしてマイルス・デイヴィス(Tp)!!ジャズ・ジャイアンツが一堂に会するという壮観さ。ルグランは卓越したアレンジャーとしての才能を開花させた。これ必聴。

そして彼は丁度その頃、台頭してきたフランス・ヌーベルバーグ(新しい波)の映画作家たちと深く関わるようになる。

ではルグランが作曲した映画音楽ベスト10を選んでみよう。

  1. ロシュフォールの恋人たち (1967)
  2. 恋 The Go-Between (1971)
  3. 愛のイエントル Yentl (1983)
  4. シェルブールの雨傘 (1963)
  5. 華麗なる賭け (1968)
  6. 天使の入江 (1963)
  7. おもいでの夏 (1971)
  8. エヴァの匂い (1962)
  9. 愛と哀しみのボレロ (1981)
  10. ベルサイユのばら (1979)

多分、誰もが知っいるのは「シェルブールの雨傘」だろうが、真のルグラン・ファンなら10人中10人が「ロシュフォールの恋人たち」を真っ先に推すだろう。唯一無二。彼のエッセンスがギュウギュウに詰まっている。

ピアノの音がキラキラ煌めき、そして切ない協奏曲仕立ての「 (The Go-Between)」の音楽はこちら。映画のクライマックスではフーガも登場し、クラシカルなルグラン音楽の代表作である。

アカデミー賞で編曲・歌曲賞を受賞した「愛のイエントル」の白眉"Papa, Can You Hear Me?"の試聴はこちら。星空の下、死んだ父に対して謝り、でもこの生き方しかないの、分かってと訴える歌。バーブラ・ストライサンドが製作・監督・脚本・主演した、けったいな【ひとりミュージカル】映画である。最初から最後までバーブラがひとりで歌いまくる。ブロードウェイ・ミュージカルに主演したこともあるマンディ・パティンキンが相手役なのに、彼には一切歌わせない。最初観た時は開いた口が塞がらなかったが、次第にバーブラの人となりが判ってきて、好きになった。20世紀初頭ポーランドのユダヤ人コミュニティ。女は学問をすることが許されず、それに抗ったイエントルは男装して神学校(イェシーバー)に入学する。そして自分のついた嘘を貫き通すために女性と結婚までする。"It is written."がこの物語のキーワードとなる。女は書物を読まなくていい。男に従属するのが女の幸せ。そう「旧約聖書(またはユダヤ教の律法)に書いてある」。イエントルはこの「常識」に対して徹底的に反抗する。「予め定められた運命(It is written.)」なんてない。自らの手で書くのだ。彼女の生き様は後にディズニーの「アナと雪の女王」の"Let It Go"に流れ込み、国連の親善大使として活躍するエマ・ワトソン(「ハリー・ポッター」シリーズ、「美女と野獣」)へと継承されてゆく。映画のフィナーレで歌われる感動的な"A Piece of Sky"はこちら。イエントルは移民船に乗り込み、新大陸を目指す。コンサートでこの名曲をFilm上の自分自身と気持ちよくデュエットする愛すべきバーブラの姿はこちら(1分30秒あたりから)。どれだけ自分のことが好きやねん!!ここには写っていないけれど、実はコンサート会場にスティーヴン・スピルバーグも来ています(「イエントル」に出演しアカデミー賞にノミネートされたエイミー・アーヴィングは元スピルバーグ夫人で89年に離婚)。

華麗なる賭け」は「風のささやき」がアカデミー歌曲賞を受賞。スティーブ・マックィーンとフェイ・ダナウェイが格好いい。この歌が流れ、マックィーンが黄色いグライダーを操縦するシーンには痺れる→こちら!別のシーンだけれど、スプリットスクリーンもお洒落。

ジャック・ドゥミとの「天使の入江」は何かに急き立てられるかのような疾走感・焦燥感がある。試聴は→こちら。ギャンブルに明け暮れる男女の茫漠とした満たされない想い、空虚さが胸を打つ。

ルグランがアカデミー作曲賞を受賞した「おもいでの夏」はこちら

愛と哀しみのボレロ」は長年フランシス・レイとコンビを組んできたクロード・ルルーシュ監督(「男と女」)の大作で、なんと音楽はレイ×ルグランという豪華版。そしてルグランの曲では”世紀末の香り”にとどめを刺す!!→こちら。これはオーケストラバージョンだけれど、本編では歌バージョンあり。僕は本作を祖母と一緒に映画館(SY松竹文化@岡山市、2005年に閉館)で観た。中学3年生の時だった。そして初めて20世紀を代表する振付家モーリス・ベジャールと稀代のダンサー、ジョルジュ・ドンの名を知った。その御蔭で1985年3月4日に岡山市民会館でジョルジュ・ドン&東京バレエ団で「ボレロ」を観たのも鮮烈な体験だった。忘れもしない、大学入試の合格発表があった夜だった。その後ドンは1992年にAIDSで亡くなった。享年45歳。またルグランの朋友ジャック・ドゥミもAIDSで90年に命を落とした。そういう時代だった。

