« 2023年2月 | トップページ | 2023年4月 »

2023年3月

2023年3月31日 (金)

第10回 神戸国際フルートコンクール 優勝記念演奏会

2月23日(木・祝)神戸文化ホールへ。第10回 神戸国際フルートコンクールで優勝したラファエル・アドバス・バヨグ(スペイン)とマリオ・ブルーノ(イタリア)の演奏を聴く。共演は鈴木華重子(ピアノ)と神戸室内管弦楽団のメンバーたち。

Kobe

このコンクールは4年ごとに開催されてきたが、今回は新型コロナウイルス禍の影響で全審査がオンラインで行われた。

過去の入賞者にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団首席のエマニュエル・パユ(第1位)と元・首席マチュー・デュフォー(第2位)、ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団首席エミリー・バイノン(第3位)らがいる。新型コロナウィルス(パンデミック)に対する楽団の対応に不満を抱いていたため辞めたと言われるデュフォーの代わりにベルリン・フィルの首席となったセバスチャン・ジャコーも第8回大会(2013年)の優勝者だ。僕が第7回を聴いた感想は下記。

 ・ 第7回神戸国際フルートコンクール/入賞者による披露演奏会 2009.04.06

この時優勝したダニエラ・コッホは現在バンベルク交響楽団の首席フルート奏者。 第3位のデニス・ブリアコフはロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団首席フルート奏者として活躍している。なお、マチュー・デュフォーは嘗てロサンゼルス・フィルとシカゴ交響楽団の首席を兼任していたことがある。

演奏会のプログラムは以下の通り。

・ W.F.バッハ:2つのフルートのための二重奏曲第1番(アドバス・バヨグ、ブルーノ )
・ ジャレル:無伴奏フルートのための3つの小品(ブルーノ)
・ ドブリエール:5つの不思議な小品(ブルーノ、鈴木)
・ シュルホフ:フルート・ソナタ(アドバス・バヨグ、鈴木)
・ アドバス・バヨグ:"Music is Life"(アドバス・バヨグ) 
・ フランセ:五重奏曲(ブルーノ、鈴木、弦楽のメンバー) 
・ モーツァルト:フルート四重奏曲第1番(アドバス・バヨグ、弦楽のメンバー)  
・ F & K ドップラー:「ハンガリーの羊飼いの歌」による幻想曲(アドバス・バヨグ、ブルーノ、鈴木 )

僕はどちらかというと低音が豊かに響くブルーノの音色に心惹かれた。

スイス出身の現代音楽作曲家ジャレルの小品は蚊の鳴く声のようだったり鼓だったり“フルートらしくない”音響が面白い。

フランスの作曲家ドブリエールの小品では高音の弱音が掠れず、綺麗だった。

チェコのプラハに生まれたユダヤ人作曲家シュルホフはナチスドイツに「退廃音楽」の烙印を押され、強制収容所で亡くなるという悲劇的人生を送った。そのフルート・ソナタをアドバス・バヨグは暗譜で吹いた。ジャズの要素が加味され、第3楽章はミステリアスで痺れる。

アドバス・バヨグの自作自演は途中に何度も"Music is Life !"と叫び、唾を飛ばしたり足踏みするなど実にユニークなパフォーマンス。尺八的な響きで「さくら」が奏でられたり、J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番の旋律が聴こえたりする場面も。

フランセは軽妙洒脱、モーツァルトのフルート四重奏は昔から大好きな曲で、ドップラーのハンガリー田園幻想曲は僕自身フルートをたしなむので吹いたことがあるが、「ハンガリーの羊飼いの歌」は初体験。とても美しく、聴き惚れた。

| | | コメント (0)

2023年3月27日 (月)

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演 2023/「ラ・マンチャの男」「West Side Story」「My Fair Lady」 ミュージカル三昧!!

2022年全日本吹奏楽コンクール高校Aの部は大阪桐蔭を含め関西支部代表の3校が総て銀賞だった。関西勢が金賞0に終わったのは2006年(この年、丸谷明夫/淀工は3年連続全国大会出場により不出場)以来16年ぶり。やはり丸谷先生が膵臓がんでお亡くなりになったことが大きいのだろう。享年76歳。

3月12日(日)フェスティバルホール@大阪市へ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会(卒業公演)を聴く。指揮は総監督の梅田隆司先生。

Toin_20230315155301

・ジェイムズ・バーンズ:アルヴァマー序曲
・エバン・コール:鎌倉殿の13人
・フィリップ・スパーク:宇宙の音楽
・ミュージカル「ラ・マンチャの男」
・ミュージカル「West Side Story」
・ミュージカル「My Fair Lady」
・甲子園応援コーナー
・《18年間の歩み》「ゆずメドレー」
・《卒業生を送る歌》 栂野知子:時を越えて
・松任谷由実:卒業写真

