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2022年1月

武満徹「系図(ファミリー・トゥリー)-若い人たちのための音楽詩-」を初めて生で聴く。(佐渡裕/PACオケ)

僕が大好きな武満徹の「系図(ファミリー・トゥリー)」については何度も触れてきた。

厳選 管弦楽の名曲ベスト40(+α)はこれだ!

谷川俊太郎の詩集『はだか』から6篇(むかしむかし/おじいちゃん/おばあちゃん/おとうさん/おかあさん/とおく)が朗読される。語り手は12歳から15歳の少女が望ましい、と武満は語っている。 日本初演の語りは遠野凪子。1997年にシャルル・デュトワ/NHK交響楽団が定期演奏会で取り上げたときも彼女だった(僕はテレビで見た)。また1995年、世界初演を指揮したレナード・スラットキンが2016年のN響定期でこの曲を演奏した時の朗読は山口まゆ(15歳)。他に上白石萌音や、のん(能年玲奈)が語ったバージョンもCDになっている。なんと浜辺美波もステージでやったことがあるらしい!

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面白いのは2006年2月18日に岩城宏之が指揮した京都市交響楽団定期演奏会。吉行和子が朗読を担当した。当時70歳。エッ、それってあり!?

2022年1月16日(日)兵庫県立芸術文化センターへ。

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佐渡裕/兵庫芸術文化センター管弦楽団、御喜美江(アコーディオン)、白鳥玉季(語り)で、

・武満徹:系図(ファミリー・トゥリー)-若い人たちのための音楽詩-
・マーラー:交響曲第4番 (ソプラノ独唱 石橋栄実)
・山田耕筰:この道(アンコール)

白鳥玉季は現在11歳。子役として映画『永い言い訳』、朝ドラ『とと姉ちゃん』、大河ドラマ『麒麟がくる』等で活躍している。

演奏会前に佐渡裕のプレトークがあった。

2011年にベルリン・フィルに招聘された時、楽団から武満をプログラムに入れてほしいと依頼があった。佐渡が取り上げたのは『From Me Flows What You Call Time ~5人の打楽器奏者とオーケストラのための 』。曲の詳しい解説は下記記事に書いた。

静と動~佐渡裕/PACの武満&ホルスト 2010.09.14

佐渡がPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)のレジデント・コンダクターを務めていた1994年に武満がレジデント・コンポーザーに選ばれ、1ヶ月ほど一緒だった。寡黙な人で話しかけ難かったけれど、勇気を出して「武満さんが一番影響を受けた作曲家は誰ですか?」と訊いてみた。しばらく沈黙した後、返ってきた答えは、ドビュッシーかメシアンじゃないかという予想を覆し、「デューク・エリントン」だったという。また「ハ長調は美しい!」とも言っていたそう。『系図』もハ長調で締め括られる。

佐渡は今回『系図』を演奏するにあたり色々と悩んだが、「むかしむかし」という詩は少女が赤ん坊の時というのに留まらず彼女が生まれる前、例えば100年前も内包しているのではないか?と考えた。そして最後の「とおく」は未来のことだろう、と。

つまり過去も現在も未来も〈いま、ここ〉にある。この共時性はオーストリアの先住民アボリジニの概念〈ドリームタイム〉に近いな、と僕は思った。武満もそのものズバリ『夢の時』というオーケストラ曲を作曲している。

アボリジニの概念〈ドリームタイム〉と深層心理学/量子力学/武満徹の音楽

またマーラーの交響曲第4番 第1楽章 第1主題、冒頭の上昇する3音は交響曲第6番 第1楽章 第2主題、いわゆる「アルマのテーマ」と同じ音型。これは天国を表しているのだろう、と佐渡。そして第6番では次第にその主題が引き裂かれる。第4番もずっと天井の生活が描かれるのではなく、第2楽章には死神が登場する。ここで死神の役割を演じるソロ・ヴァイオリンは長2度高く調弦されている(この楽章のみ楽器持ち替え)。

