子供の情景

2018年4月 4日 (水)

「映画ドラえもん のび太の宝島」と「リメンバー・ミー」

「映画ドラえもん のび太の宝島」評価:B+

6歳の息子と鑑賞。すこぶる愉しかった。最大の功績は脚本を書いた川村元気だろう。「告白」「悪人」「君の名は。」のプロデューサーであり、「世界から猫が消えたなら」「億男」「四月になれば彼女は」などの小説家としてしても知られている。

本作は明らかに宮﨑駿「天空の城ラピュタ」を下敷きにしている。宝島の内部構造はラピュタそのものだし、クライマックスで文明に毒された下部を切り離して上昇するのもそう。そして「魔女の宅急便」のパン屋さんが出てくるし、しずかが海賊に攫われ、それを追うという展開は「未来少年コナン」。ご丁寧なことに有名な海中のキスシーンに似た場面まで用意されている。あとフロック(兄)とセーラ(妹)の父キャプテンシルバーは庵野秀明「新世紀エヴァンゲリオン」の碇ゲンドウだね。シルバーの野望「ノアの方舟計画」≒エヴァの「人類補完計画」という対応関係が認められる。研究者であった妻が亡くなり、常軌を逸したという設定も全く同じ。よく考え抜かれている。

「リメンバー・ミー」評価:B-

これも息子を連れて行こうと予めチケットを購入していたのだが、直前に彼がインフルエンザAに罹患し、結局独りで観た。アカデミー歌曲賞、長編アニメーション映画賞を受賞。泣く子も黙る天下のピクサー作品である。クオリティの高さは折り紙付き。しかしおもろない。第1回劇場作品「トイ・ストーリー」からピクサーのテーマはいつも同じ(ただし、異端児ブラッド・バード作品は除く)。「仲間が一番」。つまり常にバディ・ムービーなのだ。今回は「家族が一番」。何も変わらない。ひねりがなさ過ぎる。もう飽いたわ。

「ドラえもん(日本のアニメ)」にあって「リメンバー・ミー(アメリカのCGアニメ)」に決定的に欠けているもの。それは萌えである。

それにしてもここ最近のアカデミー長編アニメ映画賞受賞作品を見て欲しい。

2007年 レミーのおいしいレストラン
2008年 ウォーリー
2009年 カールじいさんの空飛ぶ家
2010年 トイ・ストーリー3
2011年 ランゴ
2012年 メリダと恐ろしの森
2013年 アナと雪の女王
2014年 ベイ・マックス
2015年 インサイド・ヘッド
2016年 ズートピア
2017年 リメンバー・ミー

なんとディズニー・ピクサー映画が11作品中10作品を占め、例外は「ランゴ」のみ!!内訳はディズニー:3、ピクサー:7なのだけれど、ディズニーが史上初めて受賞した「アナ雪」以降はジョン・ラセターがディズニー&ピクサー両スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼務しているんだよね。ラセター恐るべし(現在は「不適切な行為」で6ヶ月間休職中)。

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2018年3月30日 (金)

神話としてのミュージカル「キャッツ」&「オペラ座の怪人」〜野生の思考による構造分析の試み

6歳の息子が「もう一度観たい!」と言うので3月24日(土)「キャッツ」を上演中の大阪四季劇場に足を運んだ。僕は多分5回目かな。初回は黒いテントに猫の黄色い一対の目が浮かぶ仮設劇場「キャッツ・シアター」で上演された1985-86年の(第1回)大阪公演だった。

今回の出演者はグリザベラ:木村智秋、シラバブ:五所真理子、オールドデュトロノミー:正木棟馬、マンカストラップ:加藤迪、ラム・タム・タガー:田邊真也、ミストフェリーズ:松出直也 ほか。

ミュージカル「キャッツ」は1981年にロンドンで幕を開け、2002年まで21年間に及ぶロングランとなった(最長ロングラン公演記録は現在も上演中の「レ・ミゼラブル」)。ブロードウェイ@NYでは82年に開幕し、2000年に閉幕。2006年1月に「オペラ座の怪人」に抜かれるまでロングラン記録を保持していた(オフ・ブロードウェイを含めると史上最長はミュージカル「ファンタスティックス」の42年間-17,162回)。トニー賞では作品(製作:キャメロン・マッキントッシュ)・演出(トレヴァー・ナン)・台本(T・S・エリオット)・楽曲(作詞:T・S・エリオット、作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー)・助演女優(ベティ・バックリー)・衣装デザイン・照明デザインの7部門を受賞した。日本では83年に東京新宿の「キャッツ・シアター」で幕を開け、2013年に「ライオンキング」に抜かれるまで日本演劇史上最多の上演回数を誇っていた(東京・大阪・名古屋・福岡だけではなく札幌・静岡・広島・仙台でも上演)。