「アルヴァマー序曲」にはたくさんの思い出がある。僕は高校一年生の時にこの曲を吹奏楽コンクール自由曲で演奏した(担当はフルート)。1982年だからアメリカで初演された翌年だ。日本では模範演奏として初めて録音された汐澤安彦/東京佼成ウインドオーケストラのLPレコード(世界初の音楽CDが発売されるのは1982年10月1日)が、楽譜に記された〈♩=132〉より遥かに速く、〈♩=160〉くらいでぶっ飛ばす爽快な演奏で、アマチュア演奏家たちもこれに飛びつき皆真似をした。しかし後に作曲家のバーンズが「日本のバンドは私の曲を何故あんなに速いテンポで演奏するんだ!」と不満を漏らしていると漏れ伝わるようになり、日本人は反省した。その後、テレビ朝日『題名のない音楽会』で佐渡裕/シエナ・ウインド・オーケストラがこの曲を演奏した際は楽譜に忠実なテンポで、僕が生で聴いた丸谷明夫/なにわ《オーケストラル》ウィンズも同様だった(ライヴCDが発売されている)。

 ・ 待望のアルヴァマー序曲登場!~なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2011  2011.05.06

今回の梅田先生の指揮は汐澤安彦に近いテンポで、やはりアルヴァマーはこれくらいアクセルを踏み込んでこそ気持ち良いんだ、と思った。

『鎌倉殿の13人』も勇ましく格好いい曲。吹奏楽版も何ら違和感がなかった。作曲家のエバン・コールはアメリカ合衆国カリフォルニア州生まれだが、日本のアニメが好き過ぎて日本に移住したという人。NHKの番組に登場したとき日本語がぺらぺらで驚いた。僕が彼の才能に心底惚れ込んだのが京都アニメーションの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。感動的で質の高い傑作だ。劇場版の製作中に例の痛ましい放火殺人事件があり、36人の方が亡くなった

『宇宙の音楽』は2005年6月3日にシンフォニーホール@大阪で吹奏楽版世界初演を聴いている。山下一史/大阪市音楽団(現:オオサカ・シオン・ウィンド・オーケストラ)による、ごっつい名演だった(ライヴCDが発売されている)。会場に京都の洛南高等学校吹奏楽部・顧問の宮本輝紀先生が生徒を引率して聴きに来られていたことを覚えている。たしか日テレの番組「笑ってコラえて!・吹奏楽の旅」が洛南に取材した年だ。当時男子校だった洛南は翌2006年に共学になり、宮本先生は2010年に急性大動脈解離により69歳で逝去された。また2007年には(当時)吹奏楽の甲子園と呼ばれた普門館で開催された全日本吹奏楽コンクールにおいて藤重佳久/精華女子(福岡県)の演奏で『宇宙の音楽』を聴き、ぶっ飛んだ!!特にホルンの咆哮が凄まじかった。

 ・ 第55回全日本吹奏楽コンクール高校の部を聴いて 後編 2007.10.26

藤重/精華女子は2011年も自由曲に『宇宙の音楽』を選び、いずれも全国大会金賞を受賞している。

今回の大阪桐蔭の演奏はどうしても強烈な印象を受けた精華女子と比べざるを得ず、ホルンが物足りなく感じられた。銀賞という結果は致し方ないだろう。

余談だが僕はスパークの指揮でも『宇宙の音楽』をライヴで聴いている。ところが端正だが熱量の足りない淡白な演奏で、「必ずしも作曲家本人が自作の一番優れた表現者ではないのだな」ということを思い知った。ベンジャミン・ブリテン、レナード・バーンスタイン、ジョン・ウィリアムズ、久石譲など指揮者としても一流の作曲家というのは実は稀なのだ。

 ・ フィリップ・スパーク登場!「大阪市音楽団」改め、Osaka Shion 定期 2015.06.03

『ラ・マンチャの男』は1969年より現・ 松本白鸚がドン・キホーテを演じ続けているわけだが、僕は彼が松本幸四郎を名乗っていた時代に観ている。確か2002年、帝国劇場での公演だったと記憶している。アルドンサを松たか子が演じ、アントニア役が松本紀保。父娘3人の共演だった。演出も兼ねる白鸚は1970年(当時は市川染五郎を名乗る)にブロードウェイに渡り同役を演じており、カーテンコールは英語で「見果てぬ夢」を歌ってくれたことを記憶している。ピーター・オトゥール主演の映画版も観たがピンとこず、正直この作品の価値が僕には理解出来ない。またそのうち見直したいと思う(新しいキャストで!)。最後の観劇から20年以上経過しているので新たな気付きがあるかも知れない。

