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2021年9月17日 (金)

厳選 序曲・間奏曲・舞曲〜オペラから派生した管弦楽の名曲ベスト30はこれだ!

厳選 管弦楽の名曲ベスト40(+α)はこれだ!」という記事ではオペラの序曲や間奏曲を除外した。しかし後々考えてみると、僕が作成したリストが歯抜けというか物足りない。やはりここは追加記事を書き、穴埋めをするしかないと思い至った。

新たなリストは作曲された年代順に並べている。恒例により1作曲家に付き1作品に絞った。末尾に記載した年号は作品が完成、あるいは初演された年を示す。

・パーセル:「妖精の女王」組曲 1695
・ラモー:「優雅なインドの国々」組曲 1735
・モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲 1786
・ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲 第3番 1806
・ロッシーニ:「どろぼうかささぎ」序曲 1817
・ウェーバー:「魔弾の射手」序曲 1821
・グリンカ:「ルスランとリュドミラ」序曲 1842
・オッフェンバック:「天国と地獄」序曲 1858
・ヴェルディ:「運命の力」序曲 1862
・ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死 1865
・スッペ:「軽騎兵」序曲 1866
・ヨハン・シュトラウス:「こうもり」序曲 1874
・ビゼー:「カルメン」第1組曲・第2組曲 1875
・ポンキエッリ:「ラ・ジョコンダ」時の踊り 1876
・チャイコフスキー:「エフゲニー・オネーギン」ポロネーズ & ワルツ 1878
・ムソルグスキー:「ホヴァーンシチナ」モスクワ川の夜明け(前奏曲) & 間奏曲 1886
・マスカーニ:「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲 1890
・ボロディン:「イーゴリ公」だったん人(ポロヴェツ人)の踊り 1890
・プッチーニ:「マノン・レスコー」間奏曲 1893
・マスネ:「タイス」瞑想曲 1894
・リムスキー=コルサコフ:「サルタン皇帝」熊蜂の飛行 1900
・レハール:「メリー・ウィドウ」ワルツ 1905
・ディーリアス:「村のロメオとジュリエット」楽園への道 1910
・ヴォルフ=フェラーリ:「マドンナの宝石」間奏曲 第1番 & 第2番 1911
・フランツ・シュミット「ノートルダム」間奏曲 1914
・ヤナーチェク:「利口な女狐の物語」組曲 1923
・コダーイ:「ハーリ・ヤーノシュ」組曲 1927
・ヴァイル:「マハゴニー市の興亡」組曲 1930
・ベルク:「ルル」組曲 1934
・ブリテン:「ピーター・グライムズ」4つの海の間奏曲 & パッサカリア 1945
・ショスタコーヴィチ「モスクワ・チェリョームシカ」モスクワを疾走 1957

手前味噌だが、ほぼ完璧なリストに仕上がったと自負している。読者の皆様、忌憚のないご意見をコメント欄にお寄せください。

17世紀後半に生きたヘンリー・パーセルはバロック時代のイギリスで最も有名な作曲家。20世紀の作品ベンジャミン・ブリテン『青少年のための管弦楽入門』は副題が『パーセルの主題による変奏曲』であり、パーセルが作曲した劇付随音楽『アブデラザール』の主題に基づいている。パーセル以降、イギリス音楽は不毛の、空白期間が200年続いた。息を吹き返すのは19世紀末、エドワード・エルガーやフレデリック・ディーリアス登場を待たなければならない。

ジャン=フィリップ・ラモーはバロック時代フランスの作曲家。指揮者のサイモン・ラトルがお気に入りで、特に自ら再構成した歌劇『レ・ボレアド』組曲については「ティーンエイジャーの頃、エリオット・ガーディナーの演奏を聴いて感銘を受け、すぐに虜になってしまった。その時からこの曲が私の音楽人生の一部となった」と語っており、ベルリン・フィルの定期演奏会で取り上げている。『優雅なインドの国々』は具体的な国名ではなく、異国の地であるオスマン帝国、ペルー、ペルシャ、北米を意味している。心躍る舞曲だ。

『フィガロの結婚』序曲はドレミファという音階を駆け上がったり駆け下りたりする楽想が如何にもモーツァルトらしい。

『レオノーレ』序曲第3番は歌劇『フィデリオ』の改訂上演(第2稿)のために作曲された。ベートーヴェンは『レオノーレ』というタイトルでの上演をあくまで主張したが、劇場側には受け入れられなかった。第1稿の初演は惨憺たる大失敗で、何度も書き直した。最終稿である『フィデリオ』序曲は魅力に乏しい。

ロッシーニでなんと言っても有名なのは『ウィリアム・テル』序曲だろう。〈1.夜明け 2.嵐 3.静寂 4.スイス軍隊の行進〉という構成。最後の行進曲は北米のテレビ・ドラマ『ローン・レンジャー』のオープニングに使用され、日本では『オレたちひょうきん族』のテーマ曲になった。それ程の知名度はないが、僕は軽妙な『どろぼうかささぎ』も好き。セルジオ・レオーネ監督の遺作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』での使い方が印象深い。

ウェーバーは『魔弾の射手』でドイツ・ロマン派のオペラ様式を完成し、ワーグナーへと流れを導いた。兎に角、浪漫的。

ロシア産『ルスランとリュドミラ』序曲はムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの史上最速、ぶっ飛びの演奏を推薦する。ショスタコーヴィチ:交響曲第6番とカップリングされているディスクだ。腰を抜かすぞ。

『天国と地獄』は原題を直訳すると『地獄のオルフェ』で、特に序曲の第3部『カンカン』が有名。実はオッフェンバックのオリジナル版に序曲はなく、ウィーン初演のためにカール・ビンダーが劇中の曲を編曲して構成した。だから指揮者のミンコフスキーがこの喜歌劇全曲を上演するとき序曲は演奏しない。

ヴェルディのオペラの中から傑作を選ぶとしたら、多分『運命の力』はベストテンに入らない(上位に『ナブッコ』『マクベス』『リゴレット』『イル・トロヴァトーレ』『椿姫』『シモン・ボッカネグラ』『仮面舞踏会』『ドン・カルロ』『アイーダ』『オテロ』『ファルスタッフ』などがあるから)。しかし切れば血が噴き出るような、沸騰する序曲の完成度はピカイチ。他に『シチリア島の夕べの祈り』序曲とか、『アイーダ』シンフォニア(序曲)も良い。これは『アイーダ』前奏曲と別物。

ワーグナーは『トリスタンとイゾルデ』で半音階を駆使しており、それは後のフランス印象派(ドビュッシー、ラヴェル)や十二音技法を生み出した新ウィーン楽派(シェーンベルク、ウェーベルン、ベルク)への呼び水となった。

スッペの喜歌劇『軽騎兵』は1866年に作曲され、アン・デア・ウィーン劇場で初演された。現在では本編が劇場で上演されることはなく、あらすじも忘れ去られた。黒澤明の映画『影武者』が公開された折、予告編で『軽騎兵』序曲が使用されており、池辺晋一郎の音楽も似たものに仕上がっている。そもそもラッシュ・フィルムにイメージを喚起するために『軽騎兵』がつけられていたという。このように作曲家に監督や製作者が自分たちのイメージを伝えるために、完成前のフィルムに仮(テンポラリー)につけた音楽のことをテンプトラック(Temp track あるいは Temp music)と言う。

喜歌劇『こうもり』は『軽騎兵』同様アン・デア・ウィーン劇場で初演された。現在ウィーン国立歌劇場では毎年年末年始に公演が組まれており、大晦日に『こうもり』を観劇し、その翌日にウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを楽しむというのがこの街の恒例行事になっている。なんとも華やかで、心がウキウキする音楽。新年を迎えるのに相応しい。

ビゼーの『カルメン』は生真面目な男が魔性の女(ファム・ファタール)に誘惑、籠絡されて身を滅ぼすという物語であり、基本構造は『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』や『マノン・レスコー』と同じである。オペラ作曲家がこういった素材を好むという現象は心理学的に興味深い。

『時の踊り』はディズニーの『ファンタジア』で取り上げられたことでも有名。歌劇『ラ・ジョコンダ』のバレエ音楽である。原作はヴィクトル・ユーゴーの戯曲で、オペラ用台本を『シモン・ボッカネグラ』(改訂版)『オテロ』『ファルスタッフ』(以上ヴェルディ作曲)『メフィストフェーレ』のアッリーゴ・ボーイトが書いた。

『エフゲニー・オネーギン』はプーシキン原作。交響曲や『くるみ割り人形』の“花のワルツ”もそうなのだが、チャイコフスキーのワルツは絶品だ。

『ホヴァーンシチナ』は他のムソルグスキー作品同様に、友人のリムスキー=コルサコフがアレンジやオーケストレーションを施している。余りにもかけ離れたものに仕上がっているので、原曲に忠実なショスタコーヴィチ版もある。

『カヴァレリア・ルスティカーナ』とは直訳すると『田舎の騎士道』といったかんじ。激しく波打つ胸の内を切々と訴えかけるような間奏曲は文化大革命下の北京を舞台に少年のひと夏の恋を描いた中国・香港の合作映画『太陽の少年』(1994)で印象的に使われていた。

『イーゴリ公』だったん人の踊りは本来、合唱付きである。オーケストラ単独より、やはりそちらの方が迫力がある。

プッチーニの音楽は甘美だ。『カヴァレリア・ルスティカーナ』にも言えることだが、カンタービレ(イタリア語で「歌うように」という意味)の魅力。『マノン・レスコー』と同じ小説を原作とするマスネ作曲『マノン』も優れたオペラである。両者でイタリアとフランス・オペラの違いを味わってみるのも一興だろう。

マスネ『タイス』は瞑想曲ばかりが有名だが、この記事を書くにあたり、初めて歌劇全曲をBlu-rayで視聴してみるとなかなか面白かった。なんとタイスは高級娼婦だった!あのヴァイオリン・ソロが清楚で美しい瞑想曲からは想像だにしていなかった。禁欲を善とする神父が、ファム・ファタールに翻弄されるという意味で『マノン』に近い構造を持った物語である。なお、この瞑想曲は大林宣彦監督の映画『転校生』で使用されている(一夫の幼馴染で病弱な女学生の家を一美が訪問する場面)。

“熊蜂の飛行”は『サルタン皇帝』第3幕で主人公の王子が魔法の力で蜂に姿を変え、誤解から自分と母を流罪にした父の皇帝のもとに海を渡って飛んで行く場面で演奏される。セルゲイ・ラフマニノフやジョルジュ・シフラによるピアノ独奏のための編曲や、ヤッシャ・ハイフェッツによるヴァイオリン独奏用編曲などがあり、他にもギターやトランペット、トロンボーン、チューバなどでも演奏される。指を高速で動かすテクニックをひけらかす、つまりヴィルトゥオーソ(virtuoso)を誇示する目的でしばしば取り上げられる。逆に意外と原曲を聴いたことがある人は少ないのではないだろうか?

レハールのオペレッタに関して、吹奏楽の世界では鈴木英史による『メリー・ウィドウ』セレクションの人気が高い。ワルツはアルフレッド・ヒッチコック監督の映画『疑惑の影』(1943)で繰り返し不気味に鳴り響く。またエルンスト・ルビッチ監督の『メリィ・ウィドウ』(1934)も名作。

上演される機会は滅多にないが僕はディーリアスの歌劇『村のロメオとジュリエット』が大好きだ。マッケラスが指揮した全曲のDVD(LD:レーザー・ディスクも持っていた)を繰り返し観た。“楽園への道”はいわば、近松心中ものにおける「道行(みちゆき)」みたいなもの。つまり死地への旅の道程である。

『マドンナの宝石』でしばしば演奏されるのは第2幕への間奏曲(第1番)だが、興味深いことにヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルは第3幕への間奏曲(第2番)のみレコーディングしている。

フランツ・シュミットについては下記事もお読みください。

 ・シリーズ《音楽史探訪》ナチズムに翻弄された作曲家ーフランツ・シュミットの場合 2012.06.22

『ノートルダム』はヴィクトル・ユーゴーの『ノートルダム・ド・パリ』を基にした歌劇らしいのだが、少なくとも僕は最近欧米で上演されたという話をとんと聞かない。1956年に日本で初演されているそうなのだが……。カラヤンはこの間奏曲のみを2回スタジオ録音しているが、実演では交響曲やオラトリオ『7つの封印の書』を含め、一切シュミットを取り上げたことがない。カラヤン同様オーストリア出身のカール・ベームも皆無。なお、キリル・ペトレンコはベルリン・フィルと交響曲第4番を取り上げ、そのライヴ録音はCDとしても発売されている。

ヤナーチェク『利口な女狐の物語』は色っぽい。マッケラス/ウィーン・フィルの演奏でどうぞ。あと同作曲家の『死者の家から』組曲もお勧め!原作はドストエフスキー『死の家の記録」。実体験に基づいた獄中記である。

コダーイは同郷のバルトーク同様に、ハンガリー民謡を収集・研究した。『ハーリ・ヤーノシュ』は「くしゃみ」から始まる。民族(打弦)楽器ツィンバロムが使用されているのが特徴的。

『マハゴニー市の興亡』のベルトルト・ブレヒト作、クルト・ヴァイル作曲というコンビは『三文オペラ』でも有名。ドイツでの初演は1930年なので世界大恐慌の直後だ。欲望を全肯定し、なんでも金、金、金という資本主義社会を戯画化している。ヤクザな連中がアメリカの砂漠地帯に都市を築くというお話なので、僕が一番に連想するのはラスベガスである(行ったことがある)。実際にはバグジー(ベンジャミン・シーゲル)がネバダ砂漠の真ん中にフラミンゴホテルを建設しカジノの都を築いたのは1946年なので、未来を予言したと言えるだろう。ナチスが本作に“退廃音楽”の烙印を押し、上演禁止にするのは1933年である。音楽活動の道を閉ざされたヴァイルは同年パリに逃れ、1935年にアメリカ合衆国に移住、ミュージカルの作曲家になった。

歌劇『ルル』はアルバン・ベルク未完の遺作。しかし組曲の方は作曲家自身の手で完成されている。1934年にカルロス・クライバーの父エーリヒの指揮によりベルリンで初演された。しかし33年には既にアドルフ・ヒトラーが首相の座に就いており、エーリヒは『ルル』初演直後に幼い息子を連れてドイツを去り、アルゼンチンに移住した。

『ピーター・グライムズ』の主人公は独身の漁師である。だからうねるような波のモチーフが使用されている。4つの海の間奏曲はレナード・バーンスタインが生涯最後の演奏会で取り上げた。なお、ブリテンもレニーもLGBTQ+である。

『モスクワを疾走』の音源はシャイー/フィラデルフィア管の『ショスタコーヴィチ:ダンス・アルバム』を推薦する。風刺的内容で、聴いていて愉快な気分になれる。

以上紹介した楽曲の音源は、基本的にロビン・ステープルトン/ロイヤル・フィルの演奏か、カラヤン/ベルリン・フィルの演奏を推す。

ステープルトンの指揮では『タイスの瞑想曲』『軽騎兵』序曲、『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲、『マドンナの宝石』間奏曲 第1番、『時の踊り』が聴ける。Spotifyで“ロビン・ステープルトン”を検索すると、僕が作成したプレイリストが見つかる筈。

一方カラヤンもこういう小品を振らせたら超一級品で、『軽騎兵』序曲、『こうもり』序曲、『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲、『マドンナの宝石』間奏曲 第3番、『ノートルダム』間奏曲、『タイス』瞑想曲、『マノン・レスコー』間奏曲、『エフゲニー・オネーギン』ポロネーズ&ワルツ、『天国と地獄』序曲、『メリー・ウィドウ』ワルツ、『魔弾の射手』序曲、『どろぼうかささぎ』序曲、『レオノーレ』序曲 第3番、『運命の力』序曲などを録音している。Spotifyで僕はこれらをプレイリスト“カラヤン珠玉の小曲集”としてまとめた。

ロビン・ステープルトン(Robin Stapleton)はイギリスの指揮者だということくらいしか経歴がよくわからない。僕が小学生の頃、ロンドン・ジョフ・ラブ・オーケストラと組んだ管弦楽名曲集のLPレコードが「レコード芸術」や朝日新聞「母と子の試聴室」で推薦盤になった。

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これは日本のビクター音楽産業による独自企画でロンドンのEMIスタジオで録音され、1979年に発売された。「ロンドン・ジョフ・ラブ」は聞き慣れない名前で、実在のオーケストラが録音契約などの関係で変名を名乗っている「覆面オーケストラ」か、ロンドン・フェスティバル管弦楽団やナショナル・フィルハーモニー管弦楽団など、レコーディング目的で集められた音楽家の団体かも知れない。残念ながら廃盤で入手困難となっている。現在聴くことが出来るのはロイヤル・フィルを指揮したデジタル再録音盤である。

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2021年7月 9日 (金)

厳選 管弦楽の名曲ベスト40(+α)はこれだ!

