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わが心の歌 25選 ④ カーペンターズ「Close To You」/ナット・キング・コール「Unforgettable」

これから先の人生で、どんなことがあるのか知らないけれど、いとしい歌の数々よ、どうぞぼくを守りたまえ。

芦原すなお(著)『青春デンデケデケデケ』より

Den

"(They Long to Be) Close to You"は作詞家:ハル・デヴィッド、作曲家:バート・バカラックという稀代の名コンビが生み出した楽曲。このふたりには他に映画『明日に向かって撃て』の主題歌「雨にぬれても」(アカデミー歌曲賞受賞)や、ミュージカル『プロミセス・プロミセス』(映画『アパートの鍵貸します』が原作)のナンバー「小さな願い」「もう恋なんてしない(I'll Never Fall in Love Again) 」等がある。あと僕は「アルフィー」(こちら)も大好き!

「小さな願い(I Say A Little Prayer) 」は映画『ベスト・フレンズ・ウェディング』における使い方が最高だった。視聴はこちら。何という幸福感!!!

バカラック作品の歌い手としてディオンヌ・ワーウィックが有名だが、"(They Long to Be) Close to You"に関しては、断然カーペンターズ盤の方が良い。唯一無二。特にアレンジが秀逸。Spotifyではこちら。「遙かなる影」などというケッタイな邦題もあるが意味不明、言語道断(out of question)である。

カレン・カーペンターは31歳の若さで摂食障害(拒食症)により亡くなった。病の背後には愛着障害があったと思わる。両親は熱心なプロテスタント教会メソジスト派の信者で、祖父は中国で宣教師をしていた。両親は兄リチャードの音楽の才能を信じ、それを伸ばすためにコネチカット州ニューヘーブン からハリウッドのある南カリフォルニアに移住している。しかしカレンの才能は過小評価していた。 サックスやフルートをやって挫折した彼女が、ドラマーになりたいと言ったときも「女のやることじゃない」と反対したそう。また彼らがカレンをハグしてくれたことは一度もなく、後年セラピーの過程で彼女が母親に「私のママになってよ!」と泣きながら懇願したという記録が残っている。ところが1966年にあるレコード会社はカレン(当時16歳)の天性の歌声に惚れ込み、リチャード抜きで彼女とだけ契約を結ぼうとした。しかしリチャードの才能しか信じていなかった母親はここでも反対し、娘の単独デビュー計画を潰しにかかった。

カレンは幼い頃、兄から太っちょ(chubby)と言われたことにも深く傷ついていた。若手実業家との結婚生活もうまく行かず僅か1年ほどで破綻した。また痩せるために大量の下剤や、甲状腺ホルモン剤を内服していた(愛着障害のある人は自分のことを愛せない。だから理想の自分でないとダメだと思い、完璧を求める。親が心の安全基地として機能しないから、生きるための拠り所を完璧な自分に求めるとも言える)。

*参考文献:岡田尊司(著)「死に至る病 あなたを蝕む愛着障害」光文社新書 

"Close to You"の歌詞はこうだ。

Why do birds suddenly appear
Every time you are near?
Just like me,
They long to be
Close to you.

どうして鳥たちは不意に現れるの?
あなたが近くにいるときはいつも
ちょうどわたしと同じね
彼らもあなたのそばに
いたいんだわ

Why do stars fall down from the sky
Every time you walk by?
Just like me,
They long to be
Close to you.

どうして星々は落ちてくるの?
あなたが通りかかるといつも
ちょうどわたしと同じね
彼らもあなたのそばに
いたいんだわ

On the day that you were born the angels got together
And decided to create a dream come true.
So, they sprinkled moon dust in your hair of gold
And star light in your eyes of blue.

あなたが生まれた日、天使たちが集まって
夢を叶えることを決めたの
そこで彼らは月の粉をあなたの金髪に降り注ぎ
あなたの青い瞳に星の輝きを注入した

That is why all the girls in town
Follow you all around.
Just like me,
They long to be
Close to you.

だから街の女の子たちみんなが
どこでもあなたに付いていくの
ちょうどわたしと同じね
彼女たちもあなたのそばに
いたいのよ

スティーヴ・マーティンが脚本を書き、主演したコメディ映画「愛しのロクサーヌ」(戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』を原案とする)では"Close to You"歌詞の一節が引用される。またファレリー兄弟が監督し、キャメロン・ディアスが主演した「メリーに首ったけ」でもカーペンターズの歌が流れ、爆笑シーンに仕上がっている。なお、ピーター・ファレリーが後に脚本・監督した「グリーンブック」はアカデミー作品賞・脚本賞を受賞した。

カレン・カーペンターの歌声は"Yesterday Once More"も忘れ難い(こちら)。そのノスタルジィーが日本人の琴線に触れるのだ。アニメ映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」でケンとチャコがリーダーを務める組織“イエスタディ・ワンスモア”が登場したのには腹を抱えて笑った。

"Unforgettable"(ナット・キング・コール)

芦原すなお原作、大林宣彦監督の映画『青春デンデケデケデケ』で高校生の主人公と一緒にバンドを組む、友人(浅野忠信)の姉(水島かおり)が次のように言う。

「なんちゅうてもええのんがナット・キング・コールで、特に "Lonely One" は聞いとって涙が出てくるし、"Nature Boy" は体がふわふわしてきて、知らんうちにどっか遠いところへ連れていかれそうな気になるわ」

もしたった一人だけ好きな歌手を挙げろと言われたら、僕は躊躇することなくナット・キング・コールと答えるだろう。それくらい彼の声に心底惚れ込んでいる。多分僕はバリトンの声域を心地よく感じる性癖を持っているのだろう。オペラ歌手だったらダントツでイタリアのピエロ・カプッチッリ。なかんずくヴェルディの『マクベス』と『シモン・ボッカネグラ』は最高だね!

声というのは天賦の才能(gifted)で唯一無二。例えばフランク・シナトラやカレン・カーペンターの歌声の代わりを、他の人が務めることなんて到底出来はしない。

だから正直、ナット・キング・コールが歌ってさえいれば「モナ・リザ」「スターダスト」「ネイチャー・ボーイ」「トゥー・ヤング」「スマイル」「L-O-V-E」「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン(私を月まで連れてって)」「ザ・クリスマス・ソング」……なんでも良い。彼の歌声は温かく、優しくそっと包み込んでくれるような抱擁力がある。えも言われぬ安心感を与えてくれるんだ。

彼が歌う"The Christmas Song"が使われた映画として、スティーヴン・スピルバーグ監督「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」やイルミネーション・エンターテイメントのアニメ映画『グリンチ』など枚挙に暇がないし、メグ・ライアンとトム・ハンクスが主演した『めぐり逢えたら』では"Stardust"が流れる。その中でどうして"Unforgettable"を選んだかというと、ナット・キング・コールという存在そのものがUnforgettable(忘れ難い)からだ。象徴的な一曲と言える。

娘ナタリー・コールとの時空を超えたデュエットを映像でどうぞ→こちら。グラミー賞の最優秀アルバム賞およびソング・オヴ・ザ・イヤーを受賞した。そちらの音源はこちら

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