ドキュメンタリー映画「娘は戦場で生まれた」
評価:A
公式サイトはこちら。英題は"FOR SAMA"「サマのために」。サマとは生まれた娘の名前である。
僕は邦題に不満がある。だって赤ん坊は自分の意思で戦場に生まれたわけではない。英語で言えば"She was born."つまり受動態、親の都合(身勝手)で「生まれさせられた」のである。「娘を戦場で生んだ」が相応しいだろう。
撮影・監督のワアド・アルティーブはドキュメンタリー作家で、結構美人である。アサド政権に包囲されたシリアの都市アレッポで取材しながら、そこの病院で働く医師と恋に落ち、娘を生む。アサド政権を支持するロシア軍は病院ですら空爆し、その様子が赤裸々に記録されていて凄まじい。
夫婦はアレッポから脱出するチャンスもあったのだが、最後まで抵抗しそこに留まり続ける。彼らの行為は素晴らしいし、僕には到底真似できない。しかし果たして「娘の親として」彼らは正しかったのか?そこは大いに疑問に感じる。サマちゃんが可哀想だ。
本編中「正義」という言葉が繰り返される。僕にはそれが虚しく響く。「大義」⇔「親としての(子供の命を守る)責任」、どちらが優先されるべきなのか?という問いが本作にはある。
夫婦の英雄的行為は認めるが、ならばそういう状況下で子作りをすべきではなかったし、娘が生まれた時点で脱出すべきだった。僕はそう思う。
たまたま彼らは助かり、そのおかげで本作がこの世に存在するわけだが、死ぬ危険性は極めて高かった。人として駄目でしょ?倫理的に許せない。
しかし映像のド迫力は圧巻で、一つの作品としては高評価せざるを得ない。誠にアンビバレントな心境である。
米アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞にノミネート、英国アカデミー賞(BAFTA)では長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した。
あと本作と併せて、アカデミー短編ドキュメンタリー映画賞を受賞したNetflix配信「ホワイト・ヘルメット ーシリアの民間防衛隊ー」も是非観てください。
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