記事「厳選 交響曲の名曲ベスト30はこれだ!」も併せてご一読ください。

まず、今回のリストにリヒャルト・シュトラウスが入っていないことについて弁明をしておきたい。彼の管弦楽法が華やかであると認めることにやぶさかではない。しかし聴いていてどうも空疎なのだ。交響詩に情景の表面的描写はある。しかし中身がない。『アルプス交響曲』は主人公が登山をし、頂上の雄大な景色を堪能して嵐に遭いながらも無事下山するまでが描かれており、ゴージャスな響きを堪能できる(小澤征爾/ウィーン・フィル、大植英次/大阪フィルで生演奏を聴いた)。でもそれだけ。心が全く感じられない。僕にとってR.シュトラウスの管弦楽曲は張りぼて、ちんどん屋の音楽だ。けばけばしくて下品。一方、オペラ作曲家としては実に素晴らしい。『ばらの騎士』『サロメ』『エレクトラ』……。どれも一級品だ。こちらのジャンルは高く評価する。

また超有名曲ムソルグスキー『展覧会の絵』を省いたのは、オリジナルがピアノ曲で、モーリス・ラヴェルが編曲しているから。他者によるアレンジは管弦楽曲(オリジナル)と認めないことを原則とした。同様の理由でビゼー『アルルの女』も外した。第2組曲は作曲家の死後、友人のエルネスト・ギローが編曲している。一方、ラヴェルの『クープランの墓』も原曲はピアノ独奏曲だが、ラヴェル自身が後にオーケストラ用に編曲しているので対象とした。

オペラの序曲や間奏曲は除外した。オペラは本来、総体として鑑賞すべきものだから。

 ・厳選!これだけは観て(聴いて)おきたいオペラ・ベスト25(+吹奏楽との関連も)

ちなみに僕がオーケストレーションの魔術師と考える作曲家はラヴェル、リムスキー=コルサコフ、そしてレスピーギである。

それではいってみよう!1作曲家に付き1作品に絞った。曲名の後の西暦は、作曲または初演された年を示しており、年代順に並べてある。

・J.S. バッハ:管弦楽組曲 第2番 1720年頃
・ベートーヴェン:序曲「コリオラン」 1807
・メンデルスゾーン:劇付随音楽「夏の夜の夢」 1843
・ムソルグスキー:禿山の一夜(原典版) 1867
・ワーグナー:ジークフリート牧歌 1870
・チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」 1876
・ブラームス:大学祝典序曲 1880
・ボロディン:交響詩「中央アジアの草原にて」 1880
・スメタナ:連作交響詩「わが祖国」 1882
・シャブリエ:狂詩曲「スペイン」 1883
・リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」 1888
・グリーグ:「ペール・ギュント」第1・第2組曲 1891-93
・イッポリトフ=イヴァノフ:組曲「コーカサスの風景」 1894
・ツェムリンスキー:交響詩「人魚姫」 1903
・シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」 1903
・ウェーベルン:大管弦楽のための牧歌「夏風の中で」 1904
・ドビュッシー:海 1905
・アイヴズ:宵闇のセントラルパーク 1906
・ディーリアス:幻想曲「夏の庭で」 1908
・ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」 1912
・デュカス:舞踏詩「ラ・ペリ」 1912
・ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」 1913
・ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」 1915(初稿)/1925(改訂)
・レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」 1916
・ホルスト:組曲「惑星」 1917
・イベール:交響組曲「寄港地」 1922
・シベリウス:交響詩「タピオラ」 1925
・ヤナーチェク:シンフォニエッタ 1926
・ガーシュウィン:交響詩「パリのアメリカ人」 1928
・コルンゴルト:赤ちゃんのセレナーデ 1928
・プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」 1938
・ラフマニノフ:交響的舞曲 1940
・バルトーク:管弦楽のための協奏曲 1943
・コープランド:アパラチアの春 1944
・メシアン:異国の鳥たち 1956
・リゲティ:アトモスフェール 1961
・ロータ:バレエ組曲「道」 1965
・アダムズ:ハルモニーレーレ(和声学) 1985
・マルケス:ダンソン 第2番 1994
・武満徹:若い人たちのための音楽詩「系図(ファミリー・トゥリー)」 1995
・ジョン・ウィリアムズ:アメリカン・ジャーニー 1999

番外編として弦楽合奏または、管楽合奏のための音楽ベスト12を挙げる。

・モーツァルト:13楽器のためのセレナード「グラン・パルティータ」 1784
・ドボルザーク:弦楽セレナード 1875
・チャイコフスキー:弦楽セレナード 1881
・グリーグ:ホルベアの時代から 1885
・スーク:弦楽セレナード 1892
・エルガー:序奏とアレグロ 1905
・ヴォーン・ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲 1910
・ヴァイル:管楽オーケストラのための「小さな三文音楽」 1929
・ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ 第5番 1938
・バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメント 1940
・ハチャトゥリアン:バレエ音楽「ガイーヌ」より「ガイーヌ(ガヤネー)のアダージョ」 1942
・ハーマン:弦楽オーケストラのための物語「サイコ」 1968

ここで、バーバー:弦楽のためのアダージョを入れるかどうか、最後まで迷ったことを告白する。ただしこの作品、元々は弦楽四重奏曲 ロ短調の第2楽章をバーバー自身が弦楽合奏用に編曲したものなのだ。他にも、ストラヴィンスキーに絶賛された武満徹:弦楽のためのレクイエムとか、3つの映画音楽(映画『ホゼー・トレス』から「訓練と休息の音楽」/映画『黒い雨』より「葬送の音楽」/映画『他人の顔』よりワルツ)も入れたかったな。

大バッハの管弦楽組曲 第2番は実質的にフルート協奏曲と言っても過言ではない。特に後半、ポロネーズ〜メヌエット〜バディネリのあたりが華麗なるハイライトと言えるだろう。

『コリオラン』は演奏会用序曲で、ベートーヴェンが古代ローマの英雄を主人公にした同名戯曲を観劇した時の感動が作曲の動機となっている。今回のセレクションの中で、最も悲劇的。強いて挙げるならチャイコフスキー『フランチェスカ・ダ・リミニ』が双璧か。また劇付随音楽『エグモント』序曲も甲乙つけがたい。

『夏の夜の夢』はシェイクスピアの芝居のために書かれた付随音楽。1935年のアメリカ映画『真夏の夜の夢』ではエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトがオーケストレーションし直しており、そちらのヴァージョンもCDで聴くことが出来る。本作はコルンゴルトがハリウッドに進出する切っ掛けになった。

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原曲の方はプレヴィン/ウィーン・フィルの演奏でどうぞ。

『禿山の一夜』(原典版)の正式名称は音詩『聖ヨハネ祭前夜の禿山』。1867年に完成したスコアを見たバラキレフ(指揮者としても活躍)がその粗野なオーケストレーションを批判し修正を求めたが作曲家は拒否、演奏も出版もされぬままお蔵入りとなった。1881年ムソルグスキーの死後、彼の才能を何とかして世に知らしめたいと考えた友人のリムスキー=コルサコフは1886年にオーケストレーションを一新して改訂版を創り上げた。ここで「ロシア5人組」について説明しておこう。バラキレフをリーダーに、キュイ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフから成る作曲家集団のこと。

リムスキー=コルサコフのアレンジは洗練されており、だから有名になってディズニー映画『ファンタジア』でも取り上げられたわけだが(一見の価値あり!)、原曲の持ち味=土の香り/バーバリズムが失われてしまった。原典版の楽譜が発見され出版されたのが1967年。ロイド=ジョーンズ/ロンドン・フィルにより初めて録音されたのが1971年。80年にアバド/ロンドン交響楽団の録音が出て一躍世間で注目を浴びるようになり、現在ではアバド/ベルリン・フィル、サロネン/ロス・フィル、ドホナーニ/クリーヴランド管、ゲルギエフ/マリインスキー劇場管、ユロフスキ/ロンドン・フィルなどの音源がある。

ワーグナー『ジークフリート牧歌』は妻コジマの誕生日およびクリスマスの贈り物として作曲された。コジマはその前年に息子ジークフリートを生んでいた。この初演の様子はルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『ルートヴィヒ/神々の黄昏』で詳細に描かれているので、是非ご覧あれ。幸福感に満ちた音楽である。カラヤン/ウィーン・フィルあるいはベルリン・フィルの演奏でどうぞ。

チャイコフスキーは当初、バレエ音楽『くるみ割り人形』を選ぼうと考えていた。しかし、幻想序曲『ロメオとジュリエット』も大好きだしなぁ……。この終結部の旋律がバーンスタインのミュージカル『ウエストサイド物語』("Somewhere")に引用されているんだ。そうこう思い巡らしているうちに、魅力的な楽曲ながら演奏される機会が少ない『フランチェスカ・ダ・リミニ』にしたらどうかという考えが思い浮かんだ。幻想曲と銘打たれているが、実質的には交響詩だ。ダンテ『神曲』の地獄篇が題材になっている。妻が弟と不倫している現場を目撃した兄は嫉妬に狂い2人を殺す。彼らは色欲の罪を犯した者として、地獄の業火で焼かれ続ける。

チャイコフスキーはゲイであり、ロシア正教会(キリスト教)において同性愛は罪だった。だからチャイコフスキー自身も死んだら地獄で責め苦を受け続けるという恐怖心があったのではないだろうか?つまり禁断の愛欲に溺れた恋人たちへの共感があった、ということだ。

『大学祝典序曲』はブラームスがポーランドにある大学から名誉博士号を授与された返礼として作曲した。以前ラジオたんぱで放送されていた旺文社『大学受験ラジオ講座』のテーマ曲として使用された。4つの学生歌が引用されている。興味深いことにプロの指揮者からの評価は低く、例えばヘルベルト・フォン・カラヤン、カール・ベーム、カルロ・マリア・ジュリーニといった大指揮者たちがこの曲を録音したことは一度もない。カラヤンは生涯にブラームスの交響曲全集を3回、悲劇的序曲と、ハイドンの主題による変奏曲はそれぞれ4回スタジオ録音しているのだが……。

ボロディンで一番有名なのは、なんてったって躍動感溢れる『だったん人の踊り』だろう。漢字では韃靼人と書く。最近は『ポロヴェツ人の踊リ』と呼ばれることが多い。これはオペラ『イーゴリ公』第2幕で演奏され、本来は合唱を伴う。合唱付きの方がド迫力なのでお勧め。今回紹介したいのは穏やかな『中央アジアの草原にて』。舞台となるのはコーカサス地方。そこでロシアと東方の歌が出会う。こちらは実演に接する機会が滅多にない。なおボロディンは有機化学を専門とする大学教授であり、自らを「日曜作曲家」と称した。

6曲から成る『わが祖国』の中でずば抜けて知名度があるのは第2曲『モルダウ』だ。旋律がイスラエルの国歌『ハティクヴァ(希望)』にそっくりなことは余りにも有名。起源が同じなのだ(17世紀イタリアの歌『ラ・マントヴァーナ』)。スメタナは既存の歌をそのまま自作に取り入れる人だった。例えば第5曲『タボール』と第6曲『ブラニーク』ではフス派教徒の賛美歌『汝ら神の戦士』が引用されている。『わが祖国』は指揮者クーベリックが数々の名演を残したが、1958年ウィーン・フィルとの録音は避けるべき。またチェコ・フィルとのライヴは1990年の「プラハの春」よりも、91年サントリー・ホールの演奏のほうが良い。他にボストン響やバイエルン放送響との録音も素晴らしい。また52年シカゴ交響楽団との録音はモノラルながら、沸騰するような渾身の熱演が展開される。余談だが吹奏楽の超有名曲、カレル・フサ作曲『プラハ1968年のための音楽』でも『汝ら神の戦士』の旋律が登場する。こちらの初演は1969年で、翌年には指揮者ジョージ・セルの委嘱で管弦楽版が初演された。

エマニュエル・シャブリエは40歳近くまで、フランス内務省の役人を務める傍ら作曲活動を行っていた。狂詩曲『スペイン』は退職2年後にスペイン旅行をした際の印象を描写している。明るい色彩感に満ちた楽曲。この人は『楽しい行進曲』も素敵。デュトワ/モントリオール響の録音でどうぞ。

千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)に準拠した『シェヘラザード』は異国情緒溢れ、リムスキー=コルサコフの華麗なオーケストレーションを堪能出来る。あの、全体がうねるような感じが好き。デュトワ/モントリオール響か、ゲルギエフ/キーロフ(現:マリインスキー劇場)管、ストコフスキー/ロンドン響の演奏でどうぞ。

『ペール・ギュント』はイプセンの劇付随音楽として1875年に完成し、その後度重なる改訂を経て組曲として編纂された。第1組曲に入った“オーセの死”はペールの母のことだが、その旋律を聴くと“さくらさくら”を連想するのは僕だけだろうか?バルビローリか、ネーメ・ヤルヴィの指揮で。なおヘルベルト・フォン・カラヤンは第1,第2組曲を生涯3度スタジオ録音しているが、演奏会では1度も取り上げたことがない

イッポリトフ=イヴァノフはロシアの作曲家。『コーカサスの風景』は第1曲『峡谷にて』/第2曲『村にて』/第3曲『モスクにて』/第4曲『酋長の行列』から成る。『村にて』は黒澤明監督の映画『夢』の最後に流れ、印象深い。チェクナヴォリアン/アルメニアン・フィルの演奏で。

ツェムリンスキーはウィーン生まれ。アルマ・マーラーが結婚する前に音楽の先生を務め、彼女に恋焦がれていたことは有名(因みにツェムリンスキーはマーラーより11歳年少)。アルマは後にツェムリンスキーのことを「醜男だった」と語っている。 また彼は自分がユダヤ人で背が低いことにコンプレックスを感じており、歌劇『こびと』にその思いを託している。ロマンティックな『人魚姫』第1楽章は「海底/嵐、人魚姫が王子を救出する」、第2楽章「海の魔女を訪れる人魚姫。王子の結婚」、第3楽章「人魚姫の死と天国への救済」。シャイー/ベルリン放送響で。

シェーンベルクと言えば調性音楽を脱し、十二音技法を生み出した作曲家として知られており、「難解だ」「どう聴いたら良いのか分らない」「耳障りだ」といった印象を持っている人が多いのではないだろうか?ところがどっこい『ペレアスとメリザンド』は彼が無調時代に入る前の作品であり、弦楽六重奏曲『浄夜』同様に大変聴き易い。後期ロマン派の残り香が濃密に立ち込めており、幻想的で耽美な世界を醸し出している。あらすじや、主要なライトモティーフ(示導動機)を知っておけば鑑賞の助けになるので、大阪交響楽団の曲目解説をご覧あれ(こちら)。『ペレアスとメリザンド』の物語構造は基本的に『トリスタンとイゾルデ』とほぼ同じである。だからワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』に魅了された作曲家たちが競い合うように『ペレアス』に殺到した。フォーレとシベリウスは劇付随音楽を書き、ドビュッシーはオペラ化した。それらを聴き比べてみるのも一興だろう。なおピエール・ブーレーズ/グスタフ・マーラー・ユーゲント管がシェーンベルクの『ペレアス』を録音したアルバムには、それに先行してワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』前奏曲が収録されている。宜なるかな。

シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンら新ウィーン学派はクラシック音楽ファンから敬遠されがちで、演奏会で取り上げられることも滅多にない。ウェーベルンはシェーンベルクに師事して以降、十二音技法を突き詰めていくのだが、『夏の風の中で』はその前、ウィーン大学に在学中の1904年夏に作曲された。当時20歳だった。一陣の風が通り抜けるように爽やか。なんて瑞々しいんだろう!シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管かドホナーニ/クリーヴランド管の演奏で。なおウェーベルンはナチス・ドイツがオーストリアを併合した後もこの地に留まり終戦を迎えたが、喫煙のため夜間ベランダに出てタバコに火をつけたところオーストリア占領軍の米兵により闇取引の合図と誤解され、その場で射殺された。享年61歳、気の毒な最後である。

 ・シリーズ《音楽史探訪》音楽家の死様(しにざま)

ドビュッシー『海』は武満徹に多大な影響を与えた。武満にもアルトフルートのための『海へ』という作品があり、ピアノとオーケストラのための『夢の引用』では『海』からの大胆な引用がある。定まった形がなく、刻々と生成変化するものへの愛着。ブーレーズ/クリーブランド管、あるいはロト/レ・シエクルで。

保険会社に勤めながら「趣味」として作曲を続けたチャールズ・アイヴズ。『宵闇のセントラルパーク』ではまず、弦楽器が闇に包まれた公園の夜の静けさを描く。ベンチに憩っていると突然、池の向こうのカジノの音、ストリート・ミュージシャンの歌声、パレードや消防馬車が駆け抜ける音などが聴こえてくる。この混沌とした状況がアイヴズの真骨頂と言えるだろう。演奏時間7-8分。またこの曲と対に作曲された『答えのない質問』も哲学的で大変面白い。冒頭の弦楽器は「沈黙を守り祈る司祭たち」。トランペット・ソロが「存在についての問い」ーつまり「私たちはなぜ生きるか?」「神が人間を創造した目的は?」といったようなこと。それに対して木管四重奏があれやこれやと答えるが、正解は得られず最終的にお手上げになり押し黙る。演奏時間5-6分。レナード・バーンスタインか小澤征爾の指揮で。