B

池田理代子(漫画)原作「ベルサイユのばら」(実写版)はジャック・ドゥミが監督しているが、作品自体は惨憺たる出来であった。もう泣きたくなった。ドゥミは「金のために撮った」と赤裸々に告白している。身も蓋もない。プロデューサーは山本又一朗、総製作費10億円を投じ、ベルサイユ宮殿でロケされた。資生堂がタイアップし、こんなCMもTVで放送された。原題が何故か"Lady Oscar"で、ダイアログも英語。意味不明。しかしルグランの音楽は掛け値なしの傑作だと僕は今でも確信している。是非聴いてみて→こちら!演奏はロンドン交響楽団。この佳曲を人知れず埋もれさせてしまうなんて勿体なさ過ぎる。Jazz Version(こちら)とか、対位法で作曲された雄大なフィナーレもどうぞ→こちら

番外編として手塚治虫原作、市川崑監督「火の鳥」実写版(1978)の音楽も素晴らしい。こちら!演奏はやはりロンドン交響楽団。ルグランはメイン・テーマのみ作曲している。

また彼はリナ・ホーン、キリ・テ・カナワ、ジェシー・ノーマンら一流歌手たちと組んでソング・アルバムをレコーディングしている。中でも一押しなのがナタリー・デセイとのアルバム。

Nat

デセイは「魔笛」「椿姫」などに出演する本格的オペラ歌手だが、ルグランの曲ではちゃんと柔らかいシャンソンの歌い方に切り替えている。キリ・テ・カナワやジェシー・ノーマンはオペラティック過ぎる(ヴィブラートがキツイ)のだ。

最後にルグランの舞台ミュージカルをご紹介しよう。劇団四季が上演した「壁抜け男」である。

Kabe

地味だけど愛すべき逸品。劇伴の奏者は3人だけ。後に拡大したオーケストレーション版でブロードウェイ上演もされた。

Amour

壁抜け男」は1999年に博多の福岡シティ劇場で日本初演された(ここは現在、劇団四季の専用劇場ではなくなりキャナルシティ劇場に名を変えた)。僕はこの初日に観ている。主演のデュティユルは現在、テレビ朝日「題名のない音楽会」で司会を務める石丸幹二。他に井料留美、光枝明彦、丹靖子ら。この4人は全員、既に四季を退団している。同メンバーでVHSビデオも出ていたのだけれど、現在Amazon.co.jpで購入出来るDVD/Blu-ray (23% OFF)は2012年の再演版で別キャストである。

シリーズ《映画音楽の巨匠たち》次回はバーナード・ハーマン(「めまい」「北北西に進路を取れ」「サイコ」「タクシー・ドライバー」)か、「スター・ウォーズ」の生みの親エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト辺りを考えている。どちらかもし、ご希望があればコメントをお寄せください。

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2017年5月15日 (月)

ミュージカル「紳士のための愛と殺人の手引」と変装の名人について

5月6日(土)梅田芸術劇場で「紳士のための愛と殺人の手引」を観劇した。

Gentleman

2014年にトニー賞で作品賞・台本賞・演出賞・衣装デザイン賞と4部門を受賞したミュージカルの日本初演。殺される8役を全て市村正親が演じている。他に出演者は柿澤勇人、シルビア・グラブ、宮沢エマ(母方の祖父は元内閣総理大臣・宮沢喜一)、春風ひとみ 他。

シルビア・グラブは芝居も歌も大変うまい役者さんだが、如何せん42歳であり、年をとり過ぎている。柿澤勇人が29歳だからその恋人役にはちょっと……。まぁフランスのマクロン大統領みたいに25歳年上の女性と結婚する人もいるけどさ。

エドワード朝時代のイギリスが舞台になっており、ユーモアのセンスがアガサ・クリスティの推理小説みたい。あと連想したのが映画「毒薬と老嬢」(1948)とか「マダムと泥棒」(1955)など。イギリス映画「マダムと泥棒」にはアレック・ギネス(「戦場にかける橋」でアカデミー主演男優賞受賞。「スター・ウォーズ」のオビ=ワン・ケノービ役で有名)やピーター・セラーズ(「ピンク・パンサー」「博士の異常な愛情」)が出演してるが、ふたりは変装の名人として名声を轟かせていた。現在の変装の名人といえば、ティルダ・スウィントン(「オルランド」「グランド・ブタペスト・ホテル」「ドクター・ストレンジ」)にとどめを刺す。全員英国人。これはもう、国民性というか習性だね。

今回のいっちゃん(市村)の変装はゲイあり、女性あり。「ラ・カージュ・オ・フォール」のザザを長年演じているわけだし、こんなのお茶の子さいさい。

ミュージカルとしてはオーソドックスと言うか古めかしかった。あまり繰り返し観たいと想わない。振り返ると過去にトニー賞を受賞した「ライオン・キング」とか「春のめざめ」とかは革新性( innovation)があった。それがこの作品には欠けている。

そういえば柿澤勇人の「春のめざめ」は素晴らしかった。ぶっ飛んだ。また彼で観たいが、劇団四季を退団したからなぁ……。

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2017年5月 9日 (火)

