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2024年6月10日 (月)

石原さとみの熱い叫びを聴け! 映画「ミッシング」(+上坂あゆ美の短歌)

評価:A

Missing

映画公式サイトはこちら。

石原さとみは熱い女(ひと)だ。7年前に「変わりたい、自分を壊してほしい、私を変えてくれる人は誰か」と沢山映画を観て吉田恵輔監督に白羽の矢を立て、出演を直談判した。しかし「すみません、苦手です。僕の作品にあなたは華やか過ぎる」と断られた。しかし彼女は諦めなかった。

僕が本作で感じたのは、監督の直感が正しかったということだ。

ボディソープで洗ってわざと髪を痛め、半分茶髪、根っこの方は黒髪が生えているボサボサの状態で撮影に臨んでも、彼女の美しさ、内面から溢れてくる輝きは覆い隠すことが出来なかった。映画を観ている途中に「(物語の舞台となる)沼津のようなド田舎に石原さとみはいね〜よ!」と思った。

僕には土地勘がある。大学生の時に沼津駅で下車し、沼津港から千鳥観光汽船に乗り西伊豆の戸田まで旅をしたことがあるのだ。福永武彦が書いた大好きな小説『草の花』の旅を追体験したかったからである(今回調べてみると、この航路は2014年に定期便が廃止されたらしい)。

歌人・上坂あゆ美(1991年静岡県沼津市生まれ)が故郷について詠んだ短歌をいくつか思い出した。

・ 撫でながら母の寝息をたしかめる ひかりは沼津に止まってくれない
・ 沼津市で熱量があるものすべてダサいと定義していた青春
・ 富士山が見えるのが北という教師 見える範囲に閉じ込められて
・ あぜ道を走るラベンダー色の自転車 あの子はきっと東京に行く

閉塞感がひしひしと感じられる。上坂本人も高校卒業後に上京した。そして石原さとみは正に「ラベンダー色の自転車」に乗る少女だと思った。ハイカラで眩しくて灰色の沼津の風景には全く馴染まない。

それでも彼女の熱演は高く評価したい。やっと代表作と言える作品に出会えて本当に良かったね。

映画の出来も素晴らしかった。吉田恵輔監督作品の系譜の中では『空白』に近い味わいだが、より深化している。僕は本作の方が好きだ。

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