舞台・ミュージカル

2024年5月24日 (金)

段田安則の「リア王」

4月20日(土)ブロードウェイ・ミュージカル『カム フロム アウェイ』に゙続き、大阪に新たに出来たSkyシアターMBSで『リア王』を観劇した。

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翻訳:松岡和子、演出:ショーン・ホームズ、美術・衣装:ポール・ウィルス。出演は...

段田安則、小池徹平、上白石萌歌、江口のりこ、田畑智子、玉置玲央、入野自由、前原滉、盛隆二、平田敦子、高橋克実、浅野和之  ほか。

因みに段田安則と浅野和之はかつて野田秀樹が主催していた「夢の遊眠社」で活躍した仲間である。

段田は2022年にもショーン・ホームズとタッグを組んだ『セールスマンの死』で読売演劇大賞 最優秀男優賞を受賞している。

ポスターでリア王の顔は傷だらけ、泥まみれになっているが実際の舞台ではこれほど汚いメイクではなかった。コピー機やウォーターサーバーがあるオフィスみたいな舞台装置に登場人物はスーツにネクタイ姿、つまり現代を舞台にした「読み替え」演出だ。

実はヨーロッパの歌劇場ではオペラの「読み替え」演出が当たり前のことになっており、例えばかつてのジャン=ピエール・ポネルとか、『ラ・ボエーム』『トゥーランドット』で名高いフランコ・ゼフィレッリのような、台本に書かれた時代に合わせた衣装や舞台装置による演出は現在、殆ど見かけない(アメリカのメトロポリタン歌劇場なら、まだたまにある)。多分「読み替え」演出の先駆者と言えるのは1976年バイロイト音楽祭におけるパトリス・シェローによる楽劇『ニーベルングの指環』あたりではないだろうか?ピエール・ブーレーズが指揮したあれだ。

「読み替え」には当初、違和感を覚えたし世間では賛否両論ある。しかしもう慣れた。結局、この手法の肝は「21世紀の現代において古典を上演する意義を考えろ!」ということなのだろう。1600年代初頭に初演されたシェイクスピア劇を、当時のまま再現することに果たして意味はあるのだろうか?そういうことだ。

段田は無論のことだが、底意地が悪い長女ゴリネル(江口のりこ )と次女リーガン(田畑智子)、そして清純なコーディリア(上白石萌歌)の三姉妹が出色の出来。大満足。

考えてみれば今までミュージカル『ロミオ&ジュリエット』やブリテンのオペラ『夏の夜の夢』、ヴェルディの『オテロ(オリジナルは『オセロー』)』など観劇してきたが、シェイクスピアのストレート・プレイを観るのはこれが初めてかも。『ハムレット』もオペラ化されているし(アンブロワーズ・トマ/ブレット・ディーン )、『十二夜』は色々なヴァージョンでミュージカル化されている(例えば原田諒が作・演出した宝塚歌劇団『ピガール狂騒曲』)。しかし『リア王』は聞いたことがない。そういったアレンジには向いていないのかも。

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2024年5月23日 (木)

ブロードウェイ・ミュージカル「カム フロム アウェイ」@SkyシアターMBS(大阪)

4月6日(土)JR大阪駅・西口に直結、新しく出来たばかりのSkyシアターMBSへ。ミュージカル『カム フロム アウェイ』を観劇した。

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1,289席の中規模劇場である。梅田芸術劇場メインホールが1,905席、その地下にあるシアター・ドラマシティが898席なのでちょうど中間ということになる。因みに座席が狭くて古くで僕が大嫌いな森ノ宮ピロティホールは1,030席。SkyシアターMBSは観易く、いいハコだった。

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2001年9月11日ニューヨークが混迷した同時多発テロの裏で、カナダにある小さな町・ニューファンドランドで起きた驚くべき実話を基にしている。100分というコンパクトな上演時間で途中休憩なし、ノン・ストップ。2017年のトニー賞において本作でミュージカル演出賞に輝いたクリストファー・アシュリーが日本版も引き続き担当した。この年、トニー賞でミュージカル作品賞など総なめにしたのが『ディア・エヴァン・ハンセン』なのだが、作品の内容にせよ、音楽にせよ、僕は本作のほうが断然好き。因みにイギリスのローレンス・オリヴィエ賞ではミュージカル作品賞・楽曲賞・振付賞・音響賞を受賞した。

登場人物は100人近く。しかし出演者はたった12名。

安蘭けい、石川禅、浦井健治、加藤和樹、咲妃みゆ、シルビア・グラブ、田代万里生、橋本さとし、濱田めぐみ、森公美子、柚希礼音、吉原光夫

このメンツ、theatergoer(観劇好き、芝居好き)なら分かると思うけど超豪華キャストである。主役を張れる人たちばかり。〝日本ミュージカル界のアベンジャーズ”と評されたのもむべなるかな。おまけに僕が観劇した日は安蘭けいと柚希礼音という元・宝塚歌劇団男役トップスターによるアフタートークもあったので超オトクであった。昔から安蘭けいは話術が巧みなので場内が爆笑の渦に包まれたことは言うまでもない。

展開はスピーディだし、内容的にも深く文句なし。再演があれば是非また観たい。

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2024年4月 1日 (月)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会2024(「サウンド・オブ・ミュージック」「オペラ座の怪人」のおもひでぽろぽろ)

3月17日(日)フェスティバルホールへ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の第19回定期演奏会を聴く。監督の梅田隆司先生が指揮した。

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まず能登震災復興を願ってユーミンの『春よ、こい』が歌われ、2019年に初演されたショー〈歴史の「夢」を訪ねて〉の再演から始まった(〈ローマを訪ねて〉に改題)。

 ・ 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会2019とディズニー「ファンタジア」

ここで演奏された曲目は、

 ・レスピーギ(杉本幸一編):「リュートのための古風な舞曲とアリア」第3組曲
 ・ハンス・ジマー:アニメ映画「プリンス・オブ・エジプト」より
 ・レスピーギ:交響詩「ローマの祭」より
 ・グノー:アヴェ・マリア
 ・フォーレ:付随音楽「ペリアスとメリザンド」よりシチリアーナ
 ・レスピーギ:交響詩「ローマの松」より

クライマックスでホールの四方八方からバンダ(別働隊の小規模金管アンサンブル)が鳴り響き、迫力満点。

続いてミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』と『オペラ座の怪人』が歌・衣裳付きで上演された。『オペラ座の怪人』は嘗てヨハン・デ・メイ編曲版(歌なし)が定演で披露されたが、今回は郷間幹男による編曲。

 ・「吹奏楽の神様」屋比久勲登場!~大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会 2014@ザ・シンフォニーホール

僕はこの2つのミュージカルに強い思い入れがあり、生徒さんたちのパフォーマンスを見ながらさまざまな思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡った。多分これから演奏しようという若い人たちにも参考になる情報(ネタ)も含まれていると思うので、手繰った記憶を紐解いていこう。

映画『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)に初めて触れたのは地元の岡山市で中学生の時。昭和の時代、1980年ごろの話だ。家庭用ビデオデッキは未だ普及しておらず、レンタルビデオ店すらなかった。昔の映画はテレビ放送をリアルタイムで観るしか手段がなかった。文化祭の日に学校の教室で(8mmか16mmの)フィルム上映されたのだ。しかも3-40分に短縮されたハイライト版。それでも僕は感動した。そして全編を観たいと強く思った。数年後、岡山大学映画研究部が土曜日に映画館を夜間貸し切って名作映画4本を上映するイベントがあり、プログラム最初が『サウンド・オブ・ミュージック』だった。確か、岡山市千日前商店街にあったSY松竹文化だったと記憶している。21時上映開始で僕は1本目だけを観た(他にロベール・アンリコ監督、アラン・ドロン主演『冒険者たち』があったのを覚えている)。全長版を観てびっくりしたのは、短縮版に収録されていた修道院長(ペギー・ウッド)が歌う「すべての山を登れ Climb Ev'ry Mountain」がごっそり無くなっていたこと!大好きな曲なのに……。

のちに判明したのだが、公開直前になってロバート・ワイズ監督からこのソロ・ナンバーをカットするよう指示があったらしい。映画のテンポが間延びすると判断されたのだろう。しかしテレビ放送、ビデオ、DVD、Blu-ray、配信版にはカットされることなく丸々収録されているし、「午前10時の映画祭」でリバイバル上映された際にもあった(多分フィルムではなくデジタル上映だったからだろう)。因みにクレジットされていないがペギー・ウッドの歌はマージェリー・マッケイ(Margery MacKay)による吹替である。