原作はノーベル文学賞を受賞した詩人T・S・エリオットの「キャッツ - ポッサムおじさんの猫とつき合う法」。可笑しいのはエリオットは1965年に亡くなっており、死後18年経ってトニー賞を2部門(台本、作詞)受賞したことになる。

どうして「キャッツ」はこれ程までのメガヒット・ミュージカルとなったのか?当然、(当時は)天才作曲家(だった←今は昔)ロイド=ウェバーの功績も大きいだろう。当初「サンセット大通り」のために作曲された♪メモリー♪は世界的大ヒットを飛ばしたし、時には賛美歌風・ゴスペル調になったり、(ミック・ジャガーをイメージした)ラム・タム・タガーはロックンロールを歌い、マキャヴィティが登場するとジャズになり(ヘンリー・マンシーニ「ピンク・パンサー」「ピーター・ガン」を彷彿とさせる)、海賊猫グロールタイガーとシャム猫軍の戦いに於ける歌は中国風で、明らかにプッチーニのオペラ「トゥーランドット」を意識した仕上がりとなっている。つまり多様性に満ち、才気煥発の極みなのだ。

もう一つの要因として挙げられるのは、今回の観劇で初めて気が付いたのだが、「キャッツ」が明らかに神話の構造を持っているということ。それが観客の無意識に作用したと言えるだろう。

以下、社会人類学者レヴィ=ストロースの「神話論理」に基づき、「キャッツ」の構造分析を試みよう。

神話とは自然から文化への移行を語るものであり、神話の目的は連続不連続のあいだの調停である。神話は二項対立を用いて自然と文化の対立を語る。「キャッツ」のあらすじはこうだ。

満月が青白く輝く夜、街の片隅のゴミ捨て場。ジェリクルキャッツたちが年に一度開かれる"ジェリクル舞踏会"に参加するため集まってくる。今宵は長老猫が天上に昇るジェリクルキャッツを選ぶ特別な舞踏会。再生を許され新しい命を得るただ一匹の猫は誰か。夜を徹して歌い踊る猫たち。やがて夜明けが近づき、グリザベラの名前が宣言される。

劇の冒頭、舞台中央の円盤型の照明がグングン上昇する。その下に現れるのがシラバブ(英国版ではジェミマ)。生まれたばかりの子猫で真っ白。つまりこれは彼女の誕生を意味している。そして物語の最後に娼婦猫グリザベラは昇天する。その先にあるのは死と再生だ。ここにまず二項対立コード符号)が複数ある。

誕生↔死
純粋無垢(innocent)↔汚れ(dirty)
大地(重力の拘束)↔天上(重力からの解放)

垂直方法への分離、重力のある地平と無重力の場との往還、つまり「天と地のコミュニケーション」により神話の駆動力は生み出される。

そしてもう一つの二項対立がある。

長老オールド・デュトロノミー↔犯罪王マキャヴィティ

第二幕でオールド・デュトロノミーはマキャヴィティに誘拐される。ここで二項対立(聖人↔罪人)は「近すぎる接近」をし、交わる。

長老の誘拐という問題を解決するのは魔術師ミスター・ミストフェリーズ。彼は二項対立に加わる第三の項媒介者)、つまりトリックスターだ。彼の体は白と黒の斑(まだら)である。

Mist

それは白↔黒反転の換喩になっている。つまり道化師が着る、だんだら縞の衣装と同じ。シェイクスピア「マクベス」に登場する3人の魔女の台詞で言い表すなら「きれいは汚い、汚いはきれい」となる。気まぐれなトリックスターは境界を超え出没することに特徴がある。そして価値を転倒させる

