シャンソン(歌)、ミュゼット(カフェ)、民族音楽

2020年5月24日 (日)

わが心の歌 20選 ④ カーペンターズ「Close To You」/ナット・キング・コール「Unforgettable」

これから先の人生で、どんなことがあるのか知らないけれど、いとしい歌の数々よ、どうぞぼくを守りたまえ。

芦原すなお(著)『青春デンデケデケデケ』より

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"(They Long to Be) Close to You"は作詞家:ハル・デヴィッド、作曲家:バート・バカラックという稀代の名コンビが生み出した楽曲。このふたりには他に映画『明日に向かって撃て』の主題歌「雨にぬれても」(アカデミー歌曲賞受賞)や、ミュージカル『プロミセス・プロミセス』(映画『アパートの鍵貸します』が原作)のナンバー「小さな願い」「もう恋なんてしない(I'll Never Fall in Love Again) 」等がある。あと僕は「アルフィー」(こちら)も大好き!

「小さな願い(I Say A Little Prayer) 」は映画『ベスト・フレンズ・ウェディング』における使い方が最高だった。視聴はこちら。何という幸福感!!!

バカラック作品の歌い手としてディオンヌ・ワーウィックが有名だが、"(They Long to Be) Close to You"に関しては、断然カーペンターズ盤の方が良い。唯一無二。特にアレンジが秀逸。Spotifyではこちら。「遙かなる影」などというケッタイな邦題もあるが意味不明、言語道断(out of question)である。

カレン・カーペンターは31歳の若さで摂食障害(拒食症)により亡くなった。病の背後には愛着障害があったと思わる。両親は熱心なプロテスタント教会メソジスト派の信者で、祖父は中国で宣教師をしていた。両親は兄リチャードの音楽の才能を信じ、それを伸ばすためにコネチカット州ニューヘーブン からハリウッドのある南カリフォルニアに移住している。しかしカレンの才能は過小評価していた。 サックスやフルートをやって挫折した彼女が、ドラマーになりたいと言ったときも「女のやることじゃない」と反対したそう。また彼らがカレンをハグしてくれたことは一度もなく、後年セラピーの過程で彼女が母親に「私のママになってよ!」と泣きながら懇願したという記録が残っている。ところが1966年にあるレコード会社はカレン(当時16歳)の天性の歌声に惚れ込み、リチャード抜きで彼女とだけ契約を結ぼうとした。しかしリチャードの才能しか信じていなかった母親はここでも反対し、娘の単独デビュー計画を潰しにかかった。

カレンは幼い頃、兄から太っちょ(chubby)と言われたことにも深く傷ついていた。若手実業家との結婚生活もうまく行かず僅か1年ほどで破綻した。また痩せるために大量の下剤や、甲状腺ホルモン剤を内服していた(愛着障害のある人は自分のことを愛せない。だから理想の自分でないとダメだと思い、完璧を求める。親が心の安全基地として機能しないから、生きるための拠り所を完璧な自分に求めるとも言える)。

*参考文献:岡田尊司(著)「死に至る病 あなたを蝕む愛着障害」光文社新書 

"Close to You"の歌詞はこうだ。

Why do birds suddenly appear
Every time you are near?
Just like me,
They long to be
Close to you.

どうして鳥たちは不意に現れるの?
あなたが近くにいるときはいつも
ちょうどわたしと同じね
彼らもあなたのそばに
いたいんだわ

Why do stars fall down from the sky
Every time you walk by?
Just like me,
They long to be
Close to you.

どうして星々は落ちてくるの?
あなたが通りかかるといつも
ちょうどわたしと同じね
彼らもあなたのそばに
いたいんだわ

On the day that you were born the angels got together
And decided to create a dream come true.
So, they sprinkled moon dust in your hair of gold
And star light in your eyes of blue.

あなたが生まれた日、天使たちが集まって
夢を叶えることを決めたの
そこで彼らは月の粉をあなたの金髪に降り注ぎ
あなたの青い瞳に星の輝きを注入した

That is why all the girls in town
Follow you all around.
Just like me,
They long to be
Close to you.

だから街の女の子たちみんなが
どこでもあなたに付いていくの
ちょうどわたしと同じね
彼女たちもあなたのそばに
いたいのよ

スティーヴ・マーティンが脚本を書き、主演したコメディ映画「愛しのロクサーヌ」(戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』を原案とする)では"Close to You"歌詞の一節が引用される。またファレリー兄弟が監督し、キャメロン・ディアスが主演した「メリーに首ったけ」でもカーペンターズの歌が流れ、爆笑シーンに仕上がっている。なお、ピーター・ファレリーが後に脚本・監督した「グリーンブック」はアカデミー作品賞・脚本賞を受賞した。

カレン・カーペンターの歌声は"Yesterday Once More"も忘れ難い(こちら)。そのノスタルジィーが日本人の琴線に触れるのだ。アニメ映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」でケンとチャコがリーダーを務める組織“イエスタディ・ワンスモア”が登場したのには腹を抱えて笑った。

"Unforgettable"(ナット・キング・コール)

芦原すなお原作、大林宣彦監督の映画『青春デンデケデケデケ』で高校生の主人公と一緒にバンドを組む、友人(浅野忠信)の姉(水島かおり)が次のように言う。

「なんちゅうてもええのんがナット・キング・コールで、特に "Lonely One" は聞いとって涙が出てくるし、"Nature Boy" は体がふわふわしてきて、知らんうちにどっか遠いところへ連れていかれそうな気になるわ」

もしたった一人だけ好きな歌手を挙げろと言われたら、僕は躊躇することなくナット・キング・コールと答えるだろう。それくらい彼の声に心底惚れ込んでいる。多分僕はバリトンの声域を心地よく感じる性癖を持っているのだろう。オペラ歌手だったらダントツでイタリアのピエロ・カプッチッリ。なかんずくヴェルディの『マクベス』と『シモン・ボッカネグラ』は最高だね!

