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大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演 2022/ミュージカル「銀河鉄道の夜」(再演)と「エリザベート」

3月13日(日)フェスティバルホールへ。大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 第17回 定期演奏会を聴く(最終公演)。指揮は総監督の梅田隆司先生。

曲目は、

第1部
・ミュージカル『銀河鉄道の夜』(作曲:西村友 脚本:中島徹 振付:洋あおい 演出:梅田隆司)
・YOASOBIメドレー(夜に駆ける〜アンコール〜ハルジオン〜あの夢をなぞって〜怪物〜三原色〜ハルカ〜群青〜ラブレター)

第2部
・リード:アルメニアン・ダンス Part 1
・高昌帥:吹奏楽のための協奏曲
・野球応援コーナー
・ミュージカル『エリザベート』(脚本・作詞:ミヒャエル・クンツェ 作曲:シルヴェスター・リーヴァイ 日本語詞:小池修一郎)
・リクエスト・コーナー(和泉宏隆:宝島/ミシェル・ルグラン:映画『ロシュフォールの恋人たち』より“キャラバンの到着”)
・〈卒業生を送る歌〉『EXILE 〜道〜』
・松任谷由実:春よ、来い
・中島みゆき:時代
・タケカワ・ユキヒデ(樽屋雅徳 編):銀河鉄道999~星に願いを(アンコール)

ミュージカル『銀河鉄道の夜』は2017年の定期演奏会で上演されており、今回は再演である。元々は劇団ひまわりのオリジナルだ。僕はネットでDVDを購入し鑑賞した。アニメ『進撃の巨人』ミカサ役の石川由依が出演している。

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部✕劇団ひまわり/ミュージカル「銀河鉄道の夜」 2017.01.22
大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定演/ミュージカル「銀河鉄道の夜」〜宮沢賢治の深層心理にダイブする。 2017.02.21

梅田先生のおかげでこのミュージカルのことを知り、大好きな作品となった。

兎に角、西村友が手がけた楽曲が素晴らしい。ただ、大阪桐蔭バージョンはダイジェストなので割愛されたナンバーが幾つかある。取り分け、大切なことは忘れないこと!♪と、♪鳥捕りが鳥捕りに来て鳥捕りそこね、一人取り残され帰る鳥捕りの唄♪がカットされているのは惜しい。

2017年に書いた記事でも詳しく論じたが、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を読み解くには大きな2つのポイントが有る。まずジョバンニ=宮沢賢治、カムパネルラ=結核を患い24歳で死去した賢治の妹・トシと解釈可能なこと。ここで賢治の詩集『春と修羅』に収録されている、トシとの別れを描写した「永訣の朝」がヒントとなる。『春と修羅』は直木賞・本屋大賞をダブル受賞した恩田陸の小説『蜜蜂と遠雷』の中で国際ピアノコンクールの課題曲として登場するので併せて読まれたし。映画版も傑作だ。

音楽映画の金字塔現わる!!「蜜蜂と遠雷」 2019.10.10

もう1つは、この小説の背景にキリスト教があるということ。賛美歌320番「主よ、みもとに 近づかん」が歌われる場面もある。賢治は宣教師のいるキリスト教会に通ったり、無教会派のキリスト教信徒と親交を深めたりしていた。

三位一体(父と子と聖霊)に女性を内包しないキリスト教(一神教)は父性原理の宗教である。父性原理の特徴は〈切断〉にある。『銀河鉄道の夜』にもその厳しさがあり、ジョバンニの父は生きているのに遠くに行っていて、物語の最後まで不在である。つまり息子との関係性を〈切断〉している。また旅の途中に登場する青年は「ほんとうの神さまはもちろんたった一人です」と言う。

カンパネルラの行動や、蠍(さそり)の火の話で繰り返される〈自己犠牲〉というテーマもキリスト教的だ。ジッドの小説『狭き門』や、キリスト教色が強いアンデルセンの童話『人魚姫』も〈自己犠牲〉の物語であり、ワーグナーの歌劇『さまよえるオランダ人』のゼンタや『ローエングリン』のエルザ、『神々の黄昏』のブリュンヒルデもまた、〈自己犠牲〉によって主人公、あるいは世界を救済する。またアンデルセン『マッチ売りの少女』の根底には、信仰心があつければたとえ現世で貧しく惨めな暮らしをしていても、死んで天国に行けば幸福になれるというキリスト教の思想があり、『銀河鉄道の夜』にも通底している。

一方、『銀河鉄道の夜』からキリスト教の厳しさを排除し、母性原理を導入すると松本零士の漫画『銀河鉄道999』になる。鉄郎の母にそっくりのメーテルは母性の象徴であり、母性原理の特徴は〈すべてを包み込む/呑み込む〉ことにある。そこでは自他の境界が曖昧になる。

八百万の神を信仰する日本は従来、母性社会であった。終身雇用というのも正社員を〈家族〉とみなし、なあなあの関係を是とする制度なので母性的である。

2017年の公演ではサザンクロス駅の場面で背景のスクリーンにKAGAYAが製作したプラネタリウム版「銀河鉄道の夜」が映し出されたのだが、今回驚かされたのは全て生徒が制作した3DCGアニメーションによる映像になっていたこと!!機関車内部のモデリングなんか見事なもので、ちゃんと立体空間に見えた。君らはピクサー・アニメーション・スタジオの人か!?