高畑充希 主演/ギリシャ悲劇「エレクトラ」

4月29日(土)兵庫県立芸術文化センター 中ホールへ。

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アイスキュロス/ソポクレス/エウリピデス作の「エレクトラ」を観劇。

出演は高畑充希(エレクトラ)、中嶋朋子(イピゲネイア)、麿 赤兒(アガメムノン)、白石加代子(クリュタイメストラ)、村上虹郎(オレステス)、横田栄司(アイギストス)、仁村紗和(クリュソテミス)。演出は鵜山仁。

高畑充希の舞台は一度、2013年に観ている。

役柄のせいだろうが、その時の印象は全く残っていない。今回は大変な熱演で、若い頃の大竹しのぶを彷彿とさせた。素晴らしい。彼女が10代の時に主演したミュージカル「ピーターパン」を観なかったことが今更ながら悔やまれる。観客へのサービスなのか、少し歌う場面も。

中嶋朋子は4歳の時から劇団ひまわりに所属し、5歳からテレビドラマの子役として活躍している。”蛍ちゃん”として、「北の国から」デビューは10歳。舞台歴40年の大ベテランだから風格が漂う。

ギリシャ悲劇「エレクトラ」はエディプス・コンプレックスに対してエレクトラ・コンプレックスという言葉を生み出した。ユングの提唱による。20世紀にはR.シュトラウスの歌劇になり、テオ・アンゲロプロス監督によるギリシャ映画「旅芸人の記録」(1979年度キネマ旬報外国語映画ベスト・テン:第1位)の骨格を成している。

アイスキュロスが書いた戯曲がアテネで上演されたのが紀元前458年だから、なんと2,475年も昔!全然古びてないのが凄い。文明や文化がいくら発達しても、人間の本質は不変なのだということを改めて思い知らされた。今回気が付いたのはシェイクスピアの「ハムレット」が明らかに本作を下敷きにしていること。叔父と母の密通及び父親の謀殺。悩む主人公、そして彼らへの復讐。全く同じだ。

ギリシャ悲劇は面白いし、色々考えさせられる。また是非足を運びたい。

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2017年4月12日 (水)

紅ゆずる主演/宝塚星組「スカーレット・ピンパーネル」

4月6日(木)宝塚大劇場へ。星組公演「スカーレット・ピンパーネル」を観劇。

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男役・紅ゆずると娘役・綺咲愛里のトップお披露目公演である。悪役ショーヴランに礼真琴、ロベスピエールに七海ひろきがキャスティングされた。

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「スカピン」に関して今まで観た公演のレビューは下記。

紅ゆずるの魅力はとにかく明るいこと。まるで太陽のようで、湖月わたるのことを想い出した。あとグラパンに変装した場面では長い指の美しい動きが際立っていた。

綺咲愛里は美人で、気が強そうなところがこのミュージカルのヒロインにピッタリ。いかにも元・革命の闘士という雰囲気があった。

礼真琴は歌が上手く、七海ひろきは美形の男役なので見惚れた。

総じて質の高いプロダクションであった。「デスノート THE MUSICAL」にせよ「スカピン」にせよ、フランク・ワイルドホーン(和央ようかの旦那さん)の楽曲が素晴らしい。特に「スカピン」の中で僕は、ショーヴランが歌う「君はどこに」が好きだ。なんかね、色気があるんだ。

あと東宝ミュージカル「エリザベート」「モーツァルト!」「ミス・サイゴン」などでお馴染みの”踊る指揮者”、塩田明弘が指揮台に立っていたので驚いた。マエストロ塩田が東京宝塚劇場に時々登板しているのは風の便りに聞いていたが、本拠地登場は初めてでは?紅ゆずるがマエストロをいじる場面もあり、宝塚の舞台上で指揮者の名前が飛び出すのも前例のないことであった。よっ、人気者!

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2017年3月22日 (水)

デスノート THE CONCERT

3月11日(土)梅田芸術劇場へ。

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ミュージカル「デスノート」コンサート形式を観た。キャストは

浦井健治/柿澤勇人(夜神 月:ダブルキャスト)、小池徹平(L)、唯月ふうか(弥 海砂)、濱田めぐみ(死神レム)、石井一孝(死神リューク)、カン・ホンソク(死神リューク:韓国公演キャスト)ほか。

初演も【夜神 月】はダブルキャストだったが、大阪公演で柿澤勇人の出演はなかった。だから今回のコンサートは2人が一挙に見れるということと、死神リュークが吉田鋼太郎から石井一孝に交代になり、韓国公演に出演したカン・ホンソクも味わえるところが美味しい。

吉田鋼太郎はたしかに名優だが、歌に関する限り明らかに石井一孝に分がある。あと表情が正にリュークそのままなのが可笑しい。

カン・ホンソクは陽気でパワフル。サービス精神旺盛で好感を持った。

唯月ふうかは昨年8月ミュージカル「ピーターパン」@梅芸でフライングのリハーサル中の事故(眼窩底吹き抜け骨折)で心配したが(チケットを買っていて息子と一緒に観に来たが、公演中止となった)、元気そうで何より。また今回は夜神月の妹が本来歌うナンバー「私のヒーロー」を彼女の歌唱で聴けたので嬉しかった。

