厳選 管弦楽の名曲ベスト40(+α)はこれだ!
記事「厳選 交響曲の名曲ベスト30はこれだ!」も併せてご一読ください。
まず、今回のリストにリヒャルト・シュトラウスが入っていないことについて弁明をしておきたい。彼の管弦楽法が華やかであると認めることにやぶさかではない。しかし聴いていてどうも空疎なのだ。交響詩に情景の表面的描写はある。しかし中身がない。『アルプス交響曲』は主人公が登山をし、頂上の雄大な景色を堪能して嵐に遭いながらも無事下山するまでが描かれており、ゴージャスな響きを堪能できる(小澤征爾/ウィーン・フィル、大植英次/大阪フィルで生演奏を聴いた)。でもそれだけ。心が全く感じられない。僕にとってR.シュトラウスの管弦楽曲は張りぼて、ちんどん屋の音楽だ。けばけばしくて下品。一方、オペラ作曲家としては実に素晴らしい。『ばらの騎士』『サロメ』『エレクトラ』……。どれも一級品だ。こちらのジャンルは高く評価する。
また超有名曲ムソルグスキー『展覧会の絵』を省いたのは、オリジナルがピアノ曲で、モーリス・ラヴェルが編曲しているから。他者によるアレンジは管弦楽曲(オリジナル)と認めないことを原則とした。同様の理由でビゼー『アルルの女』も外した。第2組曲は作曲家の死後、友人のエルネスト・ギローが編曲している。一方、ラヴェルの『クープランの墓』も原曲はピアノ独奏曲だが、ラヴェル自身が後にオーケストラ用に編曲しているので対象とした。
オペラの序曲や間奏曲は除外した。オペラは本来、総体として鑑賞すべきものだから。
・厳選!これだけは観て(聴いて)おきたいオペラ・ベスト25(+吹奏楽との関連も)
ちなみに僕がオーケストレーションの魔術師と考える作曲家はラヴェル、リムスキー=コルサコフ、そしてレスピーギである。
それではいってみよう!1作曲家に付き1作品に絞った。曲名の後の西暦は、作曲または初演された年を示しており、年代順に並べてある。
・J.S. バッハ:管弦楽組曲 第2番 1720年頃
・ベートーヴェン:序曲「コリオラン」 1807
・メンデルスゾーン:劇付随音楽「夏の夜の夢」 1843
・ムソルグスキー:禿山の一夜(原典版) 1867
・ワーグナー:ジークフリート牧歌 1870
・チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」 1876
・ブラームス:大学祝典序曲 1880
・ボロディン:交響詩「中央アジアの草原にて」 1880
・スメタナ:連作交響詩「わが祖国」 1882
・シャブリエ:狂詩曲「スペイン」 1883
・リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」 1888
・グリーグ:「ペール・ギュント」第1・第2組曲 1891-93
・イッポリトフ=イヴァノフ:組曲「コーカサスの風景」 1894
・ツェムリンスキー:交響詩「人魚姫」 1903
・シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」 1903
・ウェーベルン:大管弦楽のための牧歌「夏風の中で」 1904
・ドビュッシー:海 1905
・アイヴズ:宵闇のセントラルパーク 1906
・ディーリアス:幻想曲「夏の庭で」 1908
・ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」 1912
・デュカス:舞踏詩「ラ・ペリ」 1912
・ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」 1913
・ファリャ:バレエ音楽「恋は魔術師」 1915(初稿)/1925(改訂)
・レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」 1916
・ホルスト:組曲「惑星」 1917
・イベール:交響組曲「寄港地」 1922
・シベリウス:交響詩「タピオラ」 1925
・ヤナーチェク:シンフォニエッタ 1926
・ガーシュウィン:交響詩「パリのアメリカ人」 1928
・コルンゴルト:赤ちゃんのセレナーデ 1928
・プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」 1938
・ラフマニノフ:交響的舞曲 1940
・バルトーク:管弦楽のための協奏曲 1943
・コープランド:アパラチアの春 1944
・メシアン:異国の鳥たち 1956
・リゲティ:アトモスフェール 1961
・ロータ:バレエ組曲「道」 1965
・アダムズ:ハルモニーレーレ(和声学) 1985
・マルケス:ダンソン 第2番 1994
・武満徹:若い人たちのための音楽詩「系図(ファミリー・トゥリー)」 1995
・ジョン・ウィリアムズ:アメリカン・ジャーニー 1999
番外編として弦楽合奏または、管楽合奏のための音楽ベスト12を挙げる。
・モーツァルト:13楽器のためのセレナード「グラン・パルティータ」 1784
・ドボルザーク:弦楽セレナード 1875
・チャイコフスキー:弦楽セレナード 1881
・グリーグ:ホルベアの時代から 1885
・スーク:弦楽セレナード 1892
・エルガー:序奏とアレグロ 1905
・ヴォーン・ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲 1910
・ヴァイル:管楽オーケストラのための「小さな三文音楽」 1929
・ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ 第5番 1938
・バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメント 1940
・ハチャトゥリアン:バレエ音楽「ガイーヌ」より「ガイーヌ(ガヤネー)のアダージョ」 1942
・ハーマン:弦楽オーケストラのための物語「サイコ」 1968
ここで、バーバー:弦楽のためのアダージョを入れるかどうか、最後まで迷ったことを告白する。ただしこの作品、元々は弦楽四重奏曲 ロ短調の第2楽章をバーバー自身が弦楽合奏用に編曲したものなのだ。他にも、ストラヴィンスキーに絶賛された武満徹:弦楽のためのレクイエムとか、3つの映画音楽(映画『ホゼー・トレス』から「訓練と休息の音楽」/映画『黒い雨』より「葬送の音楽」/映画『他人の顔』よりワルツ)も入れたかったな。
