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【考察】噴出する「テラスハウス」問題と、ネットで叩く者たちの心理学

22歳の女子プロレスラー・木村花さんが亡くなったことに関して、出演してた番組「テラスハウス」(ネットフリックス/フジテレビ)における彼女の言動を巡って、SNSに非難が書き込まれたことが原因ではないかと取り沙汰されている。

番組における彼女の役割はヒール(Heel)だったのではないだろうか?プロレス興行のギミック上、悪役として振舞うプロレスラーのことを指す。つまり観客(視聴者)を愉しませるための偽装だ。実際には仲がよいプロレスラーでも、リングの上では憎しみ合っているように振る舞う。あくまでも演技だ。ファンはそのことを承知の上で野次を飛ばし、悪役が繰り広げる反則技にブーイングし、試合会場は興奮の坩堝と化す。彼らは内面のモヤモヤ(ユング心理学では影 shadowと呼ばれる)を吐き出し、ヒールに投影し、叩くことによって日頃の鬱憤を晴らす。そこには暗黙の了解が成立している。プロレスはスポーツと言うよりもあくまで「興行」だから、試合結果がTVニュースで報道されることはない。もっと詳しく内部事情を知りたいのなら、ミッキー・ロークが主演し、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した「レスラー」(2008)をご覧になることをお勧めする。

バラエティ番組に登場する「おバカキャラ」も同じ構造である。知識が欠けているのも事実だろうが、クイズの答えが判っていても、わざと外して番組を盛り上げることも彼らの重要な役割だ。つまりキャラクターを際だたせるために話を「盛る」のだ。漫才のボケと一緒。実際に痴呆なわけではないし、大方の観客だってそのことは知っている。これも暗黙の了解だ。

しかしテレビの視聴者の中にはこの暗黙の了解が通じない人達が少なからずいる。リアル(現実)とフィクション(虚構)の見分けがつかない。彼らはテレビが嘘を付くはずがないと信じ込んでいる。「リアリティー番組」という呼び方や、「台本がない」を売り文句にしている点も誤解を生む原因だろう。

ある海外メディアは「リアリティーTV 」出演者のうち、過去に38人が自ら死を選んだと報じた。アメリカだけでも過去10年で21人が命を絶ったというデータもある。

嘗て山口百恵や小泉今日子といった昭和のアイドルは雲の上の存在だった。しかし21世紀に入り、AKB48など「会いに行けるアイドル」が登場し、手が届く対象になった。その他の芸能人も、SNSの普及に伴い身近な存在になった。ツイッターやインスタグラムにコメントを書き込めば(マネージャーや事務所の検閲なしに)直接本人が読んでくれたり、コメント返しをくれる可能性まで生まれた。しかし便利なコミュニケーション・ツール(accessibility)は諸刃の剣であり、リスクも増大した。芸能人が身体的、精神的に傷つけられる事象もしばしば報道されるようになったのだ。

【集団の形成】「地球上すべての生物は遺伝子(自己複製子)の乗り物に過ぎず、生物の様々な形質や、利他的な行為を含めた行動のすべては、自然選択による遺伝子中心の進化によって説明できる」とリチャード・ドーキンスは著書『利己的な遺伝子』の中で述べている。人は遺伝子を運ぶ舟である。我々の祖先が木から降りてサバンナで生活を始めたとき、集団生活を始めた。その方が種の保存のために好都合だからである。ライオンやジャッカルといった外敵から身を守ることが出来るし、仕事の役割分担することで食料の確保も容易になる。「人間は社会的動物である」と言われる所以だ。やはり外敵から身を守るために群れをなすイワシとか(希釈効果)、V字編隊になって飛ぶ雁の群れに似ている。

