哀れなるものたち
評価:A+
ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞。アカデミー賞では作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞など11部門にノミネートされている。これはクリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』の13部門に次ぐもの。映画公式サイトはこちら。
R18+指定の本作を観終えた瞬間、僕は「セックスはスポーツだ!」と思った。既に『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞を受賞しているエマ・ストーンが「そこまでしなくても」と言いたくなるくらい全編に渡り脱ぎまくるわけだが、不思議と嫌らしさとか不快感はない。エマは今回プロデューサーも兼任しているわけで「男たちの欲望により、本人の意志に反して無理やり脱がされている」という雰囲気が全くないからだろう。むしろセックス・シーンは爽快に汗をかいているという開放感すらあった。
一体誰が「哀れなるものたち(Poor Things)」なのか?それは主人公ベラに対して、「父権主義」を振りかざす男たちのことだというのが僕の解釈だ。助平親父を演じたマーク・ラファロが秀逸。ベラを支配するつもりが精神的に急速に成長する彼女に置いてきぼりにされ、映画後半未練たらしくつきまとう姿は滑稽で爆笑した。今年のアカデミー助演男優賞候補の中ではアイアンマン(『オッペンハイマー』のロバート・ダウニー・Jr.)が優勢とされているが、超人ハルク(映画では三代目)も頑張れ!と応援したくなった。
ヨルゴス・ランティモス監督は『籠の中の乙女』『ロブスター』『聖なる鹿殺し』といったこれまでの作品で一貫して、父親・社会・神(『聖なる鹿殺し』でバリー・キオガン演じる謎の少年マーティン)といったものから一方的に押し付けられる不条理なルールに主人公が絡め取られ、苦悩する映画を撮ってきたわけだが、本作のベラは赤ん坊の脳を移植されることで「純粋無垢」という資質を獲得しており、そういった社会規範・コードから軽やかに抜け出してどんどん先に進んでいく。そこに監督が今回切り開いた新世界を見たし、〈エマ・ストーン〉力でもあるのかも知れない。
僕が今までで一番強烈な印象を覚えた映画のヒロインは中学生の時に初めて観た『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラで、彼女もアメリカ南北戦争当時の社会規範から逸脱した存在だ。あれから40年を経て、ようやくスカーレットに匹敵するキャラクターに出会えたと嬉しくなった。
あと、人工的な海に浮かぶ船を見て真っ先に連想したのが『フェリーニのアマルコルド』。帰宅し調べてみると案の定、監督が脚本家に渡した参考資料にフェリーニの『そして船は行く』が含まれていたという記事を見つけた(こちら)。
『哀れなるものたち』が持つフェリーニ的強烈な色彩感とか幻想性といった特徴は『ロブスター』や『聖なる鹿殺し』には認められない。ベラ同様ヨルゴス・ランティモスも本作でNext Stageに突き抜けた!、と快哉を叫びたくなった。
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コメント
確かに、Next Stageに突き抜けた感はありますね〜(笑)
投稿: onscreen | 2024年2月11日 (日) 15時22分
ヨルゴス・ランティモス監督は既に次作を撮り終えていて、そこでもエマ・ストーンと組んでいるようですね。
投稿: 雅哉 | 2024年2月14日 (水) 08時16分
そうなんですかー
そちらでもまた凄い展開なのでしょうか(汗)
投稿: onscreen | 2024年2月17日 (土) 16時07分