『West Side Story』はパンチが効いて弾けるリズム、最高だった!以前大阪桐蔭がコンクール自由曲で演奏したレナード・バーンスタイン作曲『キャンディード』序曲は生気が感じられなかったが、『West Side Story』の方が遥かに梅田先生と相性が良い。これとか『ラ・ラ・ランド』「キャラバンの到着(映画『ロシュフォールの恋人たち」より)」 などJazzyな曲を振らせたら日本で梅田先生の右に出るものはいないと僕は確信している。トランペットやトロンボーンなどホーンセクションが咆え、スカッとする。たまらん。正に水を得た魚。『ウエストサイド』か『ラ・ラ・ランド』をコンクール自由曲ですればいいのに……。それとも音楽の二次的著作物使用権の問題で難しいのだろうか?

作曲家自身の指揮も含め、『West Side Story』の名演はあまたあれど、世界最高の演奏は「エル・システマ」の申し子、グスターヴォ・ドゥダメルが指揮したものだと思う。シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラがノリノリで演奏した「マンボ」(アルバム『フィエスタ!』に収録)と、映画のサウンドトラック・アルバムの2種類だ。映画『ウエスト・サイド・ストーリー』にはスピルバーグ監督の朋友ジョン・ウィリアムズが“ミュージック・アドヴァイザー”としてクレジットされているが、彼の最大の功績は指揮者としてドゥダメルを推薦したことにある。梅田/大阪桐蔭の演奏はその次に推せると断言する。

 ・ 画期的音楽教育システム「エル・システマ」とシモン・ボリバル・ユースオーケストラ 2009.04.02

「トゥナイト(クインテット)」の前に「クール」が演奏されたので順序は舞台版・スピルバーグ監督版と同じ。これがロバート・ワイズ監督による1961年映画版だと「トゥナイト(クインテット)」 「決闘」の後に「クール」が来る。あと踊りの振付が本格的でキマっていた。学芸会のレベルを遥かに超えるものだった。必見。

 ・ 【永久保存版】どれだけ知ってる?「ウエスト・サイド・ストーリー」をめぐる意外な豆知識 ( From Stage to Screen ) 2021.12.01

実は現在、Netflixがレナード・バーンスタインを主人公とする映画"Maestro"を製作しており、今年中に配信される予定。監督・脚本・主演はブラッドリー・クーパー(『アメリカン・スナイバー』『アリー/スター誕生』『ナイトメア・アリー』)、レニーの妻フェリシアをキャリー・マリガン(『華麗なるギャツビー』『プロミシング・ヤング・ウーマン』『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』)が演じる。物語の中でジェローム・ロビンスも登場するようだ。実はこの企画、スピルバーグが長年温めていたものだがクーパーに監督を譲り、自身はマーティン・スコセッシと共にプロデューサーとして名を連ねている。恐らく『ウエスト・サイド・ストーリー』のリメイクが上手くいったから、もう十分だと考えたのだろう。LGBTQとしてのレニーの苦悩・葛藤をどう描くのか、世界の注目が集まっている。

ディズニー・プラスから配信されているドキュメンタリー(『サムシングズ・カミング:ウエスト・サイド・ストーリー』)の中で、スピルバーグは舞台版『WSS』のクリエイターたち、アーサー・ローレンツ(台本)、ジェローム・ロビンス(振付)、スティーヴン・ソンドハイム(作詞)、レナード・バーンスタイン(作曲)のことを「4人のゲイのユダヤ人(They are four jewish gay men.)」と明言している。その性的マイノリティからの視座が明確に打ち出されたのがスピルバーグ版であった。

『マイ・フェア・レディ』は高校生の時に映画のサウンドトラックLPレコードを買い、歌詞カードを眺めながら繰り返し聴いた(レンタルビデオ店も存在しない時代で、実際に映画を観るのは大学に入ってからである)。だから「スペインの雨」や「踊り明かそう」は今でも英語で暗唱出来る。そのように親しんできたミュージカルだが、物語にはどうしても不可解なところがあった。何故ピカリング大佐はヒギンズ教授の家に居候をするのか?戻ってきたイライザに対してヒギンズが「わたしのスリッパはどこだ?」という台詞で幕を閉じるが、一体これはどういう状況だ?果たして本作は本当にラブ・ストーリーなのか?だって恋人に対してこんな事は言わないでしょ。