トリックスターの活躍でジェリクルキャッツたちは長老を取り戻すことが出来た(近すぎる接近→適正な距離への再配置)。故にその直後、対称的な位置にあるグリザベラとシラバブは一緒に「メモリー」を歌い(調和調停)、他の猫達もそれまで忌み嫌っていたグリザベラ(汚い)の昇天(きれいへの反転)を承認するのである。こうして大地と天(垂直方向二項対立)を熱狂的な歌と踊り(媒介する第三の項)で結ぶ「ジェリクル舞踏会」はデュオニソスギリシア神話に登場する豊穣とブドウ酒/酩酊の神)の祭りとなった。

また鉄道猫スキンブルシャンクスの場面で僕は思わず「アッ!」と声を出しそうになった。猫達は集めたゴミを組み立ててSL機関車にする。これってレヴィ=ストロースが言うところのブリコラージュに他ならないではないか。日本語では「日曜大工」「器用仕事」「寄せ集め細工」などと訳される。手元にある材料を掻き集めて新しい配列でものを作ることを言う。正にここに「野生の思考」が息づいている。

神話構造(structure)はロイド=ウェバーのミュージカル「オペラ座の怪人」にも認められる。二項対立は、

華やかなオペラ座の舞台(光)↔地下湖(闇)

この垂直方向の差異(掛け離れた距離)は「キャッツ」の天上↔地上と同等である。そして、

クリスティーヌ(無垢)↔オペラ座の怪人(殺人者)
娘↔父(クリスティーヌはファントムに亡き父の姿を重ねている)
生徒(受動)↔教師(能動)
歌手↔作曲家

といった複数のコードが有り、さらに別の二項対立が絡む。

ラウル・シャニュイ子爵↔オペラ座の怪人(恋仇)
Young↔Old
きれい↔醜い

では、【華やかなオペラ座の舞台(光)↔地下湖(闇)】という垂直方向二項対立媒介するもの(第三の項)は何か?言うまでもないだろう、音楽である。何しろオペラ座の怪人はクリスティーヌのことを「音楽の天使(Angel of Music)」と呼んでいるのだから。重力に拘束され大地に足を引きずる我々と、重力から開放された天使の差異も垂直方向に形成されるのである。

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2018年2月 2日 (金)

映画「パディントン2」

評価:A

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6歳の息子と一緒に吹き替え版を鑑賞。

公式サイトはこちら

映画の続編が第1作目を超えることは滅多にない。1%もあるかどうか疑わしい。例外として真っ先に思い浮かぶのがクリストファー・ノーランの「ダークナイト」。あとコッポラの「ゴッドファーザーPART II」、ジェームズ・キャメロンの「エイリアン2」「ターミネータ2」もあるが、これらは前作も傑作なので超えたかどうか微妙。むしろ同等の完成度と言うべきだろう。「パディントン」にはそんな稀なことが起こった!

まずアメリカのサイトRotten Tomatoes(腐ったトマト)の評価を見てみよう。

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第1作 評論家の評価が98%、観客の満足度が80%。

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これが第2作では評論家100%、観客90%に跳ね上がっている。

日本での評価はどうか?スマホアプリWATCHA(5点満点)での平均は「パディントン」が3.5、「パディントン2」が4.3となっている。因みに僕は「パディントン」3.5、「パディントン2」4.5にした。

喋るクマさんを侮るなかれ。パディントンとは、いまヨーロッパ(EU諸国、イギリスは離脱交渉中)が悩みに悩んでいる移民のメタファーである。

彼の口癖は"If we're kind and polite, the world will be right."日本語にすると「もし僕らが人に親切で礼儀正しく接すれば、世界は適切/公正に扱ってくれる」となる。そして彼は持ち前の徳で、世間の不寛容(intolerance)という壁を突破してゆく。鮮やかな脚本(ほん)だ。

本作最大の魅力は飄々としたヒュー・グラントだろう。落ちぶれた役者役で変装の名人。実に愉しそうに演じているのが凄くいい。彼のキャリアの中でもベスト・アクトではないだろうか?