ディーリアスといえば音詩(Tone Poem)。夏が来るとこの作曲家の音楽を無性に聴きたくなる。『夏の庭で』は幻想曲と銘打たれているが、実質的には音詩と考えて良いだろう。特に曲の中盤、木管楽器の奏でる分散和音と低弦に伴われて現れるヴィオラの旋律(第3主題)が素敵。ジンと来る。他に僕が好きなディーリアスの曲は『夏の歌』と『夏の夕べ』。『春はじめてのカッコウの声を聴いて』や『ブリッグの定期市』、オペラ『村のロミオとジュリエット』から『楽園への道』も勿論良い。『夏の庭で』と『夏の歌』はバルビローリの指揮、『夏の夕べ』はビーチャム/ロイヤル・フィルか、ロイド=ジョーンズ/ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管で。

当初はラヴェルがピアノ独奏曲として1899年に作曲し、1910年に管弦楽用に編曲した『亡き王女のためのパヴァーヌ』を選出しようと考えていた。しかしラヴェルのオーケストラ曲で代表選手といえば『ダフニスとクロエ』だろうと思い直した。ちなみに全日本吹奏楽コンクール(全国大会:中学/高校/大学/職場・一般の部)自由曲として『ダフクロ』が取り上げられたのが2021年現在112回、うち金賞受賞はのべ49回である(吹奏楽コンクールデータベースより)。演奏された回数としてはレスピーギ『ローマの祭り』に次ぐ歴代第2位の記録だ。半音階を駆使した作曲技法が後の十二音技法や無調音楽の誕生に繋がってゆく。クリュイタンス、ブーレーズ、ロト、デュトワいずれかの指揮でどうぞ。

『ラ・ペリ』はバレエ音楽として出版された数年後、前奏用ファンファーレが追加で作曲された。幻想的で大層美しい18分程度の楽曲。デュカスといえば『魔法使いの弟子』の作曲家としてしか認識されていないが、どうしてどうして『ラ・ペリ』も十分魅力的だ。『魔法使いの弟子』については、何はともあれディズニー映画『ファンタジア』を観てください。

ストラヴィンスキーのバレエ音楽『春の祭典』初演時における阿鼻叫喚の大混乱については映画『シャネル&ストラヴィンスキー』で面白おかしく描かれている。ディオニュソス的大地讃頌、本能剥き出しの熱狂。1960年代後半から流行ったプログレッシブ・ロック(ピンク・フロイド/イエス/キング・クリムゾン/エマーソン・レイク・アンド・パーマー)に通じるものがあり、プログレ愛好家にも人気が高い曲。クルレンツィス、ロト、ブーレーズの指揮で。

ファリャはバレエ音楽『三角帽子』も良いのだが、『恋は魔術師』はなんてったって『火祭りの踊り』が素晴らしい。圧巻のフラメンコを堪能出来るカルロス・サウラ監督の同名映画(1986)をご覧になることをお勧めする。

全日本吹奏楽コンクールで最も演奏回数が多いのがレスピーギ『ローマの祭り』で総計115回、うち金賞受賞が47回となっている。これが『ローマの噴水』だと取り上げられたのが25回、金賞受賞は14回と激減する。『ローマの松』は41回演奏され金賞受賞は19回。カラヤンは『ローマの松』と『ローマの噴水』をレコーディングしているが、『ローマの祭り』は演奏会を含めて生涯一度も取り扱わなかった。あの騒音のようなうるささを毛嫌いしていたのではないだろうか?一方『ローマの噴水』はたおやかで繊細な楽曲である。因みにカラヤン/ベルリン・フィルは『ローマの松』を1984年にザ・シンフォニーホール@大阪で演奏しており、そのライヴは映像収録されDVDで発売されている。

『惑星』を一躍有名にしたのは1961年にカラヤン/ウィーン・フィルがスタジオ録音したことが切掛だった。しかしカラヤンというのは不思議な人で、基本的にイギリス音楽に対して冷淡。ブリテン/フランク・ブリッジの主題による変奏曲とヴォーン=ウィリアムズ/トマス・タリスの主題による幻想曲を1950年代にフィルハーモニア管と録音しているが、後のベルリン・フィル時代は皆無。ウォルトンはやはり1940-50年代に演奏会でオラトリオ「ベルシャザールの饗宴」と交響曲第1番を取り上げたが、スタジオ録音なし。また1981年に手兵ベルリン・フィルと『惑星』のデジタル録音を残したが、なんと演奏会では一度も取り上げなかった。エルガーに至っては演奏会・録音どちらも0である(『威風堂々』すらも)。余談だがカラヤンはベルリン・フィルと一度だけ『シェヘラザード』をスタジオ録音したが、演奏会では一度も取り上げていない。『惑星』は冨田勲によるシンセサイザー編曲が余りにも有名。一聴の価値あり。1976年にリリースされビルボード(クラシカル・チャート)で1位になるなど一世風靡し、2011年には冨田自身の手で再創造したULTIMATE EDITIONも出た。

イベールはパリ音楽院在学中の1914年に第一次世界大戦が勃発すると、志願して海軍士官になった。その時に地中海を航海した記憶が『寄港地』に結実した。第1曲:ローマーパレルモ(シチリア島)、第2曲:チェニスーネフタ(チュニジア)、第3曲:バレンシア(スペイン)で構成される。異国情緒溢れる傑作。デュトワ/モントリオール響で。

シベリウスの交響詩『タピオラ』が初演されたのが1926年、最後の交響曲第7番の初演が1924年だから、その直後に完成した作品と思われる。交響曲第7番は単一楽章で演奏時間約20分。これは『タピオラ』にも共通する。また『タピオラ』には具体的な物語がない。では交響曲と交響詩を分かつ違いは何か?答えはシンプルである。「作曲家がそう命名したから」ーただそれだけ。静謐で精緻なカラヤン/ベルリン・フィルのデジタル録音でどうぞ。

ヤナーチェクのシンフォニエッタは村上春樹の『1Q84 』に登場して一気に有名になり、CDも飛ぶように売れた。小説内で言及されるのはジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団の演奏だ。ただこの作曲家の特徴は色っぽいところにあると僕は考えているので、その雰囲気はシンフォニエッタから味わえない。だから併せて歌劇『利口な女狐の物語』も聴いてみてください。マッケラス/ウィーン・フィルは全曲を録音しているし、管弦楽組曲版もある。シンフォニエッタの演奏もこのコンビに白羽の矢を立てる。

『パリのアメリカ人』は『ラプソディ・イン・ブルー』と並ぶシンフォニック・ジャズの傑作。バーンスタインの『ウエストサイド物語』〜シンフォニック・ダンスもそう。ただ後者はミュージカルを基にシド・ラミンとアーウィン・コスタルが再構成・編曲を手がけているのだが、そのことはあまり知られていない。 この二人は映画版『ウエストサイド物語』のオーケストレーションも担当し、アカデミー賞を受賞している。『パリのアメリカ人』についてはMGM映画『巴里のアメリカ人』のクライマックスでジーン・ケリーとレスリー・キャロンがダイナミックに踊るので、四の五の言わずまずはご覧あれ。全編がガーシュウィンの名曲で彩られている。

ウィーンからハリウッドに渡り映画音楽作曲家として名を馳せ、アカデミー賞を2度受賞したエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの『ベイビー・セレナーデ』は彼の次男ゲオルクが誕生したことをきっかけにして作曲された。愛らしく軽快な曲で、1.序曲「赤ん坊が登場」2.歌「今日は、良き日」3.スケルツィーノ「なんて素敵なおもちゃ」4.ジャズ「坊やがしゃべるよ」5.エピローグ「そして、坊やは自分に語りかけるように寝てしまう」と副題が付いている。ゲオルク(英語読みでジョージ)・コルンゴルトは長じてレコード・プロデューサーとなり、チャールズ・ゲルハルト指揮でRCAから「クラシック・フィルム・スコア」シリーズをリリース、その中には父親の作品集も含まれていた(超優秀録音!)。また父の歌劇『死の都』や映画音楽『嵐の青春』を新録音盤として世に問うた。

Korn1

Korn2

プロコフィエフ『ロメオとジュリエット』はバレエも全曲鑑賞したことがあるが、実に見応えがある。特に英国ロイヤル・バレエ団が初演したケネス・マクミラン振付版が最高!アメリカン・バレエ・シアターでもこのバージョンが採用されており、映画『センターステージ』に有名なバルコニー・シーンが登場する。

厳選 交響曲の名曲ベスト30はこれだ!」ではラフマニノフの交響曲第2番を入れなかったことについて、様々なご批判を読者から頂いた。その際には「構成力に欠け冗長だから」と突っぱねたのだが、最近キリル・ペトレンコ/ベルリン・フィルの演奏をデジタル・コンサートホールで聴いて、考えを改めた。悪くない。あの時は申し訳ないことをした。演奏によって曲が輝くとは正にこれ。よって罪滅ぼしの意味も込めて今回『交響的舞曲』を選出した。3楽章からなり、終楽章に作曲家お気に入りのグレゴリオ聖歌『怒りの日』の旋律が登場するのはご愛嬌。『怒りの日』をラフマニノフは『パガニーニの主題による狂詩曲』、交響詩『死の島』、交響曲第2番、合唱交響曲『鐘』などでも引用している。

バルトーク『管弦楽のための協奏曲(Concerto for Orchestra)』は『オケコン』という愛称で親しまれている。ハンガリーに生まれたバルトーク・ベーラは第2次世界大戦勃発でナチス・ドイツを忌避してアメリカに逃れる。しかし生活は困窮し極貧生活を送ることになり、さらに白血病を罹患した。当時ボストン交響楽団の音楽監督だったクーセヴィツキーが、バルトークのそんな窮状を見かねて財団から委嘱したのが『オケコン』である。またポーランドの作曲家ルトスワフスキにも『管弦楽のための協奏曲』(1954)があり、やはり優れた作品として知られている。

コープランドといえばバレエ音楽『ロデオ』や『ビリー・ザ・キッド』などで西部劇の音楽を確立した人。エルマー・バーンスタインが作曲した映画『荒野の七人』とか、ジョン・ウィリアムズの『華麗なる週末』『11人のカウボーイ』などは明らかにコープランドの影響を受けている。『アパラチアの春』はコープランドの代表作で、これでピューリッツァー音楽賞を受賞した。レナード・バーンスタインの指揮でどうぞ。

オリヴィエ・メシアンの音楽を象徴するのはカソリック教徒としての〈信仰〉と、〈鳥〉である。その両者が密接に結びついたのが歌劇『アッシジの聖フランチェスコ』だ。『異国の鳥たち』はピアノと小規模編成オーケストラのための作品。オケは管楽器と打楽器のみで、弦楽器はなし。14分程の演奏時間で、47種類の鳥の鳴き声が聴こえてくる。

リゲティ『アトモスフェール』は映画『2001年宇宙の旅』で使用され、有名になった。皮膚の下を何か虫が這いずり回っているような、居心地の悪さを感じさせる曲。また『2001年宇宙の旅』終盤、白い部屋の場面で聴こえてくる異星人の囁き声は、スタンリー・キューブリック監督がリゲティの合唱曲『アヴァンチュール』を無断で編集したもので、後に裁判沙汰となった。

ニーノ・ロータの『道』は元々フェデリコ・フェリーニ監督の同名映画のための音楽だが、バレエ用にアレンジされ、1965年にミラノ・スカラ座で初演された。リッカルド・ムーティ/スカラ座フィルの演奏でどうぞ。またベルリン・フィル・デジタル・コンサートホールのアーカイヴでは、リッカルド・シャイーの指揮で聴くことが出来る。

20世紀の音楽は「ミニマル・ミュージック」を抜きに語れない。ごく短い音型を反復するす手法(minimal:最小限の、極小の)で、独特の浮遊感が漂う。その代表としてアメリカ合衆国の作曲家ジョン・アダムズを選出した。他に是非聴いてほしいミニマリストとしては、フィリップ・グラス(『Mishima』『めぐりあう時間たち』)、スティーヴ・ライヒ(『ディファレント・トレインズ』『クラッピング・ミュージック』)、マイケル・ナイマン(『ピアノ・レッスン』)、久石譲(『風の谷のナウシカ』『ソナチネ』『かぐや姫の物語』)、アルヴォ・ペルト(『フラストレス』『タブラ・ラサ』)がいる。気軽にアダムズを聴くならまず最初に『ショート・ライド・イン・ア・ファスト・マシーン(高速機械で早乗り)』がお勧め。スポーツカーとか、ジェットコースターに乗ったようなぶっ飛んだ疾走感が凄い。しかしたった4分の短い曲なので、演奏時間約40分と聴き応えのある『ハルモニーレーレ(和声学)』の方を挙げた。ミニマル・ミュージックというジャンルが到達した極北、壮大なる最高傑作と言えるだろう。交響曲におけるベートーヴェンの第5番みたいなものだ。3つのパートで構成され、パート2ではマーラー未完の交響曲第10番 第1楽章と密接な関わりがあるので注目!トランペットなど金管楽器による不協和音の絶叫、カタストロフィの場面だ。

『ダンソン 第2番』はアルトゥロ・マルケス(1950- )の代表作。演奏時間約10分で、欧米において最も頻繁に演奏されるメキシコ現代音楽である。これは熱狂のドゥダメル/シモン・ボリバル・ユース・オーケストラの演奏にとどめを刺す。アルバム『フィエスタ!』に収録。

武満徹のオーケストラ曲は『夢の時(Dreamtime)』『ウォーター・ドリーミング』『フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム(直訳すると『私から、あなたが“時”と呼ぶものがあふれ出す』)』が好き。でも中でも一番は?と問われたら、若い人たちのための音楽詩『系図(ファミリー・トゥリー)』を躊躇なく選ぶ。谷川俊太郎の詩集『はだか』から6篇(むかしむかし/おじいちゃん/おばあちゃん/おとうさん/おかあさん/とおく)が朗読される。語り手は12歳から15歳の少女が望ましい、と武満は語っている。 日本初演の語りは遠野凪子。小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラのCDも彼女だが、現在ナクソス・ミュージック・ライブラリーやSpotifyなどサブスクで聴けるのは、残念ながら小澤征良(娘)による英語版だ。他に上白石萌音や、のん(能年玲奈)が語った演奏もCDになっている。なんと浜辺美波もステージでやったことがあるらしい!面白いのは2006年2月18日に岩城宏之が指揮した京都市交響楽団定期演奏会。吉行和子が朗読を担当した。当時70歳。おいおい、「少女」でなくて良いのか!?

映画音楽の大家ジョン・ウィリアムズの"American Journey"はビル・クリントン大統領(当時)の依頼により作曲された。スティーヴン・スピルバーグ監督が手がけた西暦2000年(ミレニアム)を祝うマルチメディア・プレゼンテーション"The Unfinished Journey"(終わりなき旅)の付随音楽である。以下の6曲で構成される。

1)移民と建国 2)南北戦争 3)人気の娯楽 4)芸術とスポーツ 5)公民権運動と女性の活躍 6)空の旅と科学技術

ジョン・ウィリアムズは1984年ロサンゼルス五輪の開会式で演奏された『オリンピック・ファンファーレとテーマ』や1996年アトランタ五輪のための『サモン・ザ・ヒーローズ』も格好よくて最高!胸がスカッとする。ボストン・ポップスの演奏でどうぞ。

モーツァルト『グラン・パルティータ』は管楽器アンサンブルの代表作であり大作。同作曲家の弦楽合奏曲なら『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を推す。英訳すると『ア・リトル・ナイト・ミュージック』となり、これは巨匠スティーヴン・ソンドハイムが作詞・作曲したミュージカルの題名だ。けだし名作。

ドヴォルザーク『弦楽セレナード』は映画『メッセージ(Arrival)』で印象的に用いられていた。ひたひたと心に沁み渡る曲。

一方で、チャイコフスキー『弦楽セレナード』を支配するのは激情と言っていい。作曲家は「モーツァルトへのオマージュ」と語っているが、例えば冒頭、ドシラソファと音階を駆け下りていくのがモーツァルト的なのだ。

『ホルベアの時代から』の原曲はピアノ独奏曲だが、今日ではグリーグ自身が編曲した弦楽合奏版の方が専ら知られている。やはりピアノ独奏曲である『抒情小曲集』からオーケストレーションされた『抒情組曲』も大変美しい音楽だ。

ヨゼフ・スークはチェコの作曲家でドヴォルザークの娘婿。同名の孫は世界的ヴァイオリニストでスーク・トリオを結成した。ベルリン・フィルの芸術監督キリル・ペトレンコはスークの作品に強い愛着を持っており、既にアスラエル交響曲や交響詩『夏物語』を取り上げ、2022年には交響詩『人生の実り』が定期演奏会のプログラムに組み込まれている。『弦楽セレナード』はフルシャ/プラハ・フィルか、ヤンソンス/バイエルン放送響の音源でどうぞ。

『序奏とアレグロ』はラヴェルにも同名の曲があり、こちらも素敵だ。ラヴェルの方はハープとフルート、クラリネットおよび弦楽四重奏のための七重奏曲で、「室内楽の森へ~厳選!これだけは絶対聴いておきたい80曲」に選出した。エルガーは弦楽合奏と弦楽四重奏のための作品。孤高の美しさ。バルビローリ/シンフォニア・オブ・ロンドンで。

ヴォーン・ウィリアムズ『トマス・タリスの主題による幻想曲』は弦楽合奏曲で、第1群・第2群のアンサンブル及び、弦楽四重奏という編成で演奏される。CDなどの音源ではこの構造が分かり辛いので、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホール(ラトル指揮)など映像で確認されることをお勧めする。

