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2019年12月

2019年12月29日 (日)

2019年映画ベスト30+α & 個人賞発表!

2019年に劇場で初公開された作品及び、Netflix, Huluなどインターネットで配信された映画を対象とする。ただし、「ザ・クラウン」「ゲーム・オブ・スローンズ」「ストレンジャー・シングス」「侍女の物語(The Handmaid's Tale)」など連続ドラマは除外する。また広島国際映画祭で鑑賞した大林宣彦監督「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」は2020年公開なので来年に繰り越す。

タイトルをクリックすれば過去に僕が書いたレビューに飛ぶ。なお、今年劇場公開されたアイルランドのアニメーション映画「ブレッドウィナー」はすでに昨年、「生きのびるために」という邦題でNetflixから配信されているので、昨年のベストに入れた。

  1. 天気の子
  2. 蜜蜂と遠雷
  3. ファースト・マン
  4. アメリカン・アニマルズ
  5. メリー・ポピンズ リターンズ
  6. 海獣の子供
  7. マリッジ・ストーリー
  8. ロケットマン
  9. アイリッシュマン
  10. ビール・ストリートの恋人たち
  11. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
  12. スパイダーマン:スパイダーバース
  13. ライ麦畑の反逆児/ひとりぼっちのサリンジャー
  14. バーニング 劇場版
  15. アナと雪の女王2
  16. サスぺリア(リメイク版)
  17. メアリーの総て
  18. 女王陛下のお気に入り
  19. コードギアス 復活のルルーシュ
  20. ホイットニー〜オールウェイズ・ラブ・ユー
  21. ふたりの女王 メアリーとエリザベス
  22. クリード 炎の宿敵
  23. 僕たちのラストステージ
  24. アス Us
  25. スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け
  26. バイス
  27. グリーンブック
  28. トイ・ストーリー4
  29. ブラック・クランズマン
  30. ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
  31. 愛がなんだ
  32. ドクター・スリープ
  33. ジョーカー
  34. 閉鎖病棟 ーそれぞれの朝ー
  35. 楽園

監督賞:石川慶(蜜蜂と遠雷)
脚本賞:ノア・バームバック(マリッジ・ストーリー)
脚色賞(原作あり):石川慶(蜜蜂と遠雷)
主演女優賞:松岡茉優(蜜蜂と遠雷)
助演女優賞:ローラ・ダーン(マリッジ・ストーリー)
主演男優賞:アダム・ドライヴァー(マリッジ・ストーリー)
助演男優賞:ジョー・ペシ(アイリッシュマン)
撮影賞:ピオトル・ニエミイスキ(蜜蜂と遠雷)
美術賞:滝口比呂志 (天気の子)
衣装デザイン賞:ジュリアン・デイ(ロケットマン)
作曲賞:野田洋次郎 RADWIMPS(天気の子)
歌曲賞:“大丈夫” 野田洋次郎 RADWIMPS(天気の子)
編集賞:石川慶(蜜蜂と遠雷)
視覚効果賞:「
スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」
録音賞:久連石由文(蜜蜂と遠雷)
音響編集賞:「
スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」

特別賞:ジョン・カーニー(Amazonプライム・ビデオ「モダン・ラブ〜今日もNYの片隅で〜」第1話”私の特別なドアマン”の脚本・演出に対して)

松岡茉優は、なんと!2年連続主演女優賞受賞である。

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2019年12月27日 (金)

大林宣彦監督「海辺の映画館ーキネマの玉手箱 Labyrinth of Cinema」

11月24日(日)広島国際映画祭2019で大林宣彦監督「海辺の映画館 キネマの玉手箱」を鑑賞。

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評価:A-

上映時間179分、ほぼ3時間。途中、休憩(Intermission)が挟まれる仕様になっているのだが、映画祭では一気に上映された。

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英題は"Labyrinth of Cinema"。

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元々、英題は"Arabesque"にしようと監督は考えておられたようだが、〈アラベスク〉だとイスラム文化を連想させるので、現在の米国と中東諸国のギクシャクした関係を考慮するなら望ましくないと渉外担当者から意見されたそう(赤川次郎×大林宣彦  対談「三十年後の“ふたり”」小説新潮11月号より)。

尾道の映画館〈瀬戸内キネマ〉 で戦争映画のオールナイト興行を観ていた若者3人が銀幕の中にさまよい込み、戊辰戦争・日中戦争・沖縄戦・広島への原爆投下を体験するという物語。

〈瀬戸内キネマ〉が登場するのは大林監督がテレビ〈火曜サスペンス劇場〉枠で撮った「麗猫伝説」(1983)、「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群」(1988)に続き、3作目である。 「麗猫伝説」では撮影所の名称だったが、「おかしなふたり」から映画館の名前になった。映画は通常1巻が10−15分程度のフィルムを2台の映写機で切り替えながら上映する。しかし〈瀬戸内キネマ〉には1台の映写機しかなく、「流し込み上映」をする。詳しくはこちら。これはアカデミー外国語映画賞を受賞したイタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」も同様である。

〈大林映画はピアノ映画である〉と看破したのは映画評論家の故・石上三登志氏である(「野ゆき山ゆき海べゆき」「彼のオートバイ、彼女の島」でナレーションを担当)。僕はそれに〈大林映画は海の映画である〉を加えたい。監督の古里・尾道でロケされた一連の作品は勿論のこと、京都で撮られた「姉妹坂」にも、九州で撮られた「なごり雪」「22才の別れ」「花筐/HANAGATAMI」にも海は登場する。

若者3人の名前は馬場鞠男、鳥井鳳助 、団茂 。馬場毬男(ばばまりお)は大林監督が大好きなイタリア映画ホラー界の巨匠マリオ・バーヴァ(血塗られた墓標、白い肌に狂う鞭、モデル殺人事件!)のもじりであり、鳥鳳助 (とりほうすけ)↔フランス・ヌーベルバーグのフランソワ・トリュフォー(大人は判ってくれない、恋のエチュード)、団茂(だんしげる)↔アメリカのドン・シーゲル(ダーティハリー、ラスト・シューティスト)といった具合。「HOUSE ハウス」(1977)で劇場用映画デビューする際に、「ホラー映画を撮る時は馬場鞠男、恋愛映画なら鳥井鳳助 、アクション映画なら団茂というペンネームを用いよう」という計画が当初あったそうだ。大林宣彦少年をモデルにした内藤忠司監督の映画「マヌケ先生」(2001)で厚木拓郎くんが演じた役名が馬場毬男で、今回も厚木くんが同役で出演している。