対して第1作の悪役だったニコール・キッドマンはユーモアが乏しかった。ビバ!ヒュー。

それからパディントンが飛び出す絵本の中に入り込んだり、主な舞台となるのが移動遊園地というのも素敵だね。これぞファンタジーの王道だ。

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2018年1月 5日 (金)

法師温泉への旅と、「彼のオートバイ、彼女の島」

年末から年始にかけ、群馬県の法師温泉へ3泊4日の旅をした。

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宿泊した長寿館の公式サイトはこちら

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法師温泉のことを初めて知ったのは1986年4月26日に公開された、大林宣彦監督による角川映画「彼のオートバイ、彼女の島」を劇場で観た時だった。原田知世の姉・貴和子と竹内力のデビュー作となった。それから31年という時を経て、漸く行ってみたいという想いを叶えることが出来たのである。

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「彼のオートバイ、彼女の島」は一旦105分の作品として完成したが、併映の角川春樹監督「キャバレー」の尺が長くなったため「もっと短くなりませんか」とプロデューサーから要請され、15分カットし90分の作品として完成した、監督曰く【心意気の映画】である。

当時、「月刊シナリオ」に掲載された関本郁夫によるシナリオを読んだが、ヒロイン・美代子(ミーヨ)は最後に交通事故に遭って死ぬ。功(コウ)が泣き叫びながらバイクで駆ける場面がラストシーンとなっていた。しかし完成版で事故はコウの想像に過ぎず、ミーヨは無事でふたりで記念写真を撮る場面で終わる。

法師温泉は旅先で出会ったコウとミーヨが、再会する場所として登場。原田貴和子のフルヌードに当時の観客は度肝を抜かれた。

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大林監督はこのシーンの演出意図について川端康成の小説「伊豆の踊子」で、共同浴場から素っ裸で飛び出してきた踊り子が主人公に何かを叫ぶ場面、

子供なんだ。私たちを見つけた喜びでまっ裸のまま日の光の中に飛びし、爪先きで背いっぱいに伸び上がるほどに子供なんだ。私は朗らかな喜びでことこと笑い続けた。

や、三島由紀夫「潮騒」で新治と初江が真っ裸で焚き火を挟んで向かい合う場面、

「初江!」
と若者が叫んだ。
「その火を飛び越して来い。その火を飛び越してきたら」
少女は息せいてはいるが、清らかな弾んだ声で言った。裸の若者は躊躇しなかった。爪先に弾みをつけて、彼の炎に映えた体は、火の中へまっしぐらに飛び込んだ。

などを引用し、少女の純潔性(innocence)を表現したかったのだと語った。なお余談だが、この「潮騒」の場面は後の新・尾道三部作「あした」で高橋かおりと林泰文が再現することになる。

長寿館に泊まって初めて気が付いたのは、ここは国鉄「フルムーン」CMのロケ地でもあったこと。上原謙、高峰三枝子が出演し、放送当時(1981年)大変話題になった。

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動画で観たい方は→こちら! 実はこの作品のディレクターは、誰あろう大林宣彦なのである(音楽はラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 終楽章)。上原謙は後に原田知世主演「時をかける少女」(1983)にもゲスト出演している。また最近では映画「テルマエ・ロマエ II」もここで撮影されたとか。

法師の湯はこんな感じ。

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入って分かったのは、湯船は実際には4つしかない。その真中を丸太が仕切っている(丸太の下はいけいけになっている)。 また各々で水温が違い、写真左奥(窓側)の湯船が一番ヌルい。6歳になる息子を連れて行ったのだが、この一番ヌルい湯がお気に入りになり、ここばかり入っていた(1日5回×30分ずつ!)。因みに法師の湯は基本的に混浴。午後8時−10時のみ女性専用になる。

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近くにある赤沢スキー場でソリ遊びもして、息子も冬休みを満喫していた。また近い将来、是非再訪したい。

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2017年9月29日 (金)

【増補改訂版】近・現代芸術を理解するための必読書 その2

これは、過去に書いた記事

の続編となる。今回まず、お薦めしたいのは臨床心理学者・河合隼雄による一連の著作である。

そもそも河合の名前を初めて知ったのは2016年夏に兵庫芸文で上演されたブリテンのオペラ「夏の夜の夢」について勉強している時だった。ことの詳細は下記に書いた。

河合と翻訳家・松岡和子との対談、「快読シェイクスピア」(ちくま文庫)は目から鱗の連続だった。特に「夏の夜の夢」が意識↔無意識の4層構造になっているという解釈はまるでクリストファー・ノーラン監督の映画「インセプション」みたいで新鮮だった。調べてみると河合は、村上春樹や小川洋子、遠藤周作、安部公房ら小説家、ノンフィクション作家・柳田邦男、詩人・谷川俊太郎、宗教学者・中沢新一、脳科学者・茂木健一郎ら錚々たるメンツと対談本を上梓していることが判明した。その後夢中になって彼の著作を読み漁った。