ブレヒト&クルト・ヴァイルによる『三文オペラ』は1928年にベルリンの劇場で初演された。指揮者オットー・クレンペラーはこの作品に夢中になり、演奏会用組曲を作るよう求めた。その結果生まれたのが管楽器及び打楽器という編成の『小さな三文音楽』である。クレンペラーはフィルハーモニア管弦楽団とステレオ録音を残しており、大層名演なのだが、全8曲中なぜか第3曲「“代わりに”の歌」が省かれている。『三文オペラ』の音楽はナチス台頭期のベルリンを舞台とするブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』に繋がっている。

『ブラジル風バッハ』は第9番まであり、それぞれ楽器編成や演奏形態が異なる。第8番はソプラノ独唱と8つのチェロのための楽曲。歌詞の意味を知っていたほうが味わいが深まるので、第1曲アリアのポルトガル語の歌詞を僕なりに訳してみた。

夕暮れ 薔薇色の薄雲がゆっくり流れ 
夢見心地の美しい空に浮かぶ
月が地平線上に甘やかに現れ
夕べを彩る あたかもきれいな娘が
いそいそと夢見がちに着飾るように
美しくなりたいと魂は不安に駆られ
空と大地に向かって万物が叫ぶ!
月の切実な訴えに鳥たちは押し黙り
海の反射はより煌めきを増す
柔らかい光を放つ月は残酷にも悟らせる
笑ったり泣いたりした日々は失われたと
夕暮れ 薔薇色の薄雲がゆっくり流れ 
夢見心地に美しい空に浮かぶ

オーストリアがナチス・ドイツに併合されたのは1938年。バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメントはその翌年にスイスの山小屋で完成した。そして1940年にバルトークは妻と共にアメリカ合衆国に移住した。風雲急を告げる時代だった。

『ガイーヌ(ガヤネー)のアダージョ』は第1組曲に含まれるが、しばしば省略されて録音されたりしているので注意が必要。『2001年宇宙の旅』で木星探査宇宙船ディスカバリー号の船内でクルーが運動不足解消のためにジョギングしている場面で使用された。

『サイコ』は1960年に公開されたアルフレッド・ヒッチコック監督の同名映画のために作曲された。弦楽オーケストラのための物語は1968年にバーナード・ハーマンが新たに書いたコンサート用作品である。自作自演もあるし、サロネン/ロサンゼルス・フィルのアルバムがお勧め。あとベルリン・フィル・デジタル・コンサートホールではラトルの指揮で聴くことが出来る。

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2021年4月 6日 (火)

決定版!フルートの名曲・名盤 20選

僕は中学生の頃からフルートを吹いていた。高校まで吹奏楽部に入部していたし、社会人吹奏楽団にも数年間所属していた。だからある程度この楽器には精通しているつもりである。

フルートは木管楽器とされる。いや、でもちょっと待って!モダン・フルートの素材は金・銀・プラチナなどである(値段によって異なる)。実質的に現在は金管楽器なのだ。しかし歴史を遡ると、フラウト・トラヴェルソと呼ばれていた時代は正真正銘木製だった。1831年から1847年の間にドイツ人テオバルト・ベームにより開発されたベーム式楽器の登場で金属製に変わったのである。それはフルートの機械化であり、「サイボーグ化」と評した日本の某バロック・チェロ奏者もいる。フラウト・トラヴェルソ(バロック・フルート)時代は音階を作るために開けられた穴を(リコーダーのように)指で直接塞いでいたが、ベーム式では穴が大きくなり、可動式の蓋で覆うカバードキーが主流になった(詳しくはこちら)。この改良により、楽器の音が大きくなった。つまり教会や王宮の間、サロンといった小さな空間から、数千人を収容できるコンサートホールでの演奏が可能になったのである。ベーム式が生まれていなければ、軍楽隊やマーチングバンドなど屋外でフルートが活躍することは難しかっただろう。

フラウト・トラヴェルソは「横笛」を意味する。〈トラヴェルソ=横〉であり、英語ではtraverse。縦笛のリコーダーと対立する概念であり、フラウト・トラヴェルソ時代の音色はリコーダーにかなり近かった。だからバロック期のフルートのための楽曲は、しばしばリコーダーでも演奏される。例えばフランス・ブリュッヘンによる『ヴィヴァルディ:フルート協奏曲集』の録音はリコーダーによるもの。しかしリコーダーは大きな音が出ないので、ハイドンやモーツァルトなど古典派の時代以降衰退した。その過渡期を象徴する名曲が『テレマン:リコーダーとフルートのための協奏曲 ホ短調 TWV 52:e1』である。リコーダーの黄昏と、新しい楽器フルートの台頭が音楽の中でせめぎ合っている。

20世紀前半、フラウト・トラヴェルソ奏者はとっくに絶滅していた。フランス・ブリュッヘン、アンナー・ビルスマ(チェロ)らが古楽器を用いてピリオド・アプローチ(時代奏法)に取り組み始めたのは1960年代のことである。その復興運動にクイケン三兄弟(長男ヴィーラント:ヴィオラ・ダ・ガンバ、次男シギスヴァルト:ヴァイオリン、三男バルトルド:フルート)が加わり、1972年にラ・プティット・バンドを結成した。

ブリュッヘンは当初リコーダー奏者としてキャリアをスタートさせ、途中からフラウト・トラヴェルソ奏者としての腕を磨いた。しかし1981年に18世紀オーケストラを結成し指揮者に転向して以降はフラウト・トラヴェルソを吹くことがなくなり、彼が所有していた楽器の殆どを有田正広に譲渡した。バルトルド・クイケンはハーグ音楽院でフランツ・ヴェスターにフラウト・トラヴェルソを、ブリュッヘンにリコーダーを学んだ。 有田正広は1973年にオランダに留学し、フラウト・トラヴェルソをバルトルド・クイケンに師事した。ただし有田とバルトルドはどちらも1949年生まれ、同い年である。そして有田の教え子がバッハ・コレギウム・ジャパンの前田りり子や菅きよみ。つまりバロック・フルート奏者の第1世代がブリュッヘン、第2世代が有田とバルトルド、第3世代が前田や菅ということになる。

さて、これから紹介する楽曲の音源の良し悪しを見定める方法を指南しよう。バロック時代からモーツァルトまではモダン・フルートではなく、フラウト・トラヴェルソによる演奏をお勧めする。有田正広かバルトルド・クイケンが吹いているものは間違いなし。太鼓判を押せる。但し、モダン楽器でもベルリン・フィル首席奏者エマニュエル・パユの演奏なら文句なく素晴らしい。彼は古楽をノン・ヴィブラートで吹くなどピリオド(時代)・アプローチに長けている。また協奏曲では古楽器オーケストラと共演している。

ロマン派(ライネッケ)以降の作品ならエマニュエル・パユ、マチュー・デュフォー、シャロン・べザリー、オーレル・ニコレ、ジャン=ピエール・ランパル、パトリック・ガロワ、工藤重典らの演奏を推す。

パユの凄さは弱音の美しさにある。彼は吹く息を100%音に変換出来る類稀な能力を持っている。何はさておき彼の演奏を聴いて欲しい。

マチュー・デュフォーはかつてシカゴ交響楽団の首席奏者としてブイブイ言わせていた。2009年にグスターヴォ・ドゥダメルがロサンゼルス・フィルの音楽監督に就任するとデュダメルに懇願されロス・フィル首席奏者を兼任。2015年9月からはベルリン・フィル首席としてパユと共に活躍している。

シャロン・べザリーはイスラエル生まれのフルート奏者。彼女は12歳のときからムラマツのフルートを愛用しており、現在はムラマツ特製24Kゴールドを吹いている(詳しくはこちら)。

なお、僕は有田正広、バルトルド・クイケン、エマニュエル・パユ、マチュー・デュフォー、工藤重典の生演奏をコンサートホールで聴いたことがある。

まず手始めに、有田正広の『パンの笛〜フルート、その音楽と楽器の400年の旅』(2CD)からどうぞ。音楽配信サービスSpotifyでも聴けます。

Arita

ルネサンス期から現代音楽まで、作曲された時代に合った13本にのぼるフルートで演奏している。こんな芸当が出来るのは世界広しといえど、有田ただ一人ろう。伴奏楽器もイタリアンとフレンチのチェンバロ、フォルテピアノ、ピアノ(エラール)と使い分けている。特にF.クープラン作曲『恋のうぐいす』に注目!古(いにしえ)よりフラウト・トラヴェルソは鳥の声を模す楽器として使われた。その伝統はベートーヴェンの交響曲第6番『田園』第2楽章や、20世紀にプロコフィエフが作曲した交響的物語『ピーターと狼』にも引き継がれている。

ではフルートの名曲ベスト20を、ほぼ作曲された年代順に挙げていこう。

オトテール:(フルート・トランヴェルシェールとバッソ・コンティヌオのための)組曲第3番 ト長調 作品2の3 
・F.クープラン:王宮のコンセール第4番 
・J.S.バッハ:フルート・ソナタ ロ短調 BWV 1030 
・ルクレール:フルート・ソナタ ホ短調 Op.2 No.1 
・ヴィヴァルディ:フルート協奏曲「夜」「ごしきひわ」 
・ブラヴェ:フルート・ソナタ ニ短調 Op.2 No.2「ラ・ヴィブレ」
・テレマン:(無伴奏フルートのための)12のファンタジア 
・ラモー:コンセール用クラヴサン曲集からコンセール第5番 
・C.P.E.バッハ:フルート協奏曲 ニ短調 Wq.22
・モーツァルト:フルート四重奏曲 第1番
・ライネッケ:フルート・ソナタ「ウンディーネ」
・ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲 
・フォーレ:劇付随音楽「ペリアスとメリザンド」よりシシリエンヌ 
・ラヴェル:序奏とアレグロ 
・イベール:フルート協奏曲
・ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲(ジャン=ピエール・ランパル編)
・プロコフィエフ:フルート・ソナタ 
・プーランク:フルート・ソナタ
・ピアソラ:タンゴの歴史 
・武満徹:ウォーター・ドリーミング

バロック期のイタリアの作曲家、ヴィヴァルディやコレッリ、タルティーニはヴァイオリンを主体とする楽曲が多い。その一方、フランスの作曲家は相対的にフルートを使った楽曲が目立つ。イタリアは昔からヴァイオリン製作の伝統があり、ストラディバリ父子、グァルネリ一族、アマティ一族といった優秀な楽器製作者たちを輩出した。一方、有名なフルート奏者は大抵がフランス人かスイス人(フランス語圏)である。エマニュエル・パユとオーレル・ニコレ、ペーター=ルーカス・グラーフはスイス出身、マチュー・デュフォー、ジャン=ピエール・ランパル、パトリック・ガロワ、マクサンス・ラリューらはフランス人である。

ジャック・オトテールはフランス盛期バロック音楽の作曲家でありフルート奏者。管楽器職人の家庭に生まれた生粋のパリジャンである。彼は沢山のフルートのための音楽を作曲し、フラウト・トラヴェルソ(楽器)の改良にも貢献した。1708年に出版された組曲 第3番は6曲から成り、〈サン・クルーの滝/ラ・ギモン/無関心な人/嘆き/かわいい子/イタリア女〉という副題が付いている。

フランソワ・クープランはオルガニスト、クラヴサン奏者としてルイ14世に仕えた。フランス印象派のモーリス・ラヴェルが作曲した『クープランの墓』(ピアノ独奏曲、後に管弦楽版に編曲された)はクープランが活躍した時代に思いを馳せた作品である。『王宮のコンセール』に楽器の指定はない。様々な種類の楽器を組み合わせた編成で録音されている。例えばオーボエ、チェンバロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ。あるいはオーボエ、チェンバロ、ファゴット。チェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバのみというのもある。1714-15年にヴェルサイユ宮殿で日曜に行われていた演奏会ではクープラン自身がチェンバロを弾いて、他にヴァイオリン、オーボエ、フルートといった面々で演奏された。因みにコンセールとはバロック音楽におけるフランス式の管弦楽組曲を指す。お勧めの音源はサヴァール/コンセール・ド・ナシオン。工藤重典(フルート)とリチャード・シゲール(チェンバロ)の演奏も好い。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハのロ短調ソナタは1717年から1723年、ケーテンの宮廷楽長だった頃の作品だろうと言われている。大バッハの音楽にはゴシック建築のような堅固さ、数学的緻密さがある。そして音符が規則正しく動く楽譜自体が美しい。まるで幾何学模様だ。凛とした佇まいの楽曲。

ルクレールのヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ集

    第Ⅰ巻:作品1(12曲) 第Ⅱ巻:作品2(12曲) 第Ⅲ巻:作品5(12曲) 第Ⅳ巻:作品9(12曲) 

のうち、9曲が楽譜に「フルートでも演奏可能」と指示されており、フルート・ソナタとして知られている。雅(みやび)で上品、そして、そこはかとなく哀しい。ルクレールはルイ15世より王室付き音楽教師に任命されるが、地位をめぐる内部抗争で辞任、ハーグの宮廷楽長となった。しかし晩年は貧民街に隠れ住むようになり、惨殺死体となって発見されるという劇的最後を遂げる。犯人は未だ不明。なんともミステリアスだ。

「疾風怒濤」といえばドイツ語のSturm und Drang(シュトルム・ウント・ドラング)の訳語で、十八世紀後半のドイツの文学運動を指す。だから「疾風怒濤の音楽」といえばハイドンの中期交響曲(26番-59番)やC.P.E.バッハの独壇場なのだが、僕はイタリアの作曲家ヴィヴァルディの音楽も疾風怒濤という表現が当てはまるように思う。フルート協奏曲『海の嵐』『ごしきひわ』『夜』等にもその感じが良く出ている。『ごしきひわ』はタイトル通り、鳥の鳴き声を模倣している。

ミシェル・ブラヴェはルイ15世時代に宮廷などで活躍したフルート奏者・作曲家。1732年に出版された作品2のソナタ集はフランス様式とイタリア様式を融合させるという考えの基に作曲された。Op.2,No.2 "La Vibray"はフランス語で振動や声や音の反響や、心の震え・揺さぶりなどを表す。快活で清涼。爽やかな一陣の風が吹き抜けるよう。愁いを湛えたOp.2,No.4『ルマーニュ』や、1740年に出版された作品3の第2番、第3番、第6番も好い。“ギャラント”(華麗な、優美な)様式が押し進められ、楽章数が少なくなり、より近代的になっている。

テレマンのファンタジー(幻想曲)は12の異なる調性が用いられており、無伴奏というのが野心的で、遊び心がある作品。J.S.バッハのイ短調パルティータ、次男C.P.E.バッハのイ短調ソナタと並んで、18世紀の無伴奏フルート独奏曲三大傑作の一つ。ある意味宇宙的広がりを感じさせる。

ラモーの『コンセールによるクラヴサン曲集』はヴァイオリン+ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)+クラヴサン(チェンバロ)あるいは、フルート+ヴァイオリン+ヴィオラ・ダ・ガンバ+クラヴサンという編成による合奏曲集。クラヴサンのパートを伴奏(通奏低音)としてではなく、独立した声部として扱った最初期の作品のひとつとされる。ルイ15世(1715-74在位)時代ののロココ趣味を反映した華やかな世界を堪能されたし。有田正広のCDが代表盤だが、バルトルド・クイケンやランパルの録音もある。なおクラヴサンはフランス語で、ドイツ語とイタリア語がチェンバロ、英語ではハープシコードとなる。

C.P.E.バッハはJ.S.バッハの次男。先に書いたように彼の音楽的特徴は「疾風怒濤」であり、その資質はハイドンに受け継がれた。無伴奏ソナタも傑作なのだが、ここは荒れ狂い躍動感に満ち溢れたニ短調の協奏曲を推す。独奏者とオーケストラの丁々発止のやりとりを堪能して頂きたい。

天衣無縫の作曲家モーツァルト。フルートとハープのための協奏曲も好いのだが、ここは意外と知られていない名曲、フルート四重奏曲 第1番を推す。清涼感があり、癒やされる。

ライネッケはドイツ・ロマン派の作曲家。1824年生まれなのでブラームスより9歳年長である。フルート・ソナタ『ウンディーネ』は1881年の作品。ウンディーネは水の精霊。事前にフリードリヒ・フーケの同名小説か、ジロドゥの戯曲『オンディーヌ』を読まれておくと、曲を聴きながらイメージが湧くだろう。そしてこの幻想的雰囲気は『ペレアスとメリザンド』に継承されていく。

ドビュッシーは無伴奏フルート作品『シランクス』を取り上げるべきかも知れない。元々は劇の付随音楽で当初『パンの笛』と名付けられていた。で管弦楽曲『牧神の午後への前奏曲』の牧神=パンであり、やはりフルート・ソロがパンの笛の役割を果たしている。幻想的で美しい曲だ。

フォーレの有名なシシリエンヌはメーテルリンクが書いた戯曲『ペレアスとメリザンド』の付随音楽である。劇は1893年にパリで初演された。フォーレの楽曲は1898年のロンドン公演(英語上演)で初披露となった。『ペレアスとメリザンド』はシベリウスも劇付随音楽を作曲しており、ドビュッシーによるオペラ版、シェーンベルクによる交響詩もあるので、聴き比べてみるのも一興だろう。