「海辺の映画館 キネマの玉手箱」の回想シーンとしてふんだんに「マヌケ先生」の映像が引用されていたので驚いた。毬男少年は尾道でジョン・フォード(駅馬車、黄色いリボン)によく似た映画監督に出会うのだが、その謎めいたアメリカ人を大林監督が怪演している。また「海辺の映画館」でも怪しいピアニストとして即興的にショパン「別れの曲」などを弾く。大林監督がヒッチコックみたいに自身の映画に出演するのはYMOの高橋幸宏主演「四月の魚(Poisson d'avril /ポアソン・ダブリル)」(1986)以来かな?高橋幸宏も久しぶりに「海辺の映画館」に登場。「異人たちとの夏」(1988)の友情出演が最後だから、もう30年以上経っている。

とにかくぶっ飛んでる。クレイジーだ。そういう意味で劇場デビュー作「HOUSE ハウス」や、16mmの自主映画「EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ 」(1966)への原点回帰を感じさせる。 「海辺の映画館」には中原中也の詩が多数引用されるのだが、

お太鼓叩(たた)いて 笛吹いて
あどけない子が 日曜日
畳の上で 遊びます

という詩「六月の雨」は「いつか見たドラキュラ」にも登場する。

主人公が武士の時代にタイムスリップしたり、はたまた最後は宇宙船まで登場するという奇想天外な構成は、橋本忍(原作・脚本・監督)の「幻の湖」(1982)を彷彿とさせる。

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東宝創立50周年記念作品でありながら、主人公がトルコ嬢(現在のソープランド嬢)だったり、戦国時代に飛んで織田信長に会ったり、最後はスペースシャトルが出てきたりといった内容に観客が全くついて行けず、公開から2週間と5日(東京地区)で打ち切られることとなり長い間本当に「幻の作品」になった曰く付きのトンデモ映画である。しかし1996年にニッチな雑誌「映画秘宝」(2020年に休刊が決まった)で取り上げられてからはむしろカルトになり、今では容易に観ることが出来る(Amazon Prime Videoでも有料配信中)。「海辺の映画館」は間違いなく「幻の湖」に似ている。ただし誤解のないよう強調しておきたいのだが、僕は「幻の湖」が嫌いじゃない。ゲラゲラ笑いながら愉しく鑑賞した。

大林映画は〈共時的〉である。過去も現在も未来も、〈いま・ここ〉にある。

「我々は記憶において構成されている。我々は幼年期に、青年期に、老年期に、そして壮年期に同時に存在している。」(by フェデリコ・フェリーニ)

詳しくは下記事で論じた。

映画鑑賞前に、せっかく広島に来たのだからと映画にも登場する〈桜隊〉慰霊碑にお参りした。

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広島で被爆したこの移動劇団に所属していたのが園井恵子。岩手県出身で宝塚歌劇団では男役として活躍した。退団後に映画「無法松の一生」で吉岡夫人を演じた。その後東京で苦楽座に参加、苦楽座は解散後〈桜隊〉に再編された。新藤兼人監督(広島市出身)「さくら隊散る」という映画もある。関係者の証言と劇映画パートが渾然一体となっており、どちらかというとドキュメンタリー・パートの方に比重が大きい(2:1くらい)。「海辺の映画館」の前に「さくら隊散る」を観ておけば、より立体的に作品を味わうことが出来るだろう。「海辺の映画館」で園井を演じた常盤貴子も同じ日の朝、この慰霊碑を訪ねたそう(トークショーの模様はこちらをご覧ください)。

そもそも「海辺の映画館」の出発点に新藤兼人の遺稿シナリオ「ヒロシマ」がある。「(原爆投下の瞬間)一秒、二秒、三秒の間に何がおこったかをわたしは描きたい。五分後、十分後に何がおこったか描きたい。それを二時間の長さで描きたい。一個の原爆でどんなことがおこるか」と新藤は書き残している。「ピカ、ドンの二秒間に人々の物語がある」と大林監督。

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上の写真は平和記念公園にて。真ん中に原爆ドームが写っているの、分かりますか?

「僕たちは歴史の過去を変えることは決して出来ないが、映画で歴史の未来を変えることは出来るかも知れない。映画を見た人、一人一人が一人一人の努力でもって平和を導いてけば、きっと世界の平和をたぐり寄せることが出来る。きっと平和な世の中を実現することが出来る。これが僕の考えるハッピーエンド」大林監督の言葉である。その信念と執念が、異常なほどの熱量を孕み、「海辺の映画館」に満ち溢れ、煮えたぎっている。

ただ映画の中で描かれる、沖縄戦で日本軍の兵隊が沖縄の住民を虐殺するエピソードが引っ掛った。初めて耳にする話だが、これは果たして根拠のある事実なのだろうか?大林監督「この空の花 長岡花火物語」での、韓国のいわゆる従軍慰安婦に対する言及同様の違和感を覚えた(彼女たちについて気の毒だとは思うが、日本軍が強制連行したという証拠は一切見つかっていないわけで、日本人が謝罪する必要はないだろうというのが僕の意見である。朝鮮戦争やベトナム戦争において韓国軍も慰安所を公認していたわけだし)。歴史的見解の相違だ。

上映当日、大林監督に「ヒロシマ平和映画賞」が授与されたのだが、「ハウス HOUSE」で映画デビューした女優の松原愛さんが花束を手渡した。後で松原さんのお話を伺うことが出来たのだが、彼女は「ハウス HOUSE」映画版で(7人の少女のうち)ガリ役だったが、その前にプロモーション(メディアミックス)として放送されたラジオドラマ版ではマック役だったと。詳しくはこちら