大学入学のお祝いとしてパイオニアのレーザーディスク(LD)プレイヤーを買ってもらい、最初に購入したソフトが『サウンド・オブ・ミュージック』。当時のブラウン管テレビ(横:縦の長さが4:3)のサイズに合わせたトリミング版だった(つまり左右の映像がカットされていた)。後に特典ディスク付きワイドスクリーン版LDを買い、DVDを買い、さらにBlu-rayで買い直した。製作40周年記念版からマリア:島田歌穂、トラップ大佐:布施明という布陣で歌も含めた日本語吹替音声が実現し、製作50周年記念版ではマリア:平原綾香、トラップ大佐:石丸幹二となりこちらも購入。現在はディズニープラスで配信されている(個人的にはどちらかと言えば島田歌穂の歌声の方が好きだ)。

そして大学の卒業旅行で僕はオーストリアのザルツブルクを訪れ、映画のロケ地巡りをした。ドレミの歌が歌われたミラベル宮殿・庭園(花壇がとても美しい!)から毎日、半日ツアーバスが出ており、マリアとトラップ大佐が結婚式を挙げた湖畔の教会にも行った。ツアーの日本人は僕1人だけ。ガイドさんの解説(英語)によると地元の人々は殆どこの映画を観ておらず、全く知られていないそうだ。

アカデミー賞では作品賞・監督賞など5部門受賞した名作だが、Wikipediaによるとオーストリアではザルツブルクを除いて、21世紀に入るまで本作は1度も上映されていないそう。会話が英語なのも馴染めないだろうし、現地の人にとってナチス=ドイツによる併合は忘れたい過去なのだろう。このようにドイツ語圏では否定的な評価を受けている。

アンドリュー・ロイド・ウェバーがプロデュースし、2006年ロンドンで開幕した舞台版も東京の四季劇場〔秋〕で観劇した。

 ・ 劇団四季「サウンド・オブ・ミュージック」 2010.10.18

以前、大阪桐蔭も上演したミュージカル『マイ・フェア・レディ』のブロードウェイとロンドン初演でイライザを演じたのはジュリー・アンドリュースだった。ワーナー・ブラザースがこの映画化権を獲得し、社長のジャック・L・ワーナーがジュリーにスクリーン・テストを受けさそうとした時、彼女は「スクリーン・テストですって? 私があの役を立派にやれることを知っているはずよ」と拒否した。結局、無名の新人ではなく知名度の高いオードリー・ヘップバーンに同役は決まった。オードリーはこの役はジュリーのものだと考え断ろうとしたのが、そうすればエリザベス・テーラーに役が回ると分かりサインしたのだ。

失意のジュリーは『メリー・ポピンズ』(1964)に主演。そしてアカデミー主演女優賞を獲得した。同年公開された『マイ・フェア・レディ』は作品賞・監督賞などアカデミー賞を8部門獲得するがオードリーはノミネートすらされなかった。舞台と同様ヒギンズ教授を演じ主演男優賞を得たレックス・ハリスンは授賞式の壇上で「ふたりのイライザに感謝します」とスピーチした。

オードリーは歌が下手なのでマーニ・ニクソンという女優が吹替を担当した。しかし映画にはクレジットされずマーニは「他人に口外しない」という契約書にサインしている。ただし「いまに見てらっしゃい (Just You Wait)」というナンバーの前半部はオードリーの地声で、高音に移行する途中からマーニに切り替わる。注意深く聴けばはっきりと分かる。声域が狭いオードリーのためにヘンリー・マンシーニが『ティファニーで朝食を』(1961)の主題歌「ムーン・リバー」の音域を1オクターブと1音(つまりドから高いレまでの9音)で収まるように作曲し、アカデミー歌曲賞を受賞したのは有名な話。

マーニ・ニクソンは『王様と私』(1956)のデボラ・カー、『ウエストサイド物語』(1961)のナタリー・ウッドの歌の吹替も担当しているがいずれもノンクレジットである。しかし業界で彼女のことは知れ渡っていた。『ウエストサイド物語』の監督ロバート・ワイズは彼女を『サウンド・オブ・ミュージック』の尼僧役として出演させている。どの役かは歌声を聴けば分かるから探してみてください。映画の撮影が開始されたのは1964年。マーニは主演を務めるジュリー・アンドリュースと初めて対面する時に緊張した。ジュリーはマーニを見つけるとつかつかと彼女に歩み寄り手を差し伸べてこう言った「マーニ、私はあなたのファンです」。

ミュージカル『エリザベート』の演出で有名な小池修一郎(宝塚歌劇団)はかつてジュリー・アンドリュースのファンクラブ会長を努め、彼女が来日したときインタビューしている。故に彼のオリジナル作品には時々『サウンド・オブ・ミュージック』へのオマージュが盛り込まれていたりする(たとえば『蒼いくちづけ』)。

梅田先生も仰っていたが「私のお気に入り/My Favorite Things」はジャズのスタンダード・ナンバーになっており、一番有名なアレンジはジョン・コルトレーンがソプラノ・サックスを吹いた究極の名盤。次にお勧めしたいのはトニー・ベネットがカウント・ベイシー・ビッグ・バンドをバックに歌ったもの。ジャズ・オーケストラのサウンドがゴージャスで堪らない!

僕が『オペラ座の怪人』を初めて観たのは大学生の時。劇団四季の大阪公演でファントム:山口祐一郎、クリスティーヌ:井料瑠美、ラウル:柳瀬大輔というキャストだった。劇団四季は東京公演以外基本カラオケ上演だが、それでも感銘を受けた。後に東京でオーケストラ生演奏版も体験したが楽団員の人数が少なすぎて(弦楽器の各パート1人づつ)音がペラペラ、これなら厚みがあるカラオケの方がマシだと思った。

さらにウエストエンド(ロンドン)とブロードウェイ(NY)、ラスベガスでも『オペラ座の怪人』を観た。生演奏の質は桁違いに良かったし、ハロルド・プリンス新演出によるラスベガス版は舞台で炸裂する火薬の量が多く、シャンデリアは巨大で豪華だった。なんと4つのパーツが空中で回転しながら合体するのである!

 ・ ラスベガス便りその1 《オペラ座の怪人》 2009.01.02

こちらは残念ながら2012年で幕を閉じた。

ガストン・ルルー原作『オペラ座の怪人』のミュージカル化は既成のクラシック音楽を使用したケン・ヒル版や、日本では宝塚歌劇が初演したモーリー・イェストン作詞・作曲による『ファントム』もある。

 ・ 城田優 主演/ミュージカル「ファントム」 2014.10.11 
 ・ 音楽の天使が舞い降りた!!〜ミュージカル「ファントム」 2019.12.12

面白いのはモーリー・イェストン版で怪人(エリック)は歌姫クリスティーヌに亡き母の姿を重ねており(エディプス・コンプレックス)、アンドルー・ロイド・ウェバー(ALW)版ではクリスティーヌがファントムに亡き父の姿を重ねている(エレクトラ・コンプレックス)。つまり解釈が全く異なるのだ。ALWは間違いなくクリスティーヌとファントムの関係性にサラ・ブライトマンと自分のそれを見出している。

ALWとサラ・ブライトマンの年齢差は12歳。サラは1981年『キャッツ』のジェミマ役に起用された際ウェバーに見そめられ84年に結婚、86年『オペラ座の怪人』のクリスティーヌ役に大抜擢され一躍有名になった。しかし1990年に離婚した。そして93年の『サンセット大通り』が事実上ウェバー最後の傑作であり、その後彼の才能は枯渇した。サラは彼にとって正にミューズだった。実際、Blu-rayも発売されている『オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン』でALWはサラを「私の音楽の天使(My Angel of Music)!」と紹介している(ここで嫌そうな表情を浮かべるサラが可笑しい)。

21世紀に入ってからのALWの作品は目を覆いたくなるほど酷いものばかり。映画『オペラ座の怪人』や、『キャッツ』でテイラー・スウィフト演じるボンバルリーナが歌う新曲もどうしようもない代物である。『キャッツ』は映画そのものも惨憺たる評判で、その年のゴールデンラズベリー(通称ラジー)賞で最低作品賞・最低監督賞(トム・フーパー)など最多6部門受賞するという不名誉を授かった。製作総指揮を担ったウェバーはこれにショックを受け、猫好きをやめて犬を飼い始めたという(参考記事はこちら)。かつて「20世紀のモーツァルト」と称賛された天才作曲家は今では見る影もなく、僕の脳内でアンドルー・ロイド・ウェバーは『サンセット大通り』作曲後、人々に惜しまれつつ急逝したことになっている。

大阪桐蔭の生徒さんたちの歌唱力は相当高く、感心することしきり。特に表題曲“The Phantom Of The Opera”でクリスティーヌは最高音hiEを出さなければならない。これを劇場で毎日歌うのは相当過酷であり、世界各国の公演で一部事前録音が使用されているのは有名な話。Bravissimo !

