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2020年7月30日 (木)

めっちゃ怖い!「透明人間」

評価:A+

The_invisible_man

映画公式サイトはこちら

めっちゃ怖かった!映画館でいたたまれない気持ちになった。こんな感情を覚えたのはいつ以来だろうとしばらく真剣に考えて、思い当たったのが清水崇 監督の『呪怨』。それも2003年に公開された奥菜恵主演の劇場版とか、酒井法子主演の『呪怨2』じゃない。2000年に東映ビデオから発売されたオリジナルビデオ版。実に20年ぶりである。

今回の『透明人間』は予算がたった700万ドル(約7億7,000万円)だ。超低予算映画である。日本でいうとアニメーション映画『AKIRA』程度。それも1988年公開当時の金額だから、多分『AKIRA』の方がお金が掛かっている。因みにクリストファー・ノーランの『インセプション』の製作費が1億6,000万ドル、最新作『TENET テネット』は2億ドルを超えている。桁が違う。

そもそもエリザベス・モス主演というのが低予算を感じさせる。彼女はHuluのドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(僕はシーズン3まで全部観た。大傑作)でエミー賞の主演女優賞を受賞し一世を風靡したが、所詮はテレビ女優である。しかも撮影当時37歳。(ニコール・キッドマンとかシャーリーズ・セロン、メリル・ストリープは別格として)普通ならハリウッド映画で主演を張れる年齢ではない。

『透明人間』はアイディアの勝利である。『呪怨』も結局、予算が少ないバージョンの方が出来が良かったりする。『リング』もハリウッド版より日本の第1作が一番怖い。

〈見せない恐怖〉という意味においてスピルバーグの『ジョーズ』に近い。『ジョーズ』なんかサメそのものは張りぼてで、ちゃちだ。テレビ映画『激突!』は最後までトレーラー運転手の顔を見せなかった。新型コロナウィルスの恐怖も敵が見えないことにある。また、透明人間を追ってカメラが誰もいない空間をパンする演出はヒッチコックの『レベッカ』を思い出した。『レベッカ』もタイトルロールを敢えて見せないことで彼女の存在感を増した。

最新の『透明人間』はまた、〈ガスライティング(英: gaslighting)〉ものでもある。心理的虐待の一種であり、被害者(妻)にわざと誤った情報を流し、被害者が自身の記憶や正気を疑うよう仕向ける手法。起源はイングリッド・バーグマンがアカデミー主演女優賞を受賞したジョージ・キューカー監督の映画『ガス燈』(1944)に遡る。元々は舞台劇だそう。ヒッチコックの『断崖』(1941)も夫の意図的な工作ではないのだが、双子と言いたくなるほど『ガス燈』に近い作品だ。『断崖』ではジョーン・フォンテインがアカデミー主演女優賞を受賞、彼女は『レベッカ』の主演でもあり、こういう怯えた演技が上手い。因みについ先日なくなったオリビア・デ・ハビランド(『風と共に去りぬ』のメラニー役)はジョーンの姉であり、この中の悪い姉妹は東京都で生まれた(両親はイギリス人)。閑話休題。

あとね、男から精神的・肉体的な虐待を受けた女が最初は逃亡を試み、物語の中盤以降からは反撃に転じるという構造が『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』とそっくりなのも面白い。エリザベス・モスは大した女優だ。

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