わが心の歌 25選 ⑥ ミュージカル「回転木馬」と、サッカーとの摩訶不思議な関係/メグ・ライアンの想い出
- わが心の歌 25選 ① 総論 (メニュー)&「いつも何度でも」「エメ Aimer」
- わが心の歌 25選 ②「One more time, One more chance」「なんでもないや」
- わが心の歌 25選 ③シャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」と武満徹「小さな空」の関係
- わが心の歌 25選 ④ カーペンターズ「Close To You」/ナット・キング・コール「Unforgettable」
- わが心の歌 25選 ⑤ 本当は恐ろしい「Alone Again」/Woman 〜“Wの悲劇”より
- わが心の歌〈番外編〉祝サブスク解禁!!山口百恵の魅力について語り尽くそう。
- 祝サブスク解禁!!山口百恵の魅力について語り尽くそう。〈後編〉
作詞:オスカー・ハマースタイン2世、作曲:リチャード・ロジャースという、『オクラホマ!』や『王様と私』で知られるコンビによるミュージカル『回転木馬 Carousel 』は1945年にブロードウェイで初演された。1993年にはキャメロン・マッキントッシュ製作、『ミス・サイゴン』のニコラス・ハイトナー演出で再演され、トニー賞を5部門受賞(ミュージカル・リバイバル作品賞/ミュージカル演出賞/振付賞/装置デザイン賞/ミュージカル助演女優賞:オードラ・マクドナルド)。因みに初演時はトニー賞創設前であった(初回授賞式は1947年)。56年には20世紀フォックスで映画化された。主演はシャーリー・ジョーンズとゴードン・マクレー。また2006年ごろにヒュー・ジャックマン主演で映画のリメイク企画があったのだが、立ち消えになっている(記事こちら)。
日本では69年に宝塚雪組が初演した(宝塚大劇場)。84年に宝塚星組が宝塚バウホールで再演し、95年に東宝が帝国劇場他で上演。僕は1996年7月9日~8月27日 大阪・劇場飛天(現在の梅田芸術劇場)における上演を観た。演出:ニコラス・ハイトナー、振付:サー・ケネス・マクミラン、訳詞は『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』の岩谷時子。涼風真世、石川禅、吉岡小鼓音、市村正親らが出演した。このプロダクションはこれっきりで、2009年に東京の銀河劇場でロバート・マックイーン演出、笹本玲奈・浦井健治 主演で再演されたようだが、関西には来なかった。
一番好きなナンバーは、なんといっても"You'll Never Walk Alone"である。映画版ではオペラ歌手(コントラルト)クララメイ・ターナーが歌った。
これは現在サッカーのサポーター・ソングとして、英国のリヴァプールFCやJリーグのFC東京のファンの間で愛唱されている。
上はリバプールFCのエンブレムだが、ここにも "You'll Never Walk Alone"の文字が刻まれている。
世界でなんと、20以上のサッカー・チームのサポーター達がこれを歌い継いでいるのである!次のような歌詞だ。
When you walk through a storm
Hold your head up high
And don't be afraid of the dark嵐の中を歩くとき
顔を上げ、しっかり前を向きなさい
暗闇を恐れないでAt the end of the storm
There's a golden sky
And the sweet silver song of a lark嵐の向こうには
光り輝く空が広がっている
そして雲雀の優しく澄んだ歌声が聴こえるWalk on through the wind
Walk on through the rain
Though your dreams be tossed and blown風の中を歩きなさい
雨の中を歩きなさい
たとえ夢が吹き飛ばされたとしてもWalk on, walk on
With hope in your heart
And you'll never walk alone歩いて、歩き続けなさい
希望を胸に抱いて
独りぼっちじゃないよAnd you'll never walk alone
あなたは独りぼっちじゃない
まずフランク・シナトラの歌唱で聴いてみてください。こちら!あと歌なしのフランク・チャックスフィールド&オーケストラの演奏もどうぞ。こちら。
同じハマースタイン2世&ロジャースのコンビ作『サウンド・オブ・ミュージック』で修道院長が歌う「すべての山に登れ(Climb Every Mountain)」は内容的にこの歌に非常に近い(映画版の動画はこちら)。僕は中学生の時に初めて「すべての山に登れ」を聴いて、心を打たれた。からだの奥底からじわじわと勇気が湧いてくる気がした。
ミュージカル『回転木馬 (Carousel)』の主人公ビリーはすぐに妻や娘に手を上げる暴力夫であり、#MeToo 運動が盛んな現代には受け入れ難いかも知れない。しかしどの楽曲も極上の出来であり、オーケストラだけで演奏されるカルーセル・ワルツも僕は大好き。こちら!物語後半のビリーは悔い改めているので、どうか許してやってください。