休憩を挟み第II部最初はベルギーの作曲家ベルト・アッペルモントの『ブリュッセル・レクイエム』。2016年3月に発生したベルギーの首都で発生した連続爆破テロ事件をテーマに、その犠牲者への想いが死者のためのミサ曲として結実した。大阪桐蔭は2023年の吹奏楽コンクールでこれを自由曲に選び、全国大会で見事金賞受賞。演奏は正確で緻密、そして伸びやかに歌い、文句なし。ただ背景の映像字幕による曲の解説があったのだが、事件の「犯人像」に全く言及していないのは片手落ちだと思う。イスラム過激派のテロ組織ISIL(イスラム国)が実行犯で、ISILは2015年パリ同時多発テロにも関与している。ISILに触れないのなら生半可な形で背景を語るべきではない。"All or Nothing"だ。

《19年の歩み》は「Mrs.GREEN APPLEメドレー」(編曲:郷間幹男)。全然聴いたことのない曲ばかりで、このバンドが昨年末に日本レコード大賞を受賞したことも今回の演奏会で初めて知った。YOASOBIの『アイドル』が優秀作品賞候補の10作に選ばれなかった時点で「茶番だ、あり得ない!所詮、所属事務所の力関係で決まってしまうんだね」と失望し、完全にレコ大に対する興味を失ったのだ。因みに調べてみるとMrs.GREEN APPLEの所属はユニバーサルミュージックでレーベルはEMI Records。大手だ。結局YOASOBIのAyaseとか米津玄師とかボカロP出身者はレコード会社(仲介業者/エージェント)を通さずインターネットから直接人気者になったわけで、業界が甘い汁を吸えないから無視する、そういうことなのだろう。大人の世界って本当に汚いよね。というわけで近いうちに大阪桐蔭が演奏する『アイドル』を是非生で聴きたい。YOASOBIとコラボした『ラブレター』も死ぬほど好きだ!

 ・ 【考察】全世界で話題沸騰!「推しの子」とYOASOBI「アイドル」、45510、「レベッカ」、「ゴドーを待ちながら」、そしてユング心理学

《野球応援・リクエストコーナー》で飛んできたボールをキャッチした聴衆が選んだのは『北酒場』『パイレーツ・オブ・カリビアン〜彼こそが海賊』(作曲:クラウス・バデルト)そしてMISIAの『アイノカタチ』。

プログラム最後は《卒業生を送る歌》『さくら』(作曲:森山直太朗)。しみじみ。

そしてアンコールは定番『銀河鉄道999』(編曲:樽屋雅徳)と『星に願いを』で〆。そこには壮大な宇宙の広がりと神秘性があった。

例年通り、充実した3時間だった。卒業生たちの未来に幸あれ!

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2024年2月28日 (水)

祝・読売演劇大賞受賞!藤田俊太郎(演出家)

第31回読売演劇大賞に演出家・藤田俊太郎が決まった。対象となった作品は『ラビット・ホール』と『ラグタイム』。詳細はこちら

また、『ラグタイム』で舞台美術を担当した松井るみが最優秀スタッフ賞を受賞した。おめでとうございます。

僕は『ラグタイム』を2023年10月5日および7日に観劇し、劇評を下記事に書いた。

 ・ 石丸幹二・安蘭けい・井上芳雄 /ミュージカル「ラグタイム」待望の日本初演!

何故アメリカ初演から日本初演まで25年掛かったのか、藤田の演出の何が凄かったのかについて詳しく述べている。ミュージカルに興味のある方はご一読ください。

また藤田が演出した他の作品のレビューは以下の通り。

 ・ 中川晃教(主演)ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」 2022.12.16
 ・ 城田優(主演)ミュージカル「NINE」 2020.12.10
 ・ ブロードウェイ・ミュージカル「ピーターパン」(+昨年の大事故について) 2017.08.15

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2024年2月14日 (水)

From Screen to Stage and back to Screen ミュージカル映画「カラーパープル」(1985年に渦巻いた壮絶なハラスメントについても語ろう)

評価:A+

1985年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『カラーパープル』は猛烈なハラスメント(いじめ/嫌がらせ)の嵐に晒された。今でこそスピルバーグは押しも押されもせぬ大監督として世間から認知されているわけだが、当時はそうでなかった。1975年に『ジョーズ』、1981年に『レイダーズ/失われたアーク《聖櫃》』、そして82年に『E.T.』を撮り爆発的なヒットを連発、同業者から激しい嫉妬を買い「あいつは娯楽映画ばかり撮っている金の亡者」的に見られていた。つまり頑なにスピルバーグ映画の芸術性は認めないぞという雰囲気がハリウッドでは支配的だったのである。例えるならAKB48や坂道シリーズ(乃木坂・欅坂→櫻坂・日向坂)でボロ儲けした秋元康が「秋豚」と蔑称され、作詞家としての彼の才能が軽んじられている日本の現状に似ているだろう。

 ・ 秋元康プロデュース・欅坂46「サイレントマジョリティー」を讃えて(あるいは、アメリカの闇)
 ・ 【増補改訂版】「君の名は希望」〜作詞家・秋元康を再評価する

『E.T.』は米アカデミー賞で作品賞・監督賞にノミネートされたが、受賞したのはリチャード・アッテンボロー監督の『ガンジー』だった。

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スピルバーグはどうしてもオスカーが欲しかった。そこでアリス・ウォーカーの小説に目をつけた。しかしメイン・キャストがほぼ黒人で、白人が殆どで出てこない『カラーパープル』を白人が監督することに批判が集まった。結局アカデミー賞では作品賞を含む10部門11ノミネート(助演女優賞が重複)されたにもかかわらず、なんとスピルバーグは監督賞候補に入らなかった。そして蓋を開けてみると受賞ゼロ、全滅だった。正に「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」だ。そんな風に当時のハリウッドは悪意に満ち溢れていた。結局、作品賞・監督賞を制覇したのはシドニー・ポラックの『愛と哀しみの果て』。凡庸な駄作である。

僕は『未知との遭遇 特別編』(1980)以降、スピルバーグの全映画を公開時に映画館で観ており『カラーパープル』も例外ではない。大いに気に入り、後にレーザーディスク(LD)も購入した。

ここで日本の雑誌「キネマ旬報」1986年度 外国語映画ベストテンを見てみよう。第3位が『蜘蛛女のキス』(アカデミー作品賞・監督賞ノミネート)、第6位が『カラーパープル』、そして『愛と哀しみの果て』が12位。この評価からも分かる通り、アカデミー史上最悪のミスジャッジであった。余談だがミスジャッジで思い出すのが1998年に公開された『恋におちたシェイクスピア』でグウィネス・パルトロウが主演女優賞を受賞した「とんでも事件」。この年は『エリザベス』のケイト・ブランシェットや『セントラル・ステーション』のフェルナンダ・モンテネグロが候補だったわけで、グウィネスというのはどう考えてもあり得ない選択だった。その後"MeeToo"運動を経て、『恋におちたシェイクスピア』のプロデューサーだったハーベイ・ワインスタインが告発され逮捕(禁固刑は合計39年を言い渡された)。グウィネスが証言するかどうかが焦点となり、遂に彼女が受賞したからくりが判明したというわけ。閑話休題。

 ・ 映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」 2023.02.07

漸くスピルバーグ映画がアカデミー作品賞・監督賞を受賞するのは『シンドラーのリスト』(1993)である。これはホロコーストを描いた作品であり、ハリウッドの重役にユダヤ人が多いことは周知の事実(ワインスタイン兄弟もユダヤ人)。有無を言わせぬ鉄板ネタであった。

