Netflix配信映画「シカゴ7裁判」鑑賞に役立つ豆知識
評価:B+
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『シカゴ7裁判』は『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンが脚本・監督した映画で、新型コロナウィルスの流行により配給のパラマウントが劇場公開を断念しNetflixに権利を売却、2020年10月16日より配信された。他にソーキン脚色作として『スティーブ・ジョブズ』がある。2017年に彼が監督デビューした映画『モリーズ・ゲーム』の出来はイマイチだったが、今回は腕を上げた。
本作は実話だが、日本人にとっては馴染みがない話で取っ付きにくいだろう。1968年8月28日、大統領選挙を控えたイリノイ州シカゴで民主党の全国大会が開かれていた。それに合わせて全国から反ベトナム戦争派の若者たちが集結し、集会やデモを繰り広げた。やがてデモ隊と警察が衝突し、数百名の負傷者を出す事件へと発展した。その時に逮捕された各グループのリーダー格が〈シカゴ・セブン〉である。
ボビー・シール率いるブラックパンサー党も日本人にはちんぷんかんぷんだろう。暗殺された黒人解放指導者マルコムXの暴力主義を受け継ぐ団体で、マーティン・ルーサー・キングの戦略には否定的な連中である。
さらにややこしいのが彼らが逮捕されたのは、暗殺されたケネディの後に自動的に副大統領から大統領に昇格した民主党のジョンソン政権時代であり、裁判が始まったときには共和党のニクソン政権に交代していた。当然司法長官も左派系のラムゼイ・クラークから、右派のジョン・N・ミッチェルに交代した。ここで押さえておきたいことは後にニクソンはウォーターゲート事件(民主党本部への不法侵入・盗聴)を起こし、その際に大統領再選委員会のトップだったミッチェルは、不法活動に対する有罪判決を下され拘束された最初の司法長官となった。詳しいことは映画『大統領の陰謀』をご覧あれ。そして民主党のケネディが始めたベトナムへの軍事介入は共和党政権においても引き継がれた。このあたりの政治的駆け引きが日本人には非常に分かり辛い。
アーロン・ソーキンの政治的立場は明確で、民主党支持が鮮明に打ち出されている。最初この脚本が完成したのは2007年で、根幹には共和党のブッシュ大統領が2003年に起こしたイラク戦争に対する批判があった。そして実際に撮影が始まった2019年にはトランプ政権への怒りがあった("The whole world is watching"「全世界が見ているぞ!」)。さらにボビー・シールに対するあからさまな人種差別行為を通してブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter、通称「BLM」)の根深さを浮き彫りにしようとしている。つまり1968年を描くことで2020年を照射しようという狙いがあり、その目論見は見事に成功している。しかし、だからといってそれが作品の面白さに結びつくわけではない。僕は劇映画で政治的主張を語るべきではないと考えている。それはドキュメンタリーの役割だ。どうも本作はプロパガンダ的臭気が強く、浅ましいと感じる。威勢がよかったころのオリバー・ストーン監督の映画(『7月4日に生まれて』『ニクソン』)に近い胡散臭さだ。
アカデミー賞では作品賞・監督賞・オリジナル脚本賞・助演男優賞などでノミネートされると予想される。特に青年国際党(イッピー)共同創立者アビー・ホフマン役のサシャ・バロン・コーエンが好演。
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