各種ベスト作品選出!

2016年8月 4日 (木)

アカデミー歌曲賞 オールタイム・ベスト25/裏ベスト8

まず誤解している人が多いのだが、アカデミー「主題歌賞」ではなく「歌曲賞」である。例えば「ライオンキング」からは3曲が歌曲賞にノミネートされた。「主題歌」なら1曲しかない筈でしょ?つまり「挿入歌」も含まれるということ。

  1. 虹の彼方に(「オズの魔法使い」1939)
  2. Let It Go(「アナと雪の女王」2013)
  3. 星に願いを(「ピノキオ」1940)
  4. The Way We Were(「追憶」 1973)
  5. Lose Yourself(「8 Mile」 2002)
  6. Glory(「グローリー/明日への行進」 2014)
  7. Let the River Run(「ワーキング・ガール」 1988)
  8. White Christmas(「スイング・ホテル」1942)
  9. 風のささやき(「華麗なる賭け」1968)
  10. Moon River(「ティファニーで朝食を」1961)
  11. A Whole New World(「アラジン」 1992)
  12. モナ・リザ(「別働隊」1950)
  13. Skyfall(「007 スカイフォール」2012)
  14. My Heart Will Go On(「タイタニック」1997)
  15. 雨にぬれても(「明日に向って撃て!」 1969)
  16. ブロードウェイの子守唄(「ゴールド・ディガーズ36年」1935)
  17. Falling Slowly(「ONCE ダブリンの街角で」 2007)
  18. 今宵の君は(「有頂天時代」1936)
  19. Sooner or Later(「ディック・トレイシー」1990)
  20. Colors of the Wind(「ポカホンタス」 1995)
  21. The Shadow of Your Smile(「いそしぎ」 1965)
  22. チム・チム・チェリー(「メリー・ポピンズ」1964)
  23. What a Feeling(「フラッシュダンス」1983)
  24. 美女と野獣(「美女と野獣」 1991)
  25. ニューヨーク・シティ・セレナーデ(「ミスター・アーサー」 1981)

「裏ベスト」とは歌曲賞にノミネートされるも、惜しくも受賞を逃した楽曲から厳選した。

  1. アルフィー(「アルフィー」 1966)
  2. The Man That Got Away 去っていった彼(「スター誕生」1954)
  3. If We Were In Love(「イエス、ジョルジョ」 1982)
  4. Somewhere in my Memory(「ホーム・アローン」 1990)
  5. Papa,Can You Hear Me?(「愛のイエントル」 1983)
  6. Looking Through the Eyes of Love(「アイス・キャッスル」 1979)
  7. Somewhere Out There(「アメリカ物語」1986)
  8. Circle of Life(「ライオンキング」 1994)

「虹の彼方に」は「ストーミー・ウェザー」で有名なハロルド・アーレンの作曲。映画「オズの魔法使い」の編集段階になってスタジオの幹部から「14歳の少女が歌うには大人びていて相応しくない」と物言いがつきカットされかけた。しかしプロデューサーのアーサー・フリードはこの歌を気に入っておりカットに猛反対をし、何とか免れたという。曲は大ヒットし、ジュディ・ガーランドの代表曲になった。そして2001年に全米レコード協会の投票による「20世紀の名曲」では第1位に選ばれた。また僕が「裏ベスト」で取り上げたThe Man That Got Away(去っていった彼)もハロルド・アーレンが作曲し、ジュディが歌った。こちらは正に「大人の味わい」がしっかり染みこんだ夜の音楽だ。ジュディの絶唱を聴け。

「アナ雪」の「レリゴー」が世界中で巻き起こしたムーヴメントは凄まじかった。それは文字通り旋風だった。

「星に願いを」は映画「未知との遭遇」でも重要な役割を果す。

上記事では「ピノキオ」と旧約聖書との関わりについても触れた。

「追憶」の主題歌は何と言ってもバーブラ・ストライザンドの歌唱が素晴らしい。彼女以外の歌手は考えられない。

「8 Mile」はエミネムの半自伝的映画。ラップが格好いい。

キング牧師を主人公に据えた「グローリー/明日への行進」はラップとゴスペルの融合。新しい。胸熱。これぞ21世紀の音楽!

「ワーキング・ガール」の主題歌は颯爽と肩で風切って歩いている感じがいい。映画冒頭にバーン!と登場。

クリスマスの定番、アーヴィング・バーリンの「ホワイト・クリスマス」の初出が映画だったということを知らない人は多いのでは?「スイング・ホテル」の出来もいい。

「華麗なる賭け」はなんてったってスティーブ・マックィーンが格好いいんだよね。「風のささやき」は彼がエンジンのないグライダーを操縦している場面に流れる。

「ムーン・リヴァー」を知らない人はいないよね?ヘンリー・マンシーニの音楽は都会的でお洒落。ただ僕が一番好きなのは1967年の「いつも2人で(Two for the Road)」。村上春樹のお気に入りの映画だったりする。あと「ピンクパンサー2」の"The Greatest Gift"も素敵。関光夫がパーソナリティーを務め、NHK-FMで土曜日の午後10時20分から放送されていた「夜のスクリーンミュージック」のテーマ曲として使われていた。毎週耳を傾けていたなぁ。

「美女と野獣」「アラジン」「ノートルダムの鐘」の頃が、作曲家アラン・メンケンの全盛期だった。僕の友人の結婚式で、新婦側の友達がピアノで「美女と野獣」を弾くのを聴いて、「これじゃぁまるで新郎を野獣と言っているのと同じじゃない?失礼な」と感じたことを憶えている。もうあれから20年経った。

「モナ・リザ」を入れたのはナット・キング・コールの歌声が大好きだから。とっても優しくて、柔らかい感情に包まれる感じ。つまり包容力がある。癒されるんだ。

007の主題歌に名曲は多い。しかし驚くべきことに初期の「ロシアより愛をこめて」とか「ゴールドフィンガー」なんか、歌曲賞にノミネートすらされていないんだよね。多分イギリス映画だからだ。「女王陛下の007」の劇中にサッチモ(ルイ・アームストロング)が歌う、"We Have All The Time In The World( 愛はすべてをこえて)"なんかもグッと来るなぁ。ジョン・バリーによる傑作。

「タイタニック」におけるジェームズ・ホーナーの音楽はアイリッシュ・テイスト満載(エンヤもね)。ホーナーなら「アメリカ物語」の"Somewhere Out There"も好き。エッ、「虹の彼方に」に似てるって?【パクリのホーナー】だから許してあげて。

「雨にぬれても」は作詞ハル・デヴィッド、作曲バート・バカラックによる代表作。のんびりした田園風景に似合っている。でもこのコンビ作で僕がもっともっと好きなのは「アルフィー」と、カーペンターズが歌い「遙かなる影」の邦題で知られる"(They Long to Be) Close to You"だ。映画「アルフィー」(1966年版)はマイケル・ケイン演じるプレイボーイ(ヒモ男)の主人公が魅力的なんだ。付き合う女を取っ替え引っ替えしても心の虚空は埋まらない。ラストシーンで日がどっぷりと暮れたロンドンの川を眺めながら「一体俺は何をやっているんだ」と呆然と立ち尽くすアルフィー。そこに流れる主題歌の歌詞がグサッと胸を抉る。

What's it all about, Alfie?
Is it just for the moment we live?
What's it all about when you sort it out, Alfie?
Are we meant to take more than we give?
Or are we meant to be kind?

アルフィー、人生って何だろう?
私たちって刹那的に生きているだけってこと?
いろんなことを選り分けていく中で
人に与える以上に人から奪うのが私たちの宿命なの?
それとも親切にすることが人間本来の姿かしら?

And if only fools are kind, Alfie
Then I guess it is wise to be cruel
And if life belongs only to the strong, Alfie
What will you lend on an old golden rule?

もし親切にするのは愚か者だけだというのなら
残酷になる方が賢いよね、アルフィー
強い者のためだけに人生があるというのなら
「人からしてもらいたいことを、人にしてあげなさい」
という黄金律に則ると、あなたは何を人に与える?

As sure as I believe there's a heaven above, Alfie
I know there's something much more
Something even non-believers can believe in

私は天国が存在すると信じているけれど
たとえ無神論者でも信じることが出来る
もっともっと素晴らしいものがあるのよ、アルフィー

I believe in love, Aflie
Without true love we just exist, Alfie

私は愛を信じているわ、アルフィー
真実の愛がなかったら私達は単にこの世に「ある」だけじゃない

Until you find the love you've missed you're nothing, Alfie

あなたがいままで取り逃がしてきた愛を見つけなければ
あなたは「無」に過ぎないのよ、アルフィー

When you walk let your heart lead the way
And you'll find love any day, Alfie, Alfie

歩くときには心が趣くままに進んでごらんよ
そしたら愛を見つけられるんじゃないかな、いつの日かきっと
アルフィー、アルフィー

(日本語訳:雅哉/無断転載禁止)

「アルフィー」はディオンヌ・ワーウィックの歌でよく知られるが、映画のオリジナル(イギリス公開版)はシラ・ブラックが歌い、アメリカ公開時に配給元のユナイテッドの要請でシェールに変わった。僕が好きなのは1996年にTBSで放送されたテレビドラマ「協奏曲」(脚本:池端俊策、出演:田村正和、宮沢りえ、木村拓哉)で使用されたヴァネッサ・ウィリアムズによるバージョン。

「ブロードウェイの子守唄」は舞台ミュージカル「42nd Street」の第1幕フィナーレにも登場する。激しいタップの群舞が圧巻。なんか興奮する。

「ONCE ダブリンの街角で」はジョン・カーニー脚本・監督による音楽映画。カーニーが後に撮った「はじまりのうた」@ニューヨーク、「シング・ストリート」@ダブリンも素晴らしい。

「今宵の君は(The Way You Look Tonight )」のオリジナルを歌ったのはフレッド・アステア。僕がものすごく印象に残っているのはジュリア・ロバーツ主演の映画「ベスト・フレンズ・ウェディング」での使い方。とっても切なくなった。「ベスト・フレンズ・ウェディング」はハル・デヴィッド&バート・バカラックのコンビによる「小さな願い」(I Say a Little Prayer)が歌われる場面も感動する。

「ディック・トレイシー」の"Sooner or Later"はブロードウェイ・ミュージカルの巨匠スティーヴン・ソンドハイム節が堪能出来る。ソンドハイムは「スウィーニー・トッド」や「イントゥ・ザ・ウッズ」の作曲家としても知られる。洗練されて粋な楽曲。ハードボイルドな味わい。

「メリー・ポピンズ」は「イントゥ・ザ・ウッズ」のロブ・マーシャルが監督し、エミリー・ブラントやメリル・ストリープが出演する続編の製作が決定したと聞いて驚いている。オリジナル版の楽曲はシャーマン兄弟が作曲したが、兄は死去しているので多分別人が書くのだろう。「アナ雪」のクリスティン・アンダーソン & ロバート・ロペス夫妻あたりかな?

「フラッシュダンス」の主題歌"What a Feeling"は僕が高校生の時、すごく流行った。吹奏楽部でも演奏したな。前向きな主人公で、女の子たちから圧倒的な支持を受けた。明るい曲だ。

「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」Arther's Theme(The Best That You Can Do)はクリストファー・クロスとバート・バカラックの共作。クリストファー・クロスって絹のように滑らかで綺麗なハイトーン・ボイスの持ち主なんだ。

「裏ベスト」の"The Man That Got Away"(去っていった彼)と「アルフィー」については既に熱く語った。

"If We Were In Love"(「イエス、ジョルジョ」 1982)は日本未公開。「スター・ウォーズ」「ハリー・ポッター」の巨匠ジョン・ウィリアムズが作曲し、三大テノールの一人ルチアーノ・パヴァロッティが歌った(主演も務めた)。とってもロマンティックな佳曲。

"Somewhere in my Memory"(「ホーム・アローン」 1990)の作曲もジョン・ウィリアムズ。今やクリスマスには欠かせない。温かい気持ちになれる。

「愛のイエントル」については下記記事で縦横無尽に語り尽くした。作詞はアラン&マリリン・バーグマン夫妻、作曲は「華麗なる賭け」「シェルブールの雨傘」のミシェル・ルグラン。

"Looking Through the Eyes of Love"の作曲は「追憶」「コーラスライン」のマーヴィン・ハムリッシュ。知られざる名曲だ。映画「アイス・キャッスル」はフィギュアスケーターが主人公の物語。

「ライオンキング」といえば歌曲賞を受賞した「愛を感じて」じゃなくて、断然"Circle of Life"でしょう!歌詞の内容=映画の主題でもあるし。作詞はティム・ライス、作曲はエルトン・ジョン。

これから先の人生で、 どんなことがあるのか知らないけれど、いとしい歌の数々よ、どうぞぼくを守りたまえ。  
(芦原すなお 著「青春デンデケデケデケ」より)

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2016年7月22日 (金)

「エンターテイメント日誌」自選記事 ベスト30

早いもので、このブログを開設してから今年で10年目になる。途中から読者になられた方が殆どだろう。記事数も2100を超えた。つまり年間200以上書いている計算になる。膨大な量だ。そこで「どうしてもこれだけは読んで欲しい」というものを厳選した。

まずはBEST 10から。

続いてNEXT 10。

そしてMORE 10

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2016年7月 7日 (木)

【増補改訂版】「君の名は希望」〜作詞家・秋元康を再評価する

秋元康は今や億万長者(「グローバルウェルス・レポート 2015」によると資産50億円〜100億円未満)であり、日本で最も成功した音楽プロデューサーである。だからやっかみ半分、彼のことを「守銭奴」と罵り、その体型から「秋豚」呼ばわりする者たちも世間には少なからずいる。もともと彼の本業は「放送作家」「作詞家」であるが、その側面は忘れられがちである。

2014年の段階で彼が作詞したのは4000曲以上、AKB48グループだけに限っても1000曲を超えている。その事実を知っている人は恐らく少ないのではないか?CDシングルだけではなくカップリング曲、劇場公演曲(アンコールまで含めると1公演につき16曲)も全て秋元康が作詞しているのである。一体、この情熱は何処から来るのか?少なくとも「金儲け」のためだけなら、こんな芸当が出来る筈もない。ある程度は他者に任せればいいわけだから。

そこで「作詞家」秋元康を正当に評価してあげようよ、というのが今回の企画である。

僕の考える秋元康による作詞ベスト12を挙げてみよう。各々のタイトルをクリックすれば歌詞に飛べるよう仕組んである。

  1. サイレントマジョリティー(欅坂46)
  2. 君の名は希望(乃木坂46)
  3. 鈴懸の木の道で「君の微笑みを夢に見る」と言ってしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの(AKB48)
  4. 世界には愛しかない(欅坂46)
  5. キレイゴトでもいいじゃないか?(HKT48研究生)
  6. てもでもの涙(AKB48 チームB 3rd Stage「パジャマドライブ」)
  7. バレッタ(乃木坂46)
  8. 風は吹いている(AKB48)
  9. 前のめり(SKE48)
  10. 夕陽を見ているか?(AKB48)
  11. キリギリス人(ノースリーブス)
  12. 森へ行こう(AKB48 ひまわり組 2nd Stage「夢を死なせるわけにいかない」)

サイレントマジョリティー」については下記記事をお読みください。

2015年大晦日、NHK紅白歌合戦に初出場した乃木坂46が歌ったのは「君の名は希望」だった。2013年3月に発売されたシングル曲。秋元本人もよほどこれを気に入っているのだろう、NHKで土曜の夜に放送されている「AKB48 SHOW !」の番外編として「乃木坂46 SHOW !」というのが時たま不定期に放送されるのだが、その第1回目と第2回めに続けてこの曲が歌われたのである。他に紹介されていないシングル曲が幾つもあるのに。……一人称の「僕」は自分に閉じこもりがちな教室で孤立した少年である。そんな彼が学校のグラウンドで「君」と出会い、その瞬間陽の光が差し込む。秋元が冴えているときは歌詞の情景をきちんと絵として思い浮かべる事が出来る。そういう意味で「君の名は希望」は紛うことなき最高傑作、神曲である。「僕」=オタク、「君」=アイドルと読み替えることも出来る。奥が深い。

情景(絵)が見えるという意味では「てもでもの涙」もそう。《降り始めた細い雨が/銀色の緞帳を/下ろすように/幕を閉じた/それが私の初恋》《声も掛けられないまま/下を向いたら/紫陽花も泣いていた》とか素敵じゃない?季節感があり、美しい日本語だ。「てもでも」という語感もリズムがあって良い。歌を聴いたらその意味が判る仕掛けになっている。2009年「AKB48リクエストアワー セットリスト ベスト100」(以下「リクアワ」と略す)第3位。また「君の名は希望」も「てもでもの涙」も歌詞の中に英語を用いず、日本語だけで勝負していることも特筆に値するだろう。現在日本のアイドル・ソング、ポップ・ミュージックの中では希少である。