『カラーパープル』はウーピー・ゴールドバーグの映画デビュー作で、僕はこれでアカデミー主演女優賞を受賞すべきだったと今でも思っている。結局彼女は『ゴースト/ニューヨークの幻』の胡散臭い女霊媒師役で助演女優賞を受賞するのだが、まぁこれは「あの時あげられなくてゴメンね。これで堪忍して」といった残念賞的意味合いが強かった。因みにウーピーはTV界のEmmy(エミー賞)、音楽界のGrammy(グラミー賞)、映画界のOscar(アカデミー賞)、そして舞台のTony(トニー賞)というエンターテイメントの最高峰に位置する栄冠を4つとも受賞したEGOTであり、現時点でEGOTを達成したのはオードリー・ヘップバーン、リチャード・ロジャース、メル・ブルックス、アンドリュー・ロイド・ウェバー、ジェニファー・ハドソン、ジョン・レジェンド、エルトン・ジョンら19人しかいない。

『カラーパープル』は2005年にブロードウェイでミュージカル化され、その10年後にシンシア・エリヴォ、ジェニファー・ハドソン主演で再演。第70回トニー賞ではミュージカル・リバイバル作品賞とミュージカル主演女優賞(シンシア・エリヴォ)の2冠に輝いた(『ハミルトン』が11部門攫った年だ)。シンシア・エリヴォは2019年に映画『ハリエット』に出演しアカデミー主演女優賞にノミネートされ、主題歌も歌った。現在はミュージカル映画『ウィキッド』を撮影中(エルファバ役)。

今回の映画はこのブロードウェイ版に基づいている。製作にスティーヴン・スピルバーグ、クインシー・ジョーンズ(前作で音楽を担当)、オプラ・ウィンフリー(前作でソフィアを演じアカデミー助演女優賞候補に)らが名を連ね、製作総指揮には原作者アリス・ウォーカーの名前も。監督はブリッツ・バザウーレ、ガーナ出身だそう。上映時間141分で、なんと85年版の154分より短い!

製作陣にウーピーの名前がないから彼女は本作に思い入れがないのかな?残念だなと思っていたら、本編を観るとカメオ出演していたのでむっちゃ嬉しかった。

率直な感想。スピルバーグ版よりもミュージカル版の方が良かった。上映時間が短いことからも分かる通り展開が早いし、何よりミュージカル・シーンが素晴らしい。歌も、踊りも。ゴスペル(アフリカ系アメリカ人によって生み出された教会音楽)とかブルースが、黒人たちの辛い労働・日常生活から生まれた「叫び」であることがとても良く理解出来る仕組みになっている。本作にとってミュージカルという形式が最も相応しかった、と言えるだろう。

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2024年2月 8日 (木)

三浦宏規(主演)フレンチロックミュージカル「赤と黒」(+フランスのミュージカル史について)

1月6日(土)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティへ。スタンダール原作のミュージカル『と黒』を観劇。

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作曲はウィリアム・ルソー&ソレル、演出はジェイミー・アーミテージ。2016年にパリで初演された。ウィリアム・ルソーは『1789 〜バスティーユの恋人たち〜 』にも楽曲を提供している(こちらのメイン作曲家はドーヴ・アチア)。

近年フランスでミュージカルは盛んに制作されており、代表的なものとして『壁抜け男』(1997)、『ノートルダム・ド・パリ』(1998)、『ロミオ&ジュリエット』(2001) 、『太陽王』 (2005)、『ロックオペラ モーツァルト』 (2009)、『1789 〜バスティーユの恋人たち〜』(2012)などが挙げられる。大ヒット・ミュージカル『レ・ミゼラブル』も元々は1980年パリ初演で、英語版がロンドンで上演されたのは1985年だ。

更に源流を辿れば、ミシェル・ルグランとジャック・ドゥミ監督のコンビによるミュージカル映画『シェルブールの雨傘』(1964)、『ロシュフォールの恋人たち』(1967)、『ロバと女王』(1970)にたどり着く。ミシェル・ルグランの音楽は基本的にジャズのスタイルだが、21世紀に入ってからのフレンチ・ミュージカルの主流はロックンロールである。

ちなみにアメリカやイギリスでロック・オペラが流行ったのは1960年代後半から70年代前半にかけて。『ヘアー』(1967)、『ジーザス・クライスト・スーパースター』(1971)、『トミー』(1975)がその代表格。一方、今ブロードウェイで一番ホットなのは天才リン=マニュエル・ミランダ(『イン・ザ・ハイツ』『ハミルトン』)の出現によりヒップホップ系かな。ただ日本人にとってこのジャンルは最先端過ぎて全くついて行けてないので(『ハミルトン』の上演すら実現していない)、フレンチ・ミュージカルあたりがちょうどいい塩梅なのだろう。日本語ラップが(少なくともミュージカル界で)定着するのに、まだ20年位はかかりそう。

出演は三浦宏規、夢咲ねね、田村芽実、東山義久、駒田一ほか。三浦は『テニスの王子様』『刀剣乱舞』など2.5次元ミュージカル出身で、イケメンで歌も上手かった。夢咲ねねは宝塚の娘役時代から大好きな女優で、美人だし文句なし!シンプルな装置で舞台転換が早く、演出も良かった。

本作は宝塚星組が礼真琴主演で先駆けて上演したのだが、宝塚版より今回の方に軍配を上げる。ちなみに宝塚歌劇には柴田侑宏が台本を執筆した別バージョンの『と黒』があり1975年に初演されている。菊田一夫版(1957年初演)もあるらしい。知らんけど。

今回鑑賞しながら「と黒」とは何を象徴しているのか?と色々考えを巡らせた。〈情熱愛欲↔信仰・禁欲〉でもあるだろうし、〈血の革命革新(radical) ↔権力・保守(conservative) 〉でもあるだろう。第一幕はブルジョワ・中産階級篇で、第二幕は貴族階級篇という構成になっているのが面白い。しかし、貧しい平民出身の野心家ジュリアン・ソレルはどちらの階級にも受け入れられず、弾き飛ばされてしまう。実に重層的で奥深い作品だ。

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2024年2月 6日 (火)

古川雄大・柚希礼音・真風涼帆(出演)ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』

梅田芸術劇場でミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』を観劇した。

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1月3日(水・マチネ)の役替り

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1月7日(日・ソワレ)の役替り

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脚本・演出は『エリザベート』『グレート・ギャツビー』『ポーの一族』で知られる小池修一郎、作曲は『1789 -バスティーユの恋人たち-』で小池と組んだドーヴ・アチア。モーリス・ルブランの小説「怪盗ルパン」シリーズを下敷きに、アルセーヌ・ルパン(古川雄大)とカリオストロ伯爵夫人(Wキャスト:柚希礼音/真風涼帆) 、令嬢クラリス(真彩希帆)、シャーロック・ホームズ(小西遼生)をはじめとした様々な登場人物たちが財宝を巡って様々な駆け引きを繰り広げる。さらに悪党(Villain)ボーマニャン役を立石俊樹が演じる。

年4月に宝塚大劇場で上演された小池修一郎(作・演出)『カジノ・ロワイヤル』のレビューで、「これはジェームズ・ボンドではなく内容的にアルセーヌ・ルパンものであり、宮崎駿の『ルパン三世 カリオストロの城』を彷彿とさせる作品だ」と書いた(ルブランの小説『カリオストロ伯爵夫人』についても言及)。

 ・ 真風涼帆/潤 花(主演)宝塚宙組「カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~」は駄作!(原作小説/映画版との比較あり) 2023.04.06

今回の新作の制作発表が行われたのはこの後であり、「やっぱり小池はアルセーヌ・ルパンや『カリ城』がやりたかったんだ!」と僕の直感が正しかったことが判明した。正直『カジノ・ロワイヤル』は救いようのない駄作だったが、本作はむっちゃ面白かった。2回観ても全く飽きない。

小池作品には『グレート・ギャツビー』『NEVER SAY GOODBYE』など〈文学系〉、『ヴァレンチノ』『カサブランカ』『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』など〈映画系〉、さらに『蒼いくちづけ』『ポーの一族』など〈耽美系〉と色々あるが、本作が一番近いのは98年宝塚宙組公演の『エクスカリバー 〜美しき騎士たち〜 』だろう。ズバリ〈脳天気/アホ系〉。エンターテイメント要素が満載、理屈抜きでディズニーランドのアトラクション的楽しさが味わえる。

テンプル騎士団の残した財宝の在り処を示す、生命の樹=メノラー(燭台)の失われた7本の枝を探すというプロットのバカバカしさ!!最高に可笑しい。アーサー王と円卓の騎士が聖杯を探す旅に出る物語を想起させ、その意味でエクスカリバーに繋がっているし、最後に聖杯を守る騎士が登場する『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』にも近い雰囲気と言えるだろう。つまり正真正銘冒険活劇だ。

カリオストロ伯爵夫人は〈男装の麗人〉という設定で登場するので、元・宝塚歌劇団の男役トップスターだった柚希と真風はピッタリ。甲乙つけ難かった。タンゴを踊る場面もあり格好いい!