大バッハの管弦楽組曲 第2番は実質的にフルート協奏曲と言っても過言ではない。特に後半、ポロネーズ〜メヌエット〜バディネリのあたりが華麗なるハイライトと言えるだろう。
『コリオラン』は演奏会用序曲で、ベートーヴェンが古代ローマの英雄を主人公にした同名戯曲を観劇した時の感動が作曲の動機となっている。今回のセレクションの中で、最も悲劇的。強いて挙げるならチャイコフスキー『フランチェスカ・ダ・リミニ』が双璧か。また劇付随音楽『エグモント』序曲も甲乙つけがたい。
『夏の夜の夢』はシェイクスピアの芝居のために書かれた付随音楽。1935年のアメリカ映画『真夏の夜の夢』ではエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトがオーケストレーションし直しており、そちらのヴァージョンもCDで聴くことが出来る。本作はコルンゴルトがハリウッドに進出する切っ掛けになった。
原曲の方はプレヴィン/ウィーン・フィルの演奏でどうぞ。
『禿山の一夜』(原典版)の正式名称は音詩『聖ヨハネ祭前夜の禿山』。1867年に完成したスコアを見たバラキレフ(指揮者としても活躍)がその粗野なオーケストレーションを批判し修正を求めたが作曲家は拒否、演奏も出版もされぬままお蔵入りとなった。1881年ムソルグスキーの死後、彼の才能を何とかして世に知らしめたいと考えた友人のリムスキー=コルサコフは1886年にオーケストレーションを一新して改訂版を創り上げた。ここで「ロシア5人組」について説明しておこう。バラキレフをリーダーに、キュイ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフから成る作曲家集団のこと。
リムスキー=コルサコフのアレンジは洗練されており、だから有名になってディズニー映画『ファンタジア』でも取り上げられたわけだが(一見の価値あり!)、原曲の持ち味=土の香り/バーバリズムが失われてしまった。原典版の楽譜が発見され出版されたのが1967年。ロイド=ジョーンズ/ロンドン・フィルにより初めて録音されたのが1971年。80年にアバド/ロンドン交響楽団の録音が出て一躍世間で注目を浴びるようになり、現在ではアバド/ベルリン・フィル、サロネン/ロス・フィル、ドホナーニ/クリーヴランド管、ゲルギエフ/マリインスキー劇場管、ユロフスキ/ロンドン・フィルなどの音源がある。
ワーグナー『ジークフリート牧歌』は妻コジマの誕生日およびクリスマスの贈り物として作曲された。コジマはその前年に息子ジークフリートを生んでいた。この初演の様子はルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『ルートヴィヒ/神々の黄昏』で詳細に描かれているので、是非ご覧あれ。幸福感に満ちた音楽である。カラヤン/ウィーン・フィルあるいはベルリン・フィルの演奏でどうぞ。
チャイコフスキーは当初、バレエ音楽『くるみ割り人形』を選ぼうと考えていた。しかし、幻想序曲『ロメオとジュリエット』も大好きだしなぁ……。この終結部の旋律がバーンスタインのミュージカル『ウエストサイド物語』("Somewhere")に引用されているんだ。そうこう思い巡らしているうちに、魅力的な楽曲ながら演奏される機会が少ない『フランチェスカ・ダ・リミニ』にしたらどうかという考えが思い浮かんだ。幻想曲と銘打たれているが、実質的には交響詩だ。ダンテ『神曲』の地獄篇が題材になっている。妻が弟と不倫している現場を目撃した兄は嫉妬に狂い2人を殺す。彼らは色欲の罪を犯した者として、地獄の業火で焼かれ続ける。
チャイコフスキーはゲイであり、ロシア正教会(キリスト教)において同性愛は罪だった。だからチャイコフスキー自身も死んだら地獄で責め苦を受け続けるという恐怖心があったのではないだろうか?つまり禁断の愛欲に溺れた恋人たちへの共感があった、ということだ。
『大学祝典序曲』はブラームスがポーランドにある大学から名誉博士号を授与された返礼として作曲した。以前ラジオたんぱで放送されていた旺文社『大学受験ラジオ講座』のテーマ曲として使用された。4つの学生歌が引用されている。興味深いことにプロの指揮者からの評価は低く、例えばヘルベルト・フォン・カラヤン、カール・ベーム、カルロ・マリア・ジュリーニといった大指揮者たちがこの曲を録音したことは一度もない。カラヤンは生涯にブラームスの交響曲全集を3回、悲劇的序曲と、ハイドンの主題による変奏曲はそれぞれ4回スタジオ録音しているのだが……。
ボロディンで一番有名なのは、なんてったって躍動感溢れる『だったん人の踊り』だろう。漢字では韃靼人と書く。最近は『ポロヴェツ人の踊リ』と呼ばれることが多い。これはオペラ『イーゴリ公』第2幕で演奏され、本来は合唱を伴う。合唱付きの方がド迫力なのでお勧め。今回紹介したいのは穏やかな『中央アジアの草原にて』。舞台となるのはコーカサス地方。そこでロシアと東方の歌が出会う。こちらは実演に接する機会が滅多にない。なおボロディンは有機化学を専門とする大学教授であり、自らを「日曜作曲家」と称した。
6曲から成る『わが祖国』の中でずば抜けて知名度があるのは第2曲『モルダウ』だ。旋律がイスラエルの国歌『ハティクヴァ(希望)』にそっくりなことは余りにも有名。起源が同じなのだ(17世紀イタリアの歌『ラ・マントヴァーナ』)。スメタナは既存の歌をそのまま自作に取り入れる人だった。例えば第5曲『タボール』と第6曲『ブラニーク』ではフス派教徒の賛美歌『汝ら神の戦士』が引用されている。『わが祖国』は指揮者クーベリックが数々の名演を残したが、1958年ウィーン・フィルとの録音は避けるべき。またチェコ・フィルとのライヴは1990年の「プラハの春」よりも、91年サントリー・ホールの演奏のほうが良い。他にボストン響やバイエルン放送響との録音も素晴らしい。また52年シカゴ交響楽団との録音はモノラルながら、沸騰するような渾身の熱演が展開される。余談だが吹奏楽の超有名曲、カレル・フサ作曲『プラハ1968年のための音楽』でも『汝ら神の戦士』の旋律が登場する。こちらの初演は1969年で、翌年には指揮者ジョージ・セルの委嘱で管弦楽版が初演された。
エマニュエル・シャブリエは40歳近くまで、フランス内務省の役人を務める傍ら作曲活動を行っていた。狂詩曲『スペイン』は退職2年後にスペイン旅行をした際の印象を描写している。明るい色彩感に満ちた楽曲。この人は『楽しい行進曲』も素敵。デュトワ/モントリオール響の録音でどうぞ。
