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2020年5月 2日 (土)

新型コロナウィルスにより、変わりゆく世界の中で

新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、安倍晋三首相が全国すべての小中高校に3月2日から臨時休校することを求めたのが2020年2月27日。この時点で各地コンサートホールでの演奏会や演劇の公演が次々と中止になった。

コンサートを開催できない状況が続く中、僕が生演奏を聴いたこともある(@びわ湖ホール)、ヴァイオリニストの成田達輝が次のようなツィートを投稿した。

ここには記事〈新型コロナウィルスと”浮草稼業"〉に書いた、落語家・桂米團治(先代)が弟子の米朝に諭した言葉 ー好きな芸をやって生きているのだから、末路哀れになっても仕方がないー という覚悟・諦念がある。実に立派だと思う。たかだか劇場が1,2ヶ月閉鎖されただけで「演劇の死」などと大げさなことをほざく野田秀樹には彼の爪の垢を煎じて飲んでもらいたい。

ベルリン・フィル第1コンサートマスターを務める樫本大進はNHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」緊急企画(4月28日放送)の中でこう述べた。

コロナになる前は、音楽なしでは生きていけないと思っていました。本当に。社会的にも、僕自身だけじゃなく、音楽なしでは地球が回らなくなると思っていました。それを信じていましたから。でもそうではないんだなって、この1ヶ月ですごく分かって。自分でもそうじゃないんだなって、それよりもっと大事なものがいくらでもあるんだと。自分の健康から、家族の健康から、周りの人たちの健康から。ここまで自分の存在が使えないもの、必要ないもの、存在がないって感じたのは今回が初めてですし、3月の終わりの方ぐらいにすごく悩んだことでもありますし、「この仕事でいいのかな」とか反対に思っちゃいますし。

しかし一方で、自宅待機の生活が長く続く間にこういう感情も芽生えたという。

自分が弾きたくなったという気持ちがあって。今まで常に弾いているから、練習しなきゃではなく、コンサートしなきゃではなく、本当にただ自分のために弾きたいなっていう気持ちは、そこまで今まで味わったことがなかったので。僕でも必要と思っているということは、もっと必要と思ってくれている人がいっぱい外にはいるんだと考え始めました。(中略)文化を必要としているのは社会だと思う。心を失ったら社会は死んでしまうので、その心を生き残らせるために上からのサポートが必要というのは、ひとりひとりが叫ばなきゃだめだと思います。本当は今一番音楽っていうのが必要なものだと僕は思っています。一番生活に必要なくて、一番生活に必要なものだと、僕は信じています。

そして最後に視聴者へのメッセージ。

コロナっていう手ごわい相手に全員で戦っている状況です。みんなが闘っているということは、全世界がひとつになれるチャンスだと。気持ちを、みんなでひとつになれるような状況を作って、コロナを倒したあともっともっとすごい世界になれるように頑張りたいと思います。

精神科医・医学博士である高橋和巳が著書「人は変われる」(ちくま文庫)で書いたように、新型コロナ禍という絶望を経験することで自分を客観視できるようになり、現実をあきらめることで「新しい解釈」が生まれ、古い自分を乗り越えて新しい行動を取り始める姿がここに写し出されている(記事〈新型コロナウィルスという災厄の中から生まれるもの〉を参照されたし)。

日本では「自粛疲れ」が蔓延し、ウィルスに対する不安や恐怖心に押し潰され、世界中のサッカー選手にうつ病が急増したり、パニック/ヒステリー状態に陥った人々も少なくない。なんだか世間全体がピリピリしている。

  • 2月18日、福岡市の地下鉄でマスクを着用せずにせきをしていた乗客がいたことを理由に隣の乗客と口論となり、非常通報ボタンが押され列車が停止した。
  • 2月25日、横浜市のドラッグストア「マツモトキヨシ」に開店前からマスク買うために並んでいた列に割り込みがあり、殴り合いの喧嘩になった(その動画がマスコミで報道された)。
  • 大阪府警に「飲食店でくしゃみをしたことが発端でもめた」などの通報が相次いでいる。(4月26日サンケイスポーツより)
  • 4月28日、ブラジルのスーパーで男性客が店員にマスクをしていないことをとがめられて激高。店員を殴り倒した。止めに入った警備員にも殴り掛かり、警備員が拳銃を発砲、居合わせた女性店員の首に弾が命中し死亡した(この日州法で、公の場でのマスク着用が義務付けられた)。