それから30年以上の歳月を経て、僕は漸く理解した。ヒギンズとピカリングというゲイ・カップルが花売り娘イライザを養女として迎えるまでの物語だと解釈すれば全ての謎が解けるのだと。つまりミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』(映画版は『Mr.レディMr.マダム』という、とんでもない邦題で劇場公開された)と本作は表裏一体なのだ。ちなみに映画『マイ・フェア・レディ』を監督したジョージ・キューカーも、装置・衣装デザインを担当したセシル・ビートンもゲイだった。

僕は2022年1月14日に大阪・梅田芸術劇場で神田沙也加主演『マイ・フェア・レディ』を観る予定だったが、21年12月18日に彼女が(札幌公演中に滞在していたホテルで)投身自殺してしまったため叶わなかった。ダブル・キャストの朝夏まなとが代演すると発表されたが、到底観劇する気分になれず手持ちのチケットは払い戻ししてもらった。以前観た神田のイライザは本当に生き生きとして素晴らしかった。心底口惜しい。

 ・ 神田沙也加主演 ミュージカル「マイ・フェア・レディ」の〈正体〉 2018.10.23

大阪桐蔭のパフォーマンスは昨年の『エリザベート』もそうだったが、まず衣装の完成度に息を呑んだ。3人のイライザが登場し、それぞれ〈花売り娘時代(コヴェント・ガーデン王立歌劇場前)〉〈ヒギンズ家の居間で上流階級の話し方を特訓する場面〉〈アスコット競馬場〉の服をまとっているのだが、何れもセシル・ビートンがデザインしたそれを彷彿とさせる、洗練された、「学芸会的」安っぽさを微塵も感じさせない仕上がりだった。生地が高そう。

役者としては『WSS』でアニタを演じた生徒と『My Fair Lady』で「踊り明かそう」を歌った生徒が特に素晴らしく、聴き惚れた。

あと面白いなと思ったのはイライザが舞踏会デビューする場面で、恐らくオリジナル楽曲の楽譜が見つからなかったのだろう、1953年エリザベス2世の戴冠式のためにウィリアム・ウォルトンが作曲した行進曲「宝玉と勺杖」(宝玉と王の杖 が演奏されたこと。僕が大好きな楽曲で、違和感なく場面にすごく合っていた。大阪桐蔭はこれをマーチングコンテストで演奏したことがある(出場者に人数制限が規定に設けられて以降、梅田先生は参加をやめた)。

 ・ 第25回全日本マーチングコンテスト(高校以上の部)2012 前編 2012.11.21

恒例のリクエストコーナーでは久しぶりにRADWIMPSの『君の名は。』が聴けて嬉しかったのだが、以前演奏された「夢灯籠」がカットされていてショックだった!つまり「前前前世〜スパークル〜なんでもないや」の3曲メドレーだったのである。演奏は極上だったのだが、ガーン……。「夢灯籠」、死ぬほど好きなんだよね。

 ・ 大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演/ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜宮沢賢治の深層心理にダイブする。 2017.02.21

「なんでもないや」は劇中で三葉(みつは)の声をあてている上白石萌音が歌うのを阪急西宮ガーデンズ4階広場で聴き、サインも貰った。

 ・ 「君の名は。」の三葉が歌う ”なんでもないや” @兵庫県・阪急西宮ガーデンズ 2016.10.17

その後、彼女はNHK朝ドラ『カムカムエブリバディ』に出演し国民的人気を得て、昨年は舞台『千と千尋の神隠し』とミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』の演技が評価され読売演劇大賞・主演女優賞を史上最年少で受賞するなど、今や飛ぶ鳥を落とす勢いである。今年1月25日には何と日本武道館でコンサートを開催した。『エリザベート』の公演中だった井上芳雄が福岡から駆けつけるサプライズもあったとか。いやはや!

ここで背景スクリーンに映し出させる映像を制作されている生徒さんにちょっとだけ注文がある。完成度が高く常々感心して見ているが、「前前前世」の風景には東京スカイツリーだけではなく、是非NTTドコモ代々木ビル(ドコモタワー)を入れて欲しかった!!何故なら新海誠監督にとって東京を象徴する存在だから。フランソワ・トリュフォー監督『大人は判ってくれない』におけるエッフェル塔の・ようなもの。

