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大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」

評価:A+

Umibe

公式サイトはこちら。2019年11月24日(日)に広島国際映画祭で観た時のレビューはこちら。このとき僕は大林監督に握手をして頂いた。車椅子姿だった。

本作を一言で評するならカオス、混沌である。いきなり宇宙船から見た青い地球の姿が画面に現れ、やがて2019年尾道の映画館をワームホール(抜け道)として、武士の時代へとタイムリープ(時間跳躍)する。このぶっ飛び方は橋本忍(脚本・監督)のカルト作『幻の湖』を彷彿とさせる。

本作は歌って踊るミュージカルであり、無声映画、トーキー、アクション、チャンバラ(剣劇)、ターザンなどの要素がごった煮になっている。正におもちゃ箱をひっくり返したようなハチャメチャぶり。闇鍋をつつく感覚で次に何が飛び出すか判らない。初めて大林映画を観る人なら目を大きく見開き、戸惑い、頭が混乱するだろう。アヴァンギャルド(前衛)だ。そういう意味において、大林監督の16mm自主映画『EMOTION=伝説の午後 いつか見たドラキュラ』(1967)への回帰とみなすことも可能だろう。

あまりにも投入された情報量が多すぎて、一回観ただけでは脳内で処理しきれない。僕も二回目で漸く全体像を把握することが出来た。

登場する時代・歴史的人物を順不同で挙げよう。

  • 秀吉に切腹を命じられた千利休
  • 宮本武蔵 対 佐々木小次郎「巌流島の決闘」
  • 新選組による芹沢鴨暗殺
  • 近江屋での竜馬暗殺
  • 戊辰戦争(白虎隊/娘子隊の悲劇)
  • 長岡藩の藩士小林虎三郎による米百俵
  • 西郷隆盛と西南戦争
  • 大久保利通暗殺(紀尾井坂の変)
  • 満州事変と川島芳子・李香蘭(山口淑子)
  • 日中戦争
  • 沖縄戦
  • 広島への原爆投下

登場する映画監督は、

  • マリオ・バーヴァ『白い肌に狂う鞭』(馬場鞠男:主人公)
  • フランソワ・トリュフォー『恋のエチュード』(鳥鳳介)
  • ドン・シーゲル『ダーティハリー』(団茂)
  • 小津安二郎(『東京物語』『晩春』演じるのは手塚眞)
  • 山中貞雄(『人情紙風船』演じるのは犬童一心)
  • ジョン・フォード(『駅馬車』『捜索者』演じるのは大林宣彦)

明らかにオマージュを捧げている映画たち

  • 稲垣浩監督『無法松の一生』(園井恵子が出演)
  • アルフレッド・ヒッチコック『見知らぬ乗客』(割れた眼鏡に映る映像)
  • ジャン=リュック・ゴダール『気狂いピエロ』(ランボーの詩『永遠』の引用)
     また見付かつた。 
     何がだ? 永遠。
  • スタンリー・キューブリック『2001年宇宙の旅』(スターチャイルド)
  • 新藤兼人『さくら隊散る』『ヒロシマ』(遺稿シナリオ)

そして自作からの引用ー登場人物の名前(『転校生』斉藤一美、『時をかける少女』芳山和子、『さびしんぼう』橘百合子、『HOUSE ハウス』ファンタ)、映像(『マヌケ先生』『その日のまえに』)。

因みに本作の舞台となる映画館〈瀬戸内キネマ〉は過去の大林映画『麗猫伝説』『日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群れ』にも登場する。但し『麗猫伝説』では撮影所の名称として。

また一人の俳優が何役も演じるという手法は手塚漫画におけるスターシステム(詳細は手塚治虫公式サイトのこちら)を彷彿とさせる。大林監督は以前ブラック・ジャックを映画化(『瞳の中の訪問者』)しているし、息子の手塚眞が本作に出演しているのも決して偶然ではない。

〈過去→現在→未来〉という通時的流れ、順を追った直線的時間の概念は本作で通用しない。『海辺の映画館』は共時的(元々はフランスの言語学者ソシュールの用語)だ。過去・現在・未来は同時にここにある。死者も生者も共存する世界。それが混沌の正体だ。共時性は過去作『さびしんぼう』や『はるか、ノスタルジィ』『日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群れ』『異人たちとの夏』『この空の花 長岡花火物語』でも認められる特徴である。

映画で過去は変えられないが、未来は変えられるかも知れない。大林監督の願いーそれは執念と言い換えても良いーが本作にはこめられている。観客は単なる傍観者であることを許されない。「映画の中に入っておいで。そしてあなたも行動しなさい、立ち止まっていては駄目だ。いいかい?よーい、スタート!」という掛け声が聞こえる。そして永遠に「カット」の声は掛からない。恐ろしい作品である。

〈追記〉『海辺の映画館』を観てびっくりしたのは、沖縄戦における日本軍による沖縄住民虐殺が描かれていたこと。寝耳に水で、これは果たしで史実なのだろうか?と疑問に思った。そこで調べてみると、ちゃんと沖縄県の公式ホームベージに「住民虐殺」についての県の見解が公表されているのを発見した。こちら。また『復讐するは我にあり』で直木賞を受賞した佐木隆三(著)『証言記録 沖縄住民虐殺―日兵逆殺と米軍犯罪』も読み、『海辺の映画館』で描かれたことがちゃんと事実に基づいていることを確信した。

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