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2020年1月17日 (金)

「武満徹を探す三日間の旅@フェニーチェ堺」体験記

2019年12月27日〜29日、フェニーチェ堺で「武満徹のミニフェスティバル3日間」を体験した。

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オーケストラ作品を含め、意外と関西では武満徹(1930-96)の音楽を聴く機会が少ない。それは武満が東京の人だからである。関西出身の作曲家なら、例えば大栗裕や大澤壽人、貴志康一、西村朗の音楽は、たとえ採算が取れなかろうと(客を呼べなくても)大阪のオーケストラは(自分たちの使命として)頑張ってプログラムに入れるのだが、黛敏郎や三善晃、矢代秋雄らは完全無視である。知らん顔。

しかし、生前の武満と親しかった尾高忠明が大阪フィルハーモニー交響楽団のシェフに就任してから次第に状況が変わりつつある。僕がどうしても聴きたい武満の管弦楽曲は「ノヴェンバー・ステップス」「夢の時 Dreamtime」「ウォーター・ドリーミング」そして「系図 Family Tree ー若い人たちのための音楽詩ー」なんだよね〜。あ、「系図」の語り(詩の朗読)は作曲家の指示通り10代の女の子でお願いします(故・岩城宏之は吉行和子を起用した)。大フィルさんよろしく〜。

オーケストラですらそんな有様だから、まして武満の室内楽・器楽曲が関西で演奏されるのは皆無に等しい。だから今回のフェスはとてもありがたかった!

DAY1:杉山洋一(作曲家・指揮者)プロデュース「室内楽名品選」

  • ヴァレリア(ピッコロ2、エレクトリック・オルガン、ギター、Vn、Vc)
  • サクリファイス(フルート、リュート、ヴィブラフォン)
  • 遮られない休息 I,II,III(ピアノ)
  • ユーカリプス II(フルート、オーボエ、ハープ)
  • 環(リング)(フルート、リュート、テルツギター)
  • 悲歌(ヴァイオリン、ピアノ)
  • スタンザ I(ソプラノ、ヴィブラフォン、ギター、ハープ、ピアノ&チェレスタ)

演奏は荒井英治(ヴァイオリン)、吉野直子(ハープ)、黒田亜樹(ピアノ)、近藤孝憲(フルート)、山田岳(ギター)、高本一郎(リュート)、海野幹雄(チェロ)、松井亜希(ソプラノ)ほか。

杉山洋一自身レコードでは聴いたことがあったけれど、実演に接するのは今回初めてという曲が幾つかあるそう。「初期作品には書き方がいい加減なものもあります」と。

「サクリファイス(生贄)」はフルートの吹き方がまるで尺八みたいで、風に穂をなびかせるススキヶ原の光景が目に浮かんだ。

「ユーカリプス II」はフルートのフラッター(Flutter-tonguing)やオーボエの重音奏法など特殊技法のオン・パレード。しっかりゲンダイオンガクしている。でも聴いていて不快じゃない。

「環(リング)」は奏者が手にはめた指輪を叩いたり、フルートのカバードキーを(息を吹かずに)叩いたりと面白かった。

「悲歌」は元々、大島渚監督の映画「儀式」のために書かれたもので、原曲はヴァイオリン独奏と弦楽合奏という編成。

トークの中で荒井は世界のオーケストラから選りすぐったトップ・プレイヤーで構成されたスーパーワールド・チェンバーオーケストラと共演し、武満の「ノスタルジア」を弾いた時を回想し、「ゴッホの油絵みたいに脂ぎった演奏で、濃いめでアルバン・ベルク〈抒情組曲〉のような感じだった」と。日本のオーケストラが奏でる武満とは感触が違ったそう。

1969年に発表された「スタンザ I」は翌年の大阪万博で鉄鋼館ースペース・シアターのために書かれたオーケストラ曲「クロシング」の原型となった。これもそうだが、武満の作品にはしばしば途中で沈黙が訪れる。僕は行間に語らせる音楽だと思った。

