ミシェル・ブヴァール プロデュース「フランス・オルガン音楽の魅惑」Vol. 1
11月5日(金)いずみホールへ。ミシェル・ブヴァールのお話とパイプオルガンで、特別レクチャーを聴講する。
オルガニスト・作曲家だった祖父ジャン・ブヴァール(1905-96)はオルガンをルイ・ヴィエルヌ、作曲をポール・デュカスとフローラン・シュミットに師事した。デュカスの同門にオリヴィエ・メシアンがいる。
演奏された曲目は、
・J.ブヴァール:ノエル(クリスマス)変奏曲
◆ルネサンスと17世紀の音楽
・C.ジャルヴェーズ:2つの舞曲
・C.ジャヌカン:Martin menoit son pourceau au marché
・J.ティトルーズ:讃美歌〈めでたし、海の星よ〉
◆古典派
・N.de.グリニー:〈来たり給え、創造主なる聖霊よ〉
・F.クープラン:《修道院のためのミサ曲》より聖体奉挙
◆ロマン派とシンフォニー
・C.フランク:プレリュード ロ短調
・L.ヴィエルヌ:ウエストミンスターの鐘
◆印象派と現代
・M.デュリュフレ:アランの名による前奏曲とフーガ(抜粋)
ルネサンス期の舞曲は世俗的で、宗教音楽とは対称的だった。
ジャヌカンは4声から成るポリフォニーで、ティトルーズには対位法が登場。
グリニーはカラフルで華やか、F.クープランはしっとりと上品。
フランクは物悲しい孤高の音楽。彼は新たに就任した教会で、カヴァイエ=コルが設計した新式のオルガンを演奏するようになり、「私の新しいオルガンはまるでオーケストラのようだ!」と述べた。
19世紀から20世紀初頭にかけてはオルガンの音色もオーケストラを模し,音量の増減を行う演奏補助装置を付加して,時代の要求に応えた。 これをシンフォニック・オルガンとかロマンティック・オルガンという。カヴァイエ=コル(1811-1899)はノートルダム大聖堂のオルガンも製作した。
その大聖堂で即興演奏により初披露されたのがヴィエルヌ作曲『ウエストミンスターの鐘』である。音のグラデーションがフランス印象派を彷彿とさせ、大伽藍を構築する。この辺りから不協和音が登場。
1950年ごろからバロック・オルガンの再興を目指すネオ・クラシカル・オルガンの製作が始まった。その代表的製作者がヴィクター・ゴンザレス(Victor Gonzalez)である。
「アランの名による前奏曲とフーガ」と同趣旨の作品がリストの「バッハ(BACH)の名による幻想曲とフーガ」。レーガーが作曲した同名曲もあり、B-A-C-H(シ♭-ラ-ド-シ)音型が繰り返し登場する。デュリュフレの盟友であり、第二次世界大戦で若くして戦死したオルガニスト・作曲家ジャン・アランを追悼する目的で書かれた。その妹がオルガニストとして数多くの録音を残したマリー=クレール・アラン。「ALAIN」というアルファベットが暗号表によって「adaaf(ラレララファ)」に置きかえられた。また前奏曲の後半では、ジャン・アランのオルガン曲『リタニ』が引用されている。
翌11月6日(土)に開催された演奏会のプログラムは、
第1部:16−18世紀
・C.ジュルヴェーズ:フランス・ルネッサンスの「舞踏曲(ダンスリー)」
・E.du コロワ(A.イワゾール編):「若い娘」に基づく5つのファンタジー
・H.デュモン:2つの三声プレリュード
・L.クープラン:ファンタジー第26,59番
・M.A.シャルパンティエ:『テ・デウム』へのプレリュード
・F.クープラン:《教区のためのミサ曲》よりベネディクトゥス
・同:《修道院のためのミサ曲》よりグラン・ジュによる奉献唱
・N.de グリニー:オルガン・ミサ曲のグローリア(抜粋)
・L.C.ダカン:ノエルの新しい曲集op.2より第6曲
第2部:19世紀と20世紀初頭
・C.フランク:3つのコラールよりコラール第1番 ホ長調
・L.ヴィエルヌ:ウエストミンスターの鐘
・J.ブヴァール:バスク地方のノエルによる変奏曲
・M.デュプレ:行列と祈祷
・J.アラン:祈祷
・M.デュリュフレ:アランの名による前奏曲とフーガ
アンコール曲は
・シャルル・トゥルヌミール:「復活のいけにえに」によるコラール即興曲
(M.デュリュフレの復元した即興演奏)
いくつかの曲では妻の宇山=プヴァール康子が連弾で演奏に参加した。
ルネサンス期のオルガン曲は刻々と変化する色彩を感じさせた。夕焼けの美しさ。
ルイ・クープラン(フランシスの叔父)は素朴で荘重。シャルパンティエはトランペット的音色が華やか。そしてフランシス・クープランは秋の木枯らしが吹き荒び、もの寂しい。
J.S. バッハのオルガン曲が白黒だとすると、フランクのそれは交響的かつ重層的。
プヴァールの曲は低音が腹の底にズシンと響いた。
またアランの『祈祷』を聴きながら、ホルストの『惑星』を連想した。
アンコールはうねるような激情の音楽だった。
2夜に渡り、ドイツのJ.S. バッハとは一味違うフランス・オルガンの世界にどっぷりと浸り、堪能した。
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