ダブルキャストについて。歌は浦井健治に軍配が上がるが、柿澤勇人はジャニーズ系のイケメンなので華があるし、甲乙つけ難い(別に浦井に華がないわけじゃない、あくまで相対評価です)。

いきなり終曲「レクイエム」から始まり意表を突かれた。トークを挟みながら1時間30分休憩なし。最後は夜神月とLがテニス対決を繰り広げるデュエットで〆。充実したコンサートだった。何と言ってもこのミュージカル、フランク・ワイルドホーンの楽曲が素晴らしい!

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2017年3月 7日 (火)

ワーグナー〈ニーベルングの指環〉序夜「ラインの黄金」@びわ湖ホール

3月4日(土)滋賀県の、びわ湖ホールへ。

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ワーグナー:楽劇〈ニーベルングの指環〉序夜「ラインの黄金」を鑑賞。

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「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」へと続く4部作を4年かけて毎年1作ずつ上演する壮大なプロジェクトである。

僕が座ったのはS席16,000円。破格の安さである。2日間とも完売したが、オペラの上演で収益が上がるはずはない。大赤字だろう。滋賀県、(少なくともあと3年は)頑張れ!!因みにメトロポリタン歌劇場@ニューヨークの同クラスの席で観ると、大体3万円掛かる。それでもメトのチケット売上額は総支出額(制作費・劇場管理費・運営費など)の33%を占めるに過ぎない。不足分はファンドレイジング(寄付金募集)で賄っている。その1割は企業から、残りの9割は個人のパトロンが支えている。しかし日本にオペラハウスを支援する大金持ち・篤志家はあまりいないわけで、結局税金に頼らざるを得ない。ま、いずれにせよありがたいことである。

〈ニーベルングの指環〉は後世の芸術に多大な影響を与えた。J・R・R・トールキンが書いたファンタジー小説「指輪物語(原題:The Lord of the Rings)」(1954-55)もその一つだ。ジョージ・ルーカスが創作した神話「スター・ウォーズ」で作曲を担当したジョン・ウィリアムズは〈ニーベルングの指環〉においてワーグナーが編み出した示導動機(ライトモティーフ)の手法を映画に応用している。宮﨑駿「崖の上のポニョ」のポニョは父親から”ブリュンヒルデ”と呼ばれるが、これは「ワルキューレ」に由来する(詳しくはこちらに書いた)。「ラインの黄金」に登場する火の神ローゲは「ハウルの動く城」カルシファーの原型である。

今回生で聴いてつくつづ痛感したことは〈ニーベルングの指環〉でヨーロッパ文明は成熟の頂点を極めたという紛れもない事実である。後にマーラーの登場あたりから熟し過ぎて腐りはじめ、ナチス・ドイツの台頭とともに完膚なきまでに破壊し尽された。フランシス・フォード・コッポラ監督「地獄の黙示録」でワルキューレの騎行が大音量で流されるのはこの歴史を踏まえている。またナチス時代のドイツをデカダンス調に描くルキノ・ヴィスコンティ監督「地獄に落ちた勇者ども」の原題(イタリア語)は「神々の黄昏」である。ヴィスコンティ「ルートヴィヒ」の主人公はワーグナーのパトロンであり、バイロイト祝祭劇場建設を支援した。そのこけら落としが〈ニーベルングの指環〉である。なお、ヴィスコンティはオペラ演出家としても名高く、マリア・カラスと組んだスカラ座での「椿姫」(指揮はジュリーニ)の成功は今や伝説となっている(カラスの呪いとして知られる)。

ワーグナーは〈ニーベルングの指環〉台本執筆にあたり、数多くの神話・伝説を研究した。例えば雷神ドンナーは北欧神話に登場するトールのドイツ名である。これを英語で綴るとThor(ソー)、マーベル・コミックスのヒーローで「アベンジャーズ」の一員マイティ・ソーの由来である。閑話休題。

演出家はドイツからミヒャエル・ハンペを招いた。1983年ムーティとザルツブルク音楽祭で組んだモーツァルト「コシ・ファン・トゥッテ」、87年にカラヤンとザルツブルク音楽祭で組んだ「ドン・ジョヴァンニ」などが代表作。日本では98年に新国立劇場で「魔笛」を、2007年に横浜みなとみらいホールでロッシーニ「セヴィリアの理髪師」を演出している。1935年生まれだから現在81歳。美術・衣装はバイロイト音楽祭で「ローエングリン」を手掛けたこともあるヘニング・フォン・ギールケが担当。

最初から最後まで舞台前面にシルクスクリーンが張られており、プロジェクション・マッピングが効果的に用いられた。冒頭は宇宙空間が前面のシルクスクリーンと後方のスクリーンに立体的に映し出され、モヤモヤしたガスが渦巻き太陽系の誕生が描写される。スタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」のクライマックスやテレンス・マリック監督「ツリー・オブ・ライフ」を彷彿とさせた。