声というのは天賦の才能(gifted)で唯一無二。例えばフランク・シナトラやカレン・カーペンターの歌声の代わりを、他の人が務めることなんて到底出来はしない。

だから正直、ナット・キング・コールが歌ってさえいれば「モナ・リザ」「スターダスト」「ネイチャー・ボーイ」「トゥー・ヤング」「スマイル」「L-O-V-E」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン(私を月まで連れてって)」「ザ・クリスマス・ソング」……なんでも良い。彼の歌声は温かく、優しくそっと包み込んでくれるような抱擁力がある。えも言われぬ安心感を与えてくれるんだ。

彼が歌う"The Christmas Song"が使われた映画として、スティーヴン・スピルバーグ監督「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」やイルミネーション・エンターテイメントのアニメ映画『グリンチ』など枚挙に暇がないし、メグ・ライアンとトム・ハンクスが主演した『めぐり逢えたら』では"Stardust"が流れる。その中でどうして"Unforgettable"を選んだかというと、ナット・キング・コールという存在そのものがUnforgettable(忘れ難い)からだ。象徴的な一曲と言える。

娘ナタリー・コールとの時空を超えたデュエットを映像でどうぞ→こちら。グラミー賞の最優秀アルバム賞およびソング・オヴ・ザ・イヤーを受賞した。そちらの音源はこちら

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2020年5月21日 (木)

わが心の歌 20選 ③シャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」と武満徹「小さな空」の関係

「聞かせてよ愛の言葉を( Parlez-moi d'amour )」は1930年に生まれたシャンソン。リュシエンヌ・ボワイエ( Lucienne Boyer ) が歌った。

20世紀の日本を代表する作曲家・武満徹は第二次世界大戦中の1945年8月初め、学徒動員で招集された陸軍食糧基地でこの歌に出会った。見習士官の一人が、手持ちの蓄音機を使ってこっそり内緒で敵国のレコードをかけたのである。中学生(14歳)の出来事だった。 その時のことを彼は次のように回想している。

それは、当時、私たちが接していた音楽というものと、まるで違うものだったのです。そのころ私たちはほとんど軍歌ばかり歌わされていたし、それに音楽も、敵性音楽といった欧米のほとんどの音楽は禁止されていました。その時、見習士官が私たちに聴かせてくれたのが、いま思えばフランスのシャンソンで、『パルレ・モア・ダアムール』(聞かせてよ、愛のことば)という歌でした。それは私にとっては初めて知った、軍歌とはまるで違う別の、しかも甘美な音楽でありました。それを聴いて、こんな素晴らしい音楽がこの世にあったのかと思いました。そのことが終戦になってからも忘れられなくて、音楽に自分の関心が集中してきました。

武満徹「私の受けた音楽教育」

Spotifyで聴くにはこちら。他のサブスクで検索する場合は日本語でなく、"Parlez"や"boyer"といったキーワードを入力するほうが確実に見つけられるだろう。

こんな歌詞だ。

聞かせてよ、愛の言葉を
優しく囁いて
あなたの美しいお話
聞き飽きたりなんかしない
何度でも繰り返して
その至福の言葉を
愛してると

知っているでしょ
私が心の底では信じてないのを
それでもまだ聞きたいの
愛撫するあなたの声で
私の大好きな言葉を
私は美しいお話に動揺し
心ならずもそれを信じたくなる

聞かせてよ、愛の言葉を
優しく囁いて
あなたの美しいお話
聞き飽きたりなんかしない
何度でも繰り返して
その至福の言葉を
愛してると

甘いささやきが、私の心をときめかす
空想上の生き物(シメール)を信じなかったら
ときに人生はつらいもの
でも安心させてくれる誓いの言葉を聞けば
悲しみは薄らぎ
口づけで心の傷は癒やされる

(第一節 繰り返し)

優しく慰撫するような歌声である。僕は終戦間近の日本の夏の日に、額に汗を浮かべながら陶然として78回転SPレコードに聴き入る武満少年の姿を幻視する。これが彼にとって音楽人生の出発点となった。

詩人・塚本邦雄はこのボワイエの歌唱を次のように評している(文中に出てくるメレとはスペインの女性歌手ラケル・メレのこと)。

......エメラルドとオパールが花影で觸れ合ひ煌めき合ふやうな美しい曲は、彼女がこの世に獻じた不壊の供物である。(中略)ジャン・ルノワールの曲もほとんど完璧であり、ボワイエの技巧も間然とするところがない。メレが蜜の甘さならボワイエは良質の冰糖の甘さ、その甘さに混るのは仄かな苦みである。

塚本邦雄「銀色のリラ リュシエンヌ・ボワイエ論」

武満徹(1930-1996)はストラヴィンスキーに認められ、ニューヨーク・フィルが初演した「ノヴェンバー・ステップス」など日本を代表する現代音楽作曲家として世界に名を轟かせたが、同時に「うた」の世界も忘れなかった。武満の「うた」は基本的に調性音楽で、大変聴き易い。中でも僕が一番大好きなのが「小さな空」。作詞も武満が手がけた。山田和樹/東京混声合唱団の演奏でどうぞ(こちら)。独唱バージョンもまた違った味わいがある(こちら)。他にも、混声合唱のための「うた」に収められた色々な曲を聴いてみてください。また、あまり知られていないが五木寛之(原作)小林正樹(監督)の映画「燃える秋」主題歌も哀愁が漂っていて良い(こちら)。ハイ・ファイ・セットが歌い、アレンジは別人の手による。

一方、武満のオーケストラ曲なら「夢の時(ドリームタイム)」と「系図ー若い人のための音楽詩」(谷川俊太郎が手がけた詩の朗読あり)の収録されたこちらのアルバムとか、「ウォーター・ドリーミング」の入ったこちらをお勧めする。

