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2020年3月18日 (水)

あなたは共感出来ますか?〜映画「名もなき生涯」

評価:A-

Ahiddenlife

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第二次世界大戦時にヒトラーへの忠誠宣誓を拒否したオーストリアの農夫フランツ・イェーガーシュテッターの物語。いわゆる「良心的兵役拒否者」だ。巨匠テレンス・マリック監督にとって、初の実話となる。

「ツリー・オブ・ライフ」(2011)以降、マリックの脚本はまるで詩のようだ。そこがマリック節に慣れていない、一般客にとって敷居が高くなっている原因でもある。本作も会話というよりは夫婦の往復書簡が中心になっている。

自然光で撮られた映像が極めて美しい。優れた作品であることは間違いない。しかし、僕は次の一点でどうしても引っ掛かった。

大義もないのに戦場で人を殺したくない。その気持は良く理解出来る。しかし兵役を拒むことで家族にも害が及ぶ。それは果たして〈正しい〉ことなのか?

主人公のみならず妻や子供も投獄されるリスクはあった(実際にはそんなことにならなかったが)。相手はナチス・ドイツだ。何をするかわからない。

フランツがオーストリア人(アーリア人種)というだけで幸運だった。弁護士が付き、裁判も行われた。ちゃんと人間として扱われたのだ。ユダヤ人だったら有無を言わさず一家全員、絶滅収容所送りだったろう。さらに主人公には「兵役に就かず、病院で働く」という選択肢まで与えられた。至れり尽くせりである。しかし彼はヒトラーに忠誠を誓うという一文の書かれた書類にサインすることを拒む。頑固にも程がある。「こんな紙切れ一枚、形だけのものじゃないか」と弁護士は彼を説得しようとするが失敗に終わる。

はっきり言ってアホである。人間には本音と建前というものがある。それを使い分けるのが大人の態度だろう。「嘘も方便」という諺もある。バカ正直を貫くよりも、周りの人・家族を守ることこそ、優先すべきだろう。僕は決してフランツに共感出来ない。こんなの美談じゃない。

シェイクスピア(作)「リア王」の主人公は年老いたため、領地を分配しようと、三人の娘に自分をどれくらい愛しているかを尋ねる。長女と次女は歯の浮くような綺麗ごとを並び立てるが、末娘のコーデリアは何も言うことはないと答えたため、リア王は激怒して彼女に何も与えず、その場で親子の縁を切ってしまう。

精神科医・岡田尊司は著書「あなたの中の異常心理」(幻冬舎新書)の中で、「リア王」について次のように書いている。

 ある意味、コーデリアもリア王も、人間の二面性を理解し、上手に扱うことに失敗しているという点では似ていると言える。(中略)
 どちらも気性が真っ直ぐで、誠実だが、その一方で強情で、我の強い面をもち、一面的な見方にとらわれてしまいやすいのである。物事には、相反する側面があるということを受け入れることができず、どちらか一方の見方に立つと、自分の立ち位置でしか物事が考えられない。(中略)
 コーデリアにしても、自分では自分の気持に誠実に振る舞っているつもりになっているが、それによって、リア王の気持ちに何が起こり、結果的に双方にとって不幸を招くということが見えていない。つまり、この一瞬の意地を貫くことが、双方にとっての長期的な利益や幸福を守ることよりも優先されてしまうのである。
 真っ正直でウソがつけず、誠実な性格というものは、その意味で面倒を引き起こしやすい一面をもつと言えるだろう。それは、心に二面性を抱えられないという内面構造の単純さに由来する問題であり、語弊を恐れずに言えば、ある種の未熟さを示していると考えられる。

フランツについても全く同じことが言える。

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