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2021年8月11日 (水)

プロミシング・ヤング・ウーマン

評価:A

Promising

タイトルを日本語に直訳すると『前途有望な若い女性』ということになる。アカデミー賞でオリジナル脚本賞を受賞。他に作品賞・監督賞・主演女優賞(キャリー・マリガン)・編集賞にノミネートされた。映画公式サイトはこちら

主人公は29歳の独身女性だが、キャリー・マリガンは撮影当時35歳前後で一児の母。設定に一寸無理を感じた。それで思い出したのだが、彼女が『17歳の肖像』で16歳の女子高生を演じた時、実際は22歳だった。やはり違和感があった。キャリーの〈サバ読み常習問題〉はどうも気になるところ。好きな女優さんなんだけれどね。彼女が特に絶品だったのは『わたしを離さないで』『ドライヴ』『華麗なるギャツビー』。幸薄い佇まいが似合うひとなんだ。

本作は主人公を取り巻く色彩が赤やピンクで、彼女に近づく男たちが青やエメラルドグリーンをの服をまとっているという具合に、非常にポップな画作りがされている。

ヒッチコック映画におけるバーナード・ハーマン風の音楽が印象的で、特にヒロインが怒りを爆発させる場面でワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』が高らかに鳴り響くという意外性に満ちた選曲には唸った(ヒッチコック『めまい』愛のテーマは『トリスタン』がベースになっている)。

正に #MeToo 運動の申し子といった内容で、最後はシスターフッドの映画でもあったと分かる構成は、見事に時流に乗った作品だなと思った。

女性をその才能とか内面ではなく、あくまで性的欲望を満足させるための対象(つまりラブドール)としてしか見ていない男たちばかり登場し、同性として居心地が悪くなった。

僕の学生時代を振り返ってみれば男子学生が集まると同じクラス女子の品評会になり、「あの子は可愛い」だの「あの子はブス」だの人格を無視したふるい分けが日常的に行われていた。若さ故のおぞましさ。そこには「女は外見にしか価値がなく、男は中身が肝心」という古い偏見がはびこってっている。そういった男からの視線、外圧を女性も意識せざるを得ず、だから40歳を過ぎて「おばさん」と呼ばれる事に抵抗がある人が多いのだろう。女性たちも「永遠に若く美しくなければならない」という呪いに取り憑かれているのではないだろうか?

たとえ主人公の復讐劇が完遂されたとしても世の男性たちの考え方が改まるとは到底考えられず、そこには絶望しかない。男と女の間にある深淵は果てしなく、到底それを埋められそうにない。しかし諦めず争(あらが)い続けることこそ生きることなのだ、ということを本作を観ながら考えさせられた。

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