高校生の間に一度は絶対観ておけ、この映画!/ジャンル別ベスト
高校生の三年間でこれだけは是非観ておいてほしい、君たちにとってこれからの人生が変わるかもしれないという映画を厳選した。
【青春映画】
- ふたり
- 廃市
- 青春デンデケデケデケ
- 幕が上がる
- ヒポクラテスたち
- 太陽の少年
- 冒険者たち
- ブレックファスト・クラブ
- ヤング・ゼネレーション
- スウィングガールズ
いつも青春は時をかけるー大林宣彦監督「時をかける少女」のキャッチコピーである。
赤川次郎原作「ふたり」は事故死してしまったしっかり者の姉と、姉に頼ってばかりいた妹との、奇妙な共同生活を描いている。表面上は幽霊譚になっているけれど、一人の少女の意識(自我)と無意識(自己)という二面性および、その融合(自己実現)の物語であるとも言える。それを象徴するのがラストシーン。まず丘を登ってくる妹・美加(石田ひかり)をカメラが正面から捉える。次のショットで歩き去ってゆく後ろ姿を捉えるのだが、よくよく観るとそれは姉・千津子(中嶋朋子)なのだ。ふたりでひとり。実は、僕も初めてこの作品に出会ってから10年間くらい全く気が付かなかった。その間、繰り返し観ていたのに。このシーンで流れ出すのが大林宣彦作詞、久石譲作曲の主題歌「草の想い」。名曲中の名曲である。大林監督と久石さん本人が歌う。
僕にとって我が生涯ベスト・ワンである大林宣彦監督「はるか、ノスタルジィ」も似たような構造を持っている。東京で小説家になった中年の主人公・綾瀬慎介(ペンネーム)は数十年ぶりに故郷・小樽を訪ねる。そこでバンカラ姿の学生・佐藤弘に出会う。それは青年時代の慎介そのものだった(佐藤弘は本名)。これはユング心理学でいうところの無意識に存在する子供元型(The Child Archetype)に遭遇する物語であり、最後に自我(意識)と元型(無意識)は融合され、自己実現に至る。どんなに年令を重ねても、人は変われるのだ。
僕が映画「廃市」と出会ったのは18歳だった。それから原作者・福永武彦の文学にのめり込み、20代の時に全小説を読破した。大林監督がライフワークとしていた福永の小説「草の花」映画化が実現しなかったことが無念で仕方ない。
「幕が上がる」は全国高等学校演劇大会という特殊な世界が描かれている。火傷するくらい熱いぞ!
京都府立医科大学を卒業した大森一樹監督「ヒポクラテスたち」は医学生たちの群像劇。僕は高校生の時にこれを観て、「医学部って面白そう」と興味を持ち、進学を決めた。そして現在は医学博士である。やはり医師免許を持つ手塚治虫が映画で小児科教授を演じ(学生のひとりが手塚漫画「ブラック・ジャック」を読んでいたりもする)、怪盗役で映画監督の鈴木清順が登場する。
「太陽の少年」は中国映画の傑作。岩井俊二監督「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」に通じるものがある。
「冒険者たち」はフランスのフィルム・ノワール。でも暗黒ではなくロマンティック。なんと言っても口笛で奏でられる〈レティシアのテーマ〉!→こちら!
ジョン・ヒューズ監督「ブレックファスト・クラブ」は恐らく世界で初めてスクール・カーストを描いた映画だと思う。画期的なディスカッションが展開され、ワクワクする。併せて「フェリスはある朝突然に」もどうぞ。映画「デッドプール」の元ネタだ。
「ヤング・ゼネレーション」はアカデミー脚本賞受賞。自転車レースに青春を賭ける若者たちを描く。心に翼を持て。
【恋愛映画】
- ラ・ラ・ランド
- 太陽がいっぱい
- Love Letter(岩井俊二監督)
- ボヴァリー夫人(ヴィンセント・ミネリ監督)
- ライアンの娘
- ある日どこかで
- フォロー・ミー
- いつも2人で
- ピアノ・レッスン
- めまい
「ラ・ラ・ランド」については以下の記事をご参照あれ。
- ジャック・ドゥミ「港町三部作」から聖林ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」へ
- 夢と狂気のミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」
- (増補改訂版)「ラ・ラ・ランド」がオマージュを捧げた過去のミュージカル映画たち
- 「ラ・ラ・ランド」を観る前に是非予習しておきたい映画たち(優先順位付き)
- 100パーセントのミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」@IMAX!!
