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2023年6月

2023年6月23日 (金)

柳家喬太郎独演会@兵庫芸文 2023

5月21日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。柳家喬太郎独演会を聴く。

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昼席

 ・春風亭かけ橋:小言念仏
 ・柳家喬太郎:百川
 ・寒空はだか:漫談
 ・柳家喬太郎:錦木検校

夜席

 ・春風亭かけ橋:闇が広がる
 ・柳家喬太郎:残酷なまんじゅう怖い
 ・寒空はだか:漫談
 ・柳家喬太郎:当世女甚五郎

かけ橋の『闇が広がる』は歌舞伎を題材にした古典落語『七段目』と宝塚歌劇の人気演目「エリザベート」を掛け合わせたパスティーシュで、実際に『闇が広がる』が歌われる。他にミュージカル「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」「美女と野獣』にも言及され、面白かった!

喬太郎は青森県の名物【味噌カレー牛乳ラーメン(バターのせ)】の話題をマクラで。美味しくて病みつきになり、青森再訪時にもまた食べに行ったそう。

彼は二つ目の頃、「キョンキョンと呼んでください」と盛んに高座で言っていた。するとある日、演芸専門の月間誌『東京かわら版』に小泉今日子のエッセイが掲載されており、「落語界にもキョンキョンがいるそうで」と書かれていて赤面した。どうやら彼女は「キョンキョン」というキーワードでエゴサーチし、喬太郎のことを知ったらしい。お気に入りの演目は『午後の保健室』(ここで場内爆笑)。2017年に小泉今日子は落語の人情噺を原作とする舞台『名人長二』をプロデュース。喬太郎は劇場に足を運び、ロビーに立っていた小泉に挨拶しようと近づくと彼女が気が付いて、「もしかして、キョンキョン?」と声を掛けてくれたという。元祖に言われたら、こんなに嬉しいことはないよね。実に愉快なエピソードで客席は大いに盛り上がった。

昼席の古典はいずれも何度か喬太郎の高座で聴いたことのあるネタだったので残念。夜席は新作の会なので『怪奇大作戦』が出囃子に使われたのが嬉しかった(通常は『まかしょ』)。

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ヒラリー・ハーンが弾くベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ@兵庫芸文

6月3日(土)兵庫県立芸術文化センターへ。

Hahn

ヒラリー・ハーンのヴァイオリン・リサイタルを聴く。ピアノはアンドレアス・ヘフリガー。

 ・ ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第9番「クロイツェル」
 ・ ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第10番

アンコールは、

 ・ J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より サラバンド
 ・ ワーグナー(リスト編):トリスタンとイゾルデより 愛の死 (ピアノ独奏)
 ・ 佐藤聡明:微風

『微風』はヒラリー・ハーンが17ヶ国26人の現代作曲家にヴァイオリンとピアノのためのアンコール・ピースを委嘱したもので、大島ミチルの『Memories』と共に「27の小品集」というCDに収録されている。

彼女を聴いた過去の感想は以下の通り。

 ・ ヒラリー・ハーン@兵庫芸文 2016.06.20
 ・ ヒラリー・ハーン/ヴァイオリン・リサイタル@兵庫芸文 2013.05.20
 ・ 
ヒラリー・ハーン/ヴァイオリン・リサイタル 2009.01.14

2009年の記事で僕は「アメリカのヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンはまるで妖精のような人だ」と書いた。あれから14年。彼女は現在43歳で、さすがにティンカー・ベルとは言えなくなったけれど、妖艶な人になった。髪の毛は白いものが混じり、演奏中はメガネを掛けるようになり、時が経つのは早いなぁと思った。

兵庫芸文では7年ぶりのコンサート。実は今回と同じ出演者・プログラムで2022年2月24日に公演が予定されていたのだが、新型コロナウイルス感染症の水際対策強化のため中止になってしまった。

前回は紙の楽譜だったが、今回はiPadに。音の線は細いが弱々しくはなく、針金のように芯が強い。表情は繊細で透明感がある。

「クロイツェル」の終楽章はしなやか。水を跳ねる魚のよう。

ソナタの第10番は陽だまりの音楽。第5番「春」みたいに朗らかなベートーヴェン。冒頭のトリルからは鳥の囀りが聴こえてくる。このソナタは作品96で、作品93の交響曲第8番と同じ1812年に作曲された。第9番「クロイツェル」作品47が作曲されたのは1803年なので、交響曲第3番「英雄」作品55が完成する1年前である。だから両者には9年の隔たりがあり、作風が大いに異なる。

第10番の明るさは3年間に及ぶ新型コロナ禍で溜まった鬱憤を吹き飛ばしてくれるような趣があり、何だかウキウキときめく心持ちになった。

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2023年6月16日 (金)

山田和樹(指揮)ガラ・コンサート「神戸から未来へ」@神戸文化ホール〜何と演奏中に携帯電話が鳴るハプニング!