鈴懸なんちゃら」(2015年「リクアワ」第1位)についてはまずタイトルの長さが尋常じゃない。気合い入りまくり。じゃんけん大会で優勝した松井珠理奈に対する秋元の愛情が溢れ、常軌を逸している。また珠理奈をデビューさせた「大声ダイヤモンド」と「鈴懸」を続けて聴くとキモさ倍増、鳥肌(さぶいぼ)が立つ。でもそこがいい。谷崎潤一郎や江戸川乱歩の小説を読めば分かるが、変態的性格から芸術が生まれることはあるのだ。それが作家性である。ベルリオーズ作曲「幻想交響曲」なんかもそう。内容は完全なストーカーである。「鈴懸なんちゃら」と「バレッタ」の変態性については下の記事で詳しく論じたのでそちらをお読みください。

世界には愛しかない」は2016年8月10日に発売される欅坂46の2nd シングルである。まずポエトリー・リーディングという斬新な手法に度肝を抜かれた!秋元康の本気を感じる。歌詞中の「僕」=秋元、「君」=欅坂のセンター・平手友梨奈と置き換えて眺めれば、その本質が見えてくるだろう。つまりこれは秋元の、紛れもない愛の告白である。そういう意味で「鈴懸なんちゃら」に近い作品と言えるだろう。僕は《もう少ししたら/夕立が来る》というフレーズにグッと来た。過去を振り返る傾向が強い日本の歌謡曲の中で、珍しい未来志向の楽曲である。躍動感に溢れ、瑞々しい。

個人的な話になるが、前の職場でどうしても納得出来ないことがあり、上司に対して「それは間違っている」と徹底的にNOを突きつけた。そしてそこを辞め、今の仕事に就いた。揉めている時に「キレイゴトでもいいじゃないか ?」(2014年「リクアワ」第8位)を繰り返し聴き、大いに勇気付けられた。《恥をかくために/生きている》という言葉が心に刺さる。アイドルって人々に勇気や希望を与えるのが本来与えられた役割なんじゃないかな?そういう意味で秋元康には本当に感謝している。僕はいま、幸せである。むしろあの時、自分が正しいと思うことを言っていなければ後悔しただろう。

風は吹いている」も人々に希望を与える歌だ。東日本大震災の年に創られた復興支援ソング。この歌詞は熱い。《この変わり果てた/大地の空白に/言葉を失って/立ち尽くしていた》《前を塞いでる/瓦礫をどかして/いまを生きる》こんな内容、アイドルが歌う範疇を遥かに超越している。衝撃的であった。

AKB48グループは2011年の震災直後から被災地訪問活動を行っている。6名のメンバーが交代交代に毎月一回足を運び、現地で無料のミニ・コンサートをする。しかも前田敦子(卒)・大島優子(卒)・渡辺麻友・柏木由紀といった人気メンバーも参加して。このプロジェクトは5年経過した現在も継続されている。考えてみて欲しい。2016年までずーっと無償の訪問活動を行っているアイドル・グループ、ミュージシャンが他にいる?継続は力なり。カネ目当てとか売名行為なんかじゃ決してない。僕はそこに秋元康の強い使命感を見る。

前のめり」は2015年8月にSKE48を卒業した松井玲奈への餞として書かれたシングル曲。「かすみ草」を自称する玲奈に対して、「い や、君はひまわりだよ」と言ってあげるところに秋元の優しさを感じる。非常にpositive thinkingな内容だ。人生、いくらでもやり直せるという気持ちになれる。

夕陽を見ているか?」は2007年のシングル。これを書いた時、秋元は「絶対売れる!」と確信していたという。しかしその自信とは裏腹に全く売れなかった。しみじみとしたバラードで、長年ファンから愛され続けている心がほっこりする名曲だ。

キリギリス人」に僕が深く共感するのは、結局カルペ・ディエムCarpe Diem(=「その日を摘め」「一日の花を摘め」)について語っているからである。つまり「将来に備えやせ我慢して蓄えよう」なんてくだらないことを考えず、「今を生きろ」ということ。これはメメント・モリMemento Mori(=「死を想え」「死を記憶せよ」)に繋がる。詳しくは下の記事で論じた(図説付き)。

森へ行こう」は国民的アイドルになってしまった今のAKB48に対して絶対書けない曲。ダークな世界観で、「本当は恐ろしいグリム童話」とかミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」、ティム・バートンの映画を彷彿とさせるものがある。秋元康ってこういう一面があったんだ!と新たな発見がきっとある筈。

たかがアイドル、されどアイドル、なんてったってアイドルである。

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2016年3月22日 (火)

観ずに死ねるか!? 傑作ドキュメンタリー10選 プラス1

はじめに、ドキュメンタリーという性質上、映画とテレビ作品との区別をつけなかった。順不同で選りすぐりの逸品をご紹介していこう。

  • 映像の世紀 (NHK/ABC)
  • 未来への遺産 (NHK)
  • プラネットアース (BBC/NHKほか)
  • 戦火のマエストロ・近衛秀麿
    〜ユダヤ人の命を救った音楽家〜 (NHK)
  • 東京裁判
  • 柳川堀割物語
  • ボーリング・フォー・コロンバイン
  • 不都合な真実
  • マン・オン・ワイヤー
  • DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on
    少女たちは傷つきながら夢を見る
  • ゆきゆきて、神軍

映像の世紀」 戦後50周年およびNHKの放送開始70周年記念番組として制作・放送されたドキュメンタリー番組。アメリカABCとの国際共同取材。 1995年3月から1996年2月にかけて、「NHKスペシャル」で放映された。全11集。また2015-6年に「新・映像の世紀」も放送された。これは「映像の世紀」を補完する内容なので、併せてどうぞ。20世紀の歴史が手に取るように良く理解出来る。貴重な映像が満載。歴史を学ぶことは処世術を身につけること。これからの貴方の人生に必ず役に立つ筈だ。加古隆が作曲したテーマ音楽「パリは燃えているか」(下野竜也/NHK交響楽団)が印象的。

未来への遺産」 1974年3月から75年10月までNHK放送開始50周年記念番組として放送された大型番組。「文明はなぜ栄え、なぜ滅びたか」をテーマに制作され、現在では取材不可能な地域を含む、44か国、150か所の文化遺産を徹底取材。ユネスコの世界遺産条約が発効したのが1975年、第1号が世界遺産リストに登録されたのが78年なのでそれ以前の番組ということになる。マヤ文明の遺跡から発掘されたパカル王の翡翠の仮面は番組収録後の1985年に盗難に遭い、4年半後に無事戻ってきた。あまりにも有名で、盗人が売り捌くことが出来なかったようだ。

Palenque

また本作に登場するバーミヤン渓谷の2体の大仏は後にアフガニスタン戦争でタリバンによって破壊されてしまった。武満徹の音楽がいい(岩城宏之/NHK交響楽団)。あと女優・佐藤友美が「幻影」として登場するのには賛否両論あるだろうが、僕は雰囲気があって好きだな。DVDかNHKアーカイブスでどうぞ。

プラネットアース」 

Planet

イギリスBBCによる自然ドキュメンタリー・シリーズ。NHKとアメリカ・ディスカバリーチャンネルとの共同制作、全11集。2006-7年に放送された。エミー賞では作品賞など4部門を受賞。後に「アース」としてダイジェスト版が映画館でも上演されたが、是非オリジナル版を観て欲しい。音楽はジョージ・フェントンで、ベルリン・フィルが演奏していることも話題となった。また姉妹編としてBBCの海洋ドキュメンタリー「ブルー・プラネット」(こちらもベルリン・フィルが参加)やフランスのドキュメンタリー映画「WATARIDORI」もお勧め。宇宙船地球号に有る、雄大な自然を堪能しよう。

戦火のマエストロ・近衛秀麿」は2015年にNHK BS1スペシャルとして放送された最新のドキュメンタリー。番組公式サイトはこちら。事実は小説よりも奇なり。とにかくびっくりした。ベルリン・フィルを指揮し、日本初の常設オーケストラを組織した男、近衛秀麿。彼は内閣総理大臣・近衛文麿の弟でもあった。兄と最後に交わした言葉が切ない。余談だが阪急電鉄・宝塚歌劇団・東宝株式会社の創業者・小林一三は第2次近衛内閣で商工大臣を務めた。このあたりのことはNHK 放送90年ドラマ「経世済民の男 小林一三」で面白く描かれているのでそちらもお勧め。公式サイトはこちら

東京裁判」(1983) 小林正樹監督によるドキュメンタリー映画。上映時間な、なんと4時間37分!!でも僕は公開当時に映画館で一気に観たよ。重厚な手応えがあり。昭和史について学ぼう。音楽は武満徹。

柳川堀割物語」(1987) 

Hori

福岡県柳川市に張り巡らされた水路網「掘割」。荒廃した水路が再生されるまでの物語。「火垂るの墓」「かぐや姫の物語」の高畑勲監督作品。プロデューサーは宮﨑駿。元々アニメの舞台として柳川を登場させるつもりでロケハンを行ったが、水路再生の中心人物である市職員の話を聞いて感銘を受け、柳川そのものを主題にしたドキュメンタリーを製作することに決めたという。上映時間165分。人間と自然(環境)の関係(共生)がテーマという点で、高畑・宮崎アニメに通じるものがある。

マン・オン・ワイヤー」(2008,英)

En_man_on_wire

アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞。監督のジェームズ・マーシュはフィクションも撮る人で、そちらの代表作には「博士と彼女のセオリー」がある。本作のレビューはこちら。後にジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演でハリウッド映画に生まれ変わった。

人は何故、一見無意味に思えることに対して情熱を注ぐのか?哲学的思考の旅へようこそ。

ボーリング・フォー・コロンバイン」(2002,米) アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞受賞。コロンバイン高校銃乱射事件に題材を取り、銃社会アメリカの病んだ姿を浮き彫りにする。2003年公開当時に書いたレビューはこちら。なおこの事件をモチーフにした劇映画「エレファント」は2003年カンヌ国際映画祭でパルム・ドール及び監督賞を受賞した。

不都合な真実」(2006,米) アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞、及びアカデミー歌曲賞を受賞。元アメリカ合衆国副大統領アル・ゴアの講演をベースに、地球温暖化のメカニズム解明に挑む。2007年ゴアは環境問題への取り組みが評価され、ノーベル平和賞を受賞。ノーベル平和賞って何でもありだな。

DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら夢を見る」2012年公開当時に書いたレビューはこちら。アイドル映画を観に行ったら戦争映画だったという衝撃。文字通り戦慄が走った。

ゆきゆきて、神軍」 本作の魅力は奥崎謙三という人物の強烈なキャラクターに負うところが大きい。「カメラを向けられると、演技してしまう出演者」を取材対象として「虚実不明」の状況にし、ドキュメンタリー映画の持つ「いかがわしさ」「やらせ的志向」を徹底的に突き詰めた作品。キネマ旬報ベストテン第2位。

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2016年3月20日 (日)

【増補改訂版】厳選!これだけは観て(聴いて)おきたいオペラ・ベスト25(+吹奏楽との関連も)

クラシック音楽愛好家の中でも「オペラは苦手」という人が少なくない。まず上演時間が異常に長い。ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」は休憩時間込みだと5時間半かかる。実質的演奏時間も約4時間だ。「ニーベルングの指環」だと4夜を費やす。またミラノ・スカラ座とかメトロポリタン・オペラなど一流の歌劇場の来日公演を観劇したければチケット代として最低5万円は覚悟しなければならない。ヨーロッパでオペラ座は貴族の社交場だったわけで、所詮庶民には手が届かない文化だ。言語の問題もある。歌詞対訳を片手に聴かないとチンプンカンプンで面白くもなんともない。だから通勤・通学中にイヤホンで「ながら聴き」する訳にはいかない。ある程度の集中力を要求される。

僕がオペラを聴き始めたのは中学生1年生の頃で、最初はヴェルディの「椿姫」が好きだった。考えてみればパリの高級娼婦の話(原題を直訳すると「道を踏み外した女/堕落した女」)だからませたガキだ。音源はカルロス・クライバー指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団・合唱団。イレアナ・コルトバスやプラシド・ドミンゴらの歌唱。当時は未だLPレコードの時代で、中学生に2枚組LPを買うお金もなく、FM放送をカセットテープにエアチェックして聴いていた(歌詞対訳本は購入)。

中学3年生の時にお小遣いを貯め、クライバー指揮ミラノスカラ座引っ越し公演プッチーニ「ラ・ボエーム」を観るために岡山から大阪(旧フェスティバルホール)まで新幹線で駆けつけた。演出・舞台美術はフランコ・ゼッフィレッリ、ミミがミレッラ・フレーニ、ロドルフォがペーター・ドヴォルスキーという史上最強のプロダクションだった。当時は今みたいに便利なLEDによる舞台字幕装置なんかなかったから、歌詞対訳を一生懸命予習してまる覚えしたものだ。大変な労力を要した。

だから現代の若い人たちは幸せである。DVDとかBlu-ray、あるいは映画館のライブビューイングで字幕付きのオペラを気軽に楽しめる時代になったのだから。それも3〜5千円程度で。レーザーディスク(LD)時代は1万円以下でソフトを購入することなど出来なかった。

そこで今回はオペラの醍醐味を堪能できる作品を幾つか紹介していこう。当然僕が選ぶのだから直球だけではなく、変化球クセ球を織り交ぜている。でも自信を持ってお勧め出来るものばかり取り揃えた。なお、1作曲家1作品に絞った。また吹奏楽との関連についても触れた。では早速いってみよう!

  1. ディーリアス:村のロメオとジュリエット
  2. コルンゴルト:死の都
  3. ヴェルディ:シモン・ボッカネグラ
  4. ワーグナー:ニーベルングの指環(4部作)
  5. ヤナーチェク:利口な女狐の物語
  6. プッチーニ:トスカ
  7. R.シュトラウス:ばらの騎士
  8. チャイコフスキー:エフゲニー・オネーギン
  9. J.シュトラウス:こうもり
  10. ブリテン:ピーター・グライムズ
  11. 松村禎三:沈黙
  12. ショスタコーヴィチ:ムツェンスク郡のマクベス夫人
  13. ドニゼッティ:マリア・ストゥアルダ
  14. モンテヴェルディ:オルフェオ
  15. ガーシュウィン:ポーギーとベス
  16. マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ
  17. ラヴェル:こどもと魔法
  18. ドビュッシー:ペレアスとメリザンド
  19. オッフェンバック:地獄のオルフェ
  20. ヴァイル:三文オペラ
  21. ベルク:ヴォツェック
  22. モーツァルト:ドン・ジョヴァンニ
  23. ボーイト:メフィストフェーレ
  24. ロッシーニ:湖上の美人
  25. フンパーディング:ヘンゼルとグレーテル
  26. (次点)細川俊夫:海、静かな海

 「村のロメオとジュリエット」1907年、ベルリンで初演。20世紀のオペラである。僕はディーリアスが大好きで、特に夏になると管弦楽のための音詩(tone poem)を無性に聴きたくなる。そんな一つ、サー・トーマス・ビーチャムが編曲した「楽園への道」は「村のロメオとジュリエット」間奏曲である。しかしディーリアスを取り上げるのは専らイギリスのオーケストラであり、例えばウィーン・フィルやベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ、パリ管などがディーリアスを演奏したという話はとんと聞かない。すさまじい偏見、不寛容である。つい最近まではエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトも同様の扱いだった。「村のロメオとジュリエット」は繊細で美しい旋律がたゆたう、幻想的で魅惑的なオペラなのだが、世界の歌劇場で上演される機会は滅多にない。映像ソフトもない。ただ幸いな事に映画版がある。演奏はチャールズ・マッケラス指揮のオーストリア放送交響楽団&合唱団。トーマス・ハンプソンが出演しており、極上の仕上がりだ。日本版DVDがないのが残念だが(LDでは発売され、僕は持っていた)、海外版はAmazonやHMVから入手可能(Region All)。英語字幕を呼び出せるので少々英語力があれば鑑賞に問題ない。

エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトと彼が23歳の時に書き上げた「死の都」については以前さんざん語り尽くしたので、下記をご覧あれ。