「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」はアスミック・エースの配給で2020年4月に劇場公開が予定されている。

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2019年12月26日 (木)

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け

評価:A-

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公式サイトはこちら

1978年夏「エピソード4/新たなる希望」を劇場で観て、初めて映画の醍醐味を味わった時、僕は小学校6年生だった。その映画館「テアトル岡山」は既になく、今は駐車場になっている。

あれから41年、遂に9部作のサーガが完結した。感無量だ。エピソード7から9までの製作を、ルーカス・フィルムを買収したディズニーが発表した時は「最後までジョン・ウィリアムズが元気でいてくれるかな?」ということがとても心配だったのだが、全てのオーケストラ・スコアを無事に完成させてくれて、ホッとしている。現在87歳の巨匠の筆は衰えることがなかった。華麗に鳴り響く彼の音楽にどっぷり浸かっているだけで、至福の時を過ごすことが出来た。

「フォースの覚醒」はJ・J・エイブラムス監督が、「君たちはこういう場面を見たかったんだろう?」と旧三部作のいいとこ取り、ベスト盤のような仕上がりだったが、続く「最後のジェダイ」でライアン・ジョンソン監督が「スカイウォーカー家とか血筋なんて関係ねーよ、名も無き若者たちでもフォースの力を得られるんだ!」と従来のお約束をぶち壊し、フォースの民主化を推し進めて革新的な作品になったため、喧々囂々(けんけんごうごう)たる議論が渦巻いた。また当初「スカイウォーカーの夜明け」を監督する予定だった「ジュラシック・ワールド」のコリン・トレヴォロウが降板するなどゴタゴタが続き、事態を収拾すべくJ・Jが再登板となったわけだが、なんだか懐かしい顔ぶれと既視感のあるシーンが次々と登場し、往年のファンには大満足の仕上がりになっていると思った。

例えば「帝国の逆襲」でルークが惑星ダゴバへ行き、修行を積む場面でヨーダがフォースの力で沼に沈んだXウィングを引き上げるが、そのシーンへのオマージュが「スカイウォーカーの夜明け」にもあり、そこでご丁寧にヨーダのテーマが高鳴り、音楽もそのまま再現されている。

「最後のジェダイ」で大不評だったアジア系のローズが、今回ほとんど目立たない存在になったのも、マーケティングを踏まえた賢い選択/チューニングだ。「エピソード1/ファントム・メナス」で徹底的に叩かれたジャー・ジャー・ビンクスが、エピソード2&3で表舞台から引っ込んでしまったことを彷彿とさせた。

しかし同時に、「これでいいのか?」という思いを拭い去ることが出来なかった。エンドアに行くことになれば、当然「あれ」が出てくるだろうと予想されるし、パルパティーンがレイを挑発する場面では「ダークサイドに落ちずに皇帝をやっつけるには『ジェダイの帰還』のクライマックス・シーンを応用すれば良いのではないか」と大方先が読めてしまう。全てがノスタルジックで予定調和。何の驚きも発見もなかった。ファンからの批判を恐れるあまり今回のJ・Jは安全運転に終止し、冒険心が足りなかったような気がする。

ただ一方で、「このシリーズはむしろ変わらないことに価値があるんじゃないか?」と僕の心の内で囁く声があるのも確かだ。というわけで肯定したいような、したくないような、複雑な心持ちになった。

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バーニング 劇場版

評価:A

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村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を原作とする韓国映画。公式サイトはこちら

韓国映画は今まで一度も、米アカデミー賞の外国語映画賞(次回から国際長編映画賞に名称が変わる)にノミネートされたことがないのだが、恐らく本作が史上初のノミネーションを勝ち取るのでは?と思っていたので、落選は意外だった。しかしポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」がその雪辱を果たしてくれるだろう。ノミネートどころか200%受賞確実、そして監督賞候補にも躍り出るだろうから。

〈持たざる者が(金や女など)全てを持つ者に対して抱く嫉妬心、ルサンチマン〉と、〈書くべき物語を持っていなかった主人公が、小説を書き始めるまで〉という縦と横の軸が本作にはある。そこを押さえておかないとラストシーンは意味不明だろう。つまり主人公が書き始めた小説の中身(内なる衝動、怒り)が、その後の場面に描かれているのである。

格差社会をテーマにしている点で、本作はカンヌ国際映画祭のパルム・ドール(最高賞)を受賞した是枝裕和監督「万引き家族」や「パラサイト」、そしてジョーダン・ピール監督「Us アス」と共通している。これが現代社会の潮流なのだろうか?

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2019年12月25日 (水)

「ターミネーター:ニュー・フェイト」のにおける抹殺計画の杜撰さ

評価:B

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製作・ストーリーとしてジェームズ・キャメロンが復帰、「ターミネーター2」の正式な続編である。リンダ・ハミルトンも戻ってきた。

悪くない。ティム・ミラー監督のアクション演出も冴えている。ただ正直言って、「ターミネーター」はシリーズ化に向いていない素材だなとつくづく思った。物語はT2で完結しており、続きは要らない。

未来の英雄(人間)を倒すために、殺人ロボットが過去に送り込まれ、ヒーローが生まれる前の母親、あるいは幼少期の彼自身を襲撃しようとする。その計画を阻止すべくヒーロー側も守護者(人またはロボット)を派遣する。ーというプロットの繰り返し。T1→T2の時はアーノルド・シュワルツェネッガーが敵(attacker)→味方(defender)に反転することに新鮮味があった。しかし柳の下に三匹目のどじょうはいない

あと今回気になったのは抹殺計画の杜撰さである。まずターゲットを確実に仕留めようと思えば、ターミネーターを単独に送り込むのではなく、10体一気にタイムスリップさせればよい。チーム・プレイだ。アメリカの特殊部隊SWATみたいに。それと映画「ゼロ・ダーク・サーティ」で描かれていたビン・ラディン暗殺のように、襲撃するのは深夜が基本である。相手の寝込みを襲う。夜ならアジトにいる可能性が高い。そして電源をシャットダウンすれば、暗闇で俊敏に動けず、退路を断つことが出来る。狙撃手は暗視装置があるから問題ない。

だから今回の敵がマヌケなのは昼にターゲットの家を訪ねていることに尽きる。外出している可能性が高いじゃん?すると次はどこに出かけているかを探り、追わねばならなくなる。全くもって労力の無駄である。未来のコンピューター・システムは経験値が低いのか、それとも単なる馬鹿なのか?

