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ミュージカル映画「イン・ザ・ハイツ」

ミュージカル『イン・ザ・ハイツ』は作詞・作曲家、兼役者でもあるリン=マニュエル・ミランダが2007年にニューヨークの大学の校内で初演し、その後オフ・ブロードウェイを経て2008年3月にブロードウェイに進出。トニー賞で13部門ノミネートされ(ウスナビを演じたミランダもミュージカル主演男優賞候補となった)、作品・楽曲・編曲・振付の4部門で受賞した。またオリジナル・キャストによるアルバムはグラミー賞にも輝いた。

評価:A+

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本作はマンハッタン島北部のワシントンハイツを舞台にしている。ここはドミニカ共和国、キューバ、プエルトリコ、メキシコ等からの移民が集まり、スペイン語が飛び交うラテン系アメリカ人(ラティーノ)社会を形成している。ワシントンハイツはアフリカ系アメリカ人が多いハーレムよりも更に北に位置する。一方、マンハッタン島を南に下るとセントラル・パークやブロードウェイ、タイムズスクエアがあり、さらに最南端からは自由の女神像があるリバティ島を臨むことが出来る。つまりマンハッタン島のアップタウン(北部)には有色人種の貧困層が住み、ダウンタウンには白人の富裕層が住んでいるという図式(水平方向の格差)があることを認識しておくと本作を理解する助けになるだろう。これはアカデミー作品賞・監督賞を受賞したポン・ジュノ監督『パラサイト』で、貧困層が半地下に住み、富裕層が高台の高級住宅街に住んでいる構造(垂直方向の格差)に似ている。

兎に角、作詞・作曲を担当したリン=マニュエル・ミランダの稀有な才能に舌を巻くしかない。『ハミルトン』はトニー賞で11部門を受賞し、ピューリッツァー賞まで攫った。またディズニー・アニメ『モアナと伝説の海』主題歌はアカデミー歌曲賞候補となった。ミュージカルというジャンルに於いてミランダは50年に1人の天才と断言しても過言ではない。これには具体的な根拠があって、今からちょうど50年前にアンドリュー・ロイド・ウェバーの『ジーザス・クライスト・スーパースター』がブロードウェイで初演されたのだ。彼がその前作『ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・ドリームコート』を作曲したのは20歳の時だった。その後も『エビータ』『キャッツ』『オペラ座の怪人』といった傑作群を世に送り出し、“現代のモーツァルト”と称賛された。当時彼の何が凄かったか(過去形)というと、クラシック音楽やジャズ、ロック、タンゴ、ポップスといった要素を見事に融合させたことにある。そしてロイド・ウェバーからさらに50年遡ると、ジョージ・ガーシュウィンがいた。

『イン・ザ・ハイツ』はサルサ(キューバ)、メレンゲ(カリブ海周辺諸国)、バチャータ(ドミニカ共和国)、レゲトン(プエルトリコ)などのラテン音楽に、R&B(リズム・アンド・ブルース)やヒップホップ(ラップ)が加味されている。ウスナビを中心とするラップバトルもある(動画はこちら)。

ウスナビを演じるアンソニー・ラモスは『ハミルトン』でジョン・ローレンスとフィリップ・ハミルトン(主人公の息子)の二役を演じた。リン=マニュエル・ミランダは映画版『イン・ザ・ハイツ』でピラグア(プエルトリコのかき氷)売り役として登場。ライバルのソフトクリーム屋(Mister Softee)役のクリストファー・ジャクソンはオリジナルの舞台でベニー(ニーナの恋人)を演じた。『ハミルトン』ではジョージ・ワシントン役。そして電話の保留中の音楽として『ハミルトン』の楽曲が流れてニヤリとさせられる。

往年のミュージカル映画へのオマージュに胸が熱くなった。プールの場面の俯瞰ショットはエスター・ウィリアムズ主演「百万弗の人魚」であり、重力を無視したアパートの壁でのデュエット・ダンスはフレッド・アステア主演「恋愛準決勝戦」だ(スタンリー・ドーネン監督は後に、同様の場面を再現するためにライオネル・リッチーが歌う『ダンシング・オン・ザ・シーリング』MVの演出を任された)。あとストリートで群衆が踊り狂う場面はアラン・パーカー監督『フェーム』を彷彿とさせた。

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