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2023年4月 6日 (木)

真風涼帆/潤 花(主演)宝塚宙組「カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~」は駄作!(原作小説/映画版との比較あり)

4月4日(火)宝塚大劇場へ。宝塚宙組『カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~』を観劇した。

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配役はジェームズ・ボンド:真風涼帆、デルフィーヌ:潤 花、ル・シッフル:芹香斗亜ほか。

まず率直な感想を述べると「これはジェームズ・ボンドの物語ではない。救いようのない駄作」に尽きる。

役者については文句ない。真風涼帆はスタイリッシュで格好良く、男役の集大成という印象。潤 花も美人だし、ボンド・ガールとして悪くない。

基本的に僕は宝塚歌劇団・演出家のエース、小池修一郎のことを高く評価している。なかんずく『ポーの一族』は最高傑作だと思うし、『ヴァレンチノ』『蒼いくちずけ』『グレート・ギャツビー』『失われた楽園ーハリウッド・バビロン』『イコンの誘惑』『オーシャンズ11』『るろうに剣心』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』なども好きだ。しかし、たまに空振りもある。2003年紫吹淳の退団公演『薔薇の封印ーヴァンパイア・レクイエム』や2007年春野寿美礼の退団公演『アデュー・マルセイユ』、そして2012年『銀河英雄伝説』だ。

 ・ 凰稀かなめ主演 宝塚宙組/銀河英雄伝説@TAKARAZUKA + 宝塚ガーデンフィールズ探訪 2012.09.30

本作も『アデュー・マルセイユ』レベルに詰まらなかった。小池(作・演出)に限らず、姿月あさとの『砂漠の黒薔薇』とか、香寿たつきの『ガラスの風景』、蘭寿とむの『ラスト・タイクーン』などトップ・スターの退団公演は作品的にハズレの確率が高い気がする。

 ・ 蘭寿とむ主演 宝塚花組「ラスト・タイクーン」/作・演出の生田大和に物申す! 2014.02.22

麻路さきの『皇帝』(作・演出:植田紳爾)なんか、あまりに退屈すぎて客席のファンが舞台背景の星を数えていたというのは有名な話だ。それでもスターの退団公演ならチケットは売り切れる。閑話休題。

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『カジノ・ロワイヤル』の話に戻ろう。原作の出版は1953年だが、宝塚版は時代設定をフランス・パリで五月革命(五月危機)が勃発した1968年に移行している。同じ5月に映画監督フランソワ・トリュフォーとジャン=リュック・ゴダールによるカンヌ国際映画祭粉砕事件も発生している。激動の時代、革命の季節だった。

ルネ・フレミングの原作小説は007シリーズの第1作目であり、ヒロインは美貌の英国秘密情報部員ヴェスパー・リンドだ。しかし最後にヴェスパーは自殺。実はイギリス空軍にいたポーランド人の恋人を人質に取られて、ソ連の二重スパイをさせられていたと告白する遺書を彼女は残す。

ダニエル・クレイグが主演した2006年の映画版のプロットは比較的原作に忠実なものになっている(設定は現代に移され、カジノがあるのはモンテネグロ、バカラで勝負するのではなく時代の流れに合わせてポーカー、それも手札が5枚ではなく2枚配られるテキサス・ホールデムに変更されている)。これは情感豊かな傑作だった。

宝塚版でもヴェスパーは登場するが、ボンドと恋人関係になるわけでもなく、ほんの脇役に過ぎない。代わりにヒロインの役割を果たすデルフィーヌはロシア・ロマノフ家の末裔という設定で、なんと怪僧ラスプーチンの亡霊まで現れる。いやいや、『アナスタシア』じゃないんだから!小池は余程『アナスタシア』をやりたかったのだろうか?

 ・ 真風涼帆(主演)宝塚宙組「アナスタシア」と、作品の歴史を紐解く。 2020.12.02

そもそもボンド・ガールに貴族の令嬢というのは似合わない。多くはスパイ、悪党の愛人もしくは娘といった身分の低い女たちである。

原作でヴェスパーはル・シッフルに拉致されボンドがそれを追うが、彼女が監禁されているのは「夜遊び荘」というアジト。それが宝塚版でボンドがヒロインを救うのは古城で、そこから2人でパラシュートで脱出するというロマンティックな結末になっている。

007シリーズに古城が登場するというのも記憶になく、むしろこの世界観はアルセーヌ・ルパンが主人公のモーリス・ルブラン作『奇巌城』とか、宮崎駿監督のアニメ『ルパン三世 カリオストロの城』(元ネタはルブランの小説『カリオストロ伯爵夫人』)に近い。

いろいろな要素を詰め込みすぎて全体としてチグハグで統一感がなくなり、本来あるべき色を失ってしまった。なんだか『ベルサイユのばら』とか『キャンディキャンディ』といった昭和の少女漫画やアニメの世界に紛れ込んだような気持ちになった。昭和生まれのおっさん、小池修一郎の感性は最早古すぎる!令和の女性観客たちが何を求めているか全くわかっていないと、ここで論難させてもらう。

それからジェームズ・ボンドはイギリス人でデルフィーヌはロシア人。それなのにどうして別れの挨拶が「アデュー」なの?舞台がフランスだから??……んなあほな!!だから余計に『アデュー・マルセイユ』の悪夢を思い出しちゃったんだよ。

高い版権を支払って、この体たらくでは勿体ない。

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