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2020年11月13日 (金)

アカデミー長編アニメーション部門のノミネートは確実!「ウルフウォーカー」

アイルランドのアニメーション・スタジオ、カートゥーン・サルーンは今まで『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『生きのびるために/ブレッドウィナー』と製作した全ての長編アニメーション映画でアカデミー賞ノミネートを果たしている。『ブレンダン』『ソング・オブ〜』に続くケルト三部作の掉尾を飾る『ウルフウォーカー』もノミネートは確実、そろそろ受賞も夢ではないのではなかろうか?

僕が初めてこのスタジオの作品を観たのはトム・ムーア監督『ソング・オブ・ザ・シー』だった。絵の美しさとケルト神話の世界に魅了された。多神教のケルト神話が日本人にすごく身近に感じられるのは、八百万の神々を想起させるからではないだろうか?また『ソング・オブ〜』は人間とアザラシが結婚して子供が生まれるお話なので、日本昔話『狐女房』に通じる異類婚姻譚だなと思った。

『ソング・オブ・ザ・シー』に登場する狼の描き方は高畑勲監督『太陽の王子ホルスの大冒険』を意識しているのでは?と感じたのだが、『ウルフウォーカー』も『ホルス』は勿論のこと、線描の力強さが『かぐや姫の物語』を彷彿とさせるし、宮崎駿監督『もののけ姫』へのオマージュが鮮明に刻印されている。

評価:A+  公式サイトはこちら

Wolf

本作は城壁に囲まれた中世の街と、その外に広がる森の対立が描かれる。それは文化と自然の対立であり、ひいてはイングランドとアイルランド、さらに一神教であるキリスト教とケルト神話の対立でもある。そして城壁内に暮らす人々のキャラクターデザインや美術は四角形を主体とする角張ったもので、一方の森は円を主体に描かれる。

イングランドからアイルランドにやって来た少女ロビンが森でウルフウォーカーのメーヴと出会うことで、ロビンを取り巻く角張った世界が次第に円形の世界へ吸収され、融合していく。それはとても感動的な情景だった。

ケルト三部作のみならずアフガニスタンを舞台とする『生きのびるために/ブレッドウィナー』も含め、カートゥーン・サルーン作品における円とは、チベット仏教の曼荼羅のように完全性とか、文化と自然の調和を象徴しているのではないかと僕は考えている。

Wolfwalkers

余談だが、主人公のロビンはイングランドの妖精ロビン・グッドフェローに由来する。シェイクスピア『夏の夜の夢』に登場する妖精パックもロビン・グッドフェローと呼ばれる。つまりロビンはトリックスター(境界を超える者)なのだ

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