DVDはいくつか出ているが、フィンランド国立歌劇場(ライヴ)がお勧め。新国立劇場でも採用されたカスパー・ホルテンの演出がいい。

それまで上演やレコーディングされる機会が多くなかった「シモン・ボッカネグラ」の真価は指揮者クラウディオ・アバドにより《再発見》されたと言っても過言ではない。アバドはロッシーニの忘れ去られたオペラ「ランスへの旅」蘇演にも尽力した。ヴェルディ作品の特徴はバリトンが重要な役割を果すことにある。「リゴレット」然り、「マクベス」、「イル・トロヴァトーレ」のルーナ伯爵、「仮面舞踏会」の秘書レナート、「ドン・カルロ」の親友ロドリーゴ侯爵、「オテロ」のイアーゴ、「ファルスタッフ」もそう。「シモン・ボッカネグラ」のタイトルロールはバリトンで、フィエスコ役のバスも大活躍。低音の魅力を堪能出来る。初演は1857年だが1881年に改訂された。改訂版の台本は後にヴェルディとの共同作業で「オテロ」と「ファルスタッフ」という傑作を産んだアッリーゴ・ボイートの手による。「シモン・ボッカネグラ」を愉しむには、アバド/ミラノ・スカラ座のCDをまず第一にお勧めしたい。カプッチルリ(バリトン)、ギャウロフ(バス)、フレーニ(ソプラノ)、カレーラス(テノール)と歌手陣も非の打ち所がなく、掛け値なしの超名盤である。映像もいくつかあるのだが、帯に短し襷に長しといったところ。強いて挙げるならヌッチが主演したBlu-rayかな?因みに僕が好きなヴェルディ・バリトンの順位は①ピエロ・カプッチルリ②ティート・ゴッビ③レオ・ヌッチ④ディミトリ・ホヴォロストフスキー(ホロストフスキー)←イケメンである。なお、クラウディオ・アバドという人は独特のこだわりがある指揮者で、彼はミラノ・スカラ座の音楽監督/芸術監督を20年近く務めたわけだが、生涯プッチーニとヴェリズモ・オペラを指揮することはなかった。またヴェルディについても人気演目である「椿姫」「リゴレット」「イル・トロヴァトーレ」は完全無視で、「マクベス」「シモン・ボッカネグラ」「ドン・カルロ」「仮面舞踏会」などを偏愛した。

「ニーベルングの指環」は神話だ。トールキンの「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」にも多大な影響を与えた。構想から上演まで25年を費やし、ワーグナーは数多くのライトモティーフ(示導動機)を複雑に絡ませながらこの壮大な物語を紡いだ。この手法はR.シュトラウス→コルンゴルトに引き継がれ、ハリウッド映画に持ち込まれた。それを活用しているのがジョン・ウィリアムズの「スター・ウォーズ」シリーズである。

また宮﨑駿監督「崖の上のポニョ」で父親のフジモトがポニョのことを”ブリュンヒルデ”と呼ぶのだが、これは「ニーベルングの指環」のことを知っていれば理解出来るだろう。さらに嵐の場面で久石譲の音楽がどうして”ワルキューレの騎行”を模しているのかという理由も。僕がこの楽劇を全曲通して初めて聴いたのは高校生の時。カール・ベーム指揮バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団の演奏で、16枚組みのLPレコードだった。映像ソフトとしてお勧めしたいのはレヴァイン/メトロポリタン・オペラ。写実的(オーソドックス)な演出はオットー・シェンク。近年メトで上演されたロベール・ルパージュ(シルク・ドゥ・ソレイユの演出家)版も悪くない。吹奏楽コンクールでは梅田隆司/大阪桐蔭高等学校が2011年に「ワルキューレ」で全国大会金賞を受賞している。

またワーグナーで絞る時、本作にするか「トリスタンとイゾルデ」にするか、随分迷った。「トリスタン」といえば官能法悦エクスタシーを感じさせるという点で他の追随を許さない。カルロス・クライバーが生涯で指揮した唯一のワーグナー作品でもある。現在までに「トリスタン」を指揮している最中に死亡した指揮者は2人いる。うちヨーゼフ・カイルベルトは生前、口癖のように「『トリスタン』を指揮しながら死にたい」と言っていたという。そしてその願いは叶った。

バーナード・ハーマンが作曲したアルフレッド・ヒッチコック監督「めまい」の音楽は明らかに「トリスタン」を意識している。映像は1983年バイロイト音楽祭のプロダクションがイチ押し。兎に角、フランスの鬼才ジャン=ピエール・ポネルによる演出が筆舌に尽くし難いほど美しい。また第3幕の解釈が斬新で、これには唸った。

「利口な女狐の物語」1924年初演。日本初演は77年とかなり遅い。動物たちが登場し、一見民話風なのだが、非常に色っぽいオペラである。ヤナーチェクの音楽の特徴は「艶」なのだということをこの作品を通じて初めて理解出来た。彼の弦楽四重奏曲 第2番「ないしょの手紙」は不倫音楽であり、ヤナーチェクは愛人(人妻)&その息子と旅行中に病に倒れ、彼女に看取られて息を引き取った。享年74歳、とんでもないエロジジイである。ヤナーチェクのシンフォニエッタは村上春樹の小説「1Q84」で取り上げられ、CDが飛ぶように売れた。吹奏楽コンクールでは石津谷治法/習志野市立習志野高等学校が2005年に全国大会で演奏し、金賞を受賞している。

「トスカ」はスカルピアが強烈。マリア・カラスのレコーディングでこの役を演じたティート・ゴッビが素晴らしい。「オテロ」のイアーゴと並ぶ、イタリア・オペラ最強の悪役だろう。映像ではフランコ・ゼッフィレッリが演出したメト版をお勧めする。あとゲオルギュー、アラーニャ主演の映画も◯。同じプッチーニ「ラ・ボエーム」の演出もゼッフィレッリが最高。ただし、カラヤンが指揮した映像は旧演出でイマイチ。新演出は第2幕の舞台装置に大きな違いがある。「トスカ」は鈴木英史編曲による吹奏楽版があり、井田重芳/東海大学付属第四高等学校が全国大会金賞を受賞している。

僕はリヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲を全く評価しない。派手だけど詰まらない。中でも音量がうるさいだけで空疎なアルプス交響曲は唾棄すべき代物である。しかし「サロメ」「エレクトラ」などオペラは別だ。「ばらの騎士を一言で評するなら豊穣なオペラということになるだろう。全篇が馥郁たる香りに満ちている。初演はドレスデン宮廷歌劇場で1911年。この後ドイツは1914年に開戦した第一次世界大戦に敗れ、多額の賠償金を請求されて天文学的なインフレに苦しむことになる。やがてナチス・ドイツの台頭。リヒャルト・シュトラウスもナチスと関わらざるをえない状況に追い込まれる(第二次大戦後、彼はナチスに協力したかどうかで連合国の裁判にかけられたが、最終的に無罪となった)。バイロイト音楽祭を主催するワーグナー家も積極的にナチスに結びつくことになる(ジークフリート・ワーグナーの未亡人ヴィニフレートは戦後、公職追放となった)。僕は「ばらの騎士」を観ていると、一つの時代(貴族社会)の終焉をひしひしと感じる。それは貴族の末裔であるルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「山猫」や「ルートヴィヒ」「家族の肖像」を観た時の印象に近いものである。お勧めの映像はカルロス・クライバーが指揮したもの。バイエルン国立歌劇場とウィーン国立歌劇場のものと2種類ある。カルロスは他にR.シュトラウスの「エレクトラ」を振ったが、正規の録音・録画は「バラの騎士」しかない。吹奏楽編曲は森田一浩によるものがあり、宇畑知樹/埼玉県立伊奈学園総合高等学校が全国大会金賞を受賞している。

「エフゲニー・オネーギンチャイコフスキーの音楽は美しい。また「くるみ割り人形」もそうだけれど、雪の風景がよく似合う。1879年初演。「手紙の場」は名場面である。チャイコフスキーはバレエ音楽の達人だから、舞踏会の場面に流れるポロネーズも鮮烈だ。原作はプーシキンの韻文小説で、プーシキンは自分の妻(名うての美人)に言い寄る男に決闘を申し込み、敗れて亡くなった。享年37歳。「エフゲニー・オネーギン」も決闘の物語である。映像はヴァレリー・ゲルギエフが振ったものを推す。

「こうもり」はこれぞ喜歌劇!と言える作品。

人生が今宵のように 軽やかに
過ぎ去るならば 時忘れ楽しもう

久しぶりに観直して、本作の真髄はこの歌詞に凝縮されているなと感じた。映画「8 1/2」(フェデリコ・フェリーニ監督)の名台詞「人生は祭だ。一緒に過ごそう」とか、「命短し 恋せよ乙女(ゴンドラの唄)」に通じるものがある。つまり、カルペ・ディエムだ。

ウィーンでは毎年大晦日の夜、国立歌劇場で「こうもり」を上演するのが恒例となっている。国立歌劇場の前身である宮廷歌劇場の芸術監督だったグスタフ・マーラーは「こうもり」を高く評価しており、彼の手で正式なレパートリーになったという(しばしば指揮もした)。様々な登場人物たちの、ささやかな欲望や虚栄心が描かれるが、本作はそれらを全面的に肯定している。そこがいい。映像は芳醇なワインのようなオットー・シェンクが演出したものにとどめを刺す。カルロス・クライバー/バイエルン国立歌劇場か、グシュルバウアー/ウィーン国立歌劇場でどうぞ。後者はルチア・ポップ、ベルント・ヴァイクル、ブリギッテ・ファスベンダーら綺羅星の歌手が出演していて壮観である。またヴァルター・ベリー、エーリッヒ・クンツらベテランがいぶし銀の演技で魅了する。吹奏楽コンクールでは2006年に石田修一/柏市立柏高等学校が鈴木英史編曲による喜歌劇「こうもり」よりセレクションで全国大会金賞を受賞している。

「ピーター・グライムズ」ベンジャミン・ブリテンはゲイであり、生涯のパートナーは本作など多くのブリテン作品で主役を務めたテノール歌手ピーター・ピアーズだった、というのが重要。

ここを押さえておかないと、作曲家が「ピーター・グライムズ」で何を描きたかったのか判らないだろう。陰鬱なオペラである。でもそこがいい。初演は1945年。当時イギリスで、同性愛者がどういう社会的制裁を受けていたかは映画「イミテーション・ゲーム」を観ればよく判る。いやもう、本当にびっくりするよ!オーケストラがまるで通奏低音のように海のうねりを描き、それは人間の深層心理の鏡にもなっている。映像はメト版が◯。このオペラから「4つの海の間奏曲」という管弦楽曲が編纂された。吹奏楽編曲版もあり、吹奏楽コンクール全国大会で何度か演奏されている。またブリテンではシェイクスピアを原作とする歌劇「夏の夜の夢」も幻想的で、抗し難い魅力を持っている。

「沈黙なにしろ遠藤周作の原作が面白い!オペラの台本としてもかなり上位に来る出来だろう。1971年に篠田正浩監督が映画化しており、今年マーティン・スコセッシ監督版が公開予定である。主役は当初、渡辺謙が予定されていたが撮影延期で降板せざるを得ない事態となり(ブロードウェイで「王様と私」出演が決まっていたので)、浅野忠信が代演した。オペラに話を戻すと、松村禎三の音楽もいい。日本を代表するオペラといえば團伊玖磨の「夕鶴」や山田耕筰の「黒船」などが挙げられる事が多いが、僕は断固「沈黙」を推す。

「ムツェンスク郡のマクベス夫人」スターリンの逆鱗に触れ、長いことお蔵入りになった作品。詳しい事情は下記記事をご一読あれ。

激烈な内容である。第1幕終盤には強姦シーンがあり、最初観た時は目が点になった。登場人物はまるでドストエフスキーの小説のように「過剰な人」たちだ。むしろ逆に、これでスターリンの怒りを買わないと高を括っていたショスタコの方が僕は信じられない。普通、分かるだろう!いやはや、愉快な奴だ。映像はヤンソンスが指揮したネーデルラント・オペラを推奨。吹奏楽では鈴木英史による間奏曲の編曲版がある。

マリア・ストゥアルダ」(1835年初演)はイタリアでロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニが活躍した19世紀前半ベルカント(唱法)時代の代表作として挙げた。ドニゼッティなら「愛の妙薬」や「ランメルモールのルチア」の方がポピュラーだが、内容が劇的で興奮するという点において「マリア・ストゥアルダ」が上回っている。エリザベス1世とメアリー・スチュアートの確執の物語。ケイト・ブランシェットが主演した映画「エリザベス」とか中谷美紀が主演した舞台「メアリー・スチュアート」、クンツェ&リーヴァイによるミュージカル「レディ・ベス」など繰り返し取り上げられている題材である。輝かしい旋律美に乾杯!推薦ソフトはミラノ・スカラ座の公演。また「ランメルモールのルチア」に関しては、美貌のソプラノ、ステファニア・ボンファデッリがタイトルロールを務めたカルロ・フェリーチェ劇場の公演を収めたDVDが素晴らしい。特に青を基調とした衣装と美術装置は見応えがあり、空間の切り取り方が斬新。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」(1890年初演)は「道化師」と並び、ヴェリズモ・オペラの代表作である。同時代のヴェリズモ文学(自然主義、現実主義)に刺激を受け、市井の人々の日常生活や暴力衝動を描く1890年代から20世紀初頭にかけてのイタリア・オペラの新傾向のことを指す。上演時間70分とオペラにしては極めて短い!そしてイタリア・オペラの真髄がこれ1本で理解出来る。だから初心者向けと言えるだろう。僕はイタリア・オペラの特徴を「激しい嫉妬/復讐心が物語を転がしていく原動力になっている」ことだと考えている。プッチーニの「トスカ」やヴェルディの「椿姫」「アイーダ」「イル・トロヴァトーレ」「オテロ」なんか、みんなそう。「カヴァレリア・ルスティカーナ」も例外ではない。もうドロドロ。そこが魅力。あとその多くはカソリック教徒で信心深いとか、男は概ねマザコンであるとかイタリア人の特徴がこのオペラによく出ている。映像はカラヤン/スカラ座がお勧め。また宍倉晃による吹奏楽編曲版があり、大滝実/埼玉栄高等学校が全国大会金賞受賞。さらに中国映画「太陽の少年」でこのオペラの間奏曲が非常に印象的に使われていることも付記しておく。

「オルフェオ」は1607年、マントヴァ@イタリアで初演。最初期の作品の一つである。モンテヴェルディはルネサンス音楽からバロック音楽への転換点に立つ音楽家である。素朴で、これぞオペラの原点!映像では古楽界の巨匠、ジョルディ・サヴァールが指揮した2002年リセウ大歌劇場で収録されたDVDを推す。なんとも古式ゆかしい雰囲気で、指揮者も演奏家たちもまるで17世紀の宮廷楽士のような扮装をしている。当然ピリオド・アプローチ(古楽奏法)。さあ、モンテヴェルディの時代にタイム・スリップだ。

「ポーギーとベス」は1935年初演。アメリカを代表するオペラである。ガーシュウィンはその2年後に脳腫瘍で亡くなった。享年38歳。ジャズや黒人音楽のイディオムが用いられている。ほぼ全員、登場人物が黒人というのもユニーク。本作以降、アメリカには優れたオペラがないが、その代わりブロードウェイ・ミュージカルが華々しく咲き誇ることになる(ミュージカルについてはこちらの記事で大いに語った)。ソフトはサイモン・ラトルが指揮したDVDにとどめを刺す。演出は「キャッツ」や「レ・ミゼラブル」で知られるトレヴァー・ナン。吹奏楽コンクールでは1964年全国大会職場の部でソニー吹奏楽団が1位になっている。また最近「アルヴァマー序曲」で有名なジェームズ・バーンズによる編曲が出版された(グレード:4)。

「こどもと魔法」は可愛らしくユーモラスで、機知に富んだファンタスティックなオペラ。上演時間45分程度と非常に短く、同じラヴェルの「スペインの時」と同時上演されることが多い。終盤でワルツが登場するのが魅惑的。小澤征爾/サイトウ・キネン・フェスティバル松本でのパフォーマンスを収めたCDが2016年にグラミー賞を受賞したことでも話題となった。推奨する映像は大野和士が指揮したグラインドボーン音楽祭@2012のもの。演出はロラン・ペリーで実はサイトウ・キネン・フェスティバル松本との共同制作であった。

