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祝サブスク解禁!!山口百恵の魅力について語り尽くそう。〈後編〉

本記事は、

の続きである。

【プレイバック】1978年5月にリリースされプレイバック Part2」は作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童の夫婦コンビ作。元々はディレクターの発案で「プレイバック」というタイトルが先に決められ、やはり阿木燿子の作詞で馬飼野康二が作曲した「プレイバック Part1」と宇崎が競作し、宇崎の方が採用された。「Part1」は翌月に発売されたベストアルバムに収録されたが、シングルカットはされていない。両者を聴き比べれば優劣は歴然としている。

【秋元康】秋元康が放送作家を経て、作詞家としてデビューしたのは1981年だった。しかしその1年前に山口百恵は引退していた。

作詞家・秋元康は小泉今日子(「なんてったってアイドル」)や美空ひばり(「川の流れのように」)に間に合ったが、山口百恵には間に合わなかった。彼にはずっと「山口百恵に詞を提供したかった」という、くやしい気持ちが付きまとっているような気がして仕方がない。

秋元がAKB48グループを作り、東京、名古屋、大阪、博多、新潟、瀬戸内、海外へと組織を拡大していったのも、「公式ライバル」として乃木坂46や欅坂46など坂道シリーズをプロデュースしたのも、その原動力として「第二の山口百恵を発見し、育て、世に送り出したい」という強烈な欲望があったのではないだろうか?

山口百恵の才能は日本テレビ系列で放送されていたオーディション番組「スター誕生!」で見い出された。しかし「スター誕生!」は1983年9月に幕を閉じ、平成に入ると単体としてのアイドル歌手が全く売れない時代となった。つまり「スター誕生!」の代替として考案されたオーディションおよびアイドル育成システムがAKB48であり、坂道シリーズだったのではないか、と僕は考える。

【「黒い天使」ー山口百恵と前田敦子を結ぶ点と線】AKB48の一期生・前田敦子が東京ドーム公演(の翌日に開催されるAKB48劇場での公演)をもってグループを卒業したのが2012年8月、そのとき彼女は山口百恵が引退した年齢と同じ、21歳だった。シンクロニシティ(意味のある偶然の一致)である。

AKB48 チームAの劇場公演5th Stage「恋愛禁止条例」において秋元康は「黒い天使」(Spotifyではこちら)という曲を作詞した。3人のユニット曲で、前田敦子がセンターで歌った。

山口百恵のプレイバック Part2」は、真紅(まっか)なポルシェを飛ばしている女が、カーステレオを掛けると、ラジオから「勝手にしやがれ 出ていくんだろ」と流れてくるのでPlay Back (巻き戻して!)と叫ぶ。これは沢田研二が前年(1977)に歌った「勝手にしやがれ」(作詞:阿久悠)に呼応している。その歌詞の中で「やっぱりお前は出ていくんだな」とある。つまり状況として「プレイバック Part2」は男と喧嘩した女が夜中に家を飛び出し、運転する車上で心情を歌っている。一方、「黒い天使」は夜の渋滞する高速道路で男と喧嘩をした女が助手席のドアを開けて車を降り、ヒールを脱いでトボトボと車道を歩いている時のやけっぱちな心情を歌っている。構造が似ていると思いませんか?

今回のサブスク一斉解禁で初めて知り、心底驚いたことがある。1975年8月28日から31日まで開催された新宿コマ劇場における「第1回百恵ちゃん祭り」で、山口百恵はロック・ミュージカル「黒い天使」に取り組んでいたのである(音源はこちら)。このとき彼女はダウン・タウン・ブギウギ・バンドのヒット曲「スモーキン・ブギ」と「カッコマン・ブギ」を歌い、これが切っ掛けで今後歌いたい作曲家として宇崎竜童の名を挙げた。そして翌年に名曲「横須賀ストーリー」が誕生したのである。遂に山口百恵と前田敦子が繋がった!

秋元康は前田敦子に、山口百恵の面影をなんとか重ねようとしていた。しかし、あっちゃんは結局、百恵ちゃんにはならなかった。

また三期生の渡辺麻友が卒業する時に秋元が提供した楽曲「11月のアンクレット」の振付で、渡辺は最後にマイクをステージ中央に置き、後方に去る。言うまでもなく山口百恵さよならコンサート@武道館の再現である。しかし、まゆゆも百恵ちゃんではなかった。

こうして秋元は、まるで玩具に飽きた子供のように、急速にAKB48グループへの関心を喪失していった。

【大林宣彦再登場】AKB48のシングル「So long !」(センターはまゆゆ)ミュージック・ビデオの監督として秋元康は大林宣彦を起用した。ここで大林は自身の映画「この空の花 -長岡花火物語」の続編としてこのMVを仕上がっていたのだからぶっ飛んだ!なんと上映時間64分、破格の長さである。AKBファンは呆れ果てた。しかし秋元は大林の身勝手・大暴走を容認した。多分そこには「山口百恵を育て、見守った監督だから」という畏敬の念があったからではないだろうか?