それとシュワちゃんはロボットなのに、年老いていることについての説明が一切なかった。何で??

小学校2年生の息子と鑑賞。観終わって「面白かった!」と興奮していた。

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2019年12月24日 (火)

鶴瓶・仁智「笑福亭に乾杯!」&「笑福亭鶴笑一門会 in 町家」

12月15日(日)神戸喜楽館@新開地へ。

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  • 笑福亭たま:ぐつぐつ(柳家小ゑん 作)
  • 笑福亭鶴二:御神酒徳利
  • 笑福亭仁智:いくじい(仁智 作)
  • 笑福亭鶴笑:SDGsを入れた環境落語「ゴミ怪獣の地球破壊」
  • 笑福亭鶴瓶:徂徠豆腐

「ぐつぐつ」はおでん達が主人公の奇想天外な新作。面白い!

「御神酒徳利」は二つの型があり、鶴二は柳家小さんが演っていた別名「占い八百屋」の方のようだ。

「いくじぃ」は嘗て、やんちゃをしていた「源太と兄貴」シリーズの後日譚。仁智の新作は庶民的で、「寅さん」シリーズのような味わいがある。

鶴笑のパペット落語の演出は結局、「立体西遊記」「義経千本桜」「時ゴジラ」などみんな同じで、今回の「ゴミ怪獣の地球破壊」もご多分に漏れないのだけれど、まぁ何度観ても爆笑だわ。ちなみにSDGsって「持続可能な開発目標」のことなのだそうだ。詳しくは外務省のサイトへ。

鶴瓶の「徂徠豆腐」を聴くのはこれが三回目。

12月21日(土)神足ふれあい町家@長岡京へ。

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  • 笑福亭鶴笑:絵本読み聞かせ
  • 笑福亭笑生:桃太郎
  • ぱふく亭レモン:住吉駕籠
  • 笑福亭鶴笑:ラーメン屋
  • ぱふく亭パペット:狸の札
  • 笑福亭笑利:八五郎坊主

笑福亭笑生(しょうき)は以前、福井県住みます芸人「クレヨンいとう」(吉本興業所属)として活躍していたらしい。現在37歳。この11月30日に福井で命名式と落語家デビューを果たしたばかり。

ちょっと残念だったのは鶴笑のパペット落語がなかったこと。チラシには笑福亭つる吉とあったが、恐らく笑生の出演が急遽決まったため、取り止めとなったのだろう。絵本の読み聞かせは、「おおかみだあ!」や「つきよのかいじゅう」が取り上げられた。鶴笑の絶妙な語り口で、会場の子供たちは大喜び。沸きに沸いた。

「ラーメン屋」は五代目古今亭今輔の噺で、五街道雲助はこれを改作し「夜鷹そば屋」として演じている。いや〜しかし、人情噺よりもパペット落語が観たかった。

トリの笑利もパペットを使わない古典落語だったので意表を突かれた(チラシと違う)。でも上手かった。

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2019年12月19日 (木)

アカデミー作品賞、主演女優賞、助演女優賞、主演男優賞、脚本賞ノミネート確実!Netflix映画「マリッジ・ストーリー」を観る前に知っておくべきこと。

評価:A

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本作のアカデミー作品賞/主演女優賞(スカーレット・ヨハンソン)/助演女優賞(ローラ・ダーン)/主演男優賞(アダム・ドライヴァー)/脚本賞ノミネートはほぼ確実。ただしノア・バームバックの監督賞はビミョ〜。以下に挙げる有力候補がいるからである。

  1. マーティン・スコセッシ「アイリッシュマン」
  2. クエンティン・タランティーノ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」
  3. ポン・ジュノ「パラサイト」
  4. サム・メンデス「1917 命をかけた伝令」
  5. グレタ・ガーウィグ「ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語」
  6. タイカ・ワイティティ「ジョジョ・ラビット」

1−4は当確で、残るひとつの席を巡って三つ巴のつばぜり合いといったところか。

「マリッジ・ストーリー」はノア・バームバックのオリジナル脚本で、彼自身が2005年に女優のジェニファー・ジェイソン・リーと結婚し、長男をもうけ、8年後の2013年に離婚した経験をもとに書かれている。

バームバックはニューヨーク市のブルックリン生まれで、それがそのままアダム・ドライヴァー演じる舞台演出家チャーリーに生かされている。スカーレット・ヨハンソン演じる妻のニコールは元ハリウッド女優であり(結婚後NYの舞台に立つ)、こちらの設定も実生活のまんまだ。

ニューヨークとロサンゼルスを行き来してお話は進むので、「二都物語」と言ってもいいだろう。アメリカの東海岸と西海岸を代表する大都会の違いが浮かび上がってくる(NYは地下鉄を駆使して歩く街、LAは車なしで移動出来ない街)。

本作の前に是非観ておきたい映画がある。アカデミー作品賞/監督賞/脚色賞/主演男優賞(ダスティン・ホフマン)/助演女優賞(メリル・ストリープ)を受賞した「クレイマー、クレイマー」(1979)である。こちらも現在、Netflixで配信中。

夫婦が離婚し、長男の養育権を巡って裁判沙汰になるという構造が同じ。「クレイマー、クレイマー」の舞台はニューヨーク・マンハッタンで、一旦子供を置いて出ていった妻ジョアンナは不在の1年半の間カリフォルニア州で働いていたと夫テッドに語る。ロサンゼルスもカリフォルニア州である。そしてジョアンナはニューヨークでの裁判に勝つために、NYに家を借りる。これは「マリッジ・ストーリー」でNYを拠点に活躍するチャーリーがLAでの裁判に勝つために、現地の家を購入することと対になっている。

