デイミアン・チャゼル監督「バビロン」は「ラ・ラ・ランド」を露悪趣味に歪曲した映画
評価:B-
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デイミアン・チャゼルが史上最年少の32歳でアカデミー監督賞を受賞した『ラ・ラ・ランド』を露悪的にしたような映画だ。悪趣味で下品。両者の関係はジョセフ・L・マンキーウィッツの『イヴの総て』(アカデミー作品賞・監督賞受賞)に対するボール・バーホーベンの『ショーガール』(ゴールデン・ラズベリー賞で最低作品賞・最低監督賞を受賞)の・ようなもの。
冒頭の狂騒の乱痴気騒ぎを観ながら、旧約聖書に記された悪徳や頽廃の代名詞として知られる『ソドムとゴモラ』のエピソードを思い出した。マルキ・ド・サドの小説で言えば『ソドム百二十日あるいは淫蕩学校』的嗜好である。
『バビロン』には主要な登場人物が5人いる。( )内はモデルとなった歴史上の人物。
・ジャック・コンラッド(ジョン・ギルバート):サイレント映画のスター
・ネリー・ラロイ(クララ・ボウ):新進気鋭の女優
・マニー・トレス(ルネ・カルドナ):映画製作を夢見るメキシコ出身の青年
・シドニー・パーマー(ルイ・アームストロングやデューク・エリントンを束ねたキャラクター):黒人のジャズ・トランペッター。映画がトーキーに移行し、主役に抜擢される。
・レディ・フェイ・ジュー(アンナ・メイ・ウォン):中国系で昼間はサイレント映画の字幕を書き、夜はパーティで妖艶に歌う。
彼らの運命は時に交差するが、基本的には群像劇である。そういう意味でロバート・アルトマン監督の『ナッシュビル』『ザ・プレイヤー』とか、ポール・トーマス・アンダーソン監督『マグノリア』に近い形式と言えるだろう。
それなりに見所はあるが、さすがに上映時間3時間9分は長過ぎる!製作費が8,000万ドル(約108億円)に対して2023年3月10日現在、アメリカ国内での興行収入がたった1,540万ドル、海外を合わせても総計6,340万ドルと惨敗である。製作費すら回収出来ていない(北米での公開日は2022年12月23日)。
トーキー映画『ジャズ・シンガー』(1927)到来で落ちぶれるサイレント期のスターというプロットはまるでスタンリー・ドーネンが監督したMGMミュージカル『雨に唄えば』みたいだなと思いつつ映画館に足を運んだら、まんまラストで主人公が『雨に唄えば』を涙を流しながら観るシーンがあって興ざめ。余りにもベタ過ぎないか?ひねりがなく、新鮮味に欠ける。イタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』を彷彿とさせるが、あっちの方が断然良い。
なお、僕が大好きな『ラ・ラ・ランド』はヴィンセント・ミネリ監督『巴里のアメリカ人』と、ジャック・ドゥミ監督『ロシュフォールの恋人たち』『シェルブールの雨傘』への熱いラブレターだ。
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