5月19日(金)「神戸から未来へ」と題されたガラ・コンサートへ行った。神戸文化ホール開館50周年記念事業だそう。

Gala

プログラムは、

 ・ 武満徹:系図 ー若い人たちのための音楽詩ー(岩城宏之編曲・室内管弦楽版)
 ・ 大澤壽人:ベネディクトゥス幻想曲(1944 演奏会として世界初演
 ・ 武満徹:うた より(小さな部屋で/見えないこども/恋のかくれんぼ)
 ・ 神本真理:暁光のタペストリー(委嘱新作・世界初演
 ・ 山本直純:管弦楽と児童合唱のための えんそく
 ・ 信長貴富:未来へ(アンコール・オーケストラ伴奏版初演

演奏者は以下の通り。

山田和樹(指揮)/神戸室内管弦楽団・神戸市混声合唱団・神戸文化ホール50周年記念児童合唱団

ヴァイオリン独奏:高木和弘、アコーディオン:大田智美、語り:宇田琴音(15歳)

武満徹の『系図(Family Tree)』は10代の少女が谷川俊太郎の詩集『はだか』から選ばれた6つの詩を朗読するのだが、僕は今まで初演の遠野凪子をはじめ、上白石萌音、のん(能年玲奈)、山口まゆ、白鳥玉季らの語りで聴いている。音源は残されていないが浜辺美波もステージでやったことがあるそう。

 ・ 武満徹「系図(ファミリー・トゥリー)-若い人たちのための音楽詩-」を初めて生で聴く。(佐渡裕/PACオケ) 2022.01.26

今回の室内楽版は岩城宏之が音楽監督を務めていたオーケストラ・アンサンブル金沢と演奏するために編んだもので僕は初体験。でも全く違和感はなかった。繊細で極上の演奏に大満足。

大澤壽人(おおさわひさと、1906-53)は神戸市出身の作曲家。日本人にも殆ど知られることなく、ピアノ協奏曲 第3番「神風協奏曲」などNAXOSから発売された一連のCDで「再発見」されたと言っても過言ではない。

初演となるベネディクトゥス幻想曲は〈ヴァイオリン独奏と混声合唱と管弦楽〉のための作品でカソリック教会のミサ典礼文から次の2文がひたすら繰り返される。

Benedictus qui venit in nomine Domini. 
神の名のもとに 来られる方に 祝福がありますように

Hosanna in excelsis.
いと高きところに 栄光あれ

自筆譜に書かれた創作の日付は「1944年5月」。第二次世界大戦の最中であり、野坂昭如(著)『火垂るの墓』で描かれた神戸大空襲が1945年なので、その前夜ということになる(神戸は1945年1月3日から終戦までの約8ヶ月間に大小合わせて128回の空襲を受けた)。祈りの中に一瞬の光が垣間見られ、静謐で美しい楽曲だった。天衣無縫のヴァイオリン・ソロも素敵。

神本真理は1975年神戸生まれの作曲家。その新作は正直、心に残るものが何もなかった。

山本直純(1932-2002)は10年間放送されたTBSのTV番組『オーケストラがやって来た』の司会者・指揮者としての印象が強い。今でもよく覚えているのは1978年に『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を特集した回で、例えば“王座の間とエンド・タイトル”の冒頭部はメンデルスゾーンの結婚行進曲(『夏の夜の夢』)にインスパイアされたのではないかと語り、続く弦楽器の旋律とエルガー『威風堂々』第1番(中間部『希望と栄光の国』Land of Hope and Glory の箇所)との類似性についての指摘がすこぶる面白かった(当時僕は小学生)。『男はつらいよ』シリーズとか、童謡『一年生になったら』『8時だョ!全員集合』の音楽で知られる山本だが、現代音楽作曲家として取り上げられることはなく、近年めっきり演奏されなくなったが、どっこい『えんそく』は小学生の学童が歌う朗らかで可愛らしい楽曲でとっても楽しい!身振り手振りによる表現もあり、山田マエストロもノリノリ。微笑ましく、心がほっこりした。その情景は最近観た、指揮者が主人公の映画『TAR/ター』ラスト・シーンに重なるものがあった。