僕は生まれてこの方、2,700本以上の映画を観てきた。膨大な数だ。どうしてこれほどまでにフィクションに魅了されるのか、自分でも不思議だった。過去には次のような記事も書いた。

「博士の愛した数式」で有名な小説家・小川洋子は二十代半ばでデビューした当時、「なぜ小説を書くのですか」とインタビューで問われる度に明確な回答が出来ず、その質問が苦痛でならなかったという。しかし河合隼雄の著作を読み、物語というものの解釈に出会って彼女の目の前に立ち込めていた霧が晴れた。河合と小川の共著「生きるとは、自分の物語をつくること」(新潮文庫)に小川が書いたあとがきから引用する。

物語を持つことによって初めて人間は、身体と精神、外界と内界、意識と無意識を結びつけ、自分を一つに統合できる。(中略)内面の深いところにある混沌は理論的な言語では表現できない。それを表出させ、表層の意識とつなげて心を一つの全体とし、更に他人ともつながってゆく、そのために必要なのが物語である。物語に託せば、言葉にできない混沌を言葉にする、という不条理が可能になる。生きるとは、自分にふさわしい、自分の物語を作り上げてゆくことに他ならない。

まさにこれこそが、河合隼雄から僕が学んだことである。

現在までに彼の著書を30冊読んだが、お勧めのベスト5を挙げておく。

  • 無意識の構造(中公新書)
  • 母性社会日本の病理(講談社+@文庫)
  • 昔話と日本人の心(岩波現代文庫)
  • 快読シェイクスピア 増補版(ちくま文庫)
  • 神話と日本人の心(岩波現代文庫)

「母性社会日本の病理」や「昔話と日本人の心」を読み、如何に自分がイザナギ・イザナミ・アマテラス・ツクヨミ・スサノオなど日本の神話のことを知らないかを思い知らされた。理由のひとつには学校教育で教わらないということもあるだろう。第2次世界大戦において、日本の神話は軍部に利用された。それへの反省もあり、また日本神話は天皇制に結びつくということもあって、日教組から徹底的に嫌悪され教育現場から排除された。河合がスイスのユング研究所での留学を終えて帰国してからも暫くの間、神話の話など持ち出そうものなら「この右翼め!」と袋叩きに合いそうな雰囲気だったので、口を閉ざしていたという(1960年代は安保闘争や学生運動が花盛りだった)。

しかしキリスト教を知らなければ欧米人のものの考え方を理解出来ないように、日本の神話や昔話を知らずして、日本人の深層心理、無意識の在り方に到達することなど到底不可能なのではないだろうか?「君の名は。」の新海誠監督も日本の昔話や神話、万葉集、古今和歌集などを読み、創作の参考にしていると語っている→こちら

ユング心理学を応用すれば、こんな解釈も可能だということを示したのが以下の記事である。

深層心理学は自然科学とは異なり、客観性よりも主観が大切である(故に「科学じゃない」という批判もある)。それは自己(self)の問題であり、物語の読解に実に役立つのである。

もう一つ挙げたいのはニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」だ。

フロイトやユングの打ち立てた心理学はニーチェ哲学を土台にしているし、「ツァラトゥストラ」を通して、映画「2001年宇宙の旅」「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」「攻殻機動隊」「魔法少女まどか☆マギカ」「風の谷のナウシカ」「崖の上のポニョ」「プロメテウス」「エイリアン:コヴェナント」などが何を物語ろうとしているのか、一層深く読み取れるだろう。

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2017年8月15日 (火)

ブロードウェイ・ミュージカル「ピーターパン」(+昨年の大事故について)

8月12日(土)梅田芸術劇場へ。ブロードウェイ・ミュージカル「ピーターパン」を6歳の息子と一緒に観劇。

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配役は、

  • ピーターパン:吉柳咲良(10代目)
  • ウェンディ:神田沙也加
  • タイガー・リリー:宮澤佐江
  • ダーリング夫人:入絵加奈子
  • フック船長/ダーリング氏:鶴見辰吾
    ほか