ラヴェル『序奏とアレグロ』はハープとフルート、クラリネットおよび弦楽四重奏のための七重奏曲。エラール社のダブル・アクション方式ペダルつきハープの普及のために同社より依嘱された作品なので、言わずもがなハープが大活躍する。しかしフルートも大変印象的な、珠玉の室内楽曲である。

イベールのフルート協奏曲は1934年に初演された。20世紀に生み出されたこのジャンルの最高傑作である。一言で評すなら軽妙洒脱。

ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲は1940年にダヴィッド・オイストラフの独奏で初演された。後にジャン=ピエール・ランパルがハチャトゥリアンにフルート協奏曲の作曲を依頼したところ高齢のため(当時65歳)新作は断ったものの、ヴァイオリン協奏曲の編曲を提案した。そこでランパルはフルートで吹くのは不可能な部分(低音や重音)を直して1968年に初演した。だからオリジナル作品ではないが、作曲家の「お墨付き」を得たアレンジである。英語では"edited by Jean-Pierre Rampal"と表記されている場合もあるので、「ランパル編集」の方が相応しいかも知れない。実は以前企画した記事〈決定版!ヴァイオリンの名曲・名盤 20選〉に大好きなこの曲を入れ損なったので、この機会に罪滅ぼしをしたい。ハチャトゥリアンはアルメニア人。バレエ音楽『ガイーヌ』の“剣の舞”や、浅田真央がフィギュアスケートのショート・プログラムで使用した劇音楽『仮面舞踏会』の“ワルツ”が有名。地方色豊かな作曲家である。

プロコフィエフのフルート・ソナタは第二次世界大戦中、独ソ戦のため作曲家がモスクワを離れて疎開していた時期に書かれ、1943年に完成した。初演を聴いたダヴィッド・オイストラフがプロコフィエフにヴァイオリン・ソナタに改作するよう熱心に勧め、翌44年にヴァイオリン・ソナタ第2番としてオイストラフとオボーリンが初演した。

有史以来、数あるフルート・ソナタの中でエスプリの効いたプーランクのソナタこそ紛れもない最高傑作だと信じて疑わない。宝石の輝き。1957年に完成し、ジャン=ピエール・ランパルのフルート、作曲家自身のピアノで初演された。コンサートホールで行われるフルート・リサイタルで現在一番人気の曲である。村上春樹の著書によると、プーランクは「私の音楽は、私がホモ・セクシュアルであることを抜きにしては成立しない」と語っていたそうだ。

アルゼンチン・タンゴの作曲家としてのみならず、バンドネオン奏者としても超一流だったアストル・ピアソラ。『タンゴの歴史』は1982年にベルギーで開催されたリエージュ国際ギターフェスティバルにおいて初演されたフルートとギターのための二重奏曲である。第1楽章“売春宿 1900”はブエノスアイレスの場末。第2楽章“カフェ 1930”の舞台は多分パリじゃないかな。ピアソラはこの花の都に留学し、ナディア・ブーランジェに師事した。そして第3楽章が“ナイトクラブ 1960”。1960年はピアソラがそれまで活躍の拠点としてたニューヨークからブエノスアイレスに帰国し、初めてキンテートを結成した年なので、どちらかの都市のナイトクラブを想定していると思われる。この年に作曲されたのが名曲『アディオス・ノニーノ』。タンゴ・ヌーヴォの誕生である。第4楽章“現代のコンサート”で時代は(作曲された時点では近未来の)1990年に飛び、タンゴは現代音楽と入り交じる。フルートは無調と調性音楽の間を曖昧模糊として揺蕩(たゆた)い、メロディ・ラインは消失する。本作は工藤重典のフルート、福田進一のギターで1984年に東京/音楽之友社ホールで日本初演された。その会場に武満徹も聴きに来ていたという。

武満徹『ウォーター・ドリーミング』はフルートとオーケストラのための10分程度の作品で、1987年に初演された。詳しい解説は下記事に書いた(イメージを喚起する写真付き)。

作曲法を独学で物にした武満はドビュッシーから多大な影響を受けている。だから『夢見る雨』『雨の樹』『雨の庭』『雨ぞふる』『海へ』『From me flows what you call time(私から”夢”と呼ばれるものが流れ出す)』等々、水をテーマにした作品が非常に多い(一方のドビュッシーには『海』『雨の庭』『水の反映』『水の精』『小舟にて』『沈める寺』といった作品がある)。 形が定まらない曖昧な存在、ゆらぎへの親近感こそ、武満の音楽の本質であると言えるだろう。またオーレル・ニコレのために作曲された無伴奏フルート独奏曲『声(ヴォイス)』『エア』といった作品もあり、特に1995年の『エア』は遺作となった。

エマニュエル・パユがテレマン『12の幻想曲』を順に並べ、間に20世紀以降の作品を挟み込んでいくという大変ユニークなソロ・アルバムを作成しており、武満の『声』『エア』も収録されている。これ、オススメ。

Solo

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2020年12月31日 (木)

2020年映画ベスト30+α & 個人賞発表!

毎年恒例、映画ベストを発表しよう。2020年に劇場で初公開された作品及び、Netflix, Huluなどインターネットで配信された作品を対象とする。ただし、「ザ・クラウン」「ウォッチメン」「ウエストワールド」「ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤」など連続ドラマは除外する。

タイトルをクリックすれば過去に僕が書いたレビューに飛ぶ。今年は1位が2作品ある(タイ)。どちらが優れていると言うことは無理。どっちも最高!それでいい。

1)ストーリー・オブ・マイ・ライフ /わたしの若草物語
1)パラサイト 半地下の家族
3)1917 命をかけた伝令
4)僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46
5)ザ・プロム (Netflix配信)
6)ウルフウォーカー
7)燃ゆる女の肖像
8)アルプススタンドのはしの方
9)海辺の映画館ーキネマの玉手箱
10)透明人間
11)劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
12)ミッドサマー
13)Mank/マンク(Netflix配信)
14)TENET テネット
15)マ・レイニーのブラックボトム (Netflix配信)
16)テリー・ギリアムのドン・キホーテ
17)ラストレター 
18)レイニーデイ・イン・ニューヨーク
19)ハリエット  
20)ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密  
21)フォード vs フェラーリ
22)三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実
23)劇場版 鬼滅の刃 無限列車編
24)シカゴ7裁判 (Netflix配信)  
25)ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから (Netflix配信)
26)窮鼠はチーズの夢を見る
27)WAVES/ウェイヴス
28)のぼる小寺さん
29)娘は戦場で生まれた
30)もう終わりにしよう。(Netflix配信)
31)キャッツ  
32)レ・ミゼラブル
33)ジュディ 虹の彼方に 
34)星の子
35)スキャンダル
36)ジョジョ・ラビット 
37)スパイの妻

続いて個人賞に移ろう。

実写監督賞:大林宣彦(海辺の映画館ーキネマの玉手箱)、ポン・ジュノ(パラサイト 半地下の家族
アニメーション監督賞:トム・ムーア、ロス・スチュワート(ウルフウォーカー
主演女優賞:シアーシャ・ローナン(ストーリー・オブ・マイ・ライフ /わたしの若草物語)、メリル・ストリープ(ザ・プロム
助演女優賞:アマンダ・サイフリッド(Mank/マンク
主演男優賞:ソン・ガンホ(パラサイト 半地下の家族)、チャドウィック・ボーズマン(マ・レイニーのブラックボトム
助演男優賞:ジェームズ・コーデン(ザ・プロム
オリジナル脚本賞:ポン・ジュノ、ハン・チンウォン(パラサイト 半地下の家族
脚色賞:グレタ・ガーウィグ(ストーリー・オブ・マイ・ライフ /わたしの若草物語
撮影賞:ロジャー・ディーキンス(1917 命をかけた伝令
編集賞:ジェニファー・レイム(TENET テネット
美術賞:ヘンリック・スヴェンソン(ミッドサマー)、イ・ハジュン(パラサイト 半地下の家族
衣装デザイン賞:ジャクリーン・デュランストーリー・オブ・マイ・ライフ /わたしの若草物語
作曲賞:トレント・レズナー、アッティカス・ロス(Mank/マンク
歌曲賞:Wear Your Crown(ザ・プロム
視覚効果賞:1917 命をかけた伝令
音響賞・音響編集賞:フォード vs フェラーリ

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2020年3月28日 (土)

新型コロナで引きこもっている貴方へー2000年以降の映画ベスト60!おまけでTVアニメ・ベスト10!

新型コロナウィルスが世界的に猛威をふるい、外出を控えている方も多いだろう。こんな時はDVD/Blu-rayやNetflix,Amazonプライム・ビデオなど動画配信サービスで映画を観たい気持ちになる。そんな貴方にお勧めの作品をご紹介しよう。

定義としては2000年1月〜2019年12月末の間に、製作された国で公開された映画を対象とする。例えば「パラサイト 半地下の家族」は日本で2020年1月の公開だが、韓国では2019年に公開されたので候補となる。

ここで20年単位で映画史を最初から振り返ってみよう。

  • 1900-1919:黎明期。メリエス「月世界旅行」、グリフィス「イントレランス」など。
  • 1920-1939:モンタージュ理論の確立(エイゼンシュテイン「戦艦ポチョムキン」)。サイレント(無声)映画の成熟と終焉、トーキーの台頭。チャップリン、キートン、ロイドら三大喜劇王からローレル&ハーディ、マルクス兄弟の時代へ。ミュージカル映画が花盛り。そして39年「風と共に去りぬ」で最高潮へ!
  • 1940-1959:戦争を経て映画の黄金期到来。ハリウッドではワイラー、ワイルダー、ヒッチコック、フォード、ホークスら巨匠たちが精力的に活躍し、ディズニー・アニメも頂点を極めた。一方で赤狩りという暗い影も。日本では黒澤明、溝口健二、小津安二郎、木下惠介らが最も脂が乗っていた時代。イタリアではネオレアリズモ(ロッセリーニ、デ・シーカ、ヴィスコンティ)が盛んに。白黒→カラー、スタンダード→ワイドスクリーン(シネスコ、ビスタビジョン〉へ。
  • 1960-1979:テレビの台頭とともに映画産業は斜陽に。大手スタジオは衰退、撮影機材の軽量化でカメラは撮影所を飛び出して街へ!フランス・ヌーヴェルヴァーグ(トリュフォー、ゴダール、レネ、マル)、松竹ヌーヴェルヴァーグ(大島渚、吉田喜重、篠田正浩)、日活ヌーヴェルヴァーグ(中平康、川島雄三)、大映ヌーヴェルヴァーグ(増村保造、鈴木清順)、独立プロの隆盛(近代映画協会、新生映画社、新東宝など)、ATG(日本アート・シアター・ギルド)設立。アヴァンギャルドの時代。アメリカはベトナム戦争、ヒッピー文化と並行してニューシネマへ。既成の価値観の否定・破壊。音楽はフォーク・ソングやロックンロール主体に。
  • 1980-1999:ヨーロッパ映画やニューシネマの衰退。77年の「スター・ウォーズ」「未知との遭遇」を経てルーカス、スピルバーグが時代を席巻。ハリウッド・ルネッサンス期到来、オーケストラ演奏によるゴージャスな劇伴復活。メグ・ライアン主演のロマンティック・コメディが花盛り。ハーヴェイ・ワインスタインがミラマックスという帝国を築く(「イングリッシュ・ペイシェント」「恋におちたシェイクスピア」でアカデミー作品賞受賞)。日本では角川映画の台頭、メディアミックス。大林宣彦、大森一樹、森田芳光ら自主映画出身監督が主流に。ぴあフィルムフェスティバル(PFF)アワードの時代。そしてバブル期(ホイチョイ・プロダクション「私をスキーに連れてって」「彼女が水着にきがえたら」「波の数だけ抱きしめて」、桑田佳祐「稲村ジェーン」、小田和正「いつか どこかで」、村上龍「ラッフルズホテル」、椎名桜子「家族輪舞曲」)を経てバブル崩壊。90年代は浮ついた、軽薄な時代だった。

では2000年以降の20年間はどういう時代だったのだろう?僕が選んだ代表作は以下の通り。リンクを張ってあるものは、タイトルをクリックすれば各々のレビューに飛ぶ。

  1. 君の名は。 (2016) 日本
  2. 風立ちぬ (2013) 日本
  3. 千と千尋の神隠し (2001) 日本
  4. ラ・ラ・ランド (2016)
  5. 蜜蜂と遠雷 (2019) 日本
  6. パラサイト 半地下の家族 (2019)
  7. ダークナイト (2008)
  8. 秒速5センチメートル (2007) 日本
  9. 桐島、部活やめるってよ (2012) 日本
  10. インファナル・アフェア (2003)
  11. 天気の子 (2019) 日本
  12. 花筐/HANAGATAM (2017) 日本
  13. マルホランド・ドライブ (2001)
  14. 殺人の追憶 (2003)
  15. インセプション (2010)
  16. 告白 (2010)  日本
  17. 1917 命をかけた伝令 (2019)
  18. シカゴ (2002)
  19. ソーシャル・ネットワーク (2010)
  20. ボウリング・フォー・コロンバイン (2002)
  21. そして父になる (2013) 日本
  22. ペンギン・ハイウェイ (2018) 日本
  23. パンズ・ラビリンス (2006)
  24. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 (2003)
  25. ハート・ロッカー (2008)
  26. ゼロ・グラビティ (2013)
  27. メッセージ (2016)
  28. ソング・オブ・ザ・シー 海のうた (2014)
  29. おくりびと (2008) 日本
  30. 舟を編む (2013) 日本
  31. オールド・ボーイ (2003)
  32. ダンケルク(2017)
  33. シン・ゴジラ (2016) 日本
  34. 時をかける少女 (2006) 日本 ←細田守監督アニメ版
  35. 別離 (2011)
  36. グリーン・デスティニー (2000)
  37. バトル・ロワイヤル (2000) 日本
  38. 沈黙 -サイエンス- (2016)
  39. 007 スカイフォール (2012)
  40. 海獣の子供 (2019) 日本
  41. ハリーポッターとアズカバンの囚人 (2004)
  42. クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲 (2001) 日本
  43. マッドマックス 怒りのデス・ロード (2015)
  44. ゆれる (2006) 日本
  45. 野のなななのか (2014) 日本
  46. 八日目の蝉(2011)日本
  47. GO (2001) 日本
  48. はじまりのうた (2013)
  49. ツリー・オブ・ライフ (2011)
  50. マン・オン・ワイヤー (2008)
  51. DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on
    少女たちは傷つきながら、夢を見る (2012) 日本
  52. なごり雪 (2002) 日本
  53. アナと雪の女王 (2013)
  54. ビール・ストリートの恋人たち (2018)
  55. Mr.インクレディブル (2004)
  56. シティ・オブ・ゴッド (2003)
  57. 英国王のスピーチ (2010)
  58. 華麗なるギャツビー (2013)
  59. A.I. (2001)
  60. パシフィック・リム (2013)
  61. 不都合な真実 (2006)
  62. 呪怨 (2000) 日本

総じて、いくつかの特徴を挙げられるだろう。

  • 日本のアニメーションの質の高さが、世界的に認知されるようになった。今や宮崎駿の名を知らない映画人なんて皆無だろう。新海誠の名も浸透しつつある。
  • アジア映画の世界進出。それを象徴する事件が韓国「パラサイト 半地下の家族」のアカデミー作品賞・監督賞受賞だ。また台湾のアン・リーは「ブロークバック・マウンテン」と「ライフ・オブ・パイ/虎と漂流した227日」で2度アカデミー監督賞を受賞し、中国のチャン・イーモウが監督した「HERO 英雄」や「LOVERS」など武侠映画も世界的に大ヒットした(しかしマット・デイモンを主演に迎えた「グレートウォール」は惨憺たる失敗に終わった)。「リング」「呪怨」「仄暗い水の底から」などJ(ジャパニーズ)ホラーも立て続けにハリウッド・リメイクされた。あと「ゴジラ」が2回目のハリウッド・リメイクされ、デル・トロ監督「パシフィック・リム」ではKaijuたちが大暴れした。
  • #MeToo運動が盛り上がり、ハーヴェイ・ワインスタインが逮捕された。帝国の滅亡。
  • 女性監督(「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグロー、「ゆれる」「夢売るふたり」の西川美和、「グローリー ー明日への行進ー」のエヴァ・デュヴァネイ)や黒人監督(「ムーンライト」「ビール・ストリートの恋人たち」のバリー・ジェンキンス 、「ゲット・アウト」「アス US」のジョーダン・ピール )の躍進。
  • SNS時代の到来。「ソーシャル・ネットワーク」「スティーブ・ジョブズ」など。
  • アメリカのアニメーション映画はフルCGに移行した。そして、ジョン・ラセター復帰によるディズニーの完全復活を高らかに世界に宣言したのが「アナ雪」。しかし #MeToo運動の余波を被り、ラセター再び同社から放逐された。一体これからどうなる、ディズニー!?
  • 映画のVFXもCGで何でも出来るようになり、アメコミ映画が隆盛を極めた。しかし逆に感覚が麻痺してしまい、特撮に対する驚きとか新鮮さを感じることがなくなってしまった(アメコミ・ヒーローの病理)。
  • ここ20年くらいで地球の気候が大きく変わったことを実感し、この先どうなるんだろう?と不安を覚えることが多くなった。「天気の子」「不都合な真実」など。

