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2021年3月11日 (木)

中二病からの脱出〜映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」

評価:A+

Eva

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テレビ・アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の放送(1995年10月4日-1996年3月27日)から25年、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の公開から14年。漸くこの物語は完結した。特に前作『Q』から8年以上も待たされた。そもそも2020年6月27日公開予定だったのが新型コロナウィルス感染拡大の影響で翌年1月23日に延期となり、さらに緊急事態宣言が発令されたため3月8日(月)に再延期された。緊急事態宣言の期限が3月7日に設定されていたからである。しかし結局、あてが外れて首都圏の1都3県では宣言が更に2週間延長されることになった。

テレビ・アニメ版『エヴァ』を一言で表現するなら「中二病」となるだろう。事実、登場する少年少女たちの年齢は14歳である。

Wikipediaによると「中二病」という言葉は1999年、伊集院光がラジオで発言したことに端を発するという。彼の潜在意識にも当然『エヴァ』のことがあっただろう。また精神科医・斎藤環はシンジを「ひきこもり」、アスカを「境界性パーソナリティ障害」、レイを「アスペルガー症候群」と評している。シンジの父・碇ゲンドウも未熟な精神の持ち主であり、「中二病」「厨房」と断じて差し障りない。

ライムスター宇多丸がパーソナリティを務めるTBSラジオ『アフター6ジャンクション』(アトロク)には現在「新概念提唱型投稿コーナー:イキりゲンドウ」というのがあり、めっぽう面白い。碇ゲンドウへオマージュを捧げているわけだが、実際のところあの男は言動がイキっているだけなんだよね。「人類補完計画」なんて大層なことを言っているけど、実質は死んだ(L.C.L.に溶けた)妻ユイともう一度会いたいだけ。そんな個人的なことに人類全体を巻き込もうってんだから、発想が身勝手で幼稚。〈対人関係が苦手/強いこだわり示す〉といった特徴をもつ発達障害の一つ「自閉スペクトラム症(ASD)」と診断出来るだろう。今にして思えば『エヴァ』という作品は〈ぼく(ゲンドウ)ときみ(ユイ)を中心とした小さな関係性の問題が、中間項を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」などといった抽象的な大問題に直結している〉という定義にピッタリ当てはまり、セカイ系のはしりだったと言える。

旧劇場版『Air/まごころを、君に』の頃は庵野秀明自身も心が病んでいた。序盤でシンジがアスカの裸を見ながらマスターベーションして精液を飛ばす描写があったり、シンジがアスカの首を絞め、アスカの「気持ち悪い」という台詞で締めくくられたり、ホントどうかしている。実写で映画館の客席に座るアニメ・ヲタクを映す場面なんか、「自分を支えてくれているファンに対して喧嘩売っとんかい!」と怒り心頭に発した。おそらく当時の庵野はヲタクの事を本気で「気持ち悪い」と思っていたのだろう。自分のことは差し置いて。

アニメ+旧劇版は大風呂敷を広げっぱなしのまま何も回収せず無責任に終わったが、新劇場版は序・破・Qで散りばめられた伏線を『シン・エヴァンゲリオン』できれいに回収して風呂敷を畳み、有終の美を飾ったので心底驚いた。『Q』で登場しなかった加持リョウジやトウジ、ケンスケがその後どうなったか、渚カヲルの名前の由来など懇切丁寧な説明があり、アスカが眼帯している理由も分かる。「この四半世紀で庵野秀明も大人になったんだなぁ!」と妙なところで感動した。ちゃんと観客をもてなそう(entertain)という意志がある。そして救いのない旧劇に対して新劇の最後には明るい希望が見える。アニメ版が放送開始になった時、庵野は35歳。人間、何歳からでもやり直せる、成長出来るんだということを彼の生き様から学ばせて貰った。そして『シン・エヴァ』で碇シンジも真の大人になった。

上映時間が2時間35分と聞いたときは「集中力が持つかな?」と些か不安だったが、一瞬たりとも退屈することなく杞憂に過ぎなかった。

庵野の原体験として『宇宙戦艦ヤマト』と『ウルトラマン(特に、帰ってきたウルトラマン)』が作品に多大な影響を与えていることは、つとに有名である。『エヴァ』劇伴のティンパニの使い方は『ウルトラセブン』や『帰ってきたウルトラマン』に触発されているし、日本中の電力を集める「ヤシマ作戦」は『帰ってきたウルトラマン』の第20話「怪獣は宇宙の流れ星」が元ネタ。そもそもエヴァの内部電源5分間という設定はウルトラマンのカラータイマー3分由来であり、エヴァ自身は怪獣(中身)の暴走を制御するため拘束具としての装甲に覆われている。また庵野は『Q』と『シン』製作の合間に、『宇宙戦艦ヤマト2199』オープニングアニメーションの絵コンテを担当し、劇場版『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』では原画を描いている。

で『シン・エヴァンゲリオン』では葛城ミサトが「ヤマト作戦」とか言い出して、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』みたいな展開になるし、シンジとゲンドウが対決する場面はまるでウルトラマンと怪獣が戦う箱庭(特撮現場)のような空間構造になっている。ウルトラセブンとメトロン星人がちゃぶ台を挟んで向かい合う第8話「狙われた街」(実相寺昭雄監督)を彷彿とさせる場面も。

今まで何だかんだやいのやいの悪口も言ったが、『エヴァ』シリーズには長い間、本当に楽しませてもらった。心からありがとう!そして「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」

キネマ旬報ベストテンで第2位に選出された『シン・ゴジラ』も傑作だったし、最近の庵野は絶好調だ。作家としての成熟を感じる。『シン・ウルトラマン』の公開日が待ち遠しい。

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