ジェーン・カンピオン vs. スピルバーグ、宿命の対決!!「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
Netflix配信映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が第94回アカデミー賞で最多11部門12ノミネートされた。内訳は作品賞、監督賞(ジェーン・カンピオン)、主演男優賞(ベネディクト・カンバーバッチ)、助演男優賞(ジェシー・プレモンスとコディー・スミット=マクフィーの2人)、助演女優賞(キルスティン・ダンスト)、脚色賞、美術賞、撮影賞、編集賞、音響賞、作曲賞。余談だが劇中で結婚するジェシー・プレモンス(マット・デイモンのそっくりさんで、映画『すべての美しい馬』ではデイモンの幼少時代を演じた)とキルスティン・ダンストは実生活においても夫婦である。
一方、スティーブン・スピルバーグ監督初のミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』は作品賞、監督賞、助演女優賞、美術賞、撮影賞、衣装デザイン賞、音響賞の7部門にノミネートされている。
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ここでどうしても思い起こさずにいられないのが今から28年前となる1994年、第66回アカデミー賞における宿命の対決である。この年はスピルバーグの『シンドラーのリスト』とジェーン・カンピオンの『ピアノ・レッスン』が競り合い、『シンドラーのリスト』が作品賞、監督賞を含む7部門を制して大勝利を収めた。作品賞・監督賞など8部門にノミネートされていた『ピアノ・レッスン』は結局、脚本賞、主演女優賞、助演女優賞の3部門受賞にとどまった。『ピアノ・レッスン』の方が映画として優れているし、監督賞はジェーンが受賞すべきだったと、僕は今でも思っている(ちなみに、監督賞を初めて女性が受賞するのは2010年『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグローまで待たなければならない)。
そして四半世紀以上を経て再び両者が四つに組むこととなった。今回の勝者は間違いなくジェーンだろう。#MeToo 運動があり、昨年の受賞者もクロエ・ジャオだったし、いま確実に女性監督の方向に風が吹いている。ただ、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が作品賞も受賞できるのかとなると、甚だ疑問である。理由を説明しよう。
本作について「ある映画に似ている」と書いただけで直ちにネタバレになってしまうので、それを避けることは極めて難しい。以下ネタバレあり。
評価:A
まず『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が作品賞を受賞するための最大の難関は、これがNetflix映画だということ。ハリウッド映画人の矜持として、配信映画だけには作品賞を与えたくないという気持ちがある。劇場を守らなければならない。やはりNetflixの『ROMA/ローマ』の時もそうだった。アルフォンソ・キュアロンに監督賞を与えたが、作品賞を受賞したのは凡庸な『グリーンブック』だった。
そして『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は『ブロークバック・マウンテン』と共通点がある。ゲイのカウボーイが主人公なのだ。『ブロークバック・マウンテン』でアン・リーはアカデミー監督賞を受賞したが、作品賞は獲れなかった。
つまり性的マイノリティー、LGBTQ+がテーマなので、普遍性に欠ける。多数者であるストレートの人々に響く物語とは言えない。またキリスト教徒(特にカトリック系)には未だにゲイに対する根強い偏見がある。例えば2021年にローマ教皇庁(ヴァチカン)は「同性婚は祝福できない」と公式見解を示した。そういう意味で『ベルファスト』や『ドライブ・マイ・カー』にも作品賞のチャンスがあると思う。
ただこの理屈には反証があって、『ラ・ラ・ランド』が最有力と言われた年に作品賞を受賞したのはゲイが主人公の地味な『ムーンライト』だった。だから今年、監督賞の行方は鉄板なのだが、作品賞に関しては五里霧中、皆目見当がつかないというのが正直なところである。
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