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キューブリック版「シャイニング」の見事な続編「ドクター・スリープ」

スタンリー・キューブリック監督「シャイニング」(1980)公開から実に39年ぶり、まさかの続編登場である。

評価:B+

Sleep

本作を観て、真っ先に耳に聴こえてきたのは、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の囁き声"Ease his pain."(彼の苦痛を癒せ)である。彼とは勿論、原作者スティーヴン・キングのことだ。

キングが2歳の時、彼の父親は「ちょっとタバコを買いに行く」と言い残して出かけたきり、戻ってこなかった。その後所在が不明なまま現在に至る(「藪蛇になるから」と敢えて調査していないそう)。「父は私を愛していないから出ていったんだ」という思いがトラウマとなり、彼の作品に濃い影を落としている。その一方、12-13歳のときに屋根裏部屋で父の蔵書を発見した。その大半はSFやホラー小説だった。H.P.ラヴクラフト(「狂気の山脈にて」など)の短編集も含まれていた。母に訊ねると、父が雑誌にそういったジャンルの小説を投稿していたという事実も発覚した(しかし採用には至らなかった)。これが後に、キングが作家になる動機となった。精神分析学における〈親の理想像(イマーゴ)〉が多大な影響を及ぼしている。

小説「シャイニング」の終盤、小説家志望の元教師ジャックは一冬の管理人として滞在しているホテル(とそこに生息している幽霊たち)に魂を乗っ取られ、木槌を振りかざして妻のウェンディと息子のダニーを殺そうと追い掛ける。しかし、一瞬正気に帰り、次のように言う。

「ここから逃げるんだ。急いで。そして忘れるな。パパがどれだけおまえを愛しているかを」 (深町眞理子・訳/文春文庫)

母子が逃げ出した後、ジャックはボイラーの大爆発で瓦解するホテルと運命を共にする。つまり「シャイニング」の心臓(=車のエンジン)はここにあり、父親からの「承認欲求」を満たすために("I love you."という一言を聞きたかったから)キングはこの小説を書いた、と断言しても決して的外れではないだろう。

しかしスタンリー・キューブリック監督は映画化に際し、無慈悲にもこのエピソードをばっさりカットした。故にキングはキューブリック版が大嫌いで、「エンジンのないキャデラックみたいなものだ」などと繰り返し執拗に非難している。

「ドクター・スリープ」はきちんとキューブリック版の続編として機能し、さらに前作で原作者が不満だった点を解消することにも成功している。マイク・フラナガン監督は大した力量である。

映画冒頭、ウェンディ・カルロスとレイチェル・エルカインドが作曲した「シャイニング」メイン・タイトルが流れる(グレゴリオ聖歌「怒りの日」をシンセサイザー用にアレンジしたもの)。そして物語の終盤でオーバールック・ホテルが再登場するわけだが、そこへ向かう道中の空撮も、「シャイニング」冒頭部のカメラワークを忠実に再現している(しかし季節が異なる)。

僕はキューブリック版「シャイニング」の核(コア)は〈対称性(シンメトリー)の恐怖〉だと思っている。血が溢れ出す2つのエレベーター昇降路、そして双子の姉妹。それは現実の世界⇔鏡の中の世界、この世⇔あの世(幽霊の棲家)という対比に結びついている。また生け垣で作られた巨大迷路は混沌とした無意識の象徴として機能する。それらは「ドクター・スリープ」にも継承されている。

しかしオーバールック・ホテルに至るまでは、まったく異なった世界観が打ち出され、独自性もしっかり主張される。ちょっと観たことのない映像表現もあったりする。

キューブリックの「シャイニング」を観ていなくてもそれなりに愉しめるが、絶対先に観ておいたほうが良い。感銘度は段違いだ。

あと前作でダニーを演じた子役のダニー・ロイドが、すっかり大人になって野球場の場面にカメオ出演している。そしてキングにとっての魔法の番号「19」と言う。彼は現在、大学で生物学の教授を務めているという。また「シャイニング」でジャック・ニコルソンが演じたダニーの父親ジャックを「ドクター・スリープ」では、「E.T.」でエリオット少年を演じたヘンリー・トーマスが演じているのも見どころである。

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