 ・ 【考察】超マニアック講座! 新海誠監督「すずめの戸締まり」をめぐる12の事項

この声が届くといいな。

この度卒業する生徒は2020年4月に入学した。日本で初めて新型コロナウィルスに感染した患者が確認されたのがこの年の1月15日。第1回目の緊急事態宣言が発令されたのは20年4月7日だった。だから3年間まるまるコロナ禍の中で高校生活を送ってきたことになる。学校に集まって合奏することも出来ず、それぞれ自宅の部屋からリモートで演奏したこともあった(動画はこちら)。大変だったね、よく頑張った。そしておめでとう。

アンコールは鉄板のタケカワ・ユキヒデ(樽屋雅徳編)『銀河鉄道999』。これなしでは大阪桐蔭を聴いたという実感が沸かない。照明も綺麗だったなぁ。なお梅田先生がMCで「先日お亡くなりになった原作者の石ノ森章太郎さん」と仰ったのはご愛嬌。実は松本零士と石ノ森章太郎の誕生日は全く同じ1938年1月25日。何というシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)だろう!

| | | コメント (0)

2023年3月15日 (水)

A24とNetflixの躍進が目立ったアカデミー賞授賞式 2023を振り返る

アカデミー賞授賞式 2023が終わった。

さて、今年僕の予想が的中したのは作品・監督・主演女優・助演男優・脚色・視覚効果・撮影・長編ドキュメンタリー・短編ドキュメンタリー・編集・国際長編・歌曲・長編アニメ・短編アニメの14部門だった。昨年の的中が18部門だったので低調と言わざるを得ないのが現状である。

星海社新書から刊行されている【なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」】の著者、 Ms.メラニーは今年14部門的中なので同点だった。

昨年、配信系のNetflixは徹底的に嫌われて27のノミネーションに対して受賞したのは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェーン・カンピオンが監督賞のたった1つだったのだが、今年は『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』で長編アニメーション、『エレファント・ウィスパラー』で短編ドキュメンタリー、『西部戦線異状なし』で国際長編映画・作曲・美術・撮影賞を受賞し、計6部門と大躍進した。独立系のA24が『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で7部門、そして『ザ・ホエール』で主演男優・メイクアップの2部門受賞しているので、合わせると15部門。計23部門のうち65%を、たった2つのスタジオで制したことになる。他の主なスタジオは、

 ・ディズニー:2(『ブラック・パンサー:ワカンダ・フォーエバー』で衣装デザイン賞、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で視覚効果賞)
 ・パラマウント:1 (『トップガン マーヴェリック』で音響賞)
 ・HBO Max/ワーナー・ブラザーズ:1(『ナワリヌイ』で長編ドキュメンタリー賞)
 ・Apple TV+
:1(『ぼく モグラ キツネ 馬』で短編アニメ賞)
 ・ソニー・ピクチャーズ:0

メジャー・スタジオが元気がなく、見る影もない。最早アカデミー賞と、独立系に与えられるインディペンデント・スピリット賞の違いが、なくなりつつある(『エブエブ』はインディペンデント・スピリッツ賞でも7冠に輝いた)。

Netflixは今までに監督・国際長編映画・長編アニメーションと主要な賞を手中に収めてきたので、いよいよ残るは悲願の作品賞のみとなった。近い内に実現することを期待したい。

韓国映画『パラサイト 半地下の家族』に続き、今年は中国系の大躍進で同じアジア人として誇らしい限りだが、テルグ語で歌曲賞を受賞した「ナートゥ・ナートゥ」(RRR)といい、短編ドキュメンタリー賞の『エレファント・ウィスパラー』といい、インド勢も大いに気を吐いた。アカデミー賞が最早、英語を喋る白人だけの祭典ではなくなり、真の多様性を獲得した左証である。

そして今までファンタジー(『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』)とモンスター映画(『シェイプ・オブ・ウォーター』)の受賞はあったけれど、本格的SF、さらにカンフー映画の作品賞受賞は『エブエブ』が史上初であり(『スター・ウォーズ』も『E.T.』も成し得なかった)、このことも大いに喜びたい。助演女優賞を受賞したジェイミー・リー・カーティス(母は『サイコ』のジャネット・リー)がスピーチの中で、これまで出演してきたあらゆる【ジャンル映画】に感謝の言葉を述べていたのは、それを踏まえてのことだ。

| | | コメント (0)

2023年3月12日 (日)

2023年 アカデミー賞大予想!