両者を見比べると、この40年間でアメリカ社会がどう変わってきたかが手に取るようによく分かる。「クレイマー、クレイマー」を踏まえておけば、「マリッジ・ストーリー」が少なく見積もっても5倍は面白くなるだろう。

「マリッジ・ストーリー」の終盤、ニコールはLAのホーム・パーティにおいて母と姉の三人組でブロードウェイ・ミュージカル「カンパニー」の楽曲"You Could Drive a Person Crazy"を楽しげに歌う。その直後に、今度はNYのバーでテッドが悲壮感を漂わせながら同じく「カンパニー」フィナーレの楽曲"Being Alive"を歌う。観客の涙を誘う場面である(ここのテッドが愛おしい)。

「カンパニー」はスティーヴン・ソンドハイムが作詞・作曲し、1970年に初演された。演出は「キャバレー」「オペラ座の怪人」「スウィーニー・トッド」のハロルド・プリンス。その後繰り返しリバイバル上演されている。僕は1999年の日本初演をシアター・ドラマシティで観劇している。訳詞・演出が小池修一郎。出演は山口祐一郎、鳳蘭、シルビア・クラブ、石川禅ほか。多分、僕が知る限り日本では再演されていない筈。

「カンパニー」の舞台はニューヨーク。35歳の誕生日を迎えた独身の主人公ロバートと、彼を取り巻く知人たちとの交流が描かれる。詳しい物語はこちらをご参照あれ。

"You Could Drive a Person Crazy"は(独身生活を謳歌するロバートが現在付き合っている)女たち三人が歌う。うち一人は航空会社のCA:客室乗務員。タイトルを逐語訳すれば「あなたは人を夢中にさせる」だが、「彼は本当に困った人。まともじゃないの(クレイジーよ)」と歌われる。

一方、ロバートのソロ・ナンバー"Being Alive"の内容はこうだ。誰かと親密になり一緒に暮らし始めると、傷つけられたり、眠りを妨げられたりする。時には地獄に突き落とされるような経験もする。でも、そうやって他者から干渉されることが「生きている(Being Alive ) 」ってことなんだ。一人でいること(alone) は生きていると言えない(not alive)。

今回改めてアダム・ドライヴァーの歌唱で聴いて、この曲が言いたいことは、〈ヤマアラシのジレンマ〉に繋がっているなと思った。ヤマアラシのオスとメスが愛し合うために互いに寄り添おうとすると、自分の針毛で相手を傷つけてしまうため近づけないことを指す。庵野秀明がアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」で引用し、有名になった(庵野は「タッチ」の浅倉南役で知られる声優の日高のりこにプロポーズし、にべもなく断られて痛い目にあっている)。英語ではHedgehog's dilemma〈ハリネズミのジレンマ〉と言い、動物が変わる。哲学者ショーペンハウアーが創作した寓話に由来する。 つまり夫婦を続けるという営みは互いを傷付け合うことに等しいのだが、でもその痛みにこそ〈生の実感〉があるというわけだーけだし名曲である。

よく言われることだが、付き合っていた男女が別れたら、女の方は元カレをけろっと忘れてしまい、思い出の品とかを一切合切処分しても平気で新たな一歩を踏み出せるのだが、男の方は未練たっぷりで、元カノの想い出を捨て切れずにウジウジと引き摺ってしまう。それが病的になるとストーカーに変貌する(一方、女のストーカーは有名人の熱狂的ファンが多い)。そうした男と女の決定的違いを"You Could Drive a Person Crazy"と"Being Alive"の二曲で鮮やかに描き分ける演出は冴えに冴えている。

驚くべきことに2018年にロンドン、2019年にブロードウェイでリバイバル上演された「カンパニー」は男女逆転バージョン!"Being Alive" を女性の主人公が歌い、"You Could Drive a Person Crazy" は男性三人が歌う。演出は「戦争の馬」と「夜の犬の奇妙な事件」でトニー賞を受賞したマリアンヌ・エリオット。正に #MeToo 運動を経た今の時代に相応しいものになっている。

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というわけでミュージカル「カンパニー」を抑えておけば、「マリッジ・ストーリー」を更に5倍面白く観ることが出来るだろう。

ソンドハイムのミュージカルは今やアメリカの知識層にとって、知っていて当たり前の教養になっている。イギリス人にとってのシェイクスピア劇みたいなものだ。映画「ジョーカー」でもホアキン・フェニックスが地下鉄でボコボコにされる場面で、加害者の酔っ払った会社員たちはソンドハイムの「リトル・ナイト・ミュージック」より、"Send in the Clowns"を歌う。

またグレタ・ガーウィグが脚本・監督した「レディ・バード」ではシアーシャ・ローナン演じる高校生が、学校でミュージカルを上演する場面があるのだが、これがスティーヴン・ソンドハイム作詞・作曲の「メリリー・ウィー・ロール・アロング」といった具合。

なおノア・バームバックは現在グレタ・ガーウィグと交際し、2019年に二人の間に子どもが生まれたばかり。何度か一緒に共同脚本も執筆している。

余談だが、「メリリー・ウィー・ロール・アロング」をリチャード・リンクレイター監督が映画化することが既に決まっており、なんと20年を費やして撮影するらしい!!報道資料はこちら。最後まで関係者が誰も死なないことを祈る。

話をもとに戻そう。「マリッジ・ストーリー」はスカヨハとアダム・ドライヴァーの演技が文句なしに素晴らしいのだが、更に強烈なインパクトを与えるのが弁護士役のローラ・ダーン。クソビッチ(Fucking bitch)で最高!ビロウな表現で恐縮です。

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2019年12月16日 (月)

アカデミー作品賞・監督賞・助演男優賞ノミネートは確実!Netflix映画「アイリッシュマン」

評価:A

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ロバート・デ・ニーロとハーヴェイ・カイテルが共演し、マーティン・スコセッシが監督した「ミーン・ストリート」から46年、デ・ニーロとアル・パチーノがコルレオーネ親子を演じた「ゴッドファーザー PART II」から45年、彼らが再結集した「アイリッシュマン」は正真正銘、老人映画と言えるだろう。