しかし、悪いことばかりではない。

  • インド北部のパンジャブ州では新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)で全土の大気汚染が大幅に改善し、200キロ近く離れたヒマラヤ山脈が数十年ぶりに見晴らせるようになった。
  • 国際エネルギー機関(IEA、本部パリ)は4月30日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、2020年のエネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出量が前年比約8%減少するとの見通しを公表した。米スタンフォード大学のロブ・ジャクソン教授は、この50年間でこれだけの効果を上げた危機は他にはなかったと語った。もしかしたら、地球温暖化の速度が緩むかも知れない。
  • 日本で各種学校の休校が長期化する中、 全国知事会でこの際9月入学に移行するべきだという意見が多く出された。僕は従来どおり、桜が咲く4月入学の方が情緒的には相応しいと考えるが、世界的標準に合わせた9月入学だと海外留学がしやすくなるなどメリットも見過ごせず、新型コロナ禍なくしてこういった議論も有り得なかったわけで、大変有意義なことだと思う。
  • 今回の騒動がきっかけで、オンライン授業やテレワークなどシステム環境の整備が一気に加速した。この経験は業務や学業が通常通り再開された後も、決して無駄にはならないだろう。

5月1日、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は当初イスラエルの都市テル・アヴィヴで予定されていたヨーロッパ・コンサートを新型コロナウィルスの蔓延により断念し、急遽会場を本拠地フィルハーモニーに移して無観客で実施、全世界に無料中継された。指揮はキリル・ペトレンコ、樫本大進がコンサートマスターを務めた。僕はリアルタイムで鑑賞。前半はアルヴォ・ペルト「フラストレス」、サミュエル・バーバー「弦楽のためのアダージョ」など弦楽合奏曲で、15人の奏者が間隔を2mくらい取り、十分なSocial Distance(社会的距離)を保って演奏した。真摯な祈りの気持ちがこもった、大変美しく感動的なパフォーマンスだった。プログラム後半、マーラーの交響曲第4番はエルヴィン・シュタインによる室内オーケストラ版。なんと独唱者(クリスティアーネ・カルク)を除いてたった14人!第1/第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスが1名ずつ、金管なし、木管がオーボエ、フルート、クラリネット各1名、そしてピアノ2名、ハルモニウム、打楽器という編成。〈音楽の力〉の凄みを、まざまざと見せつけられた!ただただ脱帽である。

コロナ禍の影響で倒産するホテル・飲食業・スポーツジム・ライブハウス・ミニシアター(映画館)は少なからずあるだろう。東京や大阪のオーケストラ、劇団で存続が困難になることろも出てくるだろう。仕方がない、あきらめるしかない。しかし、全部潰れるわけではない。気の毒だけれど、僕はダーウィンの進化論が言うところの「自然選択/自然淘汰」だと思う(ウィルス=自然)。優れたものだけが生き残るのだ。ミニシアターがなくなろうが、動画配信サービスがその代わりを担ってくれるだろう。4つある在阪オーケストラは統合して数を減らせば良い。その方が質も向上する。これが「新しい解釈」だ。

僕たちは今、世界恐慌や第二次世界大戦、あるいは「黒死病」と呼ばれるペスト(エボラ出血熱、マールブルグ病などウイルス性出血熱という説もあり)が大流行した中世ヨーロッパに匹敵する大きな困難に直面している。出口はなかなか見えてこない。しかし物事には暗い側面と、明るい側面がある。ピンチはチャンスだ。映画「風の谷のナウシカ」のラストシーンで描かれたように、絶望の中からも必ず希望の芽は生えてくる。僕はこの先、どんな新しい世界が広がっていくのか、とても胸を躍らせている。だから、(世界が生まれ変わる)その日が来るまでおとなしく"Stay Home"を守り、なんとか生き延びようではないか!

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