最後に、僕が推すシャンソンの名曲をいくつかご紹介しておく。

  • シャルル・トレネ Charles Trenet が歌う「ラ・メール ( La mer ) 」←「海」のこと。
  • エディット・ピアフが歌う「ばら色の人生 ( La Vie en rose )」「水に流して ( Non, je ne regrette rien )」「群衆 ( La Foule )」「パダム・パダム ( Padam padam )」
  • イヴ・モンタンが歌う「枯葉 ( Les Feuilles mortes )」「パリの空の下 ( Sous le ciel de Paris )」
  • ミレイユ・マチュー Mireille Mathieu が歌う「パリは燃えているか ( Paris en colère )」←同名映画の主題曲に歌詞を付けたもの。直訳すると「怒れるパリ」。Spotifyではこちら
  • 加藤登紀子が歌う「さくらんぼの実る頃」←パリ・コミューン時代の流行歌。宮崎駿監督『紅の豚』で使用された(こちら)。
  • ジャン・アヌイ(詞)フランシス・プーランク(曲)「愛の小径( Les chemins de l'amour )」ジェシー・ノーマンの歌唱でどうぞ(こちら)。

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2020年5月20日 (水)

わが心の歌 20選 ②「One more time, One more chance」「なんでもないや」

「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリン(=人類)の生み出した文化の極みだよ」渚カヲル〜『新世紀エヴァンゲリオン』より

One more time, One more chance(山崎まさよし)”を初めて聴いたのは 1996年12月に公開された映画『月とキャベツ』の主題歌としてだった。歌手・山崎まさよしの俳優デビュー作であり、彼は後に韓国映画のリメイク『8月のクリスマス』でも主演を務めている。

ぶっちゃけ『月とキャベツ』は死にそうなくらい退屈で、最早どんな物語だったかすら記憶にない。しかし主題歌はしみじみ「いい曲だなぁ」と想った。「でも映画の出来が悪くてもったいない。宝の持ち腐れだ」

それからすっかり忘却の彼方にあったのだが、久しぶりにこの歌を耳にしたのが2013年。DVDで鑑賞した新海誠監督のアニメーション映画『秒速5センチメートル』のクライマックスで大々的に使用されていたのである。

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これにはぶっ飛んだ。新海監督は音楽の小節ごとにピッタリ合わせて畳み掛けるようにショットを積み重ねていくので、編集にキレがある。ロバート・ワイズ監督のミュージカル映画『ウエストサイド物語』や『サウンド・オブ・ミュージック』を彷彿とさせる。この特徴は『君の名は。』や『天気の子』も同様。

長い年月を経て遂にこの歌の真価を十二分に発揮する映像にめぐり逢った、という感慨を覚えた。なんて切なくて、心にズシンと来るのだろう。Spotifyではこちら

新海監督が本作の後に世に問うた『言の葉の庭』では、主人公たちの感情が爆発する場面で大江千里(作詞・作曲)"Rain"がすこぶる印象的に使われた。槇原敬之はこの曲を2度もカヴァーしており、映画では秦基博によるカヴァー・バージョンが流れる。Spotifyはこちら。大江は大阪府に生まれ、関西学院大学(兵庫県西宮市)入学後に音楽活動を始めているので、"Rain"で歌われているのは大学のある阪急今津線(宝塚ー西宮北口)沿線の情景かな?と想像している。ちなみにこの路線は映画『阪急電車』の舞台となった。

「なんでもないや -movie ver. (RADWIMPS - 上白石萌音)」は言うまでもなく、映画『君の名は。』の幸福感溢れるエンディングに流れる歌。

ただしRADWIMPSはサブスクリプション型(定額制)音楽ストリーミングサービスで聴けないので……と書く予定だったのだが、な、な、なんと2020年5月15日から電撃的に全シングル・アルバム作品が一挙解禁となった!サウンドトラック盤の彼らのパフォーマンスはこちら。「夢灯籠」や、『天気の子』の「大丈夫」も甲乙つけ難い。加えて上白石萌音がしっとりと歌い上げるカヴァー盤も素晴らしい(こちら)。『君の名は。』三葉の声で聴けるという至福。僕は彼女の生パフォーマンスも体験している。

なおRADWIMPSの野田洋次郎が再び作詞作曲・プロデュースし、上白石萌音が歌ったのが映画『楽園』の主題歌「一縷」(Spotifyはこちら)。また野田洋次郎が楽曲提供・プロデュースしたAimerの「蝶々結び」は明らかに『君の名は。』のために書かれ、採用されなかった楽曲と思われる(こちら)。

更に、彼らが新型コロナウィルスが蔓延したこの世の中に対峙し生まれた最新曲「新世界」には衝撃を受けた(こちら)。圧倒的な絶望の闇の中に、微かに垣間見える希望の光。

僕ら長いこと 崩れる足元を
「上を向いて歩けよ」と 眼をそらしすぎた

歌詞が刺さる。あたかも宮本亜門が立ち上げた「上を向いて~SING FOR HOPE プロジェクト」に対する強烈なアンチテーゼのように耳朶に響く。『天気の子』にも通ずる社会性がある。

「希望は残っているよ。どんな時にもね」渚カヲル〜『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』より

次回はフランスのシャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」と、20世紀の日本を代表する作曲家・武満徹との密接な関係について語る予定。

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2020年5月14日 (木)

わが心の歌 20選 ① 総論 (メニュー)&「いつも何度でも」「エメ Aimer」

新型コロナウィルス感染拡大により、世の中が荒(すさ)んでいる。皆が感染防御にピリピリ神経を尖らせており、うつ病を発症したり、不安や恐怖に圧倒されて凹んでいる人々も少なくない。

そこで気分転換のすゝめ。珈琲とか紅茶でも一杯飲みながら、素敵な歌でも聴いてくつろぎませんか?一息つきましょう。

「恐怖心というものが迷信や残虐を生む。恐怖心を克服することが叡智につながる」(バートランド・ラッセル:英国の哲学者。ノーベル文学賞受賞)

