わが心の歌 25選 ⑤ 本当は恐ろしい「Alone Again」/Woman 〜“Wの悲劇”より
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☆「Alone Again」(ギルバート・オサリバン)
今年の2月頃、まだ新型コロナウィルスが蔓延する前、スポーツ・ジムに行ったときに館内の有線放送で"Alone Again"がかかっていたので懐かしく思った。1986年に公開された高橋留美子原作、石原真理子主演、澤井信一郎監督の映画『めぞん一刻』実写版(駄作だった)の主題歌としてエンドロールで流れた歌である。映画の公開に合わせて、同時期に放送されていたテレビアニメ版のテーマソングとしても起用されたという。
"Alone Again"はアイルランド出身のシンガーソングライター、ギルバート・オサリバンが1972年にリリースした楽曲である。アメリカ合衆国のBillboardシングルチャートで6週連続1位、日本でもオリコン洋楽シングルチャートで5週1位を獲得した。Spotifyではこちら。
どういうことを歌っているのだろう、とふと気になったので調べてみた。そしたら朴訥な歌い方でのんびりした曲調とは似ても似つかない内容だったので、驚愕した!
歌詞対訳を掲載しよう(小生訳、無断転載禁止)。
In a little while from now
If I'm not feeling any less sour
I promise myself to treat myself
And visit a nearby tower
And climbing to the top
Will throw myself off
In an effort to make clear to whoever
What it's like when you're shattered
Left standing in the lurch
At a church where people saying
My God, that's tough, she stood him up
No point in us remaining
We may as well go home
As I did on my own
Alone again, naturally今からしばらく経って
もしこの酸っぱい気持ちが収まらなかったら
こうしてやろうと誓いを立てているんだ
近くの高いビルまで行き
屋上に登って
身を投げようって
みんなにはっきり分からせてやるのさ
心を粉々にされたら、どんな感じかって
教会の結婚式でひとり置き去りにされ
タキシード姿で立ったまま人々が口々に言い合うのを聞いた
「これはキツイな!」「花嫁さんにすっぽかされたのね」
「これ以上ここにいても仕方ないね」
「もう帰りましょうか」
僕自身もそうするしかなかった
またひとりぼっちだ。自然にねTo think that only yesterday
I was cheerful, bright and gay
Looking forward to, well, who wouldn't do
The role I was about to play
But as if to knock me down
Reality came around
And without so much as a mere touch
Cut me into little pieces
Leaving me to doubt
Talk about God and His mercy
Oh, if he really does exist
Why did He desert me
In my hour of need?
I truly am, indeed
Alone again, naturallyたった昨日まで僕は
朗らかで、元気よく、陽気だった
明るい未来を期待していた、でもまさか
こんな道化役を演じるなんて考えてもみなかった
ところが僕を叩きのめすように
現実が襲いかかってきた
そして指一本触れられることなく
僕はズタズタに引き裂かれた
放っておかれた僕は疑問を抱いた
神の慈悲についての話さ
ああ、もし神が本当に存在するのなら
彼はどうして僕を見捨てたのか?
一番必要としているときに
僕は真実、本当に
またひとりぼっちだ。自然にねIt seems to me that there are more hearts
Broken in the world that can't be mended
Left unattended
What do we do?
What do we do?心が折れて癒やされずにいる人たちが
世界にはもっとたくさんいるように思う
誰にも寄り添ってもらえずに
僕らはどうしたらいい?
どうしたら?Alone again naturally
またひとりぼっちだ。自然にね
Now, looking back over the years
And whatever else that appears
I remember I cried when my father died
Never wishing to hide the tears
And at sixty-five years old
My mother, God rest her soul
Couldn't understand why the only man
She had ever loved had been taken
Leaving her to start
With a heart so badly broken
Despite encouragement from me
No words were ever spoken
And when she passed away
I cried and cried all day
Alone again, naturally
Alone again, naturally何年も前のことを振り返り
立ち現れる光景のあれこれに向き合うと
父さんが死んだとき泣いたことを思い出した
僕は溢れ出る涙を拭おうともしなかった
当時母さんは65歳だった
(神様、どうか彼女の魂に安寧を)
母さんは理解出来なかった
彼女が生涯ただ一人愛した男が
どうして天に召されなかればならないのか
そして、心がめちゃめちゃにされたまま
これからの生活を始めなければならないか
僕がいくら励ましても
一言も返答はなかった
そして母さんが逝去したとき
僕は一日中泣いて、泣いた
またひとりぼっちだ。自然にね
またひとりぼっち……
いやはや。Oh,my God ! Jesus Christ!である。
つまりダスティン・ホフマン主演、マイク・ニコルズ監督、アメリカン・ニューシネマを代表する映画『卒業』のラストシーン、結婚式当日に教会で花嫁を略奪され、ひとり取り残された新郎の心情を歌っているとも解釈出来る。『卒業』の公開が1967年なので時期としても合っている。いわゆるアンサーソングと言って良いのではないだろうか?
そして彼は、まるでイングマル・ベルイマンの映画みたいに、〈神の不在〉を確信し、絶望して死にたいと思う。もの凄い歌詞だ。
これだけ曲調と歌詞が乖離していても良いんだな、ということを学んだ。究極のギャップ萌えだ。
☆「Woman」は薬師丸ひろ子主演の角川映画『Wの悲劇』(1984)主題歌。併映は大林宣彦監督、原田知世主演『天国にいちばん近い島』だった。
映画自体、澤井信一郎監督の最高傑作である。夏樹静子の原作小説を舞台劇に封じ込めた〈入れ子構造〉が最大の勝因であろう。薬師丸ひろ子が劇団の研究性を演じ、ベテラン女優役の三田佳子が圧巻の貫禄だった。映画の中で三田は女優として生きるために〈妻〉や〈母〉としての自分を捨てるが、実生活の彼女はそれらに執着したたため、後に〈悲劇〉に見舞われることになる(詳しくはこちら)。人生とは皮肉なものである。
主題歌は松本隆の歌詞が秀逸で、
ああ時の河を渡る船に
オールはない 流されていく
ここが特に素晴らしい!「百人一首」に採用された、曽禰好忠の和歌(新古今集)を踏まえている。
由良(ゆら)の門(と)を 渡る舟人(ふなびと)
かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな(由良の流れが激しい河口を漕ぎ渡る船頭が、流れに櫂を取られて失くしてしまい当て所なく漂うように、 この先どうなるか分からず途方に暮れる私の恋の道行きだなぁ)
これを〈時の河〉と表現したのが発明である。時空を超えた茫漠たる果てしなさ、悠久の時を感じさせる。
淡々とした薬師丸ひろ子の歌唱も悪くないが(試聴こちら)、情感のこもった上白石萌音のカヴァーが更に上回っている(こちら)。ストリングスのアレンジが美しく、心に沁みる。
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