Iwashi

【安全欲求/制裁行動】集団の形成で人は安心して暮らせるようになった。家族や仲間を守ろうとするとき、脳の下垂体後葉からオキシトシンと呼ばれるホルモンが分泌され、安らぎに満ちた喜びが湧き起こる。これが愛着の仕組みである。しかし和を乱す者、逸脱する者が現れると安全欲求が脅かされ、邪魔になりそうな人に対して制裁行動 sanctionを起こす。「いじめ」や「自粛警察」「ネットリンチ」の根底にはこの構造が潜んでいる。「同調圧力」あるいは「出る杭は打たれる」とも言う。

【ルサンチマン】有名人に対するバッシングには、彼らの成功に対する嫉妬心も原動力となっている。フランス革命やロシア革命におけるプロレタリアート(労働者階級)の、ブルジョアジー(富裕層)に対する感情に似ている。攻撃する者たちは心理的な価値の転倒、一発逆転を狙っている。哲学者ニーチェが言うところのルサンチマンだ。あるインターネット評論家は誹謗中傷のコメントをするネット民の属性を、(1)20代、(2)ニート・フリーター、(3)独身、(4)童貞だと述べている(出典こちら)。要約すれば「収入が少なく、モテない、寂しいヲタク」ということになるだろう。

【正義中毒】いじめは快感に直結する。制裁行動 sanctionが発動すると、中枢神経に存在するドーパミンという神経伝達物質が放出され、喜びを感じる。承認欲求達成欲求が満たされ、いじめ/バッシングは過激化する。これを「過剰な制裁」という。ドーパミンは本来、困難な目的を達成したときに生じ、「報酬系」と呼ばれる。しかし麻薬・飲酒・賭博・いじめなどでも短絡的放出を引き起こし、快楽をもたらす。バッシングする人は「自分は正義を行っている」という実感(勘違い)があり、やめられない。「正義中毒」である。アルコール中毒や薬物中毒と同じ。ドーパミン分泌という「報酬」を、飽くことなく求め続けるのだ。児童虐待する親の心理もそう。彼らにとっての「正義」は「しつけ」と言い換えられる。2019年に千葉県野田市で小学校4年生(当時)の栗原心愛さんが自宅浴室で死亡した虐待事件で、父親である勇一郎被告は娘が号泣する動画を蒐集(collect)していた。それが彼にとっての「報酬」であった。

【高低差=社会的欲求】「自分は正義を行っている」という感覚は、アメコミのヒーロー(スーパーマン、バットマン)とか、大岡越前といったお奉行さまになったような気分に近い(仮想現実)。高みからお白州に畏まる悪党を見下す快感。それは米アカデミー作品賞・監督賞を受賞した韓国映画「パラサイト」に描かれたように、丘の上の高台に住む富裕層が、半地下に住む貧困層を睥睨する気分に等しい。上から目線ーその高低差により優越感に浸れ、社会的欲求が満たされる。たとえ幻想でしかないとしても。

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【人の心】アドルフ・ヒトラーとナチス・ドイツの悪夢。結局、地球上で一番恐ろしいのは津波とかウィルスではなく、人の心なのである。心がモンスターを生む。マリー・アントワネットをギロチンの刑に処し「共和国万歳!」と叫んだフランス市民の正義、ロマノフ家を全員銃殺したロシア労働者階級の血みどろの正義、日本の市民活動家の正義、そして韓国の元慰安婦支援団体である「正義連」……。もう、うんざりた。自らを「正義」とか「市民」と名乗る者を徹底的に疑え!

 

参考文献:① 河合隼雄(著)「影の現象学」講談社学術文庫
② リチャード・ドーキンス(著) 日高敏隆ほか(訳)「利己的な遺伝子」 紀伊國屋書店
③ 岡田尊司(著)「死に至る病 あなたを蝕む愛着障害」光文社新書 
④ 岡田尊司(著)「あなたの中の異常心理」幻冬舎新書
⑤ フリードリヒ・ニーチェ(著)中山元(訳)「道徳の系譜学」光文社古典新訳文庫
⑥A.H.マズロー(著)小口忠彦(訳)「人間性の心理学」産能大出版部

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