「ペレアスとメリザンド」はメーテルリンクが書いた戯曲だが、これを題材にした作品はドビュッシーのオペラ(1902年初演)の他にフォーレの劇付随音楽(1898)、シェーンベルクの交響詩(1903)、シベリウスの劇付随音楽(1905)がある。これだけ後世の作曲家に影響を与えた戯曲としてはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」くらいしか思い浮ばない(ベッリーニとグノーのオペラ、ベルリオーズの劇的交響曲とチャイコフスキーの幻想序曲、プロコフィエフのバレエ、バーンスタインの「ウエストサイド物語」とプレスギュルヴィックによるフランス産ミュージカルがある)。あと文学作品ではゲーテの「ファウスト」。詳細は下記記事をご覧あれ。

ドビュッシーは下半身がだらしない人だった。18歳で人妻と不倫。次にガブリエル・デュポンと同棲するが浮気がバレてデュポンはピストルで自殺未遂を起こす。デュポンと別れリリー・テクシエと結婚するが、またまた銀行家の妻エンマ・バルダックと不倫して駆け落ち、妻リリーは自殺未遂。エンマは娘を産み、ふたりは再婚することになるが、これが一大スキャンダルとなり彼は世間からの激しい非難に曝されることになる。そうしたドビュッシーの《恋愛観》が、「ペレアスとメリザンド」への創作意欲を掻き立てたという側面は多分にあるだろう。だから彼の音楽はヤナーチェク同様、色気があるのだ。因みにガブリエル・フォーレが作曲した組曲「ドリー」はエンマ・バルダックが前夫との間にもうけた娘エレーヌ(愛称ドリー)のために書かれた。フォーレとエンマはどうも愛人関係だったらしく、エレーヌもフォーレの子ではないかという説が有力である。一方、ドビュッシーはエンマとの間に生まれた娘をシュシュ(キャベツちゃん)と呼んで溺愛し、その娘のために組曲「子供の領分」を作曲した。一人の女を《共有》した、二人の大作曲家。なんともはや、凄まじい話である。

「地獄のオルフェ」って耳にしたとこがないけど?という貴方、日本では「天国と地獄」という俗称でも親しまれております。「椿姫」と似ていますな。モンテヴェルディ「オルフェオ」と同じギリシャ神話に基づくパロディ。この物語をオペラ化した作品として他に、グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」がよく知られている。1949年に詩人で映画監督のジャン・コクトーは「オルフェ」を撮り、1959年にマルセル・カミュ監督は出演者が全員黒人の「黒いオルフェ」を撮った。オッフェンバックやコクトー、カミュもフランス人というところが興味深い。兎に角、愉しいオペレッタだ。粋で洒落ている。映像はミンコフスキが指揮したものに尽きる。芸達者なナタリー・デセイに酔い痴れたまえ。吹奏楽コンクールでは葛飾吹奏楽団とヤマハ吹奏楽団がこの曲で全国大会金賞を受賞している。また吹奏楽アニメ「響け!ユーフォニアム」にも登場。

「三文オペラ」は文字通りオペラなのか?というのは興味深い問題である。1928年、ベルリンのシッフバウアーダム劇場こけら落とし公演として初演された。「ばらの騎士」より11年後ということになる。音楽劇であるが、少なくともミュージカルではない。ストレート・プレイでもない。オペラ/オペレッタからミュージカルへの橋渡しをした、新しいジャンルを切り開いた作品という評価こそ相応しいだろう。後に「退廃芸術」の烙印を押され、ナチス・ドイツからの執拗な上演妨害工作を経て、ユダヤ人だったクルト・ヴァイルはアメリカに渡ってブロードウェイ・ミュージカルの作曲家となり、マルクス主義者だった劇作家ベルトルト・ブレヒトはデンマーク、スウェーデン、アメリカと転々としながら亡命生活を送り(ハリウッドではフリッツ・ラング監督の映画「死刑執行人もまた死す」の脚本を執筆)、戦後は吹き荒れる赤狩りの嵐を逃れて東ドイツに亡命した(ここでスターリン平和賞を受賞)。ちなみに1933年にナチス・ドイツ政府はブレヒトの著作の刊行を禁止し、焚書の対象にした。ブロードウェイ・ミュージカル「キャバレー」は正に「三文オペラ」が初演された当時のベルリンの雰囲気を再現することを目的に創作されており、冒頭の歌”ウィルコメン(ようこそ)”は「三文オペラ」の”マック・ザ・ナイフ”と似た曲調で始まる。なお「キャバレー」のオリジナルキャストで下宿屋の主人シュナイダーを演じたのはロッテ・レーニャ、クルト・ヴァイルの未亡人である。「三文オペラ」には良い映像ソフトがないのでウテ・レンパー、ルネ・コロ、ミルバらが歌ったCDを推薦する。また作曲家自身の手による組曲「小さな三文音楽」があり、弦楽器を含まない管楽器中心の編成である事から、吹奏楽に向いている。

ヴォツェック」は新ウィーン楽派、無調音楽を代表するオペラである。初演は1925年。指揮したエーリヒ・クライバーが137回のリハーサルを敢行したことは今でも語り草になっている。「死の都」20年、「利口な女狐の物語」24年、「三文オペラ」28年初演なので、同時代の作品といえるだろう。エーリヒの息子カルロス・クライバーもしばしばこのオペラを取り上げた。正規レコーディングがないのが惜しまれる。カルロスの本当の父親は「ヴォツェック」を作曲したアルバン・ベルクだという噂が、未だにまことしやかに囁かれている(彼の伝記でも言及されている)。ちなみにベルクの「抒情組曲」は不倫音楽であったことが現在では判明している(詳しくは→こちら)。「ヴォツェック」は1時間40分の上演時間中、悪夢と狂気の中を彷徨うようなヒリヒリする体験を観客に強いる。救いはない。ある意味オペラ版「レ・ミゼラブル」とも言えるが、最後に希望の光が差す分、「レ・ミゼ」の方がマシかもしれない。あとベルクが第2幕まで作曲したところで亡くなり、未完に終わった「ルル」はヒロインが途轍もないファム・ファタールで、すこぶる面白い。第3幕は後年、他者の補筆で完成した。こちらもお勧め!

「ドン・ジョヴァンニ」に殺された騎士長(ドンナ・アンナの父)の石像が彼を地獄に引きずり落とす場面はモーツァルトの作品中、最も劇的な音楽である。映画「アマデウス」では死んだモーツァルトの父親像に重ねられた。ドン・ジョヴァンニは女たらしだが、必ずしも悪党として切り捨てられない魅力を湛えている。騎士長の亡霊が「悔い改めよ!」と迫っても、「私は何も悪いことをしていない」と決して非を認めない態度が凄く格好いい。モーツァルトはフリーメイソンの会員であり、キリスト教(カトリック教会)的価値観に対する反骨精神をここに感じるのはあながち見当外れではないだろう。

「メフィストフェーレ」はヴェルディ「シモン・ボッカネグラ(改訂)」「オテロ」「ファルスタッフ」の台本を手がけたアッリーゴ・ボイートが台本&作曲したオペラ。1868年(26歳の時)ミラノ・スカラ座での初演は歴史的な大失敗で、その後76年と81年の2度に渡る大改訂を経て現在の形となった。ゲーテ「ファウスト」を原作に、メフィストフェレスを主人公に持ってきている。

「セビリアの理髪師」を観ても、どうもロッシーニの面白さが判らなかったが、「湖上の美人」で初めて開眼した。ベルカント・オペラの魅力炸裂である。テノールの2人がハイ・Cを連発する超絶技巧の応酬、歌合戦が実にスリリング。ロッシーニ・ルネサンスの白眉と言える作品。なんとMET初演だった2015年のプロダクションが素晴らしい。ジョイス・ディドナート、ファン・ディエゴ・フローレス、ジョン・オズボーン、ダニエラ・バルチェッローナら歌手陣の充実ぶりが圧巻。

お子さん向けにはフンパーディングのメルヘンオペラ「ヘンゼルとグレーテル」をどうぞ。フンパーディングはワーグナーと交流があり、ライトモティーフ(示導動機)の手法も用いられている。ヨーロッパではクリスマスの定番で、家族で揃って観に行く習慣がある。吹奏楽コンクールでは井田重芳/東海大学付属第四高等学校がこのオペラから「夕べの祈り」「パントマイム」を演奏し、全国大会金賞を受賞している。

「海、静かな海」は2016年にドイツで初演されたばかりの最新作。東日本大震災と福島原発事故をモティーフにしたレクイエム(鎮魂歌)である。細川俊夫の音楽はひたすらに静謐で美しい。海が主題になっている点でも武満徹に近いなと感じて調べてみたら、細川が高校生の時、小澤征爾が指揮する「ノヴェンバー・ステップス」のレコードを聴いて武満に憧れるようになったという。「海、静かな海」はまた、能「隅田川」と深い関連にあるが、「隅田川」に触発されてブリテンはオペラ「カーリュー・リヴァー」を作曲している。両者を聴き比べてみるのも一興だろう。 

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2016年2月 8日 (月)

厳選!これだけは観ておきたいミュージカル・ベスト30(+吹奏楽との関連も)

姉妹編として下記もどうぞ。

ミュージカルもオペラと同様、吹奏楽との関連性に触れた。それでは早速、行ってみよう!

まず純粋に好きな作品を上位から並べてみた。すると……。

  1. オペラ座の怪人
  2. エリザベート
  3. ロミオ&ジュリエット
  4. ファンタスティックス
  5. メリリー・ウィー・ロール・アロング
    〜それでも僕らは前へ進む〜
  6. キャバレー
  7. ミス・サイゴン
  8. スウィーニー・トッド
  9. シー・ラヴズ・ミー
  10. ラ・カージュ・オ・フォール
  11. ジーザス・クライスト・スーパースター
  12. プロデューサーズ
  13. 太平洋序曲
  14. ライオンキング
  15. 屋根の上のバイオリン弾き
  16. リトル・ナイト・ミュージック
  17. 翼ある人々 ーブラームスとクララ・シューマンー
  18. ノバ・ボサ・ノバ
  19. コーラスライン
  20. 蜘蛛女のキス
  21. Into the Woods
  22. 春のめざめ
  23. サンセット大通り
  24. ファントム
  25. 42nd Street
  26. デス・ノート
  27. MITSUKO
  28. オケピ!
  29. パッション
  30. ジョージの恋人(サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ)
  31. CHESS
  32. 回転木馬
  33. CAN-CAN
  34. ミー&マイガール
  35. ハウ・トゥー・サクシード
    ー努力しないで成功する方法ー
  36. モーツァルト!
  37. ピーターパン
  38. レ・ミゼラブル
  39. キャッツ
  40. RENT
  41. クレイジー・フォー・ユー
  42. 壁抜け男
  43. 王家に捧ぐ歌
  44. スカーレット・ピンパーネル
  45. エビータ
  46. ガイズ&ドールズ
  47. ビリー・エリオット ~リトル・ダンサー~

ソンドハイムが7作、ロイド=ウェバーが5作、ワイルドホーン3作、カンダー & エブ2作、シェーンベルク & ブーブリル2作、リーヴァイ & クンツェ2作、フランク・レッサー2作、エルトン・ジョン2作。これでは長過ぎて、収集がつかないと判断した。そこでオペラと同じく1作曲家1作品に絞ることに方針を変更し、整理したのが以下の結果である。

  1. オペラ座の怪人
  2. エリザベート
  3. ロミオ&ジュリエット
  4. ファンタスティックス
  5. メリリー・ウィー・ロール・アロング
    〜それでも僕らは前へ進む〜
  6. キャバレー
  7. ミス・サイゴン
  8. シー・ラヴズ・ミー
  9. ラ・カージュ・オ・フォール
  10. プロデューサーズ
  11. ライオンキング
  12. 屋根の上のバイオリン弾き
  13. 翼ある人々 ーブラームスとクララ・シューマンー
  14. ノバ・ボサ・ノバ
  15. コーラスライン
  16. 春のめざめ
  17. ファントム
  18. 42nd Street
  19. デス・ノート
  20. オケピ!
  21. CHESS
  22. 回転木馬
  23. CAN-CAN
  24. ミー&マイガール
  25. ハウ・トゥー・サクシード
    ー努力しないで成功する方法ー
  26. ピーターパン
  27. RENT
  28. クレイジー・フォー・ユー
  29. 壁抜け男
  30. 王家に捧ぐ歌

それでは各作品へのコメントをしよう。ただリストが長いので今まで書いた記事へのリンクを中心とし、簡潔にまとめることを心がけた。

「オペラ座の怪人」は山口祐一郎主演の劇団四季版@大阪を観て以来、不動のベスト1であり続けている。アンドリュー・ロイド=ウェバーはあの頃、天才だった(過去形)。大阪はカラオケ上演だがその後、東京赤坂で生オケ版を観て、ウエストエンド(ロンドン)、ブロードウェイ、ラスベガス(現在は閉幕)まで足を運んだ。詳しい話はこちらの記事にまとめた。映画版はあれなので、「オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン」DVD/Blu-rayをご覧になることをお勧めする。あと続編「ラヴ・ネヴァー・ダイズ」はゴミである。「えっ、愛は死なない?いや、頼むから死んでくれ!」って感じ。さようなら、ロイド=ウェバー。吹奏楽用の楽譜はいくつも出版されているがポール・マーサ編曲版はお粗末。良いアレンジだと想うのは建部知弘によるものと、「指輪物語」の作曲で知られるヨハン・デ・メイのもの。後者は梅田隆司/大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の演奏が素晴らしい。またロイド=ウェバー最後の傑作ミュージカル「サンセット大通り」が日本初演に至るまでの紆余曲折はこちらに解説した。

「エリザベート」は恐らく、今まで最も観劇回数が多い作品であろう。宝塚版は宙組1998年公演以降全てのバージョン、東宝版、ウィーン版などを観ている。詳しくはエリザベートの想い出や、明日海りおにノックアウト!宝塚花組「エリザベート」/オールタイム・ベスト・キャスト考を御覧ください。宝塚版はDVD/Blu-rayで入手可能。吹奏楽ではヨハン・デ・メイ編曲版があり、梅田隆司/大阪桐蔭の演奏を聴いた感想はこちら。またクンツェ×リーヴァイの作品では「モーツァルト!」もお勧め。東宝からDVDも発売中。こちら

「ロミオ&ジュリエット」はフランス産ミュージカル。宝塚歌劇で衝撃的出会いを果たし、その後男女混成版、フランスからの来日公演も観た。”エメ”最高!宝塚月組 フレンチ・ミュージカル「ロミオとジュリエット」(明日海りお 主演)や、ミュージカル「ロミオとジュリエット」フランス版来日公演をご覧あれ。宝塚版はDVD/Blu-rayで鑑賞出来る。以上が僕の考える世界三大傑作ミュージカルである。

「ファンタスティックス」はオフ・ブロードウェイで42年間の長きに渡り上演されていた作品。少人数の出演者、小編成のオーケストラ、簡素な舞台装置。これぞミュージカルの原点である。「洗練を極めれば簡素(シンプル)になる」というスティーブ・ジョブズの言葉を想い出す。特に"Try To Remember"というナンバーはしみじみ胸に沁みて大好き!舞台の感想はこちら。僕が2001年8月にブロードウェイに旅行した時、これを観るか散々迷った挙句、「次に来る時も上演しているだろう」と高を括って他の作品を選んでしまった。その直後に同時多発テロが勃発、観客が激減し翌年に何と閉幕してしまった!後悔先に立たずである。

「メリリー・ウィー・ロール・アロング 〜それでも僕らは前へ進む〜」色々作品を観れば観るほど、スティーヴン・ソンドハイムの凄さには打ちのめされる。彼はブロードウェイの宝。アメリカ人にとってのソンドハイムの立ち位置は、イタリア人にとってのロッシーニやヴェルディに相当するだろう。「メリリー・ウィー・ロール・アロング」の感想はこちら。兎に角、時間が逆走していく台本が圧巻。ハロルド・プリンス演出にもかかわらず初演はコケたわけだが(プレビュー公演52回、本公演はたった16回)、早すぎた傑作だったのだろう。その他のソンドハイム作品について、「スウィーニー・トッド」こちら。ディズニーで映画化された「イントゥ・ザ・ウッズ」についてはこちら。昨年の日本初演で衝撃を受けた「パッション」こちら。吹奏楽ではステファン・ブラ編曲による「イントゥ・ザ・ウッズ」「スウィーニー・トッド」がお勧め。

「キャバレー」の上演史についてはこちらの記事で詳しく語った。ナチス・ドイツ時代のベルリンを舞台とするこのミュージカルは退廃と狂気の象徴でもある。そして、嘗てナチスに《退廃芸術》の烙印を押されたブレヒト×ヴァイルの「三文オペラ」と密接に繋がっている。「キャバレー」初演時にはクルト・ヴァイルの未亡人で「三文オペラ」で主演したロッテ・レーニャがシュナイダー婦人(下宿屋の女主人)を演じた。2017年に松尾スズキ演出により再演が予定されている。