千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)に準拠した『シェヘラザード』は異国情緒溢れ、リムスキー=コルサコフの華麗なオーケストレーションを堪能出来る。あの、全体がうねるような感じが好き。デュトワ/モントリオール響か、ゲルギエフ/キーロフ(現:マリインスキー劇場)管、ストコフスキー/ロンドン響の演奏でどうぞ。
『ペール・ギュント』はイプセンの劇付随音楽として1875年に完成し、その後度重なる改訂を経て組曲として編纂された。第1組曲に入った“オーセの死”はペールの母のことだが、その旋律を聴くと“さくらさくら”を連想するのは僕だけだろうか?バルビローリか、ネーメ・ヤルヴィの指揮で。なおヘルベルト・フォン・カラヤンは第1,第2組曲を生涯3度スタジオ録音しているが、演奏会では1度も取り上げたことがない。
イッポリトフ=イヴァノフはロシアの作曲家。『コーカサスの風景』は第1曲『峡谷にて』/第2曲『村にて』/第3曲『モスクにて』/第4曲『酋長の行列』から成る。『村にて』は黒澤明監督の映画『夢』の最後に流れ、印象深い。チェクナヴォリアン/アルメニアン・フィルの演奏で。
ツェムリンスキーはウィーン生まれ。アルマ・マーラーが結婚する前に音楽の先生を務め、彼女に恋焦がれていたことは有名(因みにツェムリンスキーはマーラーより11歳年少)。アルマは後にツェムリンスキーのことを「醜男だった」と語っている。 また彼は自分がユダヤ人で背が低いことにコンプレックスを感じており、歌劇『こびと』にその思いを託している。ロマンティックな『人魚姫』第1楽章は「海底/嵐、人魚姫が王子を救出する」、第2楽章「海の魔女を訪れる人魚姫。王子の結婚」、第3楽章「人魚姫の死と天国への救済」。シャイー/ベルリン放送響で。
シェーンベルクと言えば調性音楽を脱し、十二音技法を生み出した作曲家として知られており、「難解だ」「どう聴いたら良いのか分らない」「耳障りだ」といった印象を持っている人が多いのではないだろうか?ところがどっこい『ペレアスとメリザンド』は彼が無調時代に入る前の作品であり、弦楽六重奏曲『浄夜』同様に大変聴き易い。後期ロマン派の残り香が濃密に立ち込めており、幻想的で耽美な世界を醸し出している。あらすじや、主要なライトモティーフ(示導動機)を知っておけば鑑賞の助けになるので、大阪交響楽団の曲目解説をご覧あれ(こちら)。『ペレアスとメリザンド』の物語構造は基本的に『トリスタンとイゾルデ』とほぼ同じである。だからワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』に魅了された作曲家たちが競い合うように『ペレアス』に殺到した。フォーレとシベリウスは劇付随音楽を書き、ドビュッシーはオペラ化した。それらを聴き比べてみるのも一興だろう。なおピエール・ブーレーズ/グスタフ・マーラー・ユーゲント管がシェーンベルクの『ペレアス』を録音したアルバムには、それに先行してワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』前奏曲が収録されている。宜なるかな。
シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンら新ウィーン学派はクラシック音楽ファンから敬遠されがちで、演奏会で取り上げられることも滅多にない。ウェーベルンはシェーンベルクに師事して以降、十二音技法を突き詰めていくのだが、『夏の風の中で』はその前、ウィーン大学に在学中の1904年夏に作曲された。当時20歳だった。一陣の風が通り抜けるように爽やか。なんて瑞々しいんだろう!シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管かドホナーニ/クリーヴランド管の演奏で。なおウェーベルンはナチス・ドイツがオーストリアを併合した後もこの地に留まり終戦を迎えたが、喫煙のため夜間ベランダに出てタバコに火をつけたところオーストリア占領軍の米兵により闇取引の合図と誤解され、その場で射殺された。享年61歳、気の毒な最後である。
ドビュッシー『海』は武満徹に多大な影響を与えた。武満にもアルトフルートのための『海へ』という作品があり、ピアノとオーケストラのための『夢の引用』では『海』からの大胆な引用がある。定まった形がなく、刻々と生成変化するものへの愛着。ブーレーズ/クリーブランド管、あるいはロト/レ・シエクルで。
保険会社に勤めながら「趣味」として作曲を続けたチャールズ・アイヴズ。『宵闇のセントラルパーク』ではまず、弦楽器が闇に包まれた公園の夜の静けさを描く。ベンチに憩っていると突然、池の向こうのカジノの音、ストリート・ミュージシャンの歌声、パレードや消防馬車が駆け抜ける音などが聴こえてくる。この混沌とした状況がアイヴズの真骨頂と言えるだろう。演奏時間7-8分。またこの曲と対に作曲された『答えのない質問』も哲学的で大変面白い。冒頭の弦楽器は「沈黙を守り祈る司祭たち」。トランペット・ソロが「存在についての問い」ーつまり「私たちはなぜ生きるか?」「神が人間を創造した目的は?」といったようなこと。それに対して木管四重奏があれやこれやと答えるが、正解は得られず最終的にお手上げになり押し黙る。演奏時間5-6分。レナード・バーンスタインか小澤征爾の指揮で。
ディーリアスといえば音詩(Tone Poem)。夏が来るとこの作曲家の音楽を無性に聴きたくなる。『夏の庭で』は幻想曲と銘打たれているが、実質的には音詩と考えて良いだろう。特に曲の中盤、木管楽器の奏でる分散和音と低弦に伴われて現れるヴィオラの旋律(第3主題)が素敵。ジンと来る。他に僕が好きなディーリアスの曲は『夏の歌』と『夏の夕べ』。『春はじめてのカッコウの声を聴いて』や『ブリッグの定期市』、オペラ『村のロミオとジュリエット』から『楽園への道』も勿論良い。『夏の庭で』と『夏の歌』はバルビローリの指揮、『夏の夕べ』はビーチャム/ロイヤル・フィルか、ロイド=ジョーンズ/ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管で。
