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2023年7月14日 (金)

謎に包まれた宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」最速レビュー

7月14日(金)宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」が遂に公開された。引退詐欺の「風立ちぬ」公開が2013年7月20日だから10年ぶりの新作である。

 ・ 宮崎駿監督「風立ちぬ」批判に徹底反論する(堀辰雄「菜穂子」を通して) 2013.08.19
 ・ 宮崎駿「風立ちぬ」とモネの「日傘を差す女」 2013.08.21
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想像力についての考察(「風立ちぬ」「桐島」そして「秒速5センチメートル」を巡って) 2013.08.23
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宮崎駿「風立ちぬ」とエリア・カザン~ピラミッドのある世界とない世界の選択について 2013.08.28

評価:A+

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公開前宣伝一切なし。予告編なし。ポスターの絵一枚だけ。どんな物語かすら分からない。異例ずくめである。公開後も当面パンフレットを売らないそうで、徹底した秘密主義が貫かれている(パンフレットに写真を載せないわけにはいかないし、そこからネット上に拡散されるのを防ぐ狙いだろう)。

これまでのスタジオジブリ作品で採られていた複数の企業が出資する映画製作委員会方式(例えば「千と千尋の神隠し」では徳間書店・スタジオジブリ・日本テレビ・電通・ディズニー・東北新社・三菱商事が組んだ)ではなく、 ジブリの単独出資で製作されている。大胆な賭けに出たリスクは全てスタジオが負い、自己責任を果たすいうことだ。

作画監督はこれまで「千年女優」や「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」を手掛けてきた本田雄(ほんだたけし)。当初本田は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の作画監督に内定していたが、鈴木敏夫プロデューサーが庵野秀明監督に直談判しジブリに引っ張ってきたらしい。三鷹の森ジブリ美術館の「土星座」で上映された宮崎監督の短編「毛虫のボロ」でも作画監督を務めた。

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以下、あらすじを含め何を語ってもネタバレになる。

 

心の準備はよろしいか?

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冒頭、主人公の少年の着ている衣服が「風立ちぬ」に近かったので面食らう。やがて設定が第二次世界大戦中の日本だと分かってきて、ありゃりゃ、零戦の設計者・堀越二郎が生きた時代じゃないかと思った。疎開先のお屋敷に零戦の操縦席に取り付ける防風ガラスと思しきものが運び込まれる場面もある(宮崎駿の父親は零戦を製作していた中島飛行機に部品を納入していた)。鈴木プロデューサーの話では“冒険活劇ファンタジー”だった筈では??と疑問符がグルグル頭を回り始める。そこから急転直下、事態は大きく動いた。

主人公が異世界に行き、戻ってくるので物語の基本構造は「千と千尋の神隠し」に似ている。そこに「天空の城ラピュタ」の飛行石みたいな物体が出てきて、ヒロインの少女は火を操るので「ハウルの動く城」の悪魔カルシファーだし、彼女の格好はまるで「不思議の国のアリス」(アリス同様、主人公は落ちて異世界に行く)。そして主人公を食べようとするインコの集団はアリスに飛びかかるトランプみたい。可愛らしい生き物〈ワラワラ〉は「もののけ姫」の〈こだま(木霊)〉で、死者が船を漕ぐ場面は「崖の上のポニョ」。「ハウルの動く城」に出てくるそれぞれ別の空間につながる扉みたいなものもある。「眠れる森の美女」がいて、七人の老婆は「白雪姫」を見守る小人たちだ(ビリー・ワイルダーが脚本を書いたハワード・ホークス監督「教授と美女」を思い出した)。さらに宮崎駿が愛してやまない江戸川乱歩の「幽霊塔」やフランスのアニメーション映画「王と鳥(やぶにらみの暴君)」(アンデルセン原作/ポール・グリモー監督)スイス出身の画家アルノルト・ベックリンの代表作「死の島」もぶち込まれている。

Ghost

Tori

Death

あとポスターで描かれた鳥人間はハウルであり、「千と千尋の神隠し」で湯婆婆に仕えている湯バード(身体はカラスで顔が湯婆婆)ね。それと都会に住んでいた父と子が田舎に引っ越してくるのと、木のトンネルをくぐり抜けるのは「となりのトトロ」。

これは間違いなく宮崎アニメの集大成であり、かつ様々なファンタジー作品のガジェットがてんこ盛りにされている。

イマジネーションの飛翔、迸るイメージの奔流に圧倒された。掛け値なしの傑作。

ただ映画の上映が終わり場内が明るくなると「難しかったね」「もう1回観ないとよくわからない」というカップルの声が聞こえてきた。そういう感想も少なくないのかも知れない。

音楽が久石譲で主題歌が米津玄師という組み合わせはアニメーション映画「海獣の子供」と同じ座組だ。ただ米津に白羽の矢が当たったのは宮崎駿がたまたまラジオで「パプリカ」を聴いて気に入ったかららしい。

 ・ 大切なことは言葉にならない〜【考察】映画「海獣の子供」をどう読むか? 2019.06.22

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投稿: onscreen | 2023年7月21日 (金) 11時59分

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