Spotify, Amazon Musicなど音楽配信(サブスクリプション)サービスで聴ける曲の中から厳選した。

  • いつも何度でも(木村弓)
  • One more time,One more chance(山崎まさよし)
  • なんでもないや -movie ver. (RADWIMPS - 上白石萌音)
  • Alone Again(ギルバート・オサリバン)
  • 水の上で歌う(フランツ・シューベルト)
  • Woman 〜“Wの悲劇”より(薬師丸ひろ子)
  • 聞かせてよ愛の言葉を(リュシエンヌ・ボワイエ)
  • 小さな空(武満徹)
  • ひこうき雲(荒井由実)
  • この空を飛べたら(中島みゆき - 加藤登紀子)
  • 時には昔の話を(加藤登紀子)
  • (They Long To Be) Close To You(カーペンターズ)
  • 打上花火(DAOKO × 米津玄師)
  • 22才の別れ(伊勢正三 - 風)
  • エメ〜ミュージカル“ロミオ&ジュリエット”より(ジェラール・プレスギュルヴィック)
  • Papa Can You Hear Me ? 〜“愛のイェントル”より(バーブラ・ストライザンド)
  • Another Day Of Sun 〜“ラ・ラ・ランド”より(ジャスティン・ハーウィッツ)
  • こどものせかい 〜“マイマイ新子と千年の魔法”より(コトリンゴ)
  • The Man That Got Away 〜“スター誕生”より(ジュディ・ガーランド)
  • Unforgettable(ナット・キング・コール)

括弧内は基本的に歌手名を書いたが、フランツ・シューベルト、武満徹、ジェラール・プレスギュルヴィック、ジャスティン・ハーウィッツは作曲家名である。

19世紀(今から200年前)にシューベルトが作曲したドイツ・リートから、フランスのシャンソン(聞かせてよ愛の言葉を)やミュージカル、さらにハル・デヴィッド&バート・バカラックというコンビによる英語歌(Close To You)、日本のフォークデュオ「風」(22才の別れ)を経て、ニコニコ動画ボカロP出身の米津玄師(打上花火)まで。四つの言語、古今東西、バラエティに富む選曲になったんじゃないかなと自負している。

本当は映画『ふたり』主題歌ー大林宣彦(作詞)久石譲(作曲)「草の想い」も入れたかった。しかし残念なことに現時点ではサブスクで聴けないので断念した。

では推薦文付き各論へ。

「いつも何度でも」についてまず語ろう。言うまでもなく宮崎駿監督による国民的アニメーション映画『千と千尋の神隠し』主題歌である。レコード大賞で金賞を受賞。元々は宮崎監督が構想していた『煙突描きのリン』のために書かれたもので、その企画は結局ボツになった。しかし宮さんはこの曲を気に入り、『千と千尋』で使う事になったそう。

『千と千尋』は劇場公開された2001年夏に、当時住んでいた愛媛県新居浜市の小さな映画館で観た。花火大会の夜で、館内に花火の音が聞こえてきたことを今でも鮮明に覚えている。その後DVDで10回位鑑賞しているが、正直この歌の印象は薄かった。ところが2020年2月21日にスタジオジブリの楽曲が一斉にサブスク解禁になったので久しぶりにじっくり聴いてみると、その歌詞の素晴らしさに初めて気付き、深い感銘を受けた。

呼んでいる 胸のどこか奥で
いつも心踊る 夢を見たい

かなしみは 数えきれないけれど
その向こうできっと あなたに会える

「呼んでいる」のは誰か?それは「あなた」だろう。そして「あなた」とは、〈こころ〉の奥底にある自己SELF)ではないか、と僕は考える。

ここでアンソニー・スティーヴンズがカール・グスタフ・ユングの理論を描いた、〈こころの図〉を用いて説明しよう。〈こころ〉はドイツ語でSeele。〈魂〉とも訳され、英語ではpsycheとなる。

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円の外層にConsciousness(意識)、内層にUnconscious(無意識)があり、さらにPersonal unconscious(個人的無意識)と深層のCollective unconscious(集合的無意識)に分かれる。そして集合的無意識の中心にSELF(自己)がある。一方、表層の意識内にEGO(自我)があって、Ego-Self axis(自我ー自己軸)で自己と繋がっている。また集合的無意識内にA=Archetype(元型)が、個人的無意識の領域にはC=Complex(感情に色付けされた心的複合体)がある。

「いつも何度でも」終盤の歌詞は以下の通り。

海の彼方には もう探さない
輝くものは いつもここに
わたしのなかに 見つけられたから

「海の彼方」とは彼岸であり、日本神話で言うところの常世(とこよ)/隠世(かくりよ)を指す。住人が不老不死の理想郷で、黄泉もそこにあるとされる。キリスト教的には神のおわす天国で、プラトン哲学ではイデアだ。しかし、「わたし」のなかに見つけた「輝くもの」とは自己SELF)であり、つまり神=自己を発見したわけだ。神は「わたし」の外側にいない。この思考はユング心理学に一致する。「いつも何度でも」は自己実現を歌っていた。

プロデューサーの川村元気が『君の名は。』が受けた理由について語った言葉を借りるなら、『千と千尋の神隠し』が日本の歴代興行成績第1位になったのは、〈集合的無意識にヒットした〉ということになるだろう。

やはりサウンドトラック盤の木村弓の歌唱が良い→Spotifyではこちら

「エメ Aimer」はフランス語で「愛」のこと。フランス産ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のナンバーで、舞台ミュージカルの中で究極の名曲だと想う。途中どんどん転調し、まるで螺旋階段を駆け上っていくような高揚感がたまらない魅力!これはミシェル・ルグランなどフランス歌曲の特徴である。めくるめく陶酔。城田優(ミュージカル・スター)と生田絵梨花(乃木坂46)のデュエット(日本語歌詞)でどうぞ→Spotifyではこちら