- 【考察】「ラ・ラ・ランド」〜セブとミアが見た夢は、何時から始まったのか?
「太陽がいっぱい」はアラン・ドロンが主演した1960年のフランス映画。パトリシア・ハイスミス原作でミステリとしても大傑作なのだが、ゲイ映画という観点で見直すと全く別の物語が浮かび上がってくるという驚くべき仕掛けが施されている。その構造を世界で最初に見抜いたのがテレビ「日曜洋画劇場」の解説を長年勤め、「サヨナラ」おじさんと呼ばれた映画評論家・淀川長治氏で、彼もゲイだった。パトリシア・ハイスミスも同性愛者で偽名を使って「キャロル」を書き、そちらも映画化された。
アラン・ドロンはロミー・シュナイダーと同棲・婚約したり、ナタリー・ドロンと結婚・離婚するなど華麗な女性遍歴があるので多分ストレート(ノン気)なのだろう。しかしバイセクシャルだったイタリアのルキノ・ヴィスコンティ監督から愛され、その切実な想いは「若者のすべて」や「山猫」といった芸術映画に昇華された。ヴィスコンティがアラン・ドロンとロミー・シュナイダー主演で計画していたマルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」の映画化が頓挫したことは大変惜しまれる。そして、小説「失われた時を求めて」は岩井俊二の映画「Love Letter」で極めて重要な役割を果たす。映画は繋がっている。「Love Letter」の25年後に撮られた姉妹編「ラストレター」も併せてどうぞ。
ヴィンセント・ミネリの「ボヴァリー夫人」については下記事をお読み頂きたい。狂気が疾走する。
そしてデイヴィッド・リーン監督の名作「ライアンの娘」は「ボヴァリー夫人」を下敷きにしている。
「ある日どこかで」については、
「フォロー・ミー」については、
「いつも2人で」の監督は「雨に唄えば」「シャレード」のスタンリー・ドーネン。キネマ旬報社から発行された「私の一本の映画」という本があり、そこに村上春樹がエッセイを書いたのが本作。彼が高校生の時、当時のガールフレンドと神戸の映画館でこれを観たそうだ。主演はオードリー・ヘップバーンとアルバート・フィニー(「オリエント急行殺人事件」のポアロ役)。中年夫婦の危機を描くが、ふたりの12年間を5つの時間軸が交差する形で描く凝った構成になっている。何より僕は"Two for the Road"という原題が好き!味がある。
ホリー・ハンターがアカデミー主演女優賞を受賞し、カンヌ国際映画賞では最高賞のパルム・ドールに輝いたフランス、ニュージーランド、
「めまい」はアルフレッド・ヒッチコック監督の最高傑作。過去の女の記憶に囚われて目の前の女を愛すことが出来ず、自分の持つ理想像(ユング心理学におけるアニマ・アニムス)を投影してそれに女を近づけようと画策する男の異常心理を描いている。これは大林宣彦監督「時をかける少女」冒頭に掲げられるテロップと、密接な関係がある。
ひとが、現実よりも、
理想の愛を知ったとき、
それは、ひとにとって、
幸福なのだろうか?
不幸なのだろうか?
【深く人生を考える/哲学的映画】
- メッセージ
- 桐島、部活やめるってよ
- タクシー・ドライバー
- ブレードランナー
- 山の音
- 市民ケーン
- イヴの総て
- サンセット大通り
- カビリアの夜
- ベニスに死す
- ピクニック at ハンギング・ロック
- いまを生きる
- 生きる(黒澤明監督)
- ミツバチのささやき/エル・スール
- ギルバート・グレイプ
- フィールド・オブ・ドリームス
SF映画「メッセージ」は時間とは何か?を深く考えさせてくれる。そして思考はその人が学んだ言語と密接に結びついているという説が非常に興味深かった。これを〈サピア=ウォーフの仮説(言語相対性仮説)〉という。あと〈非ゼロ和 non zero sum〉!