「もしかしてSF仕立てだった1989年バイエルン国立歌劇場に於けるサバリッシュ指揮、ニコラウス・レーンホフの演出みたいな方向に進むのかな?」と一瞬想ったが、ラインの乙女たち登場以降はオーソドックスで写実的な演出となり、1990年メトにおける、ワーグナーが楽譜に書き込んだ「ト書き」に忠実に従ったオットー・シェンク版に近いとなと感じられた(指揮はレヴァイン)。地下からエルダが現れる場面では再び宇宙が描かれた。

正直、現在欧米で主流の前衛的演出と比較すると古色蒼然としている。しかしまぁ、こういうのも悪くない。そもそも〈ニーベルングの指環〉4部作が日本で、ましてや関西で上演されることなど滅多に無いわけだから、奇をてらう必要もないだろう。直球で勝負だ。

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歌手について。ロッド・ギルフリー(ヴォータン役)が朗々とした歌唱で良かった。あと西村悟(ローゲ)、カルステン・メーヴェス(アルベリヒ)、砂川涼子(フライア)らも好演。

沼尻竜典/京都市交響楽団の演奏も明晰で卓越していた。ワーグナーの官能性とか濃密さはないけれど、こういうシャープなアプローチも「あり」だろう。

あと3年、通います。

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2017年3月 4日 (土)

生田絵梨花(乃木坂46)vs. 新星・木下晴香/ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」

梅田芸術劇場でミュージカル「ロミオ&ジュリエット」を観劇した。

山崎育三郎・城田優のダブルキャストで上演された2011年の感想はこちら

古川雄大・城田優のダブルキャストで上演された2013年版はこちら

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2月22日大阪公演初日のキャストは、

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その他の主なキャストはキャピュレット夫人:香寿たつき、キャピュレット卿:岡幸二郎、乳母:シルビア・グラブ、ロレンス神父:坂元健児、ヴェローナ大公:岸祐二。

木下晴香は日本テレビの番組「全日本歌唱力選手権 歌唱王 2015」で決勝進出したことで注目を集め、今回はオーディションを受けてジュリエット役に抜擢された。現在高校3年生だそうである。聴いていて凄く気持ちが良い。これだけ歌えるんなら「ミス・サイゴン」のキムだって、「レ・ミゼラブル」のエポニーヌだってなんでも来いだ。正にスター誕生だね。「マイ・フェア・レディ」のイライザも、宝塚男役出身の40歳過ぎたおばさんたちはもういいから、こういう若い子に演ってもらいたい。そしたら観に行くよ。

スペシャルアンコールで写真撮影O.K.ということだったのでパシャリ。

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3月1日のキャストは

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生田絵梨花は橋本奈々未の卒コンを含む乃木坂46の「5th YEAR BIRTHDAY LIVE」@さいたまスーパーアリーナを2月20−22日までこなし、24日は13時30分からの昼公演に出演。27日昼公演まで消化して28日は東京・帝国劇場で開催された「レ・ミゼラブル」製作発表記者会見にコゼット役として登壇(写真付き報道記事はこちら)、その翌日に僕が観た大阪公演に出演した。さすがトップ・アイドル、凄まじい過密スケジュールである。

正直演技経験のない娘なので、芝居は学芸会レベル。歌に感情を込めることも出来ない。だからむしろ脇を固めるシルビア・グラブや香寿たつきらベテランの巧演が光った。しかしなんてったってアイドル。可愛いことは正義である。またロミオ役の古川雄大は長身・小顔のイケメン王子様なので、ふたりが並ぶとまるでひな人形(男雛と女雛)のよう。その美しさにうっとりした。あと当然ベッドシーンがあるので生ちゃんの背中が拝めるのだが、本当に綺麗だった。彼女は幼少期からピアノを習っているので恐らく絶対音感を持っているのだろう。音程は全く外れないので歌唱力という点では(意外にも)木下晴香と互角の勝負であった。演技力も含めた総合評価では木下に軍配が上がるだろう。でも「レ・ミゼ」のコゼットは全く演技力を要しないお人形さんみたいな役なので、生ちゃんの出演回は観たい。

ロミオについて。大野拓朗はフツー。断然、古川雄大の方がいい。

ティボルトは渡辺大輔より広瀬友祐。悩める感じがセクシー。

ベンヴォーリオは馬場徹の飄々とした雰囲気に好感を覚えた。ユーモアがある。

「死」のダンサーは宮尾俊太郎(K バレエ カンパニー)も大貫勇輔も文句のつけようがないくらい素晴らしかった。あれだけ跳躍が出来るなんて凄い。このダイナミズムは女だけの宝塚歌劇版では味わえない(僕は2010年、宝塚星組による日本初演から観ている)。

