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2020年12月 2日 (水)

真風涼帆(主演)宝塚宙組「アナスタシア」と、作品の歴史を紐解く。

11月23日(祝)宝塚大劇場で『アナスタシア』を観劇した。

1997年に公開されたアニメーション映画『アナスタシア』に着想を得たミュージカルで、2017年4月24日にブロードウェイで開幕。以降、2019年3月まで2年間に及ぶロングラン上演となった。日本では2020年3月にヒロイン・アーニャ(アナスタシア)を木下晴香と葵わかなのダブル・キャストで東京公演が行われたが新型コロナウィルス禍の影響で度々中断され、4月に梅田芸術劇場で予定されていた大阪公演は全て中止となった。僕は購入していたチケットの払い戻しをする羽目になった。また当初6〜7月に予定されていた宝塚歌劇版も延期となり、漸く11月7日に幕が開いた。

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1990年代初頭、ウォルト・ディズニー・スタジオは『アラジン』(1992)、『ライオンキング』(1994)などの大ヒットで第二次黄金期を迎えていた。 映画『アナスタシア』はフォックス・アニメーション・スタジオの第1回長編作品で、アカデミー賞の作曲賞と歌曲賞にノミネートされた。

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ミュージカル仕立てを基本とするディズニー・アニメのスタイルを踏襲した本作はちゃんとヒットしたが、次作のSFアニメ『タイタンA.E.』が7500万ドルの製作費に対し、たった2200万ドルの収入で大赤字となり、2000年にはスタジオが閉鎖された。 一方ワーナー・ブラザースはブラッド・バードを監督に迎え1999年に『アイアン・ジャイアント』を製作したが、こちらも興行的に振るわず、ワーナーはアニメーション部門を凍結、ブラッド・バードはピクサーに移籍し『Mr.インクレディブル』『レミーのおいしいレストラン』でアカデミー賞を受賞することになる。こうしてセル画による2Dアニメーション映画の相次ぐ失敗を受け、ハリウッドの各スタジオは3DCG(3次元コンピューターグラフィックス)への完全移行を余儀なくされた。

なお20世紀フォックスという映画会社そのものが2019年にディズニーに買収され消滅したため、現在映画『アナスタシア』はDisney+から配信されている(こちら)。

ブロードウェイ・ミュージカル版はアニメから引き続き作詞:リン・アレンス、作曲:ステファン・フラハティが担当した。このコンビはブロードウェイ・ミュージカル『ラグタイム』でトニー賞の楽曲賞を受賞している。他にドクター・スースの絵本を原作とするミュージカル『スーシカル(Seussical)』がある。僕は『ラグタイム』の音楽が大好きなのだが、1998年のトニー賞に12部門ノミネートされながら、台本賞・楽曲賞・助演女優賞(オードラ・マクドナルド)・オーケストレーション賞しか受賞出来なかった。実はこの年の対抗馬がディズニー製作のミュージカル『ライオンキング』で、ミュージカル作品賞・演出賞をはじめ話題を全てそちらに持っていかれてしまったのである。WASP/ユダヤ人/アフリカ系アメリカ人(黒人)の対立を描くという題材の難しさもあって、日本での『ラグタイム』上演は未だ実現していない。

また舞台版『アナスタシア』の台本を書いたテレンス・マクナリーは「愛!勇気!同情!」や「マスター・クラス」などでトニー賞を4回受賞した劇作家で、2020年新型コロナ感染症で亡くなった。彼はアニメ版に関わっていない。

アニメ版から舞台版への移行で最も大きな変更点は敵側の設定である。アニメ版ではロシアの怪僧ラスプーチンの亡霊(本人はロシア帝政末期1916年に暗殺された)がアーニャの前に立ちはだかった。しかし舞台版でラスプーチンは一切登場せず、ボリシェヴィキの警視副総監グレブ・ヴァガノフが新たに設定された。正直このグレブという新キャラクターに全く魅力がなく、彼抜きでも物語は成立するのでは?という気がする。ただグレブを省くと、大本のネタであるイングリット・バーグマン、ユル・ブリンナー主演の映画『追想(原題はAnastasia)』(1956年、20世紀フォックス)と全く瓜二つになってしまう。苦しいところである。僕は元々バーグマンが2度目のアカデミー主演女優賞を受賞した『追想』も大好きで、アルフレッド・ニューマンの音楽も素敵だ。このロマンティックな物語には何か強く惹かれるものがある。

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僕はアニメ版『アナスタシア』を1997年12月の日本公開時に映画館で観ているし、音楽が大いに気に入ってサントラCDも購入した。だから待望の舞台版である。

プロローグの"Once upon a December"(昔々、ある12月に)や、アカデミー歌曲賞にノミネートされた"Journey to the Past"(過去への旅)は舞台版にも流用された。一方で当然ながらラスプーチンの歌はことごとく廃棄され、沢山の新曲が加わった。

ロマノフ王朝の末裔、皇女アナスタシアがロシア革命時の処刑から難を逃れて生きているという伝説は実際に根強くあった。しかし結局2007年までに皇帝一家全員の遺骨が発掘され、遂に生存者なしと確認された。

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偽アナスタシアの中でも有名なのがアンナ・アンダーソン。彼女の死後10年が経過した1994年にDNA鑑定が実施され、漸く偽者(僭称者)であることが判明した。

さて、宝塚歌劇版の出演は真風涼帆、星風まどか、芹香斗亜ほか。グレブ・ヴァガノフを演じた芹香は影が薄かった。華がない。果たしてこれで将来、トップになれるのか?

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真風は鷹揚としたトップで、存在感があってセンターがよく似合う。星風はきりりとして逞しく、芯が強いアーニャにピッタリ!このふたりは文句なし。

潤色・演出の稲葉太地は場面転換がスピーディで「盆(回り舞台)」の使い方が抜群に上手い!背景を彩る映像とのコンビネーションも手練れの技で、特に雪景色の中を疾走する列車の場面は絶品だ。

待ちに待った公演であり大満足、2021年2月11日にBlu-rayが発売されたら必ず購入するつもりなのだが、最後に一言だけ文句を言わせてください。

第一幕フィナーレで名曲中の名曲、"Journey to the Past"(過去への旅)を男役の真風が歌い始めたときにはずっこけた。これ、アニメ版もブロードウェイ版もアーニャ(アナスタシア)のソロ・ナンバーなんですけど!?途中から星風が加わりデュエットとなるのだが、『エリザベート』同様、タイトルロールである娘役最大の見せ場を男役が奪わないでほしいと切に願う。いや、事情は分かるよ。宝塚歌劇というのは現代日本において唯一〈男尊女卑〉が正々堂々とまかり通る世界であり、娘役より圧倒的に男役ファンの方が多い。そりゃ、第一幕の幕切れを「所詮添え物にすぎない」娘役のソロというわけにはいかないだろうさ。でもね、それでも……。もし潤色・演出が小池修一郎だったら、こんな酷い扱いはしなかっただろうと僕は信じる。稲葉よ、再演の際はこのシーンをもう一度考え直してほしい。頼みます。

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