DAY2:小味渕彦之(音楽評論家)プロデュース/西岡茂樹指揮による「ソング名品選」

  • 混声合唱のための「うた」から
    小さな空/小さな部屋で/恋のかくれんぼ/うたうだけ
  • 混声合唱のための「風の馬」
  • 独唱
    小さな空/三月のうた/燃える秋/うたうだけ/明日ハ晴レカナ、曇リカナ
  • 混声合唱のための「うた」から
    翼/島へ/◯と△の歌/死んだ男の残したものは/さようなら/さくら

独唱は高山景子、林隆史、益田早織、川野貴之、西尾岳史、そして特別編成合唱団が歌った。ピアノ伴奏は岡本佐紀子。

そもそも武満が作曲家を志すきっかけとなったのが、終戦間近14歳の時に勤労動員先で見習士官からこっそりレコードを聴かせてもらったシャンソン「聞かせてよ愛の言葉を」(戦争中は敵性音楽だから禁止されていた) 。ジャン・ルノアールが1923年に作詞・作曲し、リュシエンヌ・ボワイエが歌った

「小さな空」は心に染み入るノスタルジィがある。合唱版も独唱もそれぞれ味わい深い。「小さな部屋で」は寂しくて、温かい。

独唱用の楽譜で、武満自身が手がけたピアノ譜があるのは「うたうだけ」と「燃える秋」のみ。「うたうだけ」はとってもJazzyで、映画主題歌「燃える秋」はしっとり。なお武満は生涯に約100本の映画音楽を書いている。

「さようなら」はラジオ番組『私の歌』のために書かれた24歳の作品。

〈うた〉の魅力を堪能した。

DAY3:武満真樹プロデュース「武満徹の友人たちトーク&ライブ」

武満徹の娘・真樹が司会を務め、荘村清志(ギター)、coba(アコーディオン)が演奏。

  • フォリス(ギター独奏)
  • 「ギターのための12の歌」から
    オーバー・ザ・レインボウ/失われた恋/ロンドンデリーの歌
  • 森のなかで(遺作/ギター独奏)
  • 「ギターのための12の歌」から
    早春賦/シークレット・ラブ/ミッシェル
  • 映画「他人の顔」からワルツ(アコーディオン独奏)
  • 死んだ男の残したものは/翼(ギター&アコーディオン)

アンコールは、

  • トオルさんへのトリビュート(coba)
    小さな空+リベルタンゴ(by ピアソラ)etc.
  • 映画「ヒロシマという名の少年」(荘村清志)

生前武満は「演奏者の顔が見えないと、曲が書けない」と語っていたという。

遺作「森のなかで」は浅間山の裾野にある長野県・御代田町の別荘で作曲された。

「ギターのための12の歌」は珠玉の美しさ。

cobaの奏でる「他人の顔」ワルツは先鋭的かつ劇的。

ある日cobaに(それまで面識がなかった)武満から直接電話が掛かってきて、1993年に武満がプロデュースする八ヶ岳高原音楽祭にギターの渡辺香津美らと出演することになった。そして武満が膀胱がんと闘っていた95年9月、ビョークのワールド・ツアーに参加していたcobaはこれが最後になるかも知れないと、イタリア公演だけ抜けさせてもらって八ヶ岳高原音楽祭に駆けつけた(武満は96年2月に亡くなった)。

武満家では朝食時に食卓で父親がDJよろしくいろいろ選曲してCDを掛けていた。しかし娘から「朝っぱらからわけのわからない現代音楽は嫌よ」と釘を差されていたという。そしてある日のこと「これならいいだろう」とcobaが小林靖宏を名乗っていた頃のアルバム「風のナヴィガトーレ」から〈プシュケ〉を掛けた。ここで会場でもcobaが〈プシュケ〉全曲を弾いた。朝の風がよく似合う、爽やかな楽曲だった。

荘村は武満とよく、新宿三丁目のゴールデン街に飲みに行った。行きつけのバーには大体ギターが置いてあり、武満のリクエストでバリオス作曲「郷愁のショーロ 」を弾いた(会場でも演奏)。バーに井上陽水が居合わせてビートルズを歌ったりもした。武満は荘村の伴奏でビートルズの「ハニー・パイ」を歌ったという。荘村が酔いつぶれ、手を引っ張って立ち上がらそうとした武満を投げ飛ばしてしまい、顔に傷を負わせてしまったエピソードも披露。

Takemitsu

最後はとってもIntimate Concetとなった。

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