スタッフは今年から一新され、演出を担当するのは「ジャージー・ボーイズ」で読売演劇大賞 優秀賞を受賞した藤田俊太郎。

僕自身は「ピーターパン」を観るのが3回目である。

実は2016年8月17日もチケットを購入し、息子と梅芸に足を運んだのだが、舞台稽古のワイヤーアクション中にスタッフの操作ミスで9代目・唯月ふうかが高さ3メートルの宙吊りから逆さまの状態で床面に落下、眼窩底吹き抜け骨折で入院するという大事故があり、公演は中止・払い戻しとなった(新聞記事はこちら)。結局その日はキッズプラザ大阪に行った。幸いなことに唯月はその後舞台復帰し、「デス・ノート」「レ・ミゼラブル」などで元気な姿を見せている。あの時はもう2度と上演されないのではないか?と危惧していたのだが、本当に良かった。

今回の主演は昨年のホリプロスカウトキャラバンでグランプリに輝いた吉柳咲良(きりゅうさやか)。13歳、中学1年生だそう。ボーイッシュな可愛い娘で、ピーターパンにピッタリ!8代目・ピーターパンを演じた高畑充希とどこか似た雰囲気があり、もしかしたら将来ブレイクするかも!?

元AKB48の佐江ちゃんは初めて生で観た。フツーに上手だった。これならミュージカル界で生き残れるだろう。

本作の魅力は何といってもフライングだ。特にカーテンコールでピーターパンが客席側に飛び、上空から魔法の粉をふりかける場面は何度観てもジーンとする。息子も気に入った様子で、帰ってからもしきりにピーターパンの話をしていた。

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ブロードウェイ・ミュージカル「アニー」

8月11日(祝)シアター・ドラマシティへ。

6歳の息子とブロードウェイ・ミュージカル「アニー」を観劇。

Annie

キャストは

  • アニー:野村里桜
  • モリー:小金花奈
  • ウォーバックス:藤本隆宏
  • ハニガン:マルシア
  • グレース:彩乃かなみ
  • ルーズベルト大統領:園岡新太郎
    ほか

演出は山田和也。

「アニー」の起源は1924年に新聞「ニューヨーク・デイリー・ニューズ」に連載された漫画"Little Orphan Annie"である。ミュージカル版は1977年にブロードウェイで初演され、作品賞など7部門を受賞した。僕はジョン・ヒューストン監督による82年の映画版を封切り当時映画館で観ている。高校生だった。またディズニーによる99年テレビ映画版(「シカゴ」「イントゥ・ザ・ウッド」のロブ・マーシャル監督)は北米版DVDで所有している。オリジナル・キャストとしてアニーを演じたアンドレア・マッカードルはミュージカル「キャバレー」(ツアー・カンパニー)のサリー役で2度来日した(僕はどちらも観ている)。またロブ・マーシャル版「アニー」の"NYC"の場面で、特別ゲストとして歌っている。

舞台版を観るのは今回が初めて。興味深かったのは大富豪ウォーバックス氏がスキンヘッドじゃなかったこと。何故なら漫画がそういう設定なんだよね。

Warbucks

ジョン・ヒューストン版(アルバート・フィニー)もロブ・マーシャル版(ヴィクター・ガーバー)も原作を踏襲していた。ただ、日本人には馴染みのない漫画なので、拘る必要は全く無いだろう。寧ろカツラだと不自然だし。

驚いたのは生オーケストラの演奏だったこと。子供向けだから当然、カラオケだと思っていた(ホリプロ「ピーターパン」はカラオケ)。子役を含めキャストのレベルも高く、製作者の本気を感じた。

あと映画やTV版でカットされた楽曲がいくつか歌われるのだが、省かれるのも宜なるかなと想った。

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2017年8月 5日 (土)

尾瀬へ!

7月20日から25日にかけて、尾瀬に旅をした。尾瀬は新潟・群馬・福島の県境にある。3県のどこからでもアプローチ可能だ。

入山前日には「日本秘湯を守る会」の宿、梅田屋旅館@群馬県に泊まった。なにより温泉の泉質が素晴らしかった!