「ミス・サイゴン」については「ミス・サイゴン」の想い出をご覧あれ。プッチーニの「蝶々夫人」が土台となっている。因みにプッチーニの「ラ・ボエーム」は「RENT」に生まれ変わった。2002年、全日本吹奏楽コンクールの自由曲で大滝実/埼玉栄高等学校吹奏楽部は「ミス・サイゴン」(編曲:宍倉 晃)を演奏し金賞を受賞、一大センセーションを巻き起こした。コンクール翌日から大滝先生の元へは楽譜に関する問合せが殺到したそうである。空前のブームとなる序章であった。さらにシェーンベルク & ブーブリルの作品では「レ・ミゼラブル」のことも触れないわけにはいかない。

ヒュー・ジャックマンがジャン・バルジャンを演じた映画版も優れているし、25周年記念コンサートDVD/Blu-rayもお勧め。2013年、宇畑知樹/伊奈学園総合高等学校は全日本吹奏楽コンクールで森田一浩編の「レ・ミゼ」を演奏し、金賞を受賞した。また大阪桐蔭が演奏するウォーレン・バーカー編曲版は歌がたっぷり入っていて、こちらも聴き応えがある。

「シー・ラヴズ・ミー」はクリスマスに恋人や家族と是非観たい、愛すべき逸品である。僕は市村正親×涼風真世のコンビで観たが、再演を切に願う。チェコの劇作家ニコラウス・ラズロの戯曲が原作で、エルンスト・ルビッチ監督「街角 桃色の店」(THE SHOP AROUND THE CORNER)という映画にもなっている。映画「恋人たちの予感」「めぐり逢えたら」の脚本を書いたノーラ・エフロンは少女時代、毎年クリスマスになるとシナリオ・ライターだった両親 (映画「回転木馬」「あしながおじさん」を脚色)に連れられ劇場に「シー・ラヴズ・ミー」を観に行っていたという。後年、文通を通じて出会う男女という設定を電子メールという手段に置き換えて、ノーラは幼少期の大切な想い出をメグ・ライアン、トム・ハンクス主演「ユー・ガット・メール」に封印した。映画の中で家族に囲まれて少女がミュージカル「アニー」から"Tomorrow"を歌うのは、そうした訳である。

「ラ・カージュ・オ・フォール」というミュージカルが産まれるまでの経緯はこちらの記事で深く掘り下げた。名曲揃い。ジェリー・ハーマンの卓越した仕事に乾杯!

「プロデューサーズ」はトニー賞で史上最多の12部門を受賞。僕は2001年8月にブロードウェイでオリジナル・キャストが出演した舞台を観ている。後にネイサン・レイン、マシュー・ブロデリックらオリジナル・キャストも出演し、舞台版で振付・演出を担当したスーザン・ストローマン監督で映画化されたのだが、こちらは惨憺たる出来だった。舞台の名演出家=映画監督としても優れているとは限らないことを痛感させられた出来事だった。ミュージカル「キャバレー」を観て演出家のサム・メンデスを映画「アメリカン・ビューティ」の監督に起用したスピルバーグは慧眼だった(アカデミー作品賞・監督賞受賞)。舞台の話に戻すと実に愉快なコメディで、特に劇中劇「ヒトラーの春」は爆笑もの!何故か日本ではジャニーズ事務所が版権を買い、V6主演で上演された。頼みますから東宝とかフツーの劇団で再演してください。オリジナルのメル・ブルックス監督・主演の映画「プロデューサーズ」も歴史に名を残す名作。

僕は1998年12月20日に四季劇場[春]でミュージカル「ライオンキング」の日本初演(初日)を観ている。詳しい話はこちら。アニメーションの方は散々、手塚治虫「ジャングル大帝」のパクリと非難されたわけだが、僕もそれを否定しない。ただディズニー・アニメは「ジャングル大帝」にシェイクスピアの「ハムレット」の要素を加味している。舞台版は演出家ジュリー・テイモアの独創性が瞠目すべき効果を上げている。特にオープニングが圧巻だ。トニー賞では最優秀ミュージカル賞、演出賞、美術賞、照明賞、振付賞、衣装デザイン賞の6部門受賞。なお、大阪桐蔭が演奏した吹奏楽版の感想はこちら

「屋根の上のバイオリン弾き」についてはこちらで詳しく語った。森繁久彌の時代から日本で愛され続けているミュージカルだが、多分ユダヤ人と日本人って似てるんだよね。まじめに働きコツコツ貯金するところとか、ヴァイオリンが得意なところとか。僕は哀愁を帯びた物語と音楽が好き。

吹奏楽版は後藤洋の編曲か、2016年2月12日のオオサカ・シオン定期演奏会で初演された宮川彬良編曲(未出版)がお勧め。あとIra Hearshen編曲による"Symphonic Dances from Fiddler on the Roof"も悪くない。

「翼ある人々 ーブラームスとクララ・シューマンー」に関してはこちら。作・演出は上田久美子。宝塚歌劇からもの凄い才能の女性演出家が台頭してきた。DVDが発売されているので是非そちらで目撃せよ!上田久美子は「星逢一夜」もお勧め。

「ノバ・ボサ・ノバ」についてはこちら。宝塚歌劇が産んだ、空前絶後・史上最高のショーである。未見の方はDVDまたはBlu-rayでどうぞ。

「コーラスライン」は最初劇団四季で観て、映画を観て、そしてアメリカからのツアー・カンパニー来日公演の感想をこちらに書いた。日本人が本作を演じることの難しさについて論じている。さらに、どうして僕が舞台版「ウエストサイド物語」を評価しないのかという理由も。劇団四季で本作を観るくらいなら、リチャード・アッテンボロー監督の映画版(1985)の方を選ばれることをお勧めする。吹奏楽では森田一浩 編曲によるメドレーがある。コンサートで"ONE"を歌い踊れば、盛り上がるのではないだろうか?

「春のめざめ」のレビューはこちら。柿澤勇人という役者と劇的出会いをした作品だが、彼はその直後劇団四季を辞めたので、最早彼の「春のめざめ」を観ることは叶わない。

「ファントム」についてはこちら。「オペラ座の怪人」がファーザー・コンプレックスの話なら、こちらはマザコンの話である。同じ題材に対して全く別の角度から光を当てており、どちらも観る価値がある。「オペラ座」のせいでブロードウェイ上演には至らなかった気の毒な作品だが、僕はモーリー・イェストンがトニー賞最優秀楽曲賞を受賞した「ナイン」や「タイタニック」より「ファントム」の方が断然好き。音楽も、台本も、全ての点において。宝塚版がDVD/Blu-rayで入手可能。

「42nd Street」は元々アカデミー作品賞を受賞した映画「四十二番街」(1932)をベースにしている。演出・振付を担当したガワー・チャンピオンは初日が開く直前に亡くなり、公演終了後に観客にその事実が明かされたという劇的な開幕をした(その裏ではマスコミで話題になるように、ちょっとした調整が行われたようだ。That's Showbiz ! )。僕は2001年にブロードウェイでリバイバル公演を観たが、とにかく群舞が圧巻!タップダンスの迫力・魅力を堪能出来る(特に”ブロードウェイの子守唄”)。吹奏楽では岩井直溥編曲による「アメリカン・グラフィティXIII」【ハロー・ドーリー! 〜ブロードウェイの子守歌〜私の彼氏 (私の愛する人、ザ・マン・アイ・ラブ) 〜キャバレー】がある。    

「デス・ノート」についてはこちら。ワイルドホーンが曲を書いた作品では「MITSUKO 〜愛は国境を超えて〜」も大好き。どちらを選ぶか散々迷ったけれど、物語の面白さで「デス・ノート」に軍配が上がった。

「オケピ!」は三谷幸喜台本で、ミュージカルのオーケストラ・ピットが物語の舞台となる。発想が秀逸だ。作曲は「王様のレストラン」「半沢直樹」「真田丸」の服部隆之。とてもスケールの大きな音楽を書いている。コンダクター(指揮者)役を白井晃が演じる再演版がDVDで観れるが、僕は真田広之がコンダクターだった初演版の方が好き。再演時に映画「ラストサムライ」の撮影が重なり、真田は降板したのだった。

「CHESS」についてはこちらをどうぞ。あと関連作品として映画「完全なるチェックメイト」も併せて観ておきたい。

「回転木馬」はロジャース&ハマースタイン2世による名作。「サウンド・オブ・ミュージック」が有名だが、これは映画の完成度が極めて高く、舞台が霞んでしまう。「回転木馬」の"You'll Never Walk Alone"は感動的なナンバーで、今やサッカーのサポーターソングとしても有名になった。吹奏楽ではロバート・ラッセル・ベネット編曲による「カルーセル・ワルツ」やジョン・モス編曲による「栄光のブロードウェイ」【バリ・ハイ(南太平洋)〜カルーセル・ワルツ(回転木馬)〜すべての山を登れ(サウンド・オブ・ミュージック)〜仲良くしましょう(王様と私)〜オクラホマ(オクラホマ)】がある。

「CAN-CAN」はコール・ポーターの代表作として挙げた。宝塚月組で上演された際、娘役・風花舞の華麗なダンスに瞠目した。

「ME AND MY GIRL」についてはこちら。端的に言えば「マイ・フェア・レディ」の男性版である。

「ハウ・トゥー・サクシード -努力しないで成功する方法-」宝塚版について僕が書いたレビューはこちら

「ピーターパン」についてはこちら。この作品の魅力としてはフライングに尽きる。是非小さいお子さんに観せてあげてください。

ピューリッツァー賞とトニー賞で最優秀作品賞を受賞した「RENT」は日本人キャストの公演を観ても、その真価が絶対に判らないミュージカルである。白人(WASP)がいて黒人がいて、ヒスパニックなど様々な人種がいて、性的嗜好もストレートがいて、ゲイがいて、バイセクシャルもいる。そういう多様性があって初めて本作の哀しみとか気持ちの軋みが見えてくるのだ。オリジナル・キャストのアダム・パスカルとアンソニー・ラップのライヴを聴いた感想はこちら。彼らも出演したクリス・コロンバス監督の映画版(2006)か、「レント・ライヴ・オン・ブロードウェイ」DVD/Blu-rayをお勧めする。

「クレイジー・フォー・ユー」1920-30年代にブロードウェイを席巻した作曲家といえばジョージ・ガーシュウィンであり、コール・ポーター、アーヴィング・バーリン、ジェローム・カーンらであった。しかし彼らの作品の殆どはリバイバルされることがない。曲は素晴らしくても台本が古臭くなり、現代に通用しないからだ。そこでガーシュウィンの「ガール・クレイジー」を創り直したのが「クレイジー・フォー・ユー」である。トニー賞で最優秀作品・衣装・振付賞(スーザン・ストローマン)を受賞した。吹奏楽ではウォーレン・バーカー編曲による「ガーシュイン!」【魅惑のリズム〜エンブレイサブル・ユー〜誰かが私を見つめてる〜アイ・ガット・リズム 】か、「アルヴァマー序曲」で有名なジェイムズ・バーンズ編曲による「”ガール・クレイジー”からの音楽」【エンブレイサブル・ユー〜チャンスを待ちながら〜アイ・ガット・リズム〜私のためじゃない(But Not For Me) 】がいい。

フレンチ・ミュージカル「壁抜け男」は地味だけれど、哀感があり、しみじみとした味わいのある作品。ブロードウェイでも"Amour"というタイトルで上演された。日本は博多で初演。僕はその初日を観ている。石丸幹二・井料瑠美らが出演した。伴奏はピアノ・リード・パーカッションの3人のみなので、劇団四季としては珍しく地方都市の専用劇場でも生演奏だった(全国ツアーはカラオケ)。音楽はミシェル・ルグラン。彼の全盛期は何と言っても「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」「愛のイエントル」の頃で、「壁抜け」では筆力が衰えている感が否めないけれど、決して悪くはない。ところで「愛のイエントル」も舞台化してほしいなぁ。吹奏楽では宮川彬良の卓越した編曲「ロシュフォールの恋人たち」 から”キャラバンの到着とマクサンスの歌”が最高。”キャラバンの到着”は岩井直溥編曲版もある。

宝塚歌劇のオリジナル・ミュージカル「王家に捧ぐ歌」についてはこちら。ヴェルディの歌劇「アイーダ」を基にしており、同じ題材でディズニー製作のミュージカルもある。後者は作詞:ティム・ライス、作曲:エルトン・ジョンという「ライオンキング」のコンビ。でも僕は宝塚版の方が作劇として優れていると想う。DVD/Blu-rayでどうぞ。

最後に。イタリアはオペラの中心地だが、逆にミュージカル不毛地帯である。イタリアで「キャッツ」や「オペラ座の怪人」「レ・ミゼラブル」が上演されたという話はとんと聞かない。むしろドイツ・オーストリア・ハンガリーでは盛んである。この辺のお国柄の違いが興味深い。多分イタリア人はオペラ文化に誇りを持ち、それだけで十分満足しているので、「ミュージカルなんて……」と興味がないのだろう。

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2015年12月23日 (水)

僕のカルト映画ベスト20

まずカルト映画の定義をしよう。《公開時、興行的に成功せず、批評家からの評判も芳しくなかったのに、後に一部の熱狂的ファンを生み出した映画》つまり、「エル・トポ」とか「イレイザーヘッド」「ロッキー・ホラー・ショー」が一般的によく知られた代表例と言えるだろう。

本当は岩井俊二監督「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」とか、キャロル・リードの「フォロー・ミー」ヤノット・シュワルツの「ある日どこかで」もカルト映画の範疇に入れたいのだが、既に「我が生涯、最愛の映画(オールタイム・ベスト)」篇で語ったので、ここでは割愛する。あちらが表ベストでこちらが裏ベスト、そんな関係と思って頂ければ幸いである。

「カルト映画の巨匠」として僕がまず脳裏に思い浮かべる監督は大林宣彦増村保造鈴木清順ロジャー・コーマンマリオ・バーバである。この5人は絶対外せない。では「カルト映画の名優(怪優)」なら?答えは自ずと決まっている。言うまでもなくクリストファー・リーヴィンセント・プライス、そして岸田森だ。ただここで問題が発生する。クリストファー・リーとヴィンセント・プライスならいくらでも代表作を挙げられるが、「和製ドラキュラ」俳優・岸田森は正直、映画に恵まれなかった。強いて挙げるなら「血を吸う薔薇」など”血を吸う”シリーズなのだろうが、僕には作品的に弱いと感じられる。岸田森の魅力が全開しているのは佐々木守(脚本)実相寺昭雄(監督)のテレビドラマ「怪奇大作戦 京都買います」(上映時間正味25分)にとどめを刺す。絶対観てください。しかし今回のお題は「カルト映画」なので、泣く泣く岸田森出演作は外した。

順不同で

  • ブレードランナー
  • 血とバラ
  • 白い肌に狂う鞭
  • 恐怖の振り子
  • 愛のイエントル
  • 日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群
  • HOUSE ハウス
  • 赤い天使
  • ズーランダー
  • 幻の湖
  • 月曜日のユカ
  • けんかえれじい
  • 鴛鴦歌合戦
  • 狩人の夜
  • オール・オブ・ミー
  • ヒズ・ガール・フライデー 
  • 天国の日々 
  • いつも二人で 
  • 風と共に散る 
  • フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ

「ブレードランナー」(1982) 

Bladerunner

泣く子も黙るカルトSF映画の代表作。誰も文句ないでしょ?ノワール感たっぷりの夜を主体とする特撮(「未知との遭遇」のダグラス・トランブルが担当)や、ヴァンゲリスの音楽がいい。ハリソン・フォード演じるデッカードはレプリカントなのか?長年議論されてきたこの命題もリドリー・スコット監督の発言でケリがついた(勿論Yes !)。「劇場公開版」「完全版」「最終版」と3つのバージョンがあるのでややこしい。スピルバーグの「未知との遭遇」みたいだね(「劇場公開版」「特別版」「ファイナル・カット版」がある)。ちなみにブレードランナー「劇場公開版」「完全版」にあるラスト・シーンの車でのデッカードとレーチャルの逃避行はスタンリー・キューブリック監督「シャイニング」で使用されなかったカットを撮影所の倉庫から発掘したものというエピソードはあまりにも有名。現在、続編の企画が進行中。

「血とバラ」(1960) 