上映時間3時間半、かつてスコセッシ映画の特徴だった編集の「キレ」やスピード感は後退し、ズッシリと重厚な人間ドラマが展開される。

基本的には「グッドフェローズ」「カジノ」の系譜を継ぐマフィアものだが、終盤で神父が登場し(少年時代はカトリックの司祭を目指したという)スコセッシのライフワーク、遠藤周作原作「沈黙」のテーマでもある信仰が絡んでくる。デ・ニーロ演じるフランク・シーランのナレーションはまるで、教会における告解(ゆるしの秘跡)のように聴こえる。

仲間を裏切り、人を殺めた人生の最後に残されたのは孤独と後悔、そして虚無感だけだったという結末には寂寞とした苦味が残る。ジョー・ペシ演じるマフィアのボス・ラッセルは刑務所でフランクに「今から教会に行く」と告げて退場する。果たして彼らは神からゆるしを与えられたのだろうか?

そういう目でもう一回見直すと、冒頭の老人ホームの場面で、どんどん前進するカメラに聖母マリア像がしっかりと映し出されており、スコセッシの老練な語り口に唸らされた。

老人映画ではあるが、やっていることは新しく、製作資金調達が難しいことからNetflixという配信サービスで観客に届ける手法に切り替え、さらに特殊メイクではなく、CGで俳優を若返らせる"De-Aging Process"への挑戦など、その溢れんばかりの情熱と開拓者精神には脱帽するのみだ。

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2019年12月13日 (金)

三谷幸喜「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」と「虹のかけら〜もうひとりのジュディ」

三谷幸喜作品で、僕が今まで生の舞台を観たものを以下列挙してみよう。「君となら(再演・再々演)」「笑の大学(初演・再演)」「ヴァンプショウ」「アパッチ砦の攻防」「温水夫妻」「オケピ!(初演・再演)」「竜馬の妻とその夫と愛人」「彦馬がゆく」「You Are The Top/今宵の君」「なにわバタフライ」「12人の優しい日本人」「コンフィダント・絆」「グッドナイト スリイプタイト」「ろくでなし啄木」「国民の映画」「90ミニッツ」「ホロヴィッツとの対話」「酒と涙とジキルとハイド」「其礼成心中」「紫式部ダイヤリー」「日本の歴史」の21作品。

テレビ放送、DVDなどで観たものは「天国から北へ3キロ」「ショー・マスト・ゴー・オン」「巌流島」「バイ・マイセルフ」「マトリョーシカ」「バッド・ニュース☆グッド・タイミング」「東京サンシャインボーイズ returns」「ベッジ・パードン」の8作。合わせて29作品。これが僕の観劇歴である。

10月3日(木)森ノ宮ピロティホールへ。

Aito

「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」の主な出演者は柿澤勇人、佐藤二朗、広瀬アリス。

正直言って、もう三谷の舞台作品は観なくていいかな、と思った。映画の方は(「清須会議」以降)とっくに見限っている。

最近の三谷は語るべきテーマを完全に見失っている。東京サンシャインボーイズ時代は良かった。ひとりひとりだと、ちょっと足りない人物たちが集まり、チームとして一丸となれば何かを達成出来るという明確なビジョンがあった。その頂点に立つのがテレビドラマ「王様のレストラン」である。つまり〈仲間が一番〉〜バディものとしての特性がピクサー・アニメーション・スタジオ的で、だから三谷のお気に入りの映画が「トイ・ストーリー(第一作)」や「がんばれ!ベアーズ」なわけだ。しかしその路線は既に語り尽くされてしまい、もはや三谷の引き出しは空っぽになってしまった。何を描きたいのか、さっぱり分からない。多分、本人も同様なのだろう。

細部でのくすぐり、クスクス笑いはあるが、それが全体のドッカンに繋がらない。あくまで刹那的だ。コメディの質としては吉本新喜劇レベル。

三谷幸喜はコメディの名手ビリー・ワイルダーに憧れて、彼に会うために渡米もしている。しかし結局〈日本のビリー・ワイルダー〉にはなれなかった。ユダヤ人だったワイルダーはベルリンで新聞記者をしていたが、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツの台頭を目の当たりにしてフランスを経由してアメリカに亡命した。オーストリア・ウィーンに残してきた母親や祖母は強制収容所送りになり、殺された。だからワイルダーのコメディ映画の根底には人間に対する〈不信〉と〈絶望〉があり、それが作品に深みをもたらしている。コメディじゃないが「サンセット大通り」なんて、ゾッとするほど恐ろしい映画だ。一方、おぼっちゃんとして大切に育てられた三谷は日本大学藝術学部在学中に劇団「東京サンシャインボーイズ」を旗揚げし、順風満帆な演劇人生を歩んできた。だから彼の作品にはワイルダーの持つ〈影〉や〈闇〉、〈業の深さ〉が欠けている。薄っぺらいのだ。

12月3日(火)サンケイホールブリーゼへ。「虹のかけら〜もうひとりのジュディ」を観劇。

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「なにわバタフライ」同様、戸田恵子の一人芝居。他に女性ミュージシャン3名が舞台上で生演奏する。

こちらも三谷幸喜が何を描きたいんだかさっぱり理解出来なかった。しかも上映時間80分ー短っ!稀代のミュージカル女優ジュディ・ガーランドの人生を描く作品として物足りない。

そもそも、彼女の付き人として、専属の代役として、長年に渡って影のように寄り添った一人の女性、ジュディ・シルバーマンという架空の人物を設定する意図が不明。第三者の視点が全く効果を上げていない。はっきり言う。作劇術として完全に失敗している。がっかりした。仕方ないから来年公開されるレネー・ゼルウィガー主演の映画「ジュディ」(アカデミー主演女優賞確実!)に期待する。

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ただ芝居としてはお粗末だったけれど、ジュディ・ガーランドが歌った名曲の数々を聴けたので「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」ほどは腹が立たなかった。

さようなら、三谷幸喜。これで終わりだ。

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2019年12月12日 (木)