当初はラヴェルがピアノ独奏曲として1899年に作曲し、1910年に管弦楽用に編曲した『亡き王女のためのパヴァーヌ』を選出しようと考えていた。しかしラヴェルのオーケストラ曲で代表選手といえば『ダフニスとクロエ』だろうと思い直した。ちなみに全日本吹奏楽コンクール(全国大会:中学/高校/大学/職場・一般の部)自由曲として『ダフクロ』が取り上げられたのが2021年現在112回、うち金賞受賞はのべ49回である(吹奏楽コンクールデータベースより)。演奏された回数としてはレスピーギ『ローマの祭り』に次ぐ歴代第2位の記録だ。半音階を駆使した作曲技法が後の十二音技法や無調音楽の誕生に繋がってゆく。クリュイタンス、ブーレーズ、ロト、デュトワいずれかの指揮でどうぞ。
『ラ・ペリ』はバレエ音楽として出版された数年後、前奏用ファンファーレが追加で作曲された。幻想的で大層美しい18分程度の楽曲。デュカスといえば『魔法使いの弟子』の作曲家としてしか認識されていないが、どうしてどうして『ラ・ペリ』も十分魅力的だ。『魔法使いの弟子』については、何はともあれディズニー映画『ファンタジア』を観てください。
ストラヴィンスキーのバレエ音楽『春の祭典』初演時における阿鼻叫喚の大混乱については映画『シャネル&ストラヴィンスキー』で面白おかしく描かれている。ディオニュソス的大地讃頌、本能剥き出しの熱狂。1960年代後半から流行ったプログレッシブ・ロック(ピンク・フロイド/イエス/キング・クリムゾン/エマーソン・レイク・アンド・パーマー)に通じるものがあり、プログレ愛好家にも人気が高い曲。クルレンツィス、ロト、ブーレーズの指揮で。
ファリャはバレエ音楽『三角帽子』も良いのだが、『恋は魔術師』はなんてったって『火祭りの踊り』が素晴らしい。圧巻のフラメンコを堪能出来るカルロス・サウラ監督の同名映画(1986)をご覧になることをお勧めする。
全日本吹奏楽コンクールで最も演奏回数が多いのがレスピーギ『ローマの祭り』で総計115回、うち金賞受賞が47回となっている。これが『ローマの噴水』だと取り上げられたのが25回、金賞受賞は14回と激減する。『ローマの松』は41回演奏され金賞受賞は19回。カラヤンは『ローマの松』と『ローマの噴水』をレコーディングしているが、『ローマの祭り』は演奏会を含めて生涯一度も取り扱わなかった。あの騒音のようなうるささを毛嫌いしていたのではないだろうか?一方『ローマの噴水』はたおやかで繊細な楽曲である。因みにカラヤン/ベルリン・フィルは『ローマの松』を1984年にザ・シンフォニーホール@大阪で演奏しており、そのライヴは映像収録されDVDで発売されている。
『惑星』を一躍有名にしたのは1961年にカラヤン/ウィーン・フィルがスタジオ録音したことが切掛だった。しかしカラヤンというのは不思議な人で、基本的にイギリス音楽に対して冷淡。ブリテン/フランク・ブリッジの主題による変奏曲とヴォーン=ウィリアムズ/トマス・タリスの主題による幻想曲を1950年代にフィルハーモニア管と録音しているが、後のベルリン・フィル時代は皆無。ウォルトンはやはり1940-50年代に演奏会でオラトリオ「ベルシャザールの饗宴」と交響曲第1番を取り上げたが、スタジオ録音なし。また1981年に手兵ベルリン・フィルと『惑星』のデジタル録音を残したが、なんと演奏会では一度も取り上げなかった。エルガーに至っては演奏会・録音どちらも0である(『威風堂々』すらも)。余談だがカラヤンはベルリン・フィルと一度だけ『シェヘラザード』をスタジオ録音したが、演奏会では一度も取り上げていない。『惑星』は冨田勲によるシンセサイザー編曲が余りにも有名。一聴の価値あり。1976年にリリースされビルボード(クラシカル・チャート)で1位になるなど一世風靡し、2011年には冨田自身の手で再創造したULTIMATE EDITIONも出た。
イベールはパリ音楽院在学中の1914年に第一次世界大戦が勃発すると、志願して海軍士官になった。その時に地中海を航海した記憶が『寄港地』に結実した。第1曲:ローマーパレルモ(シチリア島)、第2曲:チェニスーネフタ(チュニジア)、第3曲:バレンシア(スペイン)で構成される。異国情緒溢れる傑作。デュトワ/モントリオール響で。
シベリウスの交響詩『タピオラ』が初演されたのが1926年、最後の交響曲第7番の初演が1924年だから、その直後に完成した作品と思われる。交響曲第7番は単一楽章で演奏時間約20分。これは『タピオラ』にも共通する。また『タピオラ』には具体的な物語がない。では交響曲と交響詩を分かつ違いは何か?答えはシンプルである。「作曲家がそう命名したから」ーただそれだけ。静謐で精緻なカラヤン/ベルリン・フィルのデジタル録音でどうぞ。
ヤナーチェクのシンフォニエッタは村上春樹の『1Q84 』に登場して一気に有名になり、CDも飛ぶように売れた。小説内で言及されるのはジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団の演奏だ。ただこの作曲家の特徴は色っぽいところにあると僕は考えているので、その雰囲気はシンフォニエッタから味わえない。だから併せて歌劇『利口な女狐の物語』も聴いてみてください。マッケラス/ウィーン・フィルは全曲を録音しているし、管弦楽組曲版もある。シンフォニエッタの演奏もこのコンビに白羽の矢を立てる。
『パリのアメリカ人』は『ラプソディ・イン・ブルー』と並ぶシンフォニック・ジャズの傑作。バーンスタインの『ウエストサイド物語』〜シンフォニック・ダンスもそう。ただ後者はミュージカルを基にシド・ラミンとアーウィン・コスタルが再構成・編曲を手がけているのだが、そのことはあまり知られていない。 この二人は映画版『ウエストサイド物語』のオーケストレーションも担当し、アカデミー賞を受賞している。『パリのアメリカ人』についてはMGM映画『巴里のアメリカ人』のクライマックスでジーン・ケリーとレスリー・キャロンがダイナミックに踊るので、四の五の言わずまずはご覧あれ。全編がガーシュウィンの名曲で彩られている。
ウィーンからハリウッドに渡り映画音楽作曲家として名を馳せ、アカデミー賞を2度受賞したエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの『ベイビー・セレナーデ』は彼の次男ゲオルクが誕生したことをきっかけにして作曲された。愛らしく軽快な曲で、1.序曲「赤ん坊が登場」2.歌「今日は、良き日」3.スケルツィーノ「なんて素敵なおもちゃ」4.ジャズ「坊やがしゃべるよ」5.エピローグ「そして、坊やは自分に語りかけるように寝てしまう」と副題が付いている。ゲオルク(英語読みでジョージ)・コルンゴルトは長じてレコード・プロデューサーとなり、チャールズ・ゲルハルト指揮でRCAから「クラシック・フィルム・スコア」シリーズをリリース、その中には父親の作品集も含まれていた(超優秀録音!)。また父の歌劇『死の都』や映画音楽『嵐の青春』を新録音盤として世に問うた。