「君の名は。」については過去に当ブログで語り尽くしたので、ここで繰り返さない。

「風立ちぬ」については下記。

多分、客観的に見れば宮崎駿の最高傑作はベルリン国際映画祭で金熊賞、さらにアカデミー長編アニメーション映画賞を受賞した「千と千尋の神隠し」だろう。文句なしだ。しかし「風立ちぬ」の魅力は宮さんが自分の抱える矛盾を肯定したことにある。ダンテ「神曲」を下敷きにしている点でも深みを増した。たとえ悪魔に魂を売り渡そうと、芸術を突き詰めるのだという覚悟に痺れる。

「ラ・ラ・ランド」については以下の記事をご参照あれ。

蜜蜂と遠雷」は言わずと知れた音楽映画の金字塔。

ダークナイト」はジョーカーのキャラクター造形が秀逸。キーワードは虚無と混沌(カオス)。

「インファナル・アフェア」を超える香港映画は今のところない。究極のフィルム・ノワール。マーティン・スコセッシ監督が「ディパーテッド」としてハリウッド・リメイクし、アカデミー作品賞・監督賞を受賞したが、オリジナルの足元にも及ばない。

「マルホランド・ドライブ」はデヴィッド・リンチ監督の最高傑作。ある意味デヴィッド・フィンチャーの「ファイト・クラブ」と似ているとも言える。またビリー・ワイルダー「サンセット大通り」とイングマール・ベルイマン「仮面/ペルソナ」を下敷きにしている。

インセプション」が秀逸なのは登場人物たちが現実と夢(=深層心理・仮想現実)を行き来し、さらに夢を三層に分けたこと。クリストファー・ノーラン監督は間違いなくユング心理学の影響を受けている。

「殺人の追憶」は「パラサイト 半地下の家族」と並び、紛れもなく韓国映画の金字塔。ヒリヒリとして背筋が凍りつく大傑作。ポン・ジュノ監督恐るべし。岩代太郎の音楽も出色の出来。

「ハリーポッターとアズカバンの囚人」はシリーズ三作目にして頂点を築いた。後に二度アカデミー監督賞を受賞する(「ゼロ・グラビティ」「ローマ」)アルフォンソ・キュアロンの美意識が冴え渡る。クリス・コロンバスが監督した一、二作目の出来も悪くない。

アイルランドのダブリン出身ジョン・カーニー監督の「ONCE ダブリンの片隅で」「はじまりのうた」「シング・ストリート 未来へのうた」は三部作となっている。これらが気に入ったら次はAmazon プライムのドラマ「モダン・ラブ 〜今日もNYの片隅で〜」をどうぞ。

DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」は3・11東日本大震災のドキュメンタリーとして秀逸である。あと〈会いに行けるアイドル〉〈地下アイドル〉が日本を席巻した記憶として。しかし2018年末、新潟で活躍するNGT48のメンバーだった山口真帆に対する暴行事件と、その後の運営会社ASKの対応の拙さから、すっかり世間の熱は冷めてしまった。

「呪怨」は奥菜恵や酒井法子が主演した劇場版ではなく、それより先んじて東映ビデオが発売した東映Vシネマ版(元祖)が一番怖い!これね。

続いて、TVアニメ部門。

  1. 魔法少女まどか☆マギカ
  2. コードギアス 反逆のルルーシュ
  3. 四畳半神話大系
  4. 宇宙よりも遠い場所
  5. 進撃の巨人
  6. 響け!ユーフォニアム
  7. ヴァイオレット・エヴァーガーデン
  8. 甲鉄城のカバネリ
  9. ちはやふる
  10. 鬼滅の刃

「四畳半神話大系」の湯浅政明監督は、2020年1月から放送されたアニメ「映像研には手を出すな!」で一世を風靡した。姉妹編として劇場アニメ「夜は短し歩けよ乙女」も併せてどうぞ。どちらもNetflixで配信中。

「宇宙よりも遠い場所」はニューヨーク・タイムズの「ベストTV 2018 インターナショナル部門」(The Best International Shows)に選出、激賞された。Netflixで配信中。

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2019年12月29日 (日)

2019年映画ベスト30+α & 個人賞発表!

2019年に劇場で初公開された作品及び、Netflix, Huluなどインターネットで配信された映画を対象とする。ただし、「ザ・クラウン」「ゲーム・オブ・スローンズ」「ストレンジャー・シングス」「侍女の物語(The Handmaid's Tale)」など連続ドラマは除外する。また広島国際映画祭で鑑賞した大林宣彦監督「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」は2020年公開なので来年に繰り越す。

タイトルをクリックすれば過去に僕が書いたレビューに飛ぶ。なお、今年劇場公開されたアイルランドのアニメーション映画「ブレッドウィナー」はすでに昨年、「生きのびるために」という邦題でNetflixから配信されているので、昨年のベストに入れた。

  1. 天気の子
  2. 蜜蜂と遠雷
  3. ファースト・マン
  4. アメリカン・アニマルズ
  5. メリー・ポピンズ リターンズ
  6. 海獣の子供
  7. マリッジ・ストーリー
  8. ロケットマン
  9. アイリッシュマン
  10. ビール・ストリートの恋人たち
  11. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
  12. スパイダーマン:スパイダーバース
  13. ライ麦畑の反逆児/ひとりぼっちのサリンジャー
  14. バーニング 劇場版
  15. アナと雪の女王2
  16. サスぺリア(リメイク版)
  17. メアリーの総て
  18. 女王陛下のお気に入り
  19. コードギアス 復活のルルーシュ
  20. ホイットニー〜オールウェイズ・ラブ・ユー
  21. ふたりの女王 メアリーとエリザベス
  22. クリード 炎の宿敵
  23. 僕たちのラストステージ
  24. アス Us
  25. スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け
  26. バイス
  27. グリーンブック
  28. トイ・ストーリー4
  29. ブラック・クランズマン
  30. ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
  31. 愛がなんだ
  32. ドクター・スリープ
  33. ジョーカー
  34. 閉鎖病棟 ーそれぞれの朝ー
  35. 楽園

監督賞:石川慶(蜜蜂と遠雷)
脚本賞:ノア・バームバック(マリッジ・ストーリー)
脚色賞(原作あり):石川慶(蜜蜂と遠雷)
主演女優賞:松岡茉優(蜜蜂と遠雷)
助演女優賞:ローラ・ダーン(マリッジ・ストーリー)
主演男優賞:アダム・ドライヴァー(マリッジ・ストーリー)
助演男優賞:ジョー・ペシ(アイリッシュマン)
撮影賞:ピオトル・ニエミイスキ(蜜蜂と遠雷)
美術賞:滝口比呂志 (天気の子)
衣装デザイン賞:ジュリアン・デイ(ロケットマン)
作曲賞:野田洋次郎 RADWIMPS(天気の子)
歌曲賞:“大丈夫” 野田洋次郎 RADWIMPS(天気の子)
編集賞:石川慶(蜜蜂と遠雷)
視覚効果賞:「
スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」
録音賞:久連石由文(蜜蜂と遠雷)
音響編集賞:「
スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」

特別賞:ジョン・カーニー(Amazonプライム・ビデオ「モダン・ラブ〜今日もNYの片隅で〜」第1話”私の特別なドアマン”の脚本・演出に対して)

松岡茉優は、なんと!2年連続主演女優賞受賞である。

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2019年12月 4日 (水)

観た映画3,000本。

僕が生まれてから現在までに観た映画の本数が3,000本に到達した。

どうしてそんな事がわかるのかというと、一つ一つスマートホンのアプリ"WATCHA"に登録して来たからである。

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こうして、新たな目標が生まれた。死ぬまでに必ず5,000本は観るぞ!〜今までのペースから考えれば、十分達成可能な数だ。

なお、現時点での僕のオールタイム・ベスト20を挙げておく。一監督一作品に絞った。同一監督で代替可能な作品があれば、括弧で示す。

  1. 大林宣彦「はるか、ノスタルジィ」(「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群 夕子悲しむ」「時をかける少女」)日
  2. 新海誠「君の名は。」(「秒速5センチメートル」「天気の子」) 日
  3. ヴィクター・フレミング/ジョージ・キューカー/サム・ウッド「風と共に去りぬ」 米
  4. アルフレッド・ヒッチコック「めまい」 米
  5. デイヴィッド・リーン「ドクトル・ジバゴ」 米・伊
    (「ライアンの娘」「アラビアのロレンス」 英)
  6. 宮崎駿「風立ちぬ」(「天空の城ラピュタ」「千と千尋の神隠し」) 日
  7. ジョゼッペ・トルナトーレ「ニュー・シネマ・パラダイス」 伊
  8. デイミアン・チャゼル「ラ・ラ・ランド」 米
  9. ピーター・ウィアー「ピクニック at ハンギング・ロック」 豪
  10. 岩井俊二「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(実写版) 日
  11. 黒澤明「七人の侍」 日
  12. ロバート・ワイズ「サウンド・オブ・ミュージック」 米
  13. スティーヴン・スピルバーグ「未知との遭遇」(「E.T.」) 米
  14. 成瀬巳喜男「山の音」 日
  15. エリア・カザン「草原の輝き」(「エデンの東」) 米
  16. ロベール・アンリコ「冒険者たち」 仏
  17. 新房昭之「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ」(前編/後編/新編) 日
  18. フランソワ・トリュフォー「恋のエチュード」(「大人は判ってくれない」) 仏
  19.  キャロル・リード「フォロー・ミー」(「第三の男」) 英
  20. ヤノット・シュワルツ「ある日どこかで」 米

次点はリドリー・スコット「ブレードランナー」かな?川島雄三「幕末太陽傳」、石川慶「蜜蜂と遠雷」あたりでもいいね。

各々の作品について僕がどう語ってきたかは、下記事をご覧ください。

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2019年9月23日 (月)

映画『蜜蜂と遠雷』公開記念!これだけは聴いておきたいピアノの名曲・名盤30選

無茶は承知である。ヴァイオリンやチェロと違って、ピアノの楽曲は桁外れに多く、そこから名曲を30選ぶ作業は困難を極めるし、余り意味がないのかも知れない。

どうしてピアノのために書かれた楽曲がダントツに多いのか?答えは明白。殆どの作曲家がピアノを弾けるからである

例えばヴァイオリンやフルートのソナタをその楽器を演奏出来ない人が作曲する場合を想像してみよう。音域の高低はどこまで行けるのか?重音奏法はどの組み合わせが可能か?など、テクニックの限界を勉強する必要がある。プロ奏者の意見も聴いて、綿密な打ち合わせをしなければならない。面倒くさい、というわけ。ピアノならそういう行程を省くことが出来る。

原則として1作曲家1作品のみとした。ただし、(同時期に作曲され)連作と見なせるもの、演奏時間が10分未満の小品については例外的に複数曲選んで良いこととした。

さらに膨大な候補から曲を絞るために、一旦(クラシック音楽の)室内楽曲を外すことにした。室内楽については既に下記事で紹介しているからである。

よつて、

  • メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲 第1番
  • ブラームス:ピアノ四重奏曲 第1番
  • ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第4番「ドゥムキー」 
  • ショーソン:ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のためのコンセール
  • フォーレ:ピアノ五重奏曲 第1番
  • バルトーク:2台のピアノと打楽器のためのソナタ

については〈別枠〉として後述する。

それからチェンバロのために書かれた作品を含めるかどうか相当悩んだ。大バッハはどうしても入れたい、しかしフランソワ・クープランやラモーまで含めると収集がつかない。そこで〈モダン・ピアノでも演奏される作品に限る〉という条件を付けることにした。

一概にピアノと言っても、モーツァルトの少年時代には鍵盤楽器=チェンバロだったわけで、モーツァルト存命中にスクエア・ピアノやフォルテピアノが登場し、時代が下ってショパンが所有していたのはエラールとプレイエルのピアノ。その後ベーゼンドルファーやスタインウェイなどのモダン・ピアノが主流となった。こうした楽器の進化(音域の拡大)の歴史は踏まえておく必要があるだろう。ベートーヴェンも鍵盤の数が増えるごとに、それを最大限活かすようソナタを作曲した。

「僕は気分のすぐれないときはエラールのピアノを弾く。このピアノは既成の音を出すから。しかし身体の調子の良いときはプレイエルを弾く。何故ならこの楽器からは自分の音を作り出す事が出来るから」 by フレデリック・ショパン

大体、作曲された順に並べた。さらに、まず最初に聴いて欲しい極め付きの10曲 (Best 10)に◎を付けた。

  • J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 ◎
  • モーツァルト:ピアノ協奏曲 第23番
  • ベートーヴェン:後期ピアノ・ソナタ 第30-32番 ◎
  • シューベルト:後期ピアノ・ソナタ 第19-21番 ◎
  • ショパン:ピアノ協奏曲 第1番
  • シューマン:子供の情景
  • リスト:3つの演奏会用練習曲より「ため息」 ◎
  • ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」
  • チャイコフスキー:四季
  • サン=サーンス:動物の謝肉祭
  • サティ:ジムノペディ
  • グラナドス:スペイン舞曲集より「オリエンタル」「アンダルーサ」 ◎
  • グリーグ:叙情小品集
  • ドビュッシー:アラベスク第1番、「夢」 ◎
  • ラヴェル:「水の戯れ」、組曲「鏡」から「海原の小舟」
  • モンポウ:内なる印象
  • プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第3番
  • ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー ◎
  • ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
  • メシアン:鳥のカタログ
  • プーランク:ピアノ協奏曲 ◎
  • アンダーソン:ピアノ協奏曲
  • バド・パウエル:クレオパトラの夢
  • ビル・エヴァンス:ワルツ・フォー・デビイ ◎
  • ルグラン:映画『恋』(The Go-Between)サウンド・トラック
  • ナイマン:映画『ピアノ・レッスン』サウンド・トラック 
  • ジョン・ウィリアムズ:映画『サブリナ』サントラ ◎
  • 吉松隆:ピアノ協奏曲「メモ・フローラ」
  • 久石譲:Summer(映画『菊次郎の夏』より)、レスフィーナ(映画『アリオン』より)
  • ダリオ・マリアネッリ:映画『つぐない』サントラ

ロシア生まれで現在は京都市在住のピアニスト、イリーナ・メジューエワは著書「ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ」(講談社現代新書)で次のように述べている。

すべてを含んでいるという点でバッハは特別だと思います。バッハ以前の音楽も、あとの時代の音楽も、全部バッハの中に入っているという意味です。(中略)すべてがそこに始まり、そこに終わるというか、バッハを超えるものがない。まさに絶対的な存在です。

つまり〈すべての道はバッハに通ず〉。

Bach

本来ならJ.S.バッハからは平均律クラヴィーア曲集を選ぶべきなのかも知れない。12の調性、さらに長調と短調を全て網羅した(12×2=24)「平均律」は後のショパンやショスタコーヴィチが作曲した「24の前奏曲」に多大な影響を与えた。お勧めはすスヴャトスラフ・ リヒテルのアルバム。しかしCDだと4枚に及ぶ大作である。僕は2夜にわたり、生演奏で全曲聴き通したことがあるが、最後は疲労困憊した。

というわけでゴルトベルク変奏曲の方が聴き易いだろう。細田守監督のアニメーション映画『時をかける少女』では、ここぞ!という時にゴルトベルクが流れる。

モダン・ピアノによる演奏で何といっても有名なのはグレン・グールドで55年のモノラル録音は38分、81年のステレオ録音は51分と極端にテンポが異なる。楽譜に記された繰り返しを全て実行すると70分を優に超えるが、メジューエワみたいに変奏曲によってリピートしたり、しなかったりという変則的なピアニストもいる。お勧めの演奏はイゴール・レヴィット。僕はチェンバロで聴くことが多く、ピエール・アンタイとかグスタフ・レオンハルト、アンドレアス・シュタイアーらの演奏を好む。

多分、モーツァルト/ピアノ協奏曲の最高傑作は第20番だろう。第2楽章は映画『アマデウス』のラストシーンで用いられ、第3楽章は明らかにベートーヴェン/ピアノ・ソナタ 第19番 第1楽章の原型である。もう、びっくりするくらいそっくりだ。ベートーヴェンやブラームスはこのコンチェルトに心酔しており、カデンツァを作曲している。またモーツァルト/ピアノ協奏曲 第21番は第2楽章が映画『みじかくも美しく燃え』のテーマ曲として使われたことで有名。しかし僕は敢えて、余り世に知られていない第23番を推したい。無邪気で、天衣無縫。天使と言葉をかわしているような心地がする。ミュージカル『モーツァルト!』で歌われたように、彼こそ〈神が遣わした奇跡の人〉であることが実感出来るだろう。推薦盤はポリーニ(p)&ベーム/ウィーン・フィルや、グルダ(P)&アーノンクール/コンセルトヘボウ管、バレンボイム(弾き振り)/ベルリン・フィル。

あと僕はピアノ・ソナタ 第11番が大好き。有名な第3楽章「トルコ行進曲」ではなく、第1楽章の主題と変奏が特にお気に入りで、聴いていると自分の幼少期を懐かしく想い出す。そういう、〈無垢な子供に還る〉力がモーツァルトの音楽にはある。また恩田陸が『蜜蜂と遠雷』で〈最もモーツァルトの天才を感じる〉と書いたソナタ 第12番も勿論素晴らしい。内田光子とか、マリア・ジョアン・ピリスの演奏でどうぞ。