尾瀬といえば

夏が来れば 思い出す
はるかな尾瀬 遠い空
(中略)
水芭蕉の花が 咲いている
夢見て咲いている水のほとり

という、江間章子作詞、中田喜直作曲「夏の思い出」を想い出す人が多いだろう。1954年NHKラジオ歌謡で放送され、一躍有名になった。しかし水芭蕉が見頃なのは5月下旬から6月中旬まで。7月下旬はニッコウキスゲが花盛りだ。

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写真正面に見えるのが至仏山。背後には燧ヶ岳が聳えており、この二つの山に挟まれて広大な湿原・尾瀬ヶ原が広がっている。

僕が尾瀬に行くのはこれが6回目。その内訳は5月下旬に1回、盛夏に4回、紅葉の秋に1回。至仏山も燧ヶ岳にも登った。山小屋で旅人に訊ねても、ニッコウキスゲが咲き誇る7月下旬の尾瀬が一番好きという人が圧倒的に多い。水芭蕉ってね、何か地味なんよ。湿原に沢山咲いていても、直ぐに飽きてしまう。

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写真奥の白い草はワタスゲだ。ウグイスやカッコウの声が聞こえてくる。

僕にとって尾瀬はディーリアス音詩(tone poem)と密接に結びついている。特に「夏の夕べ Summer Evening」。そして「夏の歌 Song of Summer」「夏の庭園にて In a Summer Garden」などを聴くと否応なく尾瀬の風景が目の前に広がるのだ。

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2011年に東日本大震災及び福島原発事故が発生し、しばらく足が遠のいていた。実際、環境省の公表資料を見てみると2010年の総入山者数が34,7万人だったのに対し、11年には28,1万人に落ち込んでいる。15年には32,6万人にまで回復した。因みに尾瀬ヶ原には昔から東電小屋があるが、東京電力は未だ手放していなかった(→サイト「尾瀬と東京電力」へ)。

しかし6歳になる息子に「地上の楽園」尾瀬をどうしても見せたいと想い、漸く再訪する決意を固めた。

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鳩待峠から入山し、見晴にある弥四郎小屋で2泊した。上の写真は小屋の2階からの眺め。標高のせいか小屋で飲む生ビールの旨さは絶品だ。翌日は尾瀬沼へ向かって出発した。

見晴の標高が1,400mで尾瀬沼が1,660m。標高差約250mの長い上り坂となっている。途中、珍しく水芭蕉がまだ可憐に咲いている場所が一箇所だけあった。

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尾瀬沼では毎回、長蔵小屋に泊まっていた。明治23年(1890年)に建てられた、尾瀬で最も古い小屋だ。しかし今回は初めて尾瀬沼ヒュッテに宿泊。雑魚寝の長蔵小屋とは違い個室で、食事も翌日のお弁当(おにぎり)も美味しかった!風呂も快適。次回からもここを利用しよう。

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尾瀬沼近くの大江湿原。ここのニッコウキスゲの群生は尾瀬ヶ原の比ではない。10倍は下らないだろう。

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写真中央に紫色のヒオウギアヤメ(檜扇菖蒲)が見えるだろうか?

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息子も気に入ってくれたようで良かった。1日12Km(1万8千歩)歩くこともあり、自分の体力(足)にも自信を持ったようだ。

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最終日は早朝に山小屋を発ち、1時間半歩いて沼山峠に出た。バスを経て会津高原尾瀬口から新型特急リバティに乗り、帰途についた。

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2017年8月 2日 (水)

怪盗グルーのミニオン大脱走

怪盗グルー・シリーズ第3弾。サブキャラクターだったミニオンたちが思いもかけぬ大人気となり、「ミニオンズ」というスピンオフ映画まで製作された。USJでは「ミニオン・パーク」が誕生し、今や完全に主役(グルー)を食っている。日本の配給会社が当初は彼らに期待していなかった事が、第1作「怪盗グルーの月泥棒」という邦題からも窺い知れる(原題はDespicable Me,Despicable Me 2,Despicable Me 3 ←3作目まで一切ミニオンという言葉が登場しない)。

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評価:A

鉄板の面白さ。文句なし。今回初登場となる双子の兄弟ドルーとグルーでひとつの人格と考えるべきだろう。悪事から足を洗い善人になろうとするグルー vs. 悪党の魅力に取り憑かれるドルーという構図。矛盾した意識、分裂した自己がそこに描かれる。

今回の敵バルタザール・ブラットの場面では80年代ポップスの使い方が絶妙。特に冒頭、ベルリン【愛は吐息のように(Take My Breath Away from "Top Gun"】→マイケル・ジャクソン【Bad】→a-ha【Take on Me】の流れには爆笑した。Take on Me】は映画「ラ・ラ・ランド」にも登場。80年代を代表する曲ということなのだろう。

バルタザールの声を当てるのはアニメ「サウスパーク」のトレイ・パーカー。実は「サウスパーク」第1シーズン 第12話に【メカ・ストライザンドの大迷惑】という傑作エピソードがあり、バーブラ・ストライザンドがゴジラみたいに巨大化し、サウスパークの町を破壊するという物語だった。何だか凄くこの映画に似ていませんか?