悪魔や死神はしばしばヴァイオリンと共に現れる。タルティーニ『悪魔のトリル』というヴァイオリン独奏曲があるし、サン=サーンス『死の舞踏』の死神もヴァイオリンを弾く。ゲーテ『ファウスト』のメフィストフェレスしかり。ロシア民話に基づくストラヴィンスキー『兵士の物語』の悪魔も。

ビブラートの悪魔 2007.12.05

僕は昔から「武満はどうして『系図』でアコーディオンを用いたのか?」という問いを抱いていたのだが(他のオーケストラ曲には登場しない)、今回の演奏会で遂にその答えを見出した!

武満自身もこの詩に向かい合いながら、自分の少年時代に立ち返ろうとしていたのだろう。そして作曲家になろうと決意した14歳の夏ー戦争末期の1945年に思いを馳せたのではないか?そこには敵性音楽であるシャンソン『聞かせてよ愛の言葉を』が響いていた。リュシエンヌ・ボワイエがこの歌を録音したのは1930年である。

わが心の歌 25選 ③シャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」と武満徹「小さな空」の関係

大衆音楽として20世紀初頭にパリのカフェやバル(踊り場のある酒場)で流行した音楽「ミュゼット」。そこには常にアコーディオンがあった。そうした1930年頃のパリへと時空旅行(ダイヴ)するための装置としてアコーディオンが起用されてのではないだろうか?

今回初めて『系図』を生で聴いて、幻夢の世界にいざなわれ、恍惚とした心地になった。正に〈ドリームタイム〉体験であった。

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映画「ドント・ルック・アップ」 (Netflix)

評価:A+

公式サイトはこちら

人類が未曾有の危機に直面した時、いかに愚かな行動をとってしまうかということをブラック・コメディーにした作品としては、水爆の恐怖をテーマにした『博士の異常な愛情』(1964)以来だと思う。考えてみれば50年以上、そういった映画がなかったというのは不思議な気がする。

いま僕たちは新型コロナウィルス・パンデミックの渦中にいる。そしてこうした際に皆が一致団結して危機に立ち向かうことが出来ないというのを、現実社会で嫌というほど思い知らされた。

「新型コロナは嘘」「コロナはただの風邪」などと不都合な情報から目を背け、自分の殻に閉じこもる人々。地球に落ちてくる超巨大彗星を見ようとしない『ドント・ルック・アップ』で描かれた情景と重なる。世界は分断され、対立が続いている。「選挙が盗まれている」というトランプ前大統領の主張を鵜呑みにして、アメリカ連邦議会を襲撃した彼の支持者のことも本作を観ながら思い出した。どうも人は、見たいものしか見ない性癖があるようだ。

現在、「世界の黒幕がワクチンによってマイクロチップを埋め込み、人類を管理しようとしている」といった陰謀説が喧伝されているが、それって『博士の異常な愛情』に登場する空軍の司令官が「水道水にフッ素を添加しているのは共産主義者の陰謀で、アメリカ人の体液を汚染しようとしている」という妄想に取り憑かれているのと同じ現象ではないだろうか?

『博士の異常な愛情』 はピーター・セラーズが1人3役をこなすことで、物語のバカバカしさを増幅させていたが、本作では無駄にオスカー俳優が5人も出演していることで、同様の効果を得ることに成功している。

登場人物たちの所業の余りの滑稽さに大爆笑しつつ観終わって、「でもひょっとしたら現実にも起こり得るかもしれないぞ」と背筋が凍る、そんな映画体験だった。

Dont

医師であるキュブラー=ロスはガン告知を受けた末期患者と面談を重ね、その心理プロセスを著書『死ぬ瞬間』の中で1.否認、2.怒り、3.取引、4.抑うつ、5.受容の5段階に分けた。この全ての段階が『ドント・ルック・アップ』に登場するが、「受容」に至る人もいれば、「否認」の段階で留まる人もいて、人それぞれ、千差万別だなと思った。

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