モーツァルトの音楽は、長調から短調へ(またはその逆)転調する境界域神が宿ると僕は思っている。メジューエワも、〈モーツァルトほど転調したときにどきっとさせる作曲家はいない〉と書いている。

ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ30-32番は同時期(52歳)に作曲され、アルフレート・ブレンデルは「シューベルトの後期ピアノ・ソナタ19-21番と同様に、一連のものとして捉える必要がある」と述べている。この頃ベートーヴェンはJ.S.バッハの音楽に傾倒しており、第30,32番には変奏曲、31番にはフーガが仕込まれている。この傾向は後期弦楽四重奏曲(第13番以降)も同様である。最後のソナタの翌年にディアベリ変奏曲が書かれたが、これもゴルトベルク変奏曲を意識した作品である。

メジューエワは語る。

 最後の三つのソナタは一つのトリプティク(三部作)というか、三大ソナタ。演奏会でもまとめて取り上げられることが多いですね。第30番も第31番も素晴らしいですが、それでも第32番はずば抜けた存在です。最高傑作と言っていい。(中略)ベートーヴェンはやっぱり三曲をセットとして考えていたかもしれませんね。三曲全体でのバランスを取るというか、フーガは第31番でじゅうぶんやったから、ここ(32番)はフガートにしておこう、とか。 (「ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ」より)

第32番は全2楽章で構成され、第1楽章がハ短調、第2楽章がハ長調である。これは交響曲第5番の第1楽章がハ短調で、終楽章がハ長調であることに呼応している。つまり〈苦悩を乗り越えて、歓喜に至る〉というコンセプトのバリエーションであり、彼の集大成と言えるだろう。但し、確かに第1楽章は激しい怒りとか懊悩・絶望が渦巻いているが、第2楽章は静的(static)で、天国的と言うか諦念と浄化がある。交響曲第9番「合唱付き」 終楽章のような〈歓喜〉ではない。僕はこの曲からゲーテの『ファウスト』を連想する。第1楽章がファウストとメフィストフェレスの道行き、第2楽章がグレートヒェンによるファウストの魂の救済。ロシアのピアニスト、マリア・ユーディナは第2楽章の解説として、ダンテ『神曲』の一節を引用する。光が差してきて、自分が変わる、という部分。ベアトリーチェによるダンテの救済。結局、『ファウスト』や宮崎駿『風立ちぬ』の元ネタは『神曲』なわけで、同じことである。ポリーニの演奏でどうぞ。

シューベルト最晩年のピアノ・ソナタ第19−21番は1828年9月に一気に書き上げられた。故にこれらは3部作と見做される。2ヶ月後の11月19日に作曲家死去、享年31歳だった。

ピアノ・ソナタ 第21番についてメジューエワは〈間違いなくシューベルトの最高傑作です〉と断言する。

僕は若い頃、冗長で退屈な曲だと思っていた。昔の自分の無知蒙昧に恥じ入る気持ちでいっぱいである。転機となったのはシューベルトの歌曲「魔王」と同じ構造であることに気が付いたこと。第1楽章、左手の低音部は死神を表し、シューベルトを黄泉の国に引きずり込もうとする。最初の悪魔的トリルが不気味に響き渡り、象徴的。右手の高音部は儚い白鳥の歌を弱々しく歌う。第4楽章冒頭の一音はピリオド。「これで終わり」ーその終止符を打ち消すように音楽は走るが、何度も何度も執拗にピリオドが打たれ、「これで終わり」と宣言する。恐るべき楽曲である。

推薦盤は後期ソナタ3曲まとめてならポリーニ、ブレンデル、内田光子あたりで。第21番に限るならジョージア(グルジア)出身のカティア・ブニアティシヴィリ(ブニたん)の演奏が悪魔に取り憑かれたようで圧巻。

下記事でショパンのオーケストレーション能力について、けちょんけちょんに貶した。

しかし敢えてその、ピアノ協奏曲 第1番を選択した。オーケストラは単なる伴奏に過ぎず面白みに欠けるが、全編を彩る美しい旋律の数々に魅了され、陶然となる。僕の愛読書、福永武彦『草の花』にこのコンチェルトが登場する。そしてわが生涯のベスト・ワン映画、大林宣彦監督『はるか、ノスタルジィ』にも。大林監督は『さびしんぼう』を撮った頃から『草の花』映画化を構想していた。

『草の花』の主人公・汐見が、亡くなった親友、藤木の妹・千枝子を誘い日比谷公会堂にショパンピアノ協奏曲第1番を聴きに往く場面がある。終演後の情景を引用しよう。

 新橋から省線に乗ると、釣革につかまった二人の身体が車体の振動のために小刻みに揺れるにつれて、時々肩と肩がぶつかり合った。そうするとさっき聞いたコンチェルトのふとした旋律が、きらきらしたピアノの鍵音を伴って、幸福の予感のように僕の胸をいっぱいにした。満員の乗客も、ざわざわした話声も、薄汚れた電車も、一瞬にして全部消えてしまい、僕と千枝子の二人だけが、音楽の波の無限の繰返しに揺られて、幸福へと導かれて行きつつあるような気がした。僕はその旋律をかすかに、味わうように、口笛で吹いた。千枝子が共感に溢れた瞳で、素早く僕の方を見た。

実に音楽的描写である。また小説の終盤、ひとりでコンサート会場にいた汐見に千枝子の友人・とし子が話しかけてくる。

ーショパンって本当に甘いんですわね、と尚もにこにこしながらとし子が言った。

ショパンは本当に甘いのか?ーこれは大変、興味深い問いである。稀代のショパン弾きとして知られ、「ノクターン全集」でレコード・アカデミー賞に輝いたメジューエワは次のように述べる。

 一般的にショパンのイメージは甘いというか、女性的で繊細な音楽と捉えられることが多いようですが、私にとっては古典的な作曲家。作曲家としても人としても厳格。ロマンティストですが、現実主義者でもある。男性的な感じ、あるいは英雄的な感じも非常に強い人。そういった意味ではベートーヴェンの精神性にも負けていないと思います。(中略)
 ショパンはもちろんロマン派のど真ん中の人で、音楽もロマンティックで感情豊かなものです。でもショパン自身はリアリスト。すべてを客観的に見ている。 (「ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ」より)

貴方はどうお感じになるだろう?推薦盤はアルゲリッチのピアノ独奏。伴奏はアバド/ロンドン交響楽団でも、デュトワ/モントリオール交響楽団でも、どちらも好し。

シューマンについて、メジューエワは〈インスピレーションという言葉が似合います〉〈すごいスピードで次から次へ目まぐるしくアイディアが出てくるんですね〉〈エモーションをちょっとコントロールできていない〉〈ちょっとクレイジーでファンタジー豊かな人〉と評している。シューマンのcraziness(狂気)は、彼が罹っていた神経梅毒(梅毒が中枢神経系に感染し、引き起こす髄膜炎)と無関係ではあるまい。結局、やはり梅毒に罹患していたスメタナ同様、精神病院で最後を迎えることになる。しかし27歳で作曲した「子供の情景」にその狂気はなく、穏やかで幸福なの世界が描かれている。アルゲリッチの演奏で。

シューマンでは力強く凛々しいノヴェレッテ 第1番も好き。大林宣彦監督『ふたり』の中で石田ひかりがこの曲を弾く場面はとても印象的だった。リヒテルでどうぞ。また「子供の情景」第7曲〈トロイメライ〉は大林映画『転校生』に登場する。

リストなら『蜜蜂と遠雷』で演奏されるピアノ・ソナタ ロ短調(アルゲリッチ、ポリーニ、ポゴレリッチ)とか、村上春樹の小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に登場するラザール・ベルマンが弾く「巡礼の年」なども考えたが、最も透明で美しい「ため息」を選んだ。大林宣彦監督はこの曲が大好きで、東宝の正月映画『姉妹坂』では全編に流れるし、テレビ映画『三毛猫ホームズの推理』やBS-TBSで放送された『告別』でも使用された。ホルヘ・ボレットの演奏で。余談だが原田知世が主演した大林映画『時をかける少女』の〈土曜日の実験室〉の場面では、音楽室の方からリスト「愛の夢 第3番」が微かに聴こえてくる。

ムソルグスキーの音楽は一言で評するなら〈泥臭い〉。言い換えれば〈ロシアの土の匂い〉がする。メジューエワは〈混沌(カオス)〉と形容している。〈野生の思考〉で作曲されているので、ソナタ形式などきっちりとした構造からは程遠い。シューマン同様、理屈よりもインスピレーションの人と言っていいかも知れない。

ムソルグスキーの交響詩「禿山の一夜」はリムスキー=コルサコフが編曲したバージョンで知られており、クラウディオ・アバドの指揮で初めて原典版を聴いたときは腰を抜かした。全然違う曲だった!!もっさり、ドロドロしており、リムスキー=コルサコフ版はそのアクを抜き去り、洗練されたオーケストレーションが施されていた。泥を撹拌し、濁りのない上澄み液だけ抽出した感じ。友情からした仕事なのだろうが本末転倒というか、完全に原曲の魂(soul)が雲散霧消している。

展覧会の絵」には無数の編曲がある。最も有名なのがラヴェルの管弦楽編。他に冨田勲(管弦楽編/シンセサイザー編)、フンテク編、ゴルチャコフ編、ストコフスキー編、アシュケナージ編、大栗裕によるマンドリンオーケストラ編、エマーソン・レイク・アンド・パーマー(EPL)によるプログレッシブ・ロック編、また伊藤康英による「二台八手ピアノ、サクソフォーン四重奏、混声合唱と吹奏楽のための交響的カンタータ」版なんてのもある(実演を聴いた)。それだけ編曲したいという意欲を掻き立てる余白というか、があるのだろう。ピアノ原曲ではキーシン、ウゴルスキ、ポゴレリッチ、ブニアティシヴィリ(ブニたん)の演奏がお勧め。

チャイコフスキーは泣く子も黙る華麗なるピアノ協奏曲 第1番を敢えて外した(リヒテル&カラヤン/ウイーン響、アルゲリッチ&アバド/ベルリン・フィル)。より親密な(intimate)「四季」を推す。1月〈炉端にて〉とか、5月〈白夜〉、6月〈舟歌〉、11月〈トロイカ〉、12月〈クリスマス〉など、ほんわり暖かく包み込むように鳴り響き、郷愁を誘うんだよね。アシュケナージかプレトニョフの演奏で。本当はリヒテルを強く推したいのだが、抜粋なのが残念。鋼(はがね)の叙情。

サン=サーンスピアノ協奏曲 第2番(パスカル・ロジェのピアノとシャルル・デュトワの指揮)を推そうと決めていた。第4番も好し。しかし、よくよく考えると「動物の謝肉祭」にも2人のピアニストが登場する。特に〈水族館〉はキラキラ輝く珠玉の名曲だ。ユーモアもあるし。というわけで宗旨替えした。アルゲリッチ、クレーメル、マイスキーらの演奏でどうぞ。

フランス人や日本人以外のピアニストがエリック・サティを弾くことは滅多にない。例えばロシアのリヒテル、ギレリス、ベルマン、メジューエワとか、オーストリアのブレンデル、グルダ、ドイツのケンプ、バックハウス、ポーランドのツィメルマン、イタリアのポリーニ……誰も弾かない。3つのジムノペディとか、3つのグノシェンヌとか、技術的に簡単過ぎるのだ。腕に覚えがある奏者にとっては物足りない。しかし、曲の難易度(弾き手の達成感)と聴き手の感動が比例するわけではない。簡素で素朴な美しさに心惹かれる、もものあはれを知ることもある。サティは(後に登場する久石譲も)そういった類(たぐい)の音楽なのだ。チッコリーニやティボーデ、ロジェ、高橋アキの演奏でどうぞ。またジムノペディ第1番と第3番にはドビュッシー編曲によるオーケストラ版もある(第2番を省いているのが可笑しい)。デュトワ/モントリオール交響楽団で。

グラナドスはスペインのリズムが心地よい。旋律は太く男性的だが、哀愁を帯びている。「オリエンタル」「アンダルーサ」はギター編曲版もあり、ビクトル・エリセ監督の映画『エル・スール』で印象的に使われた。

アルベニスやグラナドスはラローチャの演奏が唯一無二。

ノルウェイの作曲家グリーグで一番有名なのはピアノ協奏曲だが、日本では余り聴く機会がない抒情小曲集を推す。心に沁みる逸品。ギレリスかアンスネスの演奏で。オーケストラ用に編曲された抒情組曲もある。バルビローリ/ハレ管で。

ドビュッシーの音楽を〈印象派〉たらしめているのは、①ありとあらゆる音階の駆使 ②polytonality(複調、多調)である。一番良いサンプルはピアノ曲集「版画」だろう。第1曲「塔」はガムラン音楽の影響を受け、東南アジアの五音音階(ペンタトニック)が用いられている。第2曲「グラナダの夕べ」はアラビア音階ーいろいろあるが、マーカム・ヒジャーズカルとマーカム・ナワサルだけ覚えておけばよいだろう。詳しくはこちらのサイトをご覧あれ。第3曲「雨の庭」では全音音階半音階長調短調が混在する。正に音階の見本市である。またpolytonality(複調、多調)とは、簡単に述べれば右手と左手で同時に弾く調が異なること。

月の光」があるベルガマスク組曲を選んでも良かったのだけれど、僕がその美しさに心奪われ、うっとり聴き惚れるのはアラベスク第1番と「」なんだな〜。サンソン・フランソワの演奏でどうぞ。

ラヴェルを聴くと「色彩豊かだなぁ」といつも感じる。響きから色彩を感知するからくりは半音階の駆使にある。半音階は脳内で無意識のうちに色彩のグラデーションに変換され、虹色に輝く。「水の戯れ」も「海原の小舟」も、日差しを浴びた水の煌めきが鮮烈である。

3曲で構成される「夜のガスパール」もいいね!第1曲「オンディーヌ」は水の精のことで、「水の戯れ」「海原の小舟」と併せて「水」三部作と呼ばれたりもする。「水の戯れ」「海原の小舟」はフランソワ、「夜のガスパール」はアルゲリッチの演奏でどうぞ。

フレデリコ・モンポウはスペイン、カタルーニャの作曲家。「内なる印象」はsensitiveで、ひそやかな音楽。そっと取り扱いたい。なかんづく〈秘密〉は絶品!聴いていると悲しい気持ちになる。ラローチャの演奏で。

プロコフィエフ/ピアノ協奏曲 第3番は『蜜蜂と遠雷』のクライマックスでも演奏される名曲中の名曲。過去を懐かしむようなクラリネットのソロで開始され、それから次々と目まぐるしく場面が転換、気まぐれな年頃の女の子みたいにに表情がコロコロ変わっていく。「プロコフィエフって踊れるよね」(by 栄伝亜夜『蜜蜂と遠雷』)アルゲリッチの独奏でどうぞ。アバドの指揮でもデュトワの指揮でもO.K.