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2017年7月27日 (木)

映画「君の名は。」Blu-rayとティアマト彗星の軌道問題

待ちに待ったアニメーション映画「君の名は。」のBlu-ray 「コレクターズ・エディション」が我が家に届き、6歳の息子と一緒に、途中僕の解説を挟みながら早速鑑賞した。圧倒的な高画質で、IMAX版を遥かに凌駕していた(我が家は4Kテレビ)。

幼稚園児に理解出来るのか(特に3年間のズレ)?と些か不安があったが、「男の子と女の子の入れ替わりが面白かった!」と好評で、胸をなでおろした。因みに「今まで観たアニメの中で何が一番好き?」と訊ねると、「君の名は。」だそう(「太陽の王子 ホルスの大冒険」「どうぶつ宝島」「長靴をはいた猫」「空飛ぶゆうれい船」「パンダコパンダ」「カリ城」「ナウシカ」「ラピュタ」「トトロ」「魔女の宅急便」「千と千尋」「ポニョ」「バケモノの子」「アナ雪」「白雪姫」「ダンボ」「ファンタジア」「バンビ」「ピノキオ」「アラジン」「ヒックとドラゴン」「アイアン・ジャイアント」「怪盗グルーの月泥棒」「LEGO® ムービー」「ベイマックス」「ズートピア」「ソング・オブ・ザ・シー」なども観せているのだが)

さて、

上記事に書いたが、映画公開直後からティアマト彗星の軌道がニュース映像の2回目・3回目で物理学的に間違っていると話題になっていた。彗星は太陽(恒星)の重力に引っ張られてその外縁を弧を描くように曲がる筈だが、アニメの作画では太陽に到達する手前、地球(惑星)の外縁でUターンしていた。劇場で観たIMAX版も英語主題歌版でもそのままだったのだが、遂に今回発売のBlu-ray/DVDで修正された。一安心だ。

Suisei

Blu-ray「コレクターズ・エディション」は映像特典ディスクが3枚に及び、なんと9時間超えの大容量となっている。製作発表記者会見&舞台挨拶だけでも大量に収録されており、RADWIMPSの野田洋次郎がサプライズで登場し、「前前前世」をギター1本で唄ったアコースティック・バージョンや、上白石萌音(三葉)が野田の伴奏で唄う「なんでもないや」まで聴ける。

他に英語主題歌版本編、新海誠監督によるビデオコンテ全編(効果音付き、声を監督自身と、その妻で女優の三坂知絵子のふたりが入れている。「まんが日本昔ばなし」みたいなスタイル。因みに「まんが日本昔ばなし」の市原悦子は「君の名は。」で宮水一葉の声を当てている)、神木隆之介・上白石萌音・RADWIMPSによるビジュアルコメンタリー全編(スプリット画面でコメンテーターの表情も見れる)、本編映像に未使用音声をのせた音声クリップ、サントリー天然水CM、スパークル [original ver.](新海誠監督が新たに編集したMusic Video。映画本編にない新規カットあり)、新海監督講演映像(『君の名は。』の物語~現代の物語の役割)など盛り沢山。ファン垂涎の中身になっている。プロモーション映像集(特報・予告)では公開前のものから公開後に観客動員数がどんどん増えていく様子、興行成績ランキングでアジア圏5冠(日本、台湾、タイ、香港、中国)さらに6冠(+韓国)を達成、おまけに2017年春休みバージョンまで収録されていて愉しい。

あとメイキングドキュメンタリーでは

  • 企画書:「夢と知りせば(仮)」
         ー男女とりかえばや物語
  • 脚本第2稿:「きみはこの世界の、はんぶん」
  • 脚本第3稿:「夢にさえ、逢うこと難く」
  • 脚本第4稿:「かはたれそ」(彼は、誰そ)
  • 脚本第5稿:「かたわれの恋人」

と、タイトルがどんどん変わっていったのが興味深かった。

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