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2023年7月12日 (水)

原田慶太楼(指揮)/関西フィル:ファジル・サイ「ハーレムの千一夜」と吉松隆の交響曲第3番

6月16日(金)ザ・シンフォニーホールへ。

原田慶太楼/関西フィルハーモニー管弦楽団で

 ・ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
 ・ファジル・サイ:ヴァイオリン協奏曲「ハーレムの千一夜」
 ・吉松隆:交響曲第3番

ヴァイオリン独奏は服部百音。原田も服部もこれが関西フィル定期デビューだ。

Kan2

原田慶太楼といえば10年間、作曲家で自作の指揮もするジョン・ウィリアムズのアシスタントを務め、ジョンからの信頼が厚いことで有名である。今年も大スクリーンで映画を上映しながら生演奏する「スター・ウォーズ」シネマ・コンサートを東京・大阪で振るらしい。

服部百音は現在23歳。テレビドラマ「王様のレストラン」「新選組!」「真田丸」「半沢直樹」や舞台ミュージカル「オケピ!」で有名な作曲家・服部隆之の娘。すなわち「音楽畑」シリーズを作曲した服部克久の孫にあたる。超名門の音楽一家だ。お母さんの服部エリもヴァイオリニストだそう。現在は桐朋学園大学音楽学部大学院に在学中で、スイスのザハール・ブロン・アカデミーにも在籍している。因みにザハール・ブロンの門下生には樫本大進(ベルリン・フィル第1コンサートマスター)、庄司紗矢香、神尾真由子、木嶋真優らがいる。

「運命の力」序曲は緊張感に満ち、切れのある演奏。原田は激しくテンポを揺らす。全身全霊を傾けた圧巻のパフォーマンス。あまりに体の動きが凄まじいので、将来【むち打ち/頸椎損傷/頸椎ヘルニア/頸椎靭帯骨化症】といった指揮者特有の職業病になるんじゃないかと心配になった。

トルコのピアニスト/作曲家ファジル・サイのコンチェルトは打楽器が大活躍する。トルコの太鼓クドゥムがステージ前方に配置され、指揮台の両サイドでヴァイオリンと丁々発止のやりとりを展開する。打楽器の使い方がフランスの作曲家モーリス・ジャールに近いなと思った。ジャールがアカデミー作曲賞を受賞した映画「アラビアのロレンス」で主人公が戦うのはトルコの前身・オスマン帝国である。

 ・ シリーズ《映画音楽の巨匠たち》第3回/モーリス・ジャール 篇

「ハーレムの千一夜」は「アラビアン・ナイト」をモチーフにした作品であり、リムスキー=コルサコフの交響詩「シェヘラザード」と密接に繋がっている。ミニマル・ミュージックの旗手ジョン・アダムスにもヴァイオリンと管弦楽のための「シェヘラザード2」という作品があり、3つを聴き比べるのも一興であろう。

服部百音はまるで「アラビアン・ナイト」 に出てきそうな衣装で登場。とても美しく素敵だった。ヴァイオリンの線は細いがパッションがあり、聴き応え十分。トルコの有名な歌による変奏曲の第3楽章は官能的だった。

吉松隆の音楽といえば「朱鷺によせる哀歌」とかピアノ曲「プレイアデス舞曲集」など静謐なイメージが強い。シベリウスと宮沢賢治が大好きな人だし(こんなエッセイも書いている)。

ところが!交響曲第3番はその印象を見事に覆す作品で、barbarism(野蛮/未開)と抒情の複合体(complex)。相反する感情がぶつかり合う。第1楽章アレグロで噴出するマグマは手塚治虫の「火の鳥 黎明編」を想起させる。一転、ジャズやロックがごった煮の第2楽章スケルツォは都会の喧騒。「鉄腕アトム」で描かれた“来たるべき世界”が僕の目の前に広がる。第3楽章アダージョを経て、第4楽章フィナーレでは太陽の光が燦々と降り注ぎ、太陽に突っ込んでいく「鉄腕アトム」最終話を思い出す(元ネタはギリシャ神話イカロスの翼だろう)。この熱狂はエマーソン・レイク&パーマーの「タルカス」やレナード・バーンスタイン「ウエスト・サイド・ストーリー」の“マンボ”に通じるものがあると感じられた。

コンサート会場に吉松隆本人も来ており、終演後ステージに。演奏に大満足したのだろう、満面の笑みだった。

どうして僕はこのシンフォニーから「鉄腕アトム」を連想したんだろう??帰宅して調べてみるとビンゴ!吉松はTVアニメ「アストロボーイ・鉄腕アトム」の音楽を担当していたことが判明した(知らなかった)。「アトム・ハーツ・クラブ」という作品もある。

鮮烈な印象を残した原田慶太楼の関西フィル・デビュー。次回は定期演奏会のプログラムにジョン・ウィリアムズをぶち込んで欲しい。そして才能豊かな彼は近い将来ベルリン・フィルの指揮台に立つ日が来るだろうと今から予想する。その時は是非、吉松隆をお願いします。

 ・ シベリウスと吉松隆、そして宮沢賢治〜関西フィル定期 2015.11.01
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吉松隆/交響曲第6番初演と、天使に関する考察~いずみシンフォニエッタ大阪 定期 2013.07.18

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