超平和バスターズ「空の青さを知る人よ」と新海誠・川村元気
評価:B
映画公式サイトはこちら。
超平和バスターズの話からしよう。長井龍雪(監督)・岡田麿里(脚本)・田中将賀(キャラクターデザイン/総作画監督)の3人によるアニメーション制作チーム。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(略称「あの花」。TVシリーズ全11話と劇場版がある)」、「心が叫びたがってるんだ。(略称「ここさけ」)」、「空の青さを知る人よ」に於いて原作としてクレジットされている。3作品共通して、岡田麿里の出身地・埼玉県秩父市が舞台となっている。なお岡田はアニメーション映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」(2018)で監督デビューを果たした(脚本兼任)。
入場者プレゼントで田中将賀描き下ろしA4クリアファイルを貰った。上記3作品のヒロインが描かれている。
僕は真ん中、今回のヒロイン・あおいが一番好きかも。中二病みたいに不貞腐れたところが可愛い。意地張って強がっているところが健気だしね。「あの花」のめんま(ファイル右)はちょっとロリ過ぎて感情移入し辛いし、「ここさけ」の順(ファイル左)はその自閉症的性格が受け入れ難い。
「あの花」「ここさけ」における田中将賀の仕事ぶりを高く評価した新海誠監督は〈今どきの絵〉を描く田中をキャラクターデザイナーに迎え、Z会CM「クロスロード」(動画はこちら)、「君の名は。」「天気の子」でがっぷり四つに組んだ。余談だが「クロスロード」で声優を務めた佐倉綾音は「天気の子」で陽菜の弟・凪(なぎ)の恋人(元カノ)アヤネを演じている。で児童相談所の訪問者記帳時に「花澤綾音」と記名するのだが、これは凪の今カノ・カナを演じた花澤香菜(「言の葉の庭」「君の名は。」のユキちゃん先生)と姓名を交換したもの。さらに言えば映画にクレジットされていないが、花澤香菜は「天気の子」でお天気ガール(=陽菜)にイベントの当日の晴れを依頼する初代プリキュアのコスプレイヤーの声も当てている。以上トリビアでした〜。
僕は当然、「あの花」「ここさけ」を全て観ていたのだが、正直、超平和バスターズが特に好きというわけではい。映画館で「空の青さ〜」の予告編を何度も観たが食指は動かず、鑑賞する気は毛頭なかった。しかし巷での評判がえらく高かったので、重い腰を上げたというわけ。
〈井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る〉という言葉が重要な役割を果たす。前半は荘子の「秋水篇」にある「井蛙不可以語於海者、拘於虚也」が出典のようだ。しかし後半部の出典は不明。僕が初めてこの成句を聞いたのが、三谷幸喜が脚本を描いた大河ドラマ『新選組!』の第6回「ヒュースケン逃げろ!」。しかし『新選組!』では〈されど空の高さを知る〉だった。三谷幸喜の創作なのかと思ったが、調べてみると河井寛次郎という陶芸家が大正から昭和初め頃に「井蛙知天」と書いたというのが遡ることが出来る最古の記録らしい。何れにせよ日本人の創作ね。言うまでもなく本作において〈井の中〉とは秩父市のメタファーである。
超平和バスターズ原作の中では、今回の物語が一番上出来だったのではないだろうか。これは新たにチームに加わった川村元気の力が大きいように思う。小説家(「世界から猫が消えたなら」「億男」)でもある川村はプロデューサーとして参加した「君の名は。」で新海誠を覚醒させ、大ブレイクに導いた男である。何しろチューニングが巧みだった。そして「天気の子」と「空の青さ〜」は、「君の名は。」のプロデューサーである古澤佳寛と川村元気が東宝を飛び出して設立した新会社STORYの作品。東宝とは業務提携契約を締結している(こちらにその記事)。
「空の青さ〜」がユニークなのは生霊をテーマとしたこと。死者が幽霊として現れるというのはたくさんアニメであったけれど(「あの花」もそう)、「源氏物語」みたいに生霊というのは珍しい。ただ過去の自分と現在の自分が同時に存在し、対峙するという〈時間イメージ〉の映画はイングマール・ベルイマン「野いちご」とかフェデリコ・フェリーニ「8 1/2」、大林宣彦「さびしんぼう」「はるか、ノスタルジィ」など実写でいくつか前例がある。
しかしながら最後が尻切れトンボというか、今一歩という感じだった。
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