小池修一郎による演出について。2011年版では古代ローマ遺跡を背景に、キャピュレット家とモンタギュー家の亡霊が現代に現れるというコンセプトだったのだが、今回は一新された。まず爆撃機が爆弾を落としている映像が流される。目標となっているのはイラクか、どこかイスラム圏の街のようだ。そして廃墟と化した建物の骨組みに亡霊たちが現れる。やがて背景にニューヨークの摩天楼のような風景が映し出され、ティボルトの死とともにツイン・タワー(World Trade Center)が崩壊する。

いや、言いたいことは分かるよ。憎しみの連鎖は現代でも続いているってことでしょう?ただルックがニューヨーク郊外のスラムに見えるので、これじゃまるで「ウエストサイド物語」だ。あかんのちゃう?僕は旧演出の方が好きだなぁ。

大阪公演初日はイケコ(宝塚ファンの間での小池の愛称)の舞台挨拶もあった。「お客様の熱気で舞台上の幕が浮いてまくれ上がってしまいました。これからどうしようか検討中です」とかいった内容で、「どうでもええわ。そんなんききたいちゃうねん」と内心でツッコミを入れた。しかし確かに2回目に観劇した時、その問題は修正されていた。

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2017年2月21日 (火)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演/ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜宮沢賢治の深層心理にダイブする。

2月20日(月)フェスティバルホールへ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部定期演奏会を聴く。指揮は総監督の梅田隆司先生。

第1部

  • 西村友:ミュージカル「銀河鉄道の夜」吹奏楽版

第2部

  • ロッシーニ(森田拓夢編):歌劇「ウィリアム・テル」序曲
  • プロコフィエフ(高昌帥編):バレエ音楽「ロミオとジュリエット」より
  • アラン・メンケン(ジョン・モス編):映画「美女と野獣」より
    プロローグ〜ベル〜強いぞガストン〜Be Our Guest〜美女と野獣(歌付き)〜奇跡の変身
  • ♪甲子園応援リクエスト・コーナー
    You Are スラッガー(オリジナル曲)〜恋(星野源、恋ダンス付き)〜SHAKE(SMAP)〜三代目 J Soul Brothers メドレー(ダンス付き)
  • 三年間の歩み Part 1(1、2年生篇)
    野田洋次郎、RADWIMPS(宮川成治編):「君の名は」メドレー
    夢灯籠〜前前前世〜スパークル〜なんでもないや
  • 三年間の歩み  Part 2(3年生篇)
    フランチェスコ・サルトール(福田洋介編):Time to Say Goodbye
  • 10期卒業生を送る歌 山村隆太(作詞)、阪井一生(作曲):証
  • ガーシュウィン(建部知弘・森田拓夢編):歌劇「ポーギーとベス」より
  • タケカワ・ユキヒデ(樽屋雅徳編):銀河鉄道999 アンコール
  • 星に願いを アンコール

以前も引用したが、臨床心理学者・河合隼雄は宗教学者・中沢新一との対談本「ブッダの夢」の中で次のように語っている。

 『銀河鉄道の夜』を読んで面白いのは、はじめ、母と息子の物語として出発するんですね。だから、ある意味では、ずっと母性が底流にあるんです。あるんだけれども、チェロのような声をした男の声が聞こえてくるって。最後はしかも、お父さんの帰ることをお母さんに知らせなくちやっていうところで終わります。つまり、非常に厳しい父性もあの中にずっと入ってるんですね。銀河を書いたりする時に、非常に科学的な言葉や客観的な描写が出てきたり、同時に、また母性的なものもあるわけでしょう。
 ところがね、『銀河鉄道999』という漫画は完全におかあちゃんの話になっています。

この物語はジョバンニ=宮沢賢治、カムパネルラ=結核を患い24歳で死去した賢治の妹・トシ(詳しくは賢治の詩「永訣の朝」を参照のこと)として読むことが出来る。この兄妹はある意味、一心同体であり、だから新海誠監督「君の名は。」の瀧と三葉のようでもある。

ジョバンニは【片割れ(=Half Moon)】のカムパネルラと旅をする。しかし実はカムパネルラは既に死んでいる。一方、「君の名は。」の瀧は三葉を探し求めるが、彼女は3年前に死んでいた。両者は物語の構造が同じなのである。「銀河鉄道」とは人の意志に関係なく彼らを運び去ってしまう運命のメタファーであり、「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」「君の名は。」など一連の新海作品に度々登場する鉄道も同様に機能している。

ジョバンニとカムパネルラは一心同体だから、両者合わせて一人の人格と見做すことも可能だろう(名前の由来はイタリア・ルネッサンス時代の哲学者トマソ・カンパネッラだと言われている。その幼名はジョバンニ・ドミニコ。つまり同一人物である)。そして意地悪なザネリの身代わりとして死ぬカムパネルラに対して賢治は明らかに、人類の罪を贖うために十字架にかけられたイエス・キリストのイメージを重ねている。自己犠牲のテーマはタイタニック号の事故で犠牲になった姉弟の登場や、蠍の火のエピソードで繰り返される。そしてアンドレ・ジイドが小説のタイトルに引用した次の警句に繋がる。

狭き門より入れ。滅びにいたる門は大きく、その道は広い。そして、そこから入っていくものが多い。命にいたる門は狭く、その道は細い。そして、それを見出すものは少ない」(マタイによる福音書)