「桐島、部活やめるってよ」はキネマ旬報ベストテンで第2位、ヨコハマ映画祭では作品賞・監督賞など4冠を獲得した。高校生ではちょっと難しいかも知れない。ある意味フェデリコ・フェリーニ監督「甘い生活」に似たところがある。正直僕も高校生の時に「甘い生活」に歯が立たなかったからね。真の傑作だと漸く理解出来たのは40歳くらい。まぁ挑戦してみて。時には背伸びしてみることも必要、当たって砕けろ!だ。
「タクシー・ドライバー」はベトナム帰りの元兵士が主人公なので、社会派ジャンルとも言える。
「ブレードランナー」(1982)は近未来都市のヴィジュアル造形が秀逸。ただ映画の設定は2019年11月なので、既に現実が追い越しているのだけれど。本作には、レプリカント(人造人間/人工知能)は人の心を持てるのか?という問いがある。主人公デッカードが人なのか、レプリカントなのか?ということもしっかり考えてみてください。「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーブ監督が撮った続編「ブレードランナー 2049」も傑作。
川端康成原作「山の音」は鎌倉を舞台に初老の男(山村聡)が息子の嫁(原節子)に対して抱く、淡い恋心を繊細に描いている。死への恐怖、そして色恋沙汰に進展するかどうかの境界で揺れ動く心理描写が絶妙。大人の世界を垣間見よう。
「市民ケーン」といえば〈バラのつぼみ Rosebud〉。これは隠れキリシタンをテーマとする遠藤周作原作、マーティン・スコセッシ監督「沈黙 -サイレンス-」のラストシーンにも引用されている。
アカデミー作品賞・監督賞・脚本賞などを受賞した「イヴの総て」は食うか食われるかという、芸能界における生存競争の苛烈さを、鮮やかに描いている。これを下敷きにしたのがポール・バーホーベン監督「ショーガール」で、こちらの方は最低の映画を選ぶラジー(ゴールデン・ラズベリー)賞で7部門を制覇した。
ビリー・ワイルダー監督「サンセット大通り」は後世の映画に多大な影響を与えた。例えばロバート・アルドリッチ監督「何がジェーンに起ったか?」とか、デヴィッド・リンチ監督「マルホランド・ドライブ」は、完全に「サンセット大通り」のヴァリエーションである(そもそもマルホランド・ドライブとサンセット・ブルーバードはどちらもロサンゼルスを走る道路の名称)。また死者が語り始めるという手法はサム・メンデス監督「アメリカン・ビューティ」(アカデミー作品賞・監督賞受賞)に引き継がれた。
「ベニスに死す」については、次のようなことを書いた。
「ピクニック at ハンギング・ロック」については下記。
「いまを生きる」はこちら。
黒澤明「生きる」は進行がん患者への病名告知やquality of lifeの問題をテーマとしている。
「ミツバチのささやき/エル・スール」については、
「ギルバート・グレイプ」は当時未だ10代だったレオナルド・デカプリオの演技に注目!時には束縛にもなる家族から解き放たれて、主人公(ジョニー・デップ)が旅立つ物語。
「フィールド・オブ・ドリームス」に登場する作家テレンス・マン(ダース・ベイダーの声で有名なジェームズ・アール・ジョーンズが演じる)は原作小説で「ライ麦畑でつかまえて」のサリンジャーであることは重要。だから映画「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」と併せて観ると、より理解が深まるだろう。
【歴史を知る映画】
- 大いなる西部
- 死刑執行人もまた死す
- 大いなる幻影
- 灰とダイヤモンド
- 無防備都市
- 第三の男
- アンネの日記
- アラビアのロレンス
- ドクトル・ジバゴ
- 僕の村は戦場だった
- ひとりぼっちの青春
- さらばわが愛/覇王別姫
- 善き人のためのソナタ
イタリア映画「無防備都市」はネオレアリズモの代表選手。大きな歴史のうねりとしてネオレアリズモ(イタリア)の精神は→ヌーヴェル・ヴァーグ(フランス)→アメリカン・ニューシネマと伝播した。共通する志は〈既成の価値観・体制の破壊〉である。ハリウッドで「無防備都市」を観て感激したイングリッド・バーグマンは直ちにロベルト・ロッセリーニ監督にファン・レターを書き、夫や娘を捨ててローマに旅立った。一大スキャンダルになったことは言うまでもない。イングリッドとロベルトの間に生まれたのがイザベラ・ロッセリーニで、長じて女優となり「ブルーベルベット」や「フィアレス」などに出演した。イングリットも〈既成の価値観の破壊者〉であった。
「第三の男」は第二次世界大戦後、敗戦国オーストリア(首都:ウィーン)が勝者である連合国ーアメリカ、ソ連、イギリス、フランスの4国によって分割統治されていた時代のお話。白黒映像美の極致。
「アンネの日記」は1959年にジョージ・スティーヴンスが監督・製作したもの。アンネを演じたミリー・パーキンスが素晴らしい!1995年に日本が製作したアニメーション版もあるが、こちらはイマイチ。但し、マイケル・ナイマンによる音楽は◯。