また一幕最後はルパンがピカピカ光る蝶ネクタイ型ゴンドラに乗り空中浮遊する場面もあってサービス精神旺盛。『ポーの一族』の演出を想い出した。

再演があれば是非また観たい。

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2024年1月25日 (木)

礼真琴・舞空瞳(主演)宝塚星組「RRR × TAKA”R”AZUKA ~√Bheem~」「VIOLETOPIA(ヴィオレトピア)」

下記事も併せて是非お読みください。

 ・ 宙組の存亡をめぐって宝塚歌劇団への提言 (2023.12.15)

1月16日(火)宝塚大劇場へ。星組公演を観劇した。

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『RRR』は主人公を礼真琴、その好敵手を暁千星が演じる。娘役トップは舞空瞳。脚本・演出は谷貴矢(たにたかや)。谷は2011年に入団。21年花組「元禄バロックロック」で大劇場公演演出家デビューを果たし、これが2作目。原作は日本でも大ヒットしたインド映画で言語はテルグ語。

一言にインド映画と言っても実は色々あり、北インドのボリウッド(ヒンディー語)が年間で約400本ほど制作し、南インドのトリウッド(テルグ語)、コリウッド(タミル語)、モリウッド(マラヤーラム語)、サンダルウッド(カンナダ語)がそれぞれ約200本ほど制作しているという。『RRR』の主題歌「ナートゥ」はゴールデン・グローブ賞および米アカデミー賞で歌曲賞を受賞するという快挙を成し遂げた。非英語の歌が同賞を受賞するのは極めて珍しい。

舞台版も「ナートゥ」(日本語訳)を歌い踊るのが最大の見せ場。華やかで楽しく、気分は最高潮に。物語は熱く面白いし、音楽も踊りもこれまで宝塚ではなかったタイプで物珍しく、最後まで飽きさせない。ハイテンションで突っ走り、最後はもうお腹いっぱい。後半のショーなしで一本立てでも良かったんじゃないかと感じたが、なんと休憩の後にとんでもない体験が待ち受けていた!!今回の演目はむっちゃお得な組み合わせだ。

110年という長い宝塚歌劇の歴史の中で、ショーの最高傑作は恐らく鴨川清作(作)『ノバ・ボサ・ノバ』(1971年初演)だろう。多くのファンが同意してくれる筈。『ノバ・ボサ・ノバ』の舞台はブラジル、リオ・デ・ジャネイロでラテン系の作品だが、一方、ヨーロッパ的でシックなショーなら荻田浩一(作・演出)『パッサージュ -硝子の空の記憶-』(2001年雪組公演)にとどめを刺す。もう、夢のように美しい作品であった。しかしオギーは2008年に宝塚歌劇団を退職、最早あれ以上のものは観られないのでは?と半ば諦めかけていた。

ところが、今回『VIOLETOPIA』を観て腰を抜かした。素晴らし過ぎる!!演出家・指田珠子(さしだしゅこ)の大劇場デビュー作である。耽美で衣装や美術が洗練されており、うっとり見惚れた。サーカスの場面があったりして『パッサージュ』を彷彿とさせる。フェデリコ・フェリーニ(イタリア映画 『甘い生活』『8 1/2』『アマルコルド』『フェリーニの道化師』の監督)的幻想世界と言っても良いかも知れない。蜃気楼のような作品。

音楽のセンスも抜群。特にモーリス・ラヴェル(作曲)管弦楽のための舞踏詩 『ラ・ヴァルス』の使い方には唸らされた。またモノトーンの舞台で静かに鳴り渡るフランシス・レイ(作曲)『白い恋人たち』も心に染みる。

「もう宙組は消滅したっていい。ここに確かな希望、春の兆しがあるのだから」そう思った。

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2024年1月17日 (水)

映画「マエストロ:その音楽と愛と」のディープな世界にようこそ!(劇中に演奏されるマーラー「復活」日本語訳付き)

公式サイトはこちら

〈スピルバーグからブラッドリー・クーパーへ託された想い〉

映画"Maestro"は元々マーティン・スコセッシ監督が企画を温めていたのだが『アイリッシュマン』を先にすることになり、手が回らなくなった。 そこでスティーヴン・スピルバーグに白羽の矢が立った。スピルバーグは当初相当乗り気だったが、ブラッドリー・クーパーが監督・主演した『アリー/スター誕生』を観て考えを改めた。クーパーには傑出した演出の才能があるから彼に任せたらいいだろう、と思ったのである。これはブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』を鑑賞して、その演出家であるサム・メンデスを自分が企画を抱えていた『アメリカン・ビューティ』の監督に迎えたひらめきに似たものがある(それまでメンデスは映画を撮ったことがなかったが初監督作品でアカデミー賞を受賞した)。またスピルバーグ自身、長年温めてきた企画『ウエスト・サイド・ストーリー』再映画化を実現し、やりきったと満足したことも大きいだろう。

 ・【永久保存版】どれだけ知ってる?「ウエスト・サイド・ストーリー」をめぐる意外な豆知識 ( From Stage to Screen ) 2021.12.01
 ・ 
映画「ウエスト・サイド・ストーリー」(スピルバーグ版) 2022.03.10

こうして本作はスコセッシとスピルバーグが製作に回るという強力な布陣となった。

〈同性愛〉

ブロードウェイ・ミュージカル『ウエストサイド物語』の作曲家で20世紀後半、ヘルベルト・フォン・カラヤンと並び立つ大指揮者でもあったレナード・バーンスタインが同性愛者であることは彼の生前から周知の事実であった。ただ僕がどうしても分からなかったのは、純粋に男だけが好きなゲイだったのか、バイセクシャル(両性愛者)だったのかということ。彼はフェリシアと結婚し子供を3人もうけた訳で、「本当に妻を愛していたのだろうか?、それともチャイコフスキーのように世間を欺くための〈偽装結婚〉に過ぎなかったのか?」というのが長らく関心事であった(チャイコフスキーの結婚生活はわずか6週間で破綻、彼は入水自殺を図る)。レニー(以下バーンスタインをこう呼ぶ)は最後までカミングアウトしなかったから。

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評価:A

2023年12月20日からNetflixで配信されているブラッドリー・クーパー脚本・監督・主演の映画『マエストロ:その音楽と愛と』を観て学んだこと。まず夫婦の関係というのは奥深く、本人にしか完全に理解するることが出来ないのだということ(「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」と言うではないか)。本作から真っ先に連想したのはケヴィン・クラインが主演した2004年の映画『五線譜のラブレター』(傑作!)である。ミュージカルの作曲家コール・ポーター(『エニシング・ゴーズ』『ナイト・アンド・デイ』『ビギン・ザ・ビギン』)とその妻リンダの関係を描く作品で、コール・ポーターはゲイだったが、リンダは心底彼のことを愛していた。

学んだことの2点目。ゲイとバイセクシャルの境界は曖昧で、多分それを区別することに余り意味はないということ。両者は虹色のグラデーションのように切れ目なく繋がっていて、だから近年LGBTQ+という概念が生まれたのだろう。ただ困るのは〈LGBT→LGBTQ→LGBTQ+〉と用語が年々変わって(足されて)きて各種メディアでも表記がバラバラなので統一して欲しい。

