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2022年3月10日 (木)

映画「ウエスト・サイド・ストーリー」(スピルバーグ版)

評価:AAA (最高!)

「今までスピルバーグが監督した映画の中で、記憶に残った女優は誰か?」と問われたら、僕は『E.T.』のドリュー・バリモアと、『宇宙戦争』のダコタ・ファニングくらいしか思い付かない。『インディ・ジョーンズ』シリーズのヒロインなんか、キャーキャー騒いでいるだけ。かように“子供に対する演出は得意だけれど、大人の女を扱うのは苦手な監督”という印象が彼には付き纏ってきた。彼の映画でアカデミー賞の演技部門を受賞した男優は『リンカーン』のダニエル・デイ=ルイスと『ブリッジ・オブ・スパイ』のマーク・ライランスがいるが、女優は皆無という事実がそのことを裏付けているように思う。

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ところが最新作『ウエスト・サイド・ストーリー』 は違った。アニタ役のアリアナ・デボースはチャーミングでセクシー、そして僕は彼女のダイナミックなダンスの虜になった。きっとスピルバーグ映画で史上初めてオスカーを手にする女優になるだろう。そして新人のレイチェル・ゼグラーも凛として、揺るぎない意志で前に進む鮮烈なマリア像を打ち出しており、これだけ女たちが輝いているスピルバーグ映画を他に知らない。

ミュージカル映画史に革命をもたらした名作『ウエストサイド物語』(1961)をリメイクする。このニュースを耳にした時「どう考えても勝算のない、なんと無謀な挑戦だろう」と誰しもが思っただろう。しかしスピルバーグは高いハードルを見事にクリアした。

本作はプエルトリコから来た有色人種と、ポーランド系白人との、民族の違いによる社会の分断を描いている。しかしそれだけではないことに今回気付かされた。シャーク団の男たちはプエルトリコに帰りたいと歌い、アニタら女たちはアメリカの方が住心地が良いと主張する。そしてジェット団の男たちがアニタに乱暴を働こうとした時 、ジェットの女たちは彼女を助けようと必至に抵抗する。つまり男と女の間に横たわる深い溝が描かれている。さらにダンスパーティの場面で2つのグループを一緒に踊らせようとする明るい青年(グラッド・ハンド)がゲイであることをからかわれたり、ジェッツに入団希望している男装の女の子「エニボディズ」をトランスジェンダーでノンバイナリーの俳優、アイリス・ミーナスが演じることで、LGBTQ+とストレートの人々との性的指向を巡る分断も前面に押し出されているあたり、脚色を担当したトニー・クシュナーの面目躍如、 さすがエイズ時代の黙示録として書かれた戯曲『エンジェルズ・イン・アメリカ』で1993年にピューリッツァー賞を受賞した人だけのことはあるな、と感心することしきりだった。

【永久保存版】どれだけ知ってる?「ウエスト・サイド・ストーリー」をめぐる意外な豆知識 ( From Stage to Screen )

現在ディズニー・プラスから配信されているドキュメンタリー(『サムシングズ・カミング:ウエスト・サイド・ストーリー』)の中で、スピルバーグは舞台版のクリエイターたち、アーサー・ローレンツ(台本)、ジェローム・ロビンス(振付)、スティーヴン・ソンドハイム(作詞)、レナード・バーンスタイン(作曲)のことを「4人のゲイのユダヤ人(They are four jewish gay men.)」と明言している。その性的マイノリティからの視座がはっきりと打ち出されている点が、リメイク版の肝なのだ。

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コメント

<アニタ役のアリアナ・デボース

私も同感です。
なので私のブログ写真も!

投稿: onscreen | 2022年3月20日 (日) 11時33分

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