プロコフィエフ『ロメオとジュリエット』はバレエも全曲鑑賞したことがあるが、実に見応えがある。特に英国ロイヤル・バレエ団が初演したケネス・マクミラン振付版が最高!アメリカン・バレエ・シアターでもこのバージョンが採用されており、映画『センターステージ』に有名なバルコニー・シーンが登場する。
「厳選 交響曲の名曲ベスト30はこれだ!」ではラフマニノフの交響曲第2番を入れなかったことについて、様々なご批判を読者から頂いた。その際には「構成力に欠け冗長だから」と突っぱねたのだが、最近キリル・ペトレンコ/ベルリン・フィルの演奏をデジタル・コンサートホールで聴いて、考えを改めた。悪くない。あの時は申し訳ないことをした。演奏によって曲が輝くとは正にこれ。よって罪滅ぼしの意味も込めて今回『交響的舞曲』を選出した。3楽章からなり、終楽章に作曲家お気に入りのグレゴリオ聖歌『怒りの日』の旋律が登場するのはご愛嬌。『怒りの日』をラフマニノフは『パガニーニの主題による狂詩曲』、交響詩『死の島』、交響曲第2番、合唱交響曲『鐘』などでも引用している。
バルトーク『管弦楽のための協奏曲(Concerto for Orchestra)』は『オケコン』という愛称で親しまれている。ハンガリーに生まれたバルトーク・ベーラは第2次世界大戦勃発でナチス・ドイツを忌避してアメリカに逃れる。しかし生活は困窮し極貧生活を送ることになり、さらに白血病を罹患した。当時ボストン交響楽団の音楽監督だったクーセヴィツキーが、バルトークのそんな窮状を見かねて財団から委嘱したのが『オケコン』である。またポーランドの作曲家ルトスワフスキにも『管弦楽のための協奏曲』(1954)があり、やはり優れた作品として知られている。
コープランドといえばバレエ音楽『ロデオ』や『ビリー・ザ・キッド』などで西部劇の音楽を確立した人。エルマー・バーンスタインが作曲した映画『荒野の七人』とか、ジョン・ウィリアムズの『華麗なる週末』『11人のカウボーイ』などは明らかにコープランドの影響を受けている。『アパラチアの春』はコープランドの代表作で、これでピューリッツァー音楽賞を受賞した。レナード・バーンスタインの指揮でどうぞ。
オリヴィエ・メシアンの音楽を象徴するのはカソリック教徒としての〈信仰〉と、〈鳥〉である。その両者が密接に結びついたのが歌劇『アッシジの聖フランチェスコ』だ。『異国の鳥たち』はピアノと小規模編成オーケストラのための作品。オケは管楽器と打楽器のみで、弦楽器はなし。14分程の演奏時間で、47種類の鳥の鳴き声が聴こえてくる。
リゲティ『アトモスフェール』は映画『2001年宇宙の旅』で使用され、有名になった。皮膚の下を何か虫が這いずり回っているような、居心地の悪さを感じさせる曲。また『2001年宇宙の旅』終盤、白い部屋の場面で聴こえてくる異星人の囁き声は、スタンリー・キューブリック監督がリゲティの合唱曲『アヴァンチュール』を無断で編集したもので、後に裁判沙汰となった。
ニーノ・ロータの『道』は元々フェデリコ・フェリーニ監督の同名映画のための音楽だが、バレエ用にアレンジされ、1965年にミラノ・スカラ座で初演された。リッカルド・ムーティ/スカラ座フィルの演奏でどうぞ。またベルリン・フィル・デジタル・コンサートホールのアーカイヴでは、リッカルド・シャイーの指揮で聴くことが出来る。
20世紀の音楽は「ミニマル・ミュージック」を抜きに語れない。ごく短い音型を反復するす手法(minimal:最小限の、極小の)で、独特の浮遊感が漂う。その代表としてアメリカ合衆国の作曲家ジョン・アダムズを選出した。他に是非聴いてほしいミニマリストとしては、フィリップ・グラス(『Mishima』『めぐりあう時間たち』)、スティーヴ・ライヒ(『ディファレント・トレインズ』『クラッピング・ミュージック』)、マイケル・ナイマン(『ピアノ・レッスン』)、久石譲(『風の谷のナウシカ』『ソナチネ』『かぐや姫の物語』)、アルヴォ・ペルト(『フラストレス』『タブラ・ラサ』)がいる。気軽にアダムズを聴くならまず最初に『ショート・ライド・イン・ア・ファスト・マシーン(高速機械で早乗り)』がお勧め。スポーツカーとか、ジェットコースターに乗ったようなぶっ飛んだ疾走感が凄い。しかしたった4分の短い曲なので、演奏時間約40分と聴き応えのある『ハルモニーレーレ(和声学)』の方を挙げた。ミニマル・ミュージックというジャンルが到達した極北、壮大なる最高傑作と言えるだろう。交響曲におけるベートーヴェンの第5番みたいなものだ。3つのパートで構成され、パート2ではマーラー未完の交響曲第10番 第1楽章と密接な関わりがあるので注目!トランペットなど金管楽器による不協和音の絶叫、カタストロフィの場面だ。
『ダンソン 第2番』はアルトゥロ・マルケス(1950- )の代表作。演奏時間約10分で、欧米において最も頻繁に演奏されるメキシコ現代音楽である。これは熱狂のドゥダメル/シモン・ボリバル・ユース・オーケストラの演奏にとどめを刺す。アルバム『フィエスタ!』に収録。
武満徹のオーケストラ曲は『夢の時(Dreamtime)』『ウォーター・ドリーミング』『フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム(直訳すると『私から、あなたが“時”と呼ぶものがあふれ出す』)』が好き。でも中でも一番は?と問われたら、若い人たちのための音楽詩『系図(ファミリー・トゥリー)』を躊躇なく選ぶ。谷川俊太郎の詩集『はだか』から6篇(むかしむかし/おじいちゃん/おばあちゃん/おとうさん/おかあさん/とおく)が朗読される。語り手は12歳から15歳の少女が望ましい、と武満は語っている。 日本初演の語りは遠野凪子。小澤征爾/サイトウ・キネン・オーケストラのCDも彼女だが、現在ナクソス・ミュージック・ライブラリーやSpotifyなどサブスクで聴けるのは、残念ながら小澤征良(娘)による英語版だ。他に上白石萌音や、のん(能年玲奈)が語った演奏もCDになっている。なんと浜辺美波もステージでやったことがあるらしい!面白いのは2006年2月18日に岩城宏之が指揮した京都市交響楽団定期演奏会。吉行和子が朗読を担当した。当時70歳。おいおい、「少女」でなくて良いのか!?