 ・ クラシック通が読み解く映画「TAR/ター」(帝王カラヤン vs. バーンスタインとか)

アンコールの『未来へ』は谷川俊太郎(詩)・信長貴富(作曲)の同声二部合唱曲が原曲。オケ版初演となった。

プログラム前半の演奏中に、会場の携帯電話の着信音が2回鳴った(多分別の場所)。音響の悪い古いホールだが、ここは電波遮断装置すらないのか!こんな経験は20年ぶりくらいで、せっかく充実した内容だっただけに興ざめだった。帰宅し調べたところ施設の老朽化が著しいため神戸市は三宮駅周辺に新ホールを建設し2025年に移転する計画だという。やれやれ(最後は神戸に縁が深い村上春樹風に)。

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2023年6月 2日 (金)

【考察】空耳力が半端ない!YOASOBI「アイドル」英語版/「推しの子」黒川あかねの覚醒

こちら↓も併せてお読みください。

 ・ 【考察】全世界で話題沸騰!「推しの子」とYOASOBI「アイドル」、45510、「レベッカ」、「ゴドーを待ちながら」、そしてユング心理学

ヒットチャートを爆走中のテレビ・アニメ『推しの子』主題歌・YOASOBI『アイドル』英語版“Idol”を聴きながら、テレビ朝日系列の深夜バラエティ番組『タモリ倶楽部』の名物コーナーだった“空耳アワー”を思い出した。多分多くの人が同じ感覚を味わったのではないだろうか?試聴はこちら

Idol

具体例を挙げよう。“that emotion”の箇所が「誰も」にしか聞こえない。また“Damn it !”というスラングがあり、「ちくしょう!」「くそ!」といった意味。これを短縮すると“dammit”になる。『アイドル』の中で “dammit,dammit” と連呼されるのだが、これが「ダメダメ」に聞こえるといった具合。逆に英語版の後に日本語版を聴くと、「誰も」 が“that emotion” に聞こえるという摩訶不思議な体験が味わえる。訳詞を担当したKonnie Aokiは凄腕だ。

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ネタバレ警告!以下、アニメ第七話の内容について触れます。

番組をご覧になった後にお読みください。

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アニメ『推しの子』第七話【バズ】は視聴者から「第一話に匹敵する神回!」と称賛された。僕も最後に黒川あかねが覚醒する姿を観て鳥肌が立った。

あかねは劇団「ララライ」に所属し女優として活動する高校2年生。子役時代は劇団「あじさい」に所属していた。これは間違いなく劇団ひまわりのパロディで、「ひまわり」が8月、太陽の季節なら「あじさい」は6月の雨。しっとり濡れた感じがあかねのイメージに相応しい。

第七話の最後に、ファンの手で殺された星野アイ(自称“歌い踊り舞う私はマリア”)が黒川あかねを依代(よりしろ)に降臨するわけだが、つまりあかねは巫女(日本の東北地方北部ではイタコと呼ばれる)の役割を果たしていると言えるだろう。

あるいは、あかねが憑依型の女優であるという解釈も可能なわけで、僕は美内すずえの漫画 『ガラスの仮面』で泥まんじゅうを食べた北島マヤのことを真っ先に思い出した。ネットの評判の中にも「黒川あかね、おそろしい子」というのがあり大爆笑。往年の大女優・月影千草が、当時中学生だった北島マヤの才能を見出した時の台詞である。ガラ仮面を連想したのが僕だけではなかったと分かり、嬉しかった。

考えてみればアイドル(偶像)とファンの関係って、宗教に似ている。「神曲」とか「布教活動」「お布施」といったオタク用語もそのままズバリだ。アイを刺殺した男も彼女を愛していた訳で、イエス・キリストとユダの関係に置き換えることが出来るだろう。ユダがイエスを裏切った後、絶望し自殺したのも符合する。

死者が生者を支配する世界。『推しの子』はますますダフニ・デュ・モーリエ(著)『レベッカ』の様相を帯びてきた。また男(アクア)の好みに合わせて死んだ女(アイ)を蘇らせるという意味ではアルフレッド・ヒッチコック監督の映画『めまい』も彷彿とさせる。そういえば『レベッカ』もヒッチコックが映画化しており、両者が似通った構造を持っていることを『推しの子』を通じて初めて気付かされた次第である。恐れ入りました、感服です。

今まで有馬かな“推し”だったのだが、黒川あかねに“推し変”しそうな自分が怖い。

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