恒例の第95回アカデミー賞受賞予想である。2023年の授賞式は日本時間3月13日に開催される(午前スタート)。相当自信がある(鉄板)部門には◎を付けた。なお、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は長ったらしいので、頭文字をとってEEAAOと略す。

  • 作品賞:「EEAAO」◎
  • 監督賞:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート「EEAAO」◎
  • 主演女優賞:ミッシェル・ヨー「EEAAO」
  • 主演男優賞:オースティン・バトラー「エルヴィス」
  • 助演女優賞:ケリー・コンドン「イニシェリン島の精霊」
  • 助演男優賞:キー・ホイ・クァン 「EEAAO」◎
  • 脚本賞(オリジナル):マーティン・マクドナー「イニシェリン島の精霊」
  • 脚色賞:サラ・ポーリー「ウーマン・トーキング 私たちの選択」
  • 視覚効果賞:アバター:ウェイ・オブ・ウォーター◎
  • 美術賞:フロレンシア・マーティン「バビロン」◎
  • 衣装デザイン賞:キャサリン・マーティン「エルヴィス」
  • 撮影賞:ジェームズ・フレンド「西部戦線異状なし」
  • 長編ドキュメンタリー賞:ナワリヌイ
  • 短編ドキュメンタリー賞:エレファント・ウィスパラー:聖なる象との絆
  • 編集賞:ポール・ロジャーズ「EEAAO」◎
  • 国際長編映画賞:西部戦線異状なし(ドイツ)◎
  • 音響賞:「西部戦線異状なし」◎
  • メイクアップ賞:「エルヴィス」
  • 作曲賞:ジャスティン・ハーウィッツ「バビロン」
  • 歌曲賞:“ナートゥ” 「RRR」 ◎◎◎
  • 長編アニメーション賞:ギレルモ・デル・トロのピノッキオ ◎◎◎
  • 短編アニメーション賞:ぼく モグラ キツネ 馬
  • 短編実写映画賞:無垢の瞳

2022年のアカデミー賞において、僕の予想は作品・監督・主演女優・主演男優・助演女優・助演男優・脚本・脚色といった主要部門でパーフェクトに的中したのだが、このうち今年間違いないと言い切れるのは作品・監督・助演男優のみ。現状分析をしよう。

主演女優賞は「EEAAO」のミッシェル・ヨーと「TAR/ター」のケイト・ブランシェットの一騎打ち。僕はケイトを応援したいのだが、現在アカデミー会員は「多様性を尊重するという価値観を持っている」ことを世間に示さないといけないという強迫観念にとらわれているので(演技賞候補が全員白人で“白人だらけのオスカー” #OscarSoWhiteと糾弾されたこともあった)、白人のケイトよりもアジア系民族が有利と考えた。最早、演技力がどうこうという問題ではないのである。それに今回を逃したら、ミッシェル・ヨーがオスカーを手にする機会は二度と来ないだろう(ケイトは引退しない限りまだいっぱいある)。

主演男優賞は「エルヴィス」のオースティン・バトラーと「ザ・ホエール」のブレンダン・フレイザーとの一騎打ち。「イニシェリン島の精霊」のコリン・ファレルは一歩後退した。僕はオースティン・バトラーの将来性(スター性)に賭ける。イケメンだし、「エルヴィス」の演技にはオーラと色気があった。

助演女優賞もさっぱり分からない。「イニシェリン島の精霊」のケリー・コンドンか、「EEAAO」のジェイミー・リー・カーティスか。ここで僕は「EEAAO」 から2人ノミネートされているので、票が割れるのではないかと踏んだ。「ゴッドファーザー」でジェームズ・カーン、アル・パチーノ、ロバート・デュヴァルの3人がノミネートされ、誰も獲れなかった年の再現である(主演男優のマーロン・ブランドは受賞した)。

長編ドキュメンタリー賞については、「ナワリヌイ」よりも僕は「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦」の方が断然好き。Disney+から配信中。

| | | コメント (0)

2023年3月10日 (金)

デイミアン・チャゼル監督「バビロン」は「ラ・ラ・ランド」を露悪趣味に歪曲した映画

評価:B-

Babylon_20230310151401

公式サイトはこちら

デイミアン・チャゼルが史上最年少の32歳でアカデミー監督賞を受賞した『ラ・ラ・ランド』を露悪的にしたような映画だ。悪趣味で下品。両者の関係はジョセフ・L・マンキーウィッツの『イヴの総て』(アカデミー作品賞・監督賞受賞)に対するボール・バーホーベンの『ショーガール』(ゴールデン・ラズベリー賞で最低作品賞・最低監督賞を受賞)の・ようなもの。

冒頭の狂騒の乱痴気騒ぎを観ながら、旧約聖書に記された悪徳や頽廃の代名詞として知られる『ソドムとゴモラ』のエピソードを思い出した。マルキ・ド・サドの小説で言えば『ソドム百二十日あるいは淫蕩学校』的嗜好である。