音楽の天使が舞い降りた!!〜ミュージカル「ファントム」

梅田芸術劇場でミュージカル「ファントム」を観劇。

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演出は城田優。ダブルキャストで12月7日(土)マチネと12月9日(月)ソワレの配役は以下の通り。

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キャリエール(旧劇場支配人/エリックの父)役は岡田浩暉。

僕は同じガストン・ルルーの小説を原作とする、アンドルー・ロイド・ウェバー作曲「オペラ座の怪人」も、モーリー・イェストン作詞・作曲「ファントム」も大好きだ。ロイド・ウェバー版はロンドン(ウエストエンド)、ニューヨーク(ブロードウェイ)、ラスベガス(既に公演終了)でも観劇している。

一方、モーリー・イェストン版「ファントム」は以下の公演を観ている。

  • 2004年 宝塚宙組 和央ようか、花總まり、樹里咲穂(日本初演)
  • 2006年 宝塚花組 春野寿美礼、桜乃彩音、彩吹真央
  • 2011年 宝塚花組 蘭寿とむ、蘭乃はな、壮一帆
  • 2018年 宝塚雪組 望海風斗、真彩希帆、彩風咲奈
    (以上、潤色・演出は中村一徳)
  • 2008年 大沢たかお、徳永えり、伊藤ヨタロウ(演出:鈴木勝秀)
  • 2014年 城田優、山下リオ、吉田栄作(演出:ダニエル・カトナー)

    城田優 主演/ミュージカル「ファントム」 2014.10.11

正直言って、城田優の演出は凡庸でいただけない。ただ最悪だったのは鈴木勝秀で、下から2番めといったところ。一番感銘を受けたのは2014年のダニエル・カトナー版である。

まず衣装の色彩が気に入らない。赤系と青系がごちゃまぜで、カラフルと表現すれば聞こえはいいが、僕は「統一感に欠け、品がない」と思った。カオスだ。城田はアフタートークショーで「パリの雰囲気を出したかった」と説明していたが、君は実物のパリに行ったことがあるのか?あんなに色彩過多じゃないぞ。MGMミュージカル映画「巴里のアメリカ人」や「恋の手ほどき」(ヴィンセント・ミネリ監督)などでもっと勉強したほうがいい。「恋の手ほどき」(Gigi)の衣装デザイナーは「マイ・フィア・レディ」のセシル・ビートンだしね。

それからコメディ・リリーフのカルロッタや新支配人アラン・ショレへの演技指導がお粗末。大仰でわざとらしく、ちっとも笑えない。2回目の観劇で気が付いたのだが、城田が出演したミュージカル「ブロードウェイと銃弾」やWOWOWのバラエティ番組「グリーン&ブラックス」(井上芳雄主演)を演出している福田雄一の影響を受けているのではないだろうか?僕は福田の〈笑いのセンス〉が嫌いじゃないが、「ファントム」の世界観には合わないだろう。

なんだか「ファントム」がユニバーサル・スタジオが製作した安っぽいモンスター映画に貶められたような気がして、がっかりした。ただロン・チェイニーが主演したユニバーサル映画「オペラ座の怪人」(1925年)が出発点なわけだから、〈原点回帰〉ではあるのかも知れないが……。

ハロルド・プリンスが演出した格調高い舞台「オペラ座の怪人」が2004年にジョエル・シュマッカー監督で映画化され、薄っぺらいB級ホラーに成り下がった先例を思い出した。

それとファントム(エリック)のキャラクター造形が歴代の演出の中で、一番幼く感じられた。まるで駄々っ子みたい。

ただ役者としての城田は素晴らしかった。最後は号泣していて、あまりの入魂の演技でアフタートークショーでは放心状態で抜け殻のようになっていた。悪いこと言わないから、もう演出からは手を引いたほうがいいよ。

圧巻だったのは木下晴香の歌声である。透明感があってロイド・ウェバーが言う〈音楽の天使 Angel of Music〉とは彼女のことに違いないと思った。正に〈君は音楽 You Are Music〉だ!!断言しよう、ロイド・ウェバー版「オペラ座の怪人」を含め、僕が聴いた中で生涯最高のクリスティーヌだった。体が震えた。

彼女は今年、ディズニー実写映画版「アラジン」日本語吹き替え版でジャスミン姫に抜擢され、年末のNHK紅白歌合戦でもその美声を披露する。さらに来年は舞台ミュージカル「アナスタシア」主演が控えており、もう待ち遠しくて仕方がない。

ダブルキャストの愛希れいかは宝塚歌劇団のトップ娘役時代から大好きなのだが、今回はどうしても圧倒的歌唱力の木下と比べられるので分が悪い。つくづく感じたのは「美人は15分見ていたら飽きる」ということ。ただし彼女は元々“ダンサー”なので、2幕冒頭の踊りは木下を上回っていた。だから来年の「フラッシュダンス」主演は彼女にぴったりなのではないだろうか?「ファントム」や「エリザベート」よりも本領を発揮出来るだろう。

加藤和樹は高音が苦しく、オクターブ下げて歌う場面もちらほら。アフタートークによると、主演・演出兼任で食事もろくに取らず準備に没頭し、どんどん痩せていく城田を見るに見かねて、ある日彼が弁当をこしらえて来てくれたのだそう。ぼそっと「よかったら、どうぞ」と。いいヤツだなぁ!

