又吉直樹原作の映画「劇場」と朝井リョウ原作「何者」
評価B+
『劇場』は7月17日(金)に劇場公開されると同時にAmazon Prime Videoで配信(課金なし)された。配給は吉本興業。映画公式サイトはこちら。
当初は4月17日に全国280スクリーンで劇場公開が決まっていた。しかし新型コロナウィルス禍で突如4月7日に緊急事態宣言が出たために延期になっていた。そのときAmazon社から独占配信の打診があり、製作費をかなり回収できるほどの配信料が提示された。通常の2次使用配信だったらあり得ない額だったという。話し合いの結果、全国のミニシアター20館で同時公開ということで決着した。さらに世界242カ国で配信されることも決まった。
小劇場が多い下北沢が舞台となる。人を傷つけてしまっても演劇を続けようとする主人公の永田(山崎賢人)。彼は誰からも認められていないのに自尊心だけ高く、他者を激しく攻撃する。同棲する紗希(松岡茉優)がディズニーランドに行きたいとせがんだときも「だから、俺はディズニーと勝負しているわけなんよね」と言い放つ。クリント・イーストウッドのことを褒めても不機嫌になる。救いようのないダメ男である。彼の自己愛は無限に増大している。しかし実際のところ、〈何者〉でもない。結果を何も出せていない。
僕は観ている途中で、物語の構造が佐藤健主演で映画化された朝井リョウの『何者』そっくりだなと思った。『何者』の主人公も『劇場』の永田同様に、大学の演劇サークルで台本を書いていた。『何者』で有村架純が演じた瑞月と、『劇場』における紗希が果たす役割も非常に似ている。また『何者』の監督・三浦大輔は元々演劇界において作・演出で名を馳せる人。そういう意味においても『劇場』と共通点がある。
ただ作劇術としては『何者』の方が一枚上手、ひとひねりが効いている。上述したプロットにSNSというガジェットを加味したことによって、そのスパイスが劇的効果を生んだ。
これは芥川賞作家(又吉)と直木賞作家(浅井)の実力差なのかも知れないな、とふと思った。エンターテイメント路線の直木賞は手練のベテラン作家が受賞することが多い。今年の馳星周(55歳)なんか正にそう。処女作『不夜城』で受賞していてもおかしくなかった。一方、純文学系の芥川賞は〈ポッと出の〉新人が受賞することも多く、感性とか勢いだけで過大評価されがち。だから引き出しが直ぐ空になって、後が続かない。感性だけで技術が伴わないから。芥川賞がどれだけ多くの〈一発屋〉を生んできたかはこちらの一覧表をご覧あれ。あなたが知っている作家、何人いますか?
イケメンの山崎賢人が「そこまで汚い格好しなくても……」というくらいに頑張っている。そういえば一時期のブラッド・ピットやレオナルド・ディカプリオも「顔じゃなく、演技を認めてくれ!」とやさぐれた役を演じて藻掻いていたな、と懐かしく思い出した。その甲斐あって、ふたりとも中年になってアカデミー賞を受賞出来た。めでたしめでたし。
松岡茉優は鉄板の演技力で、安定の上手さだった。
最後に。本作で少し気になったのは同棲しているのに永田と紗希の性生活について全く描かれていないということ。匂わすことすらしていないのはとても不自然。リアリティに欠ける。まさかセックスレスの関係だったとか!?あり得ないだろう。
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