Bloodandroses_2

ロジェ・ヴァディム監督の耽美的怪奇映画。女吸血鬼の物語である。大林宣彦監督の16mmカルト映画「EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ」(1967)はのっけから「血とバラ」へのオマージュを高らかに宣言する。後に大林監督と組む脚本家・桂千穂もこの映画に私淑しており(新人シナリオコンクール入賞作が「血と薔薇は暗闇のうた」)、作家・赤川次郎も「血とバラ 懐かしの名画ミステリー」という短編小説を書いている。この3者(大林・桂・赤川)が共犯した(一堂に会した)のが映画「ふたり」と「あした」である。

「白い肌に狂う鞭」(1963) 

Whip_and_the_body

クリストファー・リー主演。サディスティックな逸品である。監督のジョン・M・オールドとはマリオ・バーヴァ(イタリア)の別名。バーバラ・スティール主演の「血ぬられた墓標」(1960)や、「モデル連続殺人!」(1964)、「呪いの館」(1966)が有名。大林宣彦監督は「HOUSE ハウス」でデビュー当時、マリオ・バーヴァをもじって馬場鞠男というペンネームを考えていたという。で監督の少年時代を描く映画「マヌケ先生」では主人公の名前もズバリ馬場鞠男となっている。

「恐怖の振り子」(1961) 

Kyo_2

ロジャー・コーマン監督によるエドガー・アラン・ポー・シリーズの1篇。「穴と振子」「早すぎた埋葬」の2つを合わせて映画化している。兎に角、クライマックスに登場する振り子に度肝を抜かれる。主演はヴィンセント・プライスとバーバラ・スティール。バーバラ・スティールは上述した「血ぬられた墓標」も印象的だった。コーマンとプライスのコンビ作は「アッシャー家の惨劇」(フロイド・クロスビー撮影監督によるカラー映像が美しい)や「赤死病の仮面」も捨てがたい魅力がある。あ、あと魔法合戦が愉しい「忍者と悪女」やオムニバス「黒猫の怨霊」も……まぁ、みんな観てください。ちなみにティム・バートンの初監督作品「ヴィンセント」(6分の短編アニメ)とはずばりヴィンセント・プライスのことであり、本人がナレーションを担当。「シザーハンズ」でプライスはマッド・サイエンティスト(狂った科学者)として出演している。さらにプライスはマイケル・ジャクソン「スリラー」のMVでもナレーションを担当している。

「愛のイエントル」 前代未聞、バーブラ・ストライザンドの《ひとりミュージカル映画》である。詳しくはこちらの記事に書いた。

「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群 (夕子悲しむ)」は広島県尾道市と福山市鞆の浦を舞台にした大林宣彦監督作品であり、「HOUSE ハウス」(1977)はCMディレクターや16mm自主映画(アングラ = Underground film)の旗手として活躍してきた大林監督の劇場映画デビュー作である。

「おかしなふたり」

Futari

本作は1988年公開だが、僕は1987年夏に尾道映画祭で先行上映された際に観ている。主演は三浦友和、竹内力、南果歩。この3人のおかしな三角関係が描かれる。竹内力といえば今やすっかりミナミの帝王のイメージだが、実は大林映画「彼のオートバイ、彼女の島」がデビュー作であり(爽やかな青春映画の傑作)、当時の彼ははにかんだ笑顔のえくぼが印象的な好青年だった。切ない映画だ。「愛は勝つ」でブレイクする前のKANがシンセサイザーで音楽を担当している。

「HOUSE ハウス」

House_3  

おもちゃ箱をひっくり返したような化猫映画。公開当時、小学生にバカ受けしたというのも頷ける。映画は花も実もある絵空事、正に「電気紙芝居」である。松本潤、上野樹里主演、三木孝浩監督「陽だまりの彼女」は「HOUSE ハウス」への熱烈なオマージュとなっている。

「赤い天使」(1966) 

Red_2 Angel_2

増村保造監督で好きな作品は沢山ある。本格的スパイ映画「陸軍中野学校」を筆頭に「卍」「黒の試走車(テストカー)」「黒の報告書」……。しかし、1本だけ選ぶとしたら、若尾文子は絶対に外せない。増村映画に登場する若尾は驚異的にエロい。な、なんなんだ、このお色気ムンムンは!決して脱ぐわけじゃない(背中とか露出する場面は全てボディダブルである)。でも、うなじとかが官能的なんだよなぁ。「赤い天使」はフランスで最も人気がある増村映画。「フランス人、何考えてるんだ?」と観ていて可笑しくなる。これで若尾に悩殺された貴方、お次は「清作の妻」「刺青」「妻は告白する」あたりをどうぞ。

「ズーランダー」(2001) 

Zoo

ベン・スティーラーが原案・脚本・監督・主演を兼任している。抱腹絶倒のお馬鹿コメディ。大体、ベン・スティーラーとオーエン・ウィルソンがファッションモデル界のスーパースターという設定からしてぶっ飛んでいる。もしも主人公のキメ顔「ブルー・スティール」に大爆笑しない者がいたとしたら、人間として何か間違っている。デヴィッド・ボウイ、パトリス・ヒルトン、ウィノナ・ライダー、ナタリー・ポートマンなどカメオ出演の錚々たる顔ぶれも凄い。2016年には「ズーランダー2」が公開予定で、今度はベネディクト・カンバーバッチが物凄いことになっている!

「幻の湖」 数々の伝説を残した橋本忍(原作・脚本・監督)作品。何の予備知識もなく観て欲しい。最後は目が点、口をあんぐり開けたまま終わることは間違いない。(悪い意味で)想像を絶する映画だ。1982年に東宝創立50周年記念作品として公開されたが客足が全く伸びず、たった2週間と5日で打ち切られることとなった。本作で完全に信用を失った橋本(過去に「羅生門」「生きる」「七人の侍」「切腹」「白い巨塔」「砂の器」「八甲田山」など数々の名シナリオを執筆)は事実上、完全に干されることとなる。長らくビデオ化もテレビ放送もされず、文字通り「幻の」作品だったが、今ではDVDで観ることが出来る。

「月曜日のユカ」(1964) 監督は「狂った果実」の中平康。この映画の編集のリズムって、正にJazzなんだよね。また加賀まりこ(撮影当時20歳)が小悪魔的魅力を発散している。

「けんかえれじい」(1966) 鈴木清順監督でカルト映画として名高いのは宍戸錠主演「殺しの烙印」だろう。日活の社長は完成した作品を観て激怒。翌年の年頭訓示において「わからない映画を作ってもらっては困る」と本作を名指しで非難し、同年4月、鈴木に対し電話で一方的に専属契約の打ち切りを通告した。これを受けて映画人や学生有志による「鈴木清順問題共闘会議」が結成され、裁判沙汰になるなど大騒ぎとなった。「殺しの烙印」を観て「わけがわからない」と僕は全く思わないが、ただ面白くもない。「けんかえれじい」の方が(新藤兼人の脚本がよく練られており)優れている。子供たちの喧嘩=わんぱく戦争がいつしかエスカレートし、大人の戦争に膨張してゆく。まるでモンスターのように。

「鴛鴦歌合戦」(1939) 日本で製作されたミュージカル(オペレッタ)映画の金字塔。脳天気で最高に可笑しい!信じられる、あの志村喬(「生きる」「七人の侍」)が歌うんだぜ!?

「狩人の夜」(1955) 

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「戦艦バウンティ号の叛乱」「ノートルダムの傴僂男」「情婦」(ビリー・ワイルダー監督)などで知られる名優チャールズ・ロートン生涯唯一の監督作品。公開当時不評だったというのが俄に信じられないフィルム・ノワールの傑作。そのせいで日本では長らくお蔵入りで、漸く公開されたのが1990年だった。ロバート・ミッチャム演じる偽伝道師の狂気がひたすら怖い。考えてみれば本作はミッチャムが7年後に出演する「恐怖の岬」(1962)や、マーティン・スコセッシによるそのリメイク「ケープ・フィアー」にも強烈な影響を与えている。また白黒映像による影絵のような光と影の交差が素晴らしい。先日観直していたら、デヴィッド・リンチの「ツイン・ピークス」とそっくりのショットがあって驚いた。勿論、リンチの方が影響を受けているわけだ。あと被写体の全てにピントを合わせるパン・フォーカス(ディープ・フォーカス)の手法が採られているが、調べてみると撮影監督のスタンリー・コルテスはオーソン・ウェルズ監督「偉大なるアンバーソン家の人々」(1942)を撮った人だった。以前BSで観た時は縦横比1:1.33のスタンダードサイズ(撮影時のまま)だったが、現在は上下をカットした1:1.66のヨーロピアン・ビスタサイズが流通している。このビスタ版が監督が本来意図した画角であり、2010年に北米クライテリオン・コレクションがリリースした愛蔵盤ブルーレイでも1:1.66の画角を採用しているらしい。

「オール・オブ・ミー」 

All

日本未公開。スティーブ・マーティンはどうも日本で人気がない。ジョン・ベルーシとかダン・エイクロイドとかアメリカのコメディアンってそういう人が多い。やはりこれは言葉の問題なのだろう。例えば明石家さんまや笑福亭鶴瓶のお喋りを英語字幕にして海外の人々に見せても、彼らには何が面白いのかさっぱり判らないだろう。体の半身が男で、半身が女になるという設定がバカバカしいやら可笑しいやら。スティーブ・マーティンの演技がシュールで、笑いすぎて涙が出ちゃう。

「ヒズ・ガール・フライデー」 新聞社を舞台としたスクリューボール・コメディ。マシンガンのように早口でまくし立てる会話が凄い。後にビリー・ワイルダーが「フロント・ページ」(1974)というタイトルで再映画化しているが、ハワード・ホークス版(1940)の方が断然良い。

「天国の日々」 

Days

映画全編をマジック・アワー(日没後に20分程体験できる薄明の時間帯を指す)に撮影した伝説の映画。ネストール・アルメンドロスがアカデミー撮影賞を受賞。ただし、三谷幸喜 脚本・監督の「ザ・マジックアワー」は痛い映画だった。同じテレンス・マリック監督「ツリー・オブ・ライフ」は難解な映画だがやはり映像美の極み。撮影監督は後に「ゼロ・グラビティ」と「バードマン」でアカデミー賞を連続受賞することになるエマニュエル・ルベツキ。

「いつも2人で」 

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監督は「雨に唄えば」「シャレード」のスタンリー・ドーネン。キネマ旬報社から発行された「私の一本の映画」という本があり、そこに村上春樹がエッセイを書いたのが本作なのである。彼は高校生の時、当時のガールフレンドと神戸の映画館でこれを観たそうだ。主演はオードリー・ヘップバーンとアルバート・フィニー(「オリエント急行殺人事件」のポアロ役)。中年夫婦の危機を描くが、ふたりの12年間を5つの時間軸が交差する形で描く凝った構成になっている。何より僕は"Two for the Road"という原題が好き!味がある。

「風と共に散る」 

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《メロドラマの巨匠》ダグラス・サーク監督(本名:ハンス・デトレフ・ジールク。ナチスを逃れドイツからアメリカに亡命)の作品を1本に絞るのは難しい。「風と共に散る」は冒頭の疾走感が凄い!あと「天はすべて許し給う」(日本未公開、上掲したポスターはこちら)は窓や鏡を効果的に使った画面設定に唸らされる。そして鹿!(←観れば判る)「キャロル」(2016年日本公開予定)で話題沸騰のトッド・ヘインズ監督の「エデンより彼方に」(2002)は徹底的な「天はすべて許し給う」へのオマージュである(詳しくはこちら)。またクエンティン・タランティーノはダグラス・サークの「心のともしび」を激賞している(ちょっと僕には理解し難い選択だ)。なお「風と共に散る」「天はすべて許し給う」「心のともしび」で主演したロック・ハドソンは同性愛者(ゲイ)で、後にAIDSで亡くなった。著名人として世界で初めてAIDSであることを公言(カミング・アウト)した人物である。

「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」 

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映画「進撃の巨人」の樋口真嗣監督や原作の諫山創氏はトラウマ映画として「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」(監督:本田猪四郎、特技監督:円谷英二という初代「ゴジラ」コンビ)を挙げている(樋口監督が語る「サンダ対ガイラ」は→こちら)。「進撃の巨人」の原点がここにある。また映画「パシフィック・リム」のエンド・クレジットに”モンスター・マスター”本田猪四郎への献辞を書いたギレルモ・デル・トロ監督はメキシコでの少年時代、バスで45分かけて映画館に行って「サンダ対ガイラ」を観たと語っている(→こちら)。

ここまで書いてきてアニメが入っていないことに気が付いた。それならまず押井守監督で

「攻殻機動隊」とその続編「イノセンス」 

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「マトリックス」に多大な影響を与えたということで今やメジャーな作品だけれど、日本公開当時は全く話題にならなかったし、興行的にも当たらなかった。現在スカーレット・ヨハンソン主演でハリウッド実写映画化の企画が進行中。押井作品でもっとマイナーなところを攻めると、「迷宮物件」とか「天使のたまご」でどうだ!文句あるまい。

「空飛ぶゆうれい船」 

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子供の頃これを観て、トラウマになったという映画人を何人か知っている。映画評論家・町山智浩氏は小学校1年生の時にこれを観て、その後の映画の見方、世の中の見方に大きな影響を受けたと告白している。また映画監督の岩井俊二は次のようにツィートしている。

原作は石ノ森章太郎。若き日の宮﨑駿が原画で参加していることはあまりにも有名。何しろ「ボアジュース」が強烈!僕はオウム真理教が使っていた「ポア」という言葉を想い出した。

最後に新海誠監督「秒速5センチメートル」も究極のカルト映画で僕は死ぬほど好きなのだが、こちらは既に「我が生涯、最愛の映画(オールタイム・ベスト)」篇に入れてしまった……。

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2015年9月 2日 (水)

我が生涯、最愛の映画(オールタイム・ベスト)について語ろう。(その2)

僕のオールタイム・ベストの一覧は(その1)に書いた。こちらをご覧あれ。

今回は16位以降について語ろう。


冒険者たち」 仏

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フィルム・ノワール(虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画)なのに青春映画でもあるという不思議なバランスを保った作品。原作・共同脚本をジョゼ・ジョヴァン二が担当しているが、この人は第二次世界大戦中レジスタンス運動を支援し、戦後はギャングに加わって投獄され死刑宣告を受けるも恩赦を受けて免れたという経歴を持つ。ヒロイン:レティシアを演じたジョアンナ・シムカス(シドニー・ポアチエと結婚し若くして芸能界を引退)の代表作でもある。監督のロベール・アンリコは本作の翌年にシムカス主演で「若草の萌えるころ」を撮っており、これも詩情あふれる佳作。好きだなぁ。しかしアンリコが1975年に撮った「追想」は陰惨な映画で、映画評論家・町山智浩氏の著書「トラウマ映画館」に取り上げられている。僕も中学生の頃これを観て衝撃を受けた。もう一生観たくない。閑話休題。

それからフランソワ・ド・ルーベが作曲した口笛による「レティシアのテーマ」が最高!ホンダの車「シビック」のCMで使用され、映画ファンの間で話題になったこともある。またサントラEPのB面は「愛しのレティッシア」をアラン・ドロンが唄っている!なおこのヴァージョン、映画では使用されていない。

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シベールの日曜日」 仏

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静謐な抒情。孤独で純粋な魂と魂との、ほんの束の間の邂逅。しかし周囲の曇った目にそれは不純と映る。悲劇の季節。水墨画のような白黒ワイドスクリーンの映像が美しい。心が震えるよう。本作の後でナタリー・ポートマンの出世作、リュック・ベッソン監督の「レオン」をご覧あれ。話が同じだから。


恋のエチュード」 仏

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フランソワ・トリュフォーの映画を1本選ぶのは難しい。孤独な少年の魂の彷徨を描く、痛ましい「大人は判ってくれない」も素敵だし、感受性豊かな処女短編「あこがれ」も大好き。「恋のエチュード」は男1人と女2人の三角関係を描くが、これは「突然炎のごとく」の男2人女1人と対になっている。原作者も同じ。15年が経過したエピローグでロダン美術館を訪ねた主人公がタクシーの窓ガラスに映る自分の姿を見て言うモノローグが心に突き刺さる。

トリュフォーが役者として出演したスティーヴン・スピルバーグ監督「未知との遭遇」も是非お勧めしたい。あれは壮大な宗教映画である。旧約聖書「出エジプト記」を下敷きにしており、劇中にセシル・B・デミル監督の「十戎」も登場。つまりマザーシップ(UFO)=神なのである。