ガーシュウィン/ラプソディー・イン・ブルーは『のだめカンタービレ』でもお馴染み。このJazzyな楽曲のイメージを喚起するためには、ウディ・アレンの映画『マンハッタン』か、ディズニーの『ファンタジア2000』をご覧になることを強くお勧めする。音源はレナード・バーンスタインかアンドレ・プレビンのピアノで。ユジャ・ワン(P)&ドゥダメル/ウィーン・フィルもスリリング。

ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲の白眉はズバリ、第18変奏 アンダンテ・カンタービレである。全ての想いは下のブログ記事で激白した。

まぁ、エルガー/エニグマ変奏曲における第9変奏〈ニムロッド〉みたいなものだ。ユジャ・ワン(p)&アバド/マーラー室内管、アシュケナージ&プレヴィン/ロンドン交響楽団またはマツーエフ(P)&ゲルギエフ/マリインスキー歌劇場管あたりでどうぞ。

フランスの作曲家メシアンの最高傑作といえば世の終わりのための四重奏曲であることは衆目の一致するところだろう。しかし既にこちらの記事で取り上げたので、今回はピアノ独奏曲「鳥のカタログ」にした。メシアンと吉松隆といえば、なんてったってである。ウゴルスキの演奏で。

プーランクの音楽ほど、〈軽妙洒脱〉〈お洒落〉〈エスプリに富む〉という表現がぴったりなものはないだろう。ピアノ協奏曲はその極北にある。パスカル・ロジェ(P)&デュトワ/フィルハーモニア管の演奏にとどめを刺す。聴け、そして震えろ。

ルロイ・アンダーソンはオーケストレーションの腕を見込まれて、アーサー・フィードラー/ボストン・ポップス・オーケストラのために「ジャズ・ピチカート」「シンコペイテッド・クロック」「トランペット吹きの休日」「トランペット吹きの子守唄」など小品を沢山提供した。"A Christmas Festival"という、数々のクリスマス・ソングをメドレーにしてアレンジした傑作もある。ピアノ協奏曲の第1楽章はまるでニューヨークを舞台にしたメグ・ライアン主演のロマンティック・コメディのよう。第2楽章はキューバ(またはマイアミビーチ)でのバカンスで、第3楽章は一転してロデオというかウエスタン風。アメリカらしい、愉快な傑作である。ビーゲル(P)&スラットキン/BBCコンサート・オーケストラで。

クレオパトラの夢」はジャズ・ジャイアント、バド・パウエルが作曲・演奏した。村上龍が司会をしたテレビのトーク番組『Ryu's Bar 気ままにいい夜』のテーマ曲として使用された。秋の夜長にグラスを傾けながら聴きたい、グルーヴィー(groovy)な逸品。試聴はこちら

ワルツ・フォー・デビイ」はジャズ界のピアノの詩人ビル・エヴァンスが残した、優しくロマンティックな名曲。ビル・エヴァンス・トリオの録音が幾つも残っている。最初が1961年マンハッタンにあるヴィレッジ・ヴァンガードのライブで、最後は1980年サンフランシスコのジャズ・クラブ、キーストン・コーナにて収録。試聴はこちら。またエヴァンズのソロ曲「ピース・ピース(Peace Piece)」も素敵。静謐で深い。1958年のアルバム「エヴリバディ・ディグズ・ビル・エヴァンス」における本人のものか、イゴール・レヴィットの演奏を推す。

ミシェル・ルグランの作曲した映画「The Go-Between(1971)はカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝いた。ピアノ協奏曲仕立てになっており、主題と変奏で構成される。悲劇の予感。サントラCDが発売されていないので、こちらでお聴きください。

カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したニュージーランド映画「ピアノ・レッスン」(1993)の主人公エイダ(ホリー・ハンターがアカデミー主演女優賞を受賞)を一言で評すなら”女ヒースクリフ”である。彼女の激情狂恋は間違いなくエミリー・ブロンテの小説「嵐が丘」に繋がっている。実際にジェーン・カンピオン監督(女性)は「嵐が丘」を撮りたいと熱望しているという。試聴はこちらマイケル・ナイマンはこの映画音楽を基にピアノ協奏曲を書いており、そちらもお勧め。

ジョン・ウィリアムズの「サブリナ」(1995)は現在、サントラCDが輸入盤で購入可能。ひとまず作曲家本人のピアノ、小澤征爾が指揮するこちらの演奏でお聴きください。夢の中の舞踏会にいるような、究極の美しさ。ジョンは天才だ。また2019年の新譜で「サブリナ」のバイオリン&オーケストラ版も登場した(アンネ=ゾフィー・ムターのアルバム「アクロス・ザ・スターズ」)。

Sabrina

Across

あとね、「E.T.」の"Over the Moon"も大好き!こちら

当初、久石譲からは僕の偏愛する大林映画「はるか、ノスタルジィ」の、”Tango X.T.C.”(タンゴ・エクスタシー)にしようと決めていた。しかし冷静になって聴き直してみると、果たしてピアノ主体の楽曲と言えるのか?と疑問がふつふつと湧き上がってきた。確かにピアノは使われている。しかしサントラで主旋律を弾くのはシンセサイザーだし、後のコンサート用編曲ではそこをバンドネオンが担当したりしている(試聴はこちら)。というわけで映画「菊次郎の夏」から爽やかな日差しを感じさせる”Summer”(試聴はこちら)と、映画「アリオン」からロマンティックな”レスフィーナ”(試聴はこちら)を選んだ。あと「千と千尋の神隠し」の”あの夏へ”とか、「ハウルの動く城」の”人生のメリーゴーランド”とかをお愉しみください。

吉松隆メモ・フローラ(花についてのメモ)」は地下に眠る玻璃のように繊細で、密やかに燦めいている。それはある意味、宮沢賢治の世界を彷彿とさせる。そもそもこのタイトル、賢治が自宅の花壇の設計のために残したノートの題なのだそう。田部京子(p),藤岡幸夫/マンチェスター室内管弦楽団のアルバムでどうぞ。吉松には左手のピアニスト舘野泉のために作曲した「KENJI…宮澤賢治によせる」という作品もある。

Memo

また吉松ならピアノ独奏のための「プレイアデス舞曲集」もお勧め。こちらも田部京子で。

アカデミー作曲賞を受賞した映画「つぐない」(2007)の音楽の真髄は、ピアノとタイプライターの競演にある。これは秀逸。試聴はこちら。アイディアの元祖としてルロイ・アンダーソンの「タイプライター」があるわけだが(こちら)。

続いて〈別枠〉。

メンデルスゾーンはその実像に比べ、クラシック音楽愛好家から〈軽く見られている〉という気がして仕方ない。ブルヲタ(ブルックナー・ヲタク)とか、マラヲタ(マーラー・ヲタク)というのは一大勢力だが、僕は「メンデルスゾーンが一番好き!」という人に出会ったことがない(そもそも、ブルヲタマラヲタはオーケストラ曲しか聴かない)。多くの人々はロマン派の作曲家に対して苦悩とか挫折とか、心理的葛藤を求めている。しかしメンデルスゾーンの音楽にはそういった要素が見られない。彼はユダヤ人で、父は裕福な銀行家であった。だから苦労ということを知らずに一生を送ったのである。28歳で美人と結婚し、5人の子にも恵まれた。言うことなしである。なお一時代を築いたメンデルスゾーン銀行だが、ナチス・ドイツが政権を握ると1938年に解体されてしまった。

メンデルスゾーンは20歳の時に指揮者としてJ.S.バッハ/マタイ受難曲を100年ぶりに蘇演したことでも知られている。だから彼の音楽はバッハに近く、決して感情的にならない。『蜜蜂と遠雷』で演奏される「厳格な変奏曲」もバッハのゴルトベルク変奏曲や、ベートーヴェンのディアベリ変奏曲を彷彿とさせる仕上がりになっている。

ピアノ独奏曲ならまず、フランスのピアニスト、ベルトラン・シャマユが弾くピアノ作品集をお勧めしたい。Spotifyはこちら、NAXOSはこちら。特にロンド・カプリチオーソと無言歌 第6巻 第2曲「失われた幻影」が素敵。「厳格な変奏曲」も入っているので、これ一枚で全体像が把握出来る。

メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲 第1番は端正な美しさ。〈悲劇の季節〉という言葉がぴったり。トリオ・ワンダラーかボロディン・トリオの演奏で。

ブラームスフォーレ室内楽の二大巨頭である。ブラームス/ピアノ四重奏曲 第1番はシェーンベルクによるオーケストラ編曲版でも知られる。白眉は第4楽章、ずばりロマ(ジプシー)の音楽だ。こんなに燃えるブラームスは他に例を見ない。ダンス・ダンス・ダンス!アルゲリッチ/クレーメル/バシュメット/マイスキーの競演でどうぞ。

フォーレ/ピアノ五重奏曲 第1番は冒頭ピアノの眩(まばゆ)いアルペジオ(分散和音)が例えようもなく美しい!これは一つのメルヘンだ。ル・サージュ(ピアノ)&エベーヌ弦楽四重奏団の演奏で。

チェコの作曲家ドヴォルザーク/ピアノ三重奏曲 第4番「ドゥムキー」は民族色が強い。”ドゥムキー”とは18世紀ポーランドに起こり、ウクライナ、チェコ、スロバキアなどスラヴ諸国に広まった民謡形式、”ドゥムカ”の複数形である。ゆっくりとした哀歌の部分と、テンポの速い明るく楽しい部分の急激な交代を特徴とする。6つの楽章から成るが、ソナタ形式は全く無い。スーク・トリオか、ファウスト/ケラス/メルニコフの演奏で。なお、チャイコフスキーにも「ドゥムカ」というピアノ曲がある。

ショーソン/ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のためのコンセールは幻夢的。第2楽章は月の光に浮かび上がるまぼろし。

バルトークは『蜜蜂と遠雷』の本選で風間塵が弾くピアノ協奏曲 第3番を選んでも良かったのだが(アンダ&フィリッチャイ/ベルリン放送交響楽団)、2台のピアノと打楽器のためのソナタを取り上げたのには理由がある。バルトークはピアノを打楽器と見なしていることが明確に判る楽曲だからである。この作曲家独自のユニークな着想であり、他には余り例を見ない。アルゲリッチ、フレイエほかでどうぞ。

チェンバロは爪で金属弦をはじいて音を出す機構である。つまり撥弦楽器だ。だからハープ、ギター、琴、三味線の仲間ということになる。一方、ピアノはハンマーフェルトで弦を叩く打弦楽器だ。最も近い兄弟はイランのサントゥールやハンガリーのツィンバロム(ツィンバロン)。

Santur Cimbalom

木琴(シロフォン)・鉄琴も親戚筋に当たる。故にピアノと打楽器は相性が良いのである。『蜜蜂と遠雷』でマサルが弾くバルトーク/ピアノ・ソナタも、打楽器として扱われている。

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2018年11月22日 (木)

これが「エンターテイメント日誌」ベスト盤だ!

同様の企画をして、既に2年以上経過した。その間に執筆した記事の数も相当増えた。だから新しい読者の指標となるように、自撰ベスト・アルバムの更新をしておきたい。

やはりここ最近で一番大きかったのは、構造人類学者レヴィ=ストロースと哲学者ニーチェ、そして〈ドリームタイム〉との邂逅であった。

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2018年1月28日 (日)

#クラシック名曲マイベスト10

Twitterのハッシュタグで #クラシック名曲マイベスト10 というのがあって、これを眺めているだけでもすこぶる愉しい。多種多様。書き手の「人となり」が窺い知れる。

ある種の傾向も見えてくる。オーケストラ曲(協奏曲含む)やピアノ曲ばかり聴いている人が結構多い(室内楽少なっ!)とか、メンデルスゾーンやサン=サーンスが不人気とか。

ぶっちゃけ星の数ほどある名曲の中から10選ぶなんて不可能。無茶振りだ。しかし話の種としては面白い。「へーそんなに良いんだ。一度聴いてみよう」という切っ掛けになるかも知れない。よって僕も参戦することにした。

これはお遊び、ゲームだ。そしてゲームには規則が要る。僕がこういうときに重視するのはバランス感覚である。偏らないこと。そこで2つのルールを設定した。

  1. 一作曲家一作品とする。
  2. 交響曲・管弦楽曲・協奏曲・室内楽・器楽・歌劇・歌曲・音楽史(ルネサンス〜バロック期)とすべてのジャンルを網羅する。

その結果、次のようなラインナップとなった。

  • コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲
  • フランツ・シュミット:交響曲第4番
  • J.S.バッハ:マタイ受難曲
  • ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
  • プーランク:フルート・ソナタ
  • 武満徹:系図 ―若い人たちのための音楽詩―
  • ディーリアス:夏の夕べ(「3つの小さな音詩」より)
  • ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」
    (または「トリスタンとイゾルデ」
  • ドビュッシー:2つのアラベスク
  • シューベルト:歌曲集「冬の旅」
    (または歌曲「魔王」「水の上で歌う」「影法師Doppelgänger

コルンゴルトフランツ・シュミットについては下記事をお読みください。

J.S.バッハに関してはマタイ受難曲をゴルトベルク変奏曲無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ、あるいは無伴奏チェロ組曲に置換可。

ベートーヴェンの最高傑作も、弦楽四重奏曲第14,15番大フーガ後期ビアノ・ソナタ第30−32番のどれにするか決めかねる。

プーランクピアノ協奏曲もとても美しくて好き。

武満徹系図( Family Tree )は少女の語り手とオーケストラのための作品である。テキストは谷川俊太郎の詩集「はだか」。僕は日本初演を果たした遠野凪子(当時15歳)の語りが一番好き。上白石萌歌とかも演じており、異色なところでは京都市交響楽団定期演奏会の吉行和子!!あのぉ、少女じゃないんですけれど……。

夏になると無性に聴きたくなるのがディーリアスの音詩(Tone Poem)。「夏の歌」「夏の庭園で」にも置換可。

ニーベルングの指環」の歴史的意義/後世への多大な影響については下記事で詳しく述べた。

印象派を代表して、玻璃のように繊細なドビュッシーのピアノ曲を。「」とか「月の光」に置換可。オーケストラ曲「牧神の午後への前奏曲」や、無伴奏フルート独奏曲「シランクス(パンの笛)」もいいね。

シューベルトは当初、後期ピアノ・ソナタ第19−21番を挙げようと計画していた。しかしふと、思い直した。シューベルトと言えば「歌曲王」。それを避けて通るのはいくらなんでも失礼、外道の所業だろう。「冬の旅」は暗く、悲痛である。若くして梅毒に感染し、死の恐怖に怯えながら生き、(当時の治療法だった)水銀中毒により31歳の若さで亡くなった作曲家の人生と、「冬の旅」の主人公はピタッと重なる。

魔王」は18歳の時に作曲された劇的な傑作。「水の上で歌う」は映画「バトル・ロワイヤル」で印象的に使われていた。また「ドッペルゲンガー(二重身)」をテーマにベルイマン監督の映画「仮面/ペルソナ」やデヴィッド・フィンチャー「ファイト・クラブ」、ドゥニ・ヴィルヌーヴ「複製された男」が創られた。

続いてMore 10 (Another version)を挙げよう。

  • シベリウス:交響曲第7番
  • ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」
  • ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第4番「ドゥムキー」
  • チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」
  • モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番
    (またはアダージョとフーガ K.546、交響曲第25番
  • マーラー:交響曲第9番
  • サティ:ジムノペディ(または「あんたが欲しいのジュ・トゥ・
  • ブラームス:弦楽五重奏曲第2番
  • フランク:ヴァイオリン・ソナタ
  • ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」

シベリウスは後期交響曲第4,5,6番のどれもいいなぁ。迷う。

ヴェルディのオペラは「椿姫」「ドン・カルロ」「アイーダ」「仮面舞踏会」「オテロ」など傑作が数多(あまた)あるが、僕は「シモン・ボッカネグラ」にとどめを刺す。指揮者クラウディオ・アバドがこよなく愛した作品でもある。

ドヴォルザークからは民族色に溢れた、またチャイコフスキーからは哀しみに満ちた室内楽を選んだ。

モーツァルトピアノ・ソナタは第3楽章「トルコ行進曲」で有名だが、はっきり言ってどうでもいい。このソナタの白眉は第1楽章 変奏曲である。何ともInnnocent(無垢)な気持ちになる。僕が小学校4年生の頃、母に買ってもらったイングリット・ヘブラーが弾くLPレコードに収録されており(併録はソナタ8番と9番)、繰り返し聴いた。モーツァルトの真髄は長調から短調に転調する瞬間にある。そこに神が宿る。

マーラー第9番にはこの世への執着/未練を示した「大地の歌」を経て、諦念と浄化がある。最後にはひたすら青い空が広がり、清々しい気持ちになれる。未完に終わった第10番も良い。

ブラームス交響曲第4番も迷ったけれど、ここは室内楽の名手を讃えて。ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」も捨てがたい魅力がある。

裏ベスト

  • アレグリ:ミゼレーレ(無伴奏合唱曲)
  • テレマン:フルートとリコーダーのための協奏曲
  • ブルックナー:交響曲第7番
  • レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ:交響曲第3番(または第5番)
  • ラヴェル:序奏とアレグロ(七重奏曲)
  • エルガー:チェロ協奏曲
    (または
    弦楽四重奏×弦楽合奏による序奏とアレグロ
  • メシアン:世の終わりのための四重奏曲
  • グラナドス:スペイン舞曲集より「オリエンタル」「アンダルーサ」
  • バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番
    (または弦楽四重奏曲第4,5番
  • ヤナーチェク:歌劇「利口な女狐の物語」
    (または弦楽四重奏曲第1,2番

ローマのシスティーナ礼拝堂で歌われ、楽譜が門外不出の秘曲だった「ミゼレーレ」を14歳だったモーツァルトが二度聴いただけで正確に採譜したというのは余りにも有名なエピソードである。透明感あふれるタリス・スコラーズの合唱でどうぞ。

ヴォーン・ウィリアムズについては下記記事をお読みください。

ラヴェル序奏とアレグロはNHK BS プレミアム「クラシック倶楽部」のオープニングテーマに採用されている。

エルガーのチェロ協奏曲はデュプレ×バルビローリの、火の玉と化した壮絶な演奏をお聴きあれ。

グラナドスオリエンタル」「アンダルーサ」は勿論オリジナルのピアノも良いのだが、是非ギター編曲版も聴いて欲しい。あと映画「エル・スール」は必見。

バルトークコンチェルトは冒頭のヴァイオリン独奏を聴くと、否応なく「嗚呼、ハンガリーだなぁ」としみじみ想う。

ヤナーチェクは色っぽいね。弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」は不倫音楽だ。

次点

  • ベルリオーズ:幻想交響曲
  • フォーレ:レクイエム
  • シューマン:子供の情景
    (またはノヴェレッテ第1番
  • メンデルスゾーン:劇付随音楽「夏の夜の夢」
    (またはピアノ三重奏曲第1番
  • ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
  • ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番
    (またはヴァイオリン/ヴィオラ・ソナタ
  • プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」
    (または交響曲第7番
  • ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
  • ハワード・ハンソン:交響曲第2番「ロマンティック」
  • モンポウ「内なる印象」(特に第8曲「秘密」が白眉)

オイストラフ60歳の誕生日のために作曲されたショスタコーヴィチヴァイオリン・ソナタと、遺作となったヴィオラ・ソナタは無機質というか、空恐ろしい虚無の音楽である。殆どの聴き手は拒絶反応を示すのではないだろうか?でも作曲家の心の深淵を覗き込むような体験が出来る、稀有な作品と言えるだろう。

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