〈映画の勝因〉

本作がどうして成功したかと言うと、やはり夫婦の関係に焦点を絞ったことにあるのではないだろうか。例えば『ウエストサイド物語』空前の大ヒットという史実をスッポリ飛ばしてしまっているのだが、これを物語に取り込んでしまうとテーマがボケてしまう。偉大な指揮者/作曲家の伝記を目的とする映画ではないのだ。面白いのはレニーとフェリシアの3人の子供たちがこの映画を支持し、ブラッドリー・クーパーに全面協力している点。例えばこちらの記事をご覧あれ。

三島由紀夫をゲイとして描いたポール・シュレイダー脚本・監督、緒形拳主演『Mishima』(1985)が三島家の逆鱗に触れ、日本公開はおろか未だに日本でDVD/Blue-rayを発売する目処も立っていないのとは対照的だ。

 ・ 幻の映画「Mishima」〜三島由紀夫とは何者だったのか? 2020.03.02

あとフェリシアを演じたキャリー・マリガンが心底素晴らしい!特筆に値する。是非、映画のエンド・クレジットに注目して欲しい。なんとブラッドリー・クーパーより先にキャリー・マリガンの名前が出てくるのだ。クーパーは優しい人だ。

〈レナード・バーンスタインの遺品を貰った日本人〉

レニーの遺品を譲り受けた日本人指揮者がふたりいることをご存知だろうか?まず大植英次がレニー生涯最後のコンサートで使用した指揮棒とジャケットを遺族から譲られており、佐渡裕はベストを貰った。下記事にその写真を掲載している。

 ・ バーンスタインに捧ぐ~佐渡 裕/PACオケ 定期 2008.11.25

〈最後の来日をめぐる大騒動〉

レニー最後の来日公演が開催された1990年、僕は大学を卒業したばかりで岡山県岡山市に住んでいた。7月20日京都会館での演奏会に行こうかどうしようか最後まで迷っていた。ロンドン交響楽団を指揮してブルックナーの交響曲第9番が予定されていた。しかしマーラーならいざ知らず、ブルックナーはレニーの得意分野ではない。交通費も馬鹿にならない。思慮に思慮を重ねた上で断念した(もしマーラーの9番だったら万難を排してチケットを購入しただろう)。結局レニーは東京公演の途中で体調を崩し、残る予定を全てキャンセルし帰国、京都公演はマイケル・ティルソン・トーマスが振り曲目も変更になった。東京公演ではレニーが指揮する予定だった「ウエス・サイド物語~シンフォニック・ダンス」を“弟子の若い日本人”が代演したため、払い戻しをする・しないで主催者側と聴衆のすったもんだが起こった事が大々的に報じられ、僕は新聞記事でそれを読んだ(後に当時無名の“若い日本人”指揮者が大植英次だったことを知る)。その年の10月14日にレニーは肺癌で亡くなった。映画の中でも描写されている通り、彼はヘビースモーカーだった。

  大植英次、佐渡 裕~バーンスタインの弟子たち 2008.02.29

〈ユダヤ人の血〉

レニーの父サムはロシアのウクライナに生まれたユダヤ人で、ユダヤ教のラビ(律法学者)を代々務める一家だった。彼は16歳の年に反ユダヤ主義が高まる祖国を出て単身アメリカに渡った(ウクライナのユダヤ人がどのように迫害されていたかは映画化もされたミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』を参照されたい)。サムは叔父の営む理髪店で働いた後にパーマネントなど美容器具販売業で成功を収めた。母ジェニーもウクライナ生まれで7歳の時にアメリカに移住、12歳から羊毛工場で働いた。ふたりは新大陸で出会い結婚、レニーが生まれた。そんな家庭だったから音楽とは縁がなく、父はレニーが音楽家になることに反対した。クレズマー(中欧や東欧に住むユダヤ人の伝統音楽)を演奏する哀れな辻音楽師(street musician)のイメージを持っていたからである。

レニーがユダヤ人作曲家マーラーの音楽に心酔していた理由や、自作の交響曲第1番『エレミア』でメゾソプラノがヘブライ語で歌うのはこうした背景がある。幼い頃、父親からみっちりタルムード(モーセが伝えた口伝律法)を仕込まれていたのだ。なお、世界で初めてマーラーの交響曲全集をレコーディングしたのは彼である。

〈鮮烈な楽壇登場〉

映画は1943年11月14日から始まる(日付はクレジットされない)。急病でキャンセルしたブルーノ・ワルターの代役としてぶっつけ本番でニューヨーク・フィルの指揮台に立ち、ラジオでも放送されていたこともありセンセーショナルなデビューを果たした。この日のプログラムは以下の通り。

 ・シューマン:マンフレッド序曲
 ・ミクロス・ローザ:主題、変奏曲と終曲 
 ・R.シュトラウス:ドン・キホーテ
 ・ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第一幕への前奏曲

ここで留意したいのは真珠湾攻撃の後、第二次世界大戦最中の出来事だったということ。ドイツ・ベルリンに生まれたワルターはユダヤ人でウィーン国立歌劇場やウィーン・フィルでフルトヴェングラーと人気を争うほど活躍していたが、ナチス・ドイツの台頭でスイス経由でアメリカに亡命を余儀なくされた。ウィーンを去る直前の1938年に録音されたウィーン・フィルとのマーラー:交響曲第9番のライヴ録音は歴史的名演としてよく知られている。

またミクロス・ローザ(ロージャ・ミクローシュ)はハンガリー・ブタペストに生まれた。両親はユダヤ系の血筋で1939年ドイツに併合された祖国を離れ、ハリウッドで映画音楽作曲家になった。アルフレッド・ヒッチコック監督『白い恐怖』やウィリアム・ワイラー監督『ベン・ハー』などで3度アカデミー作曲賞を受賞。余談だがバレエ音楽『中国の不思議な役人』や『管弦楽のための協奏曲』で有名なバルトーク・ベーラもハンガリーに生まれた大作曲家で、第二次世界大戦が勃発しヒトラーを憎む彼は祖国を離れ渡米、貧困に喘ぎながら白血病に罹りニューヨーク州ブルックリンで亡くなった。そういう時代だった。閑話休題。

レニーはこのデビューをきっかけに1958年、アメリカ生まれの指揮者として史上初めてニューヨーク・フィルの音楽監督に就任することになる。それまではジョージ・セル(ハンガリー)やフリッツ・ライナー(ハンガリー)、ユージン・オーマンディ(ハンガリー)、アルトゥーロ・トスカニーニ(イタリア)、レオポルド・ストコフスキー(イギリス)といったヨーロッパ出身の指揮者たちがアメリカのクラシック音楽界を牛耳っていたのだ。

〈映画『波止場』とエリア・カザン〉

冒頭でティンパニの連打が高鳴る音楽はマーロン・ブランド主演、エリア・カザン監督の『波止場』。レニーが作曲した唯一の映画音楽(劇伴)である。どうしてこれしか携わらなかったのか?大植英次によると「勝手にミキサーで音量を調整されて自分が意図したものとは違う仕上がりになり、嫌気が差したんだ」と語っていたそう。赤狩りの最中、かつて共産党員だったカザンは「ハリウッド・テン」の仲間たちを売った“裏切り者”なので、レニーが当時何を考えていたのか興味深いところである。

 ・ 宮崎駿「風立ちぬ」とエリア・カザン~ピラミッドのある世界とない世界の選択について 2013.08.28

〈『ファンシー・フリー』から『オン・ザ・タウン』→『ウエスト・サイド物語』へ〉

続く新作の稽古場面。レニーが「ジェリー」と呼んでいるのは振付師ジエローム・ロビンスのこと。ここで制作進行しているのがバレエ『ファンシー・フリー』。1944年ニューヨーク・シティ・バレエ団が初演した。3人組の水兵が休暇で船を降りニューヨークを散策するという内容で、このプロットを発展させたのがブロードウェイ・ミュージカル『オン・ザ・タウン』である。そしてレニーとジエローム・ロビンスのコンビは後に『ウエスト・サイド物語』を生み出すことになる。