禁じられた遊び」 仏

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小学生の頃から観ていて、深い感銘を受けた。学校の道徳の先生とのやりとりは《私家版ナショナル・ストーリー・プロジェクト》に書いた。下の記事をどうぞ。

あと有名なギターのテーマは公開当時、演奏しているナルシソ・イエペス作曲と謳われていた。現在ではスペイン民謡「愛のロマンス」として知られている。このミスリードはイエペス本人が意図的に行ったのかどうか、非常に興味深い点である。


甘い生活」 伊

La_dolce_vita

この映画を初めて観たのが高校生のころ。さっぱり意味が判らなかった。3時間が苦痛で苦痛でしょうがなかった。それは多分、「桐島、部活やめるってよ」に戸惑う、現代の高校生たちに似ているだろう。40歳くらいになって、漸く描かれていることの意味が全て理解出来た。映画を観る「適齢期」というのは確かにあるのだ。

ローマを舞台に描かれる生きることの意味を見失った富裕層の人々の浮かれた、虚無的な日々。「…次第に滅びつつあるんですよ。生気というものがない。あるのは退屈です。倦怠です。無為です。ただ時間を使い果たしていくだけです。…人間も町も滅びて行くんですね。廃市という言葉があるじゃありませんか、つまりそれです」(福永武彦の小説「廃市」より)

映画の終盤で主人公のマルチェロは天使のような少女に出会う。浜辺に打ち上げられる、腐敗し悪臭を放つ怪魚はマルチェロたちの暮らしそのものを象徴する。川向うから少女が何か叫ぶ。しかしマルチェロには何も聞こえない。彼(ら)は天国から隔絶された世界(=地獄)に生き続けるしかないのである。

パパラッチという言葉はこの映画から生まれた。そしてクリスチャン・ディオールからは「甘い生活」(原題:La dolce vita)という香水が発売された。

フェリーニではあと、「道」と「カビリアの夜」がお勧め。


赤い靴」 英

映画史上、もっとも美しいカラー映画を5本挙げろと言われたら、僕は「赤い靴」「天国の日々」「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」「ライアンの娘」を選ぶ。ジャック・カーディフの撮影が素晴らしい。因みに白黒映画なら「第三の男」「シベールの日曜日」「マンハッタン」かな。

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あと芸術家として生きる道の厳しさをこの映画から学んだ。

「コーラスライン」はブロードウェイでオーディションを受ける若者たちを描いたミュージカルだが、そのうち数人がダンスを始める切っ掛けとなったのが幼い頃「赤い靴」を観たことだと語る場面が非常に印象深い。

 

E.T.」 米

封切りの映画館で観たのは僕が高校生の時だった。試写会を含めて7回映画館で観た。家庭用ビデオが漸く普及し始めた時代で、レンタル店なんか存在しなかった。因みに日本ビデオ協会が正式にビデオ・レンタル制度をスタートさせたのが1983年4月21日、「E.T.」の公開が1982年12月である。あれから33年、ビデオ(VHS vs. β) → 8mmビデオ → レーザーディスク vs. VHD → DVD → ブルーレイ vs. HD-DVDを経てブルーレイの完勝 と時代は目まぐるしく変遷してきた(遠い目)。映画自体もフィルム上映からデジタル上映に完全に切り替わってしまったので、大画面という以外映画館で観るメリットが完全に無くなってしまった。今後「E.T.」鑑賞回数の記録が塗り替えられることはないだろう。ちょっと寂しいね。

《20周年記念特別版》では少年たちを追う警官たちが持つ拳銃やショットガンをトランシーバーに置き換える画像処理がされている。そりゃないぜ!?僕は断固、オリジナル版を支持する。

ジョン・ウィリアムズの音楽が素晴らしい。あとエリオット少年の妹を演じたドリュー・バリモアが可愛い。スティーヴン・スピルバーグは子供の演出が際立って上手い。それはトリュフォーに言わせれば、「彼自身が少年だから」である。少年の心を忘れないーこれがキーワードである。

初期のスティーヴンは「父親不在」の映画ばかり撮ってきた。「E.T.」もそうだし、「未知との遭遇」は父(リチャード・ドレイファス)が家族を捨て、マザーシップに乗って宇宙に飛び立つお話である。彼がハイスクールの頃に両親は離婚した。「父親に捨てられた」という気持ちが強かったのだろう。電気技師だった父アーノルドとの想い出(6歳の頃、真夜中に叩き起こされ車で大流星群を見に連れて行かれたこと)は「未知との遭遇」に色濃く反映されている。その後、父と和解(離婚の真の原因は母親の浮気だった。そのことについて父は長らく口を閉ざしていた)を経て、スティーヴンが描く父親像は優しいものに変化していった。「インディー・ジョーンズ/最後の聖戦」のショーン・コネリー、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のクリストファー・ウォーケンがそれに該当する(追いつ追われつのトム・ハンクスとデカプリオの関係も「擬似親子」と言えるだろう)。このことはスティーヴン自身が父親になったということも無関係ではあるまい。

また「E.T.」には空を飛ぶことへの憧れが描かれているが、アーノルド・スピルバーグは第二次世界大戦にインドで米爆撃隊の通信隊長を務めていた。「太陽の帝国」では零戦に心酔する少年(クリスチャン・ベール!)が主人公となり、「1941」では戦闘機のコックピットでしか欲情できない女(←はっきり言って変態!)が登場するのも、父親への思慕の情からであろう。


初恋のきた道」 中

Road

兎に角、チャン・ツィイーが可愛い!それに尽きる。映画館で観た時、滂沱の涙を搾り取られた。悔しい……。チャン・イーモウ監督の「」を意識した絵作りも見事である。コン・リー主演の初監督作品「いコーリャン」の時からそうだよね。

 

ジェニーの肖像」 米

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幻想映画の大傑作。白黒映画なのだけれど、一瞬カラーになる。正に奇跡の瞬間で、涙なしには観られない。プロットは詳しく述べないが、山田太一の小説(映画化もされた)「飛ぶ夢をしばらく見ない」は「ジェニーの肖像」の真逆パターンである。勿論、パスティーシュだ。

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アカデミー賞で特殊効果賞を受賞。また撮影賞(白黒)にノミネート。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」「亜麻色の髪の乙女」「アラベスク第1番」などをアレンジしたディミトリ・ティオムキンの手腕も卓越している。

製作をした大プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニック(「キング・コング」「風と共に去りぬ」「レベッカ」)はこの映画が公開された翌年、ヒロインを務めたジェニファー・ジョーンズと結婚している。


フィールド・オブ・ドリームス」 米

If you build it, he will come.


素晴らしき哉、人生!」 米

Itsawonderfullife

アメリカではクリスマス・シーズンに必ずこの映画がテレビ放送され、家族で観る習慣が定着している。心温まるフランク・キャプラ監督の名作。人生、いつからだってやり直しがきくんだよと教えてくれる。


雨に唄えば」 米

Singinintherain

タップダンスの雄(ゆう)といえばエレガントなフレッド・アステアとアクロバティックでダイナミックなジーン・ケリーの二人に止めを刺す。で振付・監督もこなすジーン・ケリーの代表作が「雨に唄えば」と「巴里のアメリカ人」である。「雨に唄えば」の妙味は可笑しなドナルド・オコナーと、活きがよくてキュートなデビー・レイノルズとケリー3人のアンサンブルの見事さにあると言えるだろう。

因みにデビーは「スター・ウォーズ」レイア姫こと、キャリー・フィッシャーのお母さん。

またハリウッドがサイレント(無声)からトーキーに移行する時期のスタジオの混乱ぶりをコミカルに描いた脚本(ベティ・コムデンとアドルフ・グリーンの名コンビ)がパーフェクトな面白さである。


太陽の少年」 香港・中

In

夏、少年たち、彼らがあこがれるひとりの少女……岩井俊二監督「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」と共通項が多い青春映画の傑作である。文化大革命下の北京が舞台なのに、イタリア・オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲が何と似合うことだろう!


殺人の追憶」 韓

Tsuioku

紛れもない韓国映画の金字塔。ヒリヒリとして、背筋が凍りつく。岩代太郎の音楽も出色の出来。ポン・ジュノ監督は「ほえる犬は噛まない」「グエムル」「スノーピアサー」も大好き。彼のことを”韓国の黒澤明”と評したのは、恐らく世界で僕が最初である(→2004年5月8日「エンターテイメント日誌」)。2006年にはこの呼称が一般的となった(→映画.comの記事へ)。


ゼロ・グラビティ」 米

公開時に書いたレビューがあるのでご覧あれ→こちら


さらば、我が愛 /覇王別姫 香港・中

H

「ドクトル・ジバゴ」や「風と共に去りぬ」もそうだけど、僕はどうも歴史の大きな流れ(特に戦争)に翻弄される人間たちの物語が好きみたいだ。カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)受賞。コン・リーの美しさ。そしてマンダリン・オリエンタル香港から飛び降り自殺した(享年46歳)レスリー・チャンの代表作でもある。京劇という未知の世界が垣間見れるのも興味深い。

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2014年10月29日 (水)

我が生涯、最愛の映画(オールタイム・ベスト)について語ろう。(その1)

10年前にHPで同様の企画をしたが、今回内容に変化がなければ困るなと想った。もし同じだったらここ10年で僕の感性が衰えた、生きながら死んでいるも同然ということを意味するからね。よくオールタイム・ベストテンという企画が雑誌などで組まれるが、選者が選ぶのって大体その人が青春期に観た映画なんだ。でもそれじゃ駄目だろう?単に「昔は良かった」という懐古趣味でしかない。

結論として色々入れ替わりがあってホッとした。()内は監督。

  1. はるか、ノスタルジィ(大林宣彦)
  2. 風と共に去りぬ(ジョージ・キューカー→ヴィクター・フレミング
    →サム・ウッド)米
  3. めまい(アルフレッド・ヒッチコック)米
  4. ドクトル・ジバゴ(デヴィッド・リーン)英
  5. 風立ちぬ(宮﨑駿)
  6. サウンド・オブ・ミュージック(ロバート・ワイズ)米
  7. 秒速5センチメートル(新海誠)
  8. ニュー・シネマ・パラダイス(ジュゼッペ・トルナトーレ)伊
  9. 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(岩井俊二)
  10. 七人の侍(黒澤明)
  11. 山の音(成瀬巳喜男)
  12. ある日どこかで(ヤノット・シュワルツ)米
  13. 魔法少女まどか☆マギカ(新房昭之)
    [前編]始まりの物語[後編]永遠の物語[新編]叛逆の物語
  14. フォロー・ミー(キャロル・リード)英
  15. 草原の輝き(エリア・カザン)米
  16. 冒険者たち(ロベール・アンリコ)仏
  17. シベールの日曜日(セルジュ・ブールギニョン)仏
  18. 恋のエチュード(フランソワ・トリュフォー)仏
  19. 禁じられた遊び(ルネ・クレマン)仏
  20. 甘い生活(フェデリコ・フェリーニ)伊
  21. 赤い靴(マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー)英
  22. E.T.(スティーヴン・スピルバーグ)米
  23. 初恋のきた道(チャン・イーモウ)中
  24. ジェニーの肖像(ウィリアム・ディターレ)米
  25. フィールド・オブ・ドリームス(フィル・アルデン・ロビンソン)米
  26. 素晴らしき哉、人生!(フランク・キャプラ)米
  27. 雨に唄えば(スタンリー・ドーネン、ジーン・ケリー)米
  28. 太陽の少年(チアン・ウェン)香港・中
  29. 殺人の追憶(ポン・ジュノ)韓
  30. ゼロ・グラビティ(アルフォンソ・キュアロン)米・英
  31. さらば、我が愛 /覇王別姫(チェン・カイコー)香港・中

原則としてひとりの監督につき1作品のみに絞った。そうしないと収集がつかなくなるから。例えば、大好きな大林監督作品だけでベスト10を選ぶことだって可能。やってみようか?

  1. はるか、ノスタルジィ
  2. 時をかける少女
  3. 日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群
    (外伝 夕子かなしむ)
  4. 廃市
  5. ふたり
  6. さびしんぼう
  7. 野のなななのか
  8. この空の花 ー長岡花火物語
  9. EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ
  10. 彼のオートバイ、彼女の島
  11. HOUSE ハウス
  12. 麗猫伝説(TV映画)
  13. なごり雪
  14. 転校生
  15. 青春デンデケデケデケ
  16. あした
  17. So long ! (AKB48 MV)

さて、リストを作成していて気付いたこと。「本当は愛し合っている男女が、結局結ばれない」という、失はれる物語が僕は好きなんだってこと。「ドクトル・ジバゴ」や「秒速5センチメートル」「ニュー・シネマ・パラダイス」「ある日どこかで」「山の音」「草原の輝き」「シベールの日曜日」「恋のエチュード」等がそれに該当する。映画だけじゃなく、僕が偏愛する小説「草の花」(福永武彦)や「嵐が丘」(エミリー・ブロンテ)なんかもそう。「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラとレット・バトラーも結婚はするけれど、最後は行き違いから別れることになる。これはもう、好みというか性癖だね。"It is written." ー遺伝子に刻み込まれているんだから、自分の意志ではどうしようもない。制御不能だ。

では第1位から順に選出(推薦)理由を述べていこう。

「はるか、ノスタルジィ」 このベスト・ワンは10年前から変わらない。完璧な映画。大林宣彦の流麗な演出、阪本善尚・撮影監督による玻璃のように繊細で美しい映像、大林監督の右腕でこれが遺作となった薩谷和夫による渾身の美術セット、そして心に沁み入る久石譲の音楽。文句のつけようがない。ミステリアスなヒロインを演じた石田ひかりも素晴らしい。言葉は虚しい。とにかく観てください。それしかない。

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「風と共に去りぬ」 撮影中に監督が次々と交代した(ジョージ・キューカー→ヴィクター・フレミング→サム・ウッド)。脚本は作家のF・スコット・フィッツジェラルド(華麗なるギャツビー)をふくめ13人が手直しに携わったという。つまり本作は大プロデューサー:デヴィッド・O・セルズニックのものなのである。現在のハリウッドは監督の作家性が尊重されるので、こんな強引な形で製作者が作品をコントロールすることは事実上不可能。ハリウッド黄金期だからこそ実現した、最早失われた夢の世界である。

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「めまい」 アルフレッド・ヒッチコック監督による傑作中の傑作。イギリスの最も権威がある映画雑誌 “Sight & Sound” が2012年に発表したオールタイム・ベスト50で堂々第1位の栄冠に輝いた。投票者は映画批評家を中心に、プログラマー、研究者、配給業者など、映画の専門家846名。また同時にマーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノ、フランシス・フォード・コッポラを含む、358人の映画監督による投票も行われ、「めまい」は第7位だった(第1位:東京物語、第2位:2001年宇宙の旅、同2位:市民ケーン、第4位:8 1/2)。原作はミステリー小説だが、だれが犯人かなどというのはどうでもよく(実際映画の半ばで事件の真相が分かる)、全編を貫く悪夢のような雰囲気が魅惑的。墜ち続ける感覚。またワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」に基づくバーナード・ハーマンの浪漫的音楽が抜群に素晴らしい。

Vertigo

「ドクトル・ジバゴ」 デヴィッド・リーン監督の映画なら、「アラビアのロレンス」や「ライアンの娘」を本作と差し替えても一向に構わない。ただ「アラビアのロレンス」はむさ苦しい男ばかり出てくる映画なので、色気がないのが玉に瑕。初めて観たのが中学生くらいで、さっぱり内容が理解出来なかった(アラビア情勢は実に複雑だ)。特にロレンスがトルコ軍の捕虜となり、拷問を受ける場面で軍の司令官(ホセ・フェラー)が男色家(ゲイ)だということが当時は見抜けなかったので、ちんぷんかんぷんだった。映画を観る「適齢期」というのは確かにあるね。背伸びし過ぎた。「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」「ライアンの娘」で3度アカデミー撮影賞を受賞したフレディ・ヤングによるスケールが大きな映像が圧巻。詩人が主人公である「ドクトル・ジバゴ」ではリーン監督の繊細な演出にも注目(特に主観ショット)。自然描写が卓越している。また24人のバラライカ楽団をフィーチャーしたモーリス・ジャールの音楽の美しさも筆舌に尽くし難い。

D

「風立ちぬ」 前回まで宮崎アニメといえば痛快な冒険活劇「天空の城ラピュタ」が不動のベストだったが、「風立ちぬ」を観てこちらでもいいかなと初めて想った。詳しくは下記記事で論じた。作品を紐解くキーワードは”ピラミッド”。