非常に厳しい父性としての一神教の姿がそこにある。祈りの言葉は「天にまします我らのよ」であり、三位一体とは「」と「子(イエス)」と「精霊」を指す。女性は排除されているのだ。またローマカトリック教会の最高位、法王に女性はなれない。

とすると、「ラッコの上着を持って帰る」と約束し、最後まで姿を見せないジョバンニの父親はイエスの父=神と解釈することも可能なのではないだろうか?イエスは父の真意を測りかねて苦しみ、十字架上で「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」と叫ぶ。

一方、天照大御神(女)を頂点とする八百万の神を戴く日本は母性社会である(河合隼雄 著「母性社会日本の病理」を参照されたし)。母性は全てを包み込み、あるいは飲み込むが、父性は切断し、分類し(天と地、光と闇、天使と悪魔など)、客観的に観察する性格を帯びている。この特徴が欧米諸国でのみ近代科学が生まれ、発展した背景となった。0と1のみの二進法で全てを計算し、処理するコンピューターの発明もキリスト教社会だからこそあり得たのである。

「銀河鉄道の夜」には天文学、地質学、生物学、化学など自然科学の知識がふんだんに投入されている。また賛美歌320番「主よ、みもとに 近づかん」が歌われ、タイタニック号の犠牲者たちはサザンクロス(南十字星)駅で降りる。ここで十字架のイメージが重ねられている。

しかしジョバンニは病気の母にミルクを持って帰らねばと心を砕いているし、カムパネルラも「おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか」と常に案じている。この父性母性の絶妙なバランス感覚こそが宮沢賢治の真骨頂なのではないだろうか。ところが松本零士は「銀河鉄道999」でキリスト教的要素=厳しい父性を全て取っ払って、マザー(エディプス)・コンプレックスの物語に換骨奪胎してしまった。

さて本題。定期演奏会の感想である。事前に劇団ひまわり版「銀河鉄道の夜」(Bキャスト)DVDを6回鑑賞して臨んだ。いやもう、西村友が作曲した音楽が素晴らし過ぎて心を奪われ、ジョバンニを演じた石川由依(アニメ「進撃の巨人」ミカサの声を担当)の名演にぞっこんになった。

劇団ひまわり版は1時間50分あるので大阪桐蔭版がダイジェストになるのは致し方ないのだが、活版所などジョバンニが銀河鉄道に乗るまでのエピソードと、白鳥の停車場〜プリオシン海岸の場面がすっぽりカットされたのは残念だった。♪大切なことは忘れないこと!♪がなかったのはちょっと寂しい。

オリジナルはピアノ・ヴァイオリン・チェロ・ホルン・クラリネット・ハープ・パーカッションという7人編成だが今回は大編成の吹奏楽版。やっぱり迫力が違う。♪ラッコの上着♪で大太鼓の音がズシンと腹に来た。タイタニック号沈没の場面での♪救い給え、この子らを♪はバス・クラリネット、バリトン・サックスなどの低音群が不気味に響き、実に効果的だった。またこの曲や、僕が大好きなナンバー♪ケンタウルスを追いかけて♪ではステージいっぱいにマーチングが展開され、何と鮮やかだったことか!♪バルドラのサソリ♪では隊列で蠍の姿を表現し、成る程なと感心することしきり。あとサザンクロス駅の場面で背景のスクリーンにKAGAYAが製作したプラネタリウム版「銀河鉄道の夜」が映し出されてびっくりした!

Kagaya

これ、とっても映像が綺麗なんだ。ただプラネタリウム版が痛いのは音楽が安っぽいこと。でも西村友作曲の方なら全く問題なし。

第2部は両サイドにアイーダ・トランペットを配し、華やかに始まった。「ウィリアム・テル」と全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞した「ポーギーとベス」を(共同)編曲した森田拓夢くんはアルト・サクソフォンを吹く3年生。なお、桐蔭の練習場には最近、梅田先生のアイディアでミラーボールが設置されたそう。

プロコフィエフではチューバとコントラバスによる引き摺るようなリズムが印象的。

「美女と野獣」については最近、面白い発見があった。

桐蔭の演奏はファンタスティックで、一つのメルヘンが感じられた。

そして、「君の名は。」4曲メドレーには甚く感動した。なんて洒落たアレンジだろう!歌が入った♪なんでもないや♪もとっても素敵。また何度でも聴きたい。

そしてクライマックスは「ポーギーとベス」。僕は例年通り55人による全日本吹奏楽コンクール版で演奏するのかと思いきや、最優秀グランプリ/文部科学大臣賞を受賞した大人数による日本管楽合奏コンテストバージョンだった。吹コンでは金賞を受賞したものの、冒頭でクラリネットが「ピャッ!」と奇声を発したり、♪サマータイム♪でフリューゲルホルンのソロが出だしをミスったりと幾つかの瑕があった。しかし今回のフリューゲルホルンはパーフェクトだったし、吹コンよりさらに進化していたので、心底驚嘆した。振付が入ったり、最後の♪Oh Lawd, I'm On My Way♪では合唱が入ったりと最高に愉しい!