映画冒頭からレニーの恋人として登場するデイビッド・オッペンハイムは有名なクラリネット奏者で画家のエレン・アドラー(スタニスラフスキー・システムを継承する演技指導者ステラ・アドラーの娘)と結婚した。エレンが主催するホーム・パーティでレニーとフェリシアは出会う。その会場で「ベティとアドルフ」と呼ばれているのはベティ・コムデンとアドルフ・グリーンという作詞・脚本家のコンビ。『オン・ザ・タウン』の仕事がMGMの大プロデューサーであるアーサー・フリードの目に止まり、ハリウッドの招かれミュージカル映画『踊る大紐育』『雨に唄えば』『バンド・ワゴン』といった傑作群で共同脚本を執筆した。二人がパーティで歌っている"Carried Away"は『オン・ザ・タウン』のナンバー。なおアドルフ・グリーンは1989年、バーンスタインがロンドン交響楽団を指揮した演奏会形式のミュージカル『キャンディード』(全曲)上演にパングロス博士として出演しており、その様子はDVDで鑑賞することが出来る。

〈白黒から総天然色へ〉

映画は前半モノクローム映像だが半ばでカラーに切り替わる。その転換点で10年以上の歳月が一気に経過しているという構成だ。白黒の最後らへんに『ウエストサイド物語』(1957年8月初演)制作発表記者会見みたいな場面があるので恐らく1956年頃。総天然色になってすぐ、レニーの伝記を書こうとしている作家との対談で、「テレビ出演を始めてから15年、ニューヨーク・フィルの音楽監督になって10年」と言っている。最初のTV番組が「オムニバス(OMNIBUS)」で放送開始が1954年(有名な「ヤング・ピープルズ・コンサート」より前)、音楽監督就任が58年なので時代設定は1968−9年と推定される。この時レニーが作曲しているのは歌手、演奏者、ダンサーのためのシアター・ピース『ミサ曲』で1971年ワシントンのケネディ・センターで初演された。

 ・ バーンスタイン「ミサ曲」と「ジーザス・クライスト・スーパースター」 2017.07.15

〈マーラー:交響曲第5番〜アダージェットと『ベニスに死す』〉

モノクロームからカラーに切り替わる場面でレニーが指揮しているのがマーラー:交響曲第5番 第4楽章 アダージェット。言わずと知れた、ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『ベニスに死す』(1971)で一躍有名になった音楽だ。

『ベニスに死す』の主人公である作曲家グスタフ・アッシェンバッハはゲイとして描かれており、だから『マエストロ』でも、レニーの弟子(架空の人物)をケイト・ブランシェットが演じる映画『TAR/ター』でもアダージェットが引用されている。

 ・ クラシック通が読み解く映画「TAR/ター」(帝王カラヤン vs. バーンスタインとか) 2023.05.27

ただしグスタフ・マーラー自身はゲイではなく、アダージェットは愛する妻アルマに捧げられた楽曲である。ではクラシック音楽に造詣が深いヴィスコンティは何故主人公をゲイに設定したのか?実は別の明確なモデルがいたのだ。詳しくは下記事に書いた。

 ・ ヴィスコンティ映画「ベニスに死す」の謎 2011.10.18

〈レニーと大植英次の出会い〉

フェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインが亡くなったのが1978年6月16日。大植英次がタングルウッド音楽祭でレニーと出会ったのが1978年の夏(フェスティバル開催期間は例年6月〜7月)。ほぼ同時期である。このとき彼は21歳だった。タングルウッドで大植がピアノを弾いている時に横からやたらと話しかけてくる初老の男がいて、うるさいからと手で追い払おうとしたらその人物がバーンスタイン本人であった、というのが初対面だった。このエピソードは大阪市で開催された演奏会で大植自身が語るのを僕は生で聞いた。

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〈マーラー『復活』映画で演奏される該当部分の日本語私訳〉

映画の後半でマーラーの交響曲第2番『復活(Auferstehung)』第5楽章フィナーレが演奏される。これは本人がロンドン交響楽団を指揮した映像が残されており、1973年9月にイギリス、ケンブリッジの近くにあるイーリー大聖堂で収録された。イーリー市はロンドンから電車で1時間半、102kmくらいのところにある。ちょうど東京ー熱海間(関西で言えば京都ー舞鶴間)の距離に相当する。僕はDVDを持っており、ドイツ・グラモフォンが2023年に開始した映像配信サービス「ステージプラス」では現在無料配信されている。音楽をすることの歓びを爆発させた、圧巻のパフォーマンスだ。

なお、大植英次が亡くなった朝比奈隆の後任として2003年4月から大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽監督に就任し、その披露定期演奏会として選んだのがやはりマーラーの『復活』だった。

ブラッドリー・クーパーに指揮の指導をしたメトロポリタン・オペラの音楽監督ネゼ=セガンは同性愛者であることを公表している。パートナーはヴィオラ奏者のピエール・トゥールヴィル。彼が同性愛をカミングアウトする意義についてはこちらの記事が詳しい。レニーのことについても触れられている。

さらにクーパーは2022年2月26日にグスターヴォ・ドゥダメルがベルリン・フィルとマーラーの『復活』を演奏する際にもベルリンに同行し、勉強した。

『復活』のドイツ語歌詞は『マエストロ』の物語と密接にリンクしているのだが、残念ながらNetflixの配信では翻訳されていない。だから参考までに該当部分の対訳を以下添付する(無断転載禁止)。

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合唱・アルト:
Hör’ auf zu beben! 震えるのはやめよ!
Bereite dich zu leben! 生きることに備えよ!

ソプラノ、アルト独唱:
O Schmerz! Du Alldurchdringer! おお苦悩よ!全てを貫くもの!
Dir bin ich entrungen. お前から私は身を振りほどいた
O Tod! Du Allbezwinger! おお死よ!全てを征服するもの!
Nun bist du bezwungen! いまお前は(私に)征服された!
Mit Flügeln, die ich mir errungen, 私が手に入れたこの翼(=“死”)で
In heißem Liebesstreben 熱く愛を希求しながら
Werd’ ich entschweben 私は飛び立とう
Zum Licht, zu dem kein Aug' gedrungen!誰の目にも届かぬ光に向かって

合唱:
Mit Flügeln, die ich mir errungen, 私が手に入れたこの翼(=“死”)で
Werde ich entschweben! 私は飛び立とう
Sterben werd' ich, um zu leben! 私は死のう、生きるために!
Aufersteh'n, ja aufersteh'n wirst du, 復活する、そうだお前は蘇るのだ
Mein Herz, in einem Nu! 私の心、たちどころに!
Was du geschlagen, お前が打倒したもの(=“死”)が
Zu Gott wird es dich tragen! お前を神のもとに導くだろう

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ここで問題となるのが最後から2行目の動詞geschlagenの解釈である。これはschlagen(打ち倒す/打ち負かす/〜に勝つ)の過去分詞。ところが、schlagenには(鼓動する/脈を打つ)という意味もあるので、ほとんどの日本語訳はこちらを採用している。多分、その前の行にHerz(心臓)という単語があるので、それに引きずられているのだろう。しかしこれは絶対におかしい。意味を成さない。なぜならこの動詞の主語はdu(君、お前)であり、これは1格。3格のdir(君に)でも4格のdich(君を)でもない。「鼓動する」という意味の場合、次のような例文になる。

Der Puls schlägt unregelmäßig.\脈が不規則に打つ
Mein Herz schlägt heftig.\私の心臓がどきどきしている

つまりPuls(脈)やHerz(心臓)が主語(1格)になっても、duが主語になる筈がない(「私」は脈打たない)。ゆえに「お前がschlagen(打倒す)もの」=「お前がbezwingen(征服する)もの」=「Tod(死)」と読み取れば、全体の意味が通じるのである。

〈カズ・ヒロのメイクに注目!〉

ブラッドリー・クーパーをレナード・バーンスタインに見事に変身させたメイクアップアーティストはカズ・ヒロ(辻一弘)。アカデミー賞で2度メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している。特にゲイリー・オールドマンを担当した映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のメイクは凄かった!