次回は「One more time,One more chance(山崎まさよし)」、「なんでもないや -movie ver. (RADWIMPS - 上白石萌音)」について語る予定。

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2017年4月18日 (火)

三浦一馬キンテート ピアソラ&マルコーニ

4月8日兵庫県立芸術文化センター小ホールへ。

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ピアソラ・コンクールにおいて史上最年少(18歳)で準優勝したバンドネオン奏者・三浦一馬を聴く。他のメンバーは荒井英治(ヴァイオリン)、大坪純平(ギター)、黒木岩寿(コントラバス)、松本和将(ピアノ)。

今回のプログラムはアストル・ピアソラと三浦の師ネストル・マルコーニの作品が並んだ。

  • マルコーニ父子:グリス・デ・アウセンシア(不在の灰色)
  • ピアソラ:ブエノスアイレスの冬
  • ピアソラ:デカリシモ
  • ピアソラ:天使のミロンガ
  • ピアソラ:フーガ9
  • ピアソラ:天使の死
  • ピアソラ:アディオス・ノニーノ
  • マルコーニ:モーダ・タンゴ
  • マルコーニ父子:ソブレ・イマヘネス(様々なイメージについて)
  • ピアソラ:スール〜愛への帰還
  • ピアソラ:ブエノスアイレスの夏
  • マルコーニ:時が満ちて
  • ピアソラ:現実との3分間
  • ピアソラ:タンガータ
  • ピアソラ:アレグロ・タンガービレ(アンコール)
  • ピアソラ:リベルタンゴ(アンコール)

過去に三浦を聴いた時の感想は下記。

デビュー10周年だそうだが、次第に味が出てきた印象。哀感、情熱、妖しい色気、そしてブエノスアイレスの喧騒。そういった諸々の要素が一気に押し寄せて来るようだった。

あと特筆すべきはキンテート(五重奏団)のメンバーの質の高さ。荒井英治は東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを長きにわたり務め、またモルゴーア・クァルテットを結成しショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲演奏会やプログレッシブ・ロックなど意欲的な活動を続けている。松本和将も腕利きのピアニストだ。ピアソラのキンテートにも引けをとらないと想った。

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2016年5月27日 (金)

日本人とは何者なのか?〜イエスタデイ・ワンス・モア

人生も(平均寿命の)半ばを過ぎ、僕は最近「日本人とは何者なのか?」と考えることが多くなった。ひいては、「自分とは何者か?」というアイデンティティの問いでもある。

【第一章:恥】

米国の文化人類学者ルース・ベネディクトは1946年に出版した著書「菊と刀」の中で、日本を「恥の文化」と定義し、一方で欧米は「罪の文化」とした。西洋の文化はキリスト教を中心として発展してきた。この宗教は「原罪」に重きをおく。アダムとイヴがサタン(悪魔)が化けた蛇に唆されて知恵の実(りんご)を食べたことが事の発端である。日本人は一神教ではなく、八百万の神を信仰してきた。だからこのような「罪」の意識は希薄である。

恥の感覚は武士道とともに定着したと思われる。切腹という行為は正に「生き恥をさらすくらいなら死んだほうがましだ」という価値観から生じている。自殺と決定的に違うのは切腹が儀式だということ。つまり周囲に観客がいるわけだ。西洋で言えば、名誉を守るために行われる決闘に近い。相手は自分自身。この切腹の観念が、太平洋戦争における神風(かみかぜ)特攻隊に繋がってゆく。帰りの燃料はない。つまり「生き恥をさらすくらいなら、戻ってくるな」ということ。退却など端から念頭にないのだ。神風特攻隊をイスラム教徒の自爆テロと同一視する人がいるが、自爆テロの犯人は「死んだらアラーの神のもとに行ける」という宗教に裏打ちされた信念がある。幸福は死後に実現する。一方、日本人には明確な死後のvision(未来像)がない。朧月夜のように曖昧模糊、漠然としている。

この恥という観念が例えば1868年の会津戦争における白虎隊士及び武家の妻子一族の自刃(NHK大河ドラマ「八重の桜」参照のこと)や、1945年沖縄戦におけるひめゆり学徒隊(看護要員として従軍していた師範学校女子部生徒ら)の集団自決(映画「ひめゆりの塔」参照のこと)など、悲劇を産んだ。

以下、ビロウな話で恐縮です。恥ということが現代人において強く感じられるのはトイレにおいてである。日本女性は用を達する時、自らが発する音を消すために水洗を流す。この「音を他人に聞かれるのが恥ずかしい」という観念は日本人独特で、外国人女性にはない。僕は資源の無駄、エコロジーの敵だと想うのだが、おしとやかな大和撫子にそんなことを説いても馬耳東風だろう。「音姫」なる、けったいなものがあるのも日本だけだ。

なお恥じらいがあることが悪いことばかりではない。国際的に日本人は礼儀正しいことで知られるが、これも「恥をかかない」努力を常日頃怠らない成果だろう。

【第二章:イエスタデイ・ワンス・モア】

"Yesterday Once More"はカーペンターズが1973年に発表した楽曲である。当時日本の大学は学生運動で荒れ、連合赤軍による浅間山荘事件があったのが72年だった。また「なごり雪」「22才の別れ」「神田川」などフォーク・ソングが流行ったのもこの頃だ。「イエスタデイ・ワンス・モア」は昔ラジオで聴いていたオールディーズを懐かしむという内容で、本国アメリカではビルボード・トップ100で2位止まり。しかし日本のオリコン洋楽チャートでは26週連続1位を記録した。つまり半年間、トップの座に君臨し続けたのである。ここに日本人の嗜好が窺い知れる。