映画音楽の大家ジョン・ウィリアムズの"American Journey"はビル・クリントン大統領(当時)の依頼により作曲された。スティーヴン・スピルバーグ監督が手がけた西暦2000年(ミレニアム)を祝うマルチメディア・プレゼンテーション"The Unfinished Journey"(終わりなき旅)の付随音楽である。以下の6曲で構成される。
1)移民と建国 2)南北戦争 3)人気の娯楽 4)芸術とスポーツ 5)公民権運動と女性の活躍 6)空の旅と科学技術
ジョン・ウィリアムズは1984年ロサンゼルス五輪の開会式で演奏された『オリンピック・ファンファーレとテーマ』や1996年アトランタ五輪のための『サモン・ザ・ヒーローズ』も格好よくて最高!胸がスカッとする。ボストン・ポップスの演奏でどうぞ。
モーツァルト『グラン・パルティータ』は管楽器アンサンブルの代表作であり大作。同作曲家の弦楽合奏曲なら『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を推す。英訳すると『ア・リトル・ナイト・ミュージック』となり、これは巨匠スティーヴン・ソンドハイムが作詞・作曲したミュージカルの題名だ。けだし名作。
ドヴォルザーク『弦楽セレナード』は映画『メッセージ(Arrival)』で印象的に用いられていた。ひたひたと心に沁み渡る曲。
一方で、チャイコフスキー『弦楽セレナード』を支配するのは激情と言っていい。作曲家は「モーツァルトへのオマージュ」と語っているが、例えば冒頭、ドシラソファと音階を駆け下りていくのがモーツァルト的なのだ。
『ホルベアの時代から』の原曲はピアノ独奏曲だが、今日ではグリーグ自身が編曲した弦楽合奏版の方が専ら知られている。やはりピアノ独奏曲である『抒情小曲集』からオーケストレーションされた『抒情組曲』も大変美しい音楽だ。
ヨゼフ・スークはチェコの作曲家でドヴォルザークの娘婿。同名の孫は世界的ヴァイオリニストでスーク・トリオを結成した。ベルリン・フィルの芸術監督キリル・ペトレンコはスークの作品に強い愛着を持っており、既にアスラエル交響曲や交響詩『夏物語』を取り上げ、2022年には交響詩『人生の実り』が定期演奏会のプログラムに組み込まれている。『弦楽セレナード』はフルシャ/プラハ・フィルか、ヤンソンス/バイエルン放送響の音源でどうぞ。
『序奏とアレグロ』はラヴェルにも同名の曲があり、こちらも素敵だ。ラヴェルの方はハープとフルート、クラリネットおよび弦楽四重奏のための七重奏曲で、「室内楽の森へ~厳選!これだけは絶対聴いておきたい80曲」に選出した。エルガーは弦楽合奏と弦楽四重奏のための作品。孤高の美しさ。バルビローリ/シンフォニア・オブ・ロンドンで。
ヴォーン・ウィリアムズ『トマス・タリスの主題による幻想曲』は弦楽合奏曲で、第1群・第2群のアンサンブル及び、弦楽四重奏という編成で演奏される。CDなどの音源ではこの構造が分かり辛いので、ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホール(ラトル指揮)など映像で確認されることをお勧めする。
ブレヒト&クルト・ヴァイルによる『三文オペラ』は1928年にベルリンの劇場で初演された。指揮者オットー・クレンペラーはこの作品に夢中になり、演奏会用組曲を作るよう求めた。その結果生まれたのが管楽器及び打楽器という編成の『小さな三文音楽』である。クレンペラーはフィルハーモニア管弦楽団とステレオ録音を残しており、大層名演なのだが、全8曲中なぜか第3曲「“代わりに”の歌」が省かれている。『三文オペラ』の音楽はナチス台頭期のベルリンを舞台とするブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』に繋がっている。
『ブラジル風バッハ』は第9番まであり、それぞれ楽器編成や演奏形態が異なる。第8番はソプラノ独唱と8つのチェロのための楽曲。歌詞の意味を知っていたほうが味わいが深まるので、第1曲アリアのポルトガル語の歌詞を僕なりに訳してみた。
夕暮れ 薔薇色の薄雲がゆっくり流れ
夢見心地の美しい空に浮かぶ
月が地平線上に甘やかに現れ
夕べを彩る あたかもきれいな娘が
いそいそと夢見がちに着飾るように
美しくなりたいと魂は不安に駆られ
空と大地に向かって万物が叫ぶ!