原作は1909年にハンガリー・ブタペストで初演された戯曲『リリオム』。1934年にフリッツ・ラングが監督したフランス映画『リリオム』も傑作。ユダヤ人のラングはこの時ちょうどアドルフ・ヒトラー政権を逃れてドイツからフランスに亡命していたのだが、ドイツ軍がフランスに侵攻したため、さらにアメリカ合衆国に渡ることになる。
『回転木馬』を鑑賞するには映画版を観るのも良し、もっとお勧めなのがリンカーンセンターで開催された公演を収録したDVD。
ただし、北米のリージョン1対応DVDなので、日本国内の(リージョン2)プレイヤーでは観ることが出来ない。
ところが!コロナ禍のおかげ(?)で2020年7月10日よりミュージカル全編がYouTubeで無料配信されているのを発見した!!!こちら。画面右下あたりのスイッチをクリックすれば、英語字幕を呼び出す機能も。
ヒロイン=ジュリーを演じるのはケリー・オハラ。渡辺謙と『王様と私』で共演し、トニー賞ミュージカル主演女優賞を受賞した。その友人キャリー役は『ビューティフル − キャロル・キング・ミュージカル』でトニー賞ミュージカル主演女優賞を受賞したジェシー・ミューラー。ビリー役はメトロポリタン・オペラにしばしば出演しているバリトンのネイサン・ガン。また「6月は一斉に花開く(June Is Bustin' Out All Over)」や、"You'll Never Walk Alone"を歌うステファニー・ブライスもメトで活躍するメゾ・ソプラノ。これ以上望みようのない超豪華キャストである。オーケストラはニューヨーク・フィル。至れり尽くせりだ。
劇中clambakeという言葉が出てくるのだが、これは海浜で焼け石を使ってハマグリなどを焼いて食べるピクニックのことを指す。日本人には馴染みがない習慣なのでピンとこない。あと「6月は一斉に花開く」は名曲だが、日本で6月といえば梅雨の季節なので、やはりどうもイメージが湧かない。余談だがこの歌詞中に"March went out like a lion"(3月はライオンのように過ぎ去っていった)とあり、な、なんと羽海野チカの漫画『3月のライオン』に繋がっている!
☆「It Had To Be You」(ハリー・コニック Jr.) はメグ・ライアン主演、ロブ・ライナー監督『恋人たちの予感』(When Harry Met Sally...)で使用された楽曲。試聴はこちら。脚本を書いたノーラ・エフロン(1941-2012)は後に監督業に進出し、メグ・ライアン主演で『めぐり逢えたら』『ユー・ガット・メール』とロマンティック・コメディ三部作を仕上げた。なおノーラはウォーターゲート事件の真相を暴いた記者、ワシントン・ポスト紙のカール・バーンスタインと結婚していた時期があり、映画『大統領の陰謀』シナリオの手直しにも関わっていたらしい(アカデミー脚色賞受賞)。だからスティーヴン・スピルバーグが監督し、ワシントン・ポスト社が舞台となる『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のエンドロールに「ノーラ・エフロンに捧ぐ」とクレジットされている(ラストシーンは『大統領の陰謀』冒頭部に直接繋がっている)。
「もしあなただったら」と訳されたりもする "It Had to Be You"は1924年に発表された。アイシャム・ジョーンズが作曲し、カス・カーンが作詞した。ハリー・コニック Jr.のパフォーマンスはフランク・シナトラを彷彿とさせ、「ビッグ・バンド・スタイル」の再来と評された。マーク・シャイマンによるゴージャスなアレンジの功績が大きい。シャイマンは後にブロードウェイ・ミュージカル『ヘアスプレー』や『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『チャーリーとチョコレート工場』を作曲した。
"It Had to Be You"はメグのお相手役だったビリー・クリスタルのテーマ曲となり、彼がアカデミー賞授賞式司会者に起用された際、登場場面で必ずこの曲が演奏された(計9回担当)。
『恋人たちの予感』はメグ・ライアン絶頂期の作品で彼女が最高にキュート、掛け値なしに名作なのだが、公開当時劇場で観たときから僕にはどうしても納得がいかないことがあった。映画冒頭で〈セックス抜きで男女の友情は成立するのか?〉と問題提起されるのだが、最後にハリーとサリーは性交してしまう。つまり〈セックス抜きで男女の友情は成立しない〉と結論を下しているのである。そんなのあり??僕は憤った。許し難い背信行為である。
結局この問題に決着をつけてくれたのがアイルランド出身ジョン・カーニー監督の『ONCE ダブリンの片隅で』(2007)と『はじまりのうた』(2013)。漸く我が意を得たりと溜飲を下げることが出来た。またジョン・カーニーが監督したAmazon プライム・ビデオのドラマシリーズ『モダン・ラブ ~今日もNYの街角で~』第1話“私の特別なドアマン”も同趣旨の大傑作である。こちらからどうぞ。
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