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2019年12月 8日 (日)

キューブリック版「シャイニング」の見事な続編「ドクター・スリープ」

スタンリー・キューブリック監督「シャイニング」(1980)公開から実に39年ぶり、まさかの続編登場である。

評価:B+

Sleep

本作を観て、真っ先に耳に聴こえてきたのは、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の囁き声"Ease his pain."(彼の苦痛を癒せ)である。彼とは勿論、原作者スティーヴン・キングのことだ。

キングが2歳の時、彼の父親は「ちょっとタバコを買いに行く」と言い残して出かけたきり、戻ってこなかった。その後所在が不明なまま現在に至る(「藪蛇になるから」と敢えて調査していないそう)。「父は私を愛していないから出ていったんだ」という思いがトラウマとなり、彼の作品に濃い影を落としている。その一方、12-13歳のときに屋根裏部屋で父の蔵書を発見した。その大半はSFやホラー小説だった。H.P.ラヴクラフト(「狂気の山脈にて」など)の短編集も含まれていた。母に訊ねると、父が雑誌にそういったジャンルの小説を投稿していたという事実も発覚した(しかし採用には至らなかった)。これが後に、キングが作家になる動機となった。精神分析学における〈親の理想像(イマーゴ)〉が多大な影響を及ぼしている。

小説「シャイニング」の終盤、小説家志望の元教師ジャックは一冬の管理人として滞在しているホテル(とそこに生息している幽霊たち)に魂を乗っ取られ、木槌を振りかざして妻のウェンディと息子のダニーを殺そうと追い掛ける。しかし、一瞬正気に帰り、次のように言う。

「ここから逃げるんだ。急いで。そして忘れるな。パパがどれだけおまえを愛しているかを」 (深町眞理子・訳/文春文庫)

母子が逃げ出した後、ジャックはボイラーの大爆発で瓦解するホテルと運命を共にする。つまり「シャイニング」の心臓(=車のエンジン)はここにあり、父親からの「承認欲求」を満たすために("I love you."という一言を聞きたかったから)キングはこの小説を書いた、と断言しても決して的外れではないだろう。

しかしスタンリー・キューブリック監督は映画化に際し、無慈悲にもこのエピソードをばっさりカットした。故にキングはキューブリック版が大嫌いで、「エンジンのないキャデラックみたいなものだ」などと繰り返し執拗に非難している。

「ドクター・スリープ」はきちんとキューブリック版の続編として機能し、さらに前作で原作者が不満だった点を解消することにも成功している。マイク・フラナガン監督は大した力量である。

映画冒頭、ウェンディ・カルロスとレイチェル・エルカインドが作曲した「シャイニング」メイン・タイトルが流れる(グレゴリオ聖歌「怒りの日」をシンセサイザー用にアレンジしたもの)。そして物語の終盤でオーバールック・ホテルが再登場するわけだが、そこへ向かう道中の空撮も、「シャイニング」冒頭部のカメラワークを忠実に再現している(しかし季節が異なる)。

僕はキューブリック版「シャイニング」の核(コア)は〈対称性(シンメトリー)の恐怖〉だと思っている。血が溢れ出す2つのエレベーター昇降路、そして双子の姉妹。それは現実の世界⇔鏡の中の世界、この世⇔あの世(幽霊の棲家)という対比に結びついている。また生け垣で作られた巨大迷路は混沌とした無意識の象徴として機能する。それらは「ドクター・スリープ」にも継承されている。

しかしオーバールック・ホテルに至るまでは、まったく異なった世界観が打ち出され、独自性もしっかり主張される。ちょっと観たことのない映像表現もあったりする。

キューブリックの「シャイニング」を観ていなくてもそれなりに愉しめるが、絶対先に観ておいたほうが良い。感銘度は段違いだ。

あと前作でダニーを演じた子役のダニー・ロイドが、すっかり大人になって野球場の場面にカメオ出演している。そしてキングにとっての魔法の番号「19」と言う。彼は現在、大学で生物学の教授を務めているという。また「シャイニング」でジャック・ニコルソンが演じたダニーの父親ジャックを「ドクター・スリープ」では、「E.T.」でエリオット少年を演じたヘンリー・トーマスが演じているのも見どころである。

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2019年12月 4日 (水)

観た映画3,000本。

僕が生まれてから現在までに観た映画の本数が3,000本に到達した。

どうしてそんな事がわかるのかというと、一つ一つスマートホンのアプリ"WATCHA"に登録して来たからである。

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こうして、新たな目標が生まれた。死ぬまでに必ず5,000本は観るぞ!〜今までのペースから考えれば、十分達成可能な数だ。

なお、現時点での僕のオールタイム・ベスト20を挙げておく。一監督一作品に絞った。同一監督で代替可能な作品があれば、括弧で示す。

  1. 大林宣彦「はるか、ノスタルジィ」(「日本殉情伝 おかしなふたり ものくるほしきひとびとの群 夕子悲しむ」「時をかける少女」)日
  2. 新海誠「君の名は。」(「秒速5センチメートル」「天気の子」) 日
  3. ヴィクター・フレミング/ジョージ・キューカー/サム・ウッド「風と共に去りぬ」 米
  4. アルフレッド・ヒッチコック「めまい」 米
  5. デイヴィッド・リーン「ドクトル・ジバゴ」 米・伊
    (「ライアンの娘」「アラビアのロレンス」 英)
  6. 宮崎駿「風立ちぬ」(「天空の城ラピュタ」「千と千尋の神隠し」) 日
  7. ジョゼッペ・トルナトーレ「ニュー・シネマ・パラダイス」 伊
  8. デイミアン・チャゼル「ラ・ラ・ランド」 米
  9. ピーター・ウィアー「ピクニック at ハンギング・ロック」 豪
  10. 岩井俊二「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(実写版) 日
  11. 黒澤明「七人の侍」 日
  12. ロバート・ワイズ「サウンド・オブ・ミュージック」 米
  13. スティーヴン・スピルバーグ「未知との遭遇」(「E.T.」) 米
  14. 成瀬巳喜男「山の音」 日
  15. エリア・カザン「草原の輝き」(「エデンの東」) 米
  16. ロベール・アンリコ「冒険者たち」 仏
  17. 新房昭之「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ」(前編/後編/新編) 日
  18. フランソワ・トリュフォー「恋のエチュード」(「大人は判ってくれない」) 仏
  19.  キャロル・リード「フォロー・ミー」(「第三の男」) 英
  20. ヤノット・シュワルツ「ある日どこかで」 米

次点はリドリー・スコット「ブレードランナー」かな?川島雄三「幕末太陽傳」、石川慶「蜜蜂と遠雷」あたりでもいいね。

各々の作品について僕がどう語ってきたかは、下記事をご覧ください。

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