映画「ドント・ルック・アップ」 (Netflix)
評価:A+
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人類が未曾有の危機に直面した時、いかに愚かな行動をとってしまうかということをブラック・コメディーにした作品としては、水爆の恐怖をテーマにした『博士の異常な愛情』(1964)以来だと思う。考えてみれば50年以上、そういった映画がなかったというのは不思議な気がする。
いま僕たちは新型コロナウィルス・パンデミックの渦中にいる。そしてこうした際に皆が一致団結して危機に立ち向かうことが出来ないというのを、現実社会で嫌というほど思い知らされた。
「新型コロナは嘘」「コロナはただの風邪」などと不都合な情報から目を背け、自分の殻に閉じこもる人々。地球に落ちてくる超巨大彗星を見ようとしない『ドント・ルック・アップ』で描かれた情景と重なる。世界は分断され、対立が続いている。「選挙が盗まれている」というトランプ前大統領の主張を鵜呑みにして、アメリカ連邦議会を襲撃した彼の支持者のことも本作を観ながら思い出した。どうも人は、見たいものしか見ない性癖があるようだ。
現在、「世界の黒幕がワクチンによってマイクロチップを埋め込み、人類を管理しようとしている」といった陰謀説が喧伝されているが、それって『博士の異常な愛情』に登場する空軍の司令官が「水道水にフッ素を添加しているのは共産主義者の陰謀で、アメリカ人の体液を汚染しようとしている」という妄想に取り憑かれているのと同じ現象ではないだろうか?
『博士の異常な愛情』 はピーター・セラーズが1人3役をこなすことで、物語のバカバカしさを増幅させていたが、本作では無駄にオスカー俳優が5人も出演していることで、同様の効果を得ることに成功している。
登場人物たちの所業の余りの滑稽さに大爆笑しつつ観終わって、「でもひょっとしたら現実にも起こり得るかもしれないぞ」と背筋が凍る、そんな映画体験だった。
医師であるキュブラー=ロスはガン告知を受けた末期患者と面談を重ね、その心理プロセスを著書『死ぬ瞬間』の中で1.否認、2.怒り、3.取引、4.抑うつ、5.受容の5段階に分けた。この全ての段階が『ドント・ルック・アップ』に登場するが、「受容」に至る人もいれば、「否認」の段階で留まる人もいて、人それぞれ、千差万別だなと思った。
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