原恵一 脚本・監督「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国」(2001)は日本オタク大賞や雑誌「映画秘宝」の映画ベスト1(すべての洋・邦画を含めた枠)を勝ち取った大傑作アニメーションである。これは1970年に開催された大阪万博時代を懐かしむ大人たちが集団的に退行現象(幼児化)を起こすプロットである。その陰謀の首謀者がケンとチャコであり、彼らが率いる組織がイエスタデイ・ワンスモアなのである。このアニメ、海外のファンには一体どこが面白いのだがサッパリ解らず不評だそうだ。そりゃそうだろう。

「22才の別れ」「神田川」とかフォークソングは過去を振り返る後ろ向きの歌詞が圧倒的に多い。現在でも桜ソングがひとつのジャンルをなすくらいだが、桜というのは日本人の心情にピッタリと寄り添っている。

日本人が愛でるのは満開状態の桜ではない。桜吹雪にこそ、その真髄がある。散りゆく桜を眺めながら、散る前の姿に思いを馳せ諸行無常もののあはれに感じ入るのである。

桜ソングとリンクするのが卒業ソングである。この2者は同一の扱いを受けているが、じつはここに巧妙な欺瞞が仕掛けられている。だって卒業式に桜は咲いていないでしょ?桜なら入学式の筈。でも入学ソングなんて聞いたことがない。僕たちは後ろ向き思考だから。未来の方向を全く見ていないのだ。日本人はBoy Meets Girlの物語に興味を持たない。漫画「ちはやふる」で描かれる恋愛も、過去(幼少期の思い出)に囚われている。

今年5月22日にテレビ朝日で放送された「題名のない音楽会」は【平成vs昭和 いま歌いたい合唱曲の音楽会】がテーマだった。番組公式ツイッターと現役合唱団のメンバーへのアンケートにより「いま歌いたい合唱曲」を選曲し、昭和生まれと平成生まれと世代別に分けてランキングした。平成生まれが選んだのは、

  1. 旅立ちの日に
  2. 桜ノ雨
  3. 虹(森山直太朗)

であった。なんと、うち2曲が桜ソング卒業ソングだったのだ!因みにボーカロイド:初音ミクが歌う「桜ノ雨」は桜ソング且つ卒業ソングである。驚くべきことに平成生まれの若い人たちにも後ろ向き思考イエスタデイ・ワンス・モア)は浸透していたのである。

これがどれほど特異なことかは、「英語で歌われた卒業ソングを貴方は何曲挙げられますか?」という問いをすれば明白であろう。花にまつわる歌も外国では少ないよね。「野ばら」や「百万本のバラ」等いくつか散見されるけれど、日本の桜ソングは他国を圧倒している。

シェイクスピア戯曲の個人翻訳全集で有名な松岡和子は臨床心理学者・河合隼雄との対談本「快読シェイクスピア」(ちくま文庫)の中で次のようなことを語っている。

彼女があるアメリカの画家の個展のカタログ翻訳をしていた時、Melting Snowというタイトルを見て、「なんじゃ,これは?」と途方に暮れた。しかし絵の複製コピーを見て得心が行った。それは「残雪」「名残り雪」のことだった。彼女は面白いなと思った。melting「解けつつある」と表現すると、その先に見えてくるのは、雪が解けきった枯れ草の丘。この雪はすっかり解けてなくなるということが前提となっている。「未来」に目が向いた表現。一方、「残雪」は雪に覆われていた丘の風景がある「過去」に思いを馳せた表現である。大学時代の彼女のフランス語の恩師は言っていた。「日本語には未来形はないのよ。英文和訳とか仏文和訳で未来形を『…でしょう』って訳すけど、『…でしょう』が日本語として定着しているのは天気予報だけ」 ー関東地方は晴れるでしょうー

イエスタデイ・ワンス・モアの思想は日本語自体も侵食していたのである。

このことが必ずしも悪いことだとは想わない。僕自身、桜をテーマにした、めっちゃ後ろ向き思考のアニメーション、新海誠監督「秒速5センチメートル」が死ぬほど好きなのだから。

一方、欧米人の思考が未来を向いている(positive thinking)ということは、「風と共に去りぬ」の主人公スカーレット・オハラの有名な台詞(未来形)が雄弁に物語っている。

I'll think about that tomorrow. (中略)Tara! Home. I'll go home. And I'll think of some way to get him back. After all... tomorrow is another day.

(そのことはまた明日考えましょう。タラ!そうよ、我が家。お家に帰りましょう。そしてレットを取り戻す方策を考えるのよ。だって結局、明日は明日の風が吹くのですもの)

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2016年1月27日 (水)

ピアソラのバンドネオン協奏曲〜大阪交響楽団「名曲コンサート」

1月11日(祝)ザ・シンフォニーホールへ。大井剛史/大阪交響楽団の名曲コンサートを聴く。ゲストはピアソラ・コンクールにおいて史上最年少(18歳)で準優勝となったバンドネオン奏者・三浦一馬。

今回のプログラムは、

  • マルケス:ダンソン 第2番
  • ピアソラ:バンドネオン協奏曲
  • ピアソラ:リベルタンゴ(アンコール)
      《休憩》
  • J.シュトラウスII:喜歌劇「ジプシー男爵」序曲
  • J.シュトラウスII:ポルカ「クラプフェンの森で」
  • E.シュトラウス:カルメン・カドリール
  • ワルトトイフェル:スケーターズ・ワルツ
  • ヨハン&ヨーゼフ・シュトラウス:ピチカート・ポルカ
  • J.シュトラウスII:ポルカ「ハンガリー万歳」
  • J.シュトラウスII:ワルツ「美しく青きドナウ」
  • J.シュトラウスII:ラデツキー行進曲(アンコール)

メキシコの作曲家マルケスの「ダンソン」はオーケストラのみ。ピアノ・クラリネット・クラベス(拍子木)で開始され、変拍子が心地よい。ヴァイオリンがウクレレみたいな持ち方でピチカート奏法するのもなんだか愉しい。ラテンの熱風を感じた。

