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2021年10月 9日 (土)

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

評価:A

Notime

ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンド役に起用されてから、本シリーズは大きく舵を切った。特にサム・メンデス監督が登板した『スカイフォール』ではボンドの幼少期に遡る旅が描かれ、次の『スペクター』では犯罪組織のボス・ブロフェルドがボンドと因縁の関係であることが明らかに。キャリー・ジョージ・フクナガ監督がバトンを受けた本作でもその路線は継承され、今回は殺し屋ミスター・ホワイトの娘マドレーヌ・スワンが少女時代に体験したトラウマが蘇る。そしてイタリア南部の街マテーラの祭りでは「紙切れに火をつけて燃やすみたいに、辛かった記憶を消し去ることは出来るのか?」という問いが発せられるが、(悪役も含め)登場人物たちは追いかけて来る過去の影から逃れることが出来ない。

マドレーヌの回想では雪に閉ざされた森の中の一軒家が登場するが、森というのは暗い過去・深層心理のメタファーなのだろう。その奥底へと我々観客も深く潜っていく。

そしてこの体験はキャリー・フクナガがプロジェクトの途中で監督から降板し、脚本のみにクレジットが残ったスティーヴン・キング原作『IT/イット』をも彷彿とさせる仕掛けになっており、ピエロの代わりに本作では能面の男が登場する。

さらに私たちは007シリーズそのものの過去作にも旅することになる。現役を退いたボンドはジャマイカで悠々自適の日々を過ごしているが、ここは第1作『ドクター・ノオ』物語発端の地でもある。極めつけは映画冒頭ボンドとマドレーヌがランデブーを満喫している場面で『女王陛下の007』挿入歌「愛はすべてを越えて」の旋律が聞こえてきて、エンド・クレジットでは同曲をサッチモ(ルイ・アームストロング)がしゃがれ声で味わい深く歌う。『女王陛下の007』はボンドがシリーズで唯一結婚する異色作であり、『インセプション』『TENET テネット』のクリストファー・ノーラン監督が一番のお気に入りと宣言するほど多くのファンから愛されている作品。そして『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のプロットと見事に対にもなっている。鮮やかで、懐かしくもあり、胸が熱くなる幕切れだった。ダニエル・クレイグ、そしてフクナガ監督、本当にありがとう!!

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コメント

今作はビックリな展開が沢山ありましたが、私の一番の驚きは「音楽」でした。

「女王陛下の007」の旋律が途中、二度も流れたと思ったら、ラストは史上初の
2回目のサッチモ登場!
(途中で「女王陛下の007」のセリフも復活していたそうです)

投稿: onscreen | 2021年10月17日 (日) 08時37分

ここで重要なことは『女王陛下の007』におけるサッチモの歌は〈挿入歌〉という役割でしたが、今作では堂々エンド・クレジットで流れるというわけで〈格上げ〉になっているということです。

投稿: 雅哉 | 2021年10月17日 (日) 09時42分

おおっ、そうでしたね!

投稿: onscreen | 2021年11月 5日 (金) 11時52分

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