あと感心したのは、音響のミキシングがプロの舞台レベルに進化しており、ソリストの歌詞がしっかりと聴き取れたこと。『ラ・ラ・ランド』を上演したときなんかマイクが拾う出演者の声がオフ気味で、周囲の音に埋もれがちだった。

『YOASOBIメドレー』は大阪桐蔭がミュージック・ビデオの演奏にも参加している♪ラブレター♪がとっても素敵♡。音楽に対する溢れんばかりの熱い告白だ。

『アルメニアン・ダンス Part 1』を大阪桐蔭が演奏するのは今回が初めてだそうで、これは昨年末亡くなった淀工の丸谷明夫先生に対する追悼と、その想いを継承する決意の高らかな宣言でもあったろう。

巨星墜つ〜追悼・丸谷明夫が日本の吹奏楽に残した功罪

生前、丸ちゃんがこれを「吹奏楽にとってのベートーヴェン第九のような(誰もが知っている)曲にしたい」と常々語っていたことを梅田先生が紹介し、「でも桐蔭版は(座奏ではなくマーチング仕立てで)生徒が動き回るから、丸谷先生に怒られちゃうかも知れません」と。最初のフォーメーション(隊列)が人文字の“M"だったのは、やはりMARUTANIの頭文字なのだろう。

Marutani_20220326163801

この曲は僕自身、丸ちゃんの指揮で演奏したことがあるので、なんだか胸が一杯になった。

《1000人のアルメニアンダンス》 丸谷明夫 語録 2009.01.19
淀工「グリーンコンサート」2009 IN 大阪城ホール 2009.01.20

高昌帥『吹奏楽のための協奏曲』は全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞した自由曲なので、さすがの上手さ。ただオーボエ・ソロの音程が気になった。昨年全国大会直後に聴いたときは、そんなことなかったのだけれど。

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部「全国大会練習会・金賞報告演奏会 in 伊丹」 2021.11.13

『エリザベート』で演奏されたのは、〈プロローグ〜皇后の務め〜愛と死の輪舞(ロンド)〜私だけに〜退屈しのぎ〜私が踊る時〜闇が広がる〜夜のボート〜フィナーレ〉

以前大阪桐蔭が演奏していたのはヨハン・デ=メイによる吹奏楽編曲版だった。

大阪桐蔭高等学校吹奏楽部 定期演奏会 2013!@ザ・シンフォニーホール 2013.02.27

だから今回も同じだろうと高をくくっていたら、歌付きそれも舞台衣装を身にまとったガラ・コンサート形式だったので度肝を抜かれた。歌詞は小池修一郎による宝塚バージョンだったので、よく歌劇団から許可が降りたな、太っ腹だなと感心することしきり。

このミュージカル最大の見せ場は第1幕フィナーレでエリザベートが有名な肖像画と同じエーデルワイスの髪飾りと豪華な白いドレスで階段を降りてくるシーンなのだが、それも見事に再現されていた。

Eriza

僕は京都国立博物館の特別展でこの絵の本物を見たことがある。

京都でハプスブルク気分! 2010.02.19

あとトートの黒い衣装が格好良かった!

ミュージカル「エリザベート」は1992年にアン・デア・ウィーン劇場で産声を上げた。ベートーヴェン:交響曲第5番・6番やヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇『こうもり』、レハール:喜歌劇『メリー・ウィドウ』などが初演された由緒ある劇場である。次に上演されたのが日本で1996年2月の宝塚雪組公演(一路真輝・花總まり・轟悠 他)。ここで歌劇団(演出家・小池修一郎)からの要請で新曲 ♪愛と死の輪舞(ロンド)♪  が追加された。宝塚はあくまで男役メイン(娘役は添え物)であり、タイトルロール=エリザベート主演から死神トート中心の物語に潤色する必要があったのだ。

日本初演と同年の8月にハンガリー初演があり、♪愛と死の輪舞(ロンド)♪ が歌われた。デュエット・ナンバー ♪私が踊る時♪ が追加されたのは2001年ドイツ初演(エッセン版)から。宝塚大劇場では2002年花組公演(春野寿美礼・大鳥れい)でのお披露目となった。

余談だが、宝塚版における僕が考えるオールタイム・ベスト・キャストを挙げておく。各組のBlu-rayが発売されているので参考にされたし。

エリザベート:花總まり(96年雪組/98年宙組)、 トート:明日海りお(14年花組)、 フランツ・ヨーゼフ:北翔海莉(14年花組)、 ルキーニ:轟悠(96年雪組)、 ルドルフ:朝海ひかる(98年宙組)、 少年ルドルフ:月影瞳(96年星組)、 ゾフィー:出雲綾(96年星組/98年宙組)、 エルマー:和央ようか(96年雪組)、 ヴィンディッシュ嬢:陵あきの(96年星組/98年宙組)

閑話休題。

ゴージャスなサウンドの『キャラバンの到着』をまた体験できたのも嬉しかったな。胸がスカっとする。

そしてユーミンの『春よ、来い』を聴きながら、新型コロナ禍の収束と、ウクライナでの戦争の終結を祈らずにはいられなかった。そういう切実さがあった。

それから毎回書いていることだが、大阪桐蔭の『銀河鉄道999』と出会わなかったら、僕がこの映画やTV版を観たり、『銀河鉄道の夜』との違いについて真剣に考察することもなかっただろう。本当にありがとう。そして近いうち是非『ウエスト・サイド・ストーリー』も久しぶりに聴かせてください!

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