三浦一馬のバンドネオンは、ピアソラ自身の演奏と比べると大胆さとか野性味が欠けるのだが、逆に彼の持ち味は繊細さなのだと想う。これは奏者の資質の問題であり、どちらがより優れているという話ではない。それぞれに味がある。コンチェルトの第1楽章は情熱と色気。パリの花の薫りがした(ピアソラはパリに留学し、ナディア・ブーランジェに師事した)。第2楽章は雨に濡れた夜の舗道のイメージ。第3楽章の魅力は疾走感。僕はフランス映画「男と女」のレースの場面を想い出した。

前半は大変満足したが、後半は「ウィンナ・ワルツってやっぱり地元のオケ(ウィーン・フィル等)で聴かないと詰まらない曲だなー」と想った。三拍子は三等分ではなく、「ウィーン訛り」でなくちゃ!つまり極端に書くと「ズン・チャ・チャ」ではなく「ズ・チャッ・チャ」という感じ(一拍目が短く、二拍目が長め)。

「スケートをする人々」は僕が小学生の頃から大好きな曲で、懐かしかった。これにはカラヤン/フィルハーモニア管弦楽団の名盤(1953年録音)があり、なんと出だしのホルン・ソロをデニス・ブレインが吹いているという豪華版(ナクソス・ミュージック・ライブラリー NMLで聴ける)。カラヤンはオケを心持ち「ウイーン訛り」で弾かせているのが面白い(彼はオーストリアのザルツブルク生まれ)。ところが!1960年代にベルリン・フィルと録音した「美しく青きドナウ」はリズムを三等分で刻んでいるんだよね。誇り高き天下のベルリン・フィルにはさすがの帝王カラヤンもウィーン流儀を持ち込めなかったのか?興味深い問題である。

あとオペラの名旋律が矢継ぎ早に登場する「カルメン・カドリール」を聴きながら、「フックト・オン・クラシックス」のことを想い出した。1981年に全英アルバム・チャート1位に輝き、その後世界中で大ヒットとなったアルバムだけど、若い人は知らないよね?ディスコ・ビートに乗せてクラシックの名曲がメドレーで次々と登場する趣向なんだ。そういえば僕が高校生の時、これを吹奏楽部で演奏した記憶がある。

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2015年7月 2日 (木)

三浦一馬クインテット ガーシュウィン&ピアソラ

6月13日(土)ザ・フェニックスホールへ。

三浦一馬のバンドネオンをピアソラがライヴの基本形にしていたキンテート(バンドネオン、ヴァイオリン、ピアノ、エレキギター、コントラバスの五重奏)で聴く。

第1部 オール・ガーシュウィン・プログラム

  • ス・ワンダフル
  • 誰か私を見守って Someone To Watch Over Me
  • サマータイム
  • 私の彼氏 The Man I Love
  • 魅惑のリズム
  • ラプソディー・イン・ブルー
  • 「ガール・クレイジー」序曲

第2部 オール・ピアソラ・プログラム

  • デカリシモ
  • ブエノスアイレスの冬
  • ブエノスアイレスの夏
  • 天使へのイントロダクション
  • 天使のミロンガ
  • 天使の死
  • リベルタンゴ(アンコール)
  • アレグロ・タンガービレ(アンコール)

ガーシュウィンにはパーカッション(石川智)が加わった。

三浦は以前、師匠との共演を聴いている(2013年)。彼のプロフィールもそちらの記事に書いたので、ご参照あれ。

ヴァイオリン奏者が見たことある人だなと思ったら、モルゴーア・クァルテットの荒井英治だった。今年の5月に東京フィルハーモニー交響楽団ソロコンサートマスターを勇退したばかり。

ガーシュウィンはJazzなので、何だか聴きながらお酒でも飲みたくなった。

「ス・ワンダフル」はバンドネオンでJazzというのがしっくりこず違和感がつきまとったが、「誰か私を見守って」や「私の彼氏」はしっとり歌っていい感じ。「サマータイム」は楽器が咽び泣く。「魅惑のリズム」ではアドリブが弾けていた。「ラプソディー・イン・ブルー」は(原曲ではクラリネット・ソロの)冒頭から意外と合っているなぁと感心した。また山田武彦が弾くピアノには「スタインウェイ ニューヨーク」と印字されており(通常はハンブルク製)、こだわりが感じられた。

「デカリシモ」は華麗、「ブエノスアイレスの夜」は哀感、「ブエノスアイレスの夏」には滾るパッションがあった。「天使の死」はバンドネオンとヴァイオリンとの掛け合いがスリリング。

「アレグロ・タンガービレ」はお洒落で都会的。洗練されていた。

2年前と比較して三浦のバンドネオンは更にスケールが大きくなったように感じられた。そしてピアソラの音楽は様々なアレンジがあるけれど、やはりオリジナルのキンテートが最高!だと想った。

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2013年2月 1日 (金)

ドーヴァー海峡の向こう側 2013(アイリッシュ・フルート、ハープ&チェンバロ)