『バビロン』には主要な登場人物が5人いる。( )内はモデルとなった歴史上の人物。

 ・ジャック・コンラッド(ジョン・ギルバート):サイレント映画のスター
 ・ネリー・ラロイ(クララ・ボウ):新進気鋭の女優
 ・マニー・トレス(ルネ・カルドナ):映画製作を夢見るメキシコ出身の青年
 ・シドニー・パーマー(ルイ・アームストロングやデューク・エリントンを束ねたキャラクター):黒人のジャズ・トランペッター。映画がトーキーに移行し、主役に抜擢される。
 ・レディ・フェイ・ジュー(アンナ・メイ・ウォン):中国系で昼間はサイレント映画の字幕を書き、夜はパーティで妖艶に歌う。

彼らの運命は時に交差するが、基本的には群像劇である。そういう意味でロバート・アルトマン監督の『ナッシュビル』『ザ・プレイヤー』とか、ポール・トーマス・アンダーソン監督『マグノリア』に近い形式と言えるだろう。

それなりに見所はあるが、さすがに上映時間3時間9分は長過ぎる!製作費が8,000万ドル(約108億円)に対して2023年3月10日現在、アメリカ国内での興行収入がたった1,540万ドル、海外を合わせても総計6,340万ドルと惨敗である。製作費すら回収出来ていない(北米での公開日は2022年12月23日)。

トーキー映画『ジャズ・シンガー』(1927)到来で落ちぶれるサイレント期のスターというプロットはまるでスタンリー・ドーネンが監督したMGMミュージカル『雨に唄えば』みたいだなと思いつつ映画館に足を運んだら、まんまラストで主人公が『雨に唄えば』を涙を流しながら観るシーンがあって興ざめ。余りにもベタ過ぎないか?ひねりがなく、新鮮味に欠ける。イタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』を彷彿とさせるが、あっちの方が断然良い。

なお、僕が大好きな『ラ・ラ・ランド』はヴィンセント・ミネリ監督『巴里のアメリカ人』と、ジャック・ドゥミ監督『ロシュフォールの恋人たち』『シェルブールの雨傘』への熱いラブレターだ。

| | | コメント (0)

イリーナ・メジューエワ、モーツァルトを弾く

1月29日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。

イリーナ・メジューエワのピアノでオール・モーツァルト・プログラムを聴く。

 ・ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調
 ・幻想曲 ハ短調 K.396
 ・ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調
 ・ロンド イ短調 K.511
 ・グラスハーモニカのためのアダージョ ハ長調 K.356
 ・ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調「トルコ行進曲付き」
 ・ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調より第2楽章(アンコール)

Foj84anayaeprg_

イリーナはロシア出身。音楽学校でヴラディミール・トロップに師事した。

僕が小学生の頃から親しんできたモーツァルトのソナタはオーストリア・ウィーン出身のピアニスト、イングリット・ヘブラーの演奏。女性らしくまろやか、温かく包み込んでくれるような母性を感じさせ、イリーナは方向性がちょっと違う。ヒヤッとした感触で、鋼のような強さがあり、何と言ってもロシア的なのである。スヴャトスラフ・リヒテルとかエミール・ギレリス、ラザール・ベルマンらに近いものを感じる(リヒテルとギレリスは現在のウクライナ領に生まれ、長じてモスクワ音楽院で学んだ)。だから現役のピアニストなら、ロシア出身のウラジーミル・クライネフに師事した河村尚子に近いタイプと言える。

こういったカチッとして、情に流されないモーツァルトも良い。

| | | コメント (0)

「芝浜」ネタおろし!〜笑福亭鶴瓶落語会

1月28日(土)兵庫県立芸術文化センターへ。

 ・笑福亭鶴瓶:鶴瓶噺
 ・桂二葉:金明竹
 ・笑福亭鶴瓶:妾馬
 ・笑福亭鶴瓶:芝浜

桂二葉は2021年に東西の噺家を対象にしたNHK新人落語大賞を受賞し、22年女性として初めて、さらに最年少で繁昌亭大賞を受賞した。また同年咲くやこの花賞も受賞するなど飛ぶ鳥を落とす勢いである。いや〰面白かった!畳み掛けるリズム感が心地良い。

彼女はこの世界に入る前に鶴瓶の追っかけをしていたことで有名なのだが、鶴瓶の自宅を突き止めたエピソードなど、びっくりするような手法でちょっとここには書けないのだが、めっちゃ笑った。鶴瓶を通して落語に出会ったようだが、米朝一門の桂米二に入門するというところも面白い。ちゃんと事前に米二から鶴瓶に「私が弟子に取ってもええですか?」と、ことわりの電話が入ったそう。

ネタおろしとなった「芝浜」は大阪の男が出奔し江戸に住み着くという設定に。出来は、うーん、まぁ、そこそこ。一年後にどう変わるか、来年の落語会に期待する。

| | | コメント (0)

2023年3月 9日 (木)

バブル期のあだ花、「東京ラブストーリー」まさかのミュージカル化 !?