【平手友梨奈】そんな状況下に、突如として救済の天使が現れた。平手友梨奈である。彼女を見て、誰しも目を見張った。醸し出す雰囲気が山口百恵そっくりだったからである。「山口百恵の再来」「平成の山口百恵」と世間で騒がれた。

Silent

僕は彼女なら、大林監督のライフワーク、福永武彦原作『草の花』のヒロイン、藤木千枝子を演じられるのではないかと思った(以前、尾美としのりと富田靖子主演で企画されていた)。しかし大林監督は既に病魔に侵され、結局『草の花』映画化は実現に至らなかった。

平手をセンターに据えた欅坂46のデビュー曲「サイレントマジョリティー」(動画はこちら)は気合が入っていた。秋元康の最高傑作と評しても過言ではない。またTAKAHIRO(上野隆博)の振付が凄かった。曲の途中で平手を旧約聖書のモーセに見立て、紅海を2つに割り、民を約束の地へ導く場面を描くのである(出エジプト記)。この解釈はTAKAHIROの発言もあり、間違いない。モーセは預言者であり、預言者とは神の言葉を人に伝える仲介者。日本で言えば巫女に相当する。つまり、秋元は平手=巫女と見立てていた。言うまでもなく彼女が仲介する女神とは山口百恵のことである。

実際に平手は巫女みたいな少女で、楽曲に没入するあまりトランス状態となり、ステージから転倒落下することもあった。2017年12月31日のNHK紅白歌合戦で「不協和音」をパフォーマンスしたときも過呼吸で倒れ、照明が暗くなってから他のメンバーに運ばれる事態となった。

平手がソロで歌った「渋谷からPARCOが消えた日」に、山口百恵「横須賀ストーリー」 「プレイバック Part2」「絶体絶命」のイメージが投影されていると感じるのは僕だけではあるまい。

秋元の平手に対する偏愛っぷりは常軌を逸していた。いくら平手以外のメンバーのファンたちから非難を浴びても、決して平手=絶対センターを譲らなかった。共犯者TAKAHIROは「二人セゾン」(動画こちら)の振り付けの最後に、平手以外のメンバー全員を欅の木=オブジェに変えてしまった。最早このグループは〈平手友梨奈と愉快な仲間たち〉状態であった。ファンが怒るのも無理はない。アルフレッド・ヒッチコック映画『めまい』でジェームズ・スチュワートが演じた主人公の狂気を、僕は秋元康の中に見た。彼は山口百恵の亡霊に取り憑かれていた(『めまい』のスコティはある事件がきっかけで高所恐怖症になり、警察を辞めて私立探偵となった。そこへ友人からの依頼で彼の妻マデリンを尾行するが、彼女は鐘楼の頂上から飛び降り自殺する。それからしばらく経ち、自責の念から神経衰弱に陥っていたスコティは街角でマデリンに瓜二つの女性ジュディを見かけ、彼女を追う。やがてふたりは親しくなるが、スコティは次第に正気を失い彼女の洋服、髪型、髪の色をマデリンと同じにしようと画策し始める……)。

2017年6月24日に幕張メッセで行われていた全国握手会ではナイフを持った男による襲撃未遂事件が発生、逮捕された犯人は「殺そうと思った」と供述した(容疑者が挙げた名前について警察は「言えない」としたが、平手が参加したレーンに並んでいた)。

「どうしていつも、てち(平手の愛称)ばかり優遇されて、私はセンターになれないの?」と運営に涙ながら訴えて、辞めていくメンバーもいた。

センターに立つ平手の背中を、他のメンバーの嫉妬に満ちた鋭い視線が射抜く。また前方客席からは「どうしてお前なんだ?」という怒気を帯びた圧が彼女を襲い、四方八方からズタズタに引き裂く。AKB48の絶対センター=前田敦子の心臓は意外と強かったが、満身創痍の平手友梨奈は次第に壊れていった。

それでも秋元康はその執着を緩めることなく、どんどん彼女を追い詰めた。次第にグループ内で孤立していく平手の心情を「不協和音」の歌詞に託し、「僕は嫌だ!」と絶叫させた。劇場版『さよなら銀河鉄道999』に登場したキャプテン・ハーロックならさしずめこう呟くだろう。「鬼だな…」

2018年の平手は体調が優れず、コンサートの休演が続き、その年末の紅白歌合戦も不参加。なんとか19年末の紅白には出演したがやはり過呼吸となり、パフォーマンス直後に倒れた。そして2020年1月23日、グループを(卒業ではなく)「脱退」することが電撃的に発表された。もう限界だった。しかし平手がやっぱり何かを「持っているな」と感じたのは、彼女が脱退した直後に新型コロナウィルスが日本を直撃し、「会いに行けるアイドル」というビジネス自体が崩壊してしまったこと。絶妙なタイミングだった。

こうして紫式部『源氏物語』の宇治十帖で、薫から亡くなった大君(おおいきみ)の人形(ひとがた;身代わりの人)として、その面影を重ねられた浮舟が入水自殺を図ったように、アイドル歌手・平手友梨奈は消え去った。しかし2020年秋に映画『さんかく窓の外側は夜』への出演が発表され、彼女は女優・平手友梨奈として再生しようとしている。果たして現代の薫=秋元康は、それでも浮舟=平手を追い求め続けるのか?今後のふたりの行く末を、しっかりと見届けたい。You ain't heard nothin' yet. (お楽しみはこれからだ。)

さて、ここまで書いてきたことを、読者の皆さんはひとりの男の単なる妄想だと失笑されるだろうか?

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