僕が桐蔭の演奏を初めて聴いたのは2007年全日本吹奏楽コンクール@普門館のドビュッシー「海」だった。2009年に全国大会で初めて金賞を受賞したオルフ「カルミナ・ブラーナ」も普門館で聴いた。そして自信を持って断言しよう。今回の「ポーギーとベス」こそ、創部以来のベスト・パフォーマンスであると。梅田先生はワーグナーやプッチーニ、エルガーなどクラシック音楽を指揮される時よりも、JAZZやROCKの方が生き生きしているし、冴えている。「ポーギーとベス」はなんかもう突き抜けていた。ちゃんとブルースしているし、リズムのセンスやグルーヴ感が抜群なんだ。レナード・バーンスタインもオペラ的な「キャンディード」よりJAZZYな「ウエストサイド・ストーリー」の方が断然いい。梅田先生、是非これからもこの路線で突っ走ってください。

またアンコールの「銀河鉄道999」について、僕は毎年定演のレビューで「照明が暗すぎる。これでは生徒さんの顔が識別できない」と文句を書き続けてきた。ところが今回、前奏が終わるとステージが明るくなったのである!「星に願いを」も美しかったし、今年の照明スタッフは本当に素晴らしかった。あとバルーンの銀河鉄道がホールを斜めに駆け上る演出もジーンとしたなぁ。

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2017年2月 8日 (水)

長澤まさみ✕石丸幹二✕松尾スズキ/ミュージカル「キャバレー」

2月4日(土)フェスティバルホールへ。松尾スズキ演出、長澤まさみ、石丸幹二、小池徹平主演のミュージカル「キャバレー」大阪公演を観劇した。

Cabalet

兎に角、「長澤まさみがエロい!」と大評判で、チケットは闇で10万円にまで高騰したという。これに対して松尾は次のようにTweetした。

松尾スズキ演出の「キャバレー」は2007年11月に観ており、こちらに感想を書いた。1966年のブロードウェイ初演から72年の映画化、華々しいリヴァイヴァル版上演に至る歴史についても詳しく語っているので是非ご一読願いたい。それにしても松尾版の再演まで10年も待たされるとは!その間2010年に小池修一郎演出、藤原紀香主演でも上演されているので(そちらの感想はこちら)、版権問題で手間取ったのかもしれない。

僕は今まで舞台で、4人の女優がヒロインのサリー・ボウルズを演じるのを観ている。アメリカからのツアー・カンパニーで2度の来日を果たしたアンドレア・マッカードル(ミュージカル「アニー」タイトル・ロールのオリジナル・キャスト)、2001年にブロードウェイの劇場で観たブルック・シールズ、2007年松尾版の松雪泰子、2010年藤原紀香。結論。5人目の長澤まさみが最高だった!松雪のサリーは自堕落で退廃的雰囲気が漂っていたのだが、長澤は若さや生命力に満ち溢れ、はち切れんばかりの輝きを放散した。彼女には「どんな過酷な状況下でも生き抜いてやる!」というタフさ、強(したた)かさがあった。松雪はnegative、長澤はpositive。ある種ヤケクソなパワーを感じた。心配した歌の方も問題なし。まさみちゃん、お願いだから「人生最初で最後のミュージカル」なんてつれないこと言わないで、ぜひもう一回挑戦して!

余談だが、ブロードウェイの「キャバレー」では、映画「ラ・ラ・ランド」でアカデミー主演女優賞を獲る(予定の)エマ・ストーンがサリーを演じた(2014年11月11日〜2015年2月1日)。その時のM.C.(Master of Ceremony)は同役でトニー賞を受賞したアラン・カミング。これは観たかった!!

2007年松尾版でM.C.を務めたのは阿部サダオ、今回は石丸幹二。全くタイプが異なる役者であり、当然演出も様変わりしている。僕は石丸のことを劇団四季時代から知っており、ロイド=ウェバーの「アスペクツ・オブ・ラブ」やミシェル・ルグランの「壁抜け男」日本初演初日@福岡シティ劇場(現:キャナルシティ劇場)も観ているのだが、今回の彼は一番イキイキしていて生涯のベスト・パフォーマンスと太鼓判を押したい。第2幕では得意とするサックスの生演奏も披露してノリノリだった。

小池徹平は受け身の役どころなので無難にこなした印象。2007年の森山未来とどっこいどっこいかな。

シュナイダー役の秋山菜津子やシュルツ役の小松和重平岩紙村杉蝉之介ら前回からの続投組(劇団・大人計画)は手堅い芝居でしっかりと脇を固めていた。

猥雑な松尾の演出も冴えている。下品な笑いに彼のセンスがキラリと光る。通常ではM.C.がゴリラの着ぐるみを着た女性店員と、世界中の誰も認めない愛について歌い踊るナンバー"If You Could See Her"が新演出ではディメンターみたいな背丈が等身大の2倍ある死神(骸骨姿)に変更になっていたのも良かった。

再々演を熱望する。

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