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2023年12月15日 (金)

宙組の存亡をめぐって宝塚歌劇団への提言

宙組は1998年1月1日に創設された宝塚歌劇団5番目の組である。大劇場お披露目公演は『エクスカリバー』と『シトラスの風』(NHK BSの放送を観た)。そして同年10月から上演された『エリザベート ー愛と死のロンドー』が僕の宝塚初観劇となった。出演は姿月あさと、花總まり、和央ようか、湖月わたる、朝海ひかる ほか。

 ・ エリザベートの想い出 2007.06.18

その後何度も大劇場に足を運び、街そのものが気に入って現在は宝塚市に住んでいる。わが家のベランダからは大劇場を望むことが出来る。

 ・ 宝塚生活始まる。 2013.07.18

最近書いた宙組のレビューは以下。

 ・ 真風涼帆(主演)宝塚宙組「アナスタシア」と、作品の歴史を紐解く。 2020.12.02
 ・ 真風涼帆/潤 花(主演)宝塚宙組「カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~」は駄作!(原作小説/映画版との比較あり) 2023.04.06

2023年9月末、宙組に所属する25歳の劇団員が死亡した問題で歌劇団は11月14日にいじめやパワハラは確認できなかったとする調査報告書の内容を公表した。亡くなった劇団員が上級生からヘアアイロンを押し当てられ火傷を負わされたことについては「日常的にあること」とし、故意だと主張する遺族に対して村上浩爾 ・現理事長が「証拠となるものをお見せいただけるよう」と発言して世間から猛批判を浴びた。余りにも冷酷で、思いやりに欠けた仕打ちである。世の中の企業倫理や社会規範からかけ離れた態度であり、自分たちがなぜ非難されているのか、全く分かっていない。「浮世離れ」と言い換えても良いだろう。組織と、生きている現役劇団員たちを守ることに汲々としている。

特に23年9月7日、ジャニー喜多川による性加害問題で外部の専門家による再発防止のための特別チームが出した調査報告書が画期的内容だっただけに、かえって宝塚歌劇団の事なかれ主義・隠蔽体質が浮き彫りにされる形となった。

僕は座付演出家だった原田諒のケースを思い出した。原田は2022年12月、演出助手にハラスメントをしたとする記事が『週刊文春』に掲載されることを理由に、事実関係を十分調査されないまま歌劇団から何度も退団を迫られ、受け入れざるを得ない状況に追い込まれた。無実を主張する原田は23年4月7日歌劇団に従業員の地位確認を求める訴えを神戸地裁に起こし、さらに同年『文藝春秋』6月号において手記を掲載し反論した。僕はそれを読むまでは演出助手が女性だと勘違いしていたのだが実は男性で、OGの真矢みきから原田が直々に面倒を見てほしいと頼まれたのだそう(以下の発言内容はこちらの記事から引用)。

木場健之(こばけんし)理事長(当時)は2022年12月5日に原田に次のように言った。「A(演出助手)の母親が、あなたを宝塚歌劇団から出さなければ、10日の土曜日に文春に情報を渡すと言ってきた。土曜に情報を渡せば、月曜日には記事にしてもらえるらしい。もう記者ともコンタクトを取っていると言っている。Aの脅しを免れるために、9日付であなたは阪急電鉄の創遊事業本部に異動してもらうことに決定した」「個人的に言わせてもらうなら、自主退職という道もある。(中略)異動はもう決まったことだから。業務命令!」

こうして懲罰委員会が開かれることもなく、原田は退職勧奨を受けた。つまり助手Aが主張するハラスメント行為があったのか事実関係が一切検証・精査されることなく、マスコミにスキャンダルをばら撒くぞ!という脅しに歌劇団は怯え相手の言いなりになり、原田を切り捨てたのである。「組織を守る」ことだけに心をとらわれ視野狭窄に陥り、そのため「臭いものにはフタをしろ!!」というなりふり構わぬ姿勢がにじみ出ており、今回の自死事件でも同じことが繰り返されたと言えるだろう。で、原田を切ったが結局文春にネタは売られたわけで、いい面の皮だ。

今まで観劇した原田演出作品のレビューは以下の通り。

 ・ 宝塚バウ・ミュージカル「ノクターン -遠い夏の日の記憶-」 2014.06.29
 ・ 轟悠は宝塚の高倉健である。「ドクトル・ジバゴ」@シアター・ドラマシティ 2018.02.14
 ・ 
彩風咲奈・朝月希和(主演)宝塚雪組「蒼穹の昴」 2022.10.14

そもそも宝塚歌劇団は自らの組織を「学校」として捉えており、劇団員のことを「生徒」と呼び、退団を「卒業」と称する。そこに根本的な欺瞞がある。「生徒」だから「学校」が守ならければならないと信じ、内部の情報が外部に漏れることを極度に恐れる。「生徒」だからいじめやパワハラがある筈がない。「清く正しく美しく」がモットーなのだから。「外部漏らし」はご法度であり家族にも相談出来ない。「校則(おきて)」を守らないものは糾弾され、皆の前で「すみませんでした!」と繰り返し謝罪を強いられる。そしてそれを劇団は「上級生による指導の範疇」と自分たちにとって都合よく解釈する。

ファンは宝塚大劇場を「ムラ」と呼称する。言い得て妙で、この表現は因習にとらわれた劇団の閉鎖性を象徴している。世間から見れば「非常識」「時代錯誤」でも内部にいる人には見えないのだ。

元宝塚男役の七海ひろきはユーチューブに動画を投稿し、宝塚歌劇団は「浮世離れして外の世界から孤立」した場所でこの状況は、時代に合わせて変化出来ないまま109年続いてきた歴史の積み重ねによるものではないか」劇団が誠実に向き合って本気で改革に取り組むことを心から願っています」と語った。彼女の勇気ある発言に心からエールを送りたい。

当初劇団は11月14日の調査報告書公表で幕引きを図り、宙組の東京公演を実施する腹づもりでいた。しかし世論がそれを許さず、11月17日にとりあえず同月25日から12月14日まで公演を中止すると発表した。だからこの時点でもあわよくば後半をやりたいと画策していたわけだ。12月24日の千秋楽まで全日程の中止を決めたのは漸く12月5日である。見通しが甘く、遺族と世間を舐めていると言わざるを得ないのが現状である。

では遺族も世間も納得させる最善の選択肢はなんだろう?まず第一に劇団がパワハラといじめがあった事実を素直に認めること(当たり前だ)。そして亡くなった劇団員を火傷させた上級生と、深夜に彼女を長時間叱責した宙組幹部(組長ら)が遺族に謝罪し、責任を取って退団すること。これは必須だろう。さらに宙組を解体する。以下のような事例からそれが妥当と考える。

1)日本大学はアメリカンフットボール部の違法薬物事件を受けて、廃部の方針を固めた。腐った組織は解体するのが一番スッキりするし、一部の膿を切開排膿することは残りの母体を守ることに繋がる。
2)〈絶対的センター〉の平手友梨奈が脱退し、ガタガタになったアイドルグループ『欅坂46』をソニー・ミュージック・エンターテイメントおよび秋元康は「終わらせる」決断を下し、新たに『櫻坂46』として再編した。

1997年まではそもそも花・月・雪・星の4組しかなかったわけで(劇団員の総数もその後増えていない)、出直しという意味で原点回帰してもよいのではないだろうか?また『欅坂46』が『櫻坂46』に生まれ変わったように(今年のNHK紅白歌合戦出場も決まった)、宙組を一旦終わらせ新たな組を創設する手もあるだろう。活動再開もままならない現状を打破するには思い切った改革が必要だ。

荻田浩一(『パッサージュ -硝子の空の記憶-』)・上田久美子(『翼ある人々 -ブラームスとクララ・シューマン -』)そして原田諒。才能に溢れ、将来を嘱望されていた若手の作・演出家たちが次々と宝塚を離れ、残ったのは藤井大介・植田景子・生田大和といった凡庸な人たちばかり(大御所:小池修一郎は除く)。藤井や植田が演出する演目は詰まらないので、僕はそれらの観劇を避けるようにしている。

11月30日発売の週刊文春は同月中旬、藤井大介が稽古場のある宝塚大劇場内の5階リフレッシュコーナーに酒を持ち込み生徒に勧めた、と報道。歌劇団は「酒類を持ち込んだことは事実」と認めた。 そして12月1日、藤井は理事を辞任した(歌劇団は「個別の理事の退任理由については公表を差し控える」とマスコミの取材に答えた)。 また植田は最近自身のインスタグラムで、亡くなった劇団員や遺族に対して一言もお悔みを述べることなく「報道が真実を見えなくしている」とメディア批判を展開し、物議を醸している。やれやれ……。

ずたぼろの宝塚歌劇団だが、原田の名誉が回復され、彼が復帰することを僕は心から待ち望む。パンドラの箱は開かれたが、希望はまだある。そう信じたい。

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