映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」
評価:A
映画会社ミラマックスの設立者で、『イングリッシュ・ペイシェント』『恋におちたシェイクスピア』『シカゴ』『コールド・マウンテン』などアカデミー賞を獲りまくったプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの悪事がいかにして暴かれ、#MeToo運動に繋がっていったのかを描く作品。告発者の一人アシュレイ・ジャッドが本人役で出演している。
公式サイトはこちら。
本作を観ながら何度も脳裏をよぎったのは、アラン・J・パクラが監督した1976年の映画『大統領の陰謀』だ。『大統領の陰謀』はワシントン・ポストの男性記者二人がウォーターゲート事件を取材し、巨悪(ニクソン)を追い詰めていくわけだが、『シー・セッド』ではそれが二人の女性記者になり、さらに彼女たちの家庭生活にもカメラが踏み込んでいく。女性による取材は、同性被害者への共感に満ち、そこにシスターフッド的連帯が生まれる。そして言葉には出されないが、彼女たちのふるまいには「自分の幼い娘が大人になった時も、こんなクソみたいな世界のままでは絶対に駄目だ。いま変えるしかない」という強い決意が滲み出ている。正に#MeToo という巨大なムーブメントの源泉を垣間見た思いがした。あと『大統領の陰謀』では記者たちが新聞社内でスパスパ煙草を吸っていたが、『シー・セッド』のニューヨーク・タイムズでは完全禁煙になっているのが45年(ウォーターゲート事件が1972年、ワインスタインの報道が2017年)という歳月を感じさせる。また監督が女性になったのも時代だなぁと思う。
「ニューヨーク・タイムズ」社の会議室にワインスタインと彼の弁護士が突然やって来るシーン。キャリー・マリガン演じるミーガンが彼を見つめる姿を正面からカメラが捉えるが、その表情には怒りとか嫌悪、恐怖といった激しく高ぶる感情よりもむしろ、虚無感や哀れみといった静けさ見たのは僕だけではないだろう。
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