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2020年12月11日 (金)

ミッドサマー

評価:A

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夏至祭のお話で、シェイクスピアの『夏の夜の夢(Midsummer Night's Dream )』と同じ季節である。つまり6月21日頃。この前夜(ワルプルギスの夜)には妖精や魔女が地上に現れ、無礼講の乱痴気騒ぎをするといった俗信があった。

スウェーデンの田舎にある「ホルガ村」が舞台となる。このコミューンの描き方が、いくつか過去に見た情景を思い出させた。

◎1960年代後半に登場したヒッピーが共同生活を送り、草(大麻)を吸いながらトリップ、サイケデリックな世界を浮遊する。クエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のマンソン・ファミリーやアン・リー監督『ウッドストックがやってくる!』など。
◎カルト宗教のコミューン。あるいはカルトじゃないが映画『刑事ジョン・ブック目撃者』で描かれるアーミッシュ(ドイツ系移民の宗教団体)の村。アメリカ合衆国に移民した当時の生活様式を保持し、農耕や牧畜によって自給自足生活をしていることで知られる。
◎映画『サーミの血』で描かれる、北欧の先住民サーミ人の暮らし。『アナと雪の女王』のクリストフもサーミ人であり、『アナ雪2』はサーミ文化が描かれる。
◎オーストラリアの先住民アボリジニや南・北アメリカの先住民族(例えばマヤ文明)におけるイニシエーション、通過儀礼の儀式。
◎深沢七郎の小説『楢山節考』で描かれる、姥捨て山の風習。ちなみにカンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞した今村昌平監督による映画化(1983)が有名だが、木下惠介監督バージョン(1958)も引けを取らない傑作である。
◎デュオニュソスの祭り、ストラヴィンスキー作曲のバレエ音楽『春の祭典』、大地の礼賛。

Mid1

「ホルガ村」の人々のことを〈狂気〉と表現する論評をいくつか目にしたが、僕は全くそうは思わなかった。それはマヤやアボリジニの文化が「狂気」ではなく、姥捨て山という日本各地で語り継がれている伝承が「狂気」ではないことと同様である。

キリスト教的倫理観が絶対正義であるはずもなく、それぞれの地域の価値観を尊重することこそ本来人としてあるべき姿だろう。

フローレンス・ピュー演じるヒロインの恋人はクズ男である。彼の名前がクリスチャンであることは象徴的だ。つまり脚本・監督を務めたアリ・アスターは「キリスト教徒なんか最低最悪さ!」と言っているのである。本作で描かれるのは反キリスト(Antichrist)世界だ。

僕はアリ・アスターの前作『へレディタリー/継承』を観て嫌な気持ちになり、生理的に受け付けられないとこき下ろしたが、『ミッドサマー』は気分爽快だった。ニヤニヤしながら観た。

北欧では白夜の時期なので、〈明るい日差しに照らされたホラー〉というのが新しいと思った。美術や衣装デザインも素晴らしい。あと途中登場する絵の数々に注目!物語に深く関わっていることが後から分かる仕掛けになっている。2回観ると新たな発見が色々あるはず。

冒頭で『へレディタリー/継承』同様に、呪いとしての家族が描かれる。そのトラウマに苦しむヒロインは「ホルガ村」で希望の光を見出す。イニシエーション儀式のように集団で泣いたり、喚いたり、感情を共有することにより救われる魂もある。こういった風習を現代社会に生きる僕らは失ってしまった。

禍々しいラストシーンについて解釈は分かれるだろうが、僕はある意味ハッピー・エンドなのだと思う。

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コメント

これ「R15版」と「ディレクターズカット版」がありますが、どちらをご覧になったのでしょうか。僕はR15版だけ見ましたがそれで十分でした。今までのホーラーと違って、明るいのに怖い、と言うのがこの映画の最大の特徴でしょう。何より良いのは、ホラーと言う枠を超えて、映画としてとても良く出来ている事だと思います。ただ、もう二度と見たくないですけど(^^ゞ

投稿: 最後のダンス | 2020年12月13日 (日) 22時42分

そもそも『ヘレデタリー/継承』には生理的嫌悪感しかなく、大嫌いだったのでもうアリ・アスター監督作品は一生観ないと決めていたんですね。でも『ミッドサマー』の評判があまりにも高いので有料配信で鑑賞しました。だから短いバージョンです。そしたら意外なことに面白かったのでリピートしました。2回観ると新たな発見がありますよ。例えば村人たちと会食する場面でクリスチャンの飲み物だけ色が違うんですね。その真相に気がついたときは背筋が凍りました。

投稿: 雅哉 | 2020年12月14日 (月) 08時33分

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