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2019年12月13日 (金)

三谷幸喜「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」と「虹のかけら〜もうひとりのジュディ」

三谷幸喜作品で、僕が今まで生の舞台を観たものを以下列挙してみよう。「君となら(再演・再々演)」「笑の大学(初演・再演)」「ヴァンプショウ」「アパッチ砦の攻防」「温水夫妻」「オケピ!(初演・再演)」「竜馬の妻とその夫と愛人」「彦馬がゆく」「You Are The Top/今宵の君」「なにわバタフライ」「12人の優しい日本人」「コンフィダント・絆」「グッドナイト スリイプタイト」「ろくでなし啄木」「国民の映画」「90ミニッツ」「ホロヴィッツとの対話」「酒と涙とジキルとハイド」「其礼成心中」「紫式部ダイヤリー」「日本の歴史」の21作品。

テレビ放送、DVDなどで観たものは「天国から北へ3キロ」「ショー・マスト・ゴー・オン」「巌流島」「バイ・マイセルフ」「マトリョーシカ」「バッド・ニュース☆グッド・タイミング」「東京サンシャインボーイズ returns」「ベッジ・パードン」の8作。合わせて29作品。これが僕の観劇歴である。

10月3日(木)森ノ宮ピロティホールへ。

Aito

「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」の主な出演者は柿澤勇人、佐藤二朗、広瀬アリス。

正直言って、もう三谷の舞台作品は観なくていいかな、と思った。映画の方は(「清須会議」以降)とっくに見限っている。

最近の三谷は語るべきテーマを完全に見失っている。東京サンシャインボーイズ時代は良かった。ひとりひとりだと、ちょっと足りない人物たちが集まり、チームとして一丸となれば何かを達成出来るという明確なビジョンがあった。その頂点に立つのがテレビドラマ「王様のレストラン」である。つまり〈仲間が一番〉〜バディものとしての特性がピクサー・アニメーション・スタジオ的で、だから三谷のお気に入りの映画が「トイ・ストーリー(第一作)」や「がんばれ!ベアーズ」なわけだ。しかしその路線は既に語り尽くされてしまい、もはや三谷の引き出しは空っぽになってしまった。何を描きたいのか、さっぱり分からない。多分、本人も同様なのだろう。

細部でのくすぐり、クスクス笑いはあるが、それが全体のドッカンに繋がらない。あくまで刹那的だ。コメディの質としては吉本新喜劇レベル。

三谷幸喜はコメディの名手ビリー・ワイルダーに憧れて、彼に会うために渡米もしている。しかし結局〈日本のビリー・ワイルダー〉にはなれなかった。ユダヤ人だったワイルダーはベルリンで新聞記者をしていたが、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツの台頭を目の当たりにしてフランスを経由してアメリカに亡命した。オーストリア・ウィーンに残してきた母親や祖母は強制収容所送りになり、殺された。だからワイルダーのコメディ映画の根底には人間に対する〈不信〉と〈絶望〉があり、それが作品に深みをもたらしている。コメディじゃないが「サンセット大通り」なんて、ゾッとするほど恐ろしい映画だ。一方、おぼっちゃんとして大切に育てられた三谷は日本大学藝術学部在学中に劇団「東京サンシャインボーイズ」を旗揚げし、順風満帆な演劇人生を歩んできた。だから彼の作品にはワイルダーの持つ〈影〉や〈闇〉、〈業の深さ〉が欠けている。薄っぺらいのだ。

12月3日(火)サンケイホールブリーゼへ。「虹のかけら〜もうひとりのジュディ」を観劇。

Niji

「なにわバタフライ」同様、戸田恵子の一人芝居。他に女性ミュージシャン3名が舞台上で生演奏する。

こちらも三谷幸喜が何を描きたいんだかさっぱり理解出来なかった。しかも上映時間80分ー短っ!稀代のミュージカル女優ジュディ・ガーランドの人生を描く作品として物足りない。

そもそも、彼女の付き人として、専属の代役として、長年に渡って影のように寄り添った一人の女性、ジュディ・シルバーマンという架空の人物を設定する意図が不明。第三者の視点が全く効果を上げていない。はっきり言う。作劇術として完全に失敗している。がっかりした。仕方ないから来年公開されるレネー・ゼルウィガー主演の映画「ジュディ」(アカデミー主演女優賞確実!)に期待する。

Judy

ただ芝居としてはお粗末だったけれど、ジュディ・ガーランドが歌った名曲の数々を聴けたので「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」ほどは腹が立たなかった。

さようなら、三谷幸喜。これで終わりだ。

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