1月27日(日)、大阪府豊中市のノワ・アコルデ音楽アートサロンへ。

守安功/アイリッシュ・フルート、ホイッスル、リコーダー
守安雅子/アイリッシュ・ハープ、コンサーティーナ、バゥロン
平井み帆/チェンバロ で、

  • あなたは私のペギーを見ていない
    (アンドリュー・アダム@スコットランド)
  • ミセス・ウォーラー
    (ターロック・オキャロラン@アイルランド)
  • グラウンド(ジョン・ブロウ)@イングランド
  • 小鳥愛好家の楽しみ(作者不詳)@イングランド
  • 本の歌(アイルランドの伝統音楽)
  • ミセス・ディレイニー/プランクスティ・オルーク/
    ミセス・エドワーズ(オキャロラン)
  • サリー・ガーデンズ(アイルランドの伝統音楽)
  • 長老派のホーンパイプ(作者不詳@イングランド)/
    グラウンド(ゴッドフリー・ケラー)
  • 組曲第4番(マシュー・ロック@イングランド)
  • 雅の島(フィル・カニンガム@イングランド)
  • 私は眠っている(アイルランドの伝統音楽)
  • フィーナ湖のほとり(スコットランドの伝統音楽)/
    ホグタイズ・リール(フィル・カニンガム)
  • エレナー・プランケット/ブリジット・クルーズ
    (オキャロラン)
  • リコーダーの名人(ジョン・ヤング 出版)より
     トランペットの調べ/アバディーンの美女ディーン
     (スコットランド民謡)/すべての営みに潜む魂/美しい森/
     ウィンチェスターで結婚式があった/ダイモンの踊り
  • イニシア島"Inisheer"(トマス・ウォルシュ@アイルランド)
  • 愛のグラウンド(ゴッドフリー・フィンガー)
  • 無伴奏チェロ組曲第1番よりジーグ(J.S.バッハ)
  • 映画「タイタニック」3等船室の音楽(アイルランド舞曲)

サリー・ガーデンズ」は当初プログラムになかったが、コンサートを聴きに来ていた古楽歌手の丸谷晶子さんに守安(功)さんが呼びかけ、飛び入り参加で実現した(「事前にお願いするとギャラが発生しますから」と守安さん)。大好きな曲なので嬉しかった。

あなたは私のペギーを見ていない」は1710年の作曲。

全盲の吟遊詩人ターロック・オキャロランについて守安さんは「アイルランド古来のパープの伝統と、当時の最先端だったヴィヴァルディ、コレルリなどイタリアのバロック音楽、そして民族音楽が渾然一体となっている」と解説。260曲あるオキャロランの楽曲を守安夫妻が全曲録音するプロジェクト(世界初)が現在進行中。

グラウンド」(ジョン・ブロウ)はチェンバロ・ソロ。1600年代後半の作品。

小鳥愛好家の楽しみ」はソプラニーノ・ソロ。1717年に出版された”小鳥に歌を教える本”だそう。森のひばり、カナリア、ナイチンゲール、ムクドリ、ベニヒワ、鷽(ウソ)鳥など。

本の歌」は引越しで本を運んでいた舟が沈んでしまい、その本たちへのLamentation(哀歌、鎮魂曲)。

オキャロランの3曲はチェンバロとハープのデュオ。曲名はそれぞれパトロン、あるいはその妻の名前である。

マシュー・ロックはリコーダー&チェンバロ。トリッキーな伴奏が独特の味わい。

雅の島」はコンサーティーナ&チェンバロ。

私は眠っている」はアイルランドの葬式でしばしば演奏される楽曲だそう。

フィーナ湖のほとり」は守安さんの解説によるとフリーリズム=「追分形式」と。

ブリジット・クルーズ」はオキャロラン初恋の相手の名前。

リコーダーの名人」という楽譜は全部で179曲もあるという。

また客席からのリクエストでスプーン2本を背中合わせにして打楽器として用いるスプーンズ&ホイッスルの演奏も披露して下さった。

J.S.バッハのジグはリコーダー&チェンバロ&バウロンで。こういう編成、速いテンポで聴くと「ああ、この曲はやっぱり踊りの曲なんだな」と新鮮。凄くいいね!

いつもながら盛り沢山で愉しい演奏会だった。また行こう。

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2013年1月 7日 (月)

ネストル・マルコーニ&三浦一馬「バンドネオン・ヒーローズ」

12/12(水)兵庫県立芸術文化センター小ホールへ。

Marco

ネストル・マルコーニ(バンドネオン)、三浦一馬(バンドネオン)、フランソワ・キリアン(ピアノ)で、

  • マルコーニ/モーダ・タンゴ(トリオ)
  • バルカルセ/ラ・ボルドーナ(マルコーニ)
  • トロイロ/スール《南》 ラ・ウルティマ・クルダ(マルコーニ)
  • マルコーニ/ロブスタンゴ(マルコーニ)
  • ピアソラ(マルコーニ編)/アストル・ピアソラへのトリビュート
      バンドネオン協奏曲「アコンカグア」より2つのカデンツァ
      天使の死/来るべきもの/デカリシモ/マリアのテーマ
      ブエノスアイレスの夏/アディオスノニーノ
    (マルコーニ)
  • ピアソラ/忘却(三浦&キリアン)
  • ピアソラ/天使のミロンガ(三浦&キリアン)
  • マルコーニ/ティエンポ・エスピラード(三浦&キリアン)
  • ピアソラ/リベル・タンゴ(三浦&キリアン)
  • マルコーニ/グリス・デ・アウセンシア(マルコーニ&三浦)
  • ピアソラ/現実との3分間(トリオ)

アンコールは

  • 作曲者不詳/コラレーラ 
  • ロドリゲス/ラ・クンパルシータ
  • マルコーニ/モーダ・タンゴ

ラ・ウルティマ・クルダ」とは「最後の酔い」という意味だそう。

三浦一馬は1990年生まれ。2006年別府アルゲリッチ音楽祭でマルコーニと出会い、アルゼンチンへ渡る。2008年イタリアで開催された国際アストル・ピアソラ・コンクールで日本人としては初、史上最年少で準優秀を果たす。

師弟共演。その親密さが微笑ましかった。情熱的で攻撃的なピアソラのバンドネオン演奏と比べると、マルコーニは穏やかで落ち着いた感じ。安定感がある。対して三浦くんは若さ故の勢いがあるが、ちょっと危なっかしい面も。

アンコールのラ・クンパルシータは予定になかった曲目で、即興演奏。三浦くんの緊張感がこちらにも伝わってきた。

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