12月24日(土)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティへ。ミュージカル『東京ラブストーリー』を観劇。

Tokyo

ダブル・キャストで、僕が観たのは空キャスト。配役は……

永尾完治:柿澤勇人、赤名リカ:笹本玲奈、三上健一:廣瀬友祐、関口さとみ:夢咲ねね

他に長崎尚子:綺咲愛里、和賀夏樹:高島礼子ら。

作曲したジェイソン・ハウランドはブロードウェイ・ミュージカル『Little Women -若草物語-』を手がけ、日本ではホリプロ制作のミュージカル『生きる』を書いている。

柴門ふみの漫画『東京ラブストーリー』は1988年から連載され91年に鈴木保奈美・織田裕二主演、坂元裕二の脚本でテレビドラマ化された。最終回の平均視聴率が32.3%になるなど大ヒット。いわゆるドレンディドラマの代表作となった(トレンディドラマの人気投票をすると必ず本作が1位になる。たとえばこちら)。「月9(げっく)」という言葉もこの作品から生まれた。

今回のミュージカル化では2018年春(つまりコロナ禍になる直前)に時代設定を移し、愛媛県今治市に本社のあるタオル会社の東京支社営業部を舞台に展開される。因みに原作で永尾完治は愛媛から上京し、東京の広告代理店に務めるという設定。

トレンディドラマはどうしても“バブルの徒花”というイメージが付き纏う。バブル景気の定義は1986年12月から91年2月の期間だ。丁度漫画の連載からドラマの放送開始までスッポリ収まる。主人公の収入では到底住めそうにないお洒落なマンションでの豪奢な暮らし……。

ところが今回のミュージカル版ではそうしたトレンディドラマの浮かれた、軽薄なイメージを払拭するような作品に生まれ変わっていた。また『生きる』もそうだったが、音楽が実にいい。胸にズシンとくるものがある。さすがブロードウェイの作曲家だ。

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』における源実朝役の好演も記憶に新しい柿澤勇人が文句ないことは言うに及ばず、特に鼻っぱしが強いリカを演じた笹本玲奈が秀逸。有名な台詞「カンチ、セックスしよ!」が見事にハマった。清楚な夢咲ねねも◎。

再演があれば、是非また観たい。

| | | コメント (0)

2023年3月 8日 (水)

イニシェリン島の精霊

評価:A

Thebansheesofinisherin

アカデミー賞で作品・監督・主演男優・助演女優・助演男優(×2人)・脚本・作曲・編集の8部門9ノミネートを果たした。公式サイトはこちら

本作を見る前にアイルランド内戦についておさらいしておこうと思い、ニール・ジョーダン監督の映画『マイケル・コリンズ』を見直したところ、とても良い補助線になった。1923年という『イニシェリン島の精霊』の時代設定は独立運動家コリンズが暗殺された翌年。よって海を隔てた対岸のアイルランド島では戦争の火焔が上がっている。

本作におけるパードリック(コリン・ファレル)とコルム(ブレンダン・グリーソン)の諍いは、アイルランドの独立を目指しIRAで共闘していたコリンズと後に大統領になるデ・ヴァレラが、イギリスと締結した条約の内容で対立し、アイルランド自由国と共和国政府に分裂し戦争に発展していく歴史に重ねて見ることが出来る。

コルムが言いたいことは「行動変容」という言葉に集約されるが、長年友情を育んできたパードリックには全く理解出来ない。ふたりはコミュニケーションの不全状態に陥っている。しかし旧弊な島民の中でおそらく一番教養があると思われるパードリックの妹シボーン(ケリー・コンドン)にコルムのメッセージはしっかりと伝わり、彼女は動き始める。ここがこの物語の面白いところである。

指を切断するというのは甚だ過激な行動だが内部分裂のメタファーにもなっており、1960年代に日本の学生運動が内ゲバに明け暮れた挙げ句の果て連合赤軍によるリンチ殺人事件に至る過程や、オウム真理教による男性信者リンチ殺人事件にも繋がっているな、と思った。

つまりこの奇妙で深遠な物語には普遍性があるということだ。

 

| | | コメント (0)

« 2023年2月 | トップページ | 2023年4月 »