月の切実な訴えに鳥たちは押し黙り
海の反射はより煌めきを増す
柔らかい光を放つ月は残酷にも悟らせる
笑ったり泣いたりした日々は失われたと
夕暮れ 薔薇色の薄雲がゆっくり流れ
夢見心地に美しい空に浮かぶ
オーストリアがナチス・ドイツに併合されたのは1938年。バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメントはその翌年にスイスの山小屋で完成した。そして1940年にバルトークは妻と共にアメリカ合衆国に移住した。風雲急を告げる時代だった。
『ガイーヌ(ガヤネー)のアダージョ』は第1組曲に含まれるが、しばしば省略されて録音されたりしているので注意が必要。『2001年宇宙の旅』で木星探査宇宙船ディスカバリー号の船内でクルーが運動不足解消のためにジョギングしている場面で使用された。
『サイコ』は1960年に公開されたアルフレッド・ヒッチコック監督の同名映画のために作曲された。弦楽オーケストラのための物語は1968年にバーナード・ハーマンが新たに書いたコンサート用作品である。自作自演もあるし、サロネン/ロサンゼルス・フィルのアルバムがお勧め。あとベルリン・フィル・デジタル・コンサートホールではラトルの指揮で聴くことが出来る。
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コメント
読み応えのある記事、素晴らしいですね。
凄い筆圧に関心いたしました!
投稿: onscreen | 2021年7月11日 (日) 02時07分
ありがとうございます。コメントとても嬉しかったです。
投稿: 雅哉 | 2021年7月11日 (日) 09時22分
こんばんは、いつもレビューなど楽しく拝見しています。
管弦楽の名曲となると、個人的にはヒナステラのエスタンシアとか(最近ベルリンフィルやN響が取り上げた協奏的変奏曲もいい曲ですね)、コダーイのハーリヤーノシュや孔雀の変奏曲、グローフェ/グランドキャニオン、ブリテン/青少年のための管弦楽入門辺りは外せないですね。演奏機会は滅多にないですがレスピーギのメタモルフォーゼンもなかなかの名曲です。
あとクラシックのカテゴリーに入るのかは分かりませんが、弦楽合奏でアンダーソンのプリンク・プレンク・プランクを是非入れたくなります。アンダーソンはチャイコフスキーに匹敵するメロディメーカーだと思うんです。
投稿: 見習い | 2021年7月13日 (火) 03時01分
見習いさん、コメントありがとうございます!
いや〜痛いところを突かれました。天晴です。実はご指摘の作品は、入れようかどうしようか迷ったものばかりです。この不完全なリストを補完するご意見として大変貴重です。何故選から漏れたのか、ご説明しましょう。
全体のバランスから考えてラテン・アメリカは絶対外せないと、真っ先に頭に浮かんだのがエスタンシアでした。そこでドゥダメル/シモン・ボリバル・ユースの音源を聴き直したんです。すると、ユニゾンで動く楽器群がやたらと多いことに気付きました。オーケストレーションが稚拙というか、単純なんですね。だから推薦に値しないと判断し、代わりに同じアルバム『フィエスタ!』に収録されているダンソン第2番を選びました。
『ハーリ・ヤーノシュ』は元々オペラ作品なので外しました。『孔雀は飛んだ』による変奏曲は原曲よりもむしろ、吹奏楽コンクールで人気ですね。どうもコダーイはオーケストラ曲よりも無伴奏チェロ・ソナタとか、ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲など、器楽作品の方が好きなんです。
『グランド・キャニオン』も相当悩みました。ただ僕にはR.シュトラウスのアルプス交響曲に似た類の作品のように思われます。つまり大迫力で演奏効果が高く情景が目に浮かぶけれど、それだけ。中身が空っぽのように感じます。例えばベートーヴェンの田園交響楽だと情景だけではなく、それに触れた時の作曲家の気持ちが見えてくる。それがグローフェやR.シュトラウスに欠けているのです。
『青少年のための管弦楽入門』も頭をよぎりました。ただこの邦題、#MeToo 運動を経た今、「お嬢さん」や「少女」は含まれないのかという大問題を抱えています。原題は"The Young Person's Guide to the Orchestra"なのでNo problemなのですが。そしてナレーションはあった方がいいのか、ない方がいいのか、頭を抱えてしまうのです。オーケストラを初めて聴く子どもたちにとってナレーションは絶対必要ですが、クラヲタにとってはうざい。しかし、例えばサイモン・ラトル/ベルリン・フィルはナレーション抜きでコンサートで演奏していますが、すると「どうしてこの楽器の組み合わせで、変奏曲とフーガが展開されていくのだろう?」という作曲家本来の意図が判らなくなってしまう。帯に短し襷に長しといったところです。
メロディーメーカーとしてのルロイ・アンダーソンは高く評価しています。だから「これだけは聴いておきたいピアノの名曲・名盤30選」にピアノ協奏曲を選出しました。プリンク・プレンク・プランクは「管弦楽」というジャンルよりはむしろ「ライト・ミュージック」「ライト・クラシックス」という表現が相応しいかも知れません(アディンセルのワルソー・コンチェルトとか)。「ラウンジ・ミュージック」に近い印象。あとアンダーソンの弦楽合奏曲なら、ジャズ・ピチカートも素敵ですね!
モートン・グールドとかアンドレ・コステラネッツ、カーメン・ドラゴンなど、今や忘れ去られた「ライト・ミュージック」「ライト・クラシックス」の巨匠たちをテーマに、いつか語りたいなとぼんやり構想を温めているところです。数年後になるかも知れませんが。
投稿: 雅哉 | 2021年7月13日 (火) 17時17分
管弦楽のベスト、ほぼ完璧に網羅されていますね。
私との好みの差で違っているのかと思うと、本文の方でちゃんとフォローされて言うことがありません。
オーケストレーションの魔術師三人もその通りで、とりわけイタリア的というか華麗なレスピーギは松が出るかと思ったら噴水とは、冒頭からきらびやかにキャッチする作品を選ばれたわけですね。
個人的には「リュートのための古風な舞曲とアリア」が好きなのですが、あれはアレンジ物なので別枠になるのでしょうね。
映画音楽物も並んでいるのがうれしい限りです。
私がクラシック音楽に入り込んだ入り口は、実は映画音楽だったのでした。
ビデオのなかった時代、映画をコレクションする手段は書籍や写真類とレコードしかなかったわけで、とりわけ高価なサントラLPは厳選して購入し聴き入ったものです。
聴いているうちにいつしかトラック内の管弦楽曲に惹かれるようになり、自然にクラシックが身体に入ってきた訳です。
なので映画音楽を軽んじるという考えは私には理解できず、コルンゴルトを蔑視したという音楽家たちは、単に売れている同業者に対するヤッカミとしか思えません。
近年はジョン・ウィリアムズの活躍が著しく。ウィーンフィルとのムジークフェラインザールでの自作コンサートがTV放送されたりしました。これは既に書かれているのかな?