「サウンド・オブ・ミュージック」 中学生の頃から大好きで、大学の卒業旅行でオーストリアのザルツブルクまで旅をして、ロケ地めぐりに勤しんだという想い出の作品。郊外のロケ地をめぐるバス・ツアーというのが毎日運行していて、確か発着は(「ドレミの歌」のロケ地)ミラベル公園だったように記憶している。バスに日本人は僕だけ!アメリカ人が多かったかな。現地の人は殆どこの映画を観てないそう。そりゃ、オーストリア人が英語を喋っているのだから不自然だよね。日本を舞台にしたハリウッド映画に僕達が違和感を覚えるのと同じことだろう。

S

秒速5センチメートル」 については下記記事で十分に語ったので、もういいだろう。ブルーレイで観れば観るほどどんどん好きになっていく自分が恐ろしい。

そうそう、一言だけ追記。劇中でヒロインが読んでいる文庫本のタイトルー村上春樹「螢・納屋を焼く・その他の短編」、トルーマン・カポーティ「草の竪琴」、そして夏目漱石「こころ」。これらを読めば、作品をより一層深く理解出来るだろう。

「ニュー・シネマ・パラダイス」 映画好きにはたまらない作品。自分の少年時代の想い出に重ねて観てしまうんだよね。これほど泣いた映画も後先ない。涙腺崩壊とは正にこれ。そして嗚呼、エンニオ・モリコーネの音楽!ずっと以前、映画評論家・森拓也が「キネマ旬報」で本作に登場する映画館に映写機が一台しかないのはおかしいと得意気に書いていた(→詳細はこちら)。しかし大林宣彦監督によると、この映画で描かれているのは「流し込み上映」という手法で、実際に映写機一台でこの流し込みをやっている映画館が高知県にあるという(→こちら!)。いやぁ、驚いた。そして溜飲が下った。ざまあみろ、森拓也。なお本作には最初に上映された2時間4分の国際版と、後に公開された2時間50分ディレクターズ・カット版があるが、僕は断固短い国際版を推す。全長版を観て、「世の中には知らない方が幸せなことってあるんだな」と思い知った。決してディレクターズ・カット版はお勧めしない。正直がっかりした。

Cinemaparadiso

「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」 「LOVE LETTER」と並び岩井俊二(脚本・監督)の最高傑作であり、奥菜恵絶頂期の記録としても永遠の価値を有している。岩井監督は「LOVE LETTER」の酒井美紀といいい、「花とアリス」の蒼井優といい、少女が放つ一瞬の煌きをすくい取り、フィルムに永遠に刻みつけることに長けている。それは正に魔法の瞬間である。青春という「失われた時を求めて」、ワンダーランドにようこそ。元々はTVシリーズ「If もしも」の1編として1993年にフジテレビで放送された45分の小品。日本映画監督協会新人賞を受賞。またTV版「モテキ」で満島ひかりと森山未來がこの「打ち上げ花火」のロケ地めぐりをする回があり、出色の出来。大学生の頃、繰り返し尾道に旅をして大林映画のロケ地めぐりをしていた自分自身を見ているようで爆笑した。青春って恥ずかしい。でもそれでいい。

「七人の侍」 泣く子も黙る黒澤明の代表作にして日本映画屈指の名作。これを観たことない日本人は、いわばシェイクスピアやディケンズを知らないイギリス人みたいなものだね。つまり基本的教養だ。黒澤の「生きる」については下記で語った。

「山の音」 成瀬巳喜男監督は「浮雲」や「女が階段を上る時」などドロドロした男女の恋愛を描くのが上手い人だが、「山の音」は初老の男(山村聰)とその息子の嫁(原節子)との恋愛感情を描いている。実に際どいテーマだが、決してその気持が言葉で示されることはなく、プラトニックなまま終わる。成瀬監督が醸しだす空気感が絶妙で心地いい。痺れる。大人だねぇ。鎌倉の美しい風物が華を添える。モノクロ作品。

カルト映画「ある日どこかで」に関しては、下記で語り尽くした。

「魔法少女まどか☆マギカ」 については三部作あり。

これからこの大傑作に出会う人々への僕からの切実なお願いはどうか劇場版からではなく、全12話のTVシリーズから入っていって欲しいということである。「騙されることの快感」が必ずそこにはあるから。

「フォロー・ミー」 については下記記事を参照のこと。

キャロル・リード監督作品では光と影が交差し、白黒映像の美を極めた「第三の男」(カンヌ国際映画祭グランプリ)も捨て難い輝きを放ち続けている。

「草原の輝き」 については下記記事をどうぞ。

同じエリア・カザンの監督作品ではジェームズ・ディーン主演の「エデンの東」もいいね。エデンの園から追放された主人公の母親=ハリウッドに赤狩りの嵐が吹き荒れていた時代に、司法取引をして仲間を売ったカザン(元共産党員)自身とも解釈出来る。

16位以下の作品については、また後日改めて語りたい。乞うご期待。

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2014年5月12日 (月)

決定版!ヴァイオリンの名曲・名盤 20選

以前、「決定版!チェロの名曲・名盤 20選」という記事を書いたら、予想を遥かに上回る反響があった。そこでヴァイオリン篇もすることにした。熟考の上、20枚のアルバムを選んだ。聴いて欲しい順に並べてある。

  1. コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲
    (シャハム、プレヴィン/ロンドン交響楽団)
  2. バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
    (ファウスト or クレーメル)
  3. フランク、ドビュッシー、ラヴェル/ヴァイオリン・ソナタ
    (デュメイ、ピリス)
  4. ルクレール/ヴァイオリン・ソナタ集
    (寺神戸 亮 or サイモン・スタンデイジ)
  5. ベルク/ヴァイオリン協奏曲
    (ファウスト、アバド/モーツァルト管弦楽団)
  6. ローザ/ヴァイオリン協奏曲 第2番
    (ハイフェッツ、ヘンドル/ダラス交響楽団)
  7. イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
    (佐藤俊介 or 松田理奈)
  8. シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
    (ハーン、サロネン/スウェーデン放送交響楽団)
  9. ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ 第9番「クロイツェル」
    (コパチンスカヤ、サイ or ムローヴァ、ベズイデンホウト)
  10. ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ 第1番「雨の歌」
    (ファウスト、メルニコフ)
  11. ヤナーチェク/ヴァイオリン・ソナタ
    (五嶋みどり、アイディン)
  12. コリリアーノ/レッド・ヴァイオリン・コンチェルト
    (ベル、オールソップ/ボルティモア交響楽団)
  13. ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」
    (ビオンディ/エウローパ・ガランテ)
  14. メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
    (イブラギモヴァ、ユロフスキー/エイジ・オブ・インライトゥメント管)
  15. ショーソン/ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のためのコンセール
    (パイク、ポスター、ドーリック弦楽四重奏団)
  16. フォーレ/ヴァイオリン・ソナタ 第1番
    (シャハム、江口玲)
  17. バルトーク/ヴァイオリン協奏曲 第2番
    (コパチンスカヤ、エトヴェシュ/フランクフルト放送響)
  18. チャイコフスキー/なつかしい土地の思い出
    (諏訪内晶子、モル)
  19. ジョン・ウィリアムズ/「シンドラーのリスト」から3つの小品
    (ギル・シャハム)
  20. 愛の喜び~ヴァイオリン名曲集(コン・アモーレ)
    (チョン・キョンファ、フィリップ・モル)

次点として次の曲を挙げておく。

  • プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲 第2番
    (ヴェンゲーロフ、ロストロポーヴィチ/ロンドン交響楽団)

やっぱりコルンゴルトは最高だね。詳しくは下の記事を読んでください。

ヴァイオリン協奏曲の各楽章は過去にコルンゴルトが作曲した映画のテーマ音楽(ライトモティーフ、示導動機)が引用されている。濃密に浪漫的な音楽だ。

J.S. バッハの無伴奏作品については今更僕が語るまでもないだろう。チェリストが一生をかけて研鑽を積む最終目標地点がバッハの無伴奏チェロ組曲であるように、全てのソロ・ヴァイオリニストが目指す極北である。

デュメイとピリスのアルバム(93年録音)はフランス系ヴァイオリン・ソナタの名作を集めたもの。ただセザール・フランクはベルギー人だけれど。夏のアンニュイな午後に、酒の入ったグラスでも傾けながらゆったりと聴きたい。なお、デュメイが弾くフランクのソナタはコラールがピアノ伴奏を務めたディスク(89年録音)もお勧め。こちらは大変珍しいマニャール/ヴァイオリン・ソナタがカップリングされている。

ジャン=マリー・ルクレール(1697-1764、フランス)のヴァイオリン・ソナタはOp.5-7やOP.9-3もいい。格調高く、品がある。ルクレールはルイ15世より王室付き音楽教師に任命されるが地位をめぐる内部抗争で辞任。晩年は貧民街に隠れ住み、惨殺死体となって発見されるという劇的最後を遂げる。犯人は未だ不明。寺神戸 亮かサイモン・スタンデイジによるバロック・ヴァイオリンの演奏でどうぞ。

アルバン・ベルクが可愛がっていたアルマ・マーラの娘マノンが19歳で亡くなり、それを悲しんだ彼は作曲中だったヴァイオリン協奏曲に「ある天使の想い出に」という献辞を付けた。十二音技法で書かれた作品だが、終盤にはバッハのコラールが聴こえてきて祈りの音楽となる。アルマ・マーラーは華麗な男性遍歴で知られており、クリムトとも深い仲にあった。マーラの死後彼女は2度再婚している。一方アルバン・ベルクも不倫し放題の男であったのだが(「抒情組曲」は不倫相手への想いを語っている。またカルロス・クライバーは実はベルクの息子だという根強い噂!?もある)、アルマとベルクの関係はどうだったんだろう?なお、ファウストとアバドのCDはベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲がカップリングされている。

ハンガリー出身のミクロス・ローザ(ロージャ・ミクローシュ)のヴァイオリン協奏曲はビリー・ワイルダー監督の映画「シャーロック・ホームズの冒険」に転用されている。ハンガリー的哀愁がそこはかとなく漂う。初演者であるハイフェッツの演奏でどうぞ。なお、ローザは「白い恐怖」「二重生活」「ベン・ハー」で生涯3度アカデミー作曲賞を受賞した。

イザイはベルギーのヴァイオリニスト/作曲家。フランクのヴァイオリン・ソナタはイザイの誕生日に送られたもの。無伴奏ヴァイオリン・ソナタは大バッハの作品を意識した厳格さを有しながらも、20世紀に書かれた近代性も兼ね備えている。

シベリウスのコンチェルトは北欧らしいうら寂しさが魅力的。メラメラと鬼火のように燃える。

ベートーヴェンクロイツェル・ソナタ」でムローヴァはガット弦を張った1750年製グァダニーニとバロック弓を使用し、伴奏はフォルテピアノという徹底したピリオド・アプローチ。ルーマニアとウクライナに国境を接するモルドヴァ共和国に生まれたコパチンスカヤの演奏も奔放で魅力的。火傷しそうなくらい熱く、激烈である。

室内楽の名手ブラームスのソナタは手の届かないもの(=クララ・シューマン)への憧れの感情が心に沁み入る。第3楽章に自作「雨の歌」からの引用があるのだが、これはクララが大好きな歌曲だったという。

ヤナーチェクについては五嶋みどりの解説を読んでいただくのが一番いいだろう→こちら。民族色豊かで、仄暗い色気がある作品。オペラ「利口な女狐の物語」を観て分かったのはヤナーチェクの音楽はエロティックだということ。死ぬまで浮気をしていたような助兵衛ジジイだからね。

コリリアーノは映画「レッド・バイオリン」でアカデミー作曲賞を受賞した。その音楽を再構成したのヴァイオリン協奏曲である。冒頭にソロが奏でる妖しい旋律が循環主題として各楽章に登場する。サウンドトラックでもソロを担当したジョシュア・ベルの演奏でどうぞ。なお映画「レッド・バイオリン」(1998)は1つの楽器が数世紀に渡り人の手から手へと渡っていく物語だが、同様の趣向の作品として燕尾服が旅するジュリアン・デュヴィヴィエ監督「運命の饗宴」(1942)やスピルバーグ監督の「戦火の馬」(2011)がある。

僕がクラシック音楽を好きになった切っ掛けは小学校4年生の時に聴いたヴィヴァルディ「四季」だった。演奏はフェリックス・アーヨがソロを担当したイ・ムジチ合奏団のレコード(2度目の録音)。その頃はクラシックLP売上ランキングでイ・ムジチの「四季」がトップセラーの常連だった(当時一番売れていたのはミケルッチがソロを担当した3度目の録音)。また僕がイ・ムジチを生で聴いた時にリーダーを務めていたのはピーナ・カルミレッリ。しかしその後、アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスによるレコードが登場しその過激さで世間を席巻してからは状況が一転する。古楽器演奏全盛期の到来である。最早誰も微温的なイ・ムジチの演奏など見向きもしなくなった。古楽器の代表選手として刺激的なファビオ・ビオンディを第1に推すが、ジュリアーノ・カルミニョーラもいい。考えてみたらふたりともイタリア人だね。

巷で「3大ヴァイオリン協奏曲」といえばベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスを指し、チャイコフスキーを加えると「4大」となる。中でもメンデルスゾーン(通称メンコン)はヴィブラートをたっぷりかけ砂糖菓子みたいに甘ったるい演奏が大勢を占め、多くのクラシック音楽ファンは食傷気味になっている。ところがそのうんざり感を払拭するような演奏が登場した。イブラギモヴァは437Hz調弦によるヴィブラートを抑制したピリオド・アプローチ。ちなみに日本のモダン・オーケストラの標準ピッチはA音442Hzでヨーロッパでは444Hz辺だという。だからこのCDは若干音が低い。なんと新鮮に響くことだろう!メンデルスゾーンは当時忘れ去れれていたJ.S.バッハの「マタイ受難曲」を100年ぶりに蘇演した指揮者でもあった。さらにその後日談ともいうべきオラトリオ「聖パウロ」も作曲している。つまり、彼の音楽は決してロマンティックに解釈すべきではなく、バッハに対するようにアプローチすべきだというのが僕の結論(ファイナル・アンサー)である。

ショーソンコンセールを一言で表すなら、「幻夢の世界へようこそ!」

ドビュッシーやラヴェルら印象派と比較して、フォーレはあまり聴かれていない。知られているのは「レクイエム」と「シチリアーナ」「夢のあとに」くらいではないだろうか?特に室内楽には沢山素晴らしい曲があるのだが。ヴァイオリン・ソナタは優しい夢を描く逸品。シャハムのアルバムには他に、「シチリアーナ」「夢のあとに」「子守唄」といった珠玉の小品と、ピアノ三重奏曲が収録されておりお勧めしたい。

バルトークの音楽はやはり、土俗的なハンガリー色が魅力的。そのキャリアの出発点がハンガリー民謡の収集家だったということと決して無縁ではないだろう。何故だか郷愁を誘われるんだよね。

チャイコフスキーはヴァイオリンとピアノのための作品だが、グラズノフ編曲によるオーケストラ版もある。有名なヴァイオリン協奏曲もいいけれど、たまにはこういった愛すべき小品にも耳を傾けたい。

シンドラーのリスト」は言わずと知れたアカデミー作曲賞を受賞したスピルバーグ監督の映画のための音楽である。ユダヤ人の物語だからヘブライ風節回しが特徴的。映画のサントラはイツァーク・パールマンが弾いている。ギル・シャハムのCDはオーケストラとの共演盤とピアノ伴奏の2種類ある。なお、ジョン・ウィリアムズがミュージカル映画「屋根の上のヴァイオリン弾き」のために作曲したヴァイオリン協奏曲も一聴の価値あり。こちらの独奏はアイザック・スターン。

「コン・アモーレ」と題されたチョン・キョンファが弾く小品集は「愛の喜び」「愛の悲しみ」「ジプシーの女」とクライスラーの曲が3曲、他にエルガー「愛の挨拶」やドビュッシー「美しい夕暮れ」など選曲が優れている。以前の彼女の演奏と比べ、角がとれて柔らかくなった。同様の企画として五嶋みどりの「アンコール!」も定評があり、素晴らしい。こちらの選曲は一捻りあり。

プロコフィエフはロシア革命時に海外に逃れ約20年間亡命生活を送っていたが、後にソビエト連邦に帰国するという奇特な人生を送った。ヴァイオリン協奏曲 第2番の第1楽章は諦念の音楽。第2楽章は過去を懐かしむような回顧録。第3楽章はカスタネットが加わり、初演されたスペイン(マドリード)を彷彿とさせる情熱的舞踏音楽が展開される。

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