「ひとりぼっちの青春」の原題は"They Shoot Horses, Don't They?"つまり「彼らは廃馬を撃つ」。1932年、大恐慌時代の悲惨を描くアメリカン・ニューシネマの傑作。ここでアメリカン・ニューシネマについて説明しておこう。1960年代後半から1970年代前半までのムーブメントで、ベトナム戦争に対する反戦運動や、ヒッピー文化と連動している。反抗的な若者が体制に敢然と闘いを挑むのだが、最後は大人・社会に圧殺されるなど、悲劇的な結末で幕を閉じる。基本的に挫折する物語だ。「俺たちに明日はない」「明日に向って撃て!」「イージー・ライダー」が代表格。
カンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いた「さらばわが愛/覇王別姫」が描くのは中国・文化大革命の悪夢。コン・リーとレスリー・チャン最高。また、僕たちが知らない京劇の世界を垣間見ることができる。
ドイツ映画「善き人のためのソナタ」はアカデミー外国語映画賞を受賞。冷戦時代の東ドイツが舞台で、監視社会の実像に迫る。
【コメディ/ブラック・ユーモア】
- 雨に唄えば
- プロデューサーズ
- 博士の異常な愛情
- まぼろしの市街戦
- チャップリンの独裁者
- 恋はデジャ・ブ
- 生きるべきか死ぬべきか
フランス映画「まぼろしの市街戦」(1966)は第一次世界大戦末期、フランスの田舎町が舞台。人々が町から逃亡し、取り残された精神病院の患者たちと、町を取り巻く軍隊の人間と、どちらが〈狂気〉でどちらが〈正気〉なのかという問いが本作にはある。
「恋はデジャ・ブ」(1993)の原題はGroundhog Day。Groundhogはウッドチャックを意味し、2月2日に開催される春の訪れを予想する占い行事のこと。 ある一日をエンドレスに繰り返す男の話である。ビル・マーレイがすっとぼけた、いい味を出している。同じネタで押井守監督「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(1984)という先達があり、こちらも傑作。さらに派生作品として京アニ「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンドレスエイト(第12-19話)や、「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ【新編】叛逆の物語」がある。こうしたループものとして、ケン・グリムウッドのSF小説「リプレイ」が有名だが、1987年の出版であり、やはり「ビューティフル・ドリーマー」が元祖と言えるだろう。
【社会を知る映画】
- 真昼の暗黒
- 橋のない川
- バトル・ロワイアル
- ブラッド・ダイヤモンド
- シティ・オブ・ゴッド
- 風の丘を越えて/西便制
- トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
- 殺人の追憶
- パラサイト 半地下の家族
「真昼の暗黒」(1956)は冤罪事件を扱う。橋本忍のシナリオが秀逸。
部落差別を扱う「橋のない川」は1969-70年の今井正監督版(第一部・第二部)と、1992年東陽一監督版がある。どちらも見応えあり。
「バトル・ロワイアル」(2000)は劇薬だ。中学生どうしが国家命令により殺し合いをするという衝撃的な内容で、R-15指定のため中学生は劇場で観ることが出来なかった。公開当時、この映画に対する政府の見解を求める質疑が国会で行われるなど物議を醸した。そもそも高見広春が書いた原作自体、日本ホラー小説大賞の最終候補まで残るが、選考委員から猛烈な非難を浴び落選した。その後高見は一切作品を発表していない。深作欣二監督は太平洋戦争中、学徒動員に駆り出されたときの「国家への不信」「大人への憎しみ」といった自分の想いを本作に託した。
レオナルド・ディカプリオ主演「ブラッド・ダイヤモンド」を観れば、アフリカは地獄だ、と思い知るだろう。
「シティ・オブ・ゴッド」はブラジルに住むストリートチルドレンたちの抗争を描く。
韓国映画「風の丘を越えて/西便制」では朝鮮文化における恨(ハン)という感情について学ぼう。
「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」は赤狩りの勉強として。本作の後でダルトン・トランボがシナリオを書いた「ローマの休日」や「パピヨン」(1973年版)を鑑賞しよう。隠された寓意が見えてくる。
アカデミー作品賞・監督賞・国際長編映画賞を受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が光を当てるのは格差社会である。
【アニメーション映画】
「秒速5センチメートル」については以下を参照されたし。
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