とりわけ私の好きな「帝国のテーマ」が流れ始めたとき、会場が拍手に沸いたときは、ニューイャーの「美しき青きドナウ」を思わせ嬉しくなりました。
グローフェも名アレンジャーであり、空虚とはいえその描写力は見事で映画音楽を書いていたらよかったのになぁ、と思う次第です。
ところでライトクラシックつながりでのアレンジャーというと、ここのところマントヴァーニーのアレンジャー、ロナルド・ビンジの「エリザベス朝のセレナーデ」がやたら聴きたくなります。
でもこの題名を打ち込むとき「えりざべすちょう」では変換に時間がかかるので「えりざべすあさの」と打ちます。朝のセレナーデとは変ですね。
投稿: どぼこん | 2021年9月 2日 (木) 15時56分
どぼこんさん、お褒めの言葉痛み入ります。とても嬉しく拝読しました。
ズービン・メータ指揮ロサンゼルス・フィルの『スター・ウォーズ』組曲がFMで放送されたときエアチェックし、録音したカセットテープが擦り切れるまで繰り返し聴いたのは1978年、僕が小学生の時でした。あれから43年、「いつの日にかウィーン・フィルやベルリン・フィルが『スター・ウォーズ』を演奏する時代が来る!」と固く信じて生きてきました。しかしまさか、ジョン本人がウィーン楽友協会黄金ホールの指揮台に立つ日が来ようとは!ただただ感涙にむせぶのみでした。この演奏会を収めたディスクは『レコード芸術』誌で特選盤となり、レコード・アカデミー賞も受賞しました。
そして2021年6月。ベルリン・フィルのヴァルトビューネ・野外コンサートでジョン・ウィリアムズの映画音楽がメドレーで演奏され、さらに10月16日(日本時間で17日)にジョンはベルリン・フィルハーモニーに初登壇し自作を指揮、その模様はデジタル・コンサートホールで中継されます。遂に世界が彼にひれ伏す時が来たのです!!
コルンゴルトがヨーロッパの楽壇で蔑まれたのは、「ハリウッドに魂を売った裏切り者」と見なされたからでしょう。1950年代には未だに根強いアメリカ合衆国に対する偏見があり、映画は「文化」として認められていませんでした。ただ単に、映画音楽が「現代のオペラ」であることに気付かなかった愚か者たちに過ぎないのですが。コルンゴルトの傑作、ヴァイオリン協奏曲をウィーン・フィルが初めて演奏したのは、漸く21世紀になってからです。
現在ベルリン・フィルの首席指揮者キリル・ペトレンコはコルンゴルトの良き理解者であり、2019年バイエルン国立歌劇場で歌劇『死の都』のタクトを振り、NHKで放送されBlu-rayも発売になりました。予言しておきますが2025年までに彼は必ずベルリン・フィルでコルンゴルトの交響曲 嬰ヘ調を取り上げてくれることでしょう。
投稿: 雅哉 | 2021年9月 4日 (土) 11時31分
メータとロスフィルの「スターウォーズ/未知との遭遇」のレコードが出てきたときはインパクトがありました。
それまでクラシック音楽の棚に映画音楽がこれほど堂々と登場したことはありませんでしたから。
ただその後が続かなかったのは残念でしたが、ようやく現在は映画音楽から映画という枠が外れて、純粋に音楽として楽しめる時代になった感があります。
ベルリンフィル野外コンサートのウィリアムズメドレーは正直あまり好きになれないアレンジでした。
でもバーンスタインと並んで演奏されたのは嬉しい限り。
バーンスタインも生前は作品がウエストサイド以外あまり演奏される機会もありませんでしたが(ほかの指揮者は作曲者が存命でしかも指揮者であることに怖気づいていたのかも)現在ではコンサートのスタンダードプログラムになってますね。
時代の変遷といいますか、コンサートの選曲もその時代で変化します。
マーラーやブルックナーがプログラムに乗るようになったのは1970年前後からでした。それまでレコードを探すのすら困難な作曲家でした。
マーラーが生前言った「やがて私の時代が来る」というのは負け惜しみだったのかもしれませんが、確実に現実となりました。
そして21世紀にはコルンゴルトを初めとする作曲家達の映画音楽やその作品等がコンサートのスタンダードプログラムになり、初めに書いたように純粋に音楽として楽しめる時代になってきているのでしょうね。
投稿: どぼこん | 2021年9月 5日 (日) 23時15分
コルンゴルトの映画音楽『シー・ホーク』の虜になり、彼のヴァイオリン協奏曲のディスクを探し求めたのが1980年代半ばでした。その時は国内盤すらなく(ハイフェッツ盤は廃盤)、輸入レコード屋で唯一手に入れられたのがバールマン独奏プレヴィン/ピッツバーグ響のCDでした。
ところが今や30種類以上の音源を聴くことが出来て、天下のウィーン・フィルですら2種類のレコーディングがあります。隔世の感がありますね。正に「コルンゴルトの時代が来た」のです。
コルンゴルト再評価の機運を後押ししたのは、21世紀になってからの「調性音楽の復権」とも無関係ではないでしょう。20世紀は「無調音楽でなければ芸術作品として認めない」という理不尽で、ぺんぺん草も生えない不毛な時代でしたから。故に調性音楽を守ろうとした作曲家たちは、映画音楽やミュージカルの世界に身を投じたのです。
